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arXiv:1801.08142
Leconte (2018)
Why compositional convection cannot explain substellar objects sharp spectral type transitions
(なぜ組成対流が準恒星天体の鋭いスペクトル型遷移を説明できないか)

概要

褐色矮星と若い巨大惑星が冷却するにつれ,これらの天体は複数の化学的な遷移を経験する.例えば,一酸化炭素が豊富な L 型矮星から,メタンが豊富な T 型矮星への遷移である.これらの化学的転移はスペクトルの遷移を伴うが,スペクトルの遷移の鋭さは化学組成の変化のみでは説明できないことが分かっている.

Tremblin et al. では,これらの遷移に伴うまだ説明されていない特徴の幾つかは,天体の光球付近での温度勾配の減少によって説明できるという説を提案している.この説では,温度勾配が小さく等温的な温度分布を説明するために,組成対流の一種であるフィンガー型対流 (fngering convection) に似た流体不安定が起きていることを要請する.このような流体不安定は,先述の化学的遷移によるガスの平均分子量の変化によって引き起こされる.


ここでは,もし大気中に乱流輸送が存在する場合,実際にはその領域の温度勾配が”増加"することを既存の議論を用いて示す.

「組成対流によって温度勾配が減少する」という誤った解釈は,対流は温度ではなく,エントロピー (温位 potential temperature) を混合・均質化するという事実に由来する.従って輸送が増加すると,初期に成層した大気中での乱流は,フィンガー型対流やその他のタイプの組成対流であっても,実際にはエネルギーを内側に輸送する.

そのためこれらの過程は,準恒星天体の大気中の温度勾配の減少による遷移に伴って観測されるスペクトルの特徴を説明することが出来ない.スペクトルの特徴を説明するための最良の方法は,これらの遷移での雲の微視的な物理と力学的特性のさらなる理解であろう.

組成勾配と組成対流

流体の密度が少なくとも 2 つの要素に依存している時,例えば温度と組成に依存している場合,組成勾配は熱的に安定な成層した物質中においても乱流混合を引き起こすことがある.これは,組成対流 (compositional convection) あるいは混合と呼ばれる現象である.

全体の浮力勾配が負の場合,これは通常の全対流 (overturning convection) の形で現れる (Ledoux 1947).そうでない場合は,他の過程,例えば化学過程や拡散などによっても微妙な不安定が生じ,混合が促進される可能性がある.

地球におけるよく知られている例はフィンガリング不安定 (fingering instability) である.
例えば,海洋表面からの蒸発によって,より冷たく新鮮な水の層の上に,暖かく塩分の多い水が乗っている状態の場合,ソルトフィンガー (salt finger) が形成される (Stern 1960,Schmitt 2001).
これらの下向きに動く finger は,塩分が拡散するよりも速く拡散で熱を失い,沈降を続ける.

準恒星天体のスペクトル遷移

準恒星天体の大気では,混合が非常に効率的で無い限り,必然的に大気の様々な部分が非常に異なる化学組成を持った状態になる (Zahnle & Marley 2014).

例えば炭素の化学反応を考えると,深い場所あるいは高温な場所は一酸化炭素が主体,高い場所あるいは低温の場所はメタンが主体となる.この時の反応は CO + 3H2 ↔ CH4 + H2O である.

一酸化炭素が主体の高温大気からメタンが主体の低温な大気への漸進的な遷移は,スペクトル型の L-T 遷移としてよく知られている (Kirkpatric 2015,Cushing 2014).

この遷移の難しい点は,この遷移の鋭さと,様々なクラスの天体において遷移が発生する色-等級図上での場所が変化することである (例えば,高重力褐色矮星と低重力の直接撮像惑星での遷移の発生場所の違い (Marley et al. 2012)).

準恒星天体の大気中での様々な種類の雲の存在は,これらの様々な特徴を説明するための最もシンプルな仮説のひとつであり続けているが,これらの雲モデルには依然としていくつかの自由パラメータが含まれている (Charnay et al. 2017).

