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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1801.00732
Boyajian et al. (2018)
The First Post-Kepler Brightness Dips of KIC 8462852
(KIC 8462852 のケプラー後の初の光度減少)
減光のシークエンスは 2017 年 5 月に始まり,この星が地球から見えなくなる 2017 年の終わりまで継続した.このシークエンス中で,1 - 2.5%の輝度減少を示す 4 つの減光イベントを同定した.このイベントのニックネームはそれぞれ Elsie, Celeste, Skara Brae, Anglor である.それぞれ,タイムスケールは数日から数週間であった.
現在までの解析結果は,
(i) 減光を起こしている間の恒星スペクトルや偏光には目立った変化はない
(ii) 減光の多バンド測光からは波長により異なる reddening (赤化) が見られたため,減光は非灰色 (波長依存性がある) である
というものである.
従ってこれらの結果からは,光学的に厚い物質による減光であるとするモデルとは非整合であることが示される (光学的に厚い物質が減光を起こしている場合は,減光の波長依存性が見られないため).
むしろ,掩蔽している物質の大部分は光学的に薄く,サイズスケールが 1 µm より小さい通常のダストを主成分とする掩蔽体であると考えるモデルと一致するものであった.またその他には,恒星の光球に固有の変動が起きているとするモデルと一致する可能性もある.
今回のデータでは,より長周期の “secular” 減光 (永年減光) の波長依存性への制限を与えることはできなかった.この長周期の変光は,短周期の変光とは独立したプロセスによって引き起こされているか,あるいは単一のプロセスの異なるレジームを観測している可能性がある.
ケプラーによる観測では,4 年間のうちに dip の周期性はほとんど見られなかった (ただし Kiefer et al. 2017 も参照).また,dip のデューティーサイクル (ある期間のうちにその現象が占める期間の割合) は低く,ケプラーで観測された 4 年間のうち 5%未満であった.
特徴的なスペクトル線も,軌道を周回する天体によるドップラーシフトも,赤外線超過のような若い年齢を示唆する証拠も得られていない (Lisse et al. 2015; Marengo et al. 2015; Boyajian et al. 2016;Thompson et al. 2016).
なお Hippke et al. (2016) での主張は,複数の技術的誤りを含むとして後に否定された.
より最近では,Meng et al. (2017) によって,宇宙空間と地上観測の両方で,Swift,スピッツァー宇宙望遠鏡,AstroLAB IRIS による測光観測から,KIC 8462852 の光度変動は現在も続いていることが分かっている.
従ってこの天体は,1日から一週間,十年,十年,一世紀といった様々なタイムスケールで,複雑な dip 状の変動を示す天体であることが分かっている.
例えば,Katz (2017) は恒星の周囲に存在するリングが原因であるという説を提唱している.
その他には恒星間の “彗星” による減光だとするもの (Makarov & Goldin 2016),恒星周りの巨大な系外彗星のトランジットだとするもの (Boyajian et al. 2016, Bodman & Quillen 2016),より重く少数の天体に伴ったダスト雲のトランジット (Neslušan & Budaj 2017),トロヤ群天体の群れを伴ったリングを持つ惑星のトランジット (Ballesteros et al. 2017) が提案されている.
また,dip の統計的な性質は恒星起源とする説や (Sheikh et al. 2016),二体目の天体の comsumption (惑星の飲み込みによる急激な増光とその後のゆっくりとした減少,また破片などによる dip) によるとするもの (Metzger et al. 2017),恒星の内因性の変動が磁気対流に関連している可能性を指摘する研究もある (Fouokal 2017).
KIC 8462852 は,原因不明の奇妙な減光が度々観測されていた恒星です.既存のどのモデルでもうまく説明が出来ず,『地球外知的生命による巨大構造物の兆候か!?』という憶測まで飛び出していた程です.
今回の観測では,減光の大きさには波長依存性があることが分かり,減光を起こしている原因は恒星の周囲に存在する光学的に薄いダストである可能性が示唆されました.
仮に地球外文明による巨大構造物の場合は光学的に厚い物質として振る舞うと考えられるため,減光の波長依存性がほとんど存在しないことが期待されます.しかし今回の結果では恒星を掩蔽しているのは光学的に薄い物質であるとされたため,地球外文明の構造物であるとする憶測は否定されることになりました.
arXiv:1801.00732
Boyajian et al. (2018)
The First Post-Kepler Brightness Dips of KIC 8462852
(KIC 8462852 のケプラー後の初の光度減少)
概要
独特な変光星 KIC 8462852 の,ケプラーミッションが 2013 年 5 月に終了して以降で初めての輝度の減少を測光観測で検出した.KIC 8462852 の変光を捉えるための測光サーベイは,2015 年 10 月に開始した,減光のシークエンスは 2017 年 5 月に始まり,この星が地球から見えなくなる 2017 年の終わりまで継続した.このシークエンス中で,1 - 2.5%の輝度減少を示す 4 つの減光イベントを同定した.このイベントのニックネームはそれぞれ Elsie, Celeste, Skara Brae, Anglor である.それぞれ,タイムスケールは数日から数週間であった.
