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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1705.05867
MacGregor et al. (2017)
A Complete ALMA Map of the Fomalhaut Debris Disk
(フォーマルハウトのデブリ円盤の完全な ALMA マップ)

概要

ALMA の Band 6 1.3 mm (223 GHz) のモザイク観測で,フォーマルハウト系の観測を行った.この観測の感度は 14 µJy/beam である.

この観測により,一様な感度での,外側円盤からのダスト連続放射の完全なミリ波マップを初めて作成した.この観測より,円盤遠点での増光 (apocenter glow) の初めての決定的な検出に成功した

データの解析には,円盤内での粒子の軌道離心率を持った軌道パラメータに適用できる MCMC モデリングを使用した.ダスト円盤の外側の帯は動径方向に集中した分布をしており,内縁が 136.3 ± 0.9 AU,幅が 13.5 ± 1.8 AU であった.また離心率は 0.12 ± 0.01 であった.

ダストのサイズ分布のべき乗指数を 3.46 ± 0.09 と仮定し,ダストの吸収係数の冪指数 β に対して 0.9 < β < 1.5 という観測的制限を与えた.

円盤の空間配置は,傾斜角が 65.6 ± 0.3 度,位置角 337.9 ± 0.3 度,近点引数は 22.5 ± 4.3 度と正確に制約することができた.

今回の観測では,過去の HST, SCUBA, ALMA の観測で発見されていた,方位角方向の円盤の構造は見られなかった.しかし,10 AU 以下のサイズの構造が存在することや,小さい粒子のみに影響を与える構造の存在は今回の観測では排除できない.

また,中心星フォーマルハウトはフラックス密度 0.75 ± 0.02 mJy で明確に検出された.これは現在の光球モデルで予測されていた値よりも有意に低い.

議論

Apocenter glow の観測的証拠

今回の ALMA の観測では,apocenter glow の初めての明確な検出に成功した.

離心率のある円盤では,遠点ではダストの軌道速度が近点よりも遅いため,遠点に物質が溜まって多くなる.
中間赤外の波長では,観測されるフラックスは粒子の温度に強く依存する.そのため近点付近での粒子は中心星からの光を多く受け,それにより近点付近の粒子はより明るく見える.これは遠点での密度過剰を隠してしまう.この効果は “pericenter glow” として知られているもの (Wyatt et al. 1999) であり,ハーシェルでの 70 µm 波長でのフォーマルハウト円盤画像で見られている現象である (Acke et al. 2012).

対照的に,フォーマルハウトのデブリ円盤の,遠赤外線からミリ波での撮像観測では,円盤の遠点付近での放射がわずかに強いことが示唆されてきた (Holland et al. 2003など).これを説明するため,Pan et al. (2016) では “apocenter glow” モデルを提案している.これは,円盤の遠点における面密度の増加によって,波長依存のある表面輝度の変化が起きているというものである.ミリ波では,大きい粒子からの放射が支配的となる.これらの粒子は黒体のピークで効果的に放射するため,近点と遠点での温度の違いは合計のフラックスには大きな影響を及ぼさない.結果として,遠点での大きな面密度が支配的になり,遠点が明るく見える.

フォーマルハウトb

フォーマルハウトb はハッブル宇宙望遠鏡を用いた直接撮像によって初めて発見された (Kalas et al. 2008).発見された場所は,離心率のあるデブリ円盤の内側に理論的に予測されていた重い惑星の軌道と整合的であった (Quillen 2006など).

しかしその後のフォローアップ観測では,フォーマルハウトb は高軌道離心率の軌道で,もしかしたら環と交差する軌道を持つ可能性が指摘されている (Kalas et al. 2013).さらにこの天体は赤外線よりも可視光で明るい.これは惑星大気のモデルでの予言と反対の傾向である.

Kennedy & Wyatt (2011) では,フォーマルハウトb の正体が 10 地球質量程度の惑星と,それを取り囲む衝突性の不規則衛星の群れである可能性について議論している.その他に,フォーマルハウトb は大きな微惑星同士の衝突によって生成されたダスト雲であるという可能性も指摘されている (Currie et al. 2012など).

