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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1803.10783
Bourrier et al. (2018)
High-energy environment of super-Earth 55 Cnc e I: Far-UV chromospheric variability as a possible tracer of planet-induced coronal rain
(スーパーアースかに座55番星e の高エネルギー環境 I:惑星誘起コロナルレインのトレーサーの可能性としての遠紫外線彩層変動)
スーパーアースであるかに座55番星e (55 Cnc e) は太陽系近傍の明るい G 型星を公転しており,紫外線波長でのトランジット観測を介して,高エネルギー放射が惑星に与える影響に関する問題に取り組むための良い対象である.
ハッブル宇宙望遠鏡を使用して,2016 年 4 月,2017 年 1 月,2017 年 2 月の 3 つの時期に渡って,遠紫外線でのこの惑星のトランジットを観測した.これらの観測は,軌道における 2 つの quadrature (矩) の間の,半分の期間をカバーしている.観測から,中心星であるかに座55番星の彩層輝線の,短周期と長周期の明確な変動の存在を明らかにした.
3 回の観測のうち最後の 2 つの観測では,惑星が接近する側の矩を通過した後に,C iii,Si iii と Si iv 線での大きなフラックスが検出された,それに引き続いて,Si iv の二重線のフラックスの減少が検出された.
2 番目の観測時期では,これらの変動は Si ii と C ii 二重線のフラックスの減少と同時に発生するのが観測された.また全ての観測時期で,異なる軌道位相においてであるが,N v 二重線も同様にフラックスの減少を示すことが分かった.
これらのフラックスの減少は,光学的に薄いガス雲による吸収が原因とする解釈と整合的である.恒星の静止座標における低速で赤方偏移した視線速度に主に局在している,また,惑星のトランジットの前と最中に優先的に発生する.
上記 3 つの点は,この変動が純粋に恒星に起源を持つ変動であるとは考えにくいが,恒星からの放射を掩蔽している物質が惑星に起源を持つということも考えにくいことを示している.変動の原因として,恒星のコロナ領域の外縁におけるかに座55番星e の運動が,低温なコロナルレイン (coronal rain) の形成を引き起こしているという仮説を提案する.恒星コロナの不均質性と時間進化が,これら 3 回の観測の間の違いを引き起こしている原因である可能性がある.
上記の変動の他にも,1 回目の観測では C ii 二重線で,また全ての時期における O i 三重線での変動が検出されている,これらは異なる挙動を示しており,恒星の固有の変動に由来する可能性がある.
かに座55番星系での星-惑星相互作用と恒星活動とを明確に区別するためには,更なる遠紫外線波長での観測が必要である.
一方で,低質量惑星の場合は大部分の大気を大気散逸によって剥ぎ取られる可能性があり,さらに chthonian 惑星 (クトニア惑星,ガスの外層を全て失って固体コアが露出した惑星) に進化する可能性がある (Lecavelier des Etangs et al. 2004).
観測からは,木星より軽い質量を持つ惑星が欠乏している,短周期惑星の個数の「砂漠領域」が存在することが分かっている (Lecavelier des Etangs 2007,Davis & Wheatley 2009,Szabo ́ & Kiss 2011,Beauge ́& Nesvorny ́ 2013など).また,強い輻射を受けているスーパーアース質量の惑星でも,同様の惑星分布の「谷」が存在することも示されている (Lundkvist et al. 2016).
理論的には,これらの惑星砂漠領域の存在は,恒星のエネルギーの多くを受け取り散逸を起こすのに十分な大きなガスエンベロープを持っているが,散逸する大気を保っておくには軽すぎる惑星の存在によってよく説明できる (Lopez et al. 2012,Lopez & Fortney 2013,Owen & Wu 2013,Kurokawa & Nakamoto 2014,Jin et al. 2014など).
最近では,Fulton et al. (2017) によって 1.7 地球半径程度の小さい短周期惑星が欠乏していることと,惑星の半径分布が 1.3 地球半径と 2.5 地球半径に 2 つのピークを持つことが同定された.観測からは,惑星全質量の数% の水素・ヘリウムエンベロープを保持するのに十分な質量を持つ大きなスーパーアースと,大気が惑星本体のサイズに対して無視できるほどの厚みしか持たない小さい岩石スーパーアースの間の,二分性が存在するように思われる (Weiss & Marcy 2014,Rogers 2015).
谷の小さい側に位置する惑星としては,ケプラー444 のライマンアルファ線 (Lyα) 波長でのトランジット観測が行われている.この観測では,年老いた恒星ケプラー444 を公転する複数の惑星のうち,外側を公転する温暖なサブアース (地球よりやや軽い惑星) が広がった水素外気圏を持っている可能性が指摘されている (Bourrier et al. 2017).
一方で,これと類似した観測が,超低温矮星 TRAPPIST-1 まわりの 7 個の温暖な地球サイズ惑星に対して進行中である (Bourrier et al. 2017).
谷の大きい側に位置する惑星では,穏やかに輻射を受けるスーパーアース HD 97658b の Lyα 線でのトランジット観測が行われている,この Lyα 観測では,HD 97658b からは中性水素の散逸が発生している兆候は見られていない (Bouttier et al. 2017).
また,強い輻射を受けてているかに座55番星e に対しても観測が行われている (Ehrenreich et al. 2012).
この惑星は,まず視線速度観測で発見され,特徴付けが行われた (Fischer et al. 2008,Dawson & Fabrycky 2010).その後 MOST を用いた可視光でのトランジットが検出された (Winn et al. 2011).またスピッツァー宇宙望遠鏡でも赤外線領域でトランジットが観測されている (Demory et al. 2011).
中心星は明るい (V = 6) 太陽系近傍 (13 pc) の恒星であるため,スーパーアースの大気の特徴付けを行う対象として適している.中心星からの強い輻射を受けているため,この惑星は水素・ヘリウムエンベロープを持つとは考えにくいが,大気散逸に対する回復力に富む,水や炭素豊富なエンベロープを保持している可能性はある (Lopez et al. 2012).
