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arXiv:1712.06552
Fitzsimmons et al. (2017)
Spectroscopy and thermal modelling of the first interstellar object 1I/2017 U1 'Oumuamua
(初めての恒星間天体 1I/2017 U1 'Oumuamua の分光学と熱的モデル)

概要

太陽系の形成と進化の過程で,大量の彗星や小惑星天体が星間空間に放出される.この過程は,他の恒星系でも当然起きることが期待される.そのような過程で生じた恒星間天体 (interstellar objects, ISOs) は,他の恒星周りでの微惑星形成過程の探査を可能にする,また,天体が星間空間に長時間の曝露された際の影響についても調べることができる.

1I/2017 U1 ‘Oumuamua (オウムアムア) は,Pan-STARRS1 望遠鏡で 2017 年 10 月に発見された初めての ISO である.
発見当時の測光観測からは,~ 200 × 20 m の非常に細長い形状であることが示唆された.これは,オウムアムアが彗星的な幾何学的アルベド 0.04 を持っていると仮定した場合のサイズ推定である.

ここでは,オウムアムアの分光学的特徴付けを行った.
その結果,分光学的特徴は時間とともに変化するが,太陽系外縁部の天体に見られるような,有機物に富んだ表面を持つ天体と似た特徴を示すことが分かった.

観測可能な ISO のポピュレーションは,今回得られたスペクトルと同様に彗星的な天体で占められることが期待されるが,一方でこの天体に彗星活動が見られないという報告からは,オウムアムアの表面は氷が欠乏している事が示唆される.このことは,長期間に渡る宇宙線への曝露によって生成された,絶縁性のマントルが存在するとした場合と整合的である.
そのため,オウムアムアは太陽から 0.25 au 以内を通過している天体ではあるが,彗星活動が欠乏していることを理由に,内部が氷組成ではないことを否定することは出来ない.

観測

観測は,La Palma の 4.2 m William Herschel Telescope を用いた.観測期間は,10/25 21:45 - 22:03 (UT) である.ここで得られたスペクトルの初期解析から,オウムアムアが光学的に赤い天体であることが明らかになった.

さらに,European Southern Observatory の 8.2 m Very Large Telescope に設置されている X-shooter 分光器を用いたスペクトルの取得も行った.こちらの観測期間は 10/27 00:21 - 00:53 (UT) であり,観測波長は 0.3 - 2.5 µm である.

観測結果

彗星活動の欠如

活発な彗星は,CN 分子の 0.38 µm と C2 分子 の 0.52 µm での蛍光による,振動基底状態内の電子遷移を介した強い分子輝線バンドを持つことが知られている.

今回得られたオウムアムアのスペクトルはノイズが多かったが,そのような放射の特徴は見られなかった.この結果は,彗星活動を起こしていない不活発な天体であるという,これまでの撮像観測と合うものである.

スペクトルの鉱物学的特徴

小惑星のスペクトルはその鉱物学的特性,特にフィロケイ酸塩 (水分変化したシリケイト) による,~ 0.7 µm を中心とした広く浅い吸収を示す場合がある.また,小惑星に見られる苦鉄質鉱物 (典型的にはパイロキシンとオリビン) は,~ 0.75 µm から始まり > 0.95 µm を中心とする吸収バンドを持つ.

得られたスペクトルには,そのような診断的特徴は見られなかった.

スペクトルの太陽系内天体との比較

オウムアムアのスペクトルの傾きは,いくつかの S 型小惑星や太陽系外縁天体と類似していた.ただし,これらはオウムアムアのサイズよりかなり大きい天体である.

1.0 - 1.8 µm のスペクトルの範囲では,シグナルノイズ比が低いものの,比較的ニュートラルな反射特性を示した.いくつかの大きな太陽系外縁天体に見られるような,水氷による 1.5 µm の強い吸収バンドは見られなかった.
0.63 - 1.25 µm の範囲ではスペクトルの傾きが大きく,7.7 ± 1.3%/100 nm であった.


オウムアムアのスペクトルを,太陽系内の他のクラスの天体と比較した.最も近い特徴を示すのは, L 型小惑星と D 型小惑星である.

L 型小惑星は小惑星帯では比較的数が少なく, 0.75 µm 以上では平坦かニュートラルなスペクトルの特徴を持ち,時々弱いケイ素吸収バンドを示す.これは,L 型小惑星の表面に微量のケイ素が存在している事を示唆している.これらのバンドは,今回のデータ中に見られるほどは強いものではない.

D 型小惑星は,外部小惑星帯と木星トロヤ群で主要なポピュレーションである.ほとんどの D 型小惑星の反射スペクトルは,少なくとも ~ 2 µm までは赤いスロープを示すが,これは観測されたオウムアムアのスペクトルとは一致しない.しかし D 型小惑星のうちのいくつかは,オウムアムアに似て 1 µm 以上で減少するスペクトルスロープを示す.
トロヤ群小惑星と.5 au より更に遠い位置にある天体は,スペクトル的により近い特徴を示す.

彗星核のスペクトルの傾きは可視光範囲では赤いが,近赤外では浅い.いくつかの太陽系外縁天体も赤い可視光スロープを示すが,近赤外ではよりニューラルな反射特性を持つ.大きく活発なケンタウルス族天体 Echeclus は,ACAM と X-shooter で得られたスペクトルの中間程度の可視光スロープを示す.


