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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.08757
Giles et al. (2018)
The longest period transiting planet candidate from K2
(K2 からの最も長周期のトランジット惑星候補)
このトランジットは継続時間が 54 時間で,トランジット深さは 0.18% であった.測光データと視線速度フォローアップ観測から,この惑星候補イベントの特徴付けを行った.この惑星候補の周期は長く,かつ不明であるため,一般的なフォローアップ方法を適用して特徴付けを行う必要がある.
中心星は 2.70 太陽半径の準巨星であり,惑星候補天体は 1.11 惑星半径,周期は 3650 (+1280, -1130) 日であった.視線速度測定からは,惑星候補天体の質量は 13 木星質量未満と制約された.これは,惑星的な天体であることを示唆している.
結果として,単独のトランジットイベントから,軌道長半径が 4.5 AU の惑星を発見した.存在を確定させるためには,完全な視線速度フォローアップが必要である.もし惑星であると確定した場合は,EPIC 248847494b は発見されたトランジット惑星の中では最も長周期のものになる.
金属量:[Fe/H] = -0.23
有効温度:4898 K
半径:2.70 太陽半径
質量:0.90 太陽質量
軌道長半径:4.5 ± 1.0 AU
半径:1.11 木星半径
平衡温度:183 K
NASA Exoplanet Archive によると,存在が確定しているトランジット惑星の中で,軌道周期が 2500 日 (今回の推定における軌道周期の下限値に相当) を越えるものは 1 つのみである.
0.3 - 15 木星質量の惑星が 3 - 6 AU の範囲にある存在頻度は ~ 4.2 % (Cumming et al. 2008) であり,またそのような惑星がトランジットを起こす確率は 0.12% である.K2 カタログ全体では 312269 個の恒星がある事と,K2 ミッションでの一領域の観測日数が最大で 80 日間なのを考慮すると,このような遠方の惑星が検出される期待値は 1 個のオーダーと見積もることが出来る.
arXiv:1806.08757
Giles et al. (2018)
The longest period transiting planet candidate from K2
(K2 からの最も長周期のトランジット惑星候補)
概要
ケプラー K2 ミッションの Campaign 14 で検出されたの単独のトランジットイベント,EPIC 248847494b のフォローアップ観測の結果について報告する.このトランジットは継続時間が 54 時間で,トランジット深さは 0.18% であった.測光データと視線速度フォローアップ観測から,この惑星候補イベントの特徴付けを行った.この惑星候補の周期は長く,かつ不明であるため,一般的なフォローアップ方法を適用して特徴付けを行う必要がある.
中心星は 2.70 太陽半径の準巨星であり,惑星候補天体は 1.11 惑星半径,周期は 3650 (+1280, -1130) 日であった.視線速度測定からは,惑星候補天体の質量は 13 木星質量未満と制約された.これは,惑星的な天体であることを示唆している.
結果として,単独のトランジットイベントから,軌道長半径が 4.5 AU の惑星を発見した.存在を確定させるためには,完全な視線速度フォローアップが必要である.もし惑星であると確定した場合は,EPIC 248847494b は発見されたトランジット惑星の中では最も長周期のものになる.
パラメータ
EPIC 248847494
距離:560 pc金属量:[Fe/H] = -0.23
有効温度:4898 K
半径:2.70 太陽半径
質量:0.90 太陽質量
EPIC 248847494b
軌道周期:3650 (+1280, -1130) 日軌道長半径:4.5 ± 1.0 AU
半径:1.11 木星半径
平衡温度:183 K
長周期のトランジット系外惑星
EPIC 248847494b が本当に惑星であり,視線速度観測で存在が確定した場合,EPIC 248847494b はこれまで発見されたトランジット系外惑星の中で最も長周期のものになる.NASA Exoplanet Archive によると,存在が確定しているトランジット惑星の中で,軌道周期が 2500 日 (今回の推定における軌道周期の下限値に相当) を越えるものは 1 つのみである.