一方で,水素外気圏は検出されていない (Ehrenreich et al. 2012),また,地上からの可視光分光観測では水は検出されなかった (Esteves et al. 2017).そのため,かに座55番星e は水が豊富な広がったエンベロープは持っていないことが示唆される.
この惑星の近赤外線での観測では,二次食 (secondary eclipse) 時の掩蔽深さと昼からの熱放射の大きな変化という形で,数ヶ月のタイムスケールに渡る大きな時間変動が検出されている (Demory et al. 2012, 2016).また,トランジット深さでも暫定的な変動の検出が報告されている (Demory et al. 2016).
この惑星の掩蔽観測からは,惑星のホットスポットは恒星直下点から 40 度東にずれていることが分かっている,また,昼側 (2700 K) から夜側 (1380 K) への非効率的な熱の再分配が起きていることも分かっている.
HCN の大気が存在する兆候を検出したという主張があるが (Tsiaras et al. 2016),過去の赤外線観測ではこの惑星が軽い水素・ヘリウムエンベロープを持たないことが確かめられており,かに座55番星e は熱の再循環が昼側半球に限定された光学的に厚い大気を持つか,あるいは大気は持たないが表面が低粘度のマグマ流に覆われているかであるという可能性が示唆されている.さらなる解析では,赤外線での位相曲線は,一定量の重い大気が存在するというシナリオと整合する (Angelo & Hu 2017).
また,紫外線波長での観測では,惑星と恒星彩層の相互作用を調べることも可能である.
恒星-惑星相互作用 (star-planet interactions, SPIs) は一般に,惑星が特定の軌道位相に存在する時の恒星活動の増加 (光球,彩層あるいはコロナの) と関係している.これは,惑星との潮汐相互作用か,磁気的相互作用からの加熱,あるいは惑星物質が恒星に降着することによって発生する.
反対に,恒星彩層のスペクトル線のコアでの異様に低いフラックスが検出された場合は,近接惑星から散逸した物質が原因の可能性がある.大きな軌道距離か,コロナの近くに溜まった星周トーラスによる吸収である (Haswell et al. 2012,Lanza 2014,Fossati et al. 2015).
全ての特徴は,恒星の静穏な線 (Si II, Si IV, C II, N V) の吸収と整合的であった.C II 線の励起線を除くと,全ての特徴は恒星のスペクトル線のコアか red wing に位置しており,光学的に厚い円盤による吸収よりは,光学的に薄いガス雲による吸収でよりうまく説明することが出来る.
Visit C での N V 線を除くと,全ての変動の特徴は かに座55番星e のトランジットの前か,トランジットの最中に発生していた.また,N V 二重線は,3 回の観測で吸収と一致する徴候を示す唯一の線である.
Visit A は 3 つのスペクトル線 (O I, N V, C II) のみで変動を示す.一方で visit B と C では多くの線で変動が検出された.
岩石の表面と火山プルームからのマグマスパッタリングから発生する岩石の蒸気は,ダストと金属を惑星を囲んでいるエンベロープに供給し,遠紫外線波長で恒星を掩蔽するイオン雲を生成する原因となりうる.この惑星では,スーパーアースの深い重力的井戸の外へ重元素を拡散し運ぶような水素エンベロープの存在は確認されていないが,他のシナリオによって外気圏雲を形成する可能性はある.
例えば,惑星への XUV 照射が強いことを考えると,重い大気も流体力学的に散逸する可能性がある (Tian 2009 の二酸化炭素大気など).さらに,水星と類似しているがそれよりも強いスパッタリング過程によって,惑星の外気圏が生じる可能性もある (Ridden-Harper et al. 2016).
さらに,かに座55番星e と恒星の磁気圏の相互作用による形成も考えられる.これは,イオと木星との間で発生しているものと同じであり,これもスーパーアースからのイオンの散逸の原因となる可能性がある.
しかし観測された吸収の特徴を説明するためには,非常に広がった濃い外気圏の存在が必要である,具体的には恒星の円盤面より ~ 30% 大きく,柱密度が 1012.5 - 1014.5 cm-2 の間である必要がある.
そのため,かに座55番星e がシリケイト豊富な環境,あるいはもしかしたら炭素豊富な環境で形成された可能性は高いものの (Delgado Mena et al. 2010),観測を説明できるだけの外気圏を維持するのに十分効率的な何らかの機構が存在した場合,時間の経過とともに揮発性元素 (H, C, N など) の地殻および鉱物大気を枯渇させてしまう可能性が高い.スーパーアースは現在重い成分 (Na, Si, Mg など) で占められているため,イオン化した炭素と窒素のスペクトル線で検出された吸収の特徴が,これらによるものだとは考えづらい.
そのため,変動は惑星起源の物質が原因ではないと考えられる.
検出された大部分の特徴は,恒星の静穏な線の 10 - 20% の深さの吸収に相当し,かに座55番星e のトランジットの前か,トランジット最中に発生している,また,低速で正の視線速度を持っている.これらの振る舞いは,恒星自身の固有のランダムな変動というよりは,彩層の上に存在するガスの雲による掩蔽というシナリオと整合的であるように思える.
物質は惑星由来ではなさそうであるという考察をしたが.恒星はフィラメントによって自らの彩層放射を隠すことが可能である.
フィラメントとは,部分電離したプラズマで出来ていて,磁力線ループによって彩層の上に留められた構造のことである.例えば太陽フィラメントの場合は,フィラメントは自身の周囲にあるコロナ物質よりも 100 倍低温で高密度である (Parenti 2014など).
しかし,恒星のフィラメントは形成されるのに数日の時間が必要で,ゆっくりとした崩壊や激しい爆発現象によって失われるまで,ほとんど安定して存在している.
また爆発の場合は 100 km/s よりも高速で上方にプラズマを放出するが,これは観測された吸収の特徴と整合しない.観測では,物質は 10 km/s のオーダーの速度で恒星に落下しているように思われる.
そのため,観測された変動の全てが恒星活動由来であるという可能性も低い.
フレア後に発生する熱的不安定性は,磁気ループの高い位置に留められているガスの破局的な冷却をもたらす.その後冷却されたプラズマは磁気ループの側面に沿って,数百から 200 km/s の速度で下降する,高密度の下降流を形成する.これがコロナルレインと呼ばれる現象である.
