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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1909.03000
Daylan et al. (2019)
TESS observations of the WASP-121 b phase curve
(WASP-121b 位相曲線の TESS の観測)

概要

Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) によるウルトラホットジュピター WASP-121b の,赤い可視光での測光観測について報告する.また,輻射輸送シミュレーションによる大気のモデル化についても報告する.

この惑星は 1.275 日という短い軌道周期であり,また膨張した半径を持ち,さらに中心星が明るいため,詳細な特徴付けを行うための観測に非常に適した対象である.ここでは allesfitter を用いて赤い可視光の全位相曲線の特徴付けを行った.これは惑星の位相変動と二次食を含む.

TESS のパスバンドで昼側と夜側の輝度温度を測定し,それぞれ 2940 K と 2190 K と推定された.また惑星上の最も明るい場所の恒星直下点からの位相のずれは検出されなかった.これは,この惑星における熱の再循環が非効率的であることと整合的である.

WASP-121b のバルク組成やアルベド,熱の再循環などの昼側大気の特性を推定するための大気復元解析を実行した.その結果,大気中の温度逆転層の存在を確認した.温度逆転層が形成される原因として,H-,TiO,VO による吸収の可能性を示唆する.これらの核種は,大気の低圧領域で可視光を吸収して大気を加熱すると考えられる.

今回の TESS による全位相曲線の初めての観測は,将来のハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測につながるものとなるだろう.

観測結果

位相曲線

位相曲線では,二次食の深さは 534 ppm,惑星に由来する光度の変調は 445 ppm であった.この二次食の深さは,惑星の昼側の輝度温度が TESS のパスバンドで 2940 K であることに対応している.また ellipsoidal variation (惑星の潮汐力により恒星が変形することによる変光) による振幅は ~40 ppm と測定された.

今回の赤い波長域の可視光での二次食観測は,先行研究での測定結果と全体的に整合的である.
しかし Mikal-Evans et al. (2019) での復元解析のみに基づくと,つまり今回の TESS による測定結果を除いた解析に基づくと,予測される二次食深さは ~300 ppm である.これは,TESS の二次食深さの測定は,より赤いバンドでの二次食の測定に基づく予想を上回っており,この惑星の昼側の放射スペクトルは黒体放射スペクトルとは非整合であることを示唆している.

惑星の夜側からの放射については,輝度温度が 2190 K と測定された.また,西向きへの位相のずれは 1.0 (+6.5, -6.4) 度であり,これは 0 度と整合的である.

昼面と夜面の温度差は 25.7% であった.
2 次元の温度マップでは位相のずれが無く,温度は経度の関数として大きな勾配を持つ.これは,強い赤道風によって熱位相が ~30度ずれていることが分かっているホットジュピター HD 189733b とは対照的な結果である.

大気特性

昼側の大気の金属量は,太陽より多く 1.18 と推定される.大気中の炭素の存在度は制限できなかったものの,酸素は太陽組成と近い存在度と推定される.

昼側の輻射効率はほぼ 1 と推定される.この惑星の昼側大気は非反射と整合的で,非効率的な熱再循環を持つ.
z’ バンドでの幾何学的アルベドの過去の推定値は 0.16 ± 0.11 である (Mallonn et al. 2019).TESS バンドで測定された幾何学的アルベドは 0.07 (+0.037, -0.040) であり,TESS のパスバンドでは無視できない反射率を持つことの緩やかな証拠である.

議論

今回得られた TESS の位相曲線では,WASP-121b の昼側大気に温度逆転層が存在することのさらなる証拠が検出された.

二次食の深さは,過去の長波長での二次食の深さ測定に基づく予測よりも深い値であった.この超過には,2 つの要素が関係している可能性がある.

1 つ目は,この惑星は TESS のパスバンドの波長ではいくらかの光を反射しているというものである.TESS パスバンドは過去の観測よりも短い波長をカバーしており,その波長域では惑星と恒星の熱放射のコントラストが小さくなる.そのためこの超過は,系外惑星表面での反射光によるものである可能性がある.

一般的に,比較的低温な惑星 (例えば 300 K 以下) での水やアンモニアなどの凝縮物や,高温惑星 (1500 K 以上) での酸化アルミニウム (Al2O3,コランダム) やチタン酸カルシウム (CaTiO3,ペロブスカイト) の凝縮物は惑星の反射率を上げ,結果としてアルベドを上げる.

しかし WASP-121b のようなウルトラホットジュピターは,雲のミー散乱による高い反射率を持たないことが予想される (Bell et al. 2017,Shporer et al. 2019).これは,このような高温の惑星では凝縮物が生成されないからである.
また,雲なし大気でのレイリー散乱は短波長でのみ有効であり,TESS のパスバンドでアルベドを上げるには不十分である.

ただし,この惑星のような高温の恒星直下であっても,夜側の半球から昼側に流入してきたばかりでまだ縁に近い大気の場合,夜側で生成された凝縮物が蒸発するための十分な時間がない場合は,これらによる反射が起こりうる.

2 つ目は,さらなる不透明度源の存在である.これは,温度逆転層が存在するという過去の報告とも整合的である.さらなる吸収を引き起こしうるのは,H- イオンによる連続波吸収,鉄などの金属のガス (Lothringer et al. 2018),あるいは TiO や VO などである.


熱の再循環の取りうる範囲は,水素分子が熱的に水素原子に解離し,夜側で再結合により水素分子になって熱を解放することによる,昼側から夜側への熱の輸送で説明可能である.この過程は,帯状風のみに基づくものよりも,熱の再循環をより効率的にすることが出来る (Bell & Cowan 2018,Komacek & Tan 2018).

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