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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.08200
Tanikawa et al. (2018)
Metal Pollution of Low-Mass Population III Stars through Accretion of Interstellar Objects like `Oumuamua
(オウムアムア的な恒星間天体の降着を介した低質量種族 III 星の金属汚染)
オウムアムアの発見に基づく恒星間天体の数密度の推定値は非常に高く (1 立方 au あたり 0.2 個),種族 III 星の生き残りは 10 億年あたり 105 回以上,恒星間天体と衝突する.対照的に,種族 III 星の生き残りと自由浮遊惑星および種族 I/II の恒星との衝突は,ハッブル時間の間には発生しない.
オウムアムア自身は,種族 III 星の生き残りに接近すると昇華してしまう.これはオウムアムアのサイズが ~ 100 m と小さいためである.しかしサイズが 3 km 程度以上の恒星間天体の場合は,種族 III 星の生き残りの表面まで到達することが出来る.
サイズが D より大きい恒星間天体の累積数密度が \(b\propto D^{-\alpha}\) に従うと仮定すると,\(\alpha < 4\) の場合,種族 III 星の生き残りは 10-16 太陽質量の質量を降着する.降着する鉄の質量は 10-17 太陽質量となる.
この鉄の質量は,星間物質が降着する質量よりも数桁大きい.これは,種族 III 星の生き残りが出す恒星風によって,自身に星間物質が降着することを妨げるためである.
種族 III 星の生き残りの対流領域における物質の混合を考慮すると,大部分の場合で表面汚染は金属量に換算すると [Fe/H] ≲ -8 だが,種族 III 星の生き残りの質量が 0.8 太陽質量の場合は [Fe/H] ≳ -6 となる.これはこの質量の恒星の対流層が非常に薄いためである.
金属汚染の依存性は以下の通りである,
\(\alpha > 4\) の場合,種族 III 星の生き残りは D ≳ 3 km の恒星間天体との衝突は起こさず,従って恒星表面も金属無しの状態に保たれる.
\(3 < \alpha < 4\) の場合,恒星間天体によって最も汚染を受け,最大で [Fe/H] ~ -7 になる.
サイズが ~ 10 km の天体に至るまで \(\alpha < 3\) の関係を満たしている場合,種族 III 星の生き残りは,これまで発見されている金属欠乏星と同程度の金属量となるため,それらの中に隠れてしまう.
金属汚染の度合いは \(\alpha\) に強く依存するものの,種族 III 星の生き残りの金属汚染における,恒星間天体の重要性を初めて指摘する結果である.
arXiv:1804.08200
Tanikawa et al. (2018)
Metal Pollution of Low-Mass Population III Stars through Accretion of Interstellar Objects like `Oumuamua
(オウムアムア的な恒星間天体の降着を介した低質量種族 III 星の金属汚染)
概要
オウムアムアのような恒星間天体が,低質量の種族 III 星 (pop. III survivors,種族 III 星の生き残り) に降着する質量を計算した.また,それによる種族 III 星の生き残りの表面汚染を推定した.オウムアムアの発見に基づく恒星間天体の数密度の推定値は非常に高く (1 立方 au あたり 0.2 個),種族 III 星の生き残りは 10 億年あたり 105 回以上,恒星間天体と衝突する.対照的に,種族 III 星の生き残りと自由浮遊惑星および種族 I/II の恒星との衝突は,ハッブル時間の間には発生しない.
オウムアムア自身は,種族 III 星の生き残りに接近すると昇華してしまう.これはオウムアムアのサイズが ~ 100 m と小さいためである.しかしサイズが 3 km 程度以上の恒星間天体の場合は,種族 III 星の生き残りの表面まで到達することが出来る.
サイズが D より大きい恒星間天体の累積数密度が \(b\propto D^{-\alpha}\) に従うと仮定すると,\(\alpha < 4\) の場合,種族 III 星の生き残りは 10-16 太陽質量の質量を降着する.降着する鉄の質量は 10-17 太陽質量となる.
この鉄の質量は,星間物質が降着する質量よりも数桁大きい.これは,種族 III 星の生き残りが出す恒星風によって,自身に星間物質が降着することを妨げるためである.
種族 III 星の生き残りの対流領域における物質の混合を考慮すると,大部分の場合で表面汚染は金属量に換算すると [Fe/H] ≲ -8 だが,種族 III 星の生き残りの質量が 0.8 太陽質量の場合は [Fe/H] ≳ -6 となる.これはこの質量の恒星の対流層が非常に薄いためである.
