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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.10871
Ida et al. (2018)
Slowing Down Type II Migration of Gas Giants to Match Observational Data
(観測データと一致する巨大ガス惑星のタイプ II 軌道移動の減速)
この非整合性を説明するため,Kanagawa et al. (2018) による,新しいタイプ II 惑星移動の公式を用いて巨大ガス惑星の進化について調査を行った.ガス惑星の軌道移動と成長のタイムスケール,円盤寿命の比較と,種族合成ミュレーションを用いた.
従来の惑星軌道移動モデルでは,巨大ガス惑星は原始惑星系円盤の中に明確なギャップを開け,惑星の移動は円盤のガス降着に固定されていると仮定されていた.
一方で,最近の高分解能シミュレーションでは,ギャップを形成している惑星の軌道移動は円盤のガス降着から分離していることが示さている.また Kanagawa et al. (2018) では,タイプ II 惑星移動の速度は,ギャップの中での減少した円盤ガス表面密度の中におけるタイプ I 惑星移動に他ならないことを提案している.
この新しい公式を用いると,円盤の降着が最近の MHD シミュレーションで示唆されているような円盤風によって駆動されている場合,スーパージュピター質量の惑星の場合はタイプ II 惑星移動が大きく低下することが示された.これを元にした種族合成シミュレーションでは,円盤の光蒸発のような追加の要素がなくても,スーパージュピター質量の惑星は 1 au 程度以遠に留まることが示された.
従って,重い巨大ガス惑星が 1 au 程度以遠におけるパイルアップの謎は,もし惑星の軌道移動に関する新しい公式が正しいことが確認され,また円盤風駆動による円盤降着が支配的である場合は,解決されるだろう.
arXiv:1807.10871
Ida et al. (2018)
Slowing Down Type II Migration of Gas Giants to Match Observational Data
(観測データと一致する巨大ガス惑星のタイプ II 軌道移動の減速)
概要
視線速度サーベイで得られた系外惑星系の巨大ガス惑星の質量と軌道長半径分布では,スーパージュピター質量の惑星が 1 au 程度以遠に多く存在している (パイルアップしている) ことが分かっている.その一方で,木星質量やサブジュピター質量の惑星は,~ 0.03 au から 1 au 以遠までの広い範囲に分布している.この特徴は,理論的な予測ではまだ説明できていない.この非整合性を説明するため,Kanagawa et al. (2018) による,新しいタイプ II 惑星移動の公式を用いて巨大ガス惑星の進化について調査を行った.ガス惑星の軌道移動と成長のタイムスケール,円盤寿命の比較と,種族合成ミュレーションを用いた.
従来の惑星軌道移動モデルでは,巨大ガス惑星は原始惑星系円盤の中に明確なギャップを開け,惑星の移動は円盤のガス降着に固定されていると仮定されていた.
一方で,最近の高分解能シミュレーションでは,ギャップを形成している惑星の軌道移動は円盤のガス降着から分離していることが示さている.また Kanagawa et al. (2018) では,タイプ II 惑星移動の速度は,ギャップの中での減少した円盤ガス表面密度の中におけるタイプ I 惑星移動に他ならないことを提案している.
この新しい公式を用いると,円盤の降着が最近の MHD シミュレーションで示唆されているような円盤風によって駆動されている場合,スーパージュピター質量の惑星の場合はタイプ II 惑星移動が大きく低下することが示された.これを元にした種族合成シミュレーションでは,円盤の光蒸発のような追加の要素がなくても,スーパージュピター質量の惑星は 1 au 程度以遠に留まることが示された.
従って,重い巨大ガス惑星が 1 au 程度以遠におけるパイルアップの謎は,もし惑星の軌道移動に関する新しい公式が正しいことが確認され,また円盤風駆動による円盤降着が支配的である場合は,解決されるだろう.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.10298
Yu et al. (2018)
EPIC 246851721 b: A Tropical Jupiter Transiting a Rapidly Rotating Star in a Well-Aligned Orbit
(EPIC 246851721b:よく揃った軌道で高速自転星をトランジットするトロピカルジュピター)
この惑星は ”tropical” な木星型惑星であり,軌道周期は 6.18 日で,明るい恒星 EPIC 246851721 の周りを公転している.ケプラーの K2 ミッションと地上からの測光観測,視線速度,ドップラートモグラフィー,補償光学撮像で惑星であることを確認した.