0.3 - 15 木星質量の惑星が 3 - 6 AU の範囲にある存在頻度は ~ 4.2 % (Cumming et al. 2008) であり,またそのような惑星がトランジットを起こす確率は 0.12% である.K2 カタログ全体では 312269 個の恒星がある事と,K2 ミッションでの一領域の観測日数が最大で 80 日間なのを考慮すると,このような遠方の惑星が検出される期待値は 1 個のオーダーと見積もることが出来る.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.07890
Ryu et al. (2018)
Turbulence-driven thermal and kinetic energy in the atmospheres of hot Jupiters
(ホットジュピターの大気中での乱流駆動の熱と運動エネルギー)
その結果,シア層の上部と下部での乱流の効果は,スケールと強度において異なることを発見した.
シア層よりも下部では,鉛直方向のエネルギー輸送における乱流の影響は局所的であり,一般に 2 スケールハイト程度以下の範囲に留まる.しかしシア層の上では,ほとんど至る領域において乱流は空間的および熱的に大きな影響を持つ.
いったん大気が定常状態になると,気圧 P ~ 1 bar での時間平均した熱エネルギーフラックスの大きさはわずかになる.P ~ 1 mbar の圧力領域では,恒星の入射フラックスの 0.001% のオーダーのエネルギーフラックスになる,また100 mbar での深いシア層を伴う場合は 0.1% のオーダーになる.
結果的に.深いシア層のがある場合の方が拡散係数は高くなる.従って今回の結果は,低密度領域付近で乱流がどれくらい強力なのかに関わらず,ホットジュピターにおける半径の膨張を説明できるような,十分な熱エネルギーの深く大きな貫入を引き起こさないということを示唆している.
しかしシア層が深くなるにつれ,大気が持つ大きな運動エネルギーの影響で,大気中での熱エネルギーの輸送は上向きも下向きもより効率的になる.従って,大気中での実効的なエネルギー輸送に関しては,惑星大気がどの程度不安定なのかよりも,大気中のどれくらいの深さで乱流が発生するかの方が重要である.
惑星の半径が理論予測よりも膨張しているということは,膨張した半径を持つ惑星は予想されるよりも多くの内部エントロピーを保持していることを示唆している.これは,熱の注入や散逸が原因か,あるいは惑星内部からのエネルギー損失が非効率的になっているかのどちらか,あるいはその組み合わせの効果であると考えられる.
この観点に基づいて,ホットジュピターの半径異常に関していくつかの説が提唱されており,それらは 2 つのクラスに分けられる.
2 番目のカテゴリーは,惑星内部に余分な熱源を与えることである.例えば,潮汐力を介した熱の散逸 (Bodenheimer et al. 2001など),大きな昼夜間温度勾配によって駆動される,全球的な大気流の運動エネルギーが熱エネルギーに変換される過程によるもの (しばしば「流体力学的散逸」と呼ばれる) (Showman & Guillot 2002など),電離した惑星風中での磁気抗力 (オーム散逸,Batygin & Stevenson 2010など),また流体不安定に誘起されるエネルギーの散逸 (Li & Goodman 2010) などである.
これらのうち,乱流を介したエネルギー散逸,おそらく衝撃波に伴うエネルギー散逸は,ホットジュピター大気中で有効であるか,あるいは少なくとも考慮するべき対象として興味深いものである.これは,乱流はおそらく大気中に遍在しており,安定に成層した大気中であっても存在するからである.
しかしこの解析的なアプローチが適用できるのは,いくらか理想化された状態であり,より現実的なシナリオを検証するためには,詳細なモデリングを伴ったシミュレーションが必要である.
Fromang et al. (2016) は,圧縮性流体の衝撃波捕獲コード RAMSES を使用して三次元モデルを構築した. 彼らのシミュレーションでは,赤道ジェットはシア駆動の不安定に晒され,十分に大きな量の下向き運動エネルギーフラックスを発生させ,また数 mbar の圧力水準での衝撃波の形成を引き起こした.しかしその論文中でも述べられているように,彼らの計算は小スケールでの過程を見るには分解能が悪い.
