×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.00865
Barros et al. (2017)
Precise masses for the transiting planetary system HD 106315 with HARPS
(HARPS を用いた トランジット惑星系 HD 106315 系の精密な質量)
中心星の光度 (V = 9.0) は明るいため,惑星大気の透過光分光観測の対象として適している.しかし透過スペクトルを解釈するためには,惑星の質量を測定することが重要である.
ここでは HD 106315 の高精度の視線速度観測から,2 つのトランジット惑星の質量を測定した.恒星の変動が視線速度の測定に与える影響に注意しながら解析を行った.
その結果,HD 106315b の質量は 12.6 地球質量で,平均密度は 4.7 g cm-3,HD 106315c は 15.2 地球質量,1.01 g cm-3 と推定される.HD 106315c は HD 106315b のほぼ 2 倍の半径を持っているが,質量はお互いにあまり変わらない事が分かる.
HD 106315c は分厚い水素・ヘリウムのガスエンベロープを持っていると考えられる.
また,惑星の内部モデルを用いた HD 106315b の詳細な解析からは,この惑星の固体コア質量の割合は 5 - 29%,惑星質量に占める水の割合は 10 - 50%と推定される.
今回のモデルでは考慮していないが,上記以外の可能性として,HD 106315b は大きな岩石コアの周りに分厚い水素・ヘリウムのガスエンベロープを持つ惑星であるという可能性がある.これらの惑星の今後の透過光分光観測から,惑星の大気組成への情報を与え,惑星コアの組成に制約を与える手がかりとなるだろう.
K2 のデータを元に,2 つのチームが同時に 2 つの惑星の検出を報告している (Crossfield et al. 2017, Rodriguez et al. 2017).Crossfield et al. (2017) では視線速度を得ていたが,惑星質量への制約は与えていなかった.また 3 体目の天体によると思われる視線速度のトレンドの検出を報告している.
ここでは,HAPRS を用いた視線速度観測から質量を決定した.
arXiv:1709.00865
Barros et al. (2017)
Precise masses for the transiting planetary system HD 106315 with HARPS
(HARPS を用いた トランジット惑星系 HD 106315 系の精密な質量)
概要
最近,ケプラーの K2 ミッションのデータ解析から,HD 106315 の周りに複数のトランジット惑星が検出された (Crossfield et al. 2017, Rodriguez et al. 2017).これらの惑星の周期はそれぞれ 9.55, 21.06 日で,半径は 2.44, 4.35 地球半径である.中心星の光度 (V = 9.0) は明るいため,惑星大気の透過光分光観測の対象として適している.しかし透過スペクトルを解釈するためには,惑星の質量を測定することが重要である.
ここでは HD 106315 の高精度の視線速度観測から,2 つのトランジット惑星の質量を測定した.恒星の変動が視線速度の測定に与える影響に注意しながら解析を行った.
その結果,HD 106315b の質量は 12.6 地球質量で,平均密度は 4.7 g cm-3,HD 106315c は 15.2 地球質量,1.01 g cm-3 と推定される.HD 106315c は HD 106315b のほぼ 2 倍の半径を持っているが,質量はお互いにあまり変わらない事が分かる.
HD 106315c は分厚い水素・ヘリウムのガスエンベロープを持っていると考えられる.
また,惑星の内部モデルを用いた HD 106315b の詳細な解析からは,この惑星の固体コア質量の割合は 5 - 29%,惑星質量に占める水の割合は 10 - 50%と推定される.
今回のモデルでは考慮していないが,上記以外の可能性として,HD 106315b は大きな岩石コアの周りに分厚い水素・ヘリウムのガスエンベロープを持つ惑星であるという可能性がある.これらの惑星の今後の透過光分光観測から,惑星の大気組成への情報を与え,惑星コアの組成に制約を与える手がかりとなるだろう.
HD 106315 系について
HD 106315 は,ケプラーによるK2 ミッションの Campaign 10 で観測された.K2 のデータを元に,2 つのチームが同時に 2 つの惑星の検出を報告している (Crossfield et al. 2017, Rodriguez et al. 2017).Crossfield et al. (2017) では視線速度を得ていたが,惑星質量への制約は与えていなかった.また 3 体目の天体によると思われる視線速度のトレンドの検出を報告している.
