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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.01903
Vanderburg et al. (2018)
Detecting Exomoons Via Doppler Monitoring of Directly Imaged Exoplanets
(直接撮像系外惑星のドップラーモニタリングを介した系外衛星の検出)
この系外衛星候補は,サイズと質量は海王星程度と推定されており,これは太陽系内のあらゆる衛星よりも相当大きい.もし存在が確定すれば,巨大衛星あるいは連星惑星としての新しい分類の天体の初発見例になる.
この惑星と衛星候補が大きな質量比を持つであろうことを動機として,ここでは似たような重い系外衛星が直接撮像されている系外惑星まわりに存在した場合の,ドップラー分光観測での検出可能性を調査した.
ケプラー1625b 周りの衛星候補の場合,惑星に対して衛星によって引き起こされる視線速度のシグナルは 200 m/s 程度である,これは,明るい近傍星を公転する直接撮像惑星周りの類似の衛星を,現在や次世代の装置で検出するのに十分な大きさである.
直接撮像惑星の視線速度サーベイは,系外衛星の探査の他にも,惑星の自転軸の配置を明らかにし得る.これにより,天王星類似天体を同定できる可能性もある.
arXiv:1805.01903
Vanderburg et al. (2018)
Detecting Exomoons Via Doppler Monitoring of Directly Imaged Exoplanets
(直接撮像系外惑星のドップラーモニタリングを介した系外衛星の検出)
概要
最近,Teachey et al. (2017) は系外衛星候補の検出を報告した,この候補天体は,暫定的にケプラー1625b I と呼ばれており,ケプラーで発見された巨大惑星の周りにあるとされている.この系外衛星候補は,サイズと質量は海王星程度と推定されており,これは太陽系内のあらゆる衛星よりも相当大きい.もし存在が確定すれば,巨大衛星あるいは連星惑星としての新しい分類の天体の初発見例になる.
この惑星と衛星候補が大きな質量比を持つであろうことを動機として,ここでは似たような重い系外衛星が直接撮像されている系外惑星まわりに存在した場合の,ドップラー分光観測での検出可能性を調査した.
ケプラー1625b 周りの衛星候補の場合,惑星に対して衛星によって引き起こされる視線速度のシグナルは 200 m/s 程度である,これは,明るい近傍星を公転する直接撮像惑星周りの類似の衛星を,現在や次世代の装置で検出するのに十分な大きさである.
直接撮像惑星の視線速度サーベイは,系外衛星の探査の他にも,惑星の自転軸の配置を明らかにし得る.これにより,天王星類似天体を同定できる可能性もある.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.01468
Powell et al. (2018)
Formation of Silicate and Titanium Clouds on Hot Jupiters
(ホットジュピターにおけるシリケイトとチタン雲の形成)
予測される粒子サイズ分布はしばしば二峰性になり,形状は不規則であることを見出した.
雲の総量と平衡温度の間には負の相関があり,また雲の総量と大気の混合の間には正の相関がある.
また,惑星の東縁と西縁での雲の特性は明確な差異を示すことを見出した.この差異は,惑星の平衡温度が高いと大きくなる.
雲の不透明度は,中間赤外線での特徴を除くと,広い波長域に渡ってほぼ一定となる.同じ波長帯に渡って,粒子による前方散乱が重要であることが分かった.平均粒子サイズとは対照的に,完全に改造された雲粒子のサイズ分布を用いることで,結果として得られる雲の不透明度に明確な影響を及ぼす.雲の不透明度に最も寄与する粒子サイズは,雲の粒子サイズ分布に強く依存する.
このモデルでは,多くのホットジュピターで見られる可視光のレイリー散乱が,シリケイトかチタンの雲によって引き起こされている可能性は低いと予測される.放射における雲の不透明度は,深い大気におけるコールドトラップの有無を介して,惑星の深い内部の熱的状態に敏感なトレーサーとして使える可能性を示唆している.
arXiv:1805.01468
Powell et al. (2018)
Formation of Silicate and Titanium Clouds on Hot Jupiters
(ホットジュピターにおけるシリケイトとチタン雲の形成)
概要
Bin-scheme の微細物理と鉛直輸送モデルを初めて適用して,ホットジュピター大気中でのチタンとシリケイトの雲粒子のサイズ分布を決定した.惑星上の 4 つの代表的な赤道上経度での粒子サイズ分布を,第一原理から予測した,また,観測される雲の特性が大気の温度構造と鉛直混合にどのように依存するかについても調査した.予測される粒子サイズ分布はしばしば二峰性になり,形状は不規則であることを見出した.
