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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1507.00195
Reale et al. (2015)
Using the transit of Venus to probe the upper planetary atmosphere
(金星の日面通過を用いた高層大気の探査)
ここでは、金星の日面通過(太陽面通過)の際に金星の半径を可視光、紫外線、軟X線を用いて観測した。
観測には、太陽観測衛星の「ひので (HINODE)」と、「Solar Dynamics Observatory (SDO)」を用いた。
結果、金星の可視光での半径は、固体部分の金星半径より 80 kmほど大きい。これは雲やヘイズの頂上部に対応している。
また、極端紫外線 (extreme UV, EUV)や軟X線 (soft X-ray)では、さらに 70 kmほど半径が大きくなる。
X線やEUVは、イオン・電子密度が最大になるあたりでよく吸収される、
EUVに励起される光電離反応によって、CO2+が生成される。これはOとの光化学反応によってO2+に変化する。
理論モデルによると、CO2+やその他のイオンは高度 150 - 180 kmで密度が最大になる。
金星の固体部分の半径は 6051.8 km (マゼランの観測による)であり、可視光で見た半径の 6131 km (固体表面から 79 kmの高さ)は、Venus Express/Visible and Infrared Thermal Imaging Spectrometer (VIRTIS)の観測による 74 kmとよく一致する。
また、UV領域では固体表面から117 - 127 km、EUV領域では 162 - 176 km程度、X線領域では 150 kmとなっている。
この観測は、太陽系内の天体をここまでの多波長で観測した初めての例である。
金星の日面通過という珍しい天文イベントが2012年6月にありました。
この日面通過、太陽グラスを使ったり、友人の望遠鏡で投影したりしてリアルタイムで見て楽しんでいました。
金星が太陽の手前を通過するというこの現象、起こっていることは系外惑星のトランジットと全く同じです。
そのため、金星が日面通過(transit)をしている間、太陽の減光を多波長で観測してやれば、多波長でのトランジット分光観測をしていることになります。
ここでは、可視光からX線までの広い波長域で金星のトランジット観測を行い、金星の高層大気の観測を行ったということです。
観測に用いられた2つ太陽観測衛星「ひので」と「SDO」のうち、ひのでは日本が打ち上げたものです。
ひのでは太陽観測で目覚しい成果を上げていますが、金星のトランジットという現象の観測にも役立ったということですね。
ちなみに金星の日面通過、次回発生するのは2117年12月とのことで、事実上のラストチャンスだったということです。
arXiv:1507.01254
Gauza et al. (2015)
Constraints on the substellar companions in wide orbits around the Barnard's Star from CanariCam mid-infrared imaging
(バーナード星まわりの遠距離に存在する恒星未満天体の存在に対する制約)
使用したのは10.4m口径のGran Telescopio CanariesにあるCanariCam。
1-10 arcsecの距離(バーナード星までの距離が1.83 pcなので、距離にすると 1.8 - 18 AU、軌道周期12年)にある伴星を捜索した。
8.7 μmのNバンドで観測し、0.24 arcsecの角度分解能があった。
観測の結果、追加の天体は発見されなかった。
観測限界からの制限より、15木星質量より大きく (有効温度 400 K以上に対応)、数億年の年齢の 3.6 - 18 AUに存在する伴星(わるいは惑星)の存在可能性を 3 σで排除した。
これは、これまでの観測よりも5木星質量ほど小さい制限となる。
また、北半球の星としては最も太陽に近い。
スペクトル型はM4.0Vの赤色矮星であり、太陽からの距離は 1.824 pc。固有運動は 10.37 arcsec/yrで、最も固有運動の大きい恒星である。
自転周期は遅く、130日。また、時期的な活動は弱い。
これらの特徴はその他の特徴より、太陽より古い恒星であると考えられている。
光度は 3.46 × 10-3太陽光度であり、有効温度は 3134 K。
低質量星の質量光度関係より、質量は 0.158太陽質量と推定されている。
Choi et al. (2013)の視線速度法による観測では、軌道周期が 10日未満かつ質量が 2地球質量以上と、軌道周期が 2年未満かつ質量が 10地球質量以上の惑星は存在しないという制限を与えた。ただしこれは、軌道がface-onの状態になっている場合を除く。
その他、直接撮像によって伴星(あるいは惑星)の存在に対して制限がかけられてきた(Dieterich et al. 2012, Oppenheimer et al. 2001, Schrowter et al. 2000)
バーナード星は太陽に非常に近い恒星であり、かなり昔から惑星の捜索が行われてきました。
文中にも書いてある通り、アストロメトリで検出したという報告はありましたが、のちに間違いだと判明しています。
このvan de Campやその弟子らはその他の近傍星でもアストロメトリでの惑星検出を主張しましたが、それらすべてが間違いだったことが分かっています。
ある恒星に惑星が存在しないと言い切ることは極めて困難です。
現在の観測精度や観測手法では検出できていないだけであるという可能性を排除しきれないからです。
そのため、なんらかの方法で惑星の捜索をし、発見できなかった場合は「惑星が存在しない」と断言するのではなく、「惑星は検出されなかった、観測限界からこういう条件の惑星は存在しない」というように、観測から制限を付けることになります。
今回の場合も、中間赤外線で直接撮像をし、それに有意なものが写らなかったため、「今回の観測で理論的に検出できる範囲のパラメータの惑星は存在し得ない」、と結論付けることになります。
arXiv:1507.00195
Reale et al. (2015)
Using the transit of Venus to probe the upper planetary atmosphere
(金星の日面通過を用いた高層大気の探査)
概要
惑星の高層大気では水素原子が高エネルギーの放射を吸収するため、高エネルギーの波長で見たときの惑星半径は、可視光で見たときの半径よりも大きくなる。ここでは、金星の日面通過(太陽面通過)の際に金星の半径を可視光、紫外線、軟X線を用いて観測した。
観測には、太陽観測衛星の「ひので (HINODE)」と、「Solar Dynamics Observatory (SDO)」を用いた。
結果、金星の可視光での半径は、固体部分の金星半径より 80 kmほど大きい。これは雲やヘイズの頂上部に対応している。
また、極端紫外線 (extreme UV, EUV)や軟X線 (soft X-ray)では、さらに 70 kmほど半径が大きくなる。
X線やEUVは、イオン・電子密度が最大になるあたりでよく吸収される、
EUVに励起される光電離反応によって、CO2+が生成される。これはOとの光化学反応によってO2+に変化する。
理論モデルによると、CO2+やその他のイオンは高度 150 - 180 kmで密度が最大になる。
金星の固体部分の半径は 6051.8 km (マゼランの観測による)であり、可視光で見た半径の 6131 km (固体表面から 79 kmの高さ)は、Venus Express/Visible and Infrared Thermal Imaging Spectrometer (VIRTIS)の観測による 74 kmとよく一致する。
また、UV領域では固体表面から117 - 127 km、EUV領域では 162 - 176 km程度、X線領域では 150 kmとなっている。
この観測は、太陽系内の天体をここまでの多波長で観測した初めての例である。
金星の日面通過という珍しい天文イベントが2012年6月にありました。
この日面通過、太陽グラスを使ったり、友人の望遠鏡で投影したりしてリアルタイムで見て楽しんでいました。
金星が太陽の手前を通過するというこの現象、起こっていることは系外惑星のトランジットと全く同じです。
そのため、金星が日面通過(transit)をしている間、太陽の減光を多波長で観測してやれば、多波長でのトランジット分光観測をしていることになります。
ここでは、可視光からX線までの広い波長域で金星のトランジット観測を行い、金星の高層大気の観測を行ったということです。
観測に用いられた2つ太陽観測衛星「ひので」と「SDO」のうち、ひのでは日本が打ち上げたものです。
ひのでは太陽観測で目覚しい成果を上げていますが、金星のトランジットという現象の観測にも役立ったということですね。
ちなみに金星の日面通過、次回発生するのは2117年12月とのことで、事実上のラストチャンスだったということです。
arXiv:1507.01254
Gauza et al. (2015)
Constraints on the substellar companions in wide orbits around the Barnard's Star from CanariCam mid-infrared imaging
(バーナード星まわりの遠距離に存在する恒星未満天体の存在に対する制約)
概要
バーナード星を中間赤外線で撮像観測した。使用したのは10.4m口径のGran Telescopio CanariesにあるCanariCam。