現在のところフォーマルハウトb の真の性質は明らかになっていない.もしフォーマルハウトb がダスト雲だとすると,今回の ALMA 観測はそのダスト質量に制限を与えることが出来る.
フォーマルハウトb からのフラックス密度の上限値は 0.042 mJy (3 σ) であった.これは点源を仮定した場合のフラックス密度である.この上限値から,ダスト雲の質量に上限値を与える.

現在のフォーマルハウトb の中心星からの距離は ~ 125 AU である.放射平衡を考えた場合,ダスト温度は ~ 51 K となる.ここから,光学的に薄い放射を考えると,ダスト質量の上限値は < 0.0019 月質量 (1.40 × 1023 g 未満) となる.これは,観測されているサブミリ波での散乱光を説明するために必要なダスト質量 1018 - 1021 g (Kalas et al. 2008) と整合的である.その他,光学的に厚いダスト放射とした場合,ダスト雲の半径の上限値として < 0.021 AU を与えた.

結果

  1. フォーマルハウトの外側デブリ円盤は動径方向に集まっており,ベストフィットパラメータでは,内縁が 136.3 ± 0.9 AU.幅が 13.5 ± 1.8 AU であった.測定された総フラックス密度と光学的に薄いダスト放射の仮定より,円盤の合計のダスト質量は 0.015 ± 0.010 地球質量と推定される.これは過去の測定と整合的な値である.今回の観測の分解能からは,帯の縁部分の構造の鋭さへは強い制限をかけられなかった.
  2. 今回の ALMA の撮像で,apocenter glow の初めての明確な検出に成功した.これは遠点での面密度の増加に伴う輝度の非対称性に起因すると考えられる (Pan et al. 2016).円盤の離心率は 0.12 ± 0.01 であった.今回の ALMA での観測と過去のミリ波・サブミリ波の観測による近点と遠点のフラックス比と,サイズ分布の冪指数 3.46 ± 0.09 の仮定から,ダストの吸収係数の冪指数として 0.9 < β < 1.5 という制限を与えた.
  3. 円盤粒子の軌道要素のモデリングから,円盤の配置について正確な値を導出した.傾斜角が 65.6 ± 0.3 度,位置角 337.9 ± 0.3 度.また近点引数は 22.5 ± 4.3 度で,これは過去のハッブル宇宙望遠鏡での撮像観測による結果と整合的であった (Kalas et al. 2013).
  4. 観測データからベストフィットモデルを差し引いた後の残差には,明確な方位角方向の構造は見られなかった.唯一の明確な極大は,背景の銀河によるものであった.過去の HST, SCUBA, ALMA の観測で報告されていた 位置角 331度のギャップ構造を含むあらゆる方位角方向の特徴は検出されなかった.しかし 10 AU より小さいサイズの特徴が存在する可能性は排除できない.そのような構造は現在の撮像観測の解像度では分解できないためである.
  5. 中心星の 1.3 mm でのフラックス密度は 0.75 ± 0.02 mJy であった.これは現在の光球モデルで予測されるよりも明らかに低い.似たようなスペクトルは太陽型星の α Cen A と B (ケンタウルス座アルファ星A と B) でも見られる (Liseau et al. 2016).フォーマルハウトの場合,内側のダスト帯からの寄与をよりよく制限するためには,長波長での恒星のスペクトルを決定するのは非常に重要である.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1705.06090
Santos et al. (2017)
Observational evidence for two distinct giant planet populations
(2 つの異なる巨大惑星の分布の観測的証拠)

概要

系外惑星の統計的性質の解析とそれらの中心星の統計的性質を合わせることで,惑星形成と進化の過程に関する独特の見識が得られる.ここでは,太陽型星まわりの巨大惑星の質量分布の特性について研究した.それらの形成過程を探るため.系外惑星のデータを exoplanet.eu から取得し,またそれらの惑星の中心星のデータを SWEET-Cat データベースから取得した.