雲の総量と平衡温度の間には負の相関があり,また雲の総量と大気の混合の間には正の相関がある.
また,惑星の東縁と西縁での雲の特性は明確な差異を示すことを見出した.この差異は,惑星の平衡温度が高いと大きくなる.
雲の不透明度は,中間赤外線での特徴を除くと,広い波長域に渡ってほぼ一定となる.同じ波長帯に渡って,粒子による前方散乱が重要であることが分かった.平均粒子サイズとは対照的に,完全に改造された雲粒子のサイズ分布を用いることで,結果として得られる雲の不透明度に明確な影響を及ぼす.雲の不透明度に最も寄与する粒子サイズは,雲の粒子サイズ分布に強く依存する.
このモデルでは,多くのホットジュピターで見られる可視光のレイリー散乱が,シリケイトかチタンの雲によって引き起こされている可能性は低いと予測される.放射における雲の不透明度は,深い大気におけるコールドトラップの有無を介して,惑星の深い内部の熱的状態に敏感なトレーサーとして使える可能性を示唆している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.01860
Van Eylen et al. (2018)
HD 89345: a bright oscillating star hosting a transiting warm Saturn-sized planet observed by K2
(HD 89345:K2 で観測されたトランジットする温暖な土星サイズ惑星を持つ明るい脈動する恒星)
この惑星は土星サイズの惑星であり,やや進化した中心星を公転している.中心星は等級 9.3 の明るい恒星であり,ケプラーの K2 ミッションで観測された.
この恒星は太陽に似た振動を起こしている.この恒星のパラメータを決めるために星震学 (asteroseismology) による分析を行い,1.12 太陽質量,1.657 太陽半径と推定した.また,年齢 94 億歳と推定される.
振動における混合モードが検出されなかった事に基づくと,この恒星は最近主系列段階を離れたと考えられる.
惑星 HD 89345b は “warm Saturn” であり,軌道周期 11.8 日,半径は 6.86 地球半径である.
視線速度のフォローアップ観測が,FIES,HARPS,HARPS-N で行われ,質量は 35.7 地球質量と推定された.データからは,この惑星の軌道は e ~ 0.2 とやや偏心していることが分かった.
恒星の振動周波数の回転による分裂の調査からは,恒星の自転軸傾斜角に関する決定的な証拠は得られなかった.さらに Rossiter-McLaughlin 観測を得た.その結果,恒星の傾斜角について広い範囲の事後分布を得た.
金属量:[Fe/H] = 0.45
半径:1.657 太陽半径
質量:1.120 太陽質量
光度:2.27 太陽光度
年齢:94 億歳
軌道離心率:0.203
質量:35.7 地球質量
半径:6.86 地球半径
軌道長半径:0.1050 AU
平衡温度:1053 K
arXiv:1805.01860
Van Eylen et al. (2018)
HD 89345: a bright oscillating star hosting a transiting warm Saturn-sized planet observed by K2
(HD 89345:K2 で観測されたトランジットする温暖な土星サイズ惑星を持つ明るい脈動する恒星)
概要
HD 89345b (別名 K2-234b,EPIC 248777106b) の発見と特徴付けについて報告する.この惑星は土星サイズの惑星であり,やや進化した中心星を公転している.中心星は等級 9.3 の明るい恒星であり,ケプラーの K2 ミッションで観測された.
この恒星は太陽に似た振動を起こしている.この恒星のパラメータを決めるために星震学 (asteroseismology) による分析を行い,1.12 太陽質量,1.657 太陽半径と推定した.また,年齢 94 億歳と推定される.
振動における混合モードが検出されなかった事に基づくと,この恒星は最近主系列段階を離れたと考えられる.
惑星 HD 89345b は “warm Saturn” であり,軌道周期 11.8 日,半径は 6.86 地球半径である.