ここでは,三次元の圧縮性流体力学シミュレーションを高分解能で計算できるシミュレーションコード CASTRO を使用した.
arXiv:1806.07890
Ryu et al. (2018)
Turbulence-driven thermal and kinetic energy in the atmospheres of hot Jupiters
(ホットジュピターの大気中での乱流駆動の熱と運動エネルギー)
概要
高分解能・三次元の圧縮性流体力学シミュレーションを用いて,様々なシア勾配のもとでのホットジュピター大気のエネルギー輸送における,衝撃波と乱流の影響を調査した.小規模の乱流.衝撃波の構造を正確に追うために,局所的な大気領域に注目してシミュレーションを行った.その結果,シア層の上部と下部での乱流の効果は,スケールと強度において異なることを発見した.
シア層よりも下部では,鉛直方向のエネルギー輸送における乱流の影響は局所的であり,一般に 2 スケールハイト程度以下の範囲に留まる.しかしシア層の上では,ほとんど至る領域において乱流は空間的および熱的に大きな影響を持つ.
いったん大気が定常状態になると,気圧 P ~ 1 bar での時間平均した熱エネルギーフラックスの大きさはわずかになる.P ~ 1 mbar の圧力領域では,恒星の入射フラックスの 0.001% のオーダーのエネルギーフラックスになる,また100 mbar での深いシア層を伴う場合は 0.1% のオーダーになる.
結果的に.深いシア層のがある場合の方が拡散係数は高くなる.従って今回の結果は,低密度領域付近で乱流がどれくらい強力なのかに関わらず,ホットジュピターにおける半径の膨張を説明できるような,十分な熱エネルギーの深く大きな貫入を引き起こさないということを示唆している.
しかしシア層が深くなるにつれ,大気が持つ大きな運動エネルギーの影響で,大気中での熱エネルギーの輸送は上向きも下向きもより効率的になる.従って,大気中での実効的なエネルギー輸送に関しては,惑星大気がどの程度不安定なのかよりも,大気中のどれくらいの深さで乱流が発生するかの方が重要である.
研究背景
ホットジュピターの膨張半径
ホットジュピターの半径が,一般的な冷却進化モデルから予測されるよりも大きな半径を持っていることが報告されている (Showman & Guillot 2002など).この半径膨張の起源は不明であり,いくつかの仮説が提唱されている.惑星の半径が理論予測よりも膨張しているということは,膨張した半径を持つ惑星は予想されるよりも多くの内部エントロピーを保持していることを示唆している.これは,熱の注入や散逸が原因か,あるいは惑星内部からのエネルギー損失が非効率的になっているかのどちらか,あるいはその組み合わせの効果であると考えられる.
この観点に基づいて,ホットジュピターの半径異常に関していくつかの説が提唱されており,それらは 2 つのクラスに分けられる.
膨張半径を説明する仮説
1 番目は,増幅された大気の不透明度によって,惑星の冷却が非効率的になるという効果を含む仮説である (Burrows et al. 2007).大気の不透明度が大きくなるにつれて惑星の冷却は非効率的になり,惑星は自然に多くの内部熱を有することになる.2 番目のカテゴリーは,惑星内部に余分な熱源を与えることである.例えば,潮汐力を介した熱の散逸 (Bodenheimer et al. 2001など),大きな昼夜間温度勾配によって駆動される,全球的な大気流の運動エネルギーが熱エネルギーに変換される過程によるもの (しばしば「流体力学的散逸」と呼ばれる) (Showman & Guillot 2002など),電離した惑星風中での磁気抗力 (オーム散逸,Batygin & Stevenson 2010など),また流体不安定に誘起されるエネルギーの散逸 (Li & Goodman 2010) などである.
これらのうち,乱流を介したエネルギー散逸,おそらく衝撃波に伴うエネルギー散逸は,ホットジュピター大気中で有効であるか,あるいは少なくとも考慮するべき対象として興味深いものである.これは,乱流はおそらく大気中に遍在しており,安定に成層した大気中であっても存在するからである.
Mechanical greenhouse effect とその検証
Youdin & Mitchell (2010) では,強制的な乱流は,成層した大気の外部放射層における,下向きの熱の輸送を駆動できることを指摘している.彼らはこの機構を “mechanical greenhouse effect” と呼び,強制された乱流による拡散と散逸に焦点を当て,外部の放射領域の解析モデルを構築した.その結果,強制乱流によって発生する熱流が下向きに伝播し,惑星大気のより深い領域に注入されることを見出した.しかしこの解析的なアプローチが適用できるのは,いくらか理想化された状態であり,より現実的なシナリオを検証するためには,詳細なモデリングを伴ったシミュレーションが必要である.