データの解析の結果,系外惑星の質量の分布は 4 木星質量の周辺で変化する, 2 つ以上のグループに分かれているように思われる.4 木星質量より大きい場合,その惑星を持つ恒星は金属量が少なく,より質量が重く,また同程度の質量の散在星で観測されているものと統計的に似た [Fe/H] の分布を持つという傾向がある.

その一方で 4 木星質量よりも軽い惑星を持つ場合,中心星は,恒星の金属量とガス惑星の存在頻度によく知られている相関を示す.

この結果について,多数の惑星形成モデルの観点から議論した.特に,巨大惑星に関する 2 つの分離した集団の存在は,惑星形成において 2 つの異なる過程が働いていることを示唆する結果である.

解析の結果と議論

惑星質量が ~ 4 木星質量の前後で,惑星の中心星の示す統計的性質が分かれていることが分かった.

4 木星質量より重い惑星の中心星は,平均的に金属量に乏しい.この傾向は,1.5 太陽質量より重い恒星に対しては統計的に有意であった.また 4 木星質量より重い惑星を持つ恒星は,低質量の惑星を持つ恒星に比べて金属量分布の幅が広い.

また中心星の金属量 [Fe/H] の分布は,同程度の質量を持つ散在星 (field star) と似ている.金属量の分布が,重い惑星を持つ恒星は低い傾向にあるという事実は興味深い.恒星の金属量は巨大惑星の存在頻度と密接に関連していることが知られている.これは,観測的に確かめられており,また惑星形成のコア降着に基づいた理論モデルでも言及されている傾向である.

必ずしも強く出る傾向とは限らないが,金属量がさらに多い恒星は質量がより大きい惑星を形成する可能性がある (Mordasini et al. 2012).コア降着理論の文脈では,少なくとも 3 太陽質量のあたりまでは,惑星の存在頻度は恒星質量の増加関数であることが示唆されている (Kennedy & Kenyon 2008).この結果は観測的な証拠により支持されている (Reffert et al. 2015など).

質量の大きい恒星は,より重い円盤を持つことも知られている (Natta et al. 2000).そのため重いガス惑星を形成する可能性がある.そのため,重い恒星が重い惑星を持つ傾向にあることを示唆するという今回の結果は,恒星の金属量が低かったとしても,重い恒星周りの重い円盤から重い惑星が形成されるという単純な事実で説明可能である.

コア降着理論の文脈では,このことが惑星の 2 つの集団の存在を説明出来る可能性がある.しかしこれが本当だとしても,~ 4 木星質量周辺でレジームの変化が起きる理由が説明できなければならない.

2 つの集団に分かれていることに対する別の説明は,円盤の不安定プロセス (Boss 1997など) がある.円盤不安定で形成された惑星は原理的に大きな質量を持ち,このような惑星は重い円盤では容易に形成される (Rafikov 2005など).さらに,重力不安定は金属量に乏しい円盤ではより効率的に起きることが示唆されている (あるいは,少なくともコア降着過程よりは金属量への依存性が弱い).

このシナリオでは,今回判明した傾向は,2 つの異なる物理過程によって形成された 2 つの巨大惑星のグループが存在することを示唆する.低質量の惑星 (ここでは 4 木星質量未満) はコア降着過程で形成され,これは金属量豊富な環境では発生しやすい.一方でより重い惑星の場合は,形成過程は重力不安定か,円盤不安定性が役割を果たすプロセスによって占められていると考えられる.

これに関連して,褐色矮星を持つ恒星の金属量分布は,太陽近傍の恒星での分布に非常に似ているというものがある (Mata Sanchez et al. 2014など).しかし,太陽型星周りでは,30 - 50 木星質量の褐色矮星の伴星が少ないという,いわゆる “brown-dwarf desert” が存在する.この事は,重い惑星は,”恒星” の分布の低質量側の末端では無いことを示唆している.

