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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.09696
Lin et al. (2018)
Evidence for Color Dichotomy in the Primordial Neptunian Trojan Population
(始原的な海王星トロヤ群における色の二分性の兆候)

概要

現在の初期太陽系進化のモデルでは,木星と海王星のトロヤ群小惑星の安定なグループは,巨大惑星が外側に移動する最中に原始微惑星円盤から惑星との共鳴に捕獲されたとされている.その結果,木星と海王星のトロヤ群天体の両方は,生き残りが太陽系外縁天体 (trans-Neptunian objects, TNOs) の一員となっている,太陽系の始原的な天体と共通の起源を有していると考えられる.

力学的に冷たい (軌道傾斜角が低く,軌道離心率が小さい) 古典的な太陽系外縁天体は表面が非常に赤っぽいという特徴がある.一方で,力学的に励起されていて熱い (軌道傾斜角が高く,軌道離心率が大きい) 太陽系外縁天体の集団は,表面が赤っぽいものと青っぽいものの両方を含んでいる.

太陽系外縁天体とは対照的に,木星と海王星のトロヤ群天体は青っぽい色を示すことが観測から分かっている.
木星のトロヤ群天体に非常に赤い表面を持つ天体が存在しないことは,太陽から 5 AU の距離での太陽輻射によって,天体表面から揮発性物質が揮発したと考えることで容易に説明できる.一方で,海王星のトロヤ群天体に赤っぽい天体が存在していないことは謎であり,これらの天体形成モデルに疑問を投げかけている.

ここでは Dark Energy Survey (DES) による,海王星のラグランジュ点 L4 に存在し力学的に安定な軌道を持つ,新しい 2 つのトロヤ群小惑星の発見を報告する.

発見されたのは,2013 VX302014 UU240 である.どちらも,軌道傾斜角は 30° より大きく,これまでに知られている安定な海王星トロヤ群小惑星の中では,最も軌道傾斜角が大きい.

さらに,これら 2 天体の表面の色を測定した.加えて,これまでに DES によって観測されている,力学的に安定なその他の海王星トロヤ群小惑星 3 つも観測した.

観測の結果,2013 VX30 は非常に赤い色をしていることが判明した海王星トロヤ群天体としては,赤っぽい色をしているものが発見されるのは初めてである.そのためこの天体は,海王星トロヤ群天体と太陽系外縁天体の間の “ミッシングリンク” である可能性がある.

また,DES での太陽系外縁天体の検出効率のシミュレーションを用いて,海王星の L4 ラグランジュ点には,絶対等級 Hr < 10 の天体が 162 ± 73 個存在すると推定した.さらに,表面が青っぽいものと赤っぽいものの個数比は,5:1 より高いと推定した.
この結果に基づき,赤い海王星トロヤ群小惑星のあり得る起源について,またそれらの形成史への応用について議論を行った.

パラメータ

2013 VX30
軌道長半径:30.08760 AU
軌道離心率:0.083744
軌道傾斜角:31.258593°
直径:~ 140 km
2014 UU240
軌道長半径:30.05716 AU
軌道離心率:0.048448
軌道傾斜角:35.744341°
直径:~ 150 km

(2 天体とも,直径の推定時にはアルベド 0.05 を仮定)

議論

今回,赤い海王星トロヤ群小惑星が発見されたことは,これらが太陽系外縁天体と共通の起源を持っているという仮説と整合的であるが,それでも問題は残っている.

海王星トロヤ群天体における,青い天体と赤い天体の個数比は 5:1 かそれ以上であると推定され,赤い天体の個数が非常に低い.母体となったとされる太陽系外縁天体では,青い天体と赤い天体はほぼ同じ数が存在する.

ここでは,海王星トロヤ群天体ではなぜ青い天体が多いのかについての考察を行う.

一つの可能性は,海王星トロヤ群小惑星と冥王星族天体 (海王星と 3:2 平均運動共鳴に入っている天体) の衝突に原因があるとする説である (Almeida et al. 2009).この説は,冥王星族の天体のサイズ-軌道傾斜角の依存性と,色-軌道傾斜角の依存性を説明できる.