コロナルレインは低温な可視光 (Hα か Ca II など) や,高温な紫外線 (Si IV や C IV など) では,一般に放射として観測される.しかし 104 K 程度に至るまでは,吸収としても検出される.
かに座55番星e の軌道長半径は恒星半径のわずか 3.5 倍であるため,恒星コロナ領域の外縁部での惑星の運動は,コロナの不安定化と,軌道運動に同期した短寿命のコロナ沈殿をもたらすと予想される.
例えば,
・惑星磁場と恒星磁場の間で発生するリコネクション (磁力線の繋ぎ変え)
・今回の遠紫外線観測では何の特徴も示さない物質が かに座55番星e から散逸して,惑星磁場と繋がった恒星の磁力線を通じてコロナに注入される
・かに座55番星e によるアルフベン的擾乱が,磁化された恒星風を通じて恒星の彩層に向かって下向きに伝播する
・惑星または恒星からのガスの流れが,惑星前方へのバウショックの形成によって阻害されてコロナへ降着する
などである.
ただし,バウショックは観測的特徴を直接は生まないだろうと考えられる.
いくつかの惑星での早いトランジットへの入り (ingress) はバウショックによる掩蔽だとする説があるが,今回の場合は変動が発生したのは,トランジット中心の 3 時間前 (軌道位相で言うと -60°) であり,これは非常に強い惑星の磁気モーメントか,あるいは低速で低密度の恒星風の存在を必要とするため,観測を説明できるようなバウショックが形成されるには位置が恒星から離れすぎている.
arXiv:1803.10783
Bourrier et al. (2018)
High-energy environment of super-Earth 55 Cnc e I: Far-UV chromospheric variability as a possible tracer of planet-induced coronal rain
(スーパーアースかに座55番星e の高エネルギー環境 I:惑星誘起コロナルレインのトレーサーの可能性としての遠紫外線彩層変動)
概要
中心星による,惑星に対する高エネルギーの X 線から紫外線 (XUV) の放射は,惑星の進化に影響を及ぼす.また,惑星コアまで侵食され露出した超短周期惑星の存在や起源とも関連している可能性がある.スーパーアースであるかに座55番星e (55 Cnc e) は太陽系近傍の明るい G 型星を公転しており,紫外線波長でのトランジット観測を介して,高エネルギー放射が惑星に与える影響に関する問題に取り組むための良い対象である.
ハッブル宇宙望遠鏡を使用して,2016 年 4 月,2017 年 1 月,2017 年 2 月の 3 つの時期に渡って,遠紫外線でのこの惑星のトランジットを観測した.これらの観測は,軌道における 2 つの quadrature (矩) の間の,半分の期間をカバーしている.観測から,中心星であるかに座55番星の彩層輝線の,短周期と長周期の明確な変動の存在を明らかにした.
3 回の観測のうち最後の 2 つの観測では,惑星が接近する側の矩を通過した後に,C iii,Si iii と Si iv 線での大きなフラックスが検出された,それに引き続いて,Si iv の二重線のフラックスの減少が検出された.
2 番目の観測時期では,これらの変動は Si ii と C ii 二重線のフラックスの減少と同時に発生するのが観測された.また全ての観測時期で,異なる軌道位相においてであるが,N v 二重線も同様にフラックスの減少を示すことが分かった.
これらのフラックスの減少は,光学的に薄いガス雲による吸収が原因とする解釈と整合的である.恒星の静止座標における低速で赤方偏移した視線速度に主に局在している,また,惑星のトランジットの前と最中に優先的に発生する.
上記 3 つの点は,この変動が純粋に恒星に起源を持つ変動であるとは考えにくいが,恒星からの放射を掩蔽している物質が惑星に起源を持つということも考えにくいことを示している.変動の原因として,恒星のコロナ領域の外縁におけるかに座55番星e の運動が,低温なコロナルレイン (coronal rain) の形成を引き起こしているという仮説を提案する.恒星コロナの不均質性と時間進化が,これら 3 回の観測の間の違いを引き起こしている原因である可能性がある.
上記の変動の他にも,1 回目の観測では C ii 二重線で,また全ての時期における O i 三重線での変動が検出されている,これらは異なる挙動を示しており,恒星の固有の変動に由来する可能性がある.
かに座55番星系での星-惑星相互作用と恒星活動とを明確に区別するためには,更なる遠紫外線波長での観測が必要である.
背景
高温惑星からの大気散逸とその影響
恒星からの X 線・紫外線 (XUV) 放射は,惑星の高層大気を流体力学的に膨張させ,大量の大気の散逸現象を引き起こす.この大気散逸は,木星質量の惑星では大きな影響を及ぼすには惑星自身が重すぎるため,主系列星の寿命の間に惑星全質量の数%しか失わない.一方で,低質量惑星の場合は大部分の大気を大気散逸によって剥ぎ取られる可能性があり,さらに chthonian 惑星 (クトニア惑星,ガスの外層を全て失って固体コアが露出した惑星) に進化する可能性がある (Lecavelier des Etangs et al. 2004).
観測からは,木星より軽い質量を持つ惑星が欠乏している,短周期惑星の個数の「砂漠領域」が存在することが分かっている (Lecavelier des Etangs 2007,Davis & Wheatley 2009,Szabo ́ & Kiss 2011,Beauge ́& Nesvorny ́ 2013など).また,強い輻射を受けているスーパーアース質量の惑星でも,同様の惑星分布の「谷」が存在することも示されている (Lundkvist et al. 2016).
理論的には,これらの惑星砂漠領域の存在は,恒星のエネルギーの多くを受け取り散逸を起こすのに十分な大きなガスエンベロープを持っているが,散逸する大気を保っておくには軽すぎる惑星の存在によってよく説明できる (Lopez et al. 2012,Lopez & Fortney 2013,Owen & Wu 2013,Kurokawa & Nakamoto 2014,Jin et al. 2014など).