視線速度のフォローアップ観測が,FIES,HARPS,HARPS-N で行われ,質量は 35.7 地球質量と推定された.データからは,この惑星の軌道は e ~ 0.2 とやや偏心していることが分かった.
恒星の振動周波数の回転による分裂の調査からは,恒星の自転軸傾斜角に関する決定的な証拠は得られなかった.さらに Rossiter-McLaughlin 観測を得た.その結果,恒星の傾斜角について広い範囲の事後分布を得た.
パラメータ
HD 89345
有効温度:5480 K金属量:[Fe/H] = 0.45
半径:1.657 太陽半径
質量:1.120 太陽質量
光度:2.27 太陽光度
年齢:94 億歳
HD 89345b
軌道周期:11.81399 日軌道離心率:0.203
質量:35.7 地球質量
半径:6.86 地球半径
軌道長半径:0.1050 AU
平衡温度:1053 K
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.01281
Carleo et al. (2018)
Multi-band high resolution spectroscopy rules out the hot Jupiter BD+20 1790b - First data from the GIARPS Commissioning
(多バンド高分解能分光がホットジュピター BD+20 1790b を否定する - GIARPS 試験運用からの最初のデータ)
ここでは,若く活発な K5 星 BD+20 1790 の視線速度変動の性質を明確に識別することを目標とした.この天体は,可視光での視線速度測定から,準恒星質量の伴星の存在においてそれぞれの観測が異なる結果を示している天体である.
この天体の可視光での視線速度データを,高精度の近赤外線の視線速度データと比較した.またGIARPS (GIANO-B と HARPS-N) での,可視光と近赤外での同時観測を初めて実施した.
惑星の軌道運動によって引き起こされる視線速度の変動は波長依存性を示さないため,視線速度変動の様子は異なる波長で変化しない.一方で恒星活動は,波長依存性のある視線速度変動を誘起する.恒星活動による視線速度成分の変動は,可視光領域に対して近赤外領域では著しく減少する.
観測の結果,近赤外線での視線速度測定結果は,過去に公開された可視光でのデータに対して 1/4 程度の平均振幅であった.これは,視線速度変動が恒星活動に起因する場合に期待される結果である.
同時期の多バンド測光は,驚くべきことに近赤外領域で大きな視線速度振幅を示す.これは,同じ活動領域に低温と高温のスポットが混在していると考えることで説明できる.
結果として,この天体の周りに存在が主張されていた重い惑星 (BD+20 1790b) は,今回のデータ中では存在に否定的な結果となった.
arXiv:1805.01281
Carleo et al. (2018)
Multi-band high resolution spectroscopy rules out the hot Jupiter BD+20 1790b - First data from the GIARPS Commissioning
(多バンド高分解能分光がホットジュピター BD+20 1790b を否定する - GIARPS 試験運用からの最初のデータ)
概要
若い系で系外惑星を視線速度法を用いて検出する際は,恒星の活動の影響を大きく受ける.ここでは,若く活発な K5 星 BD+20 1790 の視線速度変動の性質を明確に識別することを目標とした.この天体は,可視光での視線速度測定から,準恒星質量の伴星の存在においてそれぞれの観測が異なる結果を示している天体である.
この天体の可視光での視線速度データを,高精度の近赤外線の視線速度データと比較した.またGIARPS (GIANO-B と HARPS-N) での,可視光と近赤外での同時観測を初めて実施した.
惑星の軌道運動によって引き起こされる視線速度の変動は波長依存性を示さないため,視線速度変動の様子は異なる波長で変化しない.一方で恒星活動は,波長依存性のある視線速度変動を誘起する.恒星活動による視線速度成分の変動は,可視光領域に対して近赤外領域では著しく減少する.
観測の結果,近赤外線での視線速度測定結果は,過去に公開された可視光でのデータに対して 1/4 程度の平均振幅であった.これは,視線速度変動が恒星活動に起因する場合に期待される結果である.
同時期の多バンド測光は,驚くべきことに近赤外領域で大きな視線速度振幅を示す.これは,同じ活動領域に低温と高温のスポットが混在していると考えることで説明できる.