Fromang et al. (2016) は,圧縮性流体の衝撃波捕獲コード RAMSES を使用して三次元モデルを構築した. 彼らのシミュレーションでは,赤道ジェットはシア駆動の不安定に晒され,十分に大きな量の下向き運動エネルギーフラックスを発生させ,また数 mbar の圧力水準での衝撃波の形成を引き起こした.しかしその論文中でも述べられているように,彼らの計算は小スケールでの過程を見るには分解能が悪い.
ここでは,三次元の圧縮性流体力学シミュレーションを高分解能で計算できるシミュレーションコード CASTRO を使用した.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.08147
Daley-Yates & Stevens (2018)
Inhibition of the electron cyclotron maser instability in the dense magnetosphere of a hot Jupiter
(ホットジュピターの濃い磁気圏での電子サイクロトロンメーザー不安定の抑制)
この観測的な結果の不足を説明するため,三次元解適合格子法 (adaptive mesh refinement, AMR) 磁気流体力学シミュレーションを用いて,太陽型星とホットジュピターの間の磁気的相互作用を計算した.計算には公開コード PLUTO を使用した.
計算結果を用いて,惑星磁気圏からの検出可能な電波放射を生成する ECMI の効率を計算し,期待される電波放射の周波数も計算して,上限と下限を提供した.さらに,地球の電離圏による ~ 10 MHz でのカットオフによる検出の限界も与える.
ECMI に使われる,入射する運動エネルギーと磁気エネルギーも決定した,
その結果,10 pc の距離にあるホットジュピターから期待される電波放射の強度は,0.069 mJy と推定される.
またホットジュピター磁気圏の特徴付けも行い,惑星の上流側に形成されるバウショックの解析も行った.このショックは,衝突する風系の薄いシェルモデルに対応しており,解析結果は衝突する風系と整合的なものであった.
シミュレーションの結果から,中心星からの紫外線放射の吸収によって広がっているホットジュピター大気によって,ECMI 過程は完全に阻害されることが分かった.惑星風の密度,速度,温度と磁場は,MHz の周波数での ECMI 過程の電波放射を検出できないようにする働きがある.
arXiv:1806.08147
Daley-Yates & Stevens (2018)
Inhibition of the electron cyclotron maser instability in the dense magnetosphere of a hot Jupiter
(ホットジュピターの濃い磁気圏での電子サイクロトロンメーザー不安定の抑制)
概要
ホットジュピタータイプの系外惑星は,電子サイクロトロンメーザー不安定 (electron cyclotoron maser instability, ECMI) を介して MHz の周波数領域で強い電波放射を生成すると考えられている.しかし現在のところ,この電波の反復的な検出はされていない.この観測的な結果の不足を説明するため,三次元解適合格子法 (adaptive mesh refinement, AMR) 磁気流体力学シミュレーションを用いて,太陽型星とホットジュピターの間の磁気的相互作用を計算した.計算には公開コード PLUTO を使用した.
計算結果を用いて,惑星磁気圏からの検出可能な電波放射を生成する ECMI の効率を計算し,期待される電波放射の周波数も計算して,上限と下限を提供した.さらに,地球の電離圏による ~ 10 MHz でのカットオフによる検出の限界も与える.
ECMI に使われる,入射する運動エネルギーと磁気エネルギーも決定した,
その結果,10 pc の距離にあるホットジュピターから期待される電波放射の強度は,0.069 mJy と推定される.
またホットジュピター磁気圏の特徴付けも行い,惑星の上流側に形成されるバウショックの解析も行った.このショックは,衝突する風系の薄いシェルモデルに対応しており,解析結果は衝突する風系と整合的なものであった.