さらに最近の研究では,”brown-dwarf desert” の上下では中心星の金属量分布の違いがあることが示唆されている (Maldonado & Villaver 2017).このことは,2 つの異なる形成過程が存在していることの反映であるという説が提案されている.つまり,低質量側の褐色矮星は円盤不安定,高質量側の褐色矮星は “普通の” 恒星のように分子雲の分裂で生まれたというものである (Ma & Ge 2015).


金属量と巨大惑星の存在頻度の相関は主系列星に関してはよく知られているが,巨星に関しては議論がある.主系列星周りと比べてこの傾向が弱いか,存在しないことを示唆する結果もある (Pasquini et al. 2007など).上述のシナリオでは,重い恒星の周りで巨大惑星の 2 つの集団が見られるのは,進化した恒星 (平均的にはより重い) は明確な金属量-巨大惑星存在頻度の相関を示さないことと深い関係がある可能性がある.

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arXiv:1705.05153
Udry et al. (2017)
The HARPS search for southern extra-solar planets. XXXVI. Eight HARPS multi-planet systems hosting 20 super-Earth and Neptune-mass companions
(HARPS による南天の系外惑星探査 XXXVI:HARPS による 8 個の複数惑星系中の 20 個のスーパーアースと海王星質量天体)

概要

チリの La Silla 3.6 m 望遠鏡の HARPS エシェル分光器を用いて 8 個の恒星の視線速度を測定した.その解析結果について報告する.視線速度データの取得スパンは 10 年を超える.観測対象は,HD 20003, HD 20781, HD 21693, HD 31527, HD 45184, HD 51608, HD 134060 と HD 136352 である.

観測と解析の結果,これらの恒星の周りに合計 20 個の,新しいスーパーアースから海王星質量の惑星を検出した.これらの惑星の最小質量は 2 - 30 地球質量の範囲,軌道周期は 3 - 1300 日であった.

また,上記の恒星に加えて HD 20782 を観測し,CORALIE と HARPS の観測データと,過去に報告されているデータと合わせることで,この恒星の周りに発見されていた極めて軌道離心率の大きい木星型惑星のパラメータの推定値を改善した.

パラメータ

HD 20003 系

HD 20003
スペクトル型:G8V
等級:V = 8.39
有効温度:5494 K
金属量:[Fe/H] = 0.04
質量:0.875 太陽質量
光度:0.72 太陽光度
自転周期:38.9 日
HD 20003b
軌道周期:11.8496 日
軌道離心率:0.38
最小質量:11.48 地球質量
HD 20003c
軌道周期:33.8994 日
軌道離心率:0.06
最小質量:14.68 地球質量
HD 20003d (?)
軌道周期:183.6129 日
軌道離心率:0.13
最小質量:12.68 地球質量
HD 20003 系の特徴
この系は合計で 184 のスペクトルデータを取得した.

内側の惑星 HD 20003b は 0.38 と軌道離心率が大きいが,外側の惑星は軌道離心率がほぼ 0 であるという大きな特徴を持つ系である.
力学的な観点からはこの軌道の特徴は説明しづらい.また可能性としては,11.9 日の周期の惑星の高軌道離心率が,その軌道周期の半分の周期の惑星の存在を隠すことがあることが知られている (Anglada-Escude et al. 2010).

この可能性を調べるため,5.95 日の軌道周期の惑星の存在を仮定し,軌道周期 5.95 日と 11.9 日の惑星の離心率を 0 にしてパラメータのフィッティングを行った.しかしその場合は観測を再現できなかった.そのため,内側の惑星の持つ高い軌道離心率は本当の値だろうと考えられる.

この軌道配置は,HD 20003b と c の軌道周期が 3:1 の尽数関係に近いという事実によって説明できる可能性がある.
過去は 2 つの惑星は軌道共鳴に入っていて,その影響で内側の惑星の軌道離心率が増加する.その後,何らかのイベントが 2 つの惑星を共鳴からやや外れた状態にした,というものである.このイベントの候補としては,例えば円盤のガスが晴れたあとの軌道不安定や,離心率が増加した時に系からはじき出された別の惑星が存在していたというものが考えられる.