ここでは,HAPRS を用いた視線速度観測から質量を決定した.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.01025
Wells et al. (2017)
Three small transiting planets around the M dwarf host star LP 358-499
(M 型矮星の主星 LP 358-499 まわりの 3 つの小さいトランジット惑星)
検出された惑星の軌道周期はそれぞれ 3, 4.9, 11 日であり,トランジット深さはそれぞれ 700, 1000, 2000 ppm であった.
中心星のスペクトル型は,多色測光観測から M1V と決定された.
トランジットのパラメータと恒星の特性を元にすると,最も内側の惑星 LP 358-499b は岩石主体の組成であろうと推定される.
有効温度:3644 K
スペクトル型:M1V
半径:0.49 太陽半径
質量:0.52 太陽質量
距離:80 pc
軌道長半径:0.0333 AU
半径:1.35 地球半径
質量:1.86 地球質量
平衡温度:616 K
日射量:地球の日射量の 34.4 倍
軌道長半径:0.0452 AU
半径:1.58 地球半径
質量:2.57 地球質量
平衡温度:529 K
日射量:地球の日射量の 18.6 倍
軌道長半径:0.078 AU
半径:2.21 地球半径
質量:5.12 地球質量
平衡温度:402 K
日射量:地球の日射量の 6.3 倍
なお,平衡温度の計算の際はアルベドを 0.3 と仮定している.
arXiv:1709.01025
Wells et al. (2017)
Three small transiting planets around the M dwarf host star LP 358-499
(M 型矮星の主星 LP 358-499 まわりの 3 つの小さいトランジット惑星)
概要
低質量星 LP 358-499 のまわりを公転する 3 つのトランジットする小さい惑星の検出を報告する.検出に用いたデータは,ケプラーの K2 ミッションの測光データである.検出された惑星の軌道周期はそれぞれ 3, 4.9, 11 日であり,トランジット深さはそれぞれ 700, 1000, 2000 ppm であった.
中心星のスペクトル型は,多色測光観測から M1V と決定された.
トランジットのパラメータと恒星の特性を元にすると,最も内側の惑星 LP 358-499b は岩石主体の組成であろうと推定される.
パラメータ
LP 358-499
別名:2MASS J04403562+2500361,NLTT 13719,EPIC 247887989有効温度:3644 K
スペクトル型:M1V
半径:0.49 太陽半径
質量:0.52 太陽質量
距離:80 pc
LP 358-499b
軌道周期:3.0715 日軌道長半径:0.0333 AU
半径:1.35 地球半径
質量:1.86 地球質量
平衡温度:616 K
日射量:地球の日射量の 34.4 倍
LP 358-499c
軌道周期:4.8679 日軌道長半径:0.0452 AU
半径:1.58 地球半径
質量:2.57 地球質量
平衡温度:529 K
日射量:地球の日射量の 18.6 倍
LP 358-499d
軌道周期:11.0244 日軌道長半径:0.078 AU
半径:2.21 地球半径
質量:5.12 地球質量
平衡温度:402 K
日射量:地球の日射量の 6.3 倍
なお,平衡温度の計算の際はアルベドを 0.3 と仮定している.
※注釈
LP 358-499 の "LP" は恒星カタログの名称であり,Luyten, Palomar から採られている.Luyten は観測を主導した天文学者の名前,Palomar はパロマー天文台である.
LP 358-499 の "LP" は恒星カタログの名称であり,Luyten, Palomar から採られている.Luyten は観測を主導した天文学者の名前,Palomar はパロマー天文台である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1709.01027
Cherenkov et al. (2017)
The Influence of Coronal Mass Ejections on the Mass-loss Rates of Hot-Jupiters
(コロナ質量放出がホットジュピターの質量放出率に与える影響)
ここではガスの力学のシミュレーションを行い,恒星風のパラメータの時間変化,特にコロナ質量放出 (coronal mass ejections, CMEs) の影響を調べた.
典型的なホットジュピター HD 209458b のエンベロープに対して.異なる速度と密度で特徴付けられる 3 つの CME をぶつけた際の影響について調べた.ここで CME に与えたパラメータは,太陽で観測される典型的な CME のパラメータに基いている.