海王星トロヤ群天体と冥王星族天体の遭遇は,トロヤ群天体同士の遭遇や,冥王星族天体同士の遭遇よりも発生しやすい可能性があり,軌道傾斜角が小さい冥王星族天体は,軌道傾斜角が大きな冥王星族天体よりも海王星トロヤ群天体と衝突しやすい.
また低軌道傾斜角の海王星トロヤ群天体は冥王星族天体と衝突しやすいと予想でき,衝突を経験したこれらの天体は,初期に持っていた非常に赤い色を衝突に酔って失う傾向がある.

この場合,初期の非常に赤い表面は,いくつかの高軌道傾斜角の海王星トロヤ群天体の表面に残っている可能性がある.特に,小さいトロヤ群天体は傾斜角分布が冥王星族天体よりも大きいため,小さい天体は衝突率が低い可能性がある.

実際に,今回新しく発見された赤い天体 2013 VX30 は,既知の海王星トロヤ群天体の中で 2 番目に軌道傾斜角が大きい.そのため,この天体は冥王星族天体との衝突を起こさず,初期の非常に赤い表面を現在まで保っている天体である可能性がある.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.08799
Bryan et al. (2018)
An Excess of Jupiter Analogs in Super-Earth Systems
(スーパーアース系におけるジュピターアナログの超過)

概要

視線速度観測を用いて,スーパーアース (1 - 4 地球半径,1 - 10 地球質量) を内側に持つ惑星系における,重い長周期の巨大ガス惑星の探査を行った.この探査の目的は,このポピュレーションの惑星の,形成と移動シナリオに制約を与えることである.

65 個の恒星の視線速度データを用いて,既に公開されている視線速度データセット全てを整合的に再フィットした.またそのうち 9 個の惑星系で,外側の伴星天体の存在を示唆する,統計的に有意な傾向を検出した.
これらの視線速度データを補償光学を用いた撮像観測結果と合わせ,これらの伴星天体の質量と軌道長半径を制約した.

サンプルをべき級数分布でフィッティングして,長周期の伴星の存在に対する感度を定量化した.その結果,質量が 0.5 - 20 木星質量で,軌道長半径が 1 - 20 AU の伴星天体 (惑星あるいは褐色矮星) が存在する頻度を 39 ± 7% と推定した.

今回探査対象とした惑星系のサンプルのうち,半分はトランジット法で惑星が発見された系であり,もう半分は視線速度法で発見されている.2 つのサンプル間の視線速度のベースラインとデータ点数の差は,遠方に存在する伴星天体に対する異なる感度をもたらすが,各サンプルにおける巨大ガス惑星の存在頻度は 0.5 σ の水準で整合的であった.

これらの惑星系における木星類似天体 (Jupiter analog,ジュピターアナログ) の存在頻度を,散在星に対するサーベイでの同様の惑星の存在頻度と比較した,その結果,ジュピターアナログはスーパーアースを有する惑星系においてより一般的な存在であることを見出した

結論として,惑星系の外側軌道を公転するガス惑星の存在は,惑星系内側でのスーパーアースの形成を抑制しないと推測される.またこれらの 2 つの集団の存在は,お互いに相関しているように見える.

また,巨大ガス惑星を持つ系の恒星の金属量は,同様の惑星を持たない系の金属量よりも有意に高いという結果が得られた.これは,散在星に対する視線速度サーベイからのよく研究された金属量相関性の結果とよく一致している.

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arXiv:1806.09085
Kawauchi et al. (2018)
Lowest Earth's atmosphere layers probed during a lunar eclipse
(月食中に探査された地球大気の最下層)

概要

2011 年 12 月 10 日の月食の最中の,地球の透過スペクトルの詳細な研究を行った.スペクトルはすばる 8.2 m 望遠鏡の High Dispersion Spectrograph (HDS) を用いて,過去に例のない時間分解能及び波長分解能 (本影で露光時間 300 秒,波長分解能 160000) で取得した.