最近では,Fulton et al. (2017) によって 1.7 地球半径程度の小さい短周期惑星が欠乏していることと,惑星の半径分布が 1.3 地球半径と 2.5 地球半径に 2 つのピークを持つことが同定された.観測からは,惑星全質量の数% の水素・ヘリウムエンベロープを保持するのに十分な質量を持つ大きなスーパーアースと,大気が惑星本体のサイズに対して無視できるほどの厚みしか持たない小さい岩石スーパーアースの間の,二分性が存在するように思われる (Weiss & Marcy 2014,Rogers 2015).
惑星分布の「谷」周辺での観測
大気散逸にさらされているスーパーアースの進化を理解するためには,惑星分布の「谷」の両サイドにいる惑星の高層大気を観測する必要がある.谷の小さい側に位置する惑星としては,ケプラー444 のライマンアルファ線 (Lyα) 波長でのトランジット観測が行われている.この観測では,年老いた恒星ケプラー444 を公転する複数の惑星のうち,外側を公転する温暖なサブアース (地球よりやや軽い惑星) が広がった水素外気圏を持っている可能性が指摘されている (Bourrier et al. 2017).
一方で,これと類似した観測が,超低温矮星 TRAPPIST-1 まわりの 7 個の温暖な地球サイズ惑星に対して進行中である (Bourrier et al. 2017).
谷の大きい側に位置する惑星では,穏やかに輻射を受けるスーパーアース HD 97658b の Lyα 線でのトランジット観測が行われている,この Lyα 観測では,HD 97658b からは中性水素の散逸が発生している兆候は見られていない (Bouttier et al. 2017).
また,強い輻射を受けてているかに座55番星e に対しても観測が行われている (Ehrenreich et al. 2012).
かに座55番星e
かに座55番星e の概要
かに座55番星e は,中心星をわずか 17.7 時間で公転する惑星であり,軌道周期 1 日未満の超短周期惑星 (ultra-short period planet) の仲間である.半径は 1.9 地球半径で.超短周期惑星の中でも最も大きな半径を持つうちの一つであり,evaporation valley の上側半径の縁に位置している.この惑星は,まず視線速度観測で発見され,特徴付けが行われた (Fischer et al. 2008,Dawson & Fabrycky 2010).その後 MOST を用いた可視光でのトランジットが検出された (Winn et al. 2011).またスピッツァー宇宙望遠鏡でも赤外線領域でトランジットが観測されている (Demory et al. 2011).
中心星は明るい (V = 6) 太陽系近傍 (13 pc) の恒星であるため,スーパーアースの大気の特徴付けを行う対象として適している.中心星からの強い輻射を受けているため,この惑星は水素・ヘリウムエンベロープを持つとは考えにくいが,大気散逸に対する回復力に富む,水や炭素豊富なエンベロープを保持している可能性はある (Lopez et al. 2012).
かに座55番星e の観測的特徴
この惑星の平均密度の推定値は,シリケイト豊富な内部組成の惑星が水のエンベロープを持つとするモデルと整合的である (Demory et al. 2011など),あるいは,炭素が豊富な内部組成を持ち,エンベロープは存在しないというモデルとも整合する (Madhusudhan et al. 2012).一方で,水素外気圏は検出されていない (Ehrenreich et al. 2012),また,地上からの可視光分光観測では水は検出されなかった (Esteves et al. 2017).そのため,かに座55番星e は水が豊富な広がったエンベロープは持っていないことが示唆される.
この惑星の近赤外線での観測では,二次食 (secondary eclipse) 時の掩蔽深さと昼からの熱放射の大きな変化という形で,数ヶ月のタイムスケールに渡る大きな時間変動が検出されている (Demory et al. 2012, 2016).また,トランジット深さでも暫定的な変動の検出が報告されている (Demory et al. 2016).
この惑星の掩蔽観測からは,惑星のホットスポットは恒星直下点から 40 度東にずれていることが分かっている,また,昼側 (2700 K) から夜側 (1380 K) への非効率的な熱の再分配が起きていることも分かっている.
HCN の大気が存在する兆候を検出したという主張があるが (Tsiaras et al. 2016),過去の赤外線観測ではこの惑星が軽い水素・ヘリウムエンベロープを持たないことが確かめられており,かに座55番星e は熱の再循環が昼側半球に限定された光学的に厚い大気を持つか,あるいは大気は持たないが表面が低粘度のマグマ流に覆われているかであるという可能性が示唆されている.さらなる解析では,赤外線での位相曲線は,一定量の重い大気が存在するというシナリオと整合する (Angelo & Hu 2017).
マグマオーシャンか厚い大気か
かに座55番星e の外気圏中の金属の組成と構造を解析することで,マグマシナリオか厚い大気シナリオのどちらが正しいかを区別することが出来ると考えられる.紫外線での観測を行うことで,惑星の外気圏の成分の探査することが出来る.例えば,電離した炭素やケイ素の検出である.また,紫外線波長での観測では,惑星と恒星彩層の相互作用を調べることも可能である.
恒星-惑星相互作用 (star-planet interactions, SPIs) は一般に,惑星が特定の軌道位相に存在する時の恒星活動の増加 (光球,彩層あるいはコロナの) と関係している.これは,惑星との潮汐相互作用か,磁気的相互作用からの加熱,あるいは惑星物質が恒星に降着することによって発生する.
反対に,恒星彩層のスペクトル線のコアでの異様に低いフラックスが検出された場合は,近接惑星から散逸した物質が原因の可能性がある.大きな軌道距離か,コロナの近くに溜まった星周トーラスによる吸収である (Haswell et al. 2012,Lanza 2014,Fossati et al. 2015).
主な特徴のまとめ
3 回の観測 visit A, B, C の全てに共通していたのは.O i 三重線の変動である.この変動は,基底状態と O i の低い励起状態の線に限定されており,その他の線では明確なパターンを示さなかった.全ての特徴は,恒星の静穏な線 (Si II, Si IV, C II, N V) の吸収と整合的であった.C II 線の励起線を除くと,全ての特徴は恒星のスペクトル線のコアか red wing に位置しており,光学的に厚い円盤による吸収よりは,光学的に薄いガス雲による吸収でよりうまく説明することが出来る.
Visit C での N V 線を除くと,全ての変動の特徴は かに座55番星e のトランジットの前か,トランジットの最中に発生していた.また,N V 二重線は,3 回の観測で吸収と一致する徴候を示す唯一の線である.