結果として,この天体の周りに存在が主張されていた重い惑星 (BD+20 1790b) は,今回のデータ中では存在に否定的な結果となった.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.01298
Spake et al. (2018)
Helium in the eroding atmosphere of an exoplanet
(系外惑星の侵食される大気中のヘリウム)
初期の理論モデルでは,ヘリウムは系外惑星の大気中,特に広がった大気と散逸している大気中から容易に検出が可能な成分と予測されていた (Seager & Sasselov 2000).しかし,系外惑星大気中からのヘリウムの検出は,これまでに成功していない (Moutou et al. 2003).
ここでは,系外惑星でのヘリウムの 4.5 σ の信頼水準での観測を報告する.
温暖な巨大ガス惑星 WASP-107b (Anderson et al. 2017) の,近赤外線でのの透過スペクトルを測定し,励起された準安定ヘリウムの 10833 Å 波長での細い吸収特徴の存在を同定した.トランジット深さにおけるこの特徴の大きさは,98 Å 幅のバンドパス中で 0.049 ± 0.011% であった.これは,通常の恒星彩層活動によって引き起こされ得るものより 5 倍も大きい.
この大きな吸収シグナルは,WASP-107b は散逸していく広がった大気を持っており,合計の大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s (10 億年で惑星質量の 0.1 - 4% を失う量) に相当すると示唆される.また,恒星からの輻射圧によって,散逸するガスは彗星の尾のような形状になっていると示唆される.
この惑星の大きさは 0.94 木星半径と木星に近いが,質量は 0.12 木星質量と軽い.
軌道周期は 5.7 日で,K6 星 WASP-107 の周りを軌道長半径 0.055 au で公転している.
まずはこの惑星のトランジットの「白色光」での光度曲線を生成するために,得られたスペクトルを波長方向に積分した.
その後,スペクトルを広帯域と狭帯域のビンで足し合わせた,2 セットの分光光度曲線を生成した.一つ目のセットは 8770 - 11360 Å の波長帯の 9 個の広帯域チャンネルで,二つ目は 10580 - 11070 Å の波長帯の 20 個の重なり合っている狭帯域チャンネルからなる.
狭帯域チャンネルは,ヘリウムの三重項の吸収がある 10833 Å の波長をカバーしている (真空での波長の場合.Air wavelength の場合は波長は 10830 Å).広帯域・狭帯域チャンネルの波長幅は,それぞれ 294 Å と 98 Å である.
過去の観測では,減衰された水の吸収バンド (14000 Å が中心) が見られ,フラットなスペクトルは大気中に厚い雲層が存在することを示唆している.
過去の観測と今回の観測の間の恒星活動変動の補正をかけた後,今回のスペクトルは過去の観測で示唆された雲層の水準と合うことを確認した.
解析の結果,狭帯域チャンネルでの透過スペクトルは,10833 Å に最も近い波長チャンネルでピークに達した.これは,惑星大気中のヘリウム吸収がシグナルの原因であった場合に予想される結果である.
この特徴を評価するため,オーバーラップしていないチャンネルとの比較を行った.
その結果,1 つのチャンネルを除いて,ベースラインのトランジット深さ 2.056% と整合的な結果であった.唯一の例外はヘリウム三重項 10833 Å を中心とするチャンネルで,トランジット深さは 2.105% であった.
また,その他の核種による吸収,地球大気のヘリウムによる吸収,恒星の彩層と光球における非一様性部分の惑星による掩蔽など,その他の可能性も否定される.
そのため,広帯域 (連続成分) と狭帯域 (10833 Å 周辺) の透過スペクトルのモデル化に関して,低層大気と高層大気に分離したモデルを使用した.
高層大気に関しては,2 つの数値モデルを使用した.
まずは一次元モデルであり,これは水素・ヘリウム主体のパーカー風中でのヘリウム準位の存在度を解くものである.このモデルからは,大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s と推定される.
2 番目は三次元モデルで,こちらでは準安定状態のヘリウムの散逸率として 106 -7 g/s という値を示唆する (一次元モデルでは,23 S 状態のヘリウムの散逸率は 105 g/s と推定).