1-10 arcsecの距離(バーナード星までの距離が1.83 pcなので、距離にすると 1.8 - 18 AU、軌道周期12年)にある伴星を捜索した。
8.7 μmのNバンドで観測し、0.24 arcsecの角度分解能があった。
観測の結果、追加の天体は発見されなかった。
観測限界からの制限より、15木星質量より大きく (有効温度 400 K以上に対応)、数億年の年齢の 3.6 - 18 AUに存在する伴星(わるいは惑星)の存在可能性を 3 σで排除した。
これは、これまでの観測よりも5木星質量ほど小さい制限となる。
バーナード星について
バーナード星 (GJ 699, V2500 Oph)は、星としては4番目に太陽に近い。星系としては、3重連星のアルファ・ケンタウリ系に次いで2番目に太陽に近い。また、北半球の星としては最も太陽に近い。
スペクトル型はM4.0Vの赤色矮星であり、太陽からの距離は 1.824 pc。固有運動は 10.37 arcsec/yrで、最も固有運動の大きい恒星である。
自転周期は遅く、130日。また、時期的な活動は弱い。
これらの特徴はその他の特徴より、太陽より古い恒星であると考えられている。
光度は 3.46 × 10-3太陽光度であり、有効温度は 3134 K。
低質量星の質量光度関係より、質量は 0.158太陽質量と推定されている。
バーナード星まわりの惑星探査
かつて、1960年代後半には、van de Campがアストロメトリ法を用いて、木星質量の惑星を2つ検出したと報告した(van de Camp 1969)。しかし2つとものちに否定されている。Choi et al. (2013)の視線速度法による観測では、軌道周期が 10日未満かつ質量が 2地球質量以上と、軌道周期が 2年未満かつ質量が 10地球質量以上の惑星は存在しないという制限を与えた。ただしこれは、軌道がface-onの状態になっている場合を除く。
その他、直接撮像によって伴星(あるいは惑星)の存在に対して制限がかけられてきた(Dieterich et al. 2012, Oppenheimer et al. 2001, Schrowter et al. 2000)
バーナード星は太陽に非常に近い恒星であり、かなり昔から惑星の捜索が行われてきました。
文中にも書いてある通り、アストロメトリで検出したという報告はありましたが、のちに間違いだと判明しています。
このvan de Campやその弟子らはその他の近傍星でもアストロメトリでの惑星検出を主張しましたが、それらすべてが間違いだったことが分かっています。
ある恒星に惑星が存在しないと言い切ることは極めて困難です。
現在の観測精度や観測手法では検出できていないだけであるという可能性を排除しきれないからです。
そのため、なんらかの方法で惑星の捜索をし、発見できなかった場合は「惑星が存在しない」と断言するのではなく、「惑星は検出されなかった、観測限界からこういう条件の惑星は存在しない」というように、観測から制限を付けることになります。
今回の場合も、中間赤外線で直接撮像をし、それに有意なものが写らなかったため、「今回の観測で理論的に検出できる範囲のパラメータの惑星は存在し得ない」、と結論付けることになります。
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ、プラス気になる情報について。
arXiv:1506.09072
Anglada-Escudé et al. (2015)
No evidence for activity correlations in the radial velocities of Kapteyn's star
(カプタイン星の視線速度と恒星活動との相関の証拠は無い)
これへの反論である。
大きく分けると、
(1) 143日を中心星の自転周期として選ぶのは正当性が無い
(2) 線型相関の存在はデータによって支持されていない
という理由により、Robertson et al. (2015)での主張は誤りである。
143日周期の変動を自転周期と判断するのは早計であり、88, 135, 270日周期の変動も同様にあり得る値である。また、長期変動も排除できない。
さらに、143日を自転周期とした場合も、惑星の公転周期がこれの3分の1に近いとして恒星活動の誤認とするのは直接的ではない。なぜなら、143日の2分の1や3分の1に対応する活動シグナルは検出されていないからである。
視線速度のシグナルの統計的優位性と、惑星の物理的存在は明確に分けて考えられるべきである。
我々は、後者に関する早計で根拠のないステートメントに陥るよりも、前者に関する包括的な議論を行うことを推奨する。
我々が主張したいのは以下のことである。
この論文の目的は、カプタイン星bやその他の視線速度法の惑星のステータスを救おうとするものではなく、真剣な科学的議論における、客観的で包括的な分析手法の重要性を強調することである。
ざっと概要を書くと…
まず、カプタイン星の周りに2つの系外惑星を発見したという発見論文が2014年に公表されました。
Anglada-Escudé et al. (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014MNRAS.443L..89A
http://arxiv.org/abs/1406.0818
Two planets around Kapteyn's star : a cold and a temperate super-Earth orbiting the nearest halo red-dwarf
ここでは、視線速度法を用いてカプタイン星の周りに、スーパーアース質量の惑星を2つ発見したということが述べられています。
この発見に伴って、系外惑星のカタログにもカプタイン星bとcが追加されました。
しかし今年に入って、カプタイン星bは恒星活動を誤認したものであるという論文が公表されました。
Robertson et al. (2015)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2015ApJ...805L..22R
http://arxiv.org/abs/1505.02778
Stellar Activity Mimics a Habitable-zone Planet around Kapteyn's Star
ここでは、カプタイン星bによるとされていた視線速度の変動は中心星の自転周期の3分の1に非常に近く、恒星の活動周期を誤認したものだという主張が展開されています。
この論文に従って、一部の系外惑星のカタログからはカプタイン星bが削除されました。
この件に関しては、
カプタイン星bは恒星の変動に起因する誤認だったかもという話
としてここのブログにも書きました。
そして、そのRobertsonらの論文に対して、発見者グループであるAnglada-Escudéらが再反論をした、というのが今回の論文です。
果たしてカプタイン星bは本当に存在するのか、はたまた恒星活動の誤認だったのか、論争と追観測の行方が気になるところです。
…それにしても、論文の文章の、特に締めの部分が非常に強い言葉に感じます。
「早計で根拠がない主張に陥る」とか、「真剣な科学的な議論」とか、なかなか攻撃的ではないでしょうか。(和訳時の言葉のチョイスかも知れないけど…)
いろいろと背景を追ってみると、発見者側のAnglada-Escudéらと、否定側のRobertsonらのグループが惑星の実在を巡って論争になったのはこれが初めてではないようです。
Anglada-Escudéらは2013年に、視線速度法を用いてグリーゼ667C (GJ 667C)まわりに惑星を複数個発見したという報告をしています。
Anglada-Escudé et al. (2013)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2013A%26A...556A.126A
http://arxiv.org/abs/1306.6074
A dynamically-packed planetary system around GJ 667C with three super-Earths in its habitable zone
この論文では、すでに発見されていたグリーゼ667Cb, cに加え、d, e, f, g, hのさらなる惑星を発見したとの報告がされています。
しかしその翌年に、Robertsonらによってグリーゼ667Cd以降の5つの惑星の検出は間違いであるとの論文が発表されています(b, cは検出されたと報告)。
Robertson & Mahadevan (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014ApJ...793L..24R
http://arxiv.org/abs/1409.0021
Disentangling Planets and Stellar Activity for Gliese 667C
現在のところ、系外惑星カタログの一つであるExoplanet Encyclopediaでは、グリーゼ667Cb, c, d, e, f, gの6つが登録されており、グリーゼ667Chは"controversial"、つまり議論の余地あり、とされて登録はされていません。また、NASAのExoplanet Archiveでは、グリーゼ667Cb, c, e, f, gの5つが登録されており、グリーゼ667d, hは登録されていない状態になっています。
そのほかRobertsonらは、ハビタブルゾーン内にある地球型惑星候補として有名だったグリーゼ581gなどが、やはり恒星の活動に起因する誤認だったという論文も発表しています。
Robertson et al. (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014Sci...345..440R