Visit A は 3 つのスペクトル線 (O I, N V, C II) のみで変動を示す.一方で visit B と C では多くの線で変動が検出された.
観測結果の解釈
変動は惑星起源物質か?
かに座55番星e の温度は ~ 2000 K と高いため (Demory et al. 2016),惑星表面は部分的にマグマオーシャンに覆われている可能性がある (Gelman et al. 2011).また,恒星と系内のその他の惑星との潮汐相互作用は,惑星に大きな火山活動を誘起する可能性がある (Jackson et al. 2008など).岩石の表面と火山プルームからのマグマスパッタリングから発生する岩石の蒸気は,ダストと金属を惑星を囲んでいるエンベロープに供給し,遠紫外線波長で恒星を掩蔽するイオン雲を生成する原因となりうる.この惑星では,スーパーアースの深い重力的井戸の外へ重元素を拡散し運ぶような水素エンベロープの存在は確認されていないが,他のシナリオによって外気圏雲を形成する可能性はある.
例えば,惑星への XUV 照射が強いことを考えると,重い大気も流体力学的に散逸する可能性がある (Tian 2009 の二酸化炭素大気など).さらに,水星と類似しているがそれよりも強いスパッタリング過程によって,惑星の外気圏が生じる可能性もある (Ridden-Harper et al. 2016).
さらに,かに座55番星e と恒星の磁気圏の相互作用による形成も考えられる.これは,イオと木星との間で発生しているものと同じであり,これもスーパーアースからのイオンの散逸の原因となる可能性がある.
しかし観測された吸収の特徴を説明するためには,非常に広がった濃い外気圏の存在が必要である,具体的には恒星の円盤面より ~ 30% 大きく,柱密度が 1012.5 - 1014.5 cm-2 の間である必要がある.
そのため,かに座55番星e がシリケイト豊富な環境,あるいはもしかしたら炭素豊富な環境で形成された可能性は高いものの (Delgado Mena et al. 2010),観測を説明できるだけの外気圏を維持するのに十分効率的な何らかの機構が存在した場合,時間の経過とともに揮発性元素 (H, C, N など) の地殻および鉱物大気を枯渇させてしまう可能性が高い.スーパーアースは現在重い成分 (Na, Si, Mg など) で占められているため,イオン化した炭素と窒素のスペクトル線で検出された吸収の特徴が,これらによるものだとは考えづらい.
そのため,変動は惑星起源の物質が原因ではないと考えられる.
全て恒星起源か?
Visit A の C II 二重線の形状の変化と,全ての visit での O I 線の変動は,恒星の彩層構造での変動によって説明することができる.しかし,その他の変動に関しては彩層自身の変動では発生しないと考えられる.検出された大部分の特徴は,恒星の静穏な線の 10 - 20% の深さの吸収に相当し,かに座55番星e のトランジットの前か,トランジット最中に発生している,また,低速で正の視線速度を持っている.これらの振る舞いは,恒星自身の固有のランダムな変動というよりは,彩層の上に存在するガスの雲による掩蔽というシナリオと整合的であるように思える.
物質は惑星由来ではなさそうであるという考察をしたが.恒星はフィラメントによって自らの彩層放射を隠すことが可能である.
フィラメントとは,部分電離したプラズマで出来ていて,磁力線ループによって彩層の上に留められた構造のことである.例えば太陽フィラメントの場合は,フィラメントは自身の周囲にあるコロナ物質よりも 100 倍低温で高密度である (Parenti 2014など).
しかし,恒星のフィラメントは形成されるのに数日の時間が必要で,ゆっくりとした崩壊や激しい爆発現象によって失われるまで,ほとんど安定して存在している.
また爆発の場合は 100 km/s よりも高速で上方にプラズマを放出するが,これは観測された吸収の特徴と整合しない.観測では,物質は 10 km/s のオーダーの速度で恒星に落下しているように思われる.
そのため,観測された変動の全てが恒星活動由来であるという可能性も低い.
かに座55番星e に誘起された低温なコロナルレイン
以上をまとめると,この恒星の彩層を掩蔽している物質は惑星ではなく恒星由来だが,その形成は かに座55番星e の軌道運動と関係していると考えられる.ここでは,惑星が掩蔽物質の供給源となる必要が無く,かつ惑星が恒星コロナの構造に影響を及ぼすシナリオを提案する.コロナルレイン
今回検出された特徴は,コロナルレイン (coronal rain) によって説明できる可能性がある.コロナルレインは太陽で観測されており,また他の恒星でもおそらく発生している.フレア後に発生する熱的不安定性は,磁気ループの高い位置に留められているガスの破局的な冷却をもたらす.その後冷却されたプラズマは磁気ループの側面に沿って,数百から 200 km/s の速度で下降する,高密度の下降流を形成する.これがコロナルレインと呼ばれる現象である.
コロナルレインは低温な可視光 (Hα か Ca II など) や,高温な紫外線 (Si IV や C IV など) では,一般に放射として観測される.しかし 104 K 程度に至るまでは,吸収としても検出される.
かに座55番星e の軌道長半径は恒星半径のわずか 3.5 倍であるため,恒星コロナ領域の外縁部での惑星の運動は,コロナの不安定化と,軌道運動に同期した短寿命のコロナ沈殿をもたらすと予想される.
コロナルレインの誘起要因
コロナを不安定化させる可能性がある機構は複数考えられる.例えば,
・惑星磁場と恒星磁場の間で発生するリコネクション (磁力線の繋ぎ変え)
・今回の遠紫外線観測では何の特徴も示さない物質が かに座55番星e から散逸して,惑星磁場と繋がった恒星の磁力線を通じてコロナに注入される
・かに座55番星e によるアルフベン的擾乱が,磁化された恒星風を通じて恒星の彩層に向かって下向きに伝播する
・惑星または恒星からのガスの流れが,惑星前方へのバウショックの形成によって阻害されてコロナへ降着する
などである.
ただし,バウショックは観測的特徴を直接は生まないだろうと考えられる.