D 型小惑星や彗星核,太陽系外縁天体の赤い可視光スペクトルは,有機物豊富な表面が輻射を受けた結果だと考えられている.今回得られたオウムアムアのスペクトルは,力学的に励起された軌道にある太陽系外縁天体のうち,あまり赤くない部類の天体に近い.

考察

恒星間天体の形成過程と観測バイアス

観測される ISOs は,その形成過程と観測バイアスの観点から,大部分が氷主体の天体だと考えられてきた.小天体の多くは起源となった惑星系のスノーラインの外側で形成され,その領域で急速に形成された巨大惑星によって惑星系外部へ弾き出されると考えられるため,それらの天体の大部分は氷を含むことになる.

さらに ISOs は,恒星同士の近接遭遇や銀河潮汐などの散逸機構を介して,オールトの雲からも生成されると考えられる.太陽系のオールトの雲は,小惑星天体より 200 - 10000 倍多い数の彗星的な天体を持っていると考えられている.

そのため,どちらの形成プロセス由来であっても,ISOs は氷天体が主体であると考えられる.

さらに,そのような天体を検出するという観点から考えると,活発な活動をする彗星核は,同じサイズの小惑星よりも発見が容易になる.

オウムアムアの発見以前の ISO モデルの予測では,検出される典型的な小惑星状の ISO は近日点距離が 2 au 未満である一方,典型的な彗星的な性質を持つ ISO は,それより 2 - 3 倍大きな近日点を保つ場合であっても検出可能であると期待されている.これは,後者の天体の方がより大きな距離で検出できるためである.

そのため,彗星的性質を示さない恒星間天体であるオウムアムアの発見は,衝撃的な出来事である.

彗星活動の欠如と内部組成

熱的モデル
太陽系内の氷が豊富な天体と類似したスペクトルの特徴を示すことから,近日点 (0.25 au) を通過する最中には,表面下の氷が揮発して彗星活動を起こすのに十分な加熱を受けたはずである.しかし,有機物を含む氷への宇宙線照射や,局所的な超新星による加熱によって,氷主体の天体の表層に炭素豊富なマントルを形成される可能性がある.このマントルの推定厚さは ~ 0.1 - 2 m である.

オウムアムアがこのようなマントルを持っていると仮定し,太陽に最接近した際のの熱パルスの伝播をモデル化した.その結果,オウムアムアが経験した強力だが短時間の加熱は,オウムアムアの深くまでは浸透しないことが判明した

熱はゆっくりとしか内部に浸透せず,近日点通過前後では表面が ~ 600 K にまで到達する一方で,20 cm 以上の深さにある水氷は,近日点通過の数週間後に昇華を開始するだけである.また,30 cm かそれよりも深い層にある水氷は,昇華を起こすほどの温度に到達しない.
オウムアムアが継続的に太陽に加熱され続けたという非物理的な極限を考えても,この深さは ~ 10 cm 深くなるだけである.

そのため,オウムアムアの表面から ~ 40 cm の深さまでに氷が含まれていない場合,たとえ内部は氷豊富な組成であっても彗星活動を起こすことが出来ないと結論付けることが出来る.過去のシンプルな熱的過程を考慮した研究でも,似た表面温度と熱的表面深さの議論を得ている.
天体の強度と内部組成
さらに,オウムアムアの内部が氷主体の場合,自転による遠心力破壊に耐えられる強度かどうかについて考察する.

この天体の密度として 1000 kg m-3 という低い値を仮定した場合,遠心力による破壊に対抗するために必要な強度は,0.5 - 3 Pa である.滑石の粉 (talcum powder) のような弱い物質であっても ~ 10 Pa の強度を持つため,天体が形状を保つのに十分な強度である.
また,非活発な表面を持つ彗星 67P は,3 - 15 Pa の引っ張り強度を持つ.

従って,オウムアムアの特異な形状は,内部構造が氷豊富で彗星的な組成である可能性を否定しない.
オウムアムアが氷主体天体とする説の課題
このモデルの明確な問題点としては,オールトの雲に起源を持つ彗星が活発な彗星活動を示すという点が挙げられる.

オールトの雲の彗星は,オウムアムアが受けであろうのと同様の宇宙線曝露によるマントル形成を,46 億年の間に渡って経験しているはずである.しかし多くのオールトの雲起源の彗星は,初めて太陽に接近して近日点を通過した時に,表面付近の物質の昇華による明確な彗星活動を見せる.

オウムアムアが非常に長い期間にわたって曝露を受けていたとは考えられない.これは,もし宇宙における初代の恒星の周りで形成されたとしても,太陽系の年齢の 3 倍を超えることは無いからである (宇宙年齢は太陽系の年齢のおよそ 3 倍であるため).

考えられる可能性として,元々の系で形成されてから放出されるまでに,中心星への近接遭遇によって表面の氷が昇華して乾燥していたというシナリオがある.類似した例に,太陽系内では Damocloid (ダモクレス族) 天体が,発達した表面のマントル層によって昇華が妨げられている彗星状天体だと考えられている.

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