http://arxiv.org/abs/1407.1049
Stellar Activity Masquerading as Planets in the Habitable Zone of the M dwarf Gliese 581
こちらはグリーゼ581系が注目度が高かったことからか、Natureに投稿されて受理された論文となっています。
(現在はグリーゼ581b, c, eの3つがカタログに登録され、グリーゼ581d, f, gは削除あるいは"controversial"となっています)
カプタイン星まわりの系外惑星をめぐるやりとりの以前にも、グリーゼ667Cまわりの系外惑星の存在を巡っての論争があり、さらに様々な惑星発見報告に対して「この惑星検出は誤認である」と指摘してまわっているRobertsonらに対する、Anglada-Escudé側の反発のようなものがあるのかもしれません。
"惑星の有る無しの揚げ足取りに拘泥するような事ではなく、観測データの正しく公平な分析に基づいた科学的な議論を我々はしたいのである"ーーそんなAnglada-Escudé側の感情が、「早計で根拠がない主張に陥る」とか、「真剣な科学的な議論」などのような強く聞こえる言葉に現れているのではないか、なんて邪推しています。
arXiv:1506.09072
Anglada-Escudé et al. (2015)
No evidence for activity correlations in the radial velocities of Kapteyn's star
(カプタイン星の視線速度と恒星活動との相関の証拠は無い)
概要
視線速度法を用いて、カプタイン星(Kapteyn's star)まわりに2つのスーパーアース質量の系外惑星を検出したという過去の報告(Anglada-Escudé et al. 2014)について、カプタイン星bの公転周期 48.6日は中心星の自転周期 143日の3分の1であり、恒星活動によって引き起こされた視線速度の変動を誤認したものであるとして、惑星(カプタイン星b)の存在を否定する論文が出された(Robertson et al. 2015)。これへの反論である。
大きく分けると、
(1) 143日を中心星の自転周期として選ぶのは正当性が無い
(2) 線型相関の存在はデータによって支持されていない
という理由により、Robertson et al. (2015)での主張は誤りである。
議論
Robertson et al. (2015)ではいくつかの近似的な物理的仮定と、場当たり的(ad hoc)な手法を用いている。143日周期の変動を自転周期と判断するのは早計であり、88, 135, 270日周期の変動も同様にあり得る値である。また、長期変動も排除できない。
さらに、143日を自転周期とした場合も、惑星の公転周期がこれの3分の1に近いとして恒星活動の誤認とするのは直接的ではない。なぜなら、143日の2分の1や3分の1に対応する活動シグナルは検出されていないからである。
視線速度のシグナルの統計的優位性と、惑星の物理的存在は明確に分けて考えられるべきである。
我々は、後者に関する早計で根拠のないステートメントに陥るよりも、前者に関する包括的な議論を行うことを推奨する。
我々が主張したいのは以下のことである。
この論文の目的は、カプタイン星bやその他の視線速度法の惑星のステータスを救おうとするものではなく、真剣な科学的議論における、客観的で包括的な分析手法の重要性を強調することである。
ざっと概要を書くと…
まず、カプタイン星の周りに2つの系外惑星を発見したという発見論文が2014年に公表されました。
Anglada-Escudé et al. (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014MNRAS.443L..89A
http://arxiv.org/abs/1406.0818
Two planets around Kapteyn's star : a cold and a temperate super-Earth orbiting the nearest halo red-dwarf
ここでは、視線速度法を用いてカプタイン星の周りに、スーパーアース質量の惑星を2つ発見したということが述べられています。
この発見に伴って、系外惑星のカタログにもカプタイン星bとcが追加されました。
しかし今年に入って、カプタイン星bは恒星活動を誤認したものであるという論文が公表されました。
Robertson et al. (2015)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2015ApJ...805L..22R
http://arxiv.org/abs/1505.02778
Stellar Activity Mimics a Habitable-zone Planet around Kapteyn's Star
ここでは、カプタイン星bによるとされていた視線速度の変動は中心星の自転周期の3分の1に非常に近く、恒星の活動周期を誤認したものだという主張が展開されています。
この論文に従って、一部の系外惑星のカタログからはカプタイン星bが削除されました。
この件に関しては、
カプタイン星bは恒星の変動に起因する誤認だったかもという話
としてここのブログにも書きました。
そして、そのRobertsonらの論文に対して、発見者グループであるAnglada-Escudéらが再反論をした、というのが今回の論文です。
果たしてカプタイン星bは本当に存在するのか、はたまた恒星活動の誤認だったのか、論争と追観測の行方が気になるところです。
…それにしても、論文の文章の、特に締めの部分が非常に強い言葉に感じます。
「早計で根拠がない主張に陥る」とか、「真剣な科学的な議論」とか、なかなか攻撃的ではないでしょうか。(和訳時の言葉のチョイスかも知れないけど…)
いろいろと背景を追ってみると、発見者側のAnglada-Escudéらと、否定側のRobertsonらのグループが惑星の実在を巡って論争になったのはこれが初めてではないようです。
Anglada-Escudéらは2013年に、視線速度法を用いてグリーゼ667C (GJ 667C)まわりに惑星を複数個発見したという報告をしています。
Anglada-Escudé et al. (2013)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2013A%26A...556A.126A
http://arxiv.org/abs/1306.6074
A dynamically-packed planetary system around GJ 667C with three super-Earths in its habitable zone
この論文では、すでに発見されていたグリーゼ667Cb, cに加え、d, e, f, g, hのさらなる惑星を発見したとの報告がされています。
しかしその翌年に、Robertsonらによってグリーゼ667Cd以降の5つの惑星の検出は間違いであるとの論文が発表されています(b, cは検出されたと報告)。
Robertson & Mahadevan (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014ApJ...793L..24R
http://arxiv.org/abs/1409.0021
Disentangling Planets and Stellar Activity for Gliese 667C
現在のところ、系外惑星カタログの一つであるExoplanet Encyclopediaでは、グリーゼ667Cb, c, d, e, f, gの6つが登録されており、グリーゼ667Chは"controversial"、つまり議論の余地あり、とされて登録はされていません。また、NASAのExoplanet Archiveでは、グリーゼ667Cb, c, e, f, gの5つが登録されており、グリーゼ667d, hは登録されていない状態になっています。
そのほかRobertsonらは、ハビタブルゾーン内にある地球型惑星候補として有名だったグリーゼ581gなどが、やはり恒星の活動に起因する誤認だったという論文も発表しています。
Robertson et al. (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014Sci...345..440R
http://arxiv.org/abs/1407.1049
Stellar Activity Masquerading as Planets in the Habitable Zone of the M dwarf Gliese 581
こちらはグリーゼ581系が注目度が高かったことからか、Natureに投稿されて受理された論文となっています。
(現在はグリーゼ581b, c, eの3つがカタログに登録され、グリーゼ581d, f, gは削除あるいは"controversial"となっています)
カプタイン星まわりの系外惑星をめぐるやりとりの以前にも、グリーゼ667Cまわりの系外惑星の存在を巡っての論争があり、さらに様々な惑星発見報告に対して「この惑星検出は誤認である」と指摘してまわっているRobertsonらに対する、Anglada-Escudé側の反発のようなものがあるのかもしれません。
"惑星の有る無しの揚げ足取りに拘泥するような事ではなく、観測データの正しく公平な分析に基づいた科学的な議論を我々はしたいのである"ーーそんなAnglada-Escudé側の感情が、「早計で根拠がない主張に陥る」とか、「真剣な科学的な議論」などのような強く聞こえる言葉に現れているのではないか、なんて邪推しています。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1506.09043