それぞれの CME が通過する最中の恒星風のラム圧による擾乱は,ロッシュローブを超えて存在しているホットジュピターのエンベロープの大部分を引き剥がす.これにより,CME との相互作用の最中の大きな質量損失率の上昇を引き起こす.
CME の通過全体で惑星が失う質量は,CME のパラメータに関わらず 1015 g 程度である.また,10 億年程度の間に CME の直撃によってホットジュピターから失われると思われる質量は,高エネルギーの恒星輻射で失われる分と同程度であった.
arXiv:1709.01027
Cherenkov et al. (2017)
The Influence of Coronal Mass Ejections on the Mass-loss Rates of Hot-Jupiters
(コロナ質量放出がホットジュピターの質量放出率に与える影響)
概要
ホットジュピターは,中心星からの強い放射とプラズマ流 (恒星風) に晒される.過去のハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測では,これらの影響によって広がったエンベロープが形成され,それらの一部はロッシュローブを超えて存在することが確認されている.この観測結果は,流体力学モデルでも支持されている.ここではガスの力学のシミュレーションを行い,恒星風のパラメータの時間変化,特にコロナ質量放出 (coronal mass ejections, CMEs) の影響を調べた.
典型的なホットジュピター HD 209458b のエンベロープに対して.異なる速度と密度で特徴付けられる 3 つの CME をぶつけた際の影響について調べた.ここで CME に与えたパラメータは,太陽で観測される典型的な CME のパラメータに基いている.
それぞれの CME が通過する最中の恒星風のラム圧による擾乱は,ロッシュローブを超えて存在しているホットジュピターのエンベロープの大部分を引き剥がす.これにより,CME との相互作用の最中の大きな質量損失率の上昇を引き起こす.
CME の通過全体で惑星が失う質量は,CME のパラメータに関わらず 1015 g 程度である.また,10 億年程度の間に CME の直撃によってホットジュピターから失われると思われる質量は,高エネルギーの恒星輻射で失われる分と同程度であった.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.09257
Lavvas & Koskinen (2017)
Aerosol properties in the atmospheres of extrasolar giant planets
(太陽系外巨大惑星の大気のエアロゾル特性)
中間大気・高層大気の温度分布の不定性は大きいながら,HD 189733b の最近の観測から示唆される温度構造に基づいたモデルは,観測された透過スペクトルに一致するエアロゾル分布を再現することが出来る.
また HD 209458b のより高温な大気は,高高度でのエアロゾル形成を阻害するため,HD 189733b よりも透明な大気になる可能性が考えられる.
惑星大気中でのエアロゾルの分布は,粒子の組成,光化学反応による生成と大気の混合にも依存する.これらの情報の縮退の影響で,現在のデータでは系外惑星大気中のエアロゾルの特性に対して詳細な制約を与えることが出来ない.ここではかわりに,異なる要素がエアロゾルの分布を左右する際の振る舞いに焦点を当てた.
General circulation models (GCMs,3 次元の大気循環モデル) から示唆されている大気混合効率からは,エアロゾルの粒子は ~ nm 程度のサイズと小さく,おそらく球状であることが示唆される.
複雑な炭化水素 (soots, すす) に基づいたエアロゾルの組成が,高い温度を持つホットジュピター大気の中で存在する事が可能な,最もあり得る組成の候補であると考えられる.このような粒子は HD 189733b の大気のエネルギーバランスに大きな影響を与えるだろう.この結果は,大気構造の将来の研究において考慮されるべき要素である.
また,光化学反応でのエアロゾル形成における外的要因の寄与についての評価を行った.その結果,外的要因を受けた場合のスペクトルの特徴は,観測結果とは整合的でないことが分かった.
ホットジュピターの軌道距離では,やってくる粒子の表面温度は高くなるため,流星物質の氷の外層は蒸発する.金属質の流星物質のみを考慮し,その組成がシリケイトが主要だと仮定すると,異なる軌道距離における流星物質の表面温度は,隕石が吸収する恒星のエネルギーと,熱放射として隕石が放射するエネルギー,蒸発の最中に失われる潜熱 (もし流星物質が蒸発するのに十分な温度に達し,蒸発が重要になる場合) の平衡状態から評価できる.
