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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:2001.04532
dos Santos et al. (2020)
The high-energy environment and atmospheric escape of the mini-Neptune K2-18 b
(ミニネプチューン K2-18b の高エネルギー環境と大気散逸)

概要

K2-18b はトランジットするミニネプチューンで,38 pc の距離にある近傍の低温な M3 矮星を公転しており,温暖な輻射を受ける領域の中に位置している.この惑星のハッブル宇宙望遠鏡の Space Telescope Imaging Spectrograph (STIS) を用いた Lyα 線でのトランジット分光観測から,大気の水素散逸の探査を行った.

恒星 K2-18 の Lyα (ライマンアルファ線) 放射のフラックスの時系列を,Lyα 線の青方偏移成分と赤方偏移成分の両方で解析を行った.K2-18 からの青方偏移した Lyα 線の放射の平均値は,惑星のトランジット前の放射と比較するとトランジット中は 67% 減少し,これは大量の水素原子の散逸が発生し恒星の輻射圧によって吹き流されていることを暫定的に示唆する結果である.ただしこの解釈は 1 回の部分的なトランジットに依拠したものであるため,決定的なものではない.

K2-18 の Lyα 放射の再構築に基づき,この恒星の極端紫外線放射を 10-102 erg s-1 cm-2 と推定し,これを元に大気散逸率の総量は 108 g s-1 のオーダーであると推定した.示唆された散逸率は,この惑星はその一生の間に 1% 未満の僅かな割合の質量しか失っておらず,その揮発性物質に富んだ大気を現在も保っていることを示している.

恒星の変動の影響を取り除き,トランジット中の Lyα の吸収を確認し,K2-18b の高エネルギー環境と大気散逸をよりよく評価するためには,さらなる観測が必要である.

背景

K2-18b について

この惑星は,初めトランジット惑星候補として報告された (Montet et al. 2015).その後スピッツァー宇宙望遠鏡の測光観測 (Benneke et al. 2017) と HAPRS の視線速度観測 (Cloutier et al. 2017) で存在が確認された.2.711 地球半径,8.64 地球質量で,軌道周期は 32.9 日である.中心星から 0.14 au の位置にあり,中心星は低温な M 型星のため,地球が太陽から受ける輻射に近い放射を受けている.

この惑星の高エネルギー環境についてはこれまで制約されておらず,また惑星の密度からは,厚い水素・ヘリウムからなるエンベロープを持つか,あるいは 100% の水蒸気組成の大気を持つか,どちらも整合的である.

この惑星系は太陽系近傍にあるため,ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡,赤外線分光器での高分散観測での大気の特徴付け観測に最も適したミニネプチューンの一つである.

海王星サイズの惑星の外気圏

中心星からの高エネルギー光子 (X 線と遠紫外線) は惑星の高層大気を拡大させるだけではなく,水分子の光解離によって水素原子も生成する.この大気圏の拡大によって,外気圏として知られる,ガス分子が無衝突になる惑星大気の外層が形成される.K2-18b は水素分子と水分子に豊富であると考えられるため,水素豊富な外気圏を持つ可能性が高い.

過去のハッブル宇宙望遠鏡での観測では,ウォームネプチューンである GJ 436b の周りに,大きなスケールの水素豊富な外気圏が存在することが明らかになっている (Ehrenreich et al. 2015,Lavie et al. 2017,dos Santos et al. 2019).また GJ 3470b でも同様の構造が確認されている (Bourrier et al. 2018).

しかし海王星よりも小さい惑星では,これまでに広がった大気は検出されていない.スーパーアース 55 Cnc e (Ehrenreich et al. 2012),HD 97658b (Bourrier et al. 2017),GJ 1132b (Waalkes et al. 2019),π Men c (García Muñoz et al. 2019) では観測が行われたが非検出であったことが報告されている,また,小さい岩石惑星では TRAPPIST-1 系 (Bourrier et al. 2017) とケプラー444 系 (Bourrier et al. 2017) で外気圏の暫定的な検出が報告されている.

外気圏の暫定的な検出

Lyα 放射のスペクトルのコア部分は星間物質に吸収されるため,スペクトル線の両端のウィング部分での吸収のみが観測できる.スペクトルを波長を,ドップラー偏位に換算して -160 〜 -50 km s-1 と,50 〜 160 km s-1 で分割して,青方偏移・赤方偏移側でそれぞれ調査を行った.

複数回の観測のうち visit B では,スペクトル線の青方偏移側の強度が惑星のトランジットの間に減少し,食の終わり付近では放射がほぼゼロになった.一方で赤方偏移側はトランジット中の減少は 14% ± 23% で,これは変動を起こさない定常なフラックスと整合的である.このことは,青方偏移側の変動は天体物理的な原因であることを示唆している.

青方偏移側の減光率はトランジット外の時の強度に対して 67% ± 18% となった.特に,最後の観測時の深さは 93% ± 18% であった.このトランジットの検出は統計的には有意であるものの,将来の観測で再び確認できるまではこの結果を暫定的なものであると保守的に解釈することとする.恒星の Lyα の内因性の変動 (惑星のトランジットとは無関係の変動) は,例えば HD 97658b では ~2σ の信頼度で数十%変動しうることが分かっている.

結論

結論としては,Lyα 線の青方偏移側のトランジットは,100% の吸収と整合的な結果である,一方で赤方偏移側はほぼ一定で,青方偏移よりずっと安定である.青方偏移側の吸収は,惑星周りに水素豊富な外気圏が存在し,中心星からの輻射圧によって観測者の方向へ吹き流されていることで引き起こされていると解釈できる.これは GJ 436b と GJ 3470b と似ている.

ここでは部分的なトランジットしか観測していないため,水素豊富な外気圏の検出は現段階では暫定的なものと結論付ける.恒星活動の影響を排除し,特徴を確定させるにはさらなる観測が必要である.さらに,中心星の Lyα での追加観測も,惑星の高エネルギー環境とその大気散逸の歴史をよりよく制約するのに役立つだろう.

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