金属汚染の依存性は以下の通りである,
\(\alpha > 4\) の場合,種族 III 星の生き残りは D ≳ 3 km の恒星間天体との衝突は起こさず,従って恒星表面も金属無しの状態に保たれる.
\(3 < \alpha < 4\) の場合,恒星間天体によって最も汚染を受け,最大で [Fe/H] ~ -7 になる.
サイズが ~ 10 km の天体に至るまで \(\alpha < 3\) の関係を満たしている場合,種族 III 星の生き残りは,これまで発見されている金属欠乏星と同程度の金属量となるため,それらの中に隠れてしまう.
金属汚染の度合いは \(\alpha\) に強く依存するものの,種族 III 星の生き残りの金属汚染における,恒星間天体の重要性を初めて指摘する結果である.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.07771
Morley et al. (2018)
An L Band Spectrum of the Coldest Brown Dwarf
(最も低温の褐色矮星の L バンドスペクトル)
この天体は近赤外波長では暗く,エネルギーの大部分を中間赤外線で放射している.Skemer et al. (2016) は,この天体のスペクトルを 4.5 - 5.1 µm (M バンド) で取得し,スペクトル中の水蒸気の特徴の存在を明らかにした.
ここでは,この天体の L バンド 3.4 - 4.14 µm での観測結果からのスペクトルについて報告し,大気組成の範囲 (金属量と C/O 比) と水氷雲を含む大気モデルを提供する.
スペクトル中には,メタンの吸収が明確に存在した.中間赤外でのこの天体の色は,太陽組成と比較してメタン存在度が少ないとした場合のモデルとよく一致した.
M バンドスペクトル中に水氷の雲が存在する兆候を発見し,また L, M バンドスペクトル双方でホスフィンのスペクトル特徴は欠けていることを発見した.そのため,深い連続的な不透明源が近赤外フラックスを隠していることが示唆される.おそらくは大気の深い領域でのリンを含む雲,無水リン酸アンモニウム (ammonium dihyrogen phosphate) が成分であろうと考えられる.
この天体の観測結果は,低温な惑星大気への重要な制約を与え,長年研究されてきた太陽系惑星と,観測可能な系外惑星の間の温度範囲の橋渡し的な役割を果たす.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による将来的な観測でさらに理解が進むことが期待される.
表面温度はこれまでに発見されているこの種の天体の中では最も低温で,~ 250 K と推定されている.これは木星よりわずかに ~ 100 K 温かいだけである (Luhman 2014).
太陽系に最も近い系の一つでもあり,太陽系に 4 番目に近い天体で,距離は 2.23 ± 0.04 pc である (Luhman & Esplin 2016).
質量はおそらく重水素燃焼限界よりも軽く,天体の年齢として 10 - 100 億歳を仮定すると,質量は 3 - 10 木星質量と推定される.
この天体の有効温度は ~ 250 K なので,天体のスペクトルは木星と同じように水,メタン,アンモニアでの特徴で占められる事が期待される.高温の褐色矮星の場合は,難揮発性の鉄,シリケイト,硫化物,塩の雲に覆われているが,温度が 350 - 375 K より低温の褐色矮星は,水氷の揮発性の雲を持っていると考えられる.
arXiv:1804.07771
Morley et al. (2018)
An L Band Spectrum of the Coldest Brown Dwarf
(最も低温の褐色矮星の L バンドスペクトル)
概要
最も低温な褐色矮星 WISE 0855 は,これまでに知られている中で最も太陽系に近い惑星質量の自由浮遊天体で,表面温度は太陽系のガス惑星と同じくらい低温である.木星と同様に,この天体はメタン,水,アンモニアが豊富な大気を持つと予想され,また揮発性物質の氷の雲を伴っていると考えられる.この天体は近赤外波長では暗く,エネルギーの大部分を中間赤外線で放射している.Skemer et al. (2016) は,この天体のスペクトルを 4.5 - 5.1 µm (M バンド) で取得し,スペクトル中の水蒸気の特徴の存在を明らかにした.
ここでは,この天体の L バンド 3.4 - 4.14 µm での観測結果からのスペクトルについて報告し,大気組成の範囲 (金属量と C/O 比) と水氷雲を含む大気モデルを提供する.
スペクトル中には,メタンの吸収が明確に存在した.中間赤外でのこの天体の色は,太陽組成と比較してメタン存在度が少ないとした場合のモデルとよく一致した.
M バンドスペクトル中に水氷の雲が存在する兆候を発見し,また L, M バンドスペクトル双方でホスフィンのスペクトル特徴は欠けていることを発見した.そのため,深い連続的な不透明源が近赤外フラックスを隠していることが示唆される.おそらくは大気の深い領域でのリンを含む雲,無水リン酸アンモニウム (ammonium dihyrogen phosphate) が成分であろうと考えられる.