流星物質が球状であると仮定すると,HD 189733b の軌道に到達する粒子は半径が 40 µm より小さく,一方で HD 209458b では主星のより強いフラックスのため 20 µm になる.大きなサイズの流星物質は,恒星からの光子をより効率的に吸収できるため,速く蒸発することができる.
流入する粒子の速度の上限は,惑星の軌道長半径における恒星からの脱出速度とした.また,流星物質の惑星との相対速度は, 0 から上限値の範囲までが考えられるが,ここでは HD 189733b については 30 - 100 km s-1 の範囲とした.
また,流星物質の入射角は 45°を仮定した.
この条件で,流入してくる流星物質の溶発率を計算した.
流星物質の温度は大気分子との衝突で急速に上昇し,蒸発温度に達すると質量を失う.相対速度が 100 km s-1 のオーダーと速い場合は流星物質粒子の温度上昇は速く,相対速度が小さい (30 km s-1) 場合は遅い.
結果として,前者での溶発は圧力が 0.1 µbar よりも低い領域で発生し,後者の場合は蒸発が遅いため,流星物質の質量は 1 µbar の領域近辺にばら撒かれる.相対速度が同じであれば,大きい流星物質はより広い溶発プロファイルを持つ.これは断面積が大きいため温度が速く上昇することが原因である.
溶発された物質の運命は,背景大気の状況と流入する流星物質の組成に強く依存する.もし背景大気の温度が溶発された物質の再凝縮に十分なほど低ければ,シリケイト粒子が形成され,大気の局所的な減光に寄与する.
再凝縮しない場合,もし粒子の速度が完全に溶発される前に熱化される場合 (1 µm のオーダーより小さいサイズで起きる),これは大気の不透明度に直接寄与する.
そのため,外的要因の重要度を左右する 2 つの臨界パラメータが存在することが分かる.流入する流星物質のフラックスと,高層大気の熱的構造である.これらは残念ながら,どちらも現在は正確には制限されていない.
しかし,シリケイト物質の Si-O 結合による 10 µm 付近の吸収のため,粒子の吸収断面積は可視光での吸収断面積と同程度の大きさになり得る.そのため,このような粒子が存在した場合は 10 µm 付近での波長でのトランジット深さは,可視光でのトランジット深さと同程度になることが予想される.
しかしそのような特徴は,観測では検出されていない.そのため,スペクトルにおけるシリケイトの寄与について制約を与えることが出来る.
溶発される物質としては,他に Ti, Al, Fe などが考えられる,これらの元素は酸素との結合を形成し,同じく 10 µm 周辺で可視光と同程度の吸収を引き起こすはずである.しかし先述の通りそのような観測的特徴は検出されていない.そのため,流星物質の溶発は HD 189733b で観測されているトランジット深さには寄与していないだろうと結論付けることが出来る.ただし,流入量や大気の状況次第では,他の系外惑星では重要になるかもしれない.
arXiv:1708.09257
Lavvas & Koskinen (2017)
Aerosol properties in the atmospheres of extrasolar giant planets
(太陽系外巨大惑星の大気のエアロゾル特性)
概要
HD 209458b や HD 189733b のような中心星に近接した系外惑星の透過スペクトルと大気特性における,高高度の光化学エアロゾルの影響を調べるため,エアロゾル微細物理のモデルを使用した.その結果,エアロゾルの影響の大きさは,あまり理解が進んでいない中間大気と高層大気の温度分布に強く依存することが判明した.中間大気・高層大気の温度分布の不定性は大きいながら,HD 189733b の最近の観測から示唆される温度構造に基づいたモデルは,観測された透過スペクトルに一致するエアロゾル分布を再現することが出来る.
また HD 209458b のより高温な大気は,高高度でのエアロゾル形成を阻害するため,HD 189733b よりも透明な大気になる可能性が考えられる.
惑星大気中でのエアロゾルの分布は,粒子の組成,光化学反応による生成と大気の混合にも依存する.これらの情報の縮退の影響で,現在のデータでは系外惑星大気中のエアロゾルの特性に対して詳細な制約を与えることが出来ない.ここではかわりに,異なる要素がエアロゾルの分布を左右する際の振る舞いに焦点を当てた.