Dvorak et al. (2015)
On the probability of the collision of a Mars-sized planet with the Earth to form the Moon
(月形成を引き起こす、火星サイズ惑星の地球への衝突確率について)
この説には、同位体成分比率などの未解決の問題が残されている。
ここでは、成分比ではなく力学的な問題について考察する。
火星サイズの天体が地球に衝突する確率を数値計算から算出する。
火星サイズのアディショナルな天体(通称"テイア (Theia)")を、金星と地球の軌道間、地球と火星の軌道間に配置し、数千万年程度に渡って軌道計算を行う。計算において、水星は除外する。
結果として、Theiaの地球への衝突速度、衝突角度についての統計的な概算を得た。これは将来的なSPH (Smoothed-Particle Hydrodynamics)計算のベースとなるものである。
また、最も衝突可能性の高いTheiaの初期配置は、~ 1.16 AUである。
・モデル2…Theiaを地球と火星の間に置く
両モデルとも、水星は無視して計算を行う。
モデル1では、Theiaの軌道は 0.8 - 0.94 AU、モデル2では 1.06 - 1.4 AUとし、Theiaの初期の軌道長半径の刻み幅は 0.005 AUとする。
惑星の軌道は形成過程でほとんど変化しないとして、Theiaの軌道は準安定(quasi-stable)な軌道を考える。そのような軌道のため、初期の軌道離心率は e = 0.075、軌道傾斜角は i = 2°に固定する。
(a) Theiaの軌道長半径が ≦ 0.875 AU
(b) Theiaの軌道長半径が 0.875 - 0.94 AU
(c) 地球近傍
(d) Theiaの軌道長半径が 1.06 - 1.165 AU
(e) Theiaの軌道長半径が ≧ 1.165 AU
(b), (d)の場合、衝突確率の最大は 36%であり、(b)では軌道長半径が 0.95 AU、(d)では 1.075 AUの時である。
また(a), (e)では平均運動共鳴に入って軌道が不安定化される。
(c)については、短期間で軌道が不安定化されてしまうので計算を行っていない。ここでは、しばらくの間は安定である軌道に興味があるためである。
(d)の場合が一番衝突の確率が高く、その時の軌道長半径は 1.16 AUであった。
arXiv:1506.08850
Fukui et al. (2015)
OGLE-2012-BLG-0563Lb: a Saturn-mass Planet around an M Dwarf with the Mass Constrained by Subaru AO imaging
(すばる望遠鏡のAO撮像で質量が制約されたM型矮星まわりの、土星質量の惑星)
パララックス効果は検出されなかったが、代わりにすばる望遠鏡のAO imagingとIRCSを用いて、J, H, K' bandで撮像観測を行って系のパラメータを決定することができた。
レンズシステムは 1.3 kpcの距離にあり、主星は 0.34太陽質量のM型星である。
惑星は 0.39木星質量で、土星質量の天体である。
投影半径(projected separation)は、0.74 AUもしくは 4.3 AUである。
中心星フラックスへのコンタミは ~ 17%。
観測によって質量への制約がかけられたM型矮星の周りに、重力マイクロレンズ法を用いて土星質量の惑星が発見された5番目の例となる。
(ここでいう土星質量とは、0.2木星質量より重く、1木星質量未満の惑星のこと)
M型星まわりにsub-Jupiterが多いのは、1-2 木星質量の惑星がM型星周りに少ないのとは対照的である。これは惑星形成理論から、コア集積モデルで説明できる。
arXiv:1506.09043
Dvorak et al. (2015)
On the probability of the collision of a Mars-sized planet with the Earth to form the Moon
(月形成を引き起こす、火星サイズ惑星の地球への衝突確率について)
概要
月形成の一般的なシナリオは、岩石惑星が形成を始めてから 50 - 100 Myr後の最後の巨大衝突(giant impact)によるとするものである。この説には、同位体成分比率などの未解決の問題が残されている。
ここでは、成分比ではなく力学的な問題について考察する。
火星サイズの天体が地球に衝突する確率を数値計算から算出する。
火星サイズのアディショナルな天体(通称"テイア (Theia)")を、金星と地球の軌道間、地球と火星の軌道間に配置し、数千万年程度に渡って軌道計算を行う。計算において、水星は除外する。
結果として、Theiaの地球への衝突速度、衝突角度についての統計的な概算を得た。これは将来的なSPH (Smoothed-Particle Hydrodynamics)計算のベースとなるものである。
また、最も衝突可能性の高いTheiaの初期配置は、~ 1.16 AUである。
計算セットアップ
・モデル1…Theiaを地球と金星の間に置く・モデル2…Theiaを地球と火星の間に置く
両モデルとも、水星は無視して計算を行う。
モデル1では、Theiaの軌道は 0.8 - 0.94 AU、モデル2では 1.06 - 1.4 AUとし、Theiaの初期の軌道長半径の刻み幅は 0.005 AUとする。
惑星の軌道は形成過程でほとんど変化しないとして、Theiaの軌道は準安定(quasi-stable)な軌道を考える。そのような軌道のため、初期の軌道離心率は e = 0.075、軌道傾斜角は i = 2°に固定する。
全体像
計算のケースを、Theiaの軌道長半径の初期条件で大まかに5つに分割する。(a) Theiaの軌道長半径が ≦ 0.875 AU
(b) Theiaの軌道長半径が 0.875 - 0.94 AU
(c) 地球近傍
(d) Theiaの軌道長半径が 1.06 - 1.165 AU
(e) Theiaの軌道長半径が ≧ 1.165 AU
(b), (d)の場合、衝突確率の最大は 36%であり、(b)では軌道長半径が 0.95 AU、(d)では 1.075 AUの時である。
また(a), (e)では平均運動共鳴に入って軌道が不安定化される。
(c)については、短期間で軌道が不安定化されてしまうので計算を行っていない。ここでは、しばらくの間は安定である軌道に興味があるためである。
(d)の場合が一番衝突の確率が高く、その時の軌道長半径は 1.16 AUであった。
arXiv:1506.08850
Fukui et al. (2015)
OGLE-2012-BLG-0563Lb: a Saturn-mass Planet around an M Dwarf with the Mass Constrained by Subaru AO imaging
(すばる望遠鏡のAO撮像で質量が制約されたM型矮星まわりの、土星質量の惑星)
概要
重力マイクロレンズ法を用いて、主星と伴星(惑星)の質量比が ~ 10-3の系を発見した。パララックス効果は検出されなかったが、代わりにすばる望遠鏡のAO imagingとIRCSを用いて、J, H, K' bandで撮像観測を行って系のパラメータを決定することができた。
レンズシステムは 1.3 kpcの距離にあり、主星は 0.34太陽質量のM型星である。
惑星は 0.39木星質量で、土星質量の天体である。
投影半径(projected separation)は、0.74 AUもしくは 4.3 AUである。
中心星フラックスへのコンタミは ~ 17%。
観測によって質量への制約がかけられたM型矮星の周りに、重力マイクロレンズ法を用いて土星質量の惑星が発見された5番目の例となる。
(ここでいう土星質量とは、0.2木星質量より重く、1木星質量未満の惑星のこと)
M型星まわりにsub-Jupiterが多いのは、1-2 木星質量の惑星がM型星周りに少ないのとは対照的である。これは惑星形成理論から、コア集積モデルで説明できる。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1506.07602
Zeebe (2015)
Dynamic stability of the Solar System: Statistically inconclusive results from ensemble integrations
(太陽系の力学的安定性について)
例として、水星の軌道離心率が増大して、他の惑星と近接遭遇したり衝突する可能性は1%程度であると推定されている。
しかしこの値の正確性についてはほとんど分かっていない。
ここでは、およそ5 Gyr (50億年)に渡って8つの惑星と冥王星の運動方程式を積分して軌道の計算を行った。計算には一般相対論的な効果も含まれている。
結果として、水星の軌道離心率の進化については、異なる数値アルゴリズムは異なる統計的結果を導くことが分かった。
例として水星の軌道離心率を0.21として計算を開始した場合、5 Gyrの間の水星の軌道離心率の最大値は、heliocentricなsymplectic ensemble integrationを用いた場合、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算結果よりも大きくなる。
それに対し、水星の離心率を将来取りうる値である0.53として計算をスタートした場合、その後 500 Myrの間の最大の離心率は、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算の方がheliocentricなsymplectic ensemble integrationよりも大きくなる。