この天体の観測結果は,低温な惑星大気への重要な制約を与え,長年研究されてきた太陽系惑星と,観測可能な系外惑星の間の温度範囲の橋渡し的な役割を果たす.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による将来的な観測でさらに理解が進むことが期待される.
WISE J085510.83-071442.5 (WISE 0855) について
WISE J085510.83-071442.5 (WISE 0855) は惑星質量の自由浮遊褐色矮星 (単独で存在する天体) である.表面温度はこれまでに発見されているこの種の天体の中では最も低温で,~ 250 K と推定されている.これは木星よりわずかに ~ 100 K 温かいだけである (Luhman 2014).
太陽系に最も近い系の一つでもあり,太陽系に 4 番目に近い天体で,距離は 2.23 ± 0.04 pc である (Luhman & Esplin 2016).
質量はおそらく重水素燃焼限界よりも軽く,天体の年齢として 10 - 100 億歳を仮定すると,質量は 3 - 10 木星質量と推定される.
この天体の有効温度は ~ 250 K なので,天体のスペクトルは木星と同じように水,メタン,アンモニアでの特徴で占められる事が期待される.高温の褐色矮星の場合は,難揮発性の鉄,シリケイト,硫化物,塩の雲に覆われているが,温度が 350 - 375 K より低温の褐色矮星は,水氷の揮発性の雲を持っていると考えられる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.07380
Scholz et al. (2018)
A universal spin-mass relation for brown dwarfs and planets
(褐色矮星と惑星の自転-質量の普遍的関係)
ケプラー K2 ミッションで得られた光度曲線を用いて,おうし座星形成領域にある 18 個の若い褐色矮星の自転周期を新たに測定した.ここで解析した天体の質量は 0.02 - 0.08 太陽質量の範囲であり,これらの天体は過去に広範に特徴付けされている.
天体の自転周期を調べるため,3 つの異なる手法を用いた.自己相関 (autocorrelation),ピリオドグラム (periodogram),ガウス過程 (Gaussian process) である.
解析の結果,円盤を持つ褐色矮星の自転周期の中央値は,円盤を持たないものより 2 倍長く,それぞれ 3.1 日と 1.6 日であることが判明した.これは円盤によって天体の自転にブレーキがかかっていることを示す兆候であるが,サンプル数は少ない.
自転周期の全体の中央値は 1.9 日であり,おうし座星形成領域にある褐色矮星は,いくらか古い (3 - 10 Myr) 星形成領域にある同様の天体よりも遅く自転していることが判明した.これは,天体の熱進化に伴う半径収縮と角運動量保存による自転速度の上昇と整合的な結果であり,この質量範囲においては,円盤による自転へのブレーキは非効率的であるか,あるいは一時的なものである (もしくはその両方) という明確な兆候である.
準恒星質量の範囲で,典型的な自転周期は質量の線形増加関数であることを確認した.
天体の自転速度は,角運動量保存を仮定して現在の太陽系の年齢まで経過した段階の推定を行うと,太陽系惑星と太陽系外の惑星質量天体の既知の自転-質量関係と適合する.この自転周期-質量に見られる傾向は,6 桁を超える質量範囲で成り立ち,さらにいくつかの異なる形成過程を持つ天体を含んでいる.
この結果は,褐色矮星は進化の最初の数万年を通じて,初期の角運動量を保持していることを示唆している.
arXiv:1804.07380
Scholz et al. (2018)
A universal spin-mass relation for brown dwarfs and planets
(褐色矮星と惑星の自転-質量の普遍的関係)
概要
褐色矮星は一生の初期の段階は恒星と類似しているが,自転の進化は惑星のものと類似している.ケプラー K2 ミッションで得られた光度曲線を用いて,おうし座星形成領域にある 18 個の若い褐色矮星の自転周期を新たに測定した.ここで解析した天体の質量は 0.02 - 0.08 太陽質量の範囲であり,これらの天体は過去に広範に特徴付けされている.
天体の自転周期を調べるため,3 つの異なる手法を用いた.自己相関 (autocorrelation),ピリオドグラム (periodogram),ガウス過程 (Gaussian process) である.
解析の結果,円盤を持つ褐色矮星の自転周期の中央値は,円盤を持たないものより 2 倍長く,それぞれ 3.1 日と 1.6 日であることが判明した.これは円盤によって天体の自転にブレーキがかかっていることを示す兆候であるが,サンプル数は少ない.