シミュレーションの結果から,中心星からの紫外線放射の吸収によって広がっているホットジュピター大気によって,ECMI 過程は完全に阻害されることが分かった.惑星風の密度,速度,温度と磁場は,MHz の周波数での ECMI 過程の電波放射を検出できないようにする働きがある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.06089
Nikolov et al. (2018)
An absolute sodium abundance for a cloud-free 'hot Saturn' exoplanet
(雲無し "ホットサターン" 系外惑星の絶対的なナトリウム存在度)
しかしこれまでの観測からは,これらの吸収特徴は狭いスペクトル線のコアしか発見されておらず,完全に圧力幅 (pressure broadening) を持った吸収線のプロファイルは検出されていない.これは,惑星の明暗境界線 (昼面と夜面の境界線) での雲とヘイズによる不透明度が,吸収線の裾野部分を隠していることが原因だと考えられている.
この影響のため,系外惑星大気中の絶対的な組成の探査が困難になっている.
ここでは,Very Large Telescope (VLT) を用いた観測で,ホットサターン WASP-96b の可視光透過スペクトルを得た.その中に,ナトリウムによる吸収線の,完全に圧力幅を持ったプロファイルが見られた事を示す.
検出されたナトリウムの吸収スペクトルは,雲無し・太陽組成の大気モデルで化学平衡を仮定したものと非常によく一致した.
観測結果から,大気中の絶対的なナトリウムの存在度を正確に測定することができ,\(\log\epsilon_{\rm Na}=6.9^{+0.6}_{-0.4}\) と推定された.これを惑星大気の金属量の代用として用い,\(Z_{\rm p}/Z_{\odot}=2.3^{+8.9}_{-1.7}\) という結果を得た.この結果は,太陽系の惑星と系外惑星に見られている,惑星質量と金属量の間の傾向と整合的である.
観測は 8.2 m 口径の VLT に搭載されている,FORS2 分光器を用いて行った.観測日時は 2017 年 7 月 29 日 と 8 月 22 日である.
検出された Na D 線のプロファイルは,6 スケールハイトの範囲をカバーしている (平衡温度 1285 K の場合,1 スケールハイトは 610 km に相当する).また,近紫外線波長でのスペクトルのスロープは,水素分子によるレイリー散乱によるものである.
一方で,カリウムのスペクトル線の周辺では,明確な広がったスペクトル線のウィング構造も,ラインコアでの大きな吸収も見られなかった.
圧力幅のラインプロファイルの形状の測定からは,恒星大気や準恒星天体大気の理論で用いられている,相互作用ポテンシャルへの重要な制約を得ることが出来る.そのような制約は,褐色矮星大気中のナトリウムとカリウムの吸収線からは得られているが,系外惑星での実際のプロファイル形状は不明である.
圧力幅の検出を評価するため,広がりのないプロファイルと比較した.その結果,細いラインが存在するとするモデルは否定できる.
この結果は,これまでに最も晴れた大気を持っていると分類されてきた,WASP-39,WASP-17b,HD 209458b とは対照的である.後者の透過スペクトルはアルカリ金属による狭い線幅の吸収特徴でよく説明でき,このことは広い吸収ウィングは,惑星大気中の雲とヘイズによって隠されてしまっていることを示唆している.
そのため,この惑星での広い線幅を持ったナトリウム吸収線の検出は,系外惑星大気での圧力幅を持ったスペクトル線の制約に対して重要な役割を果たす.
なおここでは,\(\log\epsilon_{\rm X}=\log\left(N_{\rm X}/N_{\rm H}\right)+12\) とする天文学スケールを使用している.\(N_{\rm X}\) は元素 X の個数密度であり,H は水素を意味する.
また現在のデータでは,カリウムとリチウムの検出を支持するデータは得られなかった.
コア降着理論では,惑星質量が減るに連れ大気の金属量は増加すると予測されている (Fortney et al. 2013,Pollack et al. 1996).
巨大惑星は形成時に水素・ヘリウム主体のガスを降着し,またエンベロープの金属量を増やす微惑星も同時に降着する.低質量の水素・ヘリウムエンベロープはガスの量が少なく,その結果として中心星に比べて大気中の金属量が多くなる.
太陽系の惑星の場合,探査機によるその場観測や地球からの赤外線分光観測によって大気中のメタンの存在度が分かっており,惑星質量が減るに連れて大気の金属量が増加することが分かっている.
