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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1911.11989
Liu et al. (2019)
A wide star-black-hole binary system from radial-velocity measurements
(視線速度測定からの広い恒星・ブラックホール連星系)

概要

これまで,全ての恒星質量ブラックホールは,伴星からブラックホールに降着するガスから放射される X 線を検出することによって同定されていた.このようにして検出された系は全て,30 太陽質量以下のブラックホールとの連星であった.

しかし理論的には,X 線を放射する系は恒星-ブラックホール連星の中では少数派であることが予測されている.ブラックホールが恒星からのガスを降着していない場合,伴星の運動の視線速度測定を介してブラックホールが発見される可能性がある.

ここでは,銀河内の恒星 LB-1 の視線速度測定について報告する.この恒星は B 型星で,2 年以上にわたって視線速度を測定した.
その結果,この B 型星の運動と,それに伴う Hα 放射のスペクトル線からは,質量が 68 (+11, -13) 太陽質量の暗い天体の存在が必要であることを見出した.そのような天体は,ブラックホール以外にはありえない.78.9 日と長い周期を持つことから,広い間隔を持った連星である.

重力波観測では同程度の重いブラックホールが検出されているが,このような重いブラックホールを高金属量の環境で形成するのは,現在の恒星進化理論では非常に困難である.

LB-1 について

LB-1 は B 型星であり,太陽系から見て銀河系中心の反対方向に位置している.金属量は太陽金属量の 1.2 倍であり,銀河円盤面に存在する若い B 型星に予想される値と整合的である.有効温度は 18100 K である.

ヘルツシュプルング・ラッセル上での転回点付近にある主系列星の恒星モデルから,LB-1 は 8.2 太陽質量,9 太陽半径,年齢は 3500 万歳と推定される.ベストフィットモデルでは,B 型準巨星で,主系列星の転回点を通過して 20 万年経っていると推定される.距離は 4.23 kpc である.

観測と解析

LAMOST,GTC,Keck の観測から LB-1 の視線速度を測定した.その結果,78.9 日周期,視線速度の半振幅が 52.8 km/s,離心率 0.03 との結果が得られた.

B 型星の質量は既知であり,傾斜角 90° の edge-on 配置にある場合,暗い主星の最小質量は 6.3 太陽質量と計算される.これはブラックホールに違いないと考えられる.これは,6 太陽質量の質量を持つ主系列星は B 星よりわずかに 4-6 倍暗いだけであり,Keck のスペクトル中に容易に特徴が検出されるはずだからである.

ブラックホールの質量は,Hα 放射でブラックホールの動きをトレースし,それを見えている恒星の動きと比較することで推定可能である.Hα線の視線速度を 78.9 日周期で折りたたみ,見えている恒星の逆位相の制限曲線でフィットした.
ただしスペクトル線の中心は周連星物質による寄与がある可能性があり,それらの物質の降着点は系統的にはブラックホールを中心としていないため,ブラックホールの示唆される動きを減少させ得る.そのためこの動きは除去する必要がある.

この解析を用いて,ブラックホールの質量は 68 (+11, -13) 太陽質量と推定され,ここから連星の傾斜角は 15-18° と推定される.

70 太陽質量ブラックホール

LIGO/VIRGO による重力波観測では,太陽質量の数十倍の質量のブラックホールの存在が明らかになっており,これらはこれまでに知られていた銀河系内のブラックホールよりもずっと大きな質量を持つ.今回の LB-1 での 70 太陽質量ブラックホールの発見は,このようなブラックホールが銀河系内にも存在することを確認するものである.

しかし,重いブラックホールは低金属量環境で主に形成されるが (0.2 太陽金属量未満),伴星は太陽金属量と同程度である.現在の理論では,太陽金属量の環境では 25 太陽質量までのブラックホールの形成しかできず,この発見は恒星進化モデルへの重大な挑戦となる.

より重いブラックホールを形成するためには,太陽金属量の環境下で質量損失率が少ない必要があり,このことがさらにブラックホール質量を厳しく制限する.また広く受け入れられた恒星進化モデルである,対不安定脈動を乗り越える必要もある.

これらの強い制限からは,LB-1 のブラックホールは単一の星が崩壊してできたのではない可能性を示唆する.


代替案としては,この系が元々三重連星だった可能性というものがある.観測されている B 型星は最も外側で最も軽い天体であり,ブラックホールは初期の内側連星で形成されたという仮説である.

「通常の」恒星質量ブラックホールが,連星のコモンエンベロープ進化の間に 60 太陽質量以上のコアへと合体し,その後の重い恒星からブラックホールコアへの降着によって,70 太陽質量ブラックホールが形成される可能性がある.


その他の興味深い可能性としては,見えない質量は 1 つではなく 2 つのブラックホールを含んでおり,お互いを内側伴星の状態で公転し,観測されている B 型星は三重連星系の 3 番目の天体であるというものがある.この場合,それぞれのブラックホール質量は 35 太陽質量程度であり,形成への問題点は少なくなる.





70 太陽質量のブラックホールが発見されたという論文です.この質量範囲のブラックホールは,太陽に近い金属量の環境下では恒星進化理論の観点からは形成が困難であるとされています.そのためこのブラックホールの発見は理論的には驚くべきものとされています.

ただし発見報告後すぐに,このブラックホールの検出は間違いであったとする指摘が複数されています.

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