General circulation models (GCMs,3 次元の大気循環モデル) から示唆されている大気混合効率からは,エアロゾルの粒子は ~ nm 程度のサイズと小さく,おそらく球状であることが示唆される.
複雑な炭化水素 (soots, すす) に基づいたエアロゾルの組成が,高い温度を持つホットジュピター大気の中で存在する事が可能な,最もあり得る組成の候補であると考えられる.このような粒子は HD 189733b の大気のエネルギーバランスに大きな影響を与えるだろう.この結果は,大気構造の将来の研究において考慮されるべき要素である.
また,光化学反応でのエアロゾル形成における外的要因の寄与についての評価を行った.その結果,外的要因を受けた場合のスペクトルの特徴は,観測結果とは整合的でないことが分かった.
流星物質の流入によるエアロゾル特性の見積もり
ここで外的要因として考慮したのは流星物質である.ホットジュピターの軌道距離では,やってくる粒子の表面温度は高くなるため,流星物質の氷の外層は蒸発する.金属質の流星物質のみを考慮し,その組成がシリケイトが主要だと仮定すると,異なる軌道距離における流星物質の表面温度は,隕石が吸収する恒星のエネルギーと,熱放射として隕石が放射するエネルギー,蒸発の最中に失われる潜熱 (もし流星物質が蒸発するのに十分な温度に達し,蒸発が重要になる場合) の平衡状態から評価できる.
流星物質が球状であると仮定すると,HD 189733b の軌道に到達する粒子は半径が 40 µm より小さく,一方で HD 209458b では主星のより強いフラックスのため 20 µm になる.大きなサイズの流星物質は,恒星からの光子をより効率的に吸収できるため,速く蒸発することができる.
流入する粒子の速度の上限は,惑星の軌道長半径における恒星からの脱出速度とした.また,流星物質の惑星との相対速度は, 0 から上限値の範囲までが考えられるが,ここでは HD 189733b については 30 - 100 km s-1 の範囲とした.
また,流星物質の入射角は 45°を仮定した.
この条件で,流入してくる流星物質の溶発率を計算した.
流星物質の温度は大気分子との衝突で急速に上昇し,蒸発温度に達すると質量を失う.相対速度が 100 km s-1 のオーダーと速い場合は流星物質粒子の温度上昇は速く,相対速度が小さい (30 km s-1) 場合は遅い.
結果として,前者での溶発は圧力が 0.1 µbar よりも低い領域で発生し,後者の場合は蒸発が遅いため,流星物質の質量は 1 µbar の領域近辺にばら撒かれる.相対速度が同じであれば,大きい流星物質はより広い溶発プロファイルを持つ.これは断面積が大きいため温度が速く上昇することが原因である.
溶発された物質の運命は,背景大気の状況と流入する流星物質の組成に強く依存する.もし背景大気の温度が溶発された物質の再凝縮に十分なほど低ければ,シリケイト粒子が形成され,大気の局所的な減光に寄与する.
再凝縮しない場合,もし粒子の速度が完全に溶発される前に熱化される場合 (1 µm のオーダーより小さいサイズで起きる),これは大気の不透明度に直接寄与する.
そのため,外的要因の重要度を左右する 2 つの臨界パラメータが存在することが分かる.流入する流星物質のフラックスと,高層大気の熱的構造である.これらは残念ながら,どちらも現在は正確には制限されていない.
しかし,シリケイト物質の Si-O 結合による 10 µm 付近の吸収のため,粒子の吸収断面積は可視光での吸収断面積と同程度の大きさになり得る.そのため,このような粒子が存在した場合は 10 µm 付近での波長でのトランジット深さは,可視光でのトランジット深さと同程度になることが予想される.
しかしそのような特徴は,観測では検出されていない.そのため,スペクトルにおけるシリケイトの寄与について制約を与えることが出来る.
