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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1911.12357
Belczynski et al. (2019)
The Formation of a 70 Msun Black Hole at High Metallicity
(高金属量での 70 太陽質量ブラックホールの形成)
高金属量の恒星でのブラックホールの形成においては,ブラックホール質量は 20 太陽質量未満に制限されるというのが現在のコンセンサスである.これは,恒星風による強い質量損失を起こすためである.これは,銀河系内にあるブラックホールを持つ 20 個の X 線連星のうち,最も重い Cyg X-1 (はくちょう座X-1) が 15 太陽質量を持つことからも支持されている.
ここでは,Hurley et al. (2000) の解析的な進化公式を用いて,もし恒星風の質量放出率が典型的な進化計算で使用される値の 0.2 倍であった場合は,高金属量環境でも 70 太陽質量のブラックホールが形成可能であることを示す.
最近の観測的証拠と理論計算では,Vink et al. (2001) の質量放出の推定は 0.5-0.1 倍程度少ない値であるべきだと示唆されている.また,詳細な恒星進化モデルを計算してこのシナリオを確認した.
自転をしていない 85 太陽質量の恒星の,金属量 Z=0.014 のモデルで恒星風を減らした場合,核が崩壊する前の恒星の質量は 71 太陽質量で,32 太陽質量のヘリウムコアと 28 太陽質量の炭素・酸素コアを持つ.このようなコアは,ブラックホールの質量を厳しく制限する,対不安定脈動超新星の発生を回避し,直接崩壊による 70 太陽質量のブラックホールを形成可能である.
高金属量の環境で 70 太陽質量ブラックホールを形成可能な恒星は,半径が 600 太陽半径という大きな値になる.しかしこれは LB-1 の軌道 (350 太陽半径程度以下) を超えてしまう.恒星の自転を考慮したモデルでは,内部の混合が誘起されるため半径の拡大は減少する.しかしその場合,恒星内部のコアはより重くなり,そのため対不安定脈動による質量放出を起こしてしまうため 70 太陽質量ブラックホールを形成できなくなる.
今回の質量放出率を減らした恒星進化モデルは,70 太陽質量のブラックホールを高金属量環境で形成するためのモデルとして整合的ではあるが,LB-1 のような連星系をエキゾチックな形成シナリオ無しでどの様に形成するかについては説明することができない.
LB-1 系内にあると報告されているブラックホールは,脈動性対不安定型超新星 (pair-instability pulsation supernova, PPSN) と対不安定型超新星 (pair-instability supernova, PSN) の理論と矛盾するように思われる.これらの理論では,形成されるブラックホール質量は 40-50 太陽質量未満に制限される (Bond et al. 1984など).
この理論的な制限は,ゼロではない金属量を持つ恒星では ~55 太陽質量まで大きくなることが最近提案されている (Belczynski et al. 2017).もしブラックホール形成においてニュートリノ質量損失が小さい場合は,最良の場合 70 太陽質量の恒星が PPSN/PSN 不安定の発生を回避し,69 太陽質量のブラックホールを形成しうると考えられる.
arXiv:1911.12357
Belczynski et al. (2019)
The Formation of a 70 Msun Black Hole at High Metallicity
(高金属量での 70 太陽質量ブラックホールの形成)
概要
銀河系円盤内で,8 太陽質量の B 型伴星を持つ長周期 (78.9 日) のほぼ円軌道 (e = 0.03) の連星系 LB-1 で,70 太陽質量のブラックホールの発見が報告された.この B 型星の金属量は太陽金属量と近い.高金属量の恒星でのブラックホールの形成においては,ブラックホール質量は 20 太陽質量未満に制限されるというのが現在のコンセンサスである.これは,恒星風による強い質量損失を起こすためである.これは,銀河系内にあるブラックホールを持つ 20 個の X 線連星のうち,最も重い Cyg X-1 (はくちょう座X-1) が 15 太陽質量を持つことからも支持されている.
ここでは,Hurley et al. (2000) の解析的な進化公式を用いて,もし恒星風の質量放出率が典型的な進化計算で使用される値の 0.2 倍であった場合は,高金属量環境でも 70 太陽質量のブラックホールが形成可能であることを示す.
最近の観測的証拠と理論計算では,Vink et al. (2001) の質量放出の推定は 0.5-0.1 倍程度少ない値であるべきだと示唆されている.また,詳細な恒星進化モデルを計算してこのシナリオを確認した.
自転をしていない 85 太陽質量の恒星の,金属量 Z=0.014 のモデルで恒星風を減らした場合,核が崩壊する前の恒星の質量は 71 太陽質量で,32 太陽質量のヘリウムコアと 28 太陽質量の炭素・酸素コアを持つ.このようなコアは,ブラックホールの質量を厳しく制限する,対不安定脈動超新星の発生を回避し,直接崩壊による 70 太陽質量のブラックホールを形成可能である.
高金属量の環境で 70 太陽質量ブラックホールを形成可能な恒星は,半径が 600 太陽半径という大きな値になる.しかしこれは LB-1 の軌道 (350 太陽半径程度以下) を超えてしまう.恒星の自転を考慮したモデルでは,内部の混合が誘起されるため半径の拡大は減少する.しかしその場合,恒星内部のコアはより重くなり,そのため対不安定脈動による質量放出を起こしてしまうため 70 太陽質量ブラックホールを形成できなくなる.
今回の質量放出率を減らした恒星進化モデルは,70 太陽質量のブラックホールを高金属量環境で形成するためのモデルとして整合的ではあるが,LB-1 のような連星系をエキゾチックな形成シナリオ無しでどの様に形成するかについては説明することができない.
ブラックホール質量について
高金属量の環境では,形成される恒星質量ブラックホールの質量の上限は 20 太陽質量に制限される.観測からもこの上限値は支持されており,恒星質量ブラックホールで最も重いのは,Cyg X-1 の 14.8 太陽質量,および M33 X-7 の 15.7 太陽質量である.LB-1 系内にあると報告されているブラックホールは,脈動性対不安定型超新星 (pair-instability pulsation supernova, PPSN) と対不安定型超新星 (pair-instability supernova, PSN) の理論と矛盾するように思われる.これらの理論では,形成されるブラックホール質量は 40-50 太陽質量未満に制限される (Bond et al. 1984など).
この理論的な制限は,ゼロではない金属量を持つ恒星では ~55 太陽質量まで大きくなることが最近提案されている (Belczynski et al. 2017).もしブラックホール形成においてニュートリノ質量損失が小さい場合は,最良の場合 70 太陽質量の恒星が PPSN/PSN 不安定の発生を回避し,69 太陽質量のブラックホールを形成しうると考えられる.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.1266 Liu et al. (2019) 視線速度測定による LB-1 の 70 太陽質量ブラックホールの検出
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