より長周期の 184 日のシグナルは,周期が半年に近いことから正しい解釈が難しい.これは,1 年やその倍音成分の周期のノイズが視線速度のシグナルに混入することがあることが原因である.しかし,そのノイズを取り除くための補正も提案されている (Dumusque et al. 2015).このノイズ除去を考慮した上で,このシグナルは惑星由来だと解釈するのが妥当である.

しかしデータ処理が全ての機器の影響を補正できていないという可能性もありうるため,惑星候補という段階に留めておく.今後の他の解析や HARPS 以外の装置を用いた確認が望まれる.

HD 20781 系

HD 20781
スペクトル型:K0V
等級:V = 8.48
有効温度:5256 K
金属量:[Fe/H] = -0.11
質量:0.70 太陽質量
光度:0.49 太陽光度
自転周期:46.8 日
HD 20781b
軌道周期:5.3135 日
軌道離心率:0.10
最小質量:1.93 地球質量
HD 20781c
軌道周期:13.8905 日
軌道離心率:0.09
最小質量:5.33 地球質量
HD 20781d
軌道周期:29.1580 日
軌道離心率:0.11
最小質量:10.61 地球質量
HD 20781e
軌道周期:85.5073 日
軌道離心率:0.06
最小質量:14.03 地球質量
HD 20781 系および HD 20782 系の特徴
HD 20781 は HD 20782 との実視連星である.さらに後者は軌道周期 595 日の,非常に高軌道離心率の惑星を持っている (Jones et al. 2006).前者の詳細な視線速度観測と共に,後者の観測も行って軌道のデータを更新した.

HD 20781 は 11 年以上に渡って観測し.合計で 226 の高シグナルノイズ比の視線速度データを取得した.この系は,2 つの内側のスーパーアースと,外側の海王星質量惑星を持つ系である.

HD 20782 は,この連星のうちの明るい方の恒星である.合計 71 のデータを取得した.

解析の結果,HD 20782b のパラメータは,軌道周期 587.0643 日,軌道離心率は 0.95,最小質量は 1.4878 木星質量となった.

HD 21693 系

HD 21693
スペクトル型:G8V
等級:V = 7.95
有効温度:5430 K
金属量:[Fe/H] = 0.0
質量:0.80 太陽質量
光度:0.62 太陽光度
自転周期:35.2 日
HD 21693b
軌道周期:22.6786 日
軌道離心率:0.12
最小質量:8.23 地球質量
HD 21693c
軌道周期:53.7357 日
軌道離心率:0.07
最小質量:17.37 地球質量
HD 21693 系の特徴
11 年に渡る観測で,合計で 212 の視線速度データを取得した.

16 日周期のシグナルが検出されているが,これは恒星の自転周期の倍音の周期であり,恒星活動に起因すると考えられる (Boisse et al. 2011).

視線速度の残差を見ると,シグナルを取り除いた後もやや大きいばらつきを示す.ヒッパルコス星表ではこの恒星は G8 矮星にカタログされているが,分光サーベイでは G9IV-V であり,僅かに進化した恒星である (Gray et al. 2006).進化した恒星は大きな粒状斑の影響で,大きな視線速度のばらつきが生じる.これが残差のばらつきの原因であると考えられる (Bastien et al. 2014など).

この系は 2 つの海王星質量惑星を持ち,その軌道周期は 5:2 共鳴に近い.しかし,そのような共鳴に入っている場合,通常は内側の惑星は共鳴よりもわずかに長い周期にいるはずで,短い周期には入らない.そのため,この系は力学的に更なる調査をする対象として興味深い.