現在までの解析結果は,
(i) 減光を起こしている間の恒星スペクトルや偏光には目立った変化はない
(ii) 減光の多バンド測光からは波長により異なる reddening (赤化) が見られたため,減光は非灰色 (波長依存性がある) である
というものである.
従ってこれらの結果からは,光学的に厚い物質による減光であるとするモデルとは非整合であることが示される (光学的に厚い物質が減光を起こしている場合は,減光の波長依存性が見られないため).
むしろ,掩蔽している物質の大部分は光学的に薄く,サイズスケールが 1 µm より小さい通常のダストを主成分とする掩蔽体であると考えるモデルと一致するものであった.またその他には,恒星の光球に固有の変動が起きているとするモデルと一致する可能性もある.
今回のデータでは,より長周期の “secular” 減光 (永年減光) の波長依存性への制限を与えることはできなかった.この長周期の変光は,短周期の変光とは独立したプロセスによって引き起こされているか,あるいは単一のプロセスの異なるレジームを観測している可能性がある.
KIC 8462852 の奇妙な減光
ケプラーによる dip の検出
KIC 8462852 の奇妙な減光は,市民科学プロジェクト Planet Hunters によって初めて報告された (Boyajian et al. 2016).ケプラーによる観測では,4 年間のうちに dip の周期性はほとんど見られなかった (ただし Kiefer et al. 2017 も参照).また,dip のデューティーサイクル (ある期間のうちにその現象が占める期間の割合) は低く,ケプラーで観測された 4 年間のうち 5%未満であった.
地上からのフォローアップ観測
地上からのフォローアップ観測では,この天体が通常の主系列段階にある F3 型星であること以外は何も分かっていない.特徴的なスペクトル線も,軌道を周回する天体によるドップラーシフトも,赤外線超過のような若い年齢を示唆する証拠も得られていない (Lisse et al. 2015; Marengo et al. 2015; Boyajian et al. 2016;Thompson et al. 2016).
永年減光の検出
ケプラーで観測された短周期の光度変動 (dip) に加え,Schaefer (2016) は 1890 - 1989 年のアーカイブデータから,100 年に平均で 0.164 ± 0.013 等の永年減光を起こしていることを発見した.Schaefer (2016) の報告は Hippke et al. (2016) により疑義も呈されたが,ケプラーの全体のデータ解析から,2009 - 2013 年の 4 年間で 3%の減光が起きていることが後に確認された (Montet & Simon 2016).なお Hippke et al. (2016) での主張は,複数の技術的誤りを含むとして後に否定された.
より最近では,Meng et al. (2017) によって,宇宙空間と地上観測の両方で,Swift,スピッツァー宇宙望遠鏡,AstroLAB IRIS による測光観測から,KIC 8462852 の光度変動は現在も続いていることが分かっている.
従ってこの天体は,1日から一週間,十年,十年,一世紀といった様々なタイムスケールで,複雑な dip 状の変動を示す天体であることが分かっている.
減光を説明するモデル
この天体の奇妙な光度変化を説明するためのモデルが複数提唱されている.例えば,Katz (2017) は恒星の周囲に存在するリングが原因であるという説を提唱している.
その他には恒星間の “彗星” による減光だとするもの (Makarov & Goldin 2016),恒星周りの巨大な系外彗星のトランジットだとするもの (Boyajian et al. 2016, Bodman & Quillen 2016),より重く少数の天体に伴ったダスト雲のトランジット (Neslušan & Budaj 2017),トロヤ群天体の群れを伴ったリングを持つ惑星のトランジット (Ballesteros et al. 2017) が提案されている.
また,dip の統計的な性質は恒星起源とする説や (Sheikh et al. 2016),二体目の天体の comsumption (惑星の飲み込みによる急激な増光とその後のゆっくりとした減少,また破片などによる dip) によるとするもの (Metzger et al. 2017),恒星の内因性の変動が磁気対流に関連している可能性を指摘する研究もある (Fouokal 2017).
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.156 Bodman & Quillen (2015) KIC 8462852の彗星の群によるトランジット
天文・宇宙物理関連メモ vol.475 Ballesteros et al. (2017) KIC 8462852 の奇妙な減光はトロヤ群天体によるとする可能性について
天文・宇宙物理関連メモ vol.156 Bodman & Quillen (2015) KIC 8462852の彗星の群によるトランジット
天文・宇宙物理関連メモ vol.475 Ballesteros et al. (2017) KIC 8462852 の奇妙な減光はトロヤ群天体によるとする可能性について
KIC 8462852 は,原因不明の奇妙な減光が度々観測されていた恒星です.既存のどのモデルでもうまく説明が出来ず,『地球外知的生命による巨大構造物の兆候か!?』という憶測まで飛び出していた程です.
今回の観測では,減光の大きさには波長依存性があることが分かり,減光を起こしている原因は恒星の周囲に存在する光学的に薄いダストである可能性が示唆されました.
仮に地球外文明による巨大構造物の場合は光学的に厚い物質として振る舞うと考えられるため,減光の波長依存性がほとんど存在しないことが期待されます.しかし今回の結果では恒星を掩蔽しているのは光学的に薄い物質であるとされたため,地球外文明の構造物であるとする憶測は否定されることになりました.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.70 Boyajian et al. (2015) KIC 8462852の奇妙な光度曲線の解析