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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:2001.07720
Pinte et al. (2020)
Nine localised deviations from Keplerian rotation in the DSHARP circumstellar disks: Kinematic evidence for protoplanets carving the gaps
(DSHARP の星周円盤における 9 つのケプラー回転からの局所的なずれ:ギャップを形成している原始惑星の運動学的な証拠)

概要

DSHAPR プログラムで観測された 18 個の星周円盤のうち 8 個に,ケプラー回転からの局所的なずれ,いわゆる速度の “kink” の兆候を検出した.ずれが検出されたのは,DoAr 25,Elias 2-27,GW Lup,HD 143006,HD 163296,IM Lup,Sz 129,WaOph 6 である.この kink の大部分は,動径方向の広がりおよび速度は小さい範囲にあり,惑星起源の構造であることを示唆している.

しかしそれらの天体のいくつかでは,前景の混入が存在するため,空間的・速度的な広がりの測定ができない.分子雲によるコンタミネーションに加え,12CO J=2-1 線における DSHARP のスペクトル分解能とシグナルノイズ比が限定的であるため,kink は一つのスペクトルチャネルのみで検出されているものが多く,さらなる確認が必要である.

より高いスペクトル分解能のデータとさらなるトレーサーが存在しない場合,天球に射影した際に,全ての惑星候補がダスト連続波放射で検出されているギャップの中に存在しているか,あるいは渦状腕構造の終わりに位置していた場合,これらの構造が原始惑星によるものであるという最も強い状況証拠となる.
このことは,ALMA で円盤内に観測されているダストのギャップと渦状腕構造の大部分は,円盤内に埋もれている原始惑星によって引き起こされていることを示唆している.

背景

原始惑星系円盤の中に埋もれている惑星は,付近のケプラー運動しているガスを擾乱し,軌道のリンドブラッド共鳴の内側と外側の両方で渦状波を生み出す (Goldreich & Tremaine 1979).この擾乱された速度のパターンは,ALMA の高分散・高空間分解能のスペクトル線観測で検出可能である.

円盤の回転曲線の正確な測定により,例えば HD 163296 の円盤では動径方向の圧力勾配の存在が明らかになっている.これはおそらく,円盤内の木星質量の惑星によってガスの表面密度に形成されたギャップによって駆動されていると考えられる (Teague et al. 2018).

任意の channel map において,放射は等速度線に沿って集中する.つまり,射影速度が一定な円盤の領域を示すことになる.円盤内に惑星が存在する場合,この等速度線は変形を受け,放射は独特な “kink” 構造を示す.この手法により,HD 163296 (Pinte et al. 2018) と HD 97048 (Pinte et al. 2019) の周りの円盤に,2-3 木星質量の惑星が検出されている.
同様に,ケプラー回転からのずれは HD 100546 の円盤でも検出されている (P ́erez et al. 2019).これらのケースでは速度の kink は円盤のギャップの位置と一致しており,ギャップが観測された円盤の少なくともいくつかではこれらの構造が原始惑星が原因であることを示している.

結果

解析の対象として選択した,DSHARP プログラムで観測された 18 個の天体のうち 8 天体で,9 個の velocity kink をが検出された.

議論

kink の原因

チャネルマップ中の velocity kink の要因の可能性があるものとして,最も明白なのは低シグナルノイズ比の観測からチャネルマップを再構築するプロセスによって生成されたというものである.このようなアーティファクトが DSHARP の観測データ中に存在する可能性は否定できない.ただしパラメータを変えた再構築プロセスでも結果は大きく変化しなかった.より深い観測と,前景の分子雲に影響されにくい光学的に薄いトレーサーでの観測が,惑星候補を確認するために必要である.

また,検出された非ケプラー運動は惑星に関連していない可能性もある.惑星より重い伴星 (内側・外側どちらでも) による渦状腕や,重力不安定性による渦状腕も円盤中に速度擾乱を生み出す.この場合,渦状腕は大きなスケールで円盤の大部分に広がるため,速度のずれもスケールが大きいものになる.
一方で円盤内に埋もれた惑星の場合は局所的な速度 kink しか引き起こさない.ギャップの縁での圧力勾配も非ケプラー運動を引き起こすが,このような摂動は方位角方向の広い範囲で発生する.これは今回の検出では見られていない.

12CO の前景減衰は,DSHARP で見られている kink が局所的 (空間的・速度的どちらも) なものかどうかを評価するのを難しくする.特に明白なケースが DoAr 25,Elias 2-27 と WaOph 6 であり,これらの天体では kink が検出されているメインのチャネルに隣接したチャネルは大きく減衰を受けている.前景の分子雲での減衰が円盤全体にわたって一様でない場合,円盤の放射を変形させることで見かけ上の kink を人工的に生み出す可能性がある.