いくつかの惑星での早いトランジットへの入り (ingress) はバウショックによる掩蔽だとする説があるが,今回の場合は変動が発生したのは,トランジット中心の 3 時間前 (軌道位相で言うと -60°) であり,これは非常に強い惑星の磁気モーメントか,あるいは低速で低密度の恒星風の存在を必要とするため,観測を説明できるようなバウショックが形成されるには位置が恒星から離れすぎている.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1803.10830
Han et al. (2018)
OGLE-2017-BLG-0482Lb: A Microlensing Super-Earth Orbiting a Low-mass Host Star
(OGLE-2017-BLG-0482Lb:低質量の主星を公転するマイクロレンズスーパーアース)
このイベントでは,中心星によるスムーズなマイクロレンズ光度曲線の中の,短時間のアノマリーとして惑星のシグナルが検出された.このシグナルは弱く短時間であるが,惑星によるシグナルは 3 つのマイクロレンズサーベイによる,高密度で連続的な観測によって確実に検出された.
光度曲線の解析の結果,中心星と惑星の質量比は 1.4 × 10-4 であった.
また,マイクロレンズ視差が光度曲線の観測から検出された.しかしアインシュタイン角半径は,惑星に誘起される caustic (焦線) をソース天体が横切らなかったため,測定することができなかった.
測定されたイベントの時間スケールとマイクロレンズ視差から,惑星 OGLE-2017-BLG-0482Lb の質量は 9.0 (+9.0, -4.5) 地球質量,中心星 OGLE-2017-BLG-0482L の質量は 0.20 (+0.20, -0.10) 太陽質量と推定される.また中心星と惑星の射影距離は 1.8 au であり,この惑星系までの推定距離は 5.8 kpc である.
arXiv:1803.10830
Han et al. (2018)
OGLE-2017-BLG-0482Lb: A Microlensing Super-Earth Orbiting a Low-mass Host Star
(OGLE-2017-BLG-0482Lb:低質量の主星を公転するマイクロレンズスーパーアース)
概要
晩期 M 矮星を公転するスーパーアースを持つ惑星系の発見を報告する.この惑星系は,マイクロレンズイベント OGLE-2017-BLG-0482 の解析によって発見された,このイベントでは,中心星によるスムーズなマイクロレンズ光度曲線の中の,短時間のアノマリーとして惑星のシグナルが検出された.このシグナルは弱く短時間であるが,惑星によるシグナルは 3 つのマイクロレンズサーベイによる,高密度で連続的な観測によって確実に検出された.
光度曲線の解析の結果,中心星と惑星の質量比は 1.4 × 10-4 であった.
また,マイクロレンズ視差が光度曲線の観測から検出された.しかしアインシュタイン角半径は,惑星に誘起される caustic (焦線) をソース天体が横切らなかったため,測定することができなかった.
測定されたイベントの時間スケールとマイクロレンズ視差から,惑星 OGLE-2017-BLG-0482Lb の質量は 9.0 (+9.0, -4.5) 地球質量,中心星 OGLE-2017-BLG-0482L の質量は 0.20 (+0.20, -0.10) 太陽質量と推定される.また中心星と惑星の射影距離は 1.8 au であり,この惑星系までの推定距離は 5.8 kpc である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1803.10338
Moses et al. (2018)
Seasonal stratospheric photochemistry on Uranus and Neptune
(天王星と海王星における季節性の成層圏光化学)
海王星での結果は,成層圏循環やその他の子午面輸送過程が存在しない場合は,炭化水素の存在度は高層大気で強い季節変動と子午的変動を示すが,これらの変動は,力学的及び化学的時間スケールが増加するため,大気の深い領域では減衰する.
高い高度では,炭化水素の混合比は典型的には太陽の日射量が最大である場合に最も大きくなり,夏から秋にかけての半球と,冬から春にかけての半球との間の,強い二分性をもたらす.
圧力がミリバール程度の領域およびそれよりも深い領域では,化学反応が遅いことと拡散の影響により,赤道に対してより対照的な緯度変化が生じる.
天王星においては,停滞しあまり混ざり合っていない成層圏では,メタンとその光化学生成物を化学反応と拡散の時間スケールが大きい高圧力領域に閉じ込める.従って天王星では,惑星の自転軸傾斜角が非常に大きいにも関わらず,炭化水素の季節変動は弱くなると考えられる.
輻射輸送シミュレーションを用いた結果,両方の惑星における炭化水素の緯度変動は,将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外スペクトル撮像によって観測可能であることが示された.
ここでの海王星の季節モデルの予測は,地上からの観測で空間分解された C2H2 と C2H6 の存在度とよく一致している (なお,天王星に関してはそのような観測は現在のところ存在しない),従って,今回のモデルには含まれていない成層圏での循環は,海王星の大局的な子午面炭化水素分布には僅かな影響しか及ぼさないことが示唆される.これは木星と土星での状況とは異なる.
arXiv:1803.10338
Moses et al. (2018)
Seasonal stratospheric photochemistry on Uranus and Neptune
(天王星と海王星における季節性の成層圏光化学)
概要
時間変動性の一次元光化学モデルを使用し,天王星と海王星における成層圏の炭化水素の分布を高度,緯度及び季節の関数として計算した.海王星での結果は,成層圏循環やその他の子午面輸送過程が存在しない場合は,炭化水素の存在度は高層大気で強い季節変動と子午的変動を示すが,これらの変動は,力学的及び化学的時間スケールが増加するため,大気の深い領域では減衰する.
高い高度では,炭化水素の混合比は典型的には太陽の日射量が最大である場合に最も大きくなり,夏から秋にかけての半球と,冬から春にかけての半球との間の,強い二分性をもたらす.
圧力がミリバール程度の領域およびそれよりも深い領域では,化学反応が遅いことと拡散の影響により,赤道に対してより対照的な緯度変化が生じる.
天王星においては,停滞しあまり混ざり合っていない成層圏では,メタンとその光化学生成物を化学反応と拡散の時間スケールが大きい高圧力領域に閉じ込める.従って天王星では,惑星の自転軸傾斜角が非常に大きいにも関わらず,炭化水素の季節変動は弱くなると考えられる.
