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日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1509.01136
Molaro et al. (2015)
The Earth transiting the Sun as seen from Jupiter's moons: detection of an inverse Rossiter-McLaughlin effect produced by the Opposition Surge of the icy Europa
(木星の衛星から見た地球のトランジット:エウロパ表面でのOpposition Surgeによる"逆ロシター効果"の検出)

概要

2014年1月5日に起きた、木星から見た地球のトランジット(木星から見た地球の日面通過)を、多波長で観測した。
木星から見て地球が日面通過をしている際の太陽光が、木星の衛星エウロパとガニメデで反射しているものを HARPS (チリ、La Silla)と HARPS-N (カナリア諸島)で同時に観測し、ロシター効果 (Rossiter-McLaughlin effect)の検出を目指した。
2012年の金星の日面通過の際には、金星のトランジットによるロシター効果の検出に成功している(Molaro et al. 2013)。

期待されていたロシター効果による視線速度成分の変化は ~ 20 cm s-1だったが、異常な視線速度ドリフト成分 (~ 38 m s-1)が検出された
これは期待されていた視線速度変動の振幅より2桁以上も大きいものであり、しかも正負が逆のものであった。

2つの分光観測器で同じ傾向が見られたため、機器に起因するものである可能性は排除できる。
また、BiSONによる太陽の観測では、太陽活動に起因するみかけの視線速度変動でも無いことが判明した。

この異常な視線速度成分の変動は、エウロパの氷が多い表面におけるOpposition Surgeが原因だと考えられる。
これは、光の入射位相角が小さい時に、反射特性が異なる振る舞いを起こす現象である。

シンプルなモデルを用いると、エウロパ表面でのOpposition Surgeで"逆ロシター効果"の説明が可能である。
これは今回初めて検出された現象であり、また似た位置関係の場合はいつでも発生しうる現象である。
次に木星から見て地球が日面通過を起こすのは 2026年であり、その際に再びエウロパを観測すれば検出できるだろう。

研究背景

他惑星から見た地球の日面通過

金星や水星の日面通過は主要な歴史的なイベントであるが、他の惑星から見れば地球も日面通過を起こす。
このレアなイベントは、Meeus (1989)で詳細に予測されている。

例えば、火星から見た地球の日面通過は 2084年に発生する。
木星から見た場合、地球の日面通過は 2014年1月5日に発生した。次の地球の日面通過は日面をかすめるような軌跡で発生し、起きるのは 2026年である。

金星の日面通過の際の太陽光の変化は直接観測できるが、他惑星から見た地球の日面通過の際の太陽光の変化は直接計測できないため、それが観測できる天体表面での太陽光の反射を捉えることによって観測することが出来る。

ロシター効果

ここれは、木星から見た地球の日面通過の観測を試みた。
モチベーションの一つは、地球の日面通過によるロシター効果の検出である。

ロシター効果は、自転しているために各点で異なる視線速度成分を持っている恒星の一部分を、惑星が隠しながら移動するために、見かけの視線速度の変動が起きる現象である。
この現象はHolt (1893)によって初めて予言され、Schlesinger (1911)によって発見され、後にRossiter (1924)とMcLaughlin (1924)によって確認された。
Rossiter (1924)はこと座ベータ星で、McLaughlin (1924)はアルゴルで、それぞれこの効果の検出に成功した。これらの恒星は食連星である。

トランジットしている惑星でも、シグナル・ノイズ比を上げればロシター効果が検出可能であることがSchneider (2000)によって示され、後に木星型惑星を持つ HD 209458において初めて観測された(Queloz et al. 2000)。
この時のロシター効果での視線速度成分の振幅は 30 m s-1であった。

ロシター効果の検出からは、惑星の半径、天球面に投影された公転軸と中心星の回転軸の角度にるいての情報が得られる。
これまでに 90の木星型惑星でロシター効果の検出が行われ、それらはしばしば大きく傾いた軌道を持つことも判明している(Fabrycky & Winn 2009など)。

金星の日面通過によるロシター効果

これまでで一番小さいロシター効果の検出は、 2012年6月6日の金星の日面通過の際の太陽光を、月面に反射したものをHARPSで高分散分光観測したものである(Molaro et al. 2013)。