惑星による円盤のケプラー速度からのずれは小さい.数十 au にある木星質量惑星の場合,ケプラー速度の 10% 程度の擾乱を引き起こす.そのため DSHARP のスペクトル分解能 (640 m s-1) では惑星による kink は単一のチャネルのみで検出される場合が多い.そのため,検出が堅牢なものか,あるいは撮像のアーティファクトに影響されたものであるかを評価するのが難しい.

惑星起源か?

検出された kink が惑星由来であることを示すためには,最低でも,i) 連続波と非連続波の差分データにおいて検出されている,ii) 高いシグナルノイズ比で検出されている,iii) 速度と空間において局所化されている (速度の場合,例えば局所的なケプラー速度の 20% 以内,空間の場合,例えば 3 ビーム半径以内),iv) 速度において分解されている (少なくとも 3 つの独立したチャネルで検出されている),を満たしている必要がある.HD 163296 から 2.2” の角距離にある主要な kink のみが,上記 4 基準を満たしている.

惑星起源であることを示す最も説得力のある議論は,射影した場合に,検出された全ての 9 つの kink の場所が連続波のダストギャップの擾乱天体が位置する場所と同じになるか,また 2 つのケースでは,kink が検出されている渦状腕の先端に来ることを示すことである.

今回の検出は暫定的なもので,確認するためには高分解能の観測が必要であるため,DSHARP のデータに見られる kink 候補から惑星質量を推定するだけの十分な根拠はない.スペクトル分解能の制約のため,640 m s-1 よりも小さい速度のずれは測定できない.もし円盤がケプラー回転していた場合の等速度線と比較することにより,観測された速度の擾乱はケプラー速度の 10-15% と推定される.ここから,惑星質量は 1-3 木星質量のオーダーであると推定される.HD 143006 については速度のずれはずっと大きく,より重い惑星がいる可能性がある.

HD 143006 を除き,これらの質量は電波の連続波のギャップから導出されている質量より 4-10 倍大きい (Zhang et al. 2018,Lodato et al. 2019).

惑星の存在頻度

DSHARP のデータセットで高い頻度で数十 au での velocity kink が検出されていることは,中心星から大きな距離にある既知の巨大系外惑星の存在頻度と矛盾するように見える.系外惑星の観測では,10-20 au を超える距離にある重い惑星 (2 木星質量以上) は,数%から 5% と存在頻度は低い (Vigan et al. 2017,Nielsen et al. 2019).しかしこの存在頻度には大きな不定性があり,惑星がホットスタートかコールドスタートかの形成モデルの仮定に依存している.例えば,コールドスタートモデルを用いた場合,FGK 星の最大 90% は 5-50 au に 7-10 木星質量の惑星を持っている可能性がある (Stone et al. 2018).

この食い違いの一部は,DSHARP プログラムの選択バイアスを反映している可能性もある.このプログラムでは,ミリ波で明るい原始惑星系円盤を対象としている.このことは,遠方で重い惑星を形成しやすい天体へとバイアスが掛かっている可能性があることを意味している.

さらに,DSHARP で観測された円盤内の惑星は,円盤の散逸とともに内側に移動すると考えられる.1 つのギャップに付き 1 つの惑星があると仮定して,惑星の軌道進化と降着をモデル化すると,DSHARP のサンプル (および Taurus サーベイ (Long et al. 2018)) での惑星の最終分布は,既知の系外惑星の特性と整合的であるという研究もある (Lodato et al. 2019).

結論

  1. DSHARP で観測した天体から選択した 18 天体のうち 8 天体の原始惑星系円盤で,非ケプラー運動を示唆する,9 つの局所的な (channel-specific な) 速度擾乱を発見した.
  2. 射影した場合,velocity kink は連続波放射で観測された円盤ギャップに系統的に付随しており,同じ起源を持つことを示唆している.円盤内に埋もれた惑星が存在することが,連続波のリングとガス速度のケプラー回転からのずれの両方を自然に説明する.
  3. もし velocity kink が本当に惑星起源であった場合,木星質量のオーダーの質量を持っている必要がある.これは連続波ギャップの幅と深さから推定されているものより 4-10 倍重い値である.
  4. スペクトル分解能とシグナルノイズ比が限定的であることと,前景の分子雲からの混入があることから,いくつかのケースでは決定的な結論を出すことができない.特に,他の円盤での非検出や,kink を検出した円盤の他のギャップでの非検出は,必ずしも木星質量惑星が存在しないことを意味しない.
  5. 合成モデルは,チャネルマップと回転マップにおける惑星の velocity kink の形状と振幅は,系の配置,傾斜,惑星の方位角と距離に依存する.特に任意の惑星に対して,特徴は円盤の軌道長半径に沿ってだけではなく,円盤の手前側の青方偏移した半分と,奥側の赤方偏移した半分において暗く見える.このことは,さらなる惑星のシグナルが,高いシグナルノイズ比のデータで発見される可能性を示唆している.

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