自転周期の全体の中央値は 1.9 日であり,おうし座星形成領域にある褐色矮星は,いくらか古い (3 - 10 Myr) 星形成領域にある同様の天体よりも遅く自転していることが判明した.これは,天体の熱進化に伴う半径収縮と角運動量保存による自転速度の上昇と整合的な結果であり,この質量範囲においては,円盤による自転へのブレーキは非効率的であるか,あるいは一時的なものである (もしくはその両方) という明確な兆候である.
準恒星質量の範囲で,典型的な自転周期は質量の線形増加関数であることを確認した.
天体の自転速度は,角運動量保存を仮定して現在の太陽系の年齢まで経過した段階の推定を行うと,太陽系惑星と太陽系外の惑星質量天体の既知の自転-質量関係と適合する.この自転周期-質量に見られる傾向は,6 桁を超える質量範囲で成り立ち,さらにいくつかの異なる形成過程を持つ天体を含んでいる.
この結果は,褐色矮星は進化の最初の数万年を通じて,初期の角運動量を保持していることを示唆している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.07537
Crida et al. (2018)
Mass, radius, and composition of the transiting planet 55 Cnc e : using interferometry and correlations
(トランジット惑星かに座55番星e の質量,半径と組成:干渉法と相関を利用して)
ここでは,直接測定出来るパラメータの確率密度関数 (probability density function, PDF) を用いて,恒星と惑星の質量・半径の合同 PDF を導出する.恒星の密度と半径を組み合わせることは質量を決定するための最も信頼できる方法であるため,恒星質量と半径は強く相関し,惑星質量と半径は適度に相関する.
一般化したベイズ解析を 55 Cnc e (かに座55番星e) の内部構造の特徴付けに使用した.相関を考慮に入れて,惑星内部を制約する能力がどう改善されるかを定量的に評価した.また,質量-半径相関の情報内容も,難揮発性元素存在度の制約と比較した.ここでは,関心のある全ての内部パラメータに対して事後分布を提供する.
使用可能なすべてのデータを元にして,かに座55番星e が持つガスエンベロープの半径を,惑星半径の 0.08 ± 0.05 倍と推定した.
惑星質量と半径の間のより強い相関 (潜在的にはトランジット深さのより良い推定によって得られる) は,惑星内部の特徴付けを大幅に改善し,惑星が持つガスエンベロープの特性における不定性を大きく低減することが出来る.
このうち,中心星に最も近い かに座55番星e はトランジットを起こしており,これは Winn et al. (2011) と Demory et al. (2011) で独立に発見された.この惑星はトランジットするスーパーアースの最初の発見例の一つであるため注目を浴び,その組成を決定するための研究が多く行われている.
これまでに,赤外線および可視光でのトランジットと掩蔽 (secondary eclipse,二次食),位相曲線の観測が行われている (Demory et al. 2012, 2016, Angelo & Hu 2017).
しかし Angelo & Hu (2017) と Dorn et al. (2017) では裸の岩石惑星の可能性には否定的な結果が報告されており,この惑星の組成に関しては議論がある.
この恒星は惑星を持っているため,恒星の密度はトランジット光度曲線を用いて決定することが出来る (Maxted et al. 2015).従って,Ligi et al. (2016) では恒星質量を 7% の不定性で直接導出することに成功している.
ここでは,このデータを用いてトランジット惑星の内部構造の制限を行う.
また,ガス層の厚さは惑星半径の (8 ± 5)% と推定され,ガス成分と惑星全体の質量比は \(\log{10}\left(m_{\rm gas}/M_{\rm p}\right)=-5.07\) と推定される.不定性が大きいものの,この値は地球の 10 倍である (地球の場合は -6.06).
ガスの金属量は強く制限できないが,低金属量の組成であることは考えにくい.金属量が 0.3 より大きい可能性は 80% である.岩石主体の内部のサイズ (コア+マントル半径) は 0.92 ± 0.05 惑星半径と推定され,このうちコア半径はコア+マントル半径の 0.36 倍である.
しかしこの比は,後に 0.78 ± 0.08 と下方修正されている (Teske et al. 2013).
Moriarty et al. (2014) では,進化する原始惑星系円盤の寿命の間の一連の濃縮により,炭素豊富な惑星を形成し得ることを議論している,しかしかに座55番星まわりで形成されると期待される微惑星は,この系全体で C/O = 1 を仮定しても C/O < 1 となる.