中心星は高速で自転していることが示唆され,天球上に投影した自転速度は 77.65 km/s である.F 型の矮星であり,有効温度は 6189 K,1.624 太陽半径,1.324 太陽質量である.
惑星半径は 1.004 木星半径で,質量の 3σ の上限は 5.75 木星質量であった.
ドップラートモグラフィーの測定からは,spin-orbit angle (恒星の自転軸と惑星の公転軸の成す角度) は -1.48° と小さく,両者の軸は揃っていることが判明した.角度の測定が得られたことから,この恒星は傾斜角が分かっている惑星系のうち,軌道周期が 5 日より長い木星型惑星を持つ恒星としては 4 番目に高温な恒星となった.
光度曲線に見られる,黒点による変動と思われる準周期的なシグナルを用いて,恒星の自転周期を推定した.それを元にして,真の傾斜角は 3.4° であると推定した.この 0° に近い傾斜角は,潮汐減衰の結果として到達したものではなく,形成初期からの性質であるという可能性についても議論した.
中心星は今回検出された惑星の他に,重力的に束縛された恒星の伴星を持つ.これは 0.4 太陽質量の M 型矮星であり,射影距離は 2100 AU である.しかしこの伴星はおそらく,EPIC 246851721b を高軌道離心率の Kozai-Lidov migration を介して現在の軌道に移動させることは出来ないだろう.
等級:V = 11.439
スペクトル型:F5V
質量:1.324 太陽質量
半径:1.624 太陽半径
光度:3.48 太陽光度
有効温度:6189 K
金属量:[Fe/H] = 0.139
年齢:30.9 億歳
距離:343.7 pc
半径:1.004 木星半径
軌道長半径:0.07239 AU
平衡温度:1413 K
推定される上限質量:5.75 木星質量
arXiv:1807.10298
Yu et al. (2018)
EPIC 246851721 b: A Tropical Jupiter Transiting a Rapidly Rotating Star in a Well-Aligned Orbit
(EPIC 246851721b:よく揃った軌道で高速自転星をトランジットするトロピカルジュピター)
概要
ケプラー K2 ミッションのデータ中から,系外惑星 EPIC 246851721b の発見を報告する,この惑星は ”tropical” な木星型惑星であり,軌道周期は 6.18 日で,明るい恒星 EPIC 246851721 の周りを公転している.ケプラーの K2 ミッションと地上からの測光観測,視線速度,ドップラートモグラフィー,補償光学撮像で惑星であることを確認した.
中心星は高速で自転していることが示唆され,天球上に投影した自転速度は 77.65 km/s である.F 型の矮星であり,有効温度は 6189 K,1.624 太陽半径,1.324 太陽質量である.
惑星半径は 1.004 木星半径で,質量の 3σ の上限は 5.75 木星質量であった.
ドップラートモグラフィーの測定からは,spin-orbit angle (恒星の自転軸と惑星の公転軸の成す角度) は -1.48° と小さく,両者の軸は揃っていることが判明した.角度の測定が得られたことから,この恒星は傾斜角が分かっている惑星系のうち,軌道周期が 5 日より長い木星型惑星を持つ恒星としては 4 番目に高温な恒星となった.
光度曲線に見られる,黒点による変動と思われる準周期的なシグナルを用いて,恒星の自転周期を推定した.それを元にして,真の傾斜角は 3.4° であると推定した.この 0° に近い傾斜角は,潮汐減衰の結果として到達したものではなく,形成初期からの性質であるという可能性についても議論した.
中心星は今回検出された惑星の他に,重力的に束縛された恒星の伴星を持つ.これは 0.4 太陽質量の M 型矮星であり,射影距離は 2100 AU である.しかしこの伴星はおそらく,EPIC 246851721b を高軌道離心率の Kozai-Lidov migration を介して現在の軌道に移動させることは出来ないだろう.
パラメータ
EPIC 246851721
別名:TYC 1283-739-1等級:V = 11.439
スペクトル型:F5V
質量:1.324 太陽質量
半径:1.624 太陽半径
光度:3.48 太陽光度
有効温度:6189 K
金属量:[Fe/H] = 0.139
年齢:30.9 億歳
距離:343.7 pc
EPIC 246851721b
軌道周期:6.180242 日半径:1.004 木星半径
軌道長半径:0.07239 AU
平衡温度:1413 K
推定される上限質量:5.75 木星質量
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.10621
Khalafinejad et al. (2018)
The atmosphere of WASP-17b: Optical high-resolution transmission spectroscopy
(WASP-17b の大気:可視光高分散透過分光観測)
ここでは,単一のトランジットの観測から得られた 37 の高分散スペクトルを解析した.観測は 6.5 m Magellan Telescopes の MIKE 装置を用いた.