また,中心星の輻射圧は散逸するヘリウム原子を惑星から非常に速やかに遠ざけ,尾状の構造が恒星-惑星の軸にほとんど沿った形で形成されることが示唆される.このことは,トランジット後の掩蔽がデータ中に見られなかったことを説明可能である.
輻射圧は,ヘリウムによる吸収の特徴を数百キロメートル毎秒にわたって青方偏移させると思われる.これは高いスペクトル分解能での観測によって識別することが出来ると考えられる.
今回の WASP-107b の 10833 Å 線での観測は,系外惑星からのヘリウムの初検出というだけではなく,赤外線波長における広がった系外惑星大気の初めての検出例でもある.
今回の結果は,広がった惑星大気を研究するための,水素の 2 つのライン (Ly α と Hα) を使用するのとは相補的な新しい手法の実現可能性を実証するものである.この波長での地上からの観測は,現在の高分散赤外分光器で可能である.また近い将来,高いシグナルノイズ比での観測が,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で波長分解能 4 Å で可能になる.
arXiv:1805.01298
Spake et al. (2018)
Helium in the eroding atmosphere of an exoplanet
(系外惑星の侵食される大気中のヘリウム)
概要
ヘリウムは水素に次いで宇宙で 2 番目に豊富な元素であり,太陽系内の巨大ガス惑星の主成分のひとつである.初期の理論モデルでは,ヘリウムは系外惑星の大気中,特に広がった大気と散逸している大気中から容易に検出が可能な成分と予測されていた (Seager & Sasselov 2000).しかし,系外惑星大気中からのヘリウムの検出は,これまでに成功していない (Moutou et al. 2003).
ここでは,系外惑星でのヘリウムの 4.5 σ の信頼水準での観測を報告する.
温暖な巨大ガス惑星 WASP-107b (Anderson et al. 2017) の,近赤外線でのの透過スペクトルを測定し,励起された準安定ヘリウムの 10833 Å 波長での細い吸収特徴の存在を同定した.トランジット深さにおけるこの特徴の大きさは,98 Å 幅のバンドパス中で 0.049 ± 0.011% であった.これは,通常の恒星彩層活動によって引き起こされ得るものより 5 倍も大きい.
この大きな吸収シグナルは,WASP-107b は散逸していく広がった大気を持っており,合計の大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s (10 億年で惑星質量の 0.1 - 4% を失う量) に相当すると示唆される.また,恒星からの輻射圧によって,散逸するガスは彗星の尾のような形状になっていると示唆される.
観測・解析の詳細
WASP-107b について
WASP-107b は,最も低密度な惑星のひとつである.この惑星の大きさは 0.94 木星半径と木星に近いが,質量は 0.12 木星質量と軽い.
軌道周期は 5.7 日で,K6 星 WASP-107 の周りを軌道長半径 0.055 au で公転している.
ハッブル宇宙望遠鏡での観測と解析
2017 年 5 月 31 日に,ハッブル宇宙望遠鏡の Wide Field Camera 3 を用いて,この惑星のトランジットを観測した.観測時間は 7 時間で,合計 84 time series のスペクトルを,8000 - 11000 Å の波長域で取得した.まずはこの惑星のトランジットの「白色光」での光度曲線を生成するために,得られたスペクトルを波長方向に積分した.
その後,スペクトルを広帯域と狭帯域のビンで足し合わせた,2 セットの分光光度曲線を生成した.一つ目のセットは 8770 - 11360 Å の波長帯の 9 個の広帯域チャンネルで,二つ目は 10580 - 11070 Å の波長帯の 20 個の重なり合っている狭帯域チャンネルからなる.
狭帯域チャンネルは,ヘリウムの三重項の吸収がある 10833 Å の波長をカバーしている (真空での波長の場合.Air wavelength の場合は波長は 10830 Å).広帯域・狭帯域チャンネルの波長幅は,それぞれ 294 Å と 98 Å である.
広帯域スペクトルの先行観測との比較
広帯域の透過スペクトルは,過去のこの惑星の透過スペクトルと整合的であった.比較対象とした過去の観測は,同じハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で,今回使用したものとは別のグリズム分光器を用いて取得したスペクトルであり,その観測では 11000 - 16000 Å の波長域をカバーしている (Kreidberg et al. 2018).過去の観測では,減衰された水の吸収バンド (14000 Å が中心) が見られ,フラットなスペクトルは大気中に厚い雲層が存在することを示唆している.