また,炭素主体惑星の内部構造は不明である.いくつかの風変わりなモデルが存在し,そこでは SiC, C, Fe 層の存在を考慮しているが,主要な岩石形成元素である Mg, O などを無視している (Bond et al. 2010,Kuchner & Seager 2005).そのため,炭素を含む組成のより良い理解や,位相図,位相平衡と状態方程式が必要である.
参考までに,炭素豊富な惑星内部を想定すると,コア+マントル半径の推定値は大きくなる.これは SiC はシリケイトより低密度であることが理由である.したがってガス層の厚さの推定は薄くなる.ただし大きな不定性があることに留意する必要がある.
arXiv:1804.07537
Crida et al. (2018)
Mass, radius, and composition of the transiting planet 55 Cnc e : using interferometry and correlations
(トランジット惑星かに座55番星e の質量,半径と組成:干渉法と相関を利用して)
概要
系外惑星の特徴付けは,その惑星の中心星のパラメータに依存する.しかし恒星進化モデルは,個々の恒星の質量と半径を導出する際にいつも使用できるわけではない.それは,個々の恒星の複数の恒星内部パラメータがあまりよく制約されていないことが原因である.ここでは,直接測定出来るパラメータの確率密度関数 (probability density function, PDF) を用いて,恒星と惑星の質量・半径の合同 PDF を導出する.恒星の密度と半径を組み合わせることは質量を決定するための最も信頼できる方法であるため,恒星質量と半径は強く相関し,惑星質量と半径は適度に相関する.
一般化したベイズ解析を 55 Cnc e (かに座55番星e) の内部構造の特徴付けに使用した.相関を考慮に入れて,惑星内部を制約する能力がどう改善されるかを定量的に評価した.また,質量-半径相関の情報内容も,難揮発性元素存在度の制約と比較した.ここでは,関心のある全ての内部パラメータに対して事後分布を提供する.
使用可能なすべてのデータを元にして,かに座55番星e が持つガスエンベロープの半径を,惑星半径の 0.08 ± 0.05 倍と推定した.
惑星質量と半径の間のより強い相関 (潜在的にはトランジット深さのより良い推定によって得られる) は,惑星内部の特徴付けを大幅に改善し,惑星が持つガスエンベロープの特性における不定性を大きく低減することが出来る.
かに座55番星e について
発見と特徴付け
かに座55番星e は,明るい恒星 55 Cnc (かに座55番星) を公転している.この恒星は大きく距離の離れた連星系のうちの主星で,合計 5 つの惑星を持つ.これらの惑星は視線速度法で検出された (Fischer et al. 2008など).このうち,中心星に最も近い かに座55番星e はトランジットを起こしており,これは Winn et al. (2011) と Demory et al. (2011) で独立に発見された.この惑星はトランジットするスーパーアースの最初の発見例の一つであるため注目を浴び,その組成を決定するための研究が多く行われている.
これまでに,赤外線および可視光でのトランジットと掩蔽 (secondary eclipse,二次食),位相曲線の観測が行われている (Demory et al. 2012, 2016, Angelo & Hu 2017).
かに座55番星e のガス外層
この惑星のガス外層は,非効率的な熱の再分配を伴う,光学的に厚い層であることが示唆されている.恒星からの強い輻射による大気蒸発の影響と,広がった水素大気が検出されていないことから (Ehrenreich et al. 2012),水素主体の層である可能性は考えづらい (ただし Tsiaras et al. (2016) も参照).もしガス層が存在するのであれば,それは惑星形成直後から存在する一時的な大気ではなく,二次的な (金属量豊富な) 性質を持つだろうと考えられる (Dorn & Heng 2017),さらに熱進化と大気蒸発からは,裸の岩石惑星か,水豊富な内部組成を持つことが示唆されている (Lopez 2017),しかし Angelo & Hu (2017) と Dorn et al. (2017) では裸の岩石惑星の可能性には否定的な結果が報告されており,この惑星の組成に関しては議論がある.
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.658 Dorn & Heng (2017) HD 219134b と c の大気の推定
天文・宇宙物理関連メモ vol.330 Lopez et al. (2016) 超短周期惑星は水欠乏状態で形成されることの示唆
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天文・宇宙物理関連メモ vol.330 Lopez et al. (2016) 超短周期惑星は水欠乏状態で形成されることの示唆
干渉計によるパラメータ推定
最近の Ligi et al. (2016) による,干渉計を用いたかに座55番星の観測では,恒星の角直径が 1.64% の精度で測定された,この結果は,いかなる恒星進化モデルとも独立である (ただし周辺減光モデルは使用している).この恒星は惑星を持っているため,恒星の密度はトランジット光度曲線を用いて決定することが出来る (Maxted et al. 2015).従って,Ligi et al. (2016) では恒星質量を 7% の不定性で直接導出することに成功している.
