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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.03556
Hammond & Pierrehumbert (2017)
Linking the Climate and Thermal Phase Curve of 55 Cancri e
(かに座55番星e の気候と熱的位相曲線の関係)
この惑星の位相曲線は大きな振幅を持ち,さらに極大の位置のずれがある事が報告されている (最も高温の領域が,恒星直下点からずれている).この事は,この惑星が大きな昼夜間の温度差を持っているという事だけではなく,ホットスポットが東方向へ有意にずれている事を示唆する.
ここでは,かに座55番星e の気候をモデル化するために,general circulation model を使用し,惑星全体の大気組成と,一見すると相反する特徴 (大きな昼夜間温度差とホットスポットのずれ) の関係性を調べた.
その結果,潮汐固定された大気循環の理論モデルは,かに座55番星e の数値モデルと整合的であった.また,それらの熱力学特性に基づいて,大気組成の候補のいくつかを否定した.
今回の結果に最もよく合うモデル大気は,観測された位相曲線ほどは大きくないが,有意なホットスポットのずれと昼夜間温度差を持つことが分かった.
ここでは,観測を説明できるような,起こりうる物理過程について議論する.
惑星の昼側にあるマグマオーシャンから夜側へやってくる SiO などの分子種は,夜側で雲を形成する可能性がある.この雲が,位相曲線の振幅を大きく見せる可能性があり,また観測的な特徴を説明できる.
結論としては,惑星が平均分子量が小さく光学的に厚い大気を持っており,表面圧力は数バールで強い東向きの大気循環を持ち,さらに夜側の大気で雲形成が発生している場合,大気モデルと観測結果の違いを説明することができる.
このスーパーアースは McArther et al. (2004) により,8.63 地球質量,2.00 地球半径と測定されている.軌道は中心星に近く,潮汐的に固定された軌道,軌道周期は 0.737 日である.
Demory et al. (2016) では,得られた位相曲線から惑星表面の温度マップを作成している.また,4.5 µm での輝度温度を 2700 ± 270 K と測定し,昼夜間の温度差として 1300 ± 670 K,ホットスポットのずれは東向きに 41 ± 12° という値を得ている.
この惑星は “lava planet” (溶岩惑星) として知られている.
惑星が中心星に非常に近い軌道にあり潮汐固定されており,惑星の昼側にはマグマオーシャンが存在していると考えられる.
このような惑星の大気は,マグマオーシャンから脱ガスした薄いミネラル蒸気で構成されているという説がある (Leger et al. 2011など).このような薄い大気の表面圧力は数ミリバールかそれ以下であり,マグマオーシャンの中で発生しうる横方向の熱の再分配以外では熱を多く輸送することが出来ない (※注釈:大気が希薄な場合,大気による熱輸送はあまり期待できない).
そのためこの惑星は,Maurin et al. (2012) で議論されているような,非常に寒冷な夜側半球を持つ大気のない岩石惑星が示すものに非常に似た光度曲線を持つことが予想されたが,観測結果はそれとは大きく異なっていた.
そのため,水素分子を主体とした大気がこの惑星で維持されるかは疑わしい.しかし系外惑星ではこれまでの常識では考えられないような状態が発見されてきた.そのため,ここではこの惑星が水素分子を主体とする大気を持っている可能性について真剣に考え,Demory et al. (2016) で測定された位相曲線の特徴は,低分子量の大気が示す特徴と一致するか,あるいは否定されるかを検証した.
arXiv:1710.03556
Hammond & Pierrehumbert (2017)
Linking the Climate and Thermal Phase Curve of 55 Cancri e
(かに座55番星e の気候と熱的位相曲線の関係)
概要
かに座55番星e (55 Cancri e, あるいは 55 Cnc e) の熱位相曲線 (themal phase curve) の観測は,自転が公転に潮汐的に固定されているスーパーアースの,初めての表面温度分布の測定結果である.しかしその観測結果は,この惑星の気候に関するいくつもの不可解な問題を産んだ.この惑星の位相曲線は大きな振幅を持ち,さらに極大の位置のずれがある事が報告されている (最も高温の領域が,恒星直下点からずれている).この事は,この惑星が大きな昼夜間の温度差を持っているという事だけではなく,ホットスポットが東方向へ有意にずれている事を示唆する.
