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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1802.07725
Bell & Cowan (2018)
Increased Heat Transport in Ultra-Hot Jupiter Atmospheres Through H2 Dissociation/Recombination
(H2 の解離/再結合を介した超高温ホットジュピター大気中の熱輸送の増加)

概要

近年,ultra-hot Jupier (UHJ,ウルトラホットジュピター) という新しい分類の系外惑星が発見され始めている.このような惑星の昼側の大気は非常に高温になるため,大部分の分子成分が解離するという,恒星大気により一層似た状態になっている.これらの分子種の解離の効果は多岐にわたるため,影響については注意深く考慮する必要がある.

ここでは,分子状水素の解離と再結合による熱力学的な帰結を理解するための第一歩の研究を行う.惑星大気中での東向きの風を伴ったシンプルなエネルギーバランスモデルを用いて,大気中での水素分子の解離・再結合は,ウルトラホットジュピターの昼夜間熱輸送を大きく増加させるはたらきがあることを示す

ここでのウルトラホットジュピターとは,惑星表面のいずれかの部分が 2200 K 程度よりも高温になっている巨大ガス系外惑星を指す.
このような惑星では,大部分の水素分子の解離は強い輻射を受けている昼側半球で発生し,昼側で注入されたエネルギーのいくらかを夜側へ輸送する.その後夜側半球では水素原子は水素分子へと再結合する.この機構は潜熱と類似している.

仮に大気の速度が一定の場合は,これは熱の再循環効率を増加させる働きがある.代わりに,測定されているウルトラホットジュピターでの熱再循環効率からは,水素分子の解離・再結合の影響を考慮した場合,東向きの大気の風速はより低速であることが要求される.

研究背景

ウルトラホットジュピターでの水素分子の解離・再結合

多くの巨大ガス惑星は,水素分子を主成分とする大気を持つ.しかし温度が 2200 K 程度を超えると,大部分の水素分子は熱解離を起こす (Langmuir 1912).このような温度の系外惑星は,単なるホットジュピターではなく,ウルトラホットジュピターと呼ぶ場合もある.これほどの温度になっているものは今のところ一握りしか発見されていないが,将来の TESS ミッションでは ~ 1500 個は発見されるだろうと期待されている.

ウルトラホットジュピターは表面温度が恒星に近く,H- イオンの束縛-自由遷移と自由-自由遷移に起因する不透明度が,二次食で検出された惑星の昼側のスペクトルの連続成分における大気不透明度において,重要な役割を果たしていることが指摘されている (Bell et al. 2017,Arcangeli et al. 2018).このことは,高温領域では水素分子が解離していることを示す結果であるが,水素分子の解離と再結合の熱力学的な効果についてはこれまでに調査されてこなかった.

ホットジュピターの大気循環と熱再分配効率への影響

ホットジュピターの昼夜間の温度差は,恒星から受ける輻射が増加するのに伴って大きくなることが期待される.これは理論的にも (Perez-Becker & Showman 2013,Komacek & Showman 2016など),観測的にも (Zhang et al. 2018,Schwartz et al. 2017) 予測されている.ウルトラホットジュピターでは,昼夜間の温度勾配が 1000 K 以上になることも有り得ると考えられる.惑星の昼夜間の温度が大きく変化すると,局所熱平衡の水素分子解離率も変化する.
水素原子が再結合して水素分子を形成する反応は顕著な発熱過程であり,2.14 × 108 J kg-1 のエネルギーを解放する.これは水の凝結に伴う潜熱の解放よりも 100 倍以上大きな値である.

参考として,水の潜熱の効果は地球での熱の再循環のおよそ半分を占めているが,ウルトラホットジュピターでは水素分子の解離再結合はより大きな影響になると予想される (100 倍程度).そのため,風によって恒星直下点から東向きに流されるに従って水素原子が水素分子へ再結合し,潜熱を解放して東側の半球を大きく加熱することが期待される.

夜側からガスが流れ続けて昼側へ来ると,温度が高くなるため水素分子は再び解離し,この反応によって西側半球を冷却することになる.位相曲線のモデリングに際してこの効果を考慮しない場合,これは WASP-12b で過去に報告があったように,ホットスポットの ”非物理的に” 大きな東方向へのオフセット (Cowan et al. 2012) として現れる可能性がある.

系外惑星の大気循環モデルは複数存在するが,水素分子の再結合・解離に伴うエネルギー解放・吸収による加熱・冷却を考慮したものはこれまでに存在しない.ここでは,シンプルなエネルギーバランスモデルを用いて,解離・再結合に伴う影響を定性的に評価した.

モデル

シンプルな大気モデルを用いて定性的な評価を行う.大気の温度-圧力構造の影響はここでは無視し,惑星の光球での圧力を 0.1 bar と固定して考える.また大気循環は東方向のみの循環を考え,子午面の循環などはここでは無視する.また剛体回転を仮定し,風速の緯度方向・経度方向・高度方向・あるいは時間変動は考慮しない.

またこのモデルでは予想される風速の予言はできず,その他の様々な力,例えば磁場による力 (1400 K 以上で重要になると思われる,Koll & Komacek 2017) などを考慮する必要がある.また水素分子の解離・再結合と中心星輻射のみを考慮したが,ここでは内部から供給される形成時の残余熱は無視している.ただし残余熱については,10 億歳より年老いた惑星では無視できる (Burrows et al. 2006).

また,潮汐加熱,粘性加熱,オーム加熱は考慮していない.さらに惑星表面について一応なアルベドを仮定しているが,これは一般には正しくない.

議論と結論

理論と観測の双方から,惑星が受ける輻射が増加すると,大気中の熱の再循環は弱くなる傾向にある事が示されている (Komacek & Showman 2016, Schwartz et al. 2017など).つまり,受ける輻射が増加すると,非効率な熱の循環のせいで昼夜間の温度差は増加する傾向がある.

しかしこの傾向には,高温の惑星ではいくつかの例外がある事が報告されている.
最近では,Zhang et al. (2018) で,ウルトラホットジュピターである WASP-33b での熱の再循環効率が 0.2 程度と見積もられている.これは,理論的な予測や観測からの傾向よりも高い値である.

WASP-12b もおそらくは異様に高い熱循環効率を持っており,シンプルな熱移流モデルに期待されるよりも大きなホットスポットの位相のオフセットを示す (Cowan et al. 2012).ただし,水素分子の解離・再結合からの二次フーリエ級数項の指数からは,位相曲線はより鋭いピークを持つようになることが期待されるため,Cowan et al. (2012) の観測で WASP-12b に見られているような二重ピークの位相曲線を説明するのは難しいと考えられる.WASP-12b に関しては将来の観測で,スピッツァー宇宙望遠鏡の機器によるアーティファクトが原因かどうかの決定が必要である.

また,Arcangeli et al. (2018) が WASP-18b の大気中の水素解離・再結合の兆候を発見する一方,Maxted et al. (2013) は昼夜間の熱再循環効率が非常に小さいことを指摘している.このことは,WASP-18b は非常に弱い風を持っているか,あるいは水素分子の解離・再結合が惑星の熱再循環に大きな役割を果たすには WASP-18b は低温過ぎるということを示唆している.

最後に,スピッツァー宇宙望遠鏡や将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による,現在知られている中で最も高温なウルトラホットジュピターである KELT-9b (Gaudi et al. 2017) の観測を行うことで,ここで提案している理論を検証することが出来るだろう.

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