Hα 線と Ca II 赤外三重項線の時間変動の解析から,恒星フレアの活動による影響を除去した.その結果,それぞれのナトリウムのラインの中心周辺の波長バンドで超過吸収を検出した (light curve approach).
差分周辺減光と,光度曲線における惑星視線速度の変化をモデリングした.また透過スペクトル中のナトリウムの吸収を直接解析した.これはトランジット中に得られたスペクトルをトランジット外のスペクトルで割ることで得られるものである (division approach).
その後,測定結果を輻射輸送大気モデルと比較した.解析の結果,大気中のナトリウムを暫定的に検出した.前者の light curve approach の手法では吸収は 1.7 ± 0.9%,division approach では 1.3 ± 0.6% と推定された.
測定結果をシンプルな大気モデルと比較した結果,大気温度を 1550 K,0.1 bar での惑星半径を 1.81 木星半径と推定した.
arXiv:1807.10621
Khalafinejad et al. (2018)
The atmosphere of WASP-17b: Optical high-resolution transmission spectroscopy
(WASP-17b の大気:可視光高分散透過分光観測)
概要
WASP-17b の大気中からナトリウムの D 線を検出することを目指して,トランジット時の大気透過スペクトルを観測した.ここでは,単一のトランジットの観測から得られた 37 の高分散スペクトルを解析した.観測は 6.5 m Magellan Telescopes の MIKE 装置を用いた.
Hα 線と Ca II 赤外三重項線の時間変動の解析から,恒星フレアの活動による影響を除去した.その結果,それぞれのナトリウムのラインの中心周辺の波長バンドで超過吸収を検出した (light curve approach).
差分周辺減光と,光度曲線における惑星視線速度の変化をモデリングした.また透過スペクトル中のナトリウムの吸収を直接解析した.これはトランジット中に得られたスペクトルをトランジット外のスペクトルで割ることで得られるものである (division approach).
その後,測定結果を輻射輸送大気モデルと比較した.解析の結果,大気中のナトリウムを暫定的に検出した.前者の light curve approach の手法では吸収は 1.7 ± 0.9%,division approach では 1.3 ± 0.6% と推定された.
測定結果をシンプルな大気モデルと比較した結果,大気温度を 1550 K,0.1 bar での惑星半径を 1.81 木星半径と推定した.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.10652
Espinoza et al. (2018)
ACCESS: A featureless optical transmission spectrum for WASP-19b from Magellan/IMACS
(ACCESS:Magellan/IMACS による WASP-19b の特徴の欠けた可視光透過スペクトル)
ここでは,Magellan/IMACS を用いた 6 回の詳細なトランジット分光観測の結果について報告する.このうち 5 回は 0.45 - 0.9 µm の全ての可視光ウィンドウでの観測を行い,1 回は 0.4 - 0.55 µm の青い可視光範囲で行った.
今回得られたデータセットのうち 5 セットは,この惑星の大気透過スペクトルはいかなるスペクトルの特徴も示さないという結果と整合的であったが,残りの 1 つは波長の関数としてスペクトルが有意な傾きを示した.これは,恒星の光球における非一様性に起因する結果だと解釈できる.
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた赤外線観測と合わせた解析より,今回の可視光/近赤外での測定では,この惑星大気の高高度に雲が存在するという過去の研究と一致する結果を得た.
半解析的な大気復元手法を用い,惑星と恒星のスペクトル特徴の両方を考慮し,この惑星における水の存在度は太陽と整合的であることを見出した.また TiO や Na と言った可視光での吸収体が太陽存在度未満である強い証拠も得られた.
可視光領域でのスペクトルの強い傾きが検出されなかったということは,もし大気中にヘイズが存在する場合,過去の研究で示唆されているよりもずっと弱いことを示唆している.
さらに,データセット中には,惑星が恒星表面のスポットを横断するイベントが 2 回検出された.このうち 1 回は,恒星表面の明るい点を惑星が横断するイベントが明確に検出された初めて例の一つである.