ここでは,かに座55番星e の気候をモデル化するために,general circulation model を使用し,惑星全体の大気組成と,一見すると相反する特徴 (大きな昼夜間温度差とホットスポットのずれ) の関係性を調べた.
その結果,潮汐固定された大気循環の理論モデルは,かに座55番星e の数値モデルと整合的であった.また,それらの熱力学特性に基づいて,大気組成の候補のいくつかを否定した.
今回の結果に最もよく合うモデル大気は,観測された位相曲線ほどは大きくないが,有意なホットスポットのずれと昼夜間温度差を持つことが分かった.
ここでは,観測を説明できるような,起こりうる物理過程について議論する.
惑星の昼側にあるマグマオーシャンから夜側へやってくる SiO などの分子種は,夜側で雲を形成する可能性がある.この雲が,位相曲線の振幅を大きく見せる可能性があり,また観測的な特徴を説明できる.
結論としては,惑星が平均分子量が小さく光学的に厚い大気を持っており,表面圧力は数バールで強い東向きの大気循環を持ち,さらに夜側の大気で雲形成が発生している場合,大気モデルと観測結果の違いを説明することができる.
かに座55番星e について
かに座55番星e の特徴
スーパーアースに属する系外惑星の初めての位相曲線は,Demory et al. (2016) によってスピッツァー宇宙望遠鏡を用いて観測された.この時観測されたのがかに座55番星e である.この惑星の可視光でのトランジット観測は Winn et al. (2011) で得られており,また赤外線でのトランジットも観測されている (Demory et al. 2011).このスーパーアースは McArther et al. (2004) により,8.63 地球質量,2.00 地球半径と測定されている.軌道は中心星に近く,潮汐的に固定された軌道,軌道周期は 0.737 日である.
観測された位相曲線
観測された熱的な位相曲線は大きな振幅を持っており,また二次食のタイミングと位相曲線が極大になるタイミングの間にはずれがあることが発見されている.Demory et al. (2016) では,得られた位相曲線から惑星表面の温度マップを作成している.また,4.5 µm での輝度温度を 2700 ± 270 K と測定し,昼夜間の温度差として 1300 ± 670 K,ホットスポットのずれは東向きに 41 ± 12° という値を得ている.
この惑星は “lava planet” (溶岩惑星) として知られている.
惑星が中心星に非常に近い軌道にあり潮汐固定されており,惑星の昼側にはマグマオーシャンが存在していると考えられる.
このような惑星の大気は,マグマオーシャンから脱ガスした薄いミネラル蒸気で構成されているという説がある (Leger et al. 2011など).このような薄い大気の表面圧力は数ミリバールかそれ以下であり,マグマオーシャンの中で発生しうる横方向の熱の再分配以外では熱を多く輸送することが出来ない (※注釈:大気が希薄な場合,大気による熱輸送はあまり期待できない).
そのためこの惑星は,Maurin et al. (2012) で議論されているような,非常に寒冷な夜側半球を持つ大気のない岩石惑星が示すものに非常に似た光度曲線を持つことが予想されたが,観測結果はそれとは大きく異なっていた.
かに座55番星e の大気
Tsiaras et al. (2016) が報告したトランジット深さのスペクトルからは,厚い水素分子に富んだ大気を持っている必要があることが示唆された.しかし Lammer et al. (2013) によると,かに座55番星e のような惑星が持つ水素分子大気は,2.8 × 109 g s-1 の散逸率でハイドロダイナミックエスケープを起こすと考えられる.これは,10 bar の大気は 100 万年以内に失われてしまう事を示唆している.そのため,水素分子を主体とした大気がこの惑星で維持されるかは疑わしい.しかし系外惑星ではこれまでの常識では考えられないような状態が発見されてきた.そのため,ここではこの惑星が水素分子を主体とする大気を持っている可能性について真剣に考え,Demory et al. (2016) で測定された位相曲線の特徴は,低分子量の大気が示す特徴と一致するか,あるいは否定されるかを検証した.
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ホットスポットの大きなずれは強いスーパーローテーション的な大気循環の存在を示唆する.そのため昼側から夜側への大気循環を介した熱の輸送は効率的になるはずであり,昼夜間の温度差を小さくすると予想される.そのため,昼夜間の温度差が大きいことと,ホットスポットの大きなずれがあることは相反する.