水星の離心率が 500 Myrの期間にわたって 0.53を越える確率は、Jacobiの場合は > 90%であるが、heliocentricの場合は 40 - 55%である。
現実のシステムや確率的な振る舞いは、計算法や座標系の選び方によって変わらないはずだというジレンマがある。
水星の離心率の高い初期値の場合、軌道の不安定化の確率は、heliocentricの場合は過小評価することを示唆する結果である。
しかしシステムはカオス的な振る舞いをするため、結果の解釈には統計的な議論が必須となる。
小さな初期条件の違いは、リアプノフ時間の間に指数関数的に増大してしまう。内側の惑星に対しては、ほんの 5 Myr程度の時間で増大してしまう。
初期座標のわずか 1 mmの違いが、163 Myr後には 1 AUの違いとなってしまうため、~100 Myr以上の時間を越えて系の状態を予言するのは根本的に不可能である。そのため統計的な議論が必須となる。
Lasker & Gostineau (2009)らの計算によると、1%の確率で木星の離心率が増加して内側の惑星軌道が不安定化される。
この中には、巨大ガス惑星から地球型惑星への角運動量の輸送により、地球と金星の軌道が乱されて衝突するという可能性も含んでいる。
数値積分には、一部を除きシンプレクティック積分を使用している。また、一般相対論効果は加味されている。
先行研究の結果と比較するため、いくつかの高次効果は無視している。例えば、小惑星の効果、太陽系近傍を通過する別の恒星による擾乱、太陽の質量放出に伴う影響である。
また、地球-月系に関しては質点とみなして計算し、質点の位置は地球・月の重心に置いている。
それぞれの計算手法において、40パターンの軌道計算を行っている。
このパターンでは、水星の太陽からの距離を 7 cmずつずらし、最大で 7 cm × 39 = 2.73 mずらしている。
また時間刻みは水星の離心率で変化させている。
太陽系の惑星の軌道は長期にわたって安定か?という問題に対し、異なるアルゴリズムで数値計算することによって、用いる積分手法によって統計的な結果が変化するという指摘をした論文です。
太陽系の惑星は、惑星形成の段階とその直後を除けば、その後およそ46億年間は安定に存在していることは確実ですが、未来永劫安定であるという保証はどこにもありません。
数値計算をしようにも、微小な初期条件のズレが時間の経過とともに指数関数的に増加してしまうため、全く異なる結末を導くこともあります。
そのため、太陽系の惑星の軌道が今後50億年にわたってどのように進化するかをはっきりと言い当てることは根本的に困難である、ということは昔から分かっていました。
そのためたくさんのパターンを数値計算し、太陽系の将来がどうなるのかを統計的に予測する必要があります。
これまでの数値計算の結果では、太陽の寿命が尽きる50億年ほど先までは、太陽系の惑星の軌道が不安定化される確率は低いということが分かっていたため、今後50億年程度の間は統計的には安定である可能性が高いと考えられています。
あくまで統計的な結果なので、不安定化される可能性を排除できているわけではないということです。
しかしこの論文では、異なる数値計算手法を用いると、その統計的な結果にさえも影響が及ぼされるという内容でした。
arXiv:1506.07602
Zeebe (2015)
Dynamic stability of the Solar System: Statistically inconclusive results from ensemble integrations
(太陽系の力学的安定性について)
概要
太陽系はカオス系であり、長期的な軌道の安定性については統計的にしか答えることができない。例として、水星の軌道離心率が増大して、他の惑星と近接遭遇したり衝突する可能性は1%程度であると推定されている。
しかしこの値の正確性についてはほとんど分かっていない。
ここでは、およそ5 Gyr (50億年)に渡って8つの惑星と冥王星の運動方程式を積分して軌道の計算を行った。計算には一般相対論的な効果も含まれている。
結果として、水星の軌道離心率の進化については、異なる数値アルゴリズムは異なる統計的結果を導くことが分かった。
例として水星の軌道離心率を0.21として計算を開始した場合、5 Gyrの間の水星の軌道離心率の最大値は、heliocentricなsymplectic ensemble integrationを用いた場合、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算結果よりも大きくなる。
それに対し、水星の離心率を将来取りうる値である0.53として計算をスタートした場合、その後 500 Myrの間の最大の離心率は、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算の方がheliocentricなsymplectic ensemble integrationよりも大きくなる。
水星の離心率が 500 Myrの期間にわたって 0.53を越える確率は、Jacobiの場合は > 90%であるが、heliocentricの場合は 40 - 55%である。
現実のシステムや確率的な振る舞いは、計算法や座標系の選び方によって変わらないはずだというジレンマがある。
水星の離心率の高い初期値の場合、軌道の不安定化の確率は、heliocentricの場合は過小評価することを示唆する結果である。
研究背景
最近は数値計算能力の向上によって長時間の軌道計算が可能となってきた。そのため太陽系の寿命と同程度、±5 Gyr程度の期間の計算が可能である。しかしシステムはカオス的な振る舞いをするため、結果の解釈には統計的な議論が必須となる。
小さな初期条件の違いは、リアプノフ時間の間に指数関数的に増大してしまう。内側の惑星に対しては、ほんの 5 Myr程度の時間で増大してしまう。
初期座標のわずか 1 mmの違いが、163 Myr後には 1 AUの違いとなってしまうため、~100 Myr以上の時間を越えて系の状態を予言するのは根本的に不可能である。そのため統計的な議論が必須となる。
Lasker & Gostineau (2009)らの計算によると、1%の確率で木星の離心率が増加して内側の惑星軌道が不安定化される。
この中には、巨大ガス惑星から地球型惑星への角運動量の輸送により、地球と金星の軌道が乱されて衝突するという可能性も含んでいる。
計算手法
ここでの数値計算では、mercury6とHNBodyを使用している。数値積分には、一部を除きシンプレクティック積分を使用している。また、一般相対論効果は加味されている。
先行研究の結果と比較するため、いくつかの高次効果は無視している。例えば、小惑星の効果、太陽系近傍を通過する別の恒星による擾乱、太陽の質量放出に伴う影響である。
また、地球-月系に関しては質点とみなして計算し、質点の位置は地球・月の重心に置いている。
それぞれの計算手法において、40パターンの軌道計算を行っている。
このパターンでは、水星の太陽からの距離を 7 cmずつずらし、最大で 7 cm × 39 = 2.73 mずらしている。
また時間刻みは水星の離心率で変化させている。
太陽系の惑星の軌道は長期にわたって安定か?という問題に対し、異なるアルゴリズムで数値計算することによって、用いる積分手法によって統計的な結果が変化するという指摘をした論文です。
太陽系の惑星は、惑星形成の段階とその直後を除けば、その後およそ46億年間は安定に存在していることは確実ですが、未来永劫安定であるという保証はどこにもありません。
数値計算をしようにも、微小な初期条件のズレが時間の経過とともに指数関数的に増加してしまうため、全く異なる結末を導くこともあります。
そのため、太陽系の惑星の軌道が今後50億年にわたってどのように進化するかをはっきりと言い当てることは根本的に困難である、ということは昔から分かっていました。
そのためたくさんのパターンを数値計算し、太陽系の将来がどうなるのかを統計的に予測する必要があります。
これまでの数値計算の結果では、太陽の寿命が尽きる50億年ほど先までは、太陽系の惑星の軌道が不安定化される確率は低いということが分かっていたため、今後50億年程度の間は統計的には安定である可能性が高いと考えられています。
あくまで統計的な結果なので、不安定化される可能性を排除できているわけではないということです。
しかしこの論文では、異なる数値計算手法を用いると、その統計的な結果にさえも影響が及ぼされるという内容でした。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1506.06529
Lammer et al. (2015)
Origin and Stability of Exomoon Atmospheres - Implications for Habitability
(系外衛星大気の起源と安定性 居住可能性への影響)
衛星として、地球と同じ平均密度を持つ、地球質量の0.1倍、0.5倍、1倍の岩石衛星を想定する。大気の主成分は水と二酸化炭素。
大気計算として、輻射吸収、高層大気の流体モデルを用い、恒星が若い時期のsaturation phaseの際の水素分子の流出と、それに乗って散逸していくCとOを計算。
結果としては、形成後~100 Myrまでに、ハビタブルゾーン内にある0.25地球質量の衛星では大気を保持することができない。
恒星のスペクトル型とXUV radiationの進化によるが、0.25-0.5地球質量では"火星的"な環境になり、0.5地球質量以上では地球的な環境と火星的な環境の混合になる。
従って、系外衛星の表層では生命の誕生や進化が可能であるかもしれない。
(i) 系外衛星が存在する場合、現在の検出手法では0.25地球質量以上のものが検出可能である(Kipping et al. 2009)。これは火星(0.1地球質量)よりも重い値である。