溶発される物質としては,他に Ti, Al, Fe などが考えられる,これらの元素は酸素との結合を形成し,同じく 10 µm 周辺で可視光と同程度の吸収を引き起こすはずである.しかし先述の通りそのような観測的特徴は検出されていない.そのため,流星物質の溶発は HD 189733b で観測されているトランジット深さには寄与していないだろうと結論付けることが出来る.ただし,流入量や大気の状況次第では,他の系外惑星では重要になるかもしれない.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.08595
Bailer-Jones (2017)
The completeness-corrected rate of stellar encounters with the Sun from the first Gaia data release
(最初の Gaia データリリースに基づく完全性補完をした太陽との恒星遭遇の頻度)
ここでは,Gaia によって得られた位置天文データを,様々なカタログから引用してきたおよそ 320000 個の恒星の視線速度と合わせ,銀河ポテンシャル中での軌道を時間積分した.その中から,太陽から数パーセク以内の近距離を通過する恒星を同定した.数パーセク以内の近接遭遇は,例えばオールトの雲天体の重力的擾乱を通じて,太陽系に影響を与えうる.
解析の結果,16 個の恒星が 2 パーセク程度まで接近することが分かった.しかし,これらの幾つかのデータは疑わしいものである.この個数は,ヒッパルコスによる観測データを元にした類似の研究での予測よりも少ない.これは部分的には,大きな視線速度の不定性 (> 10 km s-1) を持つ天体を解析対象から取り除いていること,また GDR1 中に存在しない恒星 (特に明るい恒星で) があることが原因であると考えられる.
太陽と最も近距離で近接をする恒星は K 型矮星 Gl 710 (グリーゼ710) である.この天体が今後 130 万年の間に太陽に非常に接近することは昔から知られている.
しかし今回の Gaia の位置天文学データを元にした解析では,Gaia 以前の推定よりもより近い位置での通過を予測する.太陽から 16000 AU の距離 (90%信頼区間は 10000 - 21000 AU) を通過すると予想され,これはオールトの雲の十分に内部である.
観測の選択関数の近似と共に,恒星の空間・速度・光度分布に関するシンプルなモデルを用いて,Gaia よる探査の不完全性を,時間および最接近時の距離の関数としてモデル化した.このモデルを,観測された遭遇のサブセットに適用すると (ただしカタログ間の重複やありえないほど大きい速度を持つものは除く),過去と未来の 500 万年の間で平均した 5 パーセク以内での恒星の遭遇率は,545 ± 59 Myr-1 と推定された (※注釈:5 パーセク以内の距離の恒星遭遇は平均で 100 万年に 545 ± 59 回発生する).
ある遭遇距離以内における恒星遭遇率に関する二次スケーリング則 (ここで使用したモデルが予言する関係性) を仮定すると,これは 2 パーセクより近距離の遭遇が発生する頻度はが 87 ± 9 Myr-1 (100 万年に 87 ± 9 回) であることに対応している.将来の Gaia のさらなるデータリリースから,さらに正確な解析と評価が可能になるだろう.
グリーゼ710 は,太陽と非常に近い遭遇をすることが過去の研究でも知られている.例えば,Bailer-Jones (2015) では,遭遇時の最接近距離の中央値として 0.26 パーセクという値を導出している.
Gaia のデータを使って再計算を行ったところ,グリーゼ710 の近日点距離の中間値は 0.08 パーセクであり,これは 16000 AU に相当する.この値は,将来的な恒星の近接遭遇として分かっているものとしては最も近いものになる.
なお,これだけ近距離であっても,グリーゼ710 と太陽との重力相互作用の影響は無視できる.この近接遭遇の前後で,グリーゼ710 の通過するルートは 0.05°しか屈折せず,グリーゼ 710 を 7 AU 近くするだけである.
この違いは,RAVE での測定の信頼性が低いことを示唆している.
過去の解析では,Tycho-2 か Hipparcos-2 のどちらの固有運動データを使うかによって最接近時の距離が異なり,それぞれ 0.59 - 3.30 パーセクか 0.58 - 4.60 パーセクと推定されていた.ここでは,近日点の距離に対してより狭い制約を与えることが出来た.
遭遇時期の中央値は 338 万 6000 年後,最接近時の距離の中央値は 1.26 パーセク (90%信頼区間は 1.07 - 1.50 パーセク) である.
この天体はヒッパルコスのデータに存在しなかったため過去の研究にも無く,近接遭遇を起こす (あるいは起こした) 天体として,過去に報告されていなかった.ただし,この天体の視線速度の観測はおそらく疑わしいため注意が必要である.
