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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1801.00732
Boyajian et al. (2018)
The First Post-Kepler Brightness Dips of KIC 8462852
(KIC 8462852 のケプラー後の初の光度減少)
減光のシークエンスは 2017 年 5 月に始まり,この星が地球から見えなくなる 2017 年の終わりまで継続した.このシークエンス中で,1 - 2.5%の輝度減少を示す 4 つの減光イベントを同定した.このイベントのニックネームはそれぞれ Elsie, Celeste, Skara Brae, Anglor である.それぞれ,タイムスケールは数日から数週間であった.
現在までの解析結果は,
(i) 減光を起こしている間の恒星スペクトルや偏光には目立った変化はない
(ii) 減光の多バンド測光からは波長により異なる reddening (赤化) が見られたため,減光は非灰色 (波長依存性がある) である
というものである.
従ってこれらの結果からは,光学的に厚い物質による減光であるとするモデルとは非整合であることが示される (光学的に厚い物質が減光を起こしている場合は,減光の波長依存性が見られないため).
むしろ,掩蔽している物質の大部分は光学的に薄く,サイズスケールが 1 µm より小さい通常のダストを主成分とする掩蔽体であると考えるモデルと一致するものであった.またその他には,恒星の光球に固有の変動が起きているとするモデルと一致する可能性もある.
今回のデータでは,より長周期の “secular” 減光 (永年減光) の波長依存性への制限を与えることはできなかった.この長周期の変光は,短周期の変光とは独立したプロセスによって引き起こされているか,あるいは単一のプロセスの異なるレジームを観測している可能性がある.
ケプラーによる観測では,4 年間のうちに dip の周期性はほとんど見られなかった (ただし Kiefer et al. 2017 も参照).また,dip のデューティーサイクル (ある期間のうちにその現象が占める期間の割合) は低く,ケプラーで観測された 4 年間のうち 5%未満であった.
特徴的なスペクトル線も,軌道を周回する天体によるドップラーシフトも,赤外線超過のような若い年齢を示唆する証拠も得られていない (Lisse et al. 2015; Marengo et al. 2015; Boyajian et al. 2016;Thompson et al. 2016).
なお Hippke et al. (2016) での主張は,複数の技術的誤りを含むとして後に否定された.
より最近では,Meng et al. (2017) によって,宇宙空間と地上観測の両方で,Swift,スピッツァー宇宙望遠鏡,AstroLAB IRIS による測光観測から,KIC 8462852 の光度変動は現在も続いていることが分かっている.
従ってこの天体は,1日から一週間,十年,十年,一世紀といった様々なタイムスケールで,複雑な dip 状の変動を示す天体であることが分かっている.
例えば,Katz (2017) は恒星の周囲に存在するリングが原因であるという説を提唱している.
その他には恒星間の “彗星” による減光だとするもの (Makarov & Goldin 2016),恒星周りの巨大な系外彗星のトランジットだとするもの (Boyajian et al. 2016, Bodman & Quillen 2016),より重く少数の天体に伴ったダスト雲のトランジット (Neslušan & Budaj 2017),トロヤ群天体の群れを伴ったリングを持つ惑星のトランジット (Ballesteros et al. 2017) が提案されている.
また,dip の統計的な性質は恒星起源とする説や (Sheikh et al. 2016),二体目の天体の comsumption (惑星の飲み込みによる急激な増光とその後のゆっくりとした減少,また破片などによる dip) によるとするもの (Metzger et al. 2017),恒星の内因性の変動が磁気対流に関連している可能性を指摘する研究もある (Fouokal 2017).
KIC 8462852 は,原因不明の奇妙な減光が度々観測されていた恒星です.既存のどのモデルでもうまく説明が出来ず,『地球外知的生命による巨大構造物の兆候か!?』という憶測まで飛び出していた程です.
今回の観測では,減光の大きさには波長依存性があることが分かり,減光を起こしている原因は恒星の周囲に存在する光学的に薄いダストである可能性が示唆されました.