ここでは,このデータを用いてトランジット惑星の内部構造の制限を行う.
結果と結論
内部構造の推定
解析の結果,かに座55番星e の内部が純粋な岩石である可能性は 5% と,低い値になった.また,ガス層の厚さは惑星半径の (8 ± 5)% と推定され,ガス成分と惑星全体の質量比は \(\log{10}\left(m_{\rm gas}/M_{\rm p}\right)=-5.07\) と推定される.不定性が大きいものの,この値は地球の 10 倍である (地球の場合は -6.06).
ガスの金属量は強く制限できないが,低金属量の組成であることは考えにくい.金属量が 0.3 より大きい可能性は 80% である.岩石主体の内部のサイズ (コア+マントル半径) は 0.92 ± 0.05 惑星半径と推定され,このうちコア半径はコア+マントル半径の 0.36 倍である.
炭素惑星の可能性について
ここで考慮した内部構造・組成の代替案として可能性があるのは,この惑星が炭素豊富な組成を持つという仮説である.そのような内部組成はもちろん可能であり,過去に提案されたことがある (Madhushdhan et al. 2012).この仮説は,中心星の C/O 比 (酸素に対する炭素の割合) が 1.12 ± 0.19 と高い推定値であることに基いている (Delgado Mena et al. 2010).しかしこの比は,後に 0.78 ± 0.08 と下方修正されている (Teske et al. 2013).
Moriarty et al. (2014) では,進化する原始惑星系円盤の寿命の間の一連の濃縮により,炭素豊富な惑星を形成し得ることを議論している,しかしかに座55番星まわりで形成されると期待される微惑星は,この系全体で C/O = 1 を仮定しても C/O < 1 となる.
また,炭素主体惑星の内部構造は不明である.いくつかの風変わりなモデルが存在し,そこでは SiC, C, Fe 層の存在を考慮しているが,主要な岩石形成元素である Mg, O などを無視している (Bond et al. 2010,Kuchner & Seager 2005).そのため,炭素を含む組成のより良い理解や,位相図,位相平衡と状態方程式が必要である.
参考までに,炭素豊富な惑星内部を想定すると,コア+マントル半径の推定値は大きくなる.これは SiC はシリケイトより低密度であることが理由である.したがってガス層の厚さの推定は薄くなる.ただし大きな不定性があることに留意する必要がある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.07713
Trilling et al. (2018)
On the detectability of Planet X with LSST
(LSST での惑星 X の検出可能性について)
どちらの惑星も非常に暗いわけではないと考えられているが,これらの天体の天球での位置はあまりよく制限されていない.そのため,これらの惑星を検出するためには広範囲のサーベイが必要である.
現在計画が進んでいる,チリの Large Synoptic Survey Telescope (LSST) では,無バイアスの広範囲 (18000 平方度) の,深い (各フレームでの限界等級が 24.5) サーベイを行う予定があり,”wide-fast-deep” サーベイと呼ばれている.これは 2022 年に南天で開始される予定である.そのため,LSST でのサーベイは仮説上の天体を探査するための重要なツールとなる.
ここでは,仮説上の惑星の探査プラットフォームとしての LSST の有効性を検証する.
現在の LSST の baseline cadence を仮定すると (wide-fast-deep サーベイと追加の観測期間を含む),LSST は空全体の 61% の領域で,惑星 X の存在を確実に検出,もしくは否定することが期待される.
天体の軌道距離が ~ 75 au 以内の場合,惑星 X は通常の夜間移動天体処理で発見することが出来る.より大きな軌道距離だった場合は,別途データ処理が必要となる.
またここでは,LSST データにおいて惑星 X が非検出となった場合,その結果が意味するところについても議論する.
さらに,Batygin & Brown (2016) と Brown & Batygin (2016) は,遠方カイパーベルト天体の同じグループにおける,近日点軽度と軌道極の偏りの存在を指摘した.これらの軌道分布の特徴は,未発見の重い天体によって引き起こされる可能性がある.
Trujillo & Sheppard (2014) は,太陽中心距離が 250 au 程度以上のスーパーアース質量の天体の存在を提唱した.また, Brown & Batygin (2016) は軌道長半径が 380 - 980 au,質量が 5 - 20 地球質量,近日点距離が 150 - 350 au,軌道傾斜角はやや大きい (~ 30°) 天体が存在すると推定した,
Malhotra et al. (2016) は,~ 10 地球質量の惑星が ~ 665 au の軌道長半径で存在し,軌道離心率はやや大きく,軌道傾斜角は 18° か 48° の 2 つの可能性があると提唱した.