この時の視線速度成分の振幅は ~ 1 m s-1であった。
この視線速度の変動は太陽の変動と同程度であり、またホットジュピターでの変動よりは1桁以上小さいものである。

地球の日面通過によるロシター効果

視線速度成分の変化は、恒星の角速度、恒星面上でのトランジット中の惑星の位置、恒星の自転軸傾斜角、惑星と恒星の半径比から計算できる。
2014年1月5日の木星から見た地球の日面通過の場合、投影された地球と太陽のサイズ比は 1.3 × 10-4であり、太陽の自転速度 1.6 km s-1(Pavlenko et al. 2012)を考えると、期待されるロシター効果の振幅は 20 cm s-1である。

さらに、月も同じく日面通過を起こすが、この時は地球の日面通過から 4時間遅れて発生する。
ただし月による日面通過で期待されるロシター効果の振幅は、わずか数 cm s-1である。

観測の概要

木星から見た地球の日面通過

木星から、あるいは木星の衛星から見て、地球は直径 4.2 arcsecの黒い円に見える。
一方、太陽面の直径は 369 arcsecである。
日面通過の継続時間は 9時間40分である。

地球の日面通過時の反射光観測

木星自身は、速い自転速度と木星大気中の乱流運動の存在のため、良い太陽光の反射体とは言えない。
木星の主要な衛星はより良い反射鏡として機能する。

木星の衛星との位置関係の違いより、木星本体から見られる地球の日面通過の開始時刻と比べると、エウロパでは 30分ほど速く、ガニメデでは1時間ほど速くから日面通過が観測される。
また、イオは日面通過の最中に木星の背後に隠れてしまう。

HAPRS/HARPS-Nでの観測

HARPSとHARPS-Nの両方によって、 380 - 690 nmの波長帯でエウロパとガニメデを観測した。
観測している最中のエウロパとガニメデは"満月"の状態であり、可視等級は 5.35と 4.63であり、見かけの大きさはそれぞれ 1.02と 1.72 arcsecであった。
波長分解能は 115000である。

観測結果

観測結果を解析し、トランジット中の視線速度の見かけの変動を計算した。
その結果、トランジットの中心時刻経過後に視線速度が急速に増加し、 極大時には 37 m s-1に達した。
極大に到達した後は単調に減少した。
この振幅と変動は、ロシター効果から期待される変動とは大きく異なるものであった。

HARPSとHARPS-Nの2つの観測で同様の傾向が得られており、機器に起因する人工的な変動である可能性は排除できる。
また、Birmingham Solar Oscillations Network (BiSON)による太陽の観測では、対応する変動は観測されなかったため、太陽活動に起因する視線速度の変動では無い。

重力マイクロレンズ効果がロシター効果に及ぼす影響については Oshagh et al. (2013)によって詳細に検討されており、特に重い惑星に関しては極端な場合はロシター効果が消えることがある事が示されているが、この現象は観測では確認されていない。
さらに、木星から見た地球のアインシュタインリングはわずか 47 kmであり、ロシター効果に影響を及ぼすとは考えられない。

そのため、この効果は現実に発生しているものであり、さらにエウロパ表面での"Opposition Surge"によって引き起こされたものだと考えられる。

Opposition Surge

Opposition Surgeとは、岩石の天体表面を"衝 (opposition)"の位置関係から見た場合に表面が特に明るくなる現象である。
光度の増加が位相の関数であり、観測の位相角が0に近づくほど光度が増すというものである。

Opposition SurgeはGherels (1956)によって初めて記録されたが、詳細な物理過程は未だ完全には理解されておらず、機構としては"shadow hiding"と"coherent backscatter"が提案されている。

・Shadow hiding
粗い表面に小さい位相角で光が当たっている場合、全ての影の面積が減少し、物体が照らされている面積は最大となる。(影が隠されるという効果が起きる)
これにより、小さい位相角で反射光の明るさが増加する。この効果をshadow hidingと呼ぶ。
これは、 1887年に Hugo von Seeligerが、土星の環のアルベドの説明の際に用いたものである。

・Coherent backscatter
これは、光度の増加を表面での光の反射と、ダスト粒子での反射の組み合わせによって説明するものである。
これはcoherent backscatter (コヒーレントな後方散乱)と呼ばれる。
天体表面の散乱体のサイズが光の波長と同程度の時に大きな効果が得られる。