半影と本影のデータから,酸素分子と水蒸気分子の独立した吸収線を透過スペクトル中に検出し,また食が深くなるにつれて吸収も深くなることも見出した.このことは,食の時間の期間中月のある点をモニターしたため,月に到達する太陽光は地球大気のより低層を通過したことを示唆している.

観測と理論的なスペクトルの比較から,太陽光が実際に通過した大気の最も低い高度は,地上からおよそ 10 km と推定される.これはこの高度以下には太陽光を阻害する雲が存在することを示唆している.

この結果は,惑星大気による屈折の効果を含んだ透過光分光観測を介した,地球類似系外惑星の大気構造の将来的な調査のためのテストケースとなる.

研究背景

地球型の系外惑星の生物由来の大気組成,いわゆる “バイオマーカー” の探査が重要となってきている.地球は現在のところ生命が存在していることが分かっている唯一の惑星であり,地球の透過スペクトルを得るのは,居住可能な地球型系外惑星の将来的な観測への第一歩となる.

地球大気の透過スペクトルは,月食の最中に月面で反射された太陽光の観測から得る事ができる.これは,この時の太陽光は月に到達する前に地球の大気を通過しているからである.

地球類似惑星の透過スペクトルの解析では,大気中での光の屈折を正しく取り扱う必要がある.
ホットジュピターのように中心星の近くを公転する惑星の場合,惑星の大気全体を通過した恒星の光を観測することが出来る.しかし太陽を公転する地球の様な遠方の惑星の場合,大気での屈折の影響により,ある臨界の高度よりも上を透過した恒星光のみを観測することになる.そのため,たとえ惑星大気中に雲が存在していない場合でも,屈折した透過スペクトルは広い波長領域に渡ってほとんど平坦になる (Be ́tre ́mieux & Kaltenegger 2014).

惑星大気を通過する恒星光は,大気中での屈折によって,トランジットが始まる前から観測者に到達できる (Sidis & Sari 2010).その後,時間の経過に伴って恒星光は惑星大気の異なる層を通過することになる.そのため,惑星大気の鉛直構造をスキャンすることができる (Garc ́ıa Mun ̃oz et al. 2012).
現段階では地球類似の系外惑星にこの手法を適用することは出来ないが,将来的な地上と宇宙望遠鏡では可能になると考えられる (Misra et al. 2014).

月食を利用した地球大気の透過スペクトル観測

過去の観測例

Palle et al. (2009) の観測
月食の最中の,月面の反射光を利用した地球大気の透過スペクトル観測は,Palle et al. (2009) によって行われた.この観測では,可視光から近赤外までの波長域 (3600 - 24000 Å) で,低分散分光観測を行っている.

この観測では地球大気の成分を定性的に同定することが出来たが,低スペクトル分解能 (R ~ 920 - 960) での観測であったため,吸収物質を詳細に同定することはできなかった.
Vidal-Madjar et al. (2010) の観測
Vidal-Madjar et al. (2010) は,同じ 2008 年の月食を SOPHIE の高分散分光 (~ 75000) で観測した.その結果,オゾンによる広帯域の特徴と,レイリー散乱の特徴,また Na I と酸素分子の狭帯域の特徴を高分解能で検出した.しかし水の狭帯域の特徴は検出されなかった.
Arnold et al. (2014) の観測
その後 2010 年に Arnold et al. (2014) によって,8.2 m Very Large Telescope の UVES (R ~ 120000) と,3.6 m La Silla 望遠鏡の HARPS (R ~ 115000) を用いた,高分散広帯域観測が実施され,広帯域の水と酸素分子の吸収線を検出している.

最近の観測例

2011 年 12 月 10 日の月食は,2 つのグループが独立して観測を報告している.

一つのグループは Ugolnikov et al. (2013) で,ロシアの Kourovka Astronomical Observatory 1.2 m 望遠鏡で,分解能 R ~ 30000 の 4100 - 7800 Å での観測を行っている.この観測では,酸素分子,オゾン分子,酸素分子同士の衝突誘起吸収 (collision induced absorption, CIA),NO2,水のスペクトルの特徴を検出している.