Tyc 709-63-1 (HIP 26335) は,最接近時の距離の中央値が 1.56 パーセク,遭遇時期の中央値は 49 万 7000 年前である,
この距離は過去の結果と非常に近く,また推定の精度は高くなった.
Bobylev & Bajkova (2017) でのグリーゼ710 についてのデータは,接近距離が 0.063 ± 0.044 パーセクとしており,今回の結果と概ね一致するものであった.
しかし他の 2 つの天体については非常に異なる値となり,おそらく誤りである.
1 つ目は Tyc 6528-980-1 で,Bobylev & Bajkova (2017) では接近距離を 0.86 ± 5.6 パーセクとしている.この不確かさがどのように計算されているかは Bobylev & Bajkova (2017) の短い記述からは不明確だが,このような大きく対称的な不確実性は許容されない.0.15 σ の偏差が,あり得ない値である負の近日点距離に対応してしまっている.
最も良い推定値としている 0.86 パーセクという値も同様に疑わしいものである.ここでは同じデータを用いた解析から,Bobylev & Bajkova (2017) とは大きく異なる 7.18パーセクという結果を導出した.
Tyc 8088-631-1 の推定も同様の問題をはらんでいる.Bobylev & Bajkova (2017) は 0.37 ± 1.18 パーセクとしているが,ここでの結果は 1.2 パーセクであった.
arXiv:1708.08595
Bailer-Jones (2017)
The completeness-corrected rate of stellar encounters with the Sun from the first Gaia data release
(最初の Gaia データリリースに基づく完全性補完をした太陽との恒星遭遇の頻度)
概要
Gaia の first data release (GDR1) (※Gaia の観測データの 1 回目の公開) のデータを元にした,太陽への恒星の近接遭遇について報告する.ここでは,Gaia によって得られた位置天文データを,様々なカタログから引用してきたおよそ 320000 個の恒星の視線速度と合わせ,銀河ポテンシャル中での軌道を時間積分した.その中から,太陽から数パーセク以内の近距離を通過する恒星を同定した.数パーセク以内の近接遭遇は,例えばオールトの雲天体の重力的擾乱を通じて,太陽系に影響を与えうる.
解析の結果,16 個の恒星が 2 パーセク程度まで接近することが分かった.しかし,これらの幾つかのデータは疑わしいものである.この個数は,ヒッパルコスによる観測データを元にした類似の研究での予測よりも少ない.これは部分的には,大きな視線速度の不定性 (> 10 km s-1) を持つ天体を解析対象から取り除いていること,また GDR1 中に存在しない恒星 (特に明るい恒星で) があることが原因であると考えられる.
太陽と最も近距離で近接をする恒星は K 型矮星 Gl 710 (グリーゼ710) である.この天体が今後 130 万年の間に太陽に非常に接近することは昔から知られている.
しかし今回の Gaia の位置天文学データを元にした解析では,Gaia 以前の推定よりもより近い位置での通過を予測する.太陽から 16000 AU の距離 (90%信頼区間は 10000 - 21000 AU) を通過すると予想され,これはオールトの雲の十分に内部である.
観測の選択関数の近似と共に,恒星の空間・速度・光度分布に関するシンプルなモデルを用いて,Gaia よる探査の不完全性を,時間および最接近時の距離の関数としてモデル化した.このモデルを,観測された遭遇のサブセットに適用すると (ただしカタログ間の重複やありえないほど大きい速度を持つものは除く),過去と未来の 500 万年の間で平均した 5 パーセク以内での恒星の遭遇率は,545 ± 59 Myr-1 と推定された (※注釈:5 パーセク以内の距離の恒星遭遇は平均で 100 万年に 545 ± 59 回発生する).
ある遭遇距離以内における恒星遭遇率に関する二次スケーリング則 (ここで使用したモデルが予言する関係性) を仮定すると,これは 2 パーセクより近距離の遭遇が発生する頻度はが 87 ± 9 Myr-1 (100 万年に 87 ± 9 回) であることに対応している.将来の Gaia のさらなるデータリリースから,さらに正確な解析と評価が可能になるだろう.