コヒーレントな後方散乱は電波で観測されており、物理モデルは (Hapke et al. 1993)などに詳しい。

Coherent backscatterとshadow hidingの両方が起きているという状況も考えられる。
どちらの機構が重要かは、空隙率、平均自由行程、アルベドなど天体表面の物理特性に依存する。

"逆ロシター効果"

太陽からの光子のうち、地球をかすめて飛んできたものは、(天球面上に投影された)地球の縁から離れた領域の太陽表面からやってきた光子よりも小さい角度を持つ。
そのため、地球の背後になっている領域からやってきた輻射を実効的に増加させる効果がある。

地球が太陽の手前を通過するあいだ地球はレンズとしてはたらくことになり、通常のロシター効果で期待されるものとは逆符号の視線速度の変動が発生することになる。
逆符号になるのは、地球によって隠される効果の代わりに、その隠されている領域からの放射が増幅される効果があるためである。
これが、反射体でのOpposition Surgeと組み合わさることによって、大きな視線速度の変動として観測される。

木星の衛星は氷主体の比較的新しい表面を持っており、アルベドは高い。
この条件では、shadow hidingよりもcoherent backscatterが主要であると考えられる。
しかしカッシーニによる近赤外線観測では、Opposition Surgeはcoherent backscatterだけでは説明出来ないと考えられており、このような高いアルベドの元でもshadow hidingの成分を持っているべきだと考えられている(Simonelli & Buratti 2004)。







地球から見て金星が太陽の手前を通過する「金星の日面通過」のように、他の惑星から見て地球が太陽の手前を通過する「地球の日面通過」も起き得ます。
ここでは、木星から見た地球の日面通過時の、太陽光の高分散分光観測を試みています。

もちろん直接観測するためには木星周辺から観測するしかありませんが、木星から見た日面通過時の太陽光は、木星の衛星の表面で反射されているという事実を用いて、エウロパとガニメデの表面での反射光を観測するという大技に出ています。
木星の衛星表面を鏡に見立て、木星から見た地球の日面通過を観測しようというとてつもない観測計画なわけです。

目的は、地球がトランジットしている時の視線速度の見かけの変動であるロシター効果を捉えることですが、実際には期待されるロシター効果より遙かに大きく、変動の向きも逆である変化が見られたということです。
著者たちは「逆ロシター効果 (inverse Rossiter-McLaughlin effect)」と呼んでいますが…果たしてロシター効果の名前を使ってもいいのかどうかは微妙なところです。

さてその"逆ロシター効果"の原因として挙げられているのが、エウロパ表面での"Opposition Surge"。

Opposition Surgeそのものの適切な訳語があるのかどうかは不明ですが、Opposition effectと呼ばれることもあり、これは「衝効果」という訳語がありました。
世界で初めて、小惑星ベスタが「衝効果」で急激に明るくなる現象を捉えた - ISAS/JAXA
100年に1度、小惑星ベスタの「衝効果」をとらえた - AstroArts
これらのリンク先では、coherent backscatteringには「干渉性後方散乱」という訳語が当てられています。

衝効果のビジュアル的に分かりやすい例としては、探査機「はやぶさ」が撮影した小惑星イトカワの写真があります。
イトカワの衝効果 - ISAS/JAXA

はやぶさが太陽を背にしてイトカワを撮影した際に、はやぶさの影がイトカワに見えているという画像です。
この画像で、はやぶさの影の周辺が周囲に比べて異様に明るくなっている様子が分かりますが、これは影の周辺は太陽光がはやぶさの真後ろからほぼ垂直に当たっている(位相角が小さい)ため、衝効果によって反射光の輝度が非常に強くなっていることが原因です。

この衝効果は月面でも起こっていて、観測者から見て入射光の位相角が小さい満月の時は、衝効果によって月面は非常に明るく見えるようになります。
満月が特に明るく見えるのは、単に光が当たっている面積が大きいだけではなく、衝効果によって反射特性が大きく異なることも原因になっているということです。

リンク先にもあるように、衝効果は月面のようにレゴリスのような細かい粒子で覆われている環境で起きると考えられてきましたが、イトカワ表面ではレゴリスに覆われていない領域でも衝効果が起きていることが確認されました。

この論文では、エウロパ表面での衝効果が、"逆ロシター効果"を引き起こした原因だと論じています。

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