この雲モデルにおける自由パラメータを減らすため,Tremblin et al. (2016) は雲無しモデルを提案している,

例えば L-T 遷移周辺の単一の大気での化学平衡は,低温の高層大気はメタン豊富で,下部にある一酸化炭素豊富な大気と比べて高い平均分子量を持つという状態を必然的に伴うことを指摘している.その結果,フィンガリングに類似しているが化学過程に結びついている組成対流がいくつかの褐色矮星で発生することを議論している.
また同様の過程が若いガス惑星でも発生しうることを指摘している (Tremblin et al. 2017).

シンプルな混合の議論

圧縮性ガスでは,大気中を断熱的に動く流体素片は内部エネルギー (温度) を輸送しないが,specific entropy 比エントロピー \(s\) を輸送する.

理想気体の場合,温位 \(\theta\) を用いるほうが直感的である.
\[\theta\equiv T\left(\frac{p_{0}}{p}\right)^{R/c_{p}}\]
ここで,\(p\) と \(p_{0}\) は,現在の場所での圧力と,参照のための任意の水準での圧力である.また \(R\) は比気体定数である.

温位は \(ds=c_{p} d\ln\theta\) を介して繋がっているので,\(\theta\) は断熱運動によって輸送された物理量でもある.温位の勾配は温度勾配と関連している.
\[\nabla_{\theta}\equiv\frac{d\ln\theta}{d\ln p}=\frac{d\ln T}{d\ln p}-\frac{R}{c_{p}}\equiv\nabla_{T}-\nabla_{\rm ad}\]
ここで \(\nabla_{\rm ad}\) は通常の断熱温度勾配である.そのため,温位勾配は超断熱勾配である.

定義により,いかなる乱流混合もエントロピーを均一化する傾向にあり,従って温位も \(\nabla_{\theta}\rightarrow 0\) になるまで均一化される.その結果として,混合の後の大気は断熱分布に従う傾向にある.つまり \(\nabla_{T}=\nabla_{\rm ad}\) である.これはまさに対流がどのようにはたらくかを意味しており,対流はエントロピーと温位を均一化し,超断熱性を取り除く.

熱的に安定な成層大気では,温位勾配は負になる.つまり \(\nabla_{T}<\nabla_{\rm ad}\) である.しかし,どのような混合も断熱構造を復元する傾向にある.もちろん,混合の結果として生じる分布が断熱構造にどの程度従うかは,先験的には決定することはできず,混合の強度に依存する.

従って,温度勾配は混合によって等温構造に向かって減少するのではなく,断熱構造に向かって増加することが分かる.結果として,組成対流は Tremblin et al. (2015, 2016, 2017) で提案されているような減少した温度勾配を説明することが出来ず.真逆の結果になる.


フィンガリングによる混合が無い場合.対流圏では温度勾配は断熱温度勾配に従う.成層圏での温度勾配は,定義により熱的に安定な成層構造に従う.つまり成層圏では準断熱的な温度勾配になる.

しかし一酸化炭素とメタンの遷移が発生する付近では,大気の平均分子量は対流圏界面より上で増加することが期待される.組成勾配が成層圏で組成対流を引き起こすのに十分な大きさであった場合,対流による混合は組成とエントロピーを均一化し,従って温位も均一化される.これは温度勾配を自然に断熱温度勾配に戻そうとする.そのため,温度分布は等温的ではなくなる.どれだけ断熱温度勾配に近くなるかは,混合の強度に依存する.

結論

安定な成層大気が組成対流に晒された場合,あるいはいかなる種類の乱流混合を経験した場合,エネルギーは下向きに輸送され,温度勾配は断熱温度勾配に向かって増加することを示した.

そのため,仮に化学組成勾配が褐色矮星や巨大惑星の大気の対流圏より上層を不安定化するとすると,これは Tremblin et al. (2015, 2016, 2017) で主張されているような,より等温的な温度勾配には結びつかない.それどころか,対流による混合は温度勾配を増加させ,同じ有効温度であれば内部の温度はより高温になる.

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