仮に地球外文明による巨大構造物の場合は光学的に厚い物質として振る舞うと考えられるため,減光の波長依存性がほとんど存在しないことが期待されます.しかし今回の結果では恒星を掩蔽しているのは光学的に薄い物質であるとされたため,地球外文明の構造物であるとする憶測は否定されることになりました.
arXiv:1801.00732
Boyajian et al. (2018)
The First Post-Kepler Brightness Dips of KIC 8462852
(KIC 8462852 のケプラー後の初の光度減少)
概要
独特な変光星 KIC 8462852 の,ケプラーミッションが 2013 年 5 月に終了して以降で初めての輝度の減少を測光観測で検出した.KIC 8462852 の変光を捉えるための測光サーベイは,2015 年 10 月に開始した,減光のシークエンスは 2017 年 5 月に始まり,この星が地球から見えなくなる 2017 年の終わりまで継続した.このシークエンス中で,1 - 2.5%の輝度減少を示す 4 つの減光イベントを同定した.このイベントのニックネームはそれぞれ Elsie, Celeste, Skara Brae, Anglor である.それぞれ,タイムスケールは数日から数週間であった.
現在までの解析結果は,
(i) 減光を起こしている間の恒星スペクトルや偏光には目立った変化はない
(ii) 減光の多バンド測光からは波長により異なる reddening (赤化) が見られたため,減光は非灰色 (波長依存性がある) である
というものである.
従ってこれらの結果からは,光学的に厚い物質による減光であるとするモデルとは非整合であることが示される (光学的に厚い物質が減光を起こしている場合は,減光の波長依存性が見られないため).
むしろ,掩蔽している物質の大部分は光学的に薄く,サイズスケールが 1 µm より小さい通常のダストを主成分とする掩蔽体であると考えるモデルと一致するものであった.またその他には,恒星の光球に固有の変動が起きているとするモデルと一致する可能性もある.
今回のデータでは,より長周期の “secular” 減光 (永年減光) の波長依存性への制限を与えることはできなかった.この長周期の変光は,短周期の変光とは独立したプロセスによって引き起こされているか,あるいは単一のプロセスの異なるレジームを観測している可能性がある.
KIC 8462852 の奇妙な減光
ケプラーによる dip の検出
KIC 8462852 の奇妙な減光は,市民科学プロジェクト Planet Hunters によって初めて報告された (Boyajian et al. 2016).ケプラーによる観測では,4 年間のうちに dip の周期性はほとんど見られなかった (ただし Kiefer et al. 2017 も参照).また,dip のデューティーサイクル (ある期間のうちにその現象が占める期間の割合) は低く,ケプラーで観測された 4 年間のうち 5%未満であった.
地上からのフォローアップ観測
地上からのフォローアップ観測では,この天体が通常の主系列段階にある F3 型星であること以外は何も分かっていない.特徴的なスペクトル線も,軌道を周回する天体によるドップラーシフトも,赤外線超過のような若い年齢を示唆する証拠も得られていない (Lisse et al. 2015; Marengo et al. 2015; Boyajian et al. 2016;Thompson et al. 2016).
永年減光の検出
ケプラーで観測された短周期の光度変動 (dip) に加え,Schaefer (2016) は 1890 - 1989 年のアーカイブデータから,100 年に平均で 0.164 ± 0.013 等の永年減光を起こしていることを発見した.Schaefer (2016) の報告は Hippke et al. (2016) により疑義も呈されたが,ケプラーの全体のデータ解析から,2009 - 2013 年の 4 年間で 3%の減光が起きていることが後に確認された (Montet & Simon 2016).なお Hippke et al. (2016) での主張は,複数の技術的誤りを含むとして後に否定された.
より最近では,Meng et al. (2017) によって,宇宙空間と地上観測の両方で,Swift,スピッツァー宇宙望遠鏡,AstroLAB IRIS による測光観測から,KIC 8462852 の光度変動は現在も続いていることが分かっている.
従ってこの天体は,1日から一週間,十年,十年,一世紀といった様々なタイムスケールで,複雑な dip 状の変動を示す天体であることが分かっている.