過去の観測と今回の観測の間の恒星活動変動の補正をかけた後,今回のスペクトルは過去の観測で示唆された雲層の水準と合うことを確認した.
ヘリウム準安定線吸収の検出
ヘリウムの三重項による吸収線は,幅が 3 Å と予測される.一方で今回使用した G102 グリズムの分解能は,10400 Å で 67 Å である.そのため,細かくサンプリングされた透過スペクトルを作成するため,波長軸に沿って隣接するチャンネルに対して,20 個の狭帯域チャンネルのそれぞれを 1 ピクセルだけシフトさせた.解析の結果,狭帯域チャンネルでの透過スペクトルは,10833 Å に最も近い波長チャンネルでピークに達した.これは,惑星大気中のヘリウム吸収がシグナルの原因であった場合に予想される結果である.
この特徴を評価するため,オーバーラップしていないチャンネルとの比較を行った.
その結果,1 つのチャンネルを除いて,ベースラインのトランジット深さ 2.056% と整合的な結果であった.唯一の例外はヘリウム三重項 10833 Å を中心とするチャンネルで,トランジット深さは 2.105% であった.
また,その他の核種による吸収,地球大気のヘリウムによる吸収,恒星の彩層と光球における非一様性部分の惑星による掩蔽など,その他の可能性も否定される.
大気中のヘリウムのモデリング
10833 Å 波長で探査できる準安定ヘリウムは,惑星大気中の高い部分で,µbar - nbar の圧力の領域に相当する.この圧力領域では,恒星からのの極端紫外線放射がよく吸収される.一方で,近接する波長での連続成分の吸収は,惑星大気のより深い所,mbar - bar 水準の圧力で発生する.そのため,広帯域 (連続成分) と狭帯域 (10833 Å 周辺) の透過スペクトルのモデル化に関して,低層大気と高層大気に分離したモデルを使用した.
高層大気に関しては,2 つの数値モデルを使用した.
まずは一次元モデルであり,これは水素・ヘリウム主体のパーカー風中でのヘリウム準位の存在度を解くものである.このモデルからは,大気散逸率は 1010 - 3 × 1011 g/s と推定される.
2 番目は三次元モデルで,こちらでは準安定状態のヘリウムの散逸率として 106 -7 g/s という値を示唆する (一次元モデルでは,23 S 状態のヘリウムの散逸率は 105 g/s と推定).
また,中心星の輻射圧は散逸するヘリウム原子を惑星から非常に速やかに遠ざけ,尾状の構造が恒星-惑星の軸にほとんど沿った形で形成されることが示唆される.このことは,トランジット後の掩蔽がデータ中に見られなかったことを説明可能である.
輻射圧は,ヘリウムによる吸収の特徴を数百キロメートル毎秒にわたって青方偏移させると思われる.これは高いスペクトル分解能での観測によって識別することが出来ると考えられる.
大気散逸の観測的研究について
系外惑星の広がった大気はこれまでに,紫外線の Ly α 線をターゲットとして,3 つの系外惑星で検出されている (GJ 436b, Kulow et al. 2014, HD 209458b, Vidal-Madjar et al. 2003, HD 189733b, Lecavelier des Etangs 2010).また,可視光の Hα 線を用いても 1 つの惑星で確認されている (HD 189733b, Jensen et al. 2012).今回の WASP-107b の 10833 Å 線での観測は,系外惑星からのヘリウムの初検出というだけではなく,赤外線波長における広がった系外惑星大気の初めての検出例でもある.
今回の結果は,広がった惑星大気を研究するための,水素の 2 つのライン (Ly α と Hα) を使用するのとは相補的な新しい手法の実現可能性を実証するものである.この波長での地上からの観測は,現在の高分散赤外分光器で可能である.また近い将来,高いシグナルノイズ比での観測が,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で波長分解能 4 Å で可能になる.
天文・宇宙物理関連メモ vol.539 Teachey et al. (2017) ケプラー惑星中の系外衛星シグナルの探査