これらの解析に用いたカイパーベルト天体のサンプル数は,6 - 13 天体と比較的少ない.これとは別に,より大きいサンプル数 (~ 160 個) の,軌道長半径が ~ 50 - 80 au のカイパーベルト天体について,Volk & Malhotra (2017) は,太陽系の普遍平面からの強い偏位の存在を報告した.
この偏位に基づき,0.1 - 2.4 地球質量の小さい惑星質量天体が,軌道長半径が 60 - 100 au の範囲に,数度から数十度傾いた軌道で存在することを示唆した.
LSST は 2022 年に稼働を予定しており,観測感度はこれらの天体の予想光度の要件を満たす.また 10 年間に渡る LSST プログラムの 85% は “wide-fast-deep” (WFD) survey に割り当てられる予定である.そのため LSST は,南天での惑星 X 探査の強力なツールとなる.
従って,Trujillo-Sheppard/Batygin-Brown 天体は,十分に検出可能であると予想される.この天体は天球上をゆっくり動くため,検出のためには複数夜間の比較または直接の画像化が必要である.
また,Volk-Malhotra 天体は検出がさらに容易である.これは前者の予想より明るい (惑星がより重い) ためである.
このようなマップから,60 - 100 au における火星から地球サイズ天体の存在を否定する確率を計算可能である.同様に,150 - 1600 au における海王星サイズ天体の存在を否定する確率も計算可能である.
もしこの可能性が 1 に近ければ,近年提案されている遠方惑星仮説は支持を失うことになる.その場合は,遠方カイパーベルト天体の軌道特性における異常 (偏り) に対する,別の仮説を再評価する必要が生じる.
その場合,有り得る 2 つの代替選択肢は,軌道特性に見られる異常は統計的な偶然であるという仮説,あるいは軌道特性に見られる異常は比較的最近に発生した太陽系遠方への擾乱,例えば恒星の近接フライバイによるものだとする仮説である.
LSST が新たに発見するであろう遠方カイパーベルト天体の数は非常に多いため,遠方カイパーベルト天体の軌道特性の偏りは,統計的な偶然に起因するという可能性も検証可能である.これにより軌道特性の統計解析が大幅に改善され,惑星 X の証拠についても再評価されることが期待される.
arXiv:1804.07713
Trilling et al. (2018)
On the detectability of Planet X with LSST
(LSST での惑星 X の検出可能性について)
概要
遠方のカイパーベルト天体の軌道分布を説明するために,太陽系遠方に未発見の惑星質量天体が存在するという仮説が提案されており,それには大きく分けて 2 種類ある.ここでは両者をあわせて惑星 X (Planet X) と呼ぶ.どちらの惑星も非常に暗いわけではないと考えられているが,これらの天体の天球での位置はあまりよく制限されていない.そのため,これらの惑星を検出するためには広範囲のサーベイが必要である.
現在計画が進んでいる,チリの Large Synoptic Survey Telescope (LSST) では,無バイアスの広範囲 (18000 平方度) の,深い (各フレームでの限界等級が 24.5) サーベイを行う予定があり,”wide-fast-deep” サーベイと呼ばれている.これは 2022 年に南天で開始される予定である.そのため,LSST でのサーベイは仮説上の天体を探査するための重要なツールとなる.
ここでは,仮説上の惑星の探査プラットフォームとしての LSST の有効性を検証する.
現在の LSST の baseline cadence を仮定すると (wide-fast-deep サーベイと追加の観測期間を含む),LSST は空全体の 61% の領域で,惑星 X の存在を確実に検出,もしくは否定することが期待される.
天体の軌道距離が ~ 75 au 以内の場合,惑星 X は通常の夜間移動天体処理で発見することが出来る.より大きな軌道距離だった場合は,別途データ処理が必要となる.
またここでは,LSST データにおいて惑星 X が非検出となった場合,その結果が意味するところについても議論する.
惑星 X とは
非常に遠方のカイパーベルト天体の軌道分布の偏りから,未発見の惑星による重力的な影響の可能性が指摘されている.惑星 X 仮説
Trujillo & Sheppard および Batygin & Brown による仮説
Trujillo & Sheppard (2014) と Sheppard & Trujillo (2016) は,軌道長半径が 150 au を超えるカイパーベルト天体の近日点引数 (argument of perihelion) に偏りが見られることを報告している.近日点引数とは,天体軌道の昇交点 (ascending node) に対する,近日点の位置を表す角度である.さらに,Batygin & Brown (2016) と Brown & Batygin (2016) は,遠方カイパーベルト天体の同じグループにおける,近日点軽度と軌道極の偏りの存在を指摘した.これらの軌道分布の特徴は,未発見の重い天体によって引き起こされる可能性がある.