HD 31527 系

HD 31527
スペクトル型:G2V
等級:V = 7.49
有効温度:5898 K
金属量:[Fe/H] = -0.17
質量:0.96 太陽質量
光度:1.20 太陽光度
自転周期:20.3 日
HD 31527b
軌道周期:16.5535 日
軌道離心率:0.10
質量:10.47 地球質量
HD 31527c
軌道周期:51.2053 日
軌道離心率:0.04
質量:14.16 地球質量
HD 31527d
軌道周期:271.6737 日
軌道離心率:0.24
質量:11.82 地球質量
HD 31527 系の特徴
11 年に渡る観測から,合計 257 のスペクトルを取得した.その結果,3 つの海王星質量惑星を検出した.

中心星は G2 星であり,外側の惑星は太陽系における金星から地球の間を公転している.そのためハビタブルゾーン内を公転していると考えられる (Selsis et al. 2007).しかし最小質量が 13 地球質量のこの惑星は,ガスのエンベロープに覆われた惑星だろうと考えられる (Rogers 2015など).ただし,この惑星がケプラー10c のような組成に似ている場合を除く (Dumusque et al. 2014).

HD 45184 系

HD 45184
スペクトル型:G1.5V
等級:V = 6.37
有効温度:5869 K
金属量:[Fe/H] = 0.04
質量:1.03 太陽質量
光度:1.13 太陽光度
自転周期:21.5 日
HD 45184b
軌道周期:5.8854 日
軌道離心率:0.07
質量:12.19 地球質量
HD 45184c
軌道周期:13.1354 日
軌道離心率:0.07
最小質量:8.81 地球質量
HD 45184 系の特徴
11 年に渡る観測から,合計 309 のデータを取得した.中心星の近くを公転する 2 つの海王星質量惑星を持つ系である.

HD 51608 系

HD 51608
スペクトル型:G7V
光度:V = 8.17
有効温度:5358 K
金属量:[Fe/H] = -0.07
質量:0.80 太陽質量
光度:0.57 太陽光度
自転周期:40.0 日
HD 51608b
軌道周期:14.0726 日
軌道離心率:0.09
質量:12.77 地球質量
HD 51608c
軌道周期:95.9446 日
軌道離心率:0.14
質量:14.31 地球質量
HD 51608 系の特徴
11 年に渡る観測から,合計 218 のスペクトルを取得した.この系は 2 つの海王星型惑星を持つ.ただし惑星の組成がケプラー10c 的なものだった場合 (大型の地球型惑星) を除く.

HD 134060 系

HD 134060
スペクトル型:G3IV
光度:V = 6.29
有効温度:5966 K
金属量:[Fe/H] = 0.14
質量:1.095 太陽質量
光度:1.44 太陽光度
自転周期:23.0 日
HD 134060b
軌道周期:3.2696 日
軌道離心率:0.45
最小質量:10.10 地球質量
HD 134060c
軌道周期:1291.5646 日
軌道離心率:0.11
最小質量:29.29 地球質量
HD 134060 系の特徴
11 年に渡る観測から,合計 335 のスペクトルを取得した.

内側の惑星は軌道離心率が大きい.そのため,この大きな離心率の影響で,2:1 軌道共鳴に入っている惑星のシグナルが隠されている可能性がある.半分の軌道周期の惑星が存在する可能性があるため, 1.65 日の惑星の存在を仮定してフィッティングを行った.
軌道離心率をゼロに固定した場合と,フリーパラメータにした場合両方でフィットしたが,どちらも観測と合わなかった.そのため,高軌道離心率の惑星が 1 つ存在するという,シンプルな解が最も良く観測を説明すると結論づけた.


内側の惑星は,最小質量が 3 倍大きい長周期惑星を外側に持つ.そのため,外側の長周期惑星は内側の惑星を Lidov-Kozai 機構を通じて擾乱し,軌道の秤動を起こしている可能性がある (Kozai 1962, Lidov 1961).この機構が働いている間,内側の惑星の軌道離心率は非常に高い値になりうる.そのため,内側惑星は中心星の近星点通過の際に相互作用を起こし,非常に短周期の軌道へと円軌道化が起きる.全角運動量の保存則から,軌道傾斜角が変化する場合のみ軌道離心率は増加できる.そのため,Lidov-Kozai 共鳴の影響下にある内側の惑星は,恒星の赤道平面から傾いた軌道をとっていると思われる.