もう一つのグループは Yan et al. (2015) であり,中国の Xinglong Station の 2.16 m 望遠鏡で R ~ 45000 の分解能で,4300 - 10000 Å の波長域を観測している.この観測では,レイリー散乱,酸素分子,オゾン分子,酸素分子同士の CIA,NO2,水が検出されている.また,オゾン,水,NO2 の柱密度を計算している.さらに,異なる酸素同位体を初めて明確に検出している.

さらに最近では,2014 年 4 月15 日の月食が HARPS を用いて観測されている (Yan et al. 2015).この観測の波長分解能は R ~ 115000 である.この観測では,系外惑星大気の特徴付けに Rossiter-McLaughlin 効果 (ロシター・マクローリン効果) が有用であることが実証されている.


ここでは,2011 年 12 月 10 日の月食の,すばる望遠鏡での観測について報告する.分解能は R ~ 160000 で過去の観測よりも高く,シグナルノイズ比も良い観測である.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.08368
Rodriguez et al. (2018)
A Compact Multi-Planet System With A Significantly Misaligned Ultra Short Period Planet
(有意にずれた超短周期惑星を持つコンパクトな複数惑星系)

概要

コンパクトな軌道配置の複数惑星系の発見について報告する.

中心星は,太陽系近傍の 78 pc の距離にある恒星 EPIC 248435473 で,明るい K 型星である.
この恒星周りに,6 個の惑星候補を同定した.軌道周期は 0.66, 6.1, 7.8, 14.7, 19.5, 56.7 日である.このうち,0.66, 7.8, 14.7, 19.5 日の 4 つのシグナルについては,惑星由来のものであることを確定した.残りの 2 つのシグナルは,現段階では惑星と確定できず,惑星候補天体と分類した.

6 個のシグナル全てを惑星だと考えて同時にフィッティングした結果,最も内側の惑星 EPIC 248435473b の軌道傾斜角は 76.5° だが,他の 5 惑星 (候補) は 88 - 90° だと推定された.この相互傾斜角の違いから,EPIC 248435473b は他の惑星とは異なる過程で形成されたことを示唆している可能性がある.

上記の発見に加え,EPIC 248435473 に付随している恒星 EPIC248435395 を 8.5 日周期で公転する惑星候補天体のシグナルも同定した.

これらの検出は,ケプラー K2 ミッションの Campaign 14 での観測データを元にしており,地上からのトランジットのフォローアップ観測や,補償光学を用いた撮像観測も行っている.

パラメータ

EPIC 248435473 系

EPIC 248435473
質量:0.649 太陽質量
半径:0.638 太陽半径
光度:0.1237 太陽光度
有効温度:4284 K
金属量:[Fe/H] = -0.064
距離:69.6 pc
EPIC 248435473b
軌道周期:0.658525 日
半径:2.9 地球半径
軌道長半径:0.01283 AU
平衡温度:1457 K
EPIC 248435473.02
(※未確定の惑星候補)
軌道周期:6.1002 日
半径:0.579 地球半径
軌道長半径:0.05658 AU
軌道離心率:0.049
平衡温度:693 K
EPIC 248435473c
軌道周期:7.8140 日
半径:0.637 地球半径
軌道長半径:0.06674 AU
軌道離心率:0.041
平衡温度:638 K
EPIC 248435473d
軌道周期:14.69699 日
半径:2.644 地球半径
軌道長半径:0.1017 AU
軌道離心率:0.043
平衡温度:517.6 K
EPIC 248435473e
軌道周期:19.4820 日
半径:2.446 地球半径
軌道長半径:0.1227 AU
軌道離心率:0.032
平衡温度:471.2 K
EPIC 248435473.06
(※未確定の惑星候補)
軌道周期:56.682 日
半径:0.81 地球半径
軌道長半径:0.2501 AU
軌道離心率:0.28
平衡温度:330.1 K

EPIC 248435395 系

EPIC 248435395
質量:0.561 太陽質量
半径:0.550 太陽半径
光度:0.084 太陽光度
有効温度:4190 K
金属量:[Fe/H] = -0.44
距離:77.85 pc

EPIC 248435473 系のダイナミクス

最も内側の惑星 EPIC 248435473b の大きな相互傾斜角

EPIC 248435473 系は,ケプラーで発見された惑星系としては一般的な,Tightly Packed Inner Planets (STIPs,密集した近接惑星) の一種である.

