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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1707.07920
Przybilla et al. (2017)
Candidate exoplanet host HD131399A: a nascent Am star
(系外惑星の主星候補 HD 131399A:発生期の Am 星)

概要

直接撮像観測から,三重星系 HD 131399 系にある主星の A 型星の周りには木星型惑星が存在することが示唆されている.

恒星の大気と基本的なパラメータを特徴づけするため,また高精度で元素組成を決定するため,この系の主星 HD 131399 の高品質なスペクトルを,ESO/MPG 2.2 m 望遠鏡の FEROS を用いて取得した.これにより,この系が誕生した分子雲の化学組成や,仮説上の惑星のバルク組成について制約を与えるのが目的である.

スペクトルの定量的な解析のために,ハイブリッド非局所熱平衡モデル大気の技術を適用した.最も新しい恒星進化モデルとの比較から,恒星の基本的なパラメータを決定した.

その結果,有効温度は 9200 K,質量は 1.95 太陽質量,半径は 1.51 太陽半径,光度は太陽光度の 101.17 倍と測定された.

導出した金属の存在度における非局所熱平衡の効果はおおむね 0.1 dex より小さいが,各スペクトル線での効果については最大で ~ 0.8 dex に達した.

観測によって測定された,カルシウムまでの軽い元素の存在度は現在の宇宙存在度と整合し,C/O 比は 0.45 であった.しかし,より重い元素はやや過剰に存在する傾向を示した.これらの結果より,この系が誕生した分子雲は一般的な化学組成を持っていたが,自転が遅い恒星における Am 星の特徴を持った状態への進化段階を目撃していると結論付けた.

この系について

この系は,Upper Centaurus-Lupus アソシエーション (UCL, de Zeeuw et al. 1999など) の一員である.このアソシエーションの年齢は 16 ± 7 Myr である.

Wagner et al. (2016) によって,HD 131399 は階層的な三重星 (hierarchal triple) であることが,ESO VLT の SPHERE での観測を用いて明らかにされた.この系は A 型星の主星 HD 131399A と,~ 3.2” 離れた位置にある近接連星 HD 131399B, C からなり,後者 2 つは測光学的には G, K 型星と分類された.
さらに,主星から ~ 0.8” 離れた場所にある木星型惑星 HD 131399Ab の存在が示唆されている.これは A 型星まわりに直接撮像で発見されている系外惑星としては 4 個目であり,また直接撮像で発見された系外惑星を持つ恒星としては最も高温なものである.ただし HD 131399Ab については,惑星ではなく背景星であるとする説もある (Nielsen et al. 2017).

議論

HD 131399A の射影した自転速度は 26 km s-1 であった.これは今回の観測で初めて測定されたものである.

Wagner et al. (2016) では HD 131399B, C のペアが HD 131399A を公転する傾斜角について 45 - 65°という緩い制限しか与えていないが,もし HD 131399B, C ペアの軌道面と HD 131399A の自転軸が揃っているとすると,実際の自転速度の上限値は 40 km s-1 となる.そのため,HD 131399A は自転が遅い


元素の存在度について,カルシウムまでの軽い元素は予想される値と整合的であった.特に C/O 比は 0.45 ± 0.07 であり,これは cosmic abundance standard (CAS) の平均値 0.43 ± 0.06 とよく一致する.

しかし重い元素では存在度の超過が見られ,例えばバリウムではファクター 6 の超過が見られた.

HD 131399A は,自転速度が 120 km s-1 程度より遅い恒星で化学組成異常を発達させる傾向にある,非常に浅い表面対流層を持つ.HD 131399A は Am 星に特徴的な存在度のパターンを示さない.Am 星に特徴的なパターンとは,炭素とスカンジウムの際立って低い存在度,酸素とカルシウムの低い存在度,および鉄族元素の存在度の超過である (Vick et al. 2010など).しかし典型的な Am 星の年齢は 108 年程度であり,HD 131399A では Am 星に特有のスペクトルの特徴はまだ進化中であると考えられる.
※注釈
Am 星 (Am star, metallic-line star) は,スペクトル型が A 型の恒星のうち,スペクトル線に以上が見られる化学特異星の事を指す.Am 星では金属元素の強い吸収線が見られ,表面に金属が多く含まれることを示す.また,カルシウムやスカンジウムの線は見られないことも特徴である.

このような化学異常を示す原因は,表面の対流層の発達に起因する.表面対流によって金属が表面まで運ばれて存在度の過剰を示し,カルシウムやスカンジウムなどは対流で内部に運ばれて欠乏を示す.このような表面対流の発達は,A 型星の自転が遅い時に見られる.通常は A 型星は自転が速いが,伴星があるなどの要因により自転速度が遅くなる場合があり,そのような場合に化学異常を示す.

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