(ii) 系外衛星は惑星に対して潮汐ロックされていると考えられるため、恒星年に対して1日は短い。これはM型星まわりのハビタブルゾーン内にある、恒星に対して潮汐ロックされているハビタブル惑星よりもアドバンテージがある。(潮汐ロックされている惑星の場合は、1日=1年となる)
(iii) 巨大惑星の赤道面を公転している系外衛星の方が、同じハビタブルゾーンにある地球型惑星より季節を感じやすい(Heller et al. 2011; Porter and Grundy 2011)。
(iv) 最近のケプラー宇宙望遠鏡による観測データの統計では、warm-Neptuneやガス惑星が多いことが分かっている。そのため、ハビタブルゾーン内の惑星まわりのハビタブルな系外衛星の方が、単独の地球類似の惑星より多いだろう。
しかし衛星だけではなく、トロヤ天体やparallax effects、恒星表面の黒点も似たような効果を引き起こし得る。
TTVの検出単独ではユニークな解は得られない。
同一平面上にない系の場合、TDVは速度(TDV-V)とトランジットのインパクトパラメータ(TDV-TIP)の2成分に大別できる。
・TDV-V…衛星の重力によって惑星の速度が変動することによるTDV
・TDV-TIP…重心まわりの運動によって惑星の位置が変化し、トランジット時のインパクトパラメータが変化することによるTDV
一般にTDV-V > TDV-TIPである。しかし、これらの成分から、衛星の運動方向が分かる。
軌道傾斜角が0°で円軌道の場合は、TDV-TIP成分はゼロになる。
さらに、これらの同程度の振幅のシグナルには90°の位相差があり、ユニークなsignatureとなり、TTVとTDVの組み合わせから系外衛星の存在を確定できる(Kipping 2011, Kipping et al., 2012)。
TDVとTTVの比から、系外衛星の質量を決定することができる。
Kipping et al. (2012, 2013)によると、M-dwarfまわりを公転する土星質量の惑星を回る、0.2地球質量の衛星は検出可能である。
しかし、G型星まわりのハビタブルゾーン内にある木星質量の惑星の衛星に関しては、TTV-TDV methodを用いた場合は現状のケプラー宇宙望遠鏡の精度では検出不可である。
M dwarfまわりのハビタブルゾーン内にある木星質量の惑星まわりの、スーパーアースサイズの衛星の場合は、ケプラーでも検出可能である。
また、惑星が恒星をトランジットしている最中に、衛星が惑星の手前か背後にいる、相互イベントが考えられる。
これらの2つは両方ともに食の特徴として検出できる。
この観測からは衛星の半径が分かるため、衛星の平均密度を知るための鍵となる。
また、European Extreme Large Telescope (E-ELT)では、形成間もない若く明るいガス惑星を、衛星がトランジットするのを検出可能(Heller and Albrecht 2014)。
この磁気圏の存在は、衛星表面を高エネルギー粒子から守る役割を果たすかもしれない。
例として、木星の衛星イオは~40 MHzの木星電波のトリガーになる。
火山活動のある衛星が、木星の磁気圏へのプラズマ供給源となり、電波放射をenhanceする。
Nichols (2011, 2012)によると、惑星の自転速度と恒星からのXUV放射強度によって、電波の強度は上昇する。
電波観測から、1 pc以遠の天体を検出するためには、惑星の軌道長半径は1-50 AUである必要がある。
XUV放射が現在の太陽の100-1000倍である場合は、検出限界は20 pc程度にまで延びる。
さらに惑星の自転が速い場合は、限界は50 pc程度にまで延びる。
大きな系外衛星による中心惑星の電波放射変動は、Long Wavelength Array (LWA)やLOFAR (Low Frequency Array)で検出可能である(Noyola et al. 2014)。
しかしそのためには衛星の半径は3.5地球半径程度が必要であり、これは天王星と同程度。
このサイズになると、衛星というよりは"連星惑星系"と言ったほうが近い。そのため、系外衛星の検出手法としては当面は効果的でない。
・潮汐加熱とエネルギー源
・軌道の安定性
・(惑星の)照明の効果
・ヒル安定性
・磁気的な環境
・形成シナリオ
・Biosignature
HEは、恒星からの照射と惑星からの照射、潮汐加熱を考えた時に、衛星がハビタブルな環境であるための最小の軌道間隔(惑星と衛星の距離)として定義される。
従ってハビタブルな可能性のある系外衛星は、HEよりも外側で惑星を周回している軌道を持つ必要がある。
そのほか、ロッシュ限界半径は衛星が破壊されないための限界の距離を決め、またヒル安定性は恒星-惑星-衛星系での安定な衛星の軌道を決める。
また、系外惑星には2つのクラスがあるという議論がある。
一つは惑星と同時に形成される、いわゆる規則衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストなど)と、捕獲やジャイアントインパクトで形成されるいわゆる不規則衛星(トリトン、月など)がある。
惑星と衛星は概ね同時期に形成されるため、XUV照射が強い時期がハビタビリティに与える効果は大きい。
例として、現在10 AU程度の距離にいるタイタンの場合、タイタンが1 AUまで来た場合、XUVは現在タイタンが受ける量の100倍、さらに過去はXUV放射自体が強かったため現在の10000倍にもなる。
窒素大気はXUVで散逸するため、タイタンは月のような乾燥した天体になってしまうだろう。
大きな系外衛星は、水素を主成分とした原始大気を持つだろう。原始大気の起源は、円盤起源か、もしくは水蒸気、二酸化炭素、メタンの脱ガスである。
この研究では、力学的に安定な軌道にある衛星を考える。また、ハビタブルゾーン内にあるガス惑星の周りを公転し、衛星の軌道はハビタブルエッジより外側とする。
もっとも環境が厳しい時期、つまり中心の恒星の高エネルギー放射が強い時期であるsaturation phaseに注目し、XUV saturation phase後の進化は追わない。
また、プラズマによって誘導される非熱的な大気散逸と、光化学的に生成された超熱的原子による散逸は扱わない。Lammer (2013)での議論では、初期大気に対しては恒星からのXUVによって駆動される大気散逸が最も影響が大きいため、この仮定は悪いものではない。
表面の溶融は、短寿命の放射性同位体の崩壊による崩壊熱、降着していく物質の重力エネルギーの解放による加熱などによって引き起こされる。
このようなプロセスは天体の分化と関係しており、すべての惑星や準惑星は内部が分化している。また小惑星ベスタや月、ガリレオ衛星も分化をしているが、カリストは部分的にしか分化が起きていないと考えられている。
これらの天体形成の経緯から、系外惑星周りの衛星の初期段階では、マグマオーシャンが存在したと仮定することが出来る。
初期の水の量や炭素の量はうまく制限できないため、火星・地球の初期の組成を仮定した。
また、系外惑星のサイズに関しては、平均密度を地球と同じ 5.5 g cm-3とし、質量を0.1, 0.5, 1地球質量とした。これはそれぞれ、半径が0.46, 0.8, 1地球半径に対応している。
このような大気は流体力学的に膨張し、効果的に散逸する(ハイドロダイナミックエスケープ)。
また、惑星の重力によるポテンシャルへの影響も加味している。
計算における境界条件は、lower boundaryは熱圏の底での数密度と温度を仮定する。熱圏の底の温度は 250 Kである。
また数密度はXUV吸収の光学的深さで決まり、~ 5 × 1012 cm-3である。
XUV照射の影響で水素分子は水素原子へと解離しており、またその場所での圧力は 1 μbarのオーダーである。
系外衛星の環境下においては、熱圏の底は表面から 100-1000 km程度に位置すると考えられる。
得られた数値について、
・衛星が惑星の陰に隠れている時間帯は散逸率は減ると考えられる。しかし、恒星のXUV強度の時間変動や衛星熱圏を加熱する粒子過程などのその他の不定性に比べると小さい変動である
・衛星が形成された場所によっては、衛星の平均密度は計算内で想定している地球の平均密度より小さくなることが考えられる(氷が主体となるため)。その場合は表面重力が小さくなり、大気散逸率も上昇するだろう
・また氷主体の低密度な天体は揮発性物質に富んでいるため大気の材料は多いが、その分だけ散逸の効率は上がる
という効果が考えられる。
そのため、得られた計算結果はファクター2程度の誤差がある、平均的な値だと期待される。
また、木星を公転しているカリストの軌道長半径は 25木星半径程度であるが、木星とカリストの間にあるラグランジュ点(L1)は 16.5-17木星半径の距離にある。
ラグランジュ点までの距離は小さいものだが、それでもsonic pointよりは十分外側であるため、ロッシュローブオーバーフロー(Roche lobe overflow, RLO)は大きく影響しないと考えられる。
ただし異なる距離や質量ではRLOが影響する可能性があり、これは今後の課題である。
RLOが起きた場合は、中心のガス惑星の大気に影響を与える可能性もある。
散逸していく水素ガスの中には酸素原子や炭素原子が含まれ、水素ガスと一緒に散逸していく。
また、解離で生じた重い元素がどの程度水素と一緒に散逸していくのかに加えて、脱ガスした揮発性物質がどの程度の時間大気中に気体として存在しているかのタイムスケールも重要なファクターである。
例えば、Lebrun et al. (2013)のモデルでは、マグマオーシャンの熱進化と脱ガスした大気中の揮発性物質の進化を取り扱っている。