しかし最も内側の惑星の傾斜角は 76° と大きく傾き,中心星をかすめるようなトランジットになっているというのは独特である.通常はこのような惑星系の相互軌道傾斜角は,数度以内に収まっている (Fang & Margot 2012など).

トランジット時刻変動と軌道共鳴

EPIC 248435473d と e については,TTV (transit timing variation,トランジット時刻変動) の解析を実行した.その結果,EPIC 248435473d は 8.4 地球質量,EPIC 248435473e は 13.6 地球質量と推定される.ただし質量推定の誤差は大きい.平均密度はそれぞれ 2.7, 5.6 g/cm3 と推定される.

EPIC 248435473d と e は軌道周期比が 1.326 であり,4:3 平均運動共鳴からは 0.59% 離れている.
この 2 つの惑星の軌道面はほぼ同じ平面上にある.そのため軌道共鳴に入っていることが示唆される.しかし真の共鳴は共鳴角の秤動によって特徴づけられるものであり,判明している軌道要素だけでは,共鳴角が秤動しているか,単に循環しているだけかは明確ではない.

伴星について

EPIC 248435395 について,Gaia による最新の距離データでは,EPIC 248435473 と広い間隔を持った連星であることと整合的である.両者の距離は ~ 3200 au に相当し,双方の質量を考慮すると軌道周期は 160 万年と推定される.

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arXiv:1806.08393
Stern et al. (2018)
The New Horizons Kuiper Belt Extended Mission
(ニューホライズンズのカイパーベルト延長ミッション)

概要

ニューホライズンズ (New Horizons) の主要任務の中心的な目的は,冥王星とその衛星系の初めての探査を行うことであった.

その後ニューホライズンズは,最初の拡張任務案が承認され,数多くのカイパーベルト天体 (Kuiper belt object, KBO) とケンタウルス天体を観測してカイパーベルトの環境を広く研究し,また KBO の一つ,(486958) 2014 MU69 への初の接近フライバイを行う.
ここでは,その承認された拡張ミッションの目標と計画についてまとめる.

2014 MU69 のフライバイ観測

延長ミッションの概要

ニューホライズンズは冥王星のフライバイに成功し,また機器も装置も共に健全な状態である.ニューホライズンズのプロジェクトは 6 年の延長ミッションである Kuiper Belt Extended Mission (カイパーベルト延長ミッション,KEM) を提案し,これはその後公式に承認された.

KEM では,“cold classical” KBO ("冷たい古典的な" カイパーベルト天体) である,(486958) 2014 MU69 (以下 MU69 と呼称) のフライバイを予定している.2019 年 1 月1 日 UT 5:33 に MU69 に最接近する予定である.

このフライバイでは,小さい KBO の地質学的および組成に関する,初めてかつ唯一の高分解能の研究が行われる予定であり,小さい KBO のまわりのコマ活動や衛星・環の初めての高感度の研究となる.

2014 MU69 について

MU69 はハッブル宇宙望遠鏡を用いて発見された KBO である.この天体の軌道は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた 3.5 年間に渡る観測で測定されており,軌道長半径 44.5 AU,軌道離心率 ~ 0.04,軌道傾斜角 ~ 2.5° と推定されている.

