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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1907.13425
Alonso-Floriano et al. (2019)
He I λ 10830 Å in the transmission spectrum of HD 209458 b
(HD 209458b の透過スペクトル中のヘリウム I 10830 Å)

概要

近年,10830 Å 波長のヘリウム三重項は,中心星に近接するトランジット惑星の広がった大気や,おそらくは蒸発している大気を探査するための良い手段として再評価されている.既に宇宙空間からも地上観測からも,いくつかの系外惑星の大気中から検出されている.

しかし,ホットジュピター HD 209458b ではヘリウムの強いシグナルが期待されるものの,これまでの観測では吸収の上限値しか得られていなかった.今回の目標は,この惑星でのヘリウムの超過吸収を測定し,惑星の広がった大気や,おそらく蒸発している大気の特性を調査することである.

Calar Alto 天文台 3.5 m 望遠鏡の CARMENES を用いて,この惑星の高分散トランジットスペクトルを取得した.スペクトル分解能は 80400 で,10830 Å のヘリウム三重項の検出を狙った.観測されたスペクトルについて,恒星の吸収線は惑星がトランジットを起こしていない際の観測データから,地球大気による吸収は MOLECFIT 吸収から,空の輝線は空の同時測定から,それぞれ補正を行った.

その結果,トランジットの最中で 0.91% (9σ) の深さのヘリウム吸収を検出した.吸収は惑星のトランジット最中の視線速度変化に従った変化を見せたため,この吸収は惑星起源であることを確認した.

吸収のスペクトル線コアの合計の青方偏位は 1.8 ± 1.3 km s-1 であった.トランジットの中心付近で,主要な吸収からさらに青方偏位した低水準の超過吸収と思われる兆候が検出された.これは広がった大気の尾によって引き起こされている可能性があるものの,これは未確定である.

今回の結果は,ヘリウム三重項での惑星の吸収の強度と,電離度,恒星の X 線と極端紫外線放射の水準の間に見られる密接な関連をさらに支持するものである.

議論

他の波長での観測との比較

HD 209458b の高層大気によるトランジット時の強い吸収は,これまでに Lyα 線 (Vidal-Madjar et al. 2003),炭素原子と酸素原子 (Vidal-Madjar et al. 2004),マグネシウム (Vidal-Madjar et al. 2013) で検出されていた.これらの吸収深さは 5-10% の水準である.

今回検出された He I の吸収深さは非常に低く,吸収線を生成するために必要な励起状態のヘリウム原子の存在度が低いことによると考えられ,これは予想通りの結果である.しかし He I の解析から導出した質量放出率は,Lyα 観測からの推定と整合的である.

過去のヘリウム観測との比較

過去の Moutou et al. (2003) と Nortmann et al. (2018) による観測報告では,HD 209458b での He I 吸収深さの上限値を与えている.これらの上限値は,今回の観測結果と整合的である.

Moutou et al. (2003) では,3 Å のバンド幅での観測で,He I の吸収深さに対して 0.5% という上限値を与えている.今回の観測において,同じバンド幅を仮定すると,今回の吸収 (0.91%,半値全幅 ~0.4Å) は 0.12% に相当することになる.

Nortmann et al. (2019) では,データの品質の問題でヘリウム吸収を見るのが難しい.今回の観測では Nortmann et al. (2019) と同じ装置を用いているが,2016 年 11 月に行われた近赤外観測装置の大幅な改良を挟んでおり,熱制御が過去の観測より改善されているため,データの品質に大きな違いが生じる.その他にも,観測のセッティングが理想的ではなかったという事情もある.
いずれにせよ,Nortmann et al. (2019) では吸収の上限値として 0.84% を与えていた.

透過光ラインプロファイル

ヘリウムの吸収シグナルと誤認し得る可能性としては,ロシター効果が考えられる.しかし恒星の He I 線は HD 209458 では非常に弱いため,この効果は無視できる.

実際に,恒星のヘリウム放射がより強い同様の観測対象でも,ロシター効果の影響は 0.1% より小さいと推定されている (Nortmann et al. 2018,Salz et al. 2018など).また,波長が近い Si I の吸収はヘリウムの吸収より 9 倍ほど深く,平均の透過スペクトル残差が 0.2-0.4% あった.
そのためロシター効果の影響は,この天体に関しては 0.044% よりも小さい,つまり測定された透過シグナルより 20 倍も小さいと結論付けた.

青方偏移シグナルの兆候

トランジットの中間付近で,10-15 km s-1 程度青い波長側 (短波長側) に,追加の吸収の特徴と思われるシグナルを検出した.その間に,恒星の活動が発生した事を示すシグナルはない.

この吸収がアーティファクトである可能性を否定はできない.もし実際のシグナルであれば,これは惑星の熱圏の外層,あるいは外気圏での吸収を見ている可能性はある.

しかし観測結果のフィットには時間変動の情報は入っておらず,この追加の吸収を確定するにはさらなる観測が必要である.

XUV 光度との関連性

Nortmann et al. (2018) では,恒星の XUV (5-504Å) の輻射強度と,観測される He I 吸収の強度の関係性を提唱した.

He I による吸収は,励起された準安定の 23 S 状態にいる中性ヘリウム原子に起因する.この準位のポピュレーションは,中性ヘリウム原子が中心星からの輻射によって電離し,その後低温環境で再結合することによって生成される.この電離を起こす放射は,晩期型星のコロナと遷移領域で生成される (F, G, K, M 型星).これは恒星活動の水準に直接関連しており,主に恒星の自転に依存している.そのため,晩期型星周りの近接ガス惑星はヘリウム三重項を探査するための良い対象である.

HD 209458b は,これまでに He I 吸収が報告された惑星の中では最もシグナルが弱い.また検出報告された中では,恒星から受け取る XUV フラックスが最も小さい.中心星は比較的活動の弱い G 型星である.そのため,この測定は示唆されている傾向と一致しており,低い輻射レベルでの活動度との関係性を結びつけるものである.

ただし,XUV 強度は He I 吸収深さを決める唯一の要素ではないと考えられる.Oklopcˇic ́ (2019) では,輻射を受ける惑星での He I 吸収強度は,中心星のスペクトル型に依存するとモデル化している.そのモデルでは,極端紫外線と中間紫外線のフラックスの比が吸収の強度を決めると示唆しており,K 型星で有利な条件であることを示唆している.

結論

HD 209458b における波長 10830Å での He I による確実な検出について報告した,トランジット吸収深さは 0.91 ± 0.10% であった.今回の観測結果は,この惑星に対する 10 年を超える He I 探査に結論をもたらすものである (Seager & Sasselov 2000,Moutou et al. 2003,Nortmann et al. 2018).

検出された吸収の強度は,ヘリウムのシグナルと中心星の活動度に関係があるという,これまでに提唱されている経験的な関係性と整合的であった (Nortmann et al. 2018).

また,主要なヘリウムのシグナルから青い側,-13 km s-1 で追加の吸収を暫定的に検出した.これは彗星の尾のような形状になっている散逸大気を示すものである可能性があるが,これが信頼性の高い特徴の検出であるかは不明である.さらに,He I 三重項ではトランジット前後の吸収の証拠は得られなかった.

今回の結果からは,水素とヘリウムの総計の散逸率が 108-1011 g s-1 と推定される.推定値のばらつきは,高層大気に対して仮定する温度に依存する.

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