これによると、火星、地球、金星のそれぞれにおいて、大気中の水蒸気は1, 1.5, 10 Myr経過した後に凝縮し、湖あるいは海を形成するとされた。さらに、地球型惑星が0.66 AUより内側に存在した場合は、揮発性物質は永遠に気体の状態で存在する(海が形成されない)とした。
しかしこの結果はモデル依存性があり、他のモデルでは地球の位置にある地球型惑星に対して4 Myrという値、あるいはさらに長い時間を与えている(Hamano et al. 2013など)。
こちらでは初期100 Myrの間の大型の微惑星衝突の影響も加味しているが、Lebrun et al. (2013)ではそのような効果は入っていない。
さらには衛星では、単独で存在する惑星とは違って潮汐加熱も重要なエネルギー源となりうる。
衛星に働く潮汐加熱は、衛星の軌道離心率、サイズ、軌道長半径に依存する。
そのため、ハビタブルゾーン内に存在する惑星単体に対して計算した、1.5 - 4 Myrという値は、大型の系外衛星ではより長くなる可能性が高い。
このモデルでは、炭素と酸素原子の散逸については、炭素・酸素の混合比率(mixing ratio)と、散逸大気の分別係数(fractionation factor)を用いている。
計算には二成分拡散係数が必要であり、水素と酸素の二成分拡散係数についてはZahnle & Kasting (1986)の表式に従っている。
(4.8 × 1017 T0.75 cm -1 s-1)
水素と炭素の二成分拡散係数は、上記と同様のものを使用している。
酸素と炭素の二成分拡散係数はデータが不足しているため、2× 1017 T0.75 cm -1 s-1と仮定している。
この環境下では、初期に120 barであった水蒸気の大気であっても 1 Myr以内に失われてしまい、大気中の水蒸気が凝結を始める段階である 1 - 4 Myrより早く大気を失ってしまう。
0.5地球質量の衛星の場合、恒星のsaturation phase(形成後 0.1 Gyr以内)に大気の大部分を失うが、表面重力が強く散逸が少なくなるため、湖や海を形成することが可能となる。
ただしこの計算では潮汐加熱を加味していないため、潮汐加熱が効率的である場合は"金星的"な衛星になる可能性がある。
1地球質量の衛星の場合、海が形成される可能性が高い。しかしこの結果も潮汐加熱によって変わる可能性はある。
ここでは議論されていないが重要である事項に以下のものが挙げられる。
Lichtenegger et al. (2010)とLammer et al. (2011)で議論されているような、強いXUV放射にさらされている窒素大気の安定性の問題は、系外衛星でも関係がある議論だと考えられる。
またここでは中心星に太陽型星を仮定しているが、中心星が活発なK型星やM型星であり、その周りを公転するハビタブルゾーンを考えた場合は結果が変わる。
M型星は太陽型星よりもXUVが強い時期が長く、また惑星-衛星系全体は濃い恒星風とコロナ質量放出に晒される。このような環境では大気散逸率はより大きくなり、系外惑星の大気と表層環境は異なる進化を経るだろう。
arXiv:1506.06529
Lammer et al. (2015)
Origin and Stability of Exomoon Atmospheres - Implications for Habitability
(系外衛星大気の起源と安定性 居住可能性への影響)
概要
若い太陽型星まわりのハビタブルゾーン内を公転する巨大ガス惑星の衛星を想定した大気の研究。衛星として、地球と同じ平均密度を持つ、地球質量の0.1倍、0.5倍、1倍の岩石衛星を想定する。大気の主成分は水と二酸化炭素。
大気計算として、輻射吸収、高層大気の流体モデルを用い、恒星が若い時期のsaturation phaseの際の水素分子の流出と、それに乗って散逸していくCとOを計算。
結果としては、形成後~100 Myrまでに、ハビタブルゾーン内にある0.25地球質量の衛星では大気を保持することができない。
恒星のスペクトル型とXUV radiationの進化によるが、0.25-0.5地球質量では"火星的"な環境になり、0.5地球質量以上では地球的な環境と火星的な環境の混合になる。
従って、系外衛星の表層では生命の誕生や進化が可能であるかもしれない。
系外衛星の検出方法
ハビタブルな系外衛星が面白い理由
ハビタブルな環境にある系外衛星が面白い理由としては、以下のような理由がある。(i) 系外衛星が存在する場合、現在の検出手法では0.25地球質量以上のものが検出可能である(Kipping et al. 2009)。これは火星(0.1地球質量)よりも重い値である。
(ii) 系外衛星は惑星に対して潮汐ロックされていると考えられるため、恒星年に対して1日は短い。これはM型星まわりのハビタブルゾーン内にある、恒星に対して潮汐ロックされているハビタブル惑星よりもアドバンテージがある。(潮汐ロックされている惑星の場合は、1日=1年となる)
(iii) 巨大惑星の赤道面を公転している系外衛星の方が、同じハビタブルゾーンにある地球型惑星より季節を感じやすい(Heller et al. 2011; Porter and Grundy 2011)。
(iv) 最近のケプラー宇宙望遠鏡による観測データの統計では、warm-Neptuneやガス惑星が多いことが分かっている。そのため、ハビタブルゾーン内の惑星まわりのハビタブルな系外衛星の方が、単独の地球類似の惑星より多いだろう。
Transit Timing Variation
衛星が存在する場合、惑星-衛星の共通重心まわりの運動をする。これが、トランジット時刻の変動(Transit Timing Variation, TTV)を引き起こす。しかし衛星だけではなく、トロヤ天体やparallax effects、恒星表面の黒点も似たような効果を引き起こし得る。
TTVの検出単独ではユニークな解は得られない。
Transit Duration Variation
同じく惑星-衛星の効果により、トランジットの継続時間が変動する。これがTransit Duration Variation (TDV)である。同一平面上にない系の場合、TDVは速度(TDV-V)とトランジットのインパクトパラメータ(TDV-TIP)の2成分に大別できる。
・TDV-V…衛星の重力によって惑星の速度が変動することによるTDV
・TDV-TIP…重心まわりの運動によって惑星の位置が変化し、トランジット時のインパクトパラメータが変化することによるTDV
一般にTDV-V > TDV-TIPである。しかし、これらの成分から、衛星の運動方向が分かる。
軌道傾斜角が0°で円軌道の場合は、TDV-TIP成分はゼロになる。
さらに、これらの同程度の振幅のシグナルには90°の位相差があり、ユニークなsignatureとなり、TTVとTDVの組み合わせから系外衛星の存在を確定できる(Kipping 2011, Kipping et al., 2012)。
TDVとTTVの比から、系外衛星の質量を決定することができる。
Kipping et al. (2012, 2013)によると、M-dwarfまわりを公転する土星質量の惑星を回る、0.2地球質量の衛星は検出可能である。
しかし、G型星まわりのハビタブルゾーン内にある木星質量の惑星の衛星に関しては、TTV-TDV methodを用いた場合は現状のケプラー宇宙望遠鏡の精度では検出不可である。
M dwarfまわりのハビタブルゾーン内にある木星質量の惑星まわりの、スーパーアースサイズの衛星の場合は、ケプラーでも検出可能である。
Eclipse feature
衛星が恒星の手前に存在する場合は、トランジットの"補助"としてはたらく。また、惑星が恒星をトランジットしている最中に、衛星が惑星の手前か背後にいる、相互イベントが考えられる。
これらの2つは両方ともに食の特徴として検出できる。
この観測からは衛星の半径が分かるため、衛星の平均密度を知るための鍵となる。
また、European Extreme Large Telescope (E-ELT)では、形成間もない若く明るいガス惑星を、衛星がトランジットするのを検出可能(Heller and Albrecht 2014)。
Radio emissions
系外衛星がプラズマの供給源としてはたらく場合は、惑星からの電波源としてもはたらく。また惑星の持つ強い磁気圏の同定も可能となる。この磁気圏の存在は、衛星表面を高エネルギー粒子から守る役割を果たすかもしれない。
例として、木星の衛星イオは~40 MHzの木星電波のトリガーになる。
火山活動のある衛星が、木星の磁気圏へのプラズマ供給源となり、電波放射をenhanceする。
Nichols (2011, 2012)によると、惑星の自転速度と恒星からのXUV放射強度によって、電波の強度は上昇する。
電波観測から、1 pc以遠の天体を検出するためには、惑星の軌道長半径は1-50 AUである必要がある。
XUV放射が現在の太陽の100-1000倍である場合は、検出限界は20 pc程度にまで延びる。
さらに惑星の自転が速い場合は、限界は50 pc程度にまで延びる。
大きな系外衛星による中心惑星の電波放射変動は、Long Wavelength Array (LWA)やLOFAR (Low Frequency Array)で検出可能である(Noyola et al. 2014)。
しかしそのためには衛星の半径は3.5地球半径程度が必要であり、これは天王星と同程度。
このサイズになると、衛星というよりは"連星惑星系"と言ったほうが近い。そのため、系外衛星の検出手法としては当面は効果的でない。
系外衛星のハビタビリティについて
系外衛星でのハビタビリティに関して重要だと考えられる事項に関しては以下のものがある。・潮汐加熱とエネルギー源
・軌道の安定性
・(惑星の)照明の効果
・ヒル安定性
・磁気的な環境
・形成シナリオ
・Biosignature
Habitable Edgeと軌道安定性