過去と未来における太陽への恒星の近接遭遇
グリーゼ710
130 万年後 (中央値は 135 万 4000 年) に,K7 矮星 グリーゼ 710 が,太陽と非常に近い遭遇を起こす.この天体は別名 Tyc 5102-100-1,HIP 89825 としても知られている.グリーゼ710 は,太陽と非常に近い遭遇をすることが過去の研究でも知られている.例えば,Bailer-Jones (2015) では,遭遇時の最接近距離の中央値として 0.26 パーセクという値を導出している.
Gaia のデータを使って再計算を行ったところ,グリーゼ710 の近日点距離の中間値は 0.08 パーセクであり,これは 16000 AU に相当する.この値は,将来的な恒星の近接遭遇として分かっているものとしては最も近いものになる.
なお,これだけ近距離であっても,グリーゼ710 と太陽との重力相互作用の影響は無視できる.この近接遭遇の前後で,グリーゼ710 の通過するルートは 0.05°しか屈折せず,グリーゼ 710 を 7 AU 近くするだけである.
Tyc 4744-1394-1
2 番目に近い遭遇は Tyc 4744-1394-1 で,最接近距離は 0.87 パーセクと予想される,近接遭遇は 200 万年前 (182 万 1000 年前) に発生した.これは RAVE での視線速度の値 120.7 km s-1 に基づく結果である.2 番目の RAVE の測定では視線速度は 15.3 km s-1 となっており,これを用いた場合は遭遇はより遠く 36.6 パーセクとなり,1290 万年過去の出来事となる.この違いは,RAVE での測定の信頼性が低いことを示唆している.
Tyc 1041-996-1
3 番目に近い遭遇は Tyc 1041-996-1 (HIP 94512) によるものである.過去の解析では,Tycho-2 か Hipparcos-2 のどちらの固有運動データを使うかによって最接近時の距離が異なり,それぞれ 0.59 - 3.30 パーセクか 0.58 - 4.60 パーセクと推定されていた.ここでは,近日点の距離に対してより狭い制約を与えることが出来た.
遭遇時期の中央値は 338 万 6000 年後,最接近時の距離の中央値は 1.26 パーセク (90%信頼区間は 1.07 - 1.50 パーセク) である.
その他の近接遭遇候補
Tyc 5033-879-1 は,最接近時の距離の中央値が 1.28 パーセク,遭遇時期の中央値は 70 万 4000 年前と推定された.この天体はヒッパルコスのデータに存在しなかったため過去の研究にも無く,近接遭遇を起こす (あるいは起こした) 天体として,過去に報告されていなかった.ただし,この天体の視線速度の観測はおそらく疑わしいため注意が必要である.
Tyc 709-63-1 (HIP 26335) は,最接近時の距離の中央値が 1.56 パーセク,遭遇時期の中央値は 49 万 7000 年前である,
この距離は過去の結果と非常に近く,また推定の精度は高くなった.
類似の研究との比較
この論文の投稿の段階で Bobylev & Bajkova (2017) が類似の研究を行っていた.その研究では 3 つの近接遭遇が信頼できるデータとみなされており,そのうち一つはグリーゼ 710 のものであった.Bobylev & Bajkova (2017) でのグリーゼ710 についてのデータは,接近距離が 0.063 ± 0.044 パーセクとしており,今回の結果と概ね一致するものであった.
しかし他の 2 つの天体については非常に異なる値となり,おそらく誤りである.
1 つ目は Tyc 6528-980-1 で,Bobylev & Bajkova (2017) では接近距離を 0.86 ± 5.6 パーセクとしている.この不確かさがどのように計算されているかは Bobylev & Bajkova (2017) の短い記述からは不明確だが,このような大きく対称的な不確実性は許容されない.0.15 σ の偏差が,あり得ない値である負の近日点距離に対応してしまっている.
最も良い推定値としている 0.86 パーセクという値も同様に疑わしいものである.ここでは同じデータを用いた解析から,Bobylev & Bajkova (2017) とは大きく異なる 7.18パーセクという結果を導出した.
Tyc 8088-631-1 の推定も同様の問題をはらんでいる.Bobylev & Bajkova (2017) は 0.37 ± 1.18 パーセクとしているが,ここでの結果は 1.2 パーセクであった.
天文・宇宙物理関連メモ vol.366 Rodriguez et al. (2017) および Crossfield et al. (2017) HD 106315 まわりの複数トランジット惑星系の発見