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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1802.08904
Ye et al. (2018)
Finding Long Lost Lexell's Comet: The Fate of the First Discovered Near-Earth Object
(長い間行方不明のレクセル彗星の探査:初めて発見された地球近傍天体の運命)

概要

木星族彗星 D/1770 L1 (Lexell) (レクセル彗星) は,初めて発見された地球近傍天体 (near-Earth object, NEO) である.
この彗星は 1770 年 7 月 1 日に地球から 0.015 au の距離を通過した.その後,次のレクセル彗星の出現期間中の観測環境が良くなかったことに加え,1779 年に木星との近接遭遇を起こした事によって,この彗星は見失われてしまった.それ以来,レクセル彗星の運命は科学界の関心を集めている.

ここでは,彗星の発見者 Charles Messier (シャルル・メシエ) による観測結果を用いて再計算された,レクセル彗星の軌道の力学的進化の調査を行った.その結果,2000 年の段階でこの彗星が太陽系内に残っている確率は 98% であると推定された.これは,彗星に働く非重力的な効果を含めた場合でも有効な推定である.

メシエによる観測結果は,レクセル彗星は既知の地球近傍天体の中で最も大きなものの一つであったことも示唆している.観測からは,レクセル彗星の核は直径 10 km 程度以上であることが示唆される.このことは,この彗星が太陽系の内側に残っていた場合,その活動水準に関わらず現在の NEO サーベイによって検出されたはずであることを意味する.


また,小惑星 2010 JL33 をレクセル彗星の子孫である可能性がある候補天体として同定した.軌道要素が偶然の一致をしている可能性は 0.8% だが,レクセル彗星と 2010 JL33 の軌道を直接繋げるのには成功していない.

さらに,再計算したレクセル彗星の軌道を用いて,レクセル彗星に起源を持つ可能性がある流星についての調査も行った.その結果,この彗星に対応する流星群は明確には検出されなかった.対応する流星群は発見されなかったものの,彗星が長く見失われているにも関わらず,彗星の軌道に制約を与えるために流星観測が有用である事を示す結果である.

D/1770 L1 (Lexell) (レクセル彗星) について

レクセル彗星は,初めて発見された地球近傍天体である.
メシエによって発見され (Messier 1776).後にその軌道を計算した Anders Johan Lexell に因んで命名された (Lexell 1778).

レクセル彗星は 1770 年 7 月 1 日に,地球からわずか 0.015 au の距離を通過した,これは,彗星の中では最も地球に接近したケースである.なお,別の彗星 C/1491 B1 は 1491 年に,P/1999 J6 (SOHO) は 1999 年に,それぞれレクセル彗星よりも地球に接近した可能性があるが,これらの彗星の軌道は不確実である.

レクセル彗星の公転周期はは 5.58 年と計算されたが,1770 年以降にこの彗星は観測されなかった.
レクセルは自身の著名な仕事の中で,1779 年の木星への近接遭遇がこの彗星を大きな近日点の軌道に擾乱した可能性があることを指摘した,しかし,1776 年に彗星が近日点付近を通過する時は,地球から見て太陽の背後に存在するという位置関係であったため,観測して確認することは出来なかった.

レクセル彗星が木星によって異なる軌道に変えられたという点は,後の研究でも確認されている (Burckhardt 1807).また Le Verrier (1884) でもこれらの結果を再確認している.

この彗星が発見時とは大きく異なる軌道へ進化したという合意はあったものの,この彗星の運命への関心は長い間続いた.
80 年ほど後に,Chandler (1889, 1890) は,新しく発見された 16P/Brooks (ブルックス第2彗星) がレクセル彗星の帰還である可能性を指摘した.しかしこの指摘は,15 年後に可能性が低いとされた (Poor 1905).

1950 年代以降は流星天文学の発展により,レクセル彗星に起因する可能性のある流星活動の調査が進んだ (Nilsson 1963など).しかし,決定的な結論は得られなかった.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1802.08945
Beichman et al. (2018)
Validation and Initial Characterization of the Long Period Planet Kepler-1654 b
(長周期惑星ケプラー1654b の確定と初期特徴付け)

概要

ケプラーで発見された系外惑星のうち,軌道周期が 1 年よりも長いものは 20 個未満しか発見されていない.ケプラーの光度曲線の早期探索により,そのような系が一つ明らかになった.

ケプラー1654b (ケプラー番号確定前の名称は KIC 8410697b) は,合計で 2 回のトランジットを示した.そのうち 2 回目は,ケプラーの主要ミッションを終える原因となった,2 個目のリアクションホイールの故障が起きるわずか 5 日前に発生した.

この惑星候補イベントを確定させるため,2014 年 9 月から観測プログラムを開始した.この観測プログラムには,撮像観測や精密な視線速度測定を含む.これにより,この候補イベントが惑星であることを確認した.