輻射輸送シミュレーションを用いた結果,両方の惑星における炭化水素の緯度変動は,将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外スペクトル撮像によって観測可能であることが示された.
ここでの海王星の季節モデルの予測は,地上からの観測で空間分解された C2H2 と C2H6 の存在度とよく一致している (なお,天王星に関してはそのような観測は現在のところ存在しない),従って,今回のモデルには含まれていない成層圏での循環は,海王星の大局的な子午面炭化水素分布には僅かな影響しか及ぼさないことが示唆される.これは木星と土星での状況とは異なる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1803.09264
Huélamo et al. (2018)
Searching for Hα emitting sources around MWC758: SPHERE/ZIMPOL high-contrast imaging
(MWC758 まわりの Hα 放射源の探査:SPHERE/ZIMPOL 高コントラスト撮像)
最近,L’ バンドでの高分解能観測によって,この天体の周りに原始惑星候補天体が検出された.候補天体は中心星から 111 mas 程度の距離の,円盤内部の空洞の内側に位置しており,平均の位置角は ~ 165.5” である.
ここでは,可視光領域でのスペクトル角微分撮像を用いて,この天体の円盤内にある,質量を獲得している最中の原始惑星候補天体の検出を試みた.特に,検出されている惑星候補天体の位置での放射を探査した.
観測には,Very Large Telescope (VLT) に設置されている SPHERE/ZIMPOL を用い,Hα 線と,それに隣接する連続波成分の同時補償光学観測を行った.
観測データを解析したところ,観測対象周辺での Hα 線は検出されなかった.BHa フィルターを用いたコントラスト曲線から,111 mas での位置における放射の 5σ の上限値として,~ 7.6 mag という値を与えた.
このコントラストは,Hα 線の光度 \(L_{\rm H_{\alpha}}\) は 111 mas の位置で 5 × 10-5 太陽光度であることを意味している.
第一近似として,古典的Tタウリ星と同様に \(L_{\rm H_{\alpha}}\) は降着光度にスケールすると仮定すると,原始惑星候補天体の降着光度の推定値は 3.7 × 10-4 太陽光度未満となる.この値は,惑星候補天体 (MWC 758b) の推定質量 0.5 - 5 木星質量に対して,質量降着率が 3.4 × (10-8 - 10-9) 太陽質量/年未満であることを示唆している.これは,惑星の平均半径を 1.1 木星半径とした場合の推定値である.そのためこの推定は,周惑星円盤の内縁が木星半径とした場合の,降着する周惑星降着モデルの予測と整合的である.
ZIMPOL で得られた線光度は,これらのモデルで円盤の切り取り半径が 3.2 木星半径以下の場合に予測される Hα 放射の上限と整合的である.
ZIMPOL 画像の中にはいかなる Hα 放射源が検出されなかったため,L’ バンドで検出されていた放射源の性質を明らかにすることは出来ない.おそらくは,原始惑星もしくは円盤構造の非対称性のいずれかが原因だろうと考えられる.
この天体は,赤外線とサブミリ波で空間分解された遷移円盤を持つ (Chapillon et al. 2008,Isella et al. 2010,Andrews et al. 2011,Grady et al. 2013,Marino et al. 2015).
この観測では,空間分解されたいくつかの非軸対称構造を円盤中に検出している.この構造は中心星から 26 au の距離まで存在している (最新の Gaia による距離の測定値を採用すると ~ 14 au までに修正される).また,完全に物質が枯渇した空洞は検出されなかった.
さらに,過去に HiCIAO による撮像観測で Grady et al. (2013) によって報告されていた,2 つの渦状腕構造を確認されている.
モデル化を行った結果,内側の空洞にいる惑星は大きな opening angle を持つ渦状腕を生成する事ができないと結論付けられている.その一方で,外側に伴星がいるとするモデルは,観測されているこれらの円盤構造をよく説明する (Dong et al. 2015など).
より最近では,Boehler et al. (2017) によって ALMA を用いたサブミリ波観測が行われ,半径 40 au 程度の大きなダストの空洞の存在,ゆがんだ内側円盤の存在を示す兆候,および円盤の外側領域での 2 つのダスト塊の存在が報告されている.
興味深いことに,Reggiani et al. (2017) はサブミリ波での空洞の中に,点源の存在を報告している,これは中心星から ~ 111 mas の位置にあり,検出したのは L バンドでの観測であった.著者らが説明しているように,この放射は円盤内に埋め込まれた原始惑星によって引き起こされている可能性があるものの,円盤構造の非対称性に伴っている可能性も否定できない.仮に原始惑星が放射源だとした場合,観測と周惑星円盤降着モデル (Zhu 2015) とを比較すると,惑星質量が 0.5 - 5 木星質量,惑星への質量降着率が 10-7 - 10-9 太陽質量/年とすると観測結果を説明できる.
arXiv:1803.09264
Huélamo et al. (2018)
Searching for Hα emitting sources around MWC758: SPHERE/ZIMPOL high-contrast imaging
(MWC758 まわりの Hα 放射源の探査:SPHERE/ZIMPOL 高コントラスト撮像)
概要
MWC 758 は,周囲に遷移円盤 (transitional disk) を持った若い恒星である.この円盤は,内側に空洞があり,さらに原始惑星の存在によると思われる渦状腕を持っている.最近,L’ バンドでの高分解能観測によって,この天体の周りに原始惑星候補天体が検出された.候補天体は中心星から 111 mas 程度の距離の,円盤内部の空洞の内側に位置しており,平均の位置角は ~ 165.5” である.
ここでは,可視光領域でのスペクトル角微分撮像を用いて,この天体の円盤内にある,質量を獲得している最中の原始惑星候補天体の検出を試みた.特に,検出されている惑星候補天体の位置での放射を探査した.
観測には,Very Large Telescope (VLT) に設置されている SPHERE/ZIMPOL を用い,Hα 線と,それに隣接する連続波成分の同時補償光学観測を行った.
観測データを解析したところ,観測対象周辺での Hα 線は検出されなかった.BHa フィルターを用いたコントラスト曲線から,111 mas での位置における放射の 5σ の上限値として,~ 7.6 mag という値を与えた.
