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arXiv:1507.05916
Wilson Cauley et al. (2015)
Optical hydrogen absorption consistent with a thin bow shock leading the hot Jupiter HD 189733b
(ホットジュピターHD 189733bに先行する薄いバウショックの存在と合致する可視領域の水素による吸収)

概要

ガス中を超音速で通過する物体が形成するbow shock (バウショック)は普遍的な現象である。
ここでは、水素のバルマー系列の波長で、HD 189733bのトランジットを高分散トランジット分光観測を行った。

結果、惑星のトランジット前の吸収の特徴と、吸収の時系列の形状から、系外惑星周りの広範囲の構造に対して強い制限を与えた。
トランジット中の観測では、先行研究における、惑星外気圏でのHα吸収の証拠を確認したが、吸収の深さは先行研究と比べると 50%低かった。

惑星トランジット前の吸収は、可視トランジット開始の 125分前に出現した。
吸収の強さから、トランジット前の吸収源は光学的に厚いが、サイズは小さいことが示唆された。
このシグナルを、バウショックの惑星に先行する食の開始とみなしてモデル化を行った。
その結果、バウショックが惑星の磁気圏によるものだとすると、モデルからは磁場は 28 Gという大きな値を得る。

研究背景とこれまでの観測例

ホットジュピターの観測的特徴

ホットジュピターでは、以下のような現象が発生していると考えられている。

・ハイドロダイナミックエスケープによる大気散逸 (Vidal-Madjar et al. 2003)
・中心星と近接していることによる、恒星・惑星間相互作用 (star-planet-interactions, SPIs)の存在 (Cuntz et al. 2000, Shkolnik et al. 2005)
・惑星が、恒星風やコロナ中を超音速で運動することによるバウショックの形成 (Vidotto et al. 2010)

もしバウショックが惑星磁気圏由来のものであれば、ショックで圧縮された物質による吸収から、磁場の強度を求めることが可能かもしれない。

HD 189733bの大気特性

HD 189733bは太陽系に近い系外惑星であり、中心星の相対的な明るさのおかげで広く研究されている対象である。

様々な原子や分子が大気中から検出されている。大気には、重力的に束縛されたものと、そうではない散逸している大気を含む。
例として、

メタン (Swain et al. 2008)
水 (Grillmair et al. 2008)
NaI (Redfield et al. 2008)
OI (Ben-Jaffel & Ballster 2013)
中性水素 (Jensen et al. 2012, Lecavelier des Etangs et al. 2010)

がある。
これらはトランジット時の透過スペクトル分光観測から発見されたものである。

トランジット前の吸収

トランジット中の検出の他に、トランジット前での吸収も検出されている(Ben-Jaffel & Ballster 2013)。
また同様の現象はWASP-12bでも報告されている(Fossati et al. 2010)。

WASP-12bでは、近紫外線領域の 41 Åでの1回の2σの吸収が検出された。
これはトランジットするバウショックとしてモデル化された(Vidotto et al. 2010, Llana et al. 2011)。

HD 189733bでは、CII線での2回のトランジット前の吸収が検出され、同じくバウショックによるモデル化がされている(Ben-Jaffel & Ballster 2013, Llama et al. 2011)。

観測

観測は、バルマー系列のHα, Hβ, Hγの高分散トランジット分光観測を行った。
Hαでの分解能は R ~ 68000、あるいは 4.4 km s-1である。

観測結果

In-transit時の吸収

惑星がトランジットを起こしている際の観測では、Hα, β, γの吸収をそれぞれ > 3σで検出した。
系外惑星大気中でのHβ, Hγの検出は初めてである

吸収は ~ 0.7%程度で、先行研究(Jensen et al. 2010)のHαの吸収よりも ~ 50%低いものだった。
これは、黒点や活動領域などの恒星の表面活動に起因するものであると考えらえる。

Pre-transit時の吸収

トランジット中心の時刻を0とした時の、 -115〜 -70分までのデータは、観測器がtelluric standardを得るために使っていたためデータが欠落している。後述の強い吸収は予想されていなかった。

Pre-transit時では、Hα, βの吸収は > 3σで検出されたが、Hγは3σよりやや小さい。
以下の特徴があった。

・Hα, βの吸収の比は 1.6 - 2.0であった。これはoptically thin limitよりもずっと低い値である。そのため、pre-transitの吸収源は光学的に厚いと考えられる。
・吸収は、 -70 〜 -66分を境に突然減少を始めている。そのため、pre-transitの吸収の原因となっている物質は、惑星が第一接触となる前に恒星面から外れなければいけない。また、吸収物質は惑星に対して非対称な構造を持っている。これは、post-transitでは同様の吸収は見られなかったことからも支持される。
・吸収は ~ 1.3%を超えなかった。そのため、光学的に厚い吸収物質は、恒星表面の同程度の割合を隠したと考えられる。

恒星活動について

中心星のHD 189733を、CaII H, Kで観測し、恒星のactivity indexも算出した。
その結果、トランジットとは直接の相関は存在しなかった。
また、トランジット中心時刻前後では、activity indexは減少傾向にある。

吸収のモデル化

Pre-transitの吸収はバウショックによるもの、in-transitの吸収は惑星の外気圏 (exosphere)によるものと考えられる。

モデル化の際に、周辺減光 (limb darkening)の影響は無視している。
観測では恒星線のうち非常に狭い領域 (~ 1.0Å)を見ているからである。
このバルマー線は、恒星大気の非常に薄い層の、温度勾配が小さいところで作られるため、周辺減光の効果は無視することができる(Mihalas 1978)。

モデル化に際して、恒星風やコロナなどの影響を含めた、完全な物理条件は考慮しない。
代わりにバウショックの形状と、観測で得られた吸収を説明できるだけの、n=2の準位にある水素の密度を考慮する。
また、磁気圏のstandoff distanceと、惑星からバウショック先端までの距離は等しいと仮定する。
バウショックの形状は、Wilkin (1996)のものを使用した。

Standoff distanceをrm、惑星軌道とバウショック先端方向の角度をθshとした場合、モデルからは rm = 12.75惑星半径、θsh = 15°となった。
これは、Ben-Jaffel & Ballster (2013)の、16.7惑星半径、10-30°と近い値である。
しかし、惑星磁場を 14 Gと仮定した Llama et al. (2013)の、3.8惑星半径と 65-70°とは異なる。
これは、恒星風の速度や温度を過大評価していることや、惑星磁場を過小評価していることが原因であると考えられる。

また、HD 189733からの恒星風による質量散逸率についても議論している。
先行研究と比較すると、今回のモデルによる見積もりは 100倍ほど低い値となっている。
しかし中心星は活動的な恒星であり、観測はスナップショットであるということを考えると、今後のさらなる議論が必要である。

まとめ

バルマー系列の3つで系外惑星のトランジット観測を行った。
その結果、バウショックモデルは観測のpre-transitの特徴をよく説明した。

モデルから、赤道面での惑星磁場強度は 28 Gと推定した。
また、惑星磁気圏のstandoff distanceは 12.75惑星半径となった。
このstandoff distanceでは、推定した磁場強度はいくつかの仮定のため下限値である。

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