ケプラー1654b は,軌道長半径が 2.03 AU で軌道周期が 1047.84 日,半径は 0.82 木星半径である.Keck 望遠鏡の HIRES を用いた 2.5 年に渡る視線速度測定からは,惑星質量の上限値として 0.5 木星質量という値を与えた.そのため,惑星の密度は木星と同程度か,あるいはそれより低い可能性がある.


この惑星は平衡温度が ~ 200 K と比較的低いため,系外惑星大気物理の観点からは興味深い天体である.そのため,将来的なジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope, JWST) でのケプラー1654b 的な惑星のトランジット分光観測への適合性を調査した.
残念ながら,このような低い平衡温度の場合は大気のスケールハイトは小さいため,トランジット分光観測を行うことは難しい.また,トランジットから次のトランジットまでの間隔が長いため,JWST の観測のスケジューリングを難しくする.

パラメータ

ケプラー1654
別名:KIC 8410697
有効温度:5597 K
金属量:[Fe/H] = -0.088
年齢:50 億歳以上
質量:1.011 太陽質量
半径:1.179 太陽半径
光度:1.23 太陽光度
ケプラー1654b
軌道周期:1047.8356 日
軌道長半径:2.026 AU
半径:0.819 木星半径
平衡温度:206.0 K

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1802.09023
Wang et al. (2018)
OGLE-2017-BLG-1130: The First Binary Gravitational Microlens Detected From Spitzer Only
(OGLE-2017-BLG-1130:スピッツァーのみで検出された初めての連星重力マイクロレンズ)

概要

連星重力マイクロレンズイベント OGLE-2017-BLG-1130 の解析結果について報告する.

このレンズイベントはレンズ天体が連星であり,主星と伴星の質量比は ~ 0.45 であった.これは,連星レンズイベントがスピッツァー宇宙望遠鏡のみで検出された初めてのケースである.

今回のレンズイベントは,いくつかの連星シグナルは地上からの観測のみでは見落としてしまう可能性があるが,スピッツァー宇宙望遠鏡では検出されていた可能性があることを示す強い証拠である.そのため,今回は通常のプロシージャを逆転させ,まずレンズ天体のパラメータを宇宙空間からの観測のデータでフィットし,その後マイクロレンズ視差を地上観測から測定した.

また,通常の単一レンズの場合の宇宙空間観測からの四重の縮退は,連星レンズイベントでは弱い八重の縮退になりうることを示す.この縮退はこのイベントでは解くことが出来たが,他のイベントではそうではない可能性がある.

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arXiv:1802.09222
Drummond et al. (2018)
Observable signatures of wind--driven chemistry with a fully consistent three dimensional radiative hydrodynamics model of HD 209458b
(HD 209458b の完全に整合的な 3 次元輻射流体力学モデルを用いた風駆動の化学過程の観測可能な特徴)

概要

完全な整合性のある,3 次元流体力学,化学過程,輻射輸送コードである Met Office Unified Model (UM) を用いて,ホットジュピター大気の化学組成の風駆動移流の効果について調べた.

系外惑星大気の化学モデリングは,主として 3 次元動力学過程には適用できない 1 次元モデルに限定されていた.ここでは,UM に対して化学緩和スキームを結合し,メタンと一酸化炭素の化学的相互変換を取り扱うように改良した.この過程は輻射輸送と一貫して取り扱われる.つまり,化学平衡からのずれは加熱率 (および放射) に含まれ,従って動力学と温度構造と化学組成の間のフィードバックを含んでいる.

ここでは,よく研究されているホットジュピターである HD 209458b の大気のシミュレートを行った.
その結果,大気の水平方向と垂直方向の移流が合わさった効果として,大気中のメタンの存在度が数桁増加することを見出した.これは,過去の研究に見られる傾向とは正反対である.

今回の結果は,ホットジュピター大気の化学過程を考慮する際は,3 次元効果を含む必要が有ることを示すものである.

また,シミュレーション結果を用いて,大気の透過スペクトルと放射スペクトル,および放射位相曲線を作成した.その結果,大気中における非平衡化学過程は,スピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC 4.5 µm でのモデルと観測の乖離を説明することが出来ないと結論付けられる.しかし,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測可能な別のスペクトル領域では,風駆動の化学反応の効果がより目立つことが予想される.

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arXiv:1802.09451
Hall et al. (2018)
Is the spiral morphology of the Elias 2-27 circumstellar disc due to gravitational instability?
(Elias 2-27 星周円盤の渦状構造は重力不安定によるものか?)

概要

ALMA の観測では,Elias 2-27 の周りの星周円盤中に 2 本の渦状腕構造が 300 au 程度まで広がっていることが確認されている.中心星 Elias 2-27 を囲む原始星円盤は非常に重く,この系が重力的に不安定である可能性が指摘されている.