惑星の半径は 1.410 木星半径,質量は 1.139 木星質量である (Mancini et al. 2013).
この惑星は半径が膨張していると言うだけでなく,中心星に近いため,平衡温度が 2100 K と高い.このため大気のスケールハイトは 510 km と大きく,大気による透過スペクトルの強度は 200 - 600 ppm になる.実際に,ハッブル宇宙望遠鏡で水蒸気が大気中に 300 ppm の強度で検出されている (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016,Iyer et al. 2016).
Sedaghati et al. (2017) では,透過スペクトルの特徴について,(1) 強い散乱スロープ,(2) 強い TiO のシグナル,(3) 近赤外での水の特徴 について報告している.これらの結果は,この惑星は可視光では晴れた大気を持っていることを示している.
この結果は,過去のハッブルでの低分散観測 (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016) とは対照的である,過去の観測では比較的特徴のないスペクトルを示しており,大気中に雲が存在することや,惑星大気中の TiO による吸収が欠乏していることを示唆している.
しかし興味深いことに,2017 年 2 月の観測では,短波長側でトランジット深さが深くなる傾向が見られた.これは,恒星表面の非一様性に起因する可能性がある.そのため,Sedaghati et al. (2017) で報告されたデータも,中心星の黒点や白斑などによって生成された可能性がある.
2014 年のイベントでは,サイズが恒星半径の 0.21 倍で,温度が周囲の光球よりも 192 K 低い領域を WASP-19b が横断する様子が検出された.
2017 年のイベントでは,サイズが 0.25 恒星半径,温度が周囲より 137 K 「高い」領域を横断する様子が検出された.
このスポットのサイズは非常に大きい.例えば太陽の場合,これまでで最も大きかった黒点は太陽半径の ~ 0.1 倍である (最近の 22 年の太陽サイクルで最も大きかった黒点 AR 2192 のサイズ).
しかしこのサイズのスポットは,この恒星にとっては非常に珍しいというわけではなさそうである.過去の観測でも,同程度のサイズのスポットが検出されている.ただし過去の報告ではスポットと周囲の温度差は大きく,Mancini et al. (2013) ではサイズが 0.1651 恒星半径で,周囲より 683 K の温度低下が報告されている.
arXiv:1807.10652
Espinoza et al. (2018)
ACCESS: A featureless optical transmission spectrum for WASP-19b from Magellan/IMACS
(ACCESS:Magellan/IMACS による WASP-19b の特徴の欠けた可視光透過スペクトル)
概要
WASP-19b は短周期 (0.94 日) のトランジット系外惑星であり,透過スペクトルを観測する対象として適している.これは,この惑星の大気スケールハイトが大きく (~ 500 km),また平衡温度が高い (~ 2100 K) ことが要因である.ここでは,Magellan/IMACS を用いた 6 回の詳細なトランジット分光観測の結果について報告する.このうち 5 回は 0.45 - 0.9 µm の全ての可視光ウィンドウでの観測を行い,1 回は 0.4 - 0.55 µm の青い可視光範囲で行った.
今回得られたデータセットのうち 5 セットは,この惑星の大気透過スペクトルはいかなるスペクトルの特徴も示さないという結果と整合的であったが,残りの 1 つは波長の関数としてスペクトルが有意な傾きを示した.これは,恒星の光球における非一様性に起因する結果だと解釈できる.
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた赤外線観測と合わせた解析より,今回の可視光/近赤外での測定では,この惑星大気の高高度に雲が存在するという過去の研究と一致する結果を得た.
半解析的な大気復元手法を用い,惑星と恒星のスペクトル特徴の両方を考慮し,この惑星における水の存在度は太陽と整合的であることを見出した.また TiO や Na と言った可視光での吸収体が太陽存在度未満である強い証拠も得られた.
可視光領域でのスペクトルの強い傾きが検出されなかったということは,もし大気中にヘイズが存在する場合,過去の研究で示唆されているよりもずっと弱いことを示唆している.
さらに,データセット中には,惑星が恒星表面のスポットを横断するイベントが 2 回検出された.このうち 1 回は,恒星表面の明るい点を惑星が横断するイベントが明確に検出された初めて例の一つである.
WASP-19 系について
WASP-19b の特徴
WASP-19 は,軌道周期 0.94 日の短周期惑星 WASP-19b を持つ (Hebb et al. 2010).スペクトル型は G8V である.惑星の半径は 1.410 木星半径,質量は 1.139 木星質量である (Mancini et al. 2013).