これは,惑星がトランジットしていればロシター効果を通じて検出することができる.ここでの困難点は,この惑星は 3.3 日周期であり,円軌道化のタイムスケールは一般に非常に短く,そのような配置での系の観測は困難であることである.

HD 136352 系

HD 136352
スペクトル型:G4V
等級:V = 5.65
有効温度:5664 K
金属量:[Fe/H] = -0.34
質量:0.81 太陽質量
光度:0.99 太陽光度
自転周期:23.8 日
HD 136352b
軌道周期:11.5824 日
軌道離心率:0.14
質量:4.81 地球質量
HD 136352c
軌道周期:27.5821 日
軌道離心率:0.04
最小質量:10.80 地球質量
HD 136352d
軌道周期:107.5983 日
軌道離心率:0.09
質量:8.58 地球質量
HD 136352 系の特徴
11 年に渡る観測から,合計で 649 のスペクトルを取得した.

この系は,3 つのスーパーアースを持つ.内側の 2 惑星は,軌道周期が 5:2 の尽数関係に近い.また HD 21693 の 2 惑星とは異なり.最も内側の惑星は 5:2 共鳴の場合の軌道周期より僅かに長い.これは,このタイプの軌道配置をしている場合に一般的なものである.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1705.05203
Forgan et al. (2017)
On The Feasibility of Exomoon Detection Via Exoplanet Phase Curve Spectral Contrast
(系外惑星の位相曲線のスペクトル差からの系外衛星検出の実現可能性)

概要

系外惑星-系外衛星系の位相曲線は,両者の影響が重ね合わされたものとして観測される.主要な変動の要素は惑星の周期によるもので,小さな変動は惑星と衛星の周期の両方によるものである.

仮に 2 つの天体のスペクトルが大きく異なった場合,惑星と衛星のコントラストが大きくなるような波長領域が存在する可能性がある.原理的には,この効果は合成された位相曲線における周期的な振動を分離するのに用いることが出来る.

ここでは,系外惑星と衛星の位相曲線を合わせたもののパラメータサーベイを行った.
その結果,現在の最新のトランジット観測では,位相曲線における衛星の成分は検出出来ないという結論を得た.将来的なトランジットサーベイミッションでも,衛星シグナルを測定するためには,測光精度 10 ppm か,それよりも良い精度が必要とされる.

これの唯一の例外は,衛星が強く潮汐加熱されているか,何らかの理由で自ら光っている場合である.この場合,数マイクロメートルよりも大きい波長での位相曲線での測定は,衛星からの寄与が主要になる可能性がある.この手法によって系外衛星を検出するには,ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡のような機器やその後継が必要である.

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arXiv:1705.04354
Wakeford et al. (2017)
HAT-P-26b: A Neptune-Mass Exoplanet with a Well Constrained Heavy Element Abundance
(HAT-P-26b:重元素存在度がよく分かっている海王星質量の系外惑星)

概要

巨大惑星の質量と大気の重元素存在度の相関は,過去一世紀の間の我々の太陽系の惑星の観測から明らかになっている,惑星形成理論の重要な礎である.ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡を用いて 0.5 - 5 µm の範囲でデータを取得し,海王星質量の系外惑星 HAT-P-26b の大気の詳細な研究を行った.

惑星大気透過光の観測から,最大の base-to-peak 振幅が 525 ppm の,水の吸収バンドを検出した.

大気中の水の存在度を金属量の存在度の代用として用いることで,この惑星の大気の重元素含有量は太陽組成の 4.0 (+21.5, -4.0) 倍と推定した.これは,この惑星の大気が始原的なものであり,原始惑星系円盤の最終段階に円盤からガスのエンベロープを獲得したことを示唆する結果である.また,金属量豊富な微惑星による汚染は僅かであったことを示唆する.