この天体については,
(i) 色は太陽よりも 0.36 mag だけ赤く,冥王星よりも ~ 0.3 mag 赤い (Benecchi et al. 2018)
(ii) 光度曲線の振幅が 20% 未満であり,大まかに等次元状の形状をしているか,極ベクトルがおおむね地球との視線方向を向いているか (自転軸が地球の方向を向いている),あるいはその両方であると推測される (Benecchi et al. 2018)
(iii) 2017 年の 3 回の恒星掩蔽から,大きさ,形状,アルベドについていくらかの情報が得られている (Buie et al. 2018)
という 3 点を除くと,ほとんどのことが分かっていない.

MU69 は絶対等級が H ~ 10.9 で,直径は ~ 30 km と推定される.またこの天体は,連星か接触連星である可能性がある (Buie et al. 2018).

MU69 の推定質量は,探査機が着陸した彗星 67P/Churyumov-Gerasimenko (チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星) よりも 1000 倍重い.また冥王星よりは 5 × 105 倍軽い.この質量は両者の中間的なサイズ領域に位置しており,惑星の降着過程に関する理解を促進することが期待される.

MU69 の軌道は,Cold Classical KB (低温な古典的なカイパーベルト) に位置している.そのためこの天体は 40 億年以上の間,44 AU 付近の軌道長半径で ~ 35 K の低温に保たれてきた.従ってこの天体は,いかなる探査機でもこれまで探査されたことのない,最も原始的な状態を保った天体だろうと考えられる

2014 MU69 フライバイ観測の経過予定

ニューホライズンズは 2015 年後半に,MU69 のフライバイに向けた推進マニューバを実施した.MU69 のフライバイでは ~ 3500 km にまで接近する.これは冥王星フライバイよりも ~ 3.5 倍近い.そのため,得られる画像や組成マッピング分光などの分解能は,冥王星のフライバイ観測時よりも 2 倍程度良くなる.なお,接近距離に比例して観測の分解能が改善されない理由は,フライバイ最中は並行して様々な観測が予定されているからである.

フライバイでは ~ 50 Gbits のデータが収集される予定である.冥王星のフライバイの際はは 55 GBits のデータが収集された.MU69 は冥王星よりも遠方なので,データの地球へのダウンリンクには 21 ヶ月程度,つまり 2020 年 9 月頃までかかる予定である.

観測データの解析と初期結果の出版,Planetary Data System へのアーカイブは,2021 年 9 月に完了する計画である.

ニューホライズンズによる外部太陽圏観測

これまでの外部太陽圏観測

KEM 太陽圏観測では,カイパーベルトを 33 - 59 AU まで横断しての観測を行う.この観測では,観測領域でのダスト,中性ガス,太陽風,エネルギー粒子環境についての調査を行う.50 AU という距離は,冥王星の遠日点に相当する.
この観測により,宇宙天気 (space weather) が冥王星や KBOs の表面にどう影響を与えるかについても情報も得られる.

30 AU 以遠の外部太陽圏を探査したのは,ニューホライズンズ以前ではパイオニア10号,11号,ボイジャー1号,2号のみである.
これらの探査機は 30 AU 以遠まで到達しているが,太陽風プラズマの観測データに関しては,これらのミッションでの探査機の航路プロットよりもまばらにしか測定されていない.これは,パイオニア10号と11号での観測はそれぞれ 63.0 AU と 35.6 AU までしか行われていないこと,ボイジャー1号の太陽風プラズマ観測装置は土星付近の ~ 9.74 AU で作動が止まってしまったことが原因である.

ボイジャー2号は,~ 83 AU にまで広がる外部太陽圏の最も豊富な観測を行っている.この位置で,ボイジャー2号は末端衝撃波面の前部を通過し,その後末端衝撃波面を ~ 84 AU の距離で通過した (Richardson & Stone 2009).

ニューホライズンズによる外部太陽圏観測

ニューホライズンズでは,過去の探査機の装置では直接観測できなかった重要な荷電粒子が検出可能である.keV 粒子分光計 SWAP や,MeV 粒子分光計 PEPSSI が搭載されており,ボイジャーでは測定できなかったエネルギーの範囲の粒子の,高精度な検出が可能である.