最近の研究では,この系で観測された構造は円盤の自己重力の影響で説明することが出来るという事が示されている.そのためここでは,円盤の自己重力によって発生する渦状波が,検出されている構造を再現するために必要な,円盤の物理的特性について調査した.

3 次元 smoothed particle hydrodynamics (SPH) 計算を輻射輸送と ALMA 合成画像と合わせて検証した結果,観測されている渦状構造は,この円盤が低い不透明度を持っており,そのために冷却が効率的である場合のみ自己重力によって形成されうることが分かった.

観測されたような渦状腕構造を円盤の自己重力によって形成することは出来るものの,形成可能なパラメータ領域は非常に狭い.そのため,渦状構造が円盤の自己重力に起因する可能性はあるが,外部からの擾乱などのような,その他の説明が好ましいだろうという事を示唆する結果となった.

主な結果

観測を再現できる円盤のパラメータ

合計で 17 セットの SPH シミュレーションを実施した.そのうちの 6 セットの計算のみが,自己重力によって円盤中に渦状腕構造を生成した.その他の計算セットでは,円盤はスムーズな構造になるか,あるいは分裂を起こした.

得られたシミュレーション結果を元に,輻射輸送計算を用いて ALMA での模擬観測画像を生成した.その結果,観測と近い模擬観測画像が得られたものは,円盤の金属量が太陽の金属量の 0.25 倍 (従って,金属量と不透明度が 1:1 の関係であることを仮定した場合,不透明度も 0.25 倍低い) で,円盤と恒星の質量比が 0.325,外部輻射場からの影響が小さい場合 (外部の温度が 5 K) のケースのみであった.

系の金属量 (不透明度) が太陽組成と同じであった場合,円盤の冷却が非効率的過ぎるため,検出可能な強度の渦状腕を形成することが出来ない.

また,円盤質量を大きくした場合は渦状構造の強度が強くなるが,この場合は円盤が分裂を起こさないために,外部からの輻射を大きくする必要がある.その結果として円盤の冷却率は低くなり,渦状腕の強度を検出可能な水準より低くしてしまう.

ダスト捕獲による渦状腕の増幅・外部輻射の影響

渦状腕へのダスト捕獲の模擬として渦状腕構造を増幅させた場合は,渦状腕を検出可能なパラメータ空間の領域が大きく広がる.この場合,外部の最小温度が 5 K を満たす場合,円盤と中心星の質量比が 0.325,金属量が太陽金属量の 0.25 - 1.0 倍の範囲で,渦状腕構造が検出可能な水準になる.

しかしこのシナリオには問題がある.原始星円盤を含む領域の周辺温度は非常に高く,場所によっては 10 - 30 K となる (Hayashi & Nakano 1965など).本研究では周辺温度が 5 K の場合は渦状腕が検出可能という結果を得たが,そのような低温領域は Elias 2-27 のような系の近くには滅多に存在しないと考えられる.

周辺温度が 10 K の時,円盤-中心星質量比が 0.4 程度以上の場合,検出可能な渦状腕が形成される.しかし Elias 2-27 の質量比は ~ 0.24 と推定されている (Andrews et al. 2009),この推定値は,円盤中のガスとダストの質量比が 100:1 であることを仮定している.この仮定は確実なものではなく,若い原始星の周りの円盤質量は過小評価されている可能性があるという理論的な証拠も存在する (Hartmann 2008).
この観点からは,Elias 2-27 でも 0.25 以上の質量比であるという可能性はある.しかしこの不定性は単一指向ではなく,ダスト測定から推定した場合に円盤質量を過大評価することも有り得る.

結論

渦状腕の増幅がない場合,つまりダスト捕獲がない場合,この系の構造が重力不安定のみで説明出来るのは,不透明度が太陽組成の ~ 0.25 倍,円盤-中心星の質量比が 0.325,外部からの輻射が ~ 5 K と低温の場合のみである.

先述の通り,この系の周辺の温度が 10 K を下回るの可能性はおそらく低い.そのため,重力不安定による渦状腕を観測するためには,渦状腕へのダスト捕獲が重要であると考えられる.ダスト捕獲による渦状腕の増幅があった場合は,観測を再現できるパラメータ空間は広くなる.


結論としては,Elias 2-27 の円盤構造を重力不安定によるものだとする場合,検出できるだけの振幅の大きな渦状腕を形成できるほどに円盤の冷却が効率的で,しかし円盤が分裂するほどは冷却率が大きくは無く,さらに円盤の分裂を防ぐが渦状腕構造を大きく抑制するほどではない一定水準の外部輻射が存在するという,パラメータ空間中の “スイートスポット” にいる必要がある.

そのため,この円盤の構造の形成原因としては,別の恒星の近接遭遇やフライバイといった別の機構が,円盤の自己重力不安定よりも好ましい事が示唆される.

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