この惑星は半径が膨張していると言うだけでなく,中心星に近いため,平衡温度が 2100 K と高い.このため大気のスケールハイトは 510 km と大きく,大気による透過スペクトルの強度は 200 - 600 ppm になる.実際に,ハッブル宇宙望遠鏡で水蒸気が大気中に 300 ppm の強度で検出されている (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016,Iyer et al. 2016).
Sedaghati et al. (2017) による透過スペクトルの報告
この論文の準備中に,Sedaghati et al. (2017) が Very Large Telescope (VLT) を用いた可視光透過スペクトルの観測結果について報告している.Sedaghati et al. (2017) では,透過スペクトルの特徴について,(1) 強い散乱スロープ,(2) 強い TiO のシグナル,(3) 近赤外での水の特徴 について報告している.これらの結果は,この惑星は可視光では晴れた大気を持っていることを示している.
この結果は,過去のハッブルでの低分散観測 (Huitson et al. 2013,Sing et al. 2016) とは対照的である,過去の観測では比較的特徴のないスペクトルを示しており,大気中に雲が存在することや,惑星大気中の TiO による吸収が欠乏していることを示唆している.
議論
スペクトルの特徴と恒星表面の非一様性
観測の結果,WASP-19b の大気透過スペクトルは特徴に欠けていると結論付けられる.これは Sedaghati et al. (2017) で報告された内容とは異なる.また,青い波長側 (短波長側) での散乱スロープは見られないという結果が得られた.しかし興味深いことに,2017 年 2 月の観測では,短波長側でトランジット深さが深くなる傾向が見られた.これは,恒星表面の非一様性に起因する可能性がある.そのため,Sedaghati et al. (2017) で報告されたデータも,中心星の黒点や白斑などによって生成された可能性がある.
恒星のスポットを横断するイベント
また,恒星上のスポットを惑星が横断するイベントも検出された.2014 年のイベントでは,サイズが恒星半径の 0.21 倍で,温度が周囲の光球よりも 192 K 低い領域を WASP-19b が横断する様子が検出された.
2017 年のイベントでは,サイズが 0.25 恒星半径,温度が周囲より 137 K 「高い」領域を横断する様子が検出された.
このスポットのサイズは非常に大きい.例えば太陽の場合,これまでで最も大きかった黒点は太陽半径の ~ 0.1 倍である (最近の 22 年の太陽サイクルで最も大きかった黒点 AR 2192 のサイズ).
しかしこのサイズのスポットは,この恒星にとっては非常に珍しいというわけではなさそうである.過去の観測でも,同程度のサイズのスポットが検出されている.ただし過去の報告ではスポットと周囲の温度差は大きく,Mancini et al. (2013) ではサイズが 0.1651 恒星半径で,周囲より 683 K の温度低下が報告されている.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.06973
Lendl et al. (2018)
WASP-147b, 160Bb, 164b and 165b: two hot Saturns and two Jupiters, including two planets with metal-rich hosts
(WASP-147b, 160Bb, 164b と 165b:2 つのホットサターンと 2 つの木星型惑星,金属量豊富な主星を持つ 2 つの惑星を含む)
スペクトル型:G4
有効温度:5702 K
金属量:[Fe/H] = 0.092
質量:1.044 太陽質量
半径:1.429 太陽半径
年齢:84.7 億歳
半径:1.115 木星半径
質量:0.275 木星質量
密度:0.198 木星密度
平衡温度:1404 K
中心星はやや年老いており,主系列段階から外れ始めている.恒星進化モデルからは年齢は 85 億歳と推定される.この年齢は,リチウムの存在度の低さによっても裏付けられる.
惑星は,この質量範囲としては最も強く輻射を受けている部類である.惑星質量を考慮すると,この惑星は三角形状の sub-Saturn desert (土星より軽い惑星が欠乏しているパラメータ領域) の内側の突起部分に位置している.この惑星欠乏領域は,中心星の輻射による惑星大気の侵食によって形成されると考えられているものである.
この惑星は低質量で低密度であるため,透過光分光観測の良いターゲットである.大気スケールハイトからは,大気によるトランジット深さの変化は 249 ppm と予測される,これは,地上と宇宙空間からの観測精度の範囲内に十分入っている.
