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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1709.07010
Siverd et al. (2017)
KELT-19Ab: A P~4.6 Day Hot Jupiter Transiting a Likely Am Star with a Distant Stellar Companion
(KELT-19Ab:遠方の恒星の伴星を持つおそらく Am 星をトランジットする 4.6 日軌道周期のホットジュピター)

概要

ここでは,トランジット惑星 KELT-19Ab の発見を報告する.中心星は,やや明るい V ~ 9.9 の A8V 星,TYC 764-1494-1 (KELT-19A) である.

低分散の視線速度測定より,惑星の質量は 4.1 木星質量以下と制約を与えた,また,明確なドップラートモグラフイーのシグナルを検出した.このシグナルから,天球面上に射影した spin-orbit misalignment (中心星の自転軸と惑星の公転軸のずれ) は -179.7度であり,この惑星は逆行軌道であることを示唆する.
これら 2 つの結果から,検出されたのは惑星由来のシグナルであることを確認した.

理論モデルからは,中心星は有効温度が 7500 ± 110 K で,1.62 太陽質量,1.83 太陽半径と推定された.

惑星は 1.91 木星半径で,受け取る輻射量は 3.2 × 109 erg s-1 cm-2 である.惑星のアルベドをゼロとし,完全な熱の再分配が行われていると仮定した場合に示唆される惑星の平衡温度は 1935 K である.

射影した中心星の自転速度は 84.8 ± 2.0 km s-1 で,中心星は高速で自転している.興味深いことに,この射影した自転速度は,同様の有効温度を持つ他の恒星と比べると比較的遅い.
また中心星はストロンチウムなどの金属元素は多く含んでいるが,その他のカルシウムなどは少なく,この恒星が Am 星であることを示唆する.KELT-19A は,我々が知る限りでは確実にトランジット惑星を持つことが検出されている初めての Am 星である.

補償光学観測からは,この恒星は伴星を持っていることが明らかになった.
伴星は,晩期 G9V/早期 K1V のスペクトル型を持ち,KELT-19A からの射影距離 160 AU 程度である.視線速度観測からは,この天体は KELT-19A に重力的に束縛されていることが示唆された.

多くの Am 星は,恒星の伴星を持つことが知られている.この事実は,Am 星の自転速度が比較的遅いことの説明にも使われる.KELT-19 系の場合は伴星の距離が遠いため,伴星が主星の自転の潮汐ブレーキを引き起こしたとは考えにくい.しかし,伴星は Kozai-Lidov 機構を介して惑星を現在の軌道まで移動させた可能性がある.

KELT サーベイと高温星まわりのトランジット惑星

The Kilodegree Extremely Little Telescope (KELT; Pepper et al. 2003, 2007, 2012) は,当初は明るい恒星 (8 < Vmag < 11) のまわりのトランジット惑星の検出を目的としていた.最近は,高温の恒星周りのトランジット惑星探査のサーベイも行っている.

この戦略のもとで,これまでに A 型星まわりのトランジット惑星を 4 つ発見している.
KELT-17b (Zhou et al. 2016),KELT-9b (Gaudi et al. 2017),KELT-20b/MASCARA-2b (Lund et al. 2017, Talens et al. 2017),そして今回の KELT-19Ab である.その他のプロジェクトによる A 型星周りの惑星の発見も 4 例報告されている.WASP-33b (Collier Cameron et al. 2010),ケプラー13Ab (Shporert et al. 2011),HAT-P-57b (Hartman et al. 2015),MASCARA-1b (Talens et al. 2017) である.

パラメータ

KELT-19A
質量:1.62 太陽質量
半径:1.830 太陽半径
光度:9.5 太陽光度
有効温度:7500 K
KELT-19Ab
質量:4.07 木星質量未満
半径:1.91 木星半径
平均密度:0.744 g cm-3 未満
平衡温度:1935 K
日射量:3.18 × 109 erg s-1 cm-2
軌道長半径:0.0637 AU

KELT-19 系について

KELT-19 系は階層的三重星 (hierarchical triple) である.
中心星は Am 星であり,それをトランジットする 4.6 日周期のホットジュピター KELT-19Abを持つ.この惑星は,4 木星質量未満の質量を持つ.惑星は 2 木星半径程度と大きく膨張した半径を持ち,中心星から強い輻射を受けている.惑星の平衡温度はおよそ 2000 K である.また,射影した角度がほぼ -180 度と逆行軌道にある.

また,KELT-19A と KELT-19Ab は,スペクトル型が G9V/K1V の遠方の伴星 KELT-19B を持つ.この伴星の中心星からの射影距離は 160 AU 程度である.

この系は,様々な意味で変わったトランジットホットジュピター系である.
まず,主星であり惑星を持っている KELT-19A は Am 星 (金属線が多い星,metallic line-enhanced star) である.我々が知る限りでは,Am 星がトランジットするホットジュピターを持つ例はこれが最初の報告である

他の Am 星の例と同じ様に,KELT-19A は同じ有効温度を持つ他の恒星と比べると自転が遅い.Am 星の自転が比較的遅いことと,元素の存在度の特徴的なパターンの両方を説明するモデルとして,近傍の伴星の存在があげられることが多い.これは,伴星の潮汐力によって自転速度が低下したというものである.
しかし,KELT-19B は潮汐ブレーキを引き起こすには遠すぎる位置にある.さらに,KELT-19Ab は中心星の近傍にあるものの,主星の自転を遅くするには質量が軽すぎる (Matsumura et al. 2010).そのため,KELT-19A のゆっくりした自転は,元々のものであったか,あるいは予想よりも効率的な潮汐ブレーキ機構によって引き起こされたもののどちらかだと考えられる.

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