研究背景

HAT-P-26b は海王星質量の惑星である.質量と半径がよく測定されているその他の 4 つの海王星サイズの惑星 (天王星,海王星,GJ 436b,HAT-P-11b) と比較して,低い平均密度を持つ惑星である.

この惑星の表面重力は小さく,平衡温度は温暖 (~ 990 K) であるため,この惑星の大気スケールハイトは大きい.そのため,トランジット分光観測での大気の研究に適した対象である.

海王星サイズの惑星は,広い範囲の大気組成を持ちうる.その惑星の形成と進化の歴史によって,H/He,H2O,CO2 が豊富な大気の全てを持ちうる.
H/He 豊富な大気は,ガスが原始惑星系円盤から直接降着した場合に形成される.別の可能性として,多くの惑星は水が豊富な大気を持った水惑星になりうる.あるいは,主に脱ガスで大気が形成された岩石惑星などがある.

ホットネプチューンの場合,これらの惑星が水やその他の氷の成分を大量に含んでいるかどうか,そしてそれらのうちどの程度が検出可能な大気エンベロープの中に混合しているかは不明である.

過去の海王星質量の系外惑星の観測では,雲の多い大気が観測されている.例えば,GJ 436b や,いくらか晴れた大気を持つ HAT-P-11b などがその例である.これらの惑星では,雲によって弱められた水の吸収バンドが検出されている.

巨大ガス惑星質量と大気中の元素存在度は,木星,土星,天王星,海王星の大気における CH4 の存在度から測定されている.惑星質量と元素存在度の関係は,惑星形成理論への制約として使われる.
鍵となる分子種の測定は系外惑星でも行われ始めており,例えば WASP-43b などで H2O の存在度が測定されている.海王星質量やさらに小さい系外惑星での大気の元素存在度測定は限定的であり,数桁の間の制約のみが与えられていた.例えば HAT-P-11b での水の検出からは,大気中の金属量は太陽組成の 1 - 700 倍の範囲内という制限が与えられている.

結果

1.4 µm での水の吸収バンドの測定から,8.8 σ の確度で,base-to-peak 振幅が 525 ± 43 ppm であることが分かった.ハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いた可視光での観測と,WFC3 G102 の近赤外での観測から,吸収する雲層の存在が示唆された.これは過去の可視光のデータと整合的である.

ここでは,大気中の水を金属量推定のための代用指標として使用する.
この惑星の金属量は,太陽系の巨大ガス惑星が示す傾向よりも低く,惑星の形成過程と進化過程のどちらか,あるいはその両方が太陽系とは異なることを示唆する.

惑星の進化モデルからは,H/He エンベロープが全体の質量の ~21%を占め,中心のコアは 10%が岩石で 90%が水と推定される.コア質量が比較的大きいため,光蒸発ではエンベロープ質量の数%以上は失われない.


大気の重元素存在度が低いことから,この惑星のエンベロープは始原的なもの (進化過程で大きく成分が変化していない) であると結論付けることが出来る.

測定された低い金属量からは,この惑星の重元素成分はほとんどがコアに含まれること,惑星のエンベロープはガスが降着した後に微惑星によって汚染されていないか.あるいは似た質量の他の惑星に比べて汚染が少ないことを示唆する.これは,惑星が恒星に近い所で形成されると起こり得る.恒星に近い場所は固体の氷が存在するには高温過ぎるため,固体の存在度が低い.特に炭素と酸素を含む成分が少なくなる.
または,微惑星の大部分がなくなってしまった後の,円盤の寿命の後期にエンベロープを降着した可能性もある.あるいはこれらの両方が重なった可能性もある.このような形成シナリオは,多くのホットネプチューンは自身のエンベロープを円盤が散逸する前にその場で短時間で降着したとする,最近のエンベロープ降着モデルと整合的である.

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