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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1901.08073
Allart et al. (2019)
High-resolution confirmation of an extended helium atmosphere around WASP-107b
(WASP-107b まわりの広がったヘリウム大気の高分散での確認)

概要

系外惑星大気からの蒸発の探査は,系外惑星系の形成と進化を理解する上で重要である.紫外線での蒸発の主要なトレーサーは Lyα 遷移であり,中性水素の広がった外気圏を探ることができる.

最近,近赤外線の準安定ヘリウム三重項 (10833 Å) がいくつかの系外惑星で広がった熱圏の存在を明らかにし,惑星大気の蒸発の探査への新しい観測ウィンドウが開かれた.

ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた観測で初めてヘリウムの吸収特徴がスペクトル分解されたウォームサターン WASP-107b に着目する.Calar Alto 天文台の 3.5 m 望遠鏡に設置された CARMENES 高分散分光器を用いて,この惑星のトランジットを観測した.

その結果,トランジットの最中に惑星の静止座標系で 5.54 ± 0.27% (20σ) のヘリウムの吸収超過が検出された.この検出はハッブル宇宙望遠鏡で検出されていた特徴と一致するものである.吸収特徴はスペクトル線の青い側で超過吸収を見せており,これは He I 原子がこの惑星の大気から散逸していることを示唆している.

三次元 EVE コードを,用いてヘリウム吸収スペクトルの時系列データの解釈を行った.
今回の観測は,惑星のロッシュローブの半分を埋める広がった熱圏の存在と,準安定ヘリウムの散逸率が 106 g s-1 のオーダーであり,これによって維持されている大きな外気圏の尾の組み合わせによって説明できる.しかしこのシナリオでは,観測と合わせるためには高層大気は予想よりも少ない光電離と輻射圧にさらされていないといけない.

今回の観測では,この惑星の大気中のヘリウムの存在が高い信頼度で確認された.この惑星のヘリウムの特徴は,宇宙からも地上からも検出されたことになる.地上からの高分散シグナルの観測は,高層大気の空間的そして力学的な構造に関する詳細な情報をもたらす.またシミュレーションではこの惑星の He I の特徴は惑星の熱圏と外気圏の両方を探れることを示唆しており,この特徴は系外惑星の高層大気の堅牢な探査手段であることを確立した.近赤外光分散分光器 (CARMENES, SPIRou, NIRPS) は系外惑星の熱圏と外気圏に関する統計的な理解をヘリウム三重項の特徴を介して届けてくれる.

研究背景

系外惑星の大気散逸

系外惑星の大気は中心星の輻射を吸収して加熱され,流体力学的に流出する.水素は,紫外線の Lyα でホットジュピターから散逸しているのが初めて観測された.検出例として HD 209458b (Vidal-Madjar et al. 2003),HD 189733b (Lecavelier des Etangs et al. 2010) がある.また,散逸する大気は広がった彗星の尾のような構造を形成する.

より最近では,ウォームネプチューン GJ 436b (Ehrenreich et al. 2015) や GJ 3470b (Bourrier et al. 2018) でもさらに大きい水素の外気圏が検出されている.

Lyα 線は大気の最外層を探るのに適した波長であるが,紫外線波長における恒星の連続放射成分が少ないことと,星間物質による吸収の影響のため,太陽に近い系外惑星系でしか観測できないという難点がある.

ヘリウムを用いた大気散逸の観測

一方で,準安定なヘリウム三重項の波長は,星間物質の吸収領域の外にある (Indriolo et al. 2009,真空中では 10832.1,10833.2 および 10833.3 Å),よってこの波長は高層大気の良いトレーサーとして使用できる (Seager& Sasselov 2000; Oklopcˇic ́ & Hirata 2018).

この波長は,最近いくつかの系外惑星で検出されている.ウォームサターン WASP-107b (Spake et al. 2018),ホットジュピター WASP-69b と HD 189733b (Nortmann et al. 2018,Salz et al. 2018),小さいウォームネプチューン HAT-P-11b (Allart et al. 2018,Mansfield et al. 2018) である.WASP-107b を除く全惑星は,高分散の CARMENES を用いて観測されている.

WASP-107b について

WASP-107b (Anderson et al. 2017) はウォームサターンであり,0.11 木星質量,0.94 木星半径で,蒸発砂漠の上端にあたる半径を持つ.中心星 WASP-107 は K6 型星,惑星は 5.72 日周期で公転している.

WASP-107b の質量は海王星の 2 倍だが半径は木星に似ており,密度の低い系外惑星の一つである (0.19 ± 0.03 g cm-3).惑星大気からは水 (Kreidberg et al. 2018) とヘリウム (Spale et al. 2018) が検出されており,どちらもハッブル宇宙望遠鏡を使用した観測である.しかし,検出されたヘリウムの特徴は,G102 グリズムの低分散 (67Å) を用いた観測だったため分解されず,強く薄められたスペクトルしか得られていなかった.ヘリウムの吸収特徴の典型的な幅はおよそ 1Å である.そのため,この惑星のヘリウムの吸収特徴はあまり良く特徴付けされていなかった.

今回はこの惑星を CARMENES を用いて高分散トランジット分光観測した.