Trujillo & Sheppard (2014) は,太陽中心距離が 250 au 程度以上のスーパーアース質量の天体の存在を提唱した.また, Brown & Batygin (2016) は軌道長半径が 380 - 980 au,質量が 5 - 20 地球質量,近日点距離が 150 - 350 au,軌道傾斜角はやや大きい (~ 30°) 天体が存在すると推定した,
Malhotra et al. による仮説
Malhotra et al. (2016) は,最も遠方の部類のカイパーベルト天体は整数比に近い軌道周期比を持っていることを指摘し,これは重い擾乱天体との力学的共鳴である可能性を示唆した.Malhotra et al. (2016) は,~ 10 地球質量の惑星が ~ 665 au の軌道長半径で存在し,軌道離心率はやや大きく,軌道傾斜角は 18° か 48° の 2 つの可能性があると提唱した.
これらの解析に用いたカイパーベルト天体のサンプル数は,6 - 13 天体と比較的少ない.これとは別に,より大きいサンプル数 (~ 160 個) の,軌道長半径が ~ 50 - 80 au のカイパーベルト天体について,Volk & Malhotra (2017) は,太陽系の普遍平面からの強い偏位の存在を報告した.
この偏位に基づき,0.1 - 2.4 地球質量の小さい惑星質量天体が,軌道長半径が 60 - 100 au の範囲に,数度から数十度傾いた軌道で存在することを示唆した.
LSST による惑星 X 観測
これらの “Planet X” の位置や明るさは,これまでに制約されていない.Volk & Malhotra (2017) では V = 15,Brown & Batygin (2016) では V = 22 - 25 と予測している.LSST は 2022 年に稼働を予定しており,観測感度はこれらの天体の予想光度の要件を満たす.また 10 年間に渡る LSST プログラムの 85% は “wide-fast-deep” (WFD) survey に割り当てられる予定である.そのため LSST は,南天での惑星 X 探査の強力なツールとなる.
結果
惑星 X の観測可能性
Brown & Batygin (2016) で提案されている遠方軌道解 (5 - 20 地球質量,近日点距離 150 - 350 au,遠日点距離 600 - 1600 au) の場合,惑星 X が近日点にいる時は LSST によって容易に検出可能であると予想される,また遠日点にいる場合でも,ごく一部のパラメータ空間を除くと検出可能である.検出できないのは,距離がありうる範囲内で最も遠距離にあり,質量も有り得る範囲内で最も軽い質量だった場合である.従って,Trujillo-Sheppard/Batygin-Brown 天体は,十分に検出可能であると予想される.この天体は天球上をゆっくり動くため,検出のためには複数夜間の比較または直接の画像化が必要である.
また,Volk-Malhotra 天体は検出がさらに容易である.これは前者の予想より明るい (惑星がより重い) ためである.
LSST で検出されなかった場合
LSST によるサーベイで惑星 X が非検出だった場合,r = 24.5 より明るい惑星の可能性が排除されている空の領域のマップを生成することが出来る.このマップは LSST で調査される予定の天球の 63% の範囲のみに適用される.このようなマップから,60 - 100 au における火星から地球サイズ天体の存在を否定する確率を計算可能である.同様に,150 - 1600 au における海王星サイズ天体の存在を否定する確率も計算可能である.
もしこの可能性が 1 に近ければ,近年提案されている遠方惑星仮説は支持を失うことになる.その場合は,遠方カイパーベルト天体の軌道特性における異常 (偏り) に対する,別の仮説を再評価する必要が生じる.
その場合,有り得る 2 つの代替選択肢は,軌道特性に見られる異常は統計的な偶然であるという仮説,あるいは軌道特性に見られる異常は比較的最近に発生した太陽系遠方への擾乱,例えば恒星の近接フライバイによるものだとする仮説である.
LSST が新たに発見するであろう遠方カイパーベルト天体の数は非常に多いため,遠方カイパーベルト天体の軌道特性の偏りは,統計的な偶然に起因するという可能性も検証可能である.これにより軌道特性の統計解析が大幅に改善され,惑星 X の証拠についても再評価されることが期待される.
天文・宇宙物理関連メモ vol.236 Demory et al. (2016) スーパーアースかに座55番星eの輝度マップ