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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.06209
Heller et al. (2017)
The nature of the giant exomoon candidate Kepler-1625 b-i
(巨大系外衛星候補ケプラー1625b-i の性質)
これまでにケプラー1625b の3 回のトランジットが観測され,惑星と衛星候補天体の両方の半径の推定が可能になる.しかし質量の推定値については,中心星の視線速度測定からは得られていない.
ここでは,観測された特徴を再現できるようなトランジット系の有り得る質量の範囲を調べ,太陽系における衛星形成の文脈,すなわち巨大衝突・小天体の捕獲・その場形成のそれぞれにおいて議論する.
トランジット観測から得られているケプラー1625b の半径からは,この惑星は土星 (0.4 木星質量) よりやや重いガス惑星から,褐色矮星 (最大 75 木星質量),あるいは非常に低質量の恒星 (112 木星質量 ~ 0.11 太陽質量) の広い範囲の質量を持ちうることが示唆されている.
一方で,この惑星が持っているかもしれない仮説上の伴星天体は,惑星程度の質量であると思われる.有り得る最も極端なシナリオでは,非常に膨張した半径を持つ地球質量のガス衛星から,大気を持たない,180 地球質量程度の水・岩石の天体である可能性まで有り得る.
さらに,トランジット最中の惑星-衛星系の運動の解析からは,惑星-衛星系の合計質量は 17.6 (+19.2, -12.6) 木星質量であることが示唆されている.
巨大惑星の周りの海王星質量を持つ系外衛星,あるいは低質量の褐色矮星周りにおける海王星質量の系外衛星は,太陽系のガス惑星における惑星と衛星の間の質量スケーリング則とは合致しないだろう.
しかし,重い褐色矮星の周りのミニネプチューンや,非常に低質量の恒星の周りのミニネプチューンという関係性の場合,衛星-主星 (惑星) の質量比は,プロキシマb や TRAPPIST-1 系,LHS 1140b の値に近いことになる.
連星が近接遭遇を起こした際に,10 木星質量の惑星が海王星質量の天体を衛星として捕獲することは,原理的には可能である.しかし捕獲するのは弾き出された天体,スーパーアース程度の天体でなければならず,そのような系がどのように形成されうるのかというさらなる疑問が生じることになる.
まとめると,この系外衛星候補天体はこれまでに確立されている衛星形成理論とはほとんど相容れない.もしこれがスーパージュピター惑星の周りを公転している衛星であったと確認できた場合,この天体は理論家が解決するべき最高の謎を提起することになるだろう.
例えば,惑星の居住可能性の重要な要素である地球の自転状態は,火星サイズの天体が原始地球に衝突したジャイアントインパクトと (Cameron & Ward 1976),それに引き続く潮汐相互作用の結果として現在の状態になったと考えられている (Touma & Wisdom 1994).
木星のまわりを公転するガリレオ衛星の氷の割合と内部構造は,木星のまわりにかつて存在して衛星を形成した降着円盤 (周惑星円盤) の状態を推定する際に重要となる.
また天王星周りの衛星は,この巨大氷惑星が衝突によって大きく自転軸が傾いたというシナリオを示唆している (Morbidelli et al. 2012).
系外衛星の可能性がある候補は検出されており,重力マイクロレンズイベントに基づくもの (Bennett et al. 2014),系外惑星のトランジット光度曲線中の非対称性の検出に基づくもの (Ben-Jaffel & Ballester 2014),CoRoT 衛星によるデータ中の単一の特異なトランジット光度曲線に基づくもの (Lewis et al. 2015) がある.
最近になって,おそらく最も信頼性があり検証可能な系外衛星候補が Teachey et al. (2017) によって報告された.そこでは,衛星に誘起された惑星軌道のサンプリング効果を,系外惑星のトランジット光度曲線中に探すという手法が用いられており,これによって系外衛星候補ケプラー1625b-i の検出を報告している.
arXiv:1710.06209
Heller et al. (2017)
The nature of the giant exomoon candidate Kepler-1625 b-i
(巨大系外衛星候補ケプラー1625b-i の性質)
概要
最近報告された,トランジットする木星サイズの惑星ケプラー1625b の周りに検出された,海王星サイズの系外衛星候補は,もし存在が確認されれば,これまでに知られていなかったタイプのガス惑星の衛星の存在を示すことになる.これまでにケプラー1625b の3 回のトランジットが観測され,惑星と衛星候補天体の両方の半径の推定が可能になる.しかし質量の推定値については,中心星の視線速度測定からは得られていない.