このコントラストは,Hα 線の光度 \(L_{\rm H_{\alpha}}\) は 111 mas の位置で 5 × 10-5 太陽光度であることを意味している.
第一近似として,古典的Tタウリ星と同様に \(L_{\rm H_{\alpha}}\) は降着光度にスケールすると仮定すると,原始惑星候補天体の降着光度の推定値は 3.7 × 10-4 太陽光度未満となる.この値は,惑星候補天体 (MWC 758b) の推定質量 0.5 - 5 木星質量に対して,質量降着率が 3.4 × (10-8 - 10-9) 太陽質量/年未満であることを示唆している.これは,惑星の平均半径を 1.1 木星半径とした場合の推定値である.そのためこの推定は,周惑星円盤の内縁が木星半径とした場合の,降着する周惑星降着モデルの予測と整合的である.
ZIMPOL で得られた線光度は,これらのモデルで円盤の切り取り半径が 3.2 木星半径以下の場合に予測される Hα 放射の上限と整合的である.
ZIMPOL 画像の中にはいかなる Hα 放射源が検出されなかったため,L’ バンドで検出されていた放射源の性質を明らかにすることは出来ない.おそらくは,原始惑星もしくは円盤構造の非対称性のいずれかが原因だろうと考えられる.
MWC 758 について
MWC 758 の概要
MWC 758 (別名:HD 36112,HIP25793) は,推定年齢が 300万 ± 200 万歳 (Meeus et al. 2012) の,Herbig Ae star (ハービッグ Ae 星) である.ヒッパルコスの観測による推定距離は 279 pc だが (van Leeuwen 2007),最新の Gaia によるデータでは 151 pc (Gaia Collaboration et al. 2010) と推定されている.この天体は,赤外線とサブミリ波で空間分解された遷移円盤を持つ (Chapillon et al. 2008,Isella et al. 2010,Andrews et al. 2011,Grady et al. 2013,Marino et al. 2015).
MWC 758 まわりの遷移円盤
Benisty et al. (2015) では,SPHERE/IRDIS 赤外偏光観測が Y バンド (1.04 µm) で行われた.この観測では,空間分解されたいくつかの非軸対称構造を円盤中に検出している.この構造は中心星から 26 au の距離まで存在している (最新の Gaia による距離の測定値を採用すると ~ 14 au までに修正される).また,完全に物質が枯渇した空洞は検出されなかった.
さらに,過去に HiCIAO による撮像観測で Grady et al. (2013) によって報告されていた,2 つの渦状腕構造を確認されている.
モデル化を行った結果,内側の空洞にいる惑星は大きな opening angle を持つ渦状腕を生成する事ができないと結論付けられている.その一方で,外側に伴星がいるとするモデルは,観測されているこれらの円盤構造をよく説明する (Dong et al. 2015など).
より最近では,Boehler et al. (2017) によって ALMA を用いたサブミリ波観測が行われ,半径 40 au 程度の大きなダストの空洞の存在,ゆがんだ内側円盤の存在を示す兆候,および円盤の外側領域での 2 つのダスト塊の存在が報告されている.
円盤詳細構造の形成原因
この円盤構造全体を説明するための仮説として,2 つの巨大惑星の存在が提案されている,1 つは円盤内側の空洞を形成するための内側領域に存在する惑星,もう 1 つは渦状腕を説明するための外側惑星である.興味深いことに,Reggiani et al. (2017) はサブミリ波での空洞の中に,点源の存在を報告している,これは中心星から ~ 111 mas の位置にあり,検出したのは L バンドでの観測であった.著者らが説明しているように,この放射は円盤内に埋め込まれた原始惑星によって引き起こされている可能性があるものの,円盤構造の非対称性に伴っている可能性も否定できない.仮に原始惑星が放射源だとした場合,観測と周惑星円盤降着モデル (Zhu 2015) とを比較すると,惑星質量が 0.5 - 5 木星質量,惑星への質量降着率が 10-7 - 10-9 太陽質量/年とすると観測結果を説明できる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1803.09864
McNeill et al. (2018)
Constraints on the Density and Internal Strength of 1I/'Oumuamua
(オウムアムアの密度と内部強度への制約)
この天体が発見されて以降,測光観測と分光観測による調査が行われている.
測定された光度曲線の変化の振幅と,それを元に推定された自転周期から,オウムアムアの密度の推定を行った.形状が三軸楕円体だと仮定すると,平均密度が 1500 - 2800 kg m-3 とすると観測と一致し,天体の形状を保つための大きな凝縮力は必要ではない.
また,位相角効果を考慮し,天体表面の特性による光度曲線への影響も考慮した上で,天体のアスペクト比は (6 ± 1):1 が最も可能性が高いと判断した.この細長い形状は依然として異例な値ではあるものの,これまでになされた他の推定よりは小さい.
arXiv:1803.09864
McNeill et al. (2018)
Constraints on the Density and Internal Strength of 1I/'Oumuamua
(オウムアムアの密度と内部強度への制約)
概要
2017 年 10 月 19 日に,Panoramic Survey Telescope and RapidResponse System (Pan-STARRS 1) によって 1I/'Oumuamua (オウムアムア) が発見された.この天体は過去に発見された全ての小天体とは異なり,軌道離心率が 1.0 を大きく超える値を持っていることが判明しており,この天体が太陽系外の星間空間に起源を持つことを示唆している.この天体が発見されて以降,測光観測と分光観測による調査が行われている.
測定された光度曲線の変化の振幅と,それを元に推定された自転周期から,オウムアムアの密度の推定を行った.形状が三軸楕円体だと仮定すると,平均密度が 1500 - 2800 kg m-3 とすると観測と一致し,天体の形状を保つための大きな凝縮力は必要ではない.
また,位相角効果を考慮し,天体表面の特性による光度曲線への影響も考慮した上で,天体のアスペクト比は (6 ± 1):1 が最も可能性が高いと判断した.この細長い形状は依然として異例な値ではあるものの,これまでになされた他の推定よりは小さい.
天文・宇宙物理関連メモ vol.696 Boehler et al. (2017) ALMA による若い円盤 MWC 758 の複雑な形状