さらにいくつかの系外惑星では,水の存在度の測定から大気の金属量へ制約が与えられている.分子の存在度から,化学平衡状態を仮定した上で,大気中の金属量の代用として使用されている.
今回測定した WASP-96b の絶対的なナトリウム存在度から,金属量は \(Z_{\rm p}/Z_{\odot}=2.3^{+8.9}_{-1.7}\) と推定される.これは \(\log\left(Z_{\rm p}/Z_{\odot}\right)=0.4^{+0.7}_{-0.5}\) に相当する.これは,中心星の金属量 \(Z_{*}/Z_{\odot}=1.4\pm 0.7\) と整合的な値である.また,太陽系の惑星に見られる傾向とも整合的だが,確定させるにはさらなる高精度の制約が必要である.
WASP-96b は,ナトリウムの圧力幅を持ったスペクトルが検出された,初めての系外惑星である.
この検出により,惑星の縁領域 (昼夜境界領域) の大気のより深い層を探査することが出来る.また大気の重元素存在度への制約が,地上観測単独のみで可能となる.著者の知る限り,WASP-96b はこれまでに透過スペクトルで特徴付けされた 20 個程度の系外惑星の中で,原子スペクトルの広がった特徴が検出された初めての惑星である.
arXiv:1806.06089
Nikolov et al. (2018)
An absolute sodium abundance for a cloud-free 'hot Saturn' exoplanet
(雲無し "ホットサターン" 系外惑星の絶対的なナトリウム存在度)
概要
ナトリウム (Na I) やカリウム (K I) の共鳴二重項のようなアルカリ金属の広い線幅を持った吸収の特徴は,雲の無い大気を持ち強い輻射を受ける巨大ガス惑星の,可視光の大気スペクトル中から検出されることが予測されてきた.しかしこれまでの観測からは,これらの吸収特徴は狭いスペクトル線のコアしか発見されておらず,完全に圧力幅 (pressure broadening) を持った吸収線のプロファイルは検出されていない.これは,惑星の明暗境界線 (昼面と夜面の境界線) での雲とヘイズによる不透明度が,吸収線の裾野部分を隠していることが原因だと考えられている.
この影響のため,系外惑星大気中の絶対的な組成の探査が困難になっている.
ここでは,Very Large Telescope (VLT) を用いた観測で,ホットサターン WASP-96b の可視光透過スペクトルを得た.その中に,ナトリウムによる吸収線の,完全に圧力幅を持ったプロファイルが見られた事を示す.
検出されたナトリウムの吸収スペクトルは,雲無し・太陽組成の大気モデルで化学平衡を仮定したものと非常によく一致した.
観測結果から,大気中の絶対的なナトリウムの存在度を正確に測定することができ,\(\log\epsilon_{\rm Na}=6.9^{+0.6}_{-0.4}\) と推定された.これを惑星大気の金属量の代用として用い,\(Z_{\rm p}/Z_{\odot}=2.3^{+8.9}_{-1.7}\) という結果を得た.この結果は,太陽系の惑星と系外惑星に見られている,惑星質量と金属量の間の傾向と整合的である.
観測について
WASP-96b は,0.48 木星質量,1.20 木星半径,平衡温度 1285 K の惑星である,観測は 8.2 m 口径の VLT に搭載されている,FORS2 分光器を用いて行った.観測日時は 2017 年 7 月 29 日 と 8 月 22 日である.
検出された Na D 線のプロファイルは,6 スケールハイトの範囲をカバーしている (平衡温度 1285 K の場合,1 スケールハイトは 610 km に相当する).また,近紫外線波長でのスペクトルのスロープは,水素分子によるレイリー散乱によるものである.
一方で,カリウムのスペクトル線の周辺では,明確な広がったスペクトル線のウィング構造も,ラインコアでの大きな吸収も見られなかった.
議論
圧力幅を持った吸収スペクトルの検出
原子による吸収線の広がったウィング構造は,複数の効果の組み合わせによって形成される.量子機構 (自然幅),熱的広がり (あるいはドップラー幅),衝突による広がり (圧力幅) である.圧力幅のラインプロファイルの形状の測定からは,恒星大気や準恒星天体大気の理論で用いられている,相互作用ポテンシャルへの重要な制約を得ることが出来る.そのような制約は,褐色矮星大気中のナトリウムとカリウムの吸収線からは得られているが,系外惑星での実際のプロファイル形状は不明である.