上記の条件の他に、恒星周りのハビタブルゾーンの考えに似た、いわゆるハビタブルエッジ (Habitable Edge, HE)がある。(Kasting et al. 1993)HEは、恒星からの照射と惑星からの照射、潮汐加熱を考えた時に、衛星がハビタブルな環境であるための最小の軌道間隔(惑星と衛星の距離)として定義される。
従ってハビタブルな可能性のある系外衛星は、HEよりも外側で惑星を周回している軌道を持つ必要がある。
そのほか、ロッシュ限界半径は衛星が破壊されないための限界の距離を決め、またヒル安定性は恒星-惑星-衛星系での安定な衛星の軌道を決める。
また、系外惑星には2つのクラスがあるという議論がある。
一つは惑星と同時に形成される、いわゆる規則衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストなど)と、捕獲やジャイアントインパクトで形成されるいわゆる不規則衛星(トリトン、月など)がある。
これまでの研究について
これまでは、衛星軌道の安定性に関する議論は多数存在した。しかし衛星大気の恒星XUV輻射に対する安定性の議論は存在しない。惑星と衛星は概ね同時期に形成されるため、XUV照射が強い時期がハビタビリティに与える効果は大きい。
例として、現在10 AU程度の距離にいるタイタンの場合、タイタンが1 AUまで来た場合、XUVは現在タイタンが受ける量の100倍、さらに過去はXUV放射自体が強かったため現在の10000倍にもなる。
窒素大気はXUVで散逸するため、タイタンは月のような乾燥した天体になってしまうだろう。
大きな系外衛星は、水素を主成分とした原始大気を持つだろう。原始大気の起源は、円盤起源か、もしくは水蒸気、二酸化炭素、メタンの脱ガスである。
この研究では、力学的に安定な軌道にある衛星を考える。また、ハビタブルゾーン内にあるガス惑星の周りを公転し、衛星の軌道はハビタブルエッジより外側とする。
もっとも環境が厳しい時期、つまり中心の恒星の高エネルギー放射が強い時期であるsaturation phaseに注目し、XUV saturation phase後の進化は追わない。
また、プラズマによって誘導される非熱的な大気散逸と、光化学的に生成された超熱的原子による散逸は扱わない。Lammer (2013)での議論では、初期大気に対しては恒星からのXUVによって駆動される大気散逸が最も影響が大きいため、この仮定は悪いものではない。
マグマオーシャンからの脱ガス
地球型惑星の形成と同様、系外衛星も形成初期は表面が溶けたマグマオーシャンの状態になっていた可能性がある。表面の溶融は、短寿命の放射性同位体の崩壊による崩壊熱、降着していく物質の重力エネルギーの解放による加熱などによって引き起こされる。
このようなプロセスは天体の分化と関係しており、すべての惑星や準惑星は内部が分化している。また小惑星ベスタや月、ガリレオ衛星も分化をしているが、カリストは部分的にしか分化が起きていないと考えられている。
これらの天体形成の経緯から、系外惑星周りの衛星の初期段階では、マグマオーシャンが存在したと仮定することが出来る。
初期の水の量や炭素の量はうまく制限できないため、火星・地球の初期の組成を仮定した。
また、系外惑星のサイズに関しては、平均密度を地球と同じ 5.5 g cm-3とし、質量を0.1, 0.5, 1地球質量とした。これはそれぞれ、半径が0.46, 0.8, 1地球半径に対応している。
ハビタブルゾーン内の系外衛星からの揮発性物質の散逸
初期の揮発性物質の脱ガスの後は、恒星からの強い短波長放射の影響で、水や二酸化炭素分子は解離する。そのため、若い系外衛星の高層大気は水素主体になると考えられる。このような大気は流体力学的に膨張し、効果的に散逸する(ハイドロダイナミックエスケープ)。
水素散逸率のモデルと境界条件
水素の散逸率を計算するため、時間に依存する1次元の流体力学モデルを用いる。このモデルでは、球対称座標系での質量、運動量、エネルギー保存の方程式を解いている。また、惑星の重力によるポテンシャルへの影響も加味している。
計算における境界条件は、lower boundaryは熱圏の底での数密度と温度を仮定する。熱圏の底の温度は 250 Kである。
また数密度はXUV吸収の光学的深さで決まり、~ 5 × 1012 cm-3である。
XUV照射の影響で水素分子は水素原子へと解離しており、またその場所での圧力は 1 μbarのオーダーである。
系外衛星の環境下においては、熱圏の底は表面から 100-1000 km程度に位置すると考えられる。
計算結果と考察
計算の結果水素の散逸率は、0.1, 0.5, 1地球質量のモデルに対してそれぞれ 2.0 × 1033 s-1, 1.0 × 1032 s-1, 4.5 × 1031 s-1となった。得られた数値について、
・衛星が惑星の陰に隠れている時間帯は散逸率は減ると考えられる。しかし、恒星のXUV強度の時間変動や衛星熱圏を加熱する粒子過程などのその他の不定性に比べると小さい変動である
・衛星が形成された場所によっては、衛星の平均密度は計算内で想定している地球の平均密度より小さくなることが考えられる(氷が主体となるため)。その場合は表面重力が小さくなり、大気散逸率も上昇するだろう
・また氷主体の低密度な天体は揮発性物質に富んでいるため大気の材料は多いが、その分だけ散逸の効率は上がる
という効果が考えられる。
そのため、得られた計算結果はファクター2程度の誤差がある、平均的な値だと期待される。
また、木星を公転しているカリストの軌道長半径は 25木星半径程度であるが、木星とカリストの間にあるラグランジュ点(L1)は 16.5-17木星半径の距離にある。
ラグランジュ点までの距離は小さいものだが、それでもsonic pointよりは十分外側であるため、ロッシュローブオーバーフロー(Roche lobe overflow, RLO)は大きく影響しないと考えられる。
ただし異なる距離や質量ではRLOが影響する可能性があり、これは今後の課題である。
RLOが起きた場合は、中心のガス惑星の大気に影響を与える可能性もある。
重い元素の散逸
水分子や二酸化炭素分子は、恒星からのUVやXUV照射によって解離していると考えられる。散逸していく水素ガスの中には酸素原子や炭素原子が含まれ、水素ガスと一緒に散逸していく。
また、解離で生じた重い元素がどの程度水素と一緒に散逸していくのかに加えて、脱ガスした揮発性物質がどの程度の時間大気中に気体として存在しているかのタイムスケールも重要なファクターである。
例えば、Lebrun et al. (2013)のモデルでは、マグマオーシャンの熱進化と脱ガスした大気中の揮発性物質の進化を取り扱っている。
これによると、火星、地球、金星のそれぞれにおいて、大気中の水蒸気は1, 1.5, 10 Myr経過した後に凝縮し、湖あるいは海を形成するとされた。さらに、地球型惑星が0.66 AUより内側に存在した場合は、揮発性物質は永遠に気体の状態で存在する(海が形成されない)とした。
しかしこの結果はモデル依存性があり、他のモデルでは地球の位置にある地球型惑星に対して4 Myrという値、あるいはさらに長い時間を与えている(Hamano et al. 2013など)。
こちらでは初期100 Myrの間の大型の微惑星衝突の影響も加味しているが、Lebrun et al. (2013)ではそのような効果は入っていない。
さらには衛星では、単独で存在する惑星とは違って潮汐加熱も重要なエネルギー源となりうる。
衛星に働く潮汐加熱は、衛星の軌道離心率、サイズ、軌道長半径に依存する。
そのため、ハビタブルゾーン内に存在する惑星単体に対して計算した、1.5 - 4 Myrという値は、大型の系外衛星ではより長くなる可能性が高い。
このモデルでは、炭素と酸素原子の散逸については、炭素・酸素の混合比率(mixing ratio)と、散逸大気の分別係数(fractionation factor)を用いている。
計算には二成分拡散係数が必要であり、水素と酸素の二成分拡散係数についてはZahnle & Kasting (1986)の表式に従っている。
(4.8 × 1017 T0.75 cm -1 s-1)
水素と炭素の二成分拡散係数は、上記と同様のものを使用している。
酸素と炭素の二成分拡散係数はデータが不足しているため、2× 1017 T0.75 cm -1 s-1と仮定している。
全体の結果と考察
結果として、火星程度の質量をもつ系外衛星の場合、大気中の揮発性成分が凝結して海を形成する段階に入る前に、初期に保持していた大気を失ってしまう。この環境下では、初期に120 barであった水蒸気の大気であっても 1 Myr以内に失われてしまい、大気中の水蒸気が凝結を始める段階である 1 - 4 Myrより早く大気を失ってしまう。
0.5地球質量の衛星の場合、恒星のsaturation phase(形成後 0.1 Gyr以内)に大気の大部分を失うが、表面重力が強く散逸が少なくなるため、湖や海を形成することが可能となる。
ただしこの計算では潮汐加熱を加味していないため、潮汐加熱が効率的である場合は"金星的"な衛星になる可能性がある。
1地球質量の衛星の場合、海が形成される可能性が高い。しかしこの結果も潮汐加熱によって変わる可能性はある。
ここでは議論されていないが重要である事項に以下のものが挙げられる。
Lichtenegger et al. (2010)とLammer et al. (2011)で議論されているような、強いXUV放射にさらされている窒素大気の安定性の問題は、系外衛星でも関係がある議論だと考えられる。
またここでは中心星に太陽型星を仮定しているが、中心星が活発なK型星やM型星であり、その周りを公転するハビタブルゾーンを考えた場合は結果が変わる。
M型星は太陽型星よりもXUVが強い時期が長く、また惑星-衛星系全体は濃い恒星風とコロナ質量放出に晒される。このような環境では大気散逸率はより大きくなり、系外惑星の大気と表層環境は異なる進化を経るだろう。