ここでは,観測された特徴を再現できるようなトランジット系の有り得る質量の範囲を調べ,太陽系における衛星形成の文脈,すなわち巨大衝突・小天体の捕獲・その場形成のそれぞれにおいて議論する.
トランジット観測から得られているケプラー1625b の半径からは,この惑星は土星 (0.4 木星質量) よりやや重いガス惑星から,褐色矮星 (最大 75 木星質量),あるいは非常に低質量の恒星 (112 木星質量 ~ 0.11 太陽質量) の広い範囲の質量を持ちうることが示唆されている.
一方で,この惑星が持っているかもしれない仮説上の伴星天体は,惑星程度の質量であると思われる.有り得る最も極端なシナリオでは,非常に膨張した半径を持つ地球質量のガス衛星から,大気を持たない,180 地球質量程度の水・岩石の天体である可能性まで有り得る.
さらに,トランジット最中の惑星-衛星系の運動の解析からは,惑星-衛星系の合計質量は 17.6 (+19.2, -12.6) 木星質量であることが示唆されている.
巨大惑星の周りの海王星質量を持つ系外衛星,あるいは低質量の褐色矮星周りにおける海王星質量の系外衛星は,太陽系のガス惑星における惑星と衛星の間の質量スケーリング則とは合致しないだろう.
しかし,重い褐色矮星の周りのミニネプチューンや,非常に低質量の恒星の周りのミニネプチューンという関係性の場合,衛星-主星 (惑星) の質量比は,プロキシマb や TRAPPIST-1 系,LHS 1140b の値に近いことになる.
連星が近接遭遇を起こした際に,10 木星質量の惑星が海王星質量の天体を衛星として捕獲することは,原理的には可能である.しかし捕獲するのは弾き出された天体,スーパーアース程度の天体でなければならず,そのような系がどのように形成されうるのかというさらなる疑問が生じることになる.
まとめると,この系外衛星候補天体はこれまでに確立されている衛星形成理論とはほとんど相容れない.もしこれがスーパージュピター惑星の周りを公転している衛星であったと確認できた場合,この天体は理論家が解決するべき最高の謎を提起することになるだろう.
太陽系外衛星について
衛星と惑星の形成・進化
太陽系内の衛星は,その主惑星の形成と進化を追う鍵になる.例えば,惑星の居住可能性の重要な要素である地球の自転状態は,火星サイズの天体が原始地球に衝突したジャイアントインパクトと (Cameron & Ward 1976),それに引き続く潮汐相互作用の結果として現在の状態になったと考えられている (Touma & Wisdom 1994).
木星のまわりを公転するガリレオ衛星の氷の割合と内部構造は,木星のまわりにかつて存在して衛星を形成した降着円盤 (周惑星円盤) の状態を推定する際に重要となる.
また天王星周りの衛星は,この巨大氷惑星が衝突によって大きく自転軸が傾いたというシナリオを示唆している (Morbidelli et al. 2012).
系外衛星候補の報告
これまでに数千個の系外惑星が発見されているが,存在が確定した系外衛星はない.系外衛星の可能性がある候補は検出されており,重力マイクロレンズイベントに基づくもの (Bennett et al. 2014),系外惑星のトランジット光度曲線中の非対称性の検出に基づくもの (Ben-Jaffel & Ballester 2014),CoRoT 衛星によるデータ中の単一の特異なトランジット光度曲線に基づくもの (Lewis et al. 2015) がある.
最近になって,おそらく最も信頼性があり検証可能な系外衛星候補が Teachey et al. (2017) によって報告された.そこでは,衛星に誘起された惑星軌道のサンプリング効果を,系外惑星のトランジット光度曲線中に探すという手法が用いられており,これによって系外衛星候補ケプラー1625b-i の検出を報告している.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.539 Teachey et al. (2017) ケプラー惑星中の系外衛星シグナルの探査