圧力幅の検出を評価するため,広がりのないプロファイルと比較した.その結果,細いラインが存在するとするモデルは否定できる.
この結果は,これまでに最も晴れた大気を持っていると分類されてきた,WASP-39,WASP-17b,HD 209458b とは対照的である.後者の透過スペクトルはアルカリ金属による狭い線幅の吸収特徴でよく説明でき,このことは広い吸収ウィングは,惑星大気中の雲とヘイズによって隠されてしまっていることを示唆している.
そのため,この惑星での広い線幅を持ったナトリウム吸収線の検出は,系外惑星大気での圧力幅を持ったスペクトル線の制約に対して重要な役割を果たす.
元素の検出と存在度
観測結果から,この惑星大気中のナトリウムの絶対的な存在度は \(\log\epsilon_{\rm Na}=6.9^{+0.6}_{-0.4}\) と制約される.なおここでは,\(\log\epsilon_{\rm X}=\log\left(N_{\rm X}/N_{\rm H}\right)+12\) とする天文学スケールを使用している.\(N_{\rm X}\) は元素 X の個数密度であり,H は水素を意味する.
また現在のデータでは,カリウムとリチウムの検出を支持するデータは得られなかった.
惑星大気の金属量の推定
重元素存在度の測定は,巨大ガス惑星の形成機構を制約する上で重要である.コア降着理論では,惑星質量が減るに連れ大気の金属量は増加すると予測されている (Fortney et al. 2013,Pollack et al. 1996).
巨大惑星は形成時に水素・ヘリウム主体のガスを降着し,またエンベロープの金属量を増やす微惑星も同時に降着する.低質量の水素・ヘリウムエンベロープはガスの量が少なく,その結果として中心星に比べて大気中の金属量が多くなる.
太陽系の惑星の場合,探査機によるその場観測や地球からの赤外線分光観測によって大気中のメタンの存在度が分かっており,惑星質量が減るに連れて大気の金属量が増加することが分かっている.
さらにいくつかの系外惑星では,水の存在度の測定から大気の金属量へ制約が与えられている.分子の存在度から,化学平衡状態を仮定した上で,大気中の金属量の代用として使用されている.
今回測定した WASP-96b の絶対的なナトリウム存在度から,金属量は \(Z_{\rm p}/Z_{\odot}=2.3^{+8.9}_{-1.7}\) と推定される.これは \(\log\left(Z_{\rm p}/Z_{\odot}\right)=0.4^{+0.7}_{-0.5}\) に相当する.これは,中心星の金属量 \(Z_{*}/Z_{\odot}=1.4\pm 0.7\) と整合的な値である.また,太陽系の惑星に見られる傾向とも整合的だが,確定させるにはさらなる高精度の制約が必要である.
WASP-96b は,ナトリウムの圧力幅を持ったスペクトルが検出された,初めての系外惑星である.
この検出により,惑星の縁領域 (昼夜境界領域) の大気のより深い層を探査することが出来る.また大気の重元素存在度への制約が,地上観測単独のみで可能となる.著者の知る限り,WASP-96b はこれまでに透過スペクトルで特徴付けされた 20 個程度の系外惑星の中で,原子スペクトルの広がった特徴が検出された初めての惑星である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.06099
Johnson et al. (2018)
EPIC 246911830 b: a hot Jupiter transiting an F star, and EPIC 201498078 b: a warm Saturn around a bright G star
(EPIC 246911830b:F 型星をトランジットするホットジュピターと,EPIC 201498078b:明るい G 型星まわりのウォームサターン)
EPIC 246911830b は,K2 ミッションの Campaign 13 の期間の観測で発見されたホットジュピターである.K2 のミッションにおいて,ケプラーのバンドパスで惑星の secondary eclipse (二次食) が検出された初めてのホットジュピターである.二次食深さは 71 ppm で,幾何学的アルベドは 0.2 程度と推定される.