粒子測定のそれぞれの目的は以下の通りである.
1. 太陽風が星間物質との相互作用により,どの程度減速され加熱されるかを決定
2. 超熱的イオンと高エネルギー粒子のエネルギーの,太陽からの距離の依存性を測定
3. 外部太陽圏での太陽風の進化,Merged Interaction Regions (MIRs) の発達,超熱的イオンによる衝撃波の変形の探査
4. ピックアップイオン,高エネルギー粒子の超熱的テールの,外部太陽圏での衝撃波と MIRs への応答の特徴付け
5. 太陽風の周期性がどの様に進化するかの決定
6. 太陽圏のカイパーベルト領域での,太陽風,ピックアップイオンと超熱的テールの粒子圧力とエネルギーフラックスの測定
7. 外部太陽圏での宇宙線 (特に銀河宇宙線) の分布の測定
8. カイパーベルト領域を通じた電子の分布の決定
9. 太陽圏と相互作用する星間物質の中性水素原子のマッピングのための,カイパーベルト中の Ly α 分布の測定
10. カイパーベルト中のダスト分布の決定
11. カイパーベルトに広がったダストの起源が存在するかどううかの調査

ニューホライズンズによる太陽圏の研究についてその他の特筆すべき点は,広いエネルギー範囲に渡る粒子の分布の測定である.ボイジャー2号と同じ太陽圏の経度方向へ向かっているが,ニューホライズンズは黄道面方向に向かっているため,ボイジャー2号とは異なる領域を探査可能である.

遠方のカイパーベルト天体の観測

Distant KBOs (DKBOs,遠方のカイパーベルト天体) の探査も,ニューホライズンズ延長ミッションの目標の一つである.

ミッションの目標には,
(1) DKBOs の光度曲線を,地球からは得られない角度から観測し,転体の形状,自転周期,自転軸の方向を決定する
(2) 複数の位相角からの測光観測から,位相関数と測光特性・レゴリスの微細物理特性を決定する
(3) 地上からの補償光学系を用いた観測や,ハッブル宇宙望遠鏡・ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡からは得られない,衛星や接触連星の画像を取得する
(4) KBOs やケンタウルス天体まわりの,環やダスト物質の探査を行う
(5) アストロメトリ観測から天体の軌道要素の推定を改善し,2020 年代の超大型地上望遠鏡での成果と合わせた研究に向けた観測を行う
というものが挙げられている.

さらなる延長ミッションの計画

ニューホライズンズに搭載されている機器は,現在のところ正常に保たれている.
ニューホライズンズに搭載されている通信機器は,現在の Deep Space Network を用いて,地球からの距離が 200 AU を超えるところまで通信可能である.この距離には 2070 年ごろまでは到達しない.

電力は探査機の寿命を左右する重要な要素である.
ニューホライズンズはプルトニウムの原子力電池を搭載しており,プルトニウムの半減期による電力生成の減少率は 1 年あたり 3.3 W である.これを元にすると,電力供給によって決まる機器の限界は,2035 年頃かその数年後に訪れると予想される.これは探査機の位置で言うと 90 - 110 AU の距離に相当する.この限界距離は,探査機を運用する技術者が,探査機と搭載機器の最低電力モードをどう拡張できるかに依存している.

ボイジャー1号と2号は,それぞれ ~ 94 AU と 84 AU で末端衝撃波面を通過している.従ってニューホライズンズの現在の電力で末端衝撃波面には到達可能だろうと推測される

ニューホライズンズのさらなる延長ミッションの候補としては,例えば以下のものが挙げられている.

EM2 (2022-2024,50-60 AU):カイパーベルト・ケンタウルス・その他の対象の惑星科学.原始的な彗星核のフライバイ,また太陽圏のその場サーベイ観測の継続
EM3 (2025-2026,60-70 AU):1 年あたり 6 ヶ月の,地球から見えない位置の短期的現象のモニタリング,太陽圏のその場サーベイ観測の継続.
EM4 (2017-2035+,79-90+ AU):太陽圏の荷電粒子,ダストと中性ガスによる末端衝撃波面と,もしかしたら星間物質の観測

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