スペクトル型:K0V
有効温度:5302 K
金属量:[Fe/H] = 0.389
質量:0.89 太陽質量
半径:0.872 太陽半径
年齢:82.4 億歳
半径:1.093 木星半径
質量:0.281 木星質量
密度:0.214 木星密度
平衡温度:1119 K
中心星は金属量が豊富な恒星であり.またほぼ等質量の実視連星を成している.中心星は主系列段階にいる.
惑星の性質としては WASP-147b に類似しているが,中心星は非常に金属量が多く,WASP-147 は太陽金属量に近いという違いがある.
大気スケールハイトより,大気によるトランジット深さの変化量は 338 ppm と推定される.
現在のところ,透過スペクトルが特徴付けられているホットジュピターの中で金属量が WASP-160B よりも多い恒星を公転しているのは XO-2b のみであり,この惑星では Na と K の両方が検出されている (Burke et al. 2007,Sing et al. 2011).
スペクトル型:K0V
有効温度:5400 K
金属量:[Fe/H] = 0.15
質量:0.89 太陽質量
半径:0.95 太陽半径
年齢:118 億歳
連星間距離 8060 AU
スペクトル型:G2V
有効温度:5806 K
金属量:[Fe/H] = -0.01
質量:0.946 太陽質量
半径:0.932 太陽半径
年齢:40.8 億歳 (Gyrochronology による推定は 23.2 億歳)
半径:1.128 木星半径
質量:2.13 木星質量
密度:1.48 木星密度
平衡温度:1610 K
観測のシグナルノイズ比 (S/N) が良くないため,恒星の特性は他の 3 つと比べるとあまり良く特徴付けできなかった.
惑星質量が大きく,恒星に近接した軌道にあるため,惑星は潮汐散逸を介した軌道崩壊の最中である.潮汐の Q 値を \(\log Q'_{s}\) = 8.24 と仮定すると,潮汐散逸による軌道崩壊の残りの寿命は 130 億年となる.そのため,恒星の主系列の寿命の間には,潮汐散逸によって軌道長半径が劇的に縮小することはない.
しかし惑星が近接軌道であることは,惑星大気の特徴付けを行う観測には有利となる.この惑星では,惑星自身からの放射光の分光観測が有望である.惑星の掩蔽 (二次食) の深さは,中心星から受け取る熱が惑星で完全に分配されている場合は 440 ppm,中間的な放射の場合は 1125 ppm と予測される.
スペクトル型:G6
有効温度:5599 K
金属量:[Fe/H] = 0.33
質量:1.248 太陽質量
半径:1.75 太陽半径
年齢:47.7 億歳
半径:1.26 木星半径
質量:0.658 木星質量
密度:0.33 木星密度
平衡温度:1624 K
この惑星の質量,半径,周期は,極めてよく研究されている天体である HD 209458b と類似している.ただし中心星が主系列星を離れ始めているため,受ける輻射はより強い.
中心星は金属量が豊富である.WASP-160B と WASP-165 は,トランジットするホットジュピターを持つ恒星の中では最も金属量が豊富な 2 つである.
arXiv:1807.06973
Lendl et al. (2018)
WASP-147b, 160Bb, 164b and 165b: two hot Saturns and two Jupiters, including two planets with metal-rich hosts
(WASP-147b, 160Bb, 164b と 165b:2 つのホットサターンと 2 つの木星型惑星,金属量豊富な主星を持つ 2 つの惑星を含む)
概要
WASP サーベイによる,4 つのトランジットするホットジュピターの発見を報告する.パラメータ
WASP-147 系
WASP-147
距離:426 pcスペクトル型:G4
有効温度:5702 K
金属量:[Fe/H] = 0.092
質量:1.044 太陽質量
半径:1.429 太陽半径
年齢:84.7 億歳
WASP-147b
軌道周期:4.60273 日半径:1.115 木星半径
質量:0.275 木星質量
密度:0.198 木星密度
平衡温度:1404 K
WASP-147 系の特徴
惑星は土星質量に近い.中心星はやや年老いており,主系列段階から外れ始めている.恒星進化モデルからは年齢は 85 億歳と推定される.この年齢は,リチウムの存在度の低さによっても裏付けられる.
惑星は,この質量範囲としては最も強く輻射を受けている部類である.惑星質量を考慮すると,この惑星は三角形状の sub-Saturn desert (土星より軽い惑星が欠乏しているパラメータ領域) の内側の突起部分に位置している.この惑星欠乏領域は,中心星の輻射による惑星大気の侵食によって形成されると考えられているものである.