また恒星の伴星候補天体を中心星から 0.6” の位置に検出した.この天体は,この系に物理的に付随している可能性が非常に高い.その場合,中心星から ~ 400 AU の距離を公転する M5-6V 星と推定される.
EPIC 201498078b は,温かい土星質量の惑星であり,Campaign 14 の観測で発見された.
中心星は HR 図上で主系列段階の転回点付近に位置しているため,年齢を比較的精密に測定可能であり,88 億歳と推定される.また,惑星の軌道はやや離心率が高い.
中心星は明るく,またトランジット深さが深いので,ウォームサターン系としては惑星系をさらに特徴づけるためのフォローアップ観測に最も適しているものの一つである.
距離:676 pc
有効温度:6367 K
金属量:[Fe/H] = -0.14
スペクトル型:F6V
質量:1.39 太陽質量
半径:1.69 太陽半径
年齢:19 億歳
軌道長半径:0.0404 AU
半径:1.552 木星半径
質量:1.42 木星質量
密度:0.50 g cm-3
平衡温度:1957 K
質量:0.145 太陽質量
スペクトル型:M5-6V
距離:214.6 pc
有効温度:5537 K
金属量:[Fe/H] = 0.36
スペクトル型:G7IV/V
質量:1.10 太陽質量
半径:1.65 太陽半径
年齢:88 億歳
軌道長半径:0.102 AU
軌道離心率:0.39
半径:0.850 木星半径
質量:0.223 木星質量
平衡温度:1080 K
arXiv:1806.06099
Johnson et al. (2018)
EPIC 246911830 b: a hot Jupiter transiting an F star, and EPIC 201498078 b: a warm Saturn around a bright G star
(EPIC 246911830b:F 型星をトランジットするホットジュピターと,EPIC 201498078b:明るい G 型星まわりのウォームサターン)
概要
ケプラーの K2 ミッションでの観測データから,2 つの新しいトランジット巨大惑星の発見と確認を行った.EPIC 246911830b は,K2 ミッションの Campaign 13 の期間の観測で発見されたホットジュピターである.K2 のミッションにおいて,ケプラーのバンドパスで惑星の secondary eclipse (二次食) が検出された初めてのホットジュピターである.二次食深さは 71 ppm で,幾何学的アルベドは 0.2 程度と推定される.
また恒星の伴星候補天体を中心星から 0.6” の位置に検出した.この天体は,この系に物理的に付随している可能性が非常に高い.その場合,中心星から ~ 400 AU の距離を公転する M5-6V 星と推定される.
EPIC 201498078b は,温かい土星質量の惑星であり,Campaign 14 の観測で発見された.
中心星は HR 図上で主系列段階の転回点付近に位置しているため,年齢を比較的精密に測定可能であり,88 億歳と推定される.また,惑星の軌道はやや離心率が高い.
中心星は明るく,またトランジット深さが深いので,ウォームサターン系としては惑星系をさらに特徴づけるためのフォローアップ観測に最も適しているものの一つである.
パラメータ
EPIC 246911830 系
EPIC 246911830
等級:12.69距離:676 pc
有効温度:6367 K
金属量:[Fe/H] = -0.14
スペクトル型:F6V
質量:1.39 太陽質量
半径:1.69 太陽半径
年齢:19 億歳
EPIC 246911830b
軌道周期:2.6266657 日軌道長半径:0.0404 AU
半径:1.552 木星半径
質量:1.42 木星質量
密度:0.50 g cm-3
平衡温度:1957 K
EPIC 246911830 の伴星候補天体
距離:409 AU質量:0.145 太陽質量
スペクトル型:M5-6V
EPIC 201498078 系
EPIC 201498078
等級:10.612距離:214.6 pc
有効温度:5537 K
金属量:[Fe/H] = 0.36
スペクトル型:G7IV/V
質量:1.10 太陽質量
半径:1.65 太陽半径
年齢:88 億歳
EPIC 201498078b
軌道周期:11.63344 日軌道長半径:0.102 AU
軌道離心率:0.39
半径:0.850 木星半径
質量:0.223 木星質量
平衡温度:1080 K
天文・宇宙物理関連メモ vol.923 Chen et al. (2018) WASP-127b からのヘイズ,ナトリウム,カリウムとリチウムの検出