観測結果とその解釈

高分散でのヘリウム吸収の検出

過去の観測ではヘリウムのスペクトルを分解できていなかったため,ハッブル宇宙望遠鏡でのヘリウムの検出データは,2 つの異なるモデルの両方でよくフィットできた.
ロッシュローブから広がった高温の熱圏の 1 次元モデルでは,ヘリウムの吸収線は深く,惑星の静止座標系において対称な形状になることを予測した.一方で系外惑星から散逸する尾状の構造を持つ 3 次元モデルでは,浅い吸収線を持ち広いスペクトル範囲に広がった線になることが予測された.これは,ヘリウム原子が惑星から吹き流されるという力学的な影響によるものである.

CARMENES では高分散観測を行うため,これらの特徴を探ることができる.
その結果,ヘリウムの吸収特徴は非対称な形状をしており,惑星静止座標で見た場合に青い側に明確な超過吸収があった.このことは,惑星から散逸する大気は惑星から吹き流されて彗星の尾のような形状を形成していることを示唆している.このことは Spake et al. (2018) での 3 次元シミュレーションで予測されていたものである,

散逸する準安定ヘリウム原子への中心星からの輻射圧が非常に強いため,散逸する大気の尾は恒星-惑星の軸に揃った方向に形成され,地球から見て天球への投影はほぼ円形になることが示唆されていた.しかし測定された吸収は,この予測よりも短波長側に広がっていることが判明した.

シミュレーションとの比較

上記の特徴を調べるため,3 次元の EVE コードを用いて散逸する大気を計算した.計算に用いる恒星のスペクトルとして,WASP-107 の代用として K6 星の HD 85512 のスペクトルを使用した.しかしその結果,散逸する原子はシミュレーション中で高速に加速されてしまい,観測結果と一致しなかった.

ヘリウム三重項周辺の恒星のスペクトルを人工的にファクター 50 下げ,ヘリウム原子に働く輻射圧が恒星の重力より 50% 程度強いという状況にすると,観測データを再現することができた.しかしこのシナリオでは,散逸するヘリウム原子が晒される加速はゆっくりであり,観測された大気速度に到達する前にヘリウム原子が光電離されてしまうという問題がある.

近赤外線フラックスと同じ程度のファクターだけ恒星の XUV フラックスを下げることで,吸収分布の観測された形状は復元することができた.この場合準安定ヘリウムの寿命は輻射脱励起 (寿命 ~131 分) で左右され,光電離 (惑星の軌道長半径での元々の XUV フラックスの元では ~ 7 分の寿命) では左右されない.

この結果は,HD 85512 のスペクトルは WASP-107 のスペクトルの良い代用になっていないという可能性を示唆している.特に EUV 放射のスペクトルは経験的に導出したものを使用している.

しかし,WASP-107 の恒星の元素のスペクトルがヘリウム三重項の部分で期待される黒体放射よりも低いことに関して,特定の理由は見出だせない.そのため,別のメカニズムが観測結果を再現するためには必要であることを示唆している.例えば,未知の吸収源によって恒星からの輻射が遮蔽されている,散逸する大気の力学は他の散逸する各種との衝突に影響されている,恒星風粒子との衝突に影響されているなどといった効果である.

結論

Spake et al. (2018) では,WASP-107b 大気中のヘリウム三重項の特徴が,単一のトランジットでハッブル宇宙望遠鏡を用いて検出された.ただしこの観測は低分解能であったため,スペクトル線の特徴は分解されておらず,惑星大気中のヘリウムの起源も不明確であった.

今回の地上からの CARMENES での単一のトランジット観測で,ヘリウムを高い信頼度で検出した.吸収の深さは 5.54 ± 0.27% (20σ) であった.吸収の特徴は惑星静止座標系でヘリウムの三重項の波長にあった.また,可視光よりも長いトランジットが検出され,ヘリウムが惑星起源であることと,Spake et al. (2018) の結果を確認した.

この惑星は,地上からと宇宙空間の両方の観測でヘリウムが検出された系外惑星としては HAT-P-11b に次いで二番目となる.

ヘリウムの吸収は時間的な非対称性は見せなかったものの,惑星の静止座標系での特徴は非対称であり,青い側の波長での吸収が超過していた.3D シミュレーションの結果を用いて,広がった熱圏が彗星の尾のような外気圏を維持していると考えると観測を説明出来ることを見出した.

このシナリオは,散逸するヘリウム原子は予想よりも減衰した輻射圧によって吹き流されている必要があり,これは別の物理メカニズムが働いていることを示唆する結果である.

高スペクトル分解能でのさらなる観測が,この惑星の高層大気の力学と構造を特徴付けるために必要だが,スペクトルの特徴に時間変動が存在する可能性の調査も同様に必要である (例えば HAT-P-11b,Allart et al. 2018).

しかし今回の観測は,このスペクトル線の他の系外惑星の観測とは対象的に,近赤外線ヘリウム三重項は熱圏と外気圏の両方をトレースすることができることを示している (Allart et al. 2018,Nortmann et al. 2018,Salz et al. 2018).新世代の近赤外線高分散分光器 (CARMENES,SPIRou,NIRPS) とその大規模な大気サーベイで,ヘリウム三重項は系外惑星の広がった大気の統計的な研究の新時代を開くだろう.

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