この惑星は低質量で低密度であるため,透過光分光観測の良いターゲットである.大気スケールハイトからは,大気によるトランジット深さの変化は 249 ppm と予測される,これは,地上と宇宙空間からの観測精度の範囲内に十分入っている.
WASP-160B 系
WASP-160B
距離:284 pcスペクトル型:K0V
有効温度:5302 K
金属量:[Fe/H] = 0.389
質量:0.89 太陽質量
半径:0.872 太陽半径
年齢:82.4 億歳
WASP-160Bb
軌道周期:3.7684950 日半径:1.093 木星半径
質量:0.281 木星質量
密度:0.214 木星密度
平衡温度:1119 K
WASP-160B 系の特徴
この惑星の質量と半径は WASP-147b に近いが,受けている輻射量は小さい.中心星は金属量が豊富な恒星であり.またほぼ等質量の実視連星を成している.中心星は主系列段階にいる.
惑星の性質としては WASP-147b に類似しているが,中心星は非常に金属量が多く,WASP-147 は太陽金属量に近いという違いがある.
大気スケールハイトより,大気によるトランジット深さの変化量は 338 ppm と推定される.
現在のところ,透過スペクトルが特徴付けられているホットジュピターの中で金属量が WASP-160B よりも多い恒星を公転しているのは XO-2b のみであり,この惑星では Na と K の両方が検出されている (Burke et al. 2007,Sing et al. 2011).
WASP-160A
距離:282 pcスペクトル型:K0V
有効温度:5400 K
金属量:[Fe/H] = 0.15
質量:0.89 太陽質量
半径:0.95 太陽半径
年齢:118 億歳
連星間距離 8060 AU
WASP-164 系
WASP-164
距離:322 pcスペクトル型:G2V
有効温度:5806 K
金属量:[Fe/H] = -0.01
質量:0.946 太陽質量
半径:0.932 太陽半径
年齢:40.8 億歳 (Gyrochronology による推定は 23.2 億歳)
WASP-164b
軌道周期:1.7771255 日半径:1.128 木星半径
質量:2.13 木星質量
密度:1.48 木星密度
平衡温度:1610 K
WASP-164 系の特徴
WASP-164b は重い惑星である.中心星に非常に近い位置を公転しているが,潮汐的に安定な軌道である.観測のシグナルノイズ比 (S/N) が良くないため,恒星の特性は他の 3 つと比べるとあまり良く特徴付けできなかった.
惑星質量が大きく,恒星に近接した軌道にあるため,惑星は潮汐散逸を介した軌道崩壊の最中である.潮汐の Q 値を \(\log Q'_{s}\) = 8.24 と仮定すると,潮汐散逸による軌道崩壊の残りの寿命は 130 億年となる.そのため,恒星の主系列の寿命の間には,潮汐散逸によって軌道長半径が劇的に縮小することはない.
しかし惑星が近接軌道であることは,惑星大気の特徴付けを行う観測には有利となる.この惑星では,惑星自身からの放射光の分光観測が有望である.惑星の掩蔽 (二次食) の深さは,中心星から受け取る熱が惑星で完全に分配されている場合は 440 ppm,中間的な放射の場合は 1125 ppm と予測される.
WASP-165 系
WASP-165
距離:583 pcスペクトル型:G6
有効温度:5599 K
金属量:[Fe/H] = 0.33
質量:1.248 太陽質量
半径:1.75 太陽半径
年齢:47.7 億歳
WASP-165b
軌道周期:3.465509 日半径:1.26 木星半径
質量:0.658 木星質量
密度:0.33 木星密度
平衡温度:1624 K
WASP-165 系の特徴
この惑星は古典的なホットジュピターであり,ホットジュピターに典型的なパラメータを持つ.この惑星の質量,半径,周期は,極めてよく研究されている天体である HD 209458b と類似している.ただし中心星が主系列星を離れ始めているため,受ける輻射はより強い.
中心星は金属量が豊富である.WASP-160B と WASP-165 は,トランジットするホットジュピターを持つ恒星の中では最も金属量が豊富な 2 つである.
天文・宇宙物理関連メモ vol.175 Sing et al. (2015) ホットジュピターの雲有り/無し大気の連続性