減光を説明するモデル
この天体の奇妙な光度変化を説明するためのモデルが複数提唱されている.例えば,Katz (2017) は恒星の周囲に存在するリングが原因であるという説を提唱している.
その他には恒星間の “彗星” による減光だとするもの (Makarov & Goldin 2016),恒星周りの巨大な系外彗星のトランジットだとするもの (Boyajian et al. 2016, Bodman & Quillen 2016),より重く少数の天体に伴ったダスト雲のトランジット (Neslušan & Budaj 2017),トロヤ群天体の群れを伴ったリングを持つ惑星のトランジット (Ballesteros et al. 2017) が提案されている.
また,dip の統計的な性質は恒星起源とする説や (Sheikh et al. 2016),二体目の天体の comsumption (惑星の飲み込みによる急激な増光とその後のゆっくりとした減少,また破片などによる dip) によるとするもの (Metzger et al. 2017),恒星の内因性の変動が磁気対流に関連している可能性を指摘する研究もある (Fouokal 2017).
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.156 Bodman & Quillen (2015) KIC 8462852の彗星の群によるトランジット
天文・宇宙物理関連メモ vol.475 Ballesteros et al. (2017) KIC 8462852 の奇妙な減光はトロヤ群天体によるとする可能性について
天文・宇宙物理関連メモ vol.156 Bodman & Quillen (2015) KIC 8462852の彗星の群によるトランジット
天文・宇宙物理関連メモ vol.475 Ballesteros et al. (2017) KIC 8462852 の奇妙な減光はトロヤ群天体によるとする可能性について
KIC 8462852 は,原因不明の奇妙な減光が度々観測されていた恒星です.既存のどのモデルでもうまく説明が出来ず,『地球外知的生命による巨大構造物の兆候か!?』という憶測まで飛び出していた程です.
今回の観測では,減光の大きさには波長依存性があることが分かり,減光を起こしている原因は恒星の周囲に存在する光学的に薄いダストである可能性が示唆されました.
仮に地球外文明による巨大構造物の場合は光学的に厚い物質として振る舞うと考えられるため,減光の波長依存性がほとんど存在しないことが期待されます.しかし今回の結果では恒星を掩蔽しているのは光学的に薄い物質であるとされたため,地球外文明の構造物であるとする憶測は否定されることになりました.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1801.00412
Lothringer et al. (2018)
An HST/STIS Optical Transmission Spectrum of Warm Neptune GJ 436b
(ウォームネプチューン GJ 436b のハッブル宇宙望遠鏡/STIS 可視光透過スペクトル)
ここでは,この惑星の初めての宇宙空間からの可視光透過スペクトルについて報告する.
観測はハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて行い,観測波長は 0.53 - 1.03 µm である.
その結果,スペクトル中にアルカリ金属による吸収特徴の兆候は見られなかった.また 0.53 µm より長波長での散乱スロープの兆候も見られなかった.
スペクトルからは,中間的あるいは高い大気の金属量が示唆され,太陽金属量の ~ 100 - 1000 倍と推定される,ただし,中間的な金属量である場合 (太陽金属量の ~ 100 倍) は,スペクトルを説明するためには大気中のエアロゾルによる不透明度が必要である.
また,可視光のスペクトルは,大きく散乱を起こすヘイズが存在するというモデルを棄却する.
波長 0.8 µm 周辺でのトランジット深さの増加は,今回の観測結果をあわせて 3 つの sub-Jovian (木星より軽い) 系外惑星で発見されたことになる (GJ 436b,HAT-P-26b,GJ 1214b).これらのデータのほとんどはハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて取得されているものだが,STIS 以外の異なる 3 つの装置からも同様の結果が得られており,これは機器の影響ではないことを示唆している.
これらのうち,GJ 1214b のトランジットスペクトルだけが,主星の光球面にプラージュが存在するとするモデルと合致する.
中心星の測光モニタリングからは,GJ 436 の自転周期は 44.1 日で,活動サイクルは 7.4 年と推定された.
興味深いことに,GJ 436 は明るさが暗くなるにつれてより赤っぽい色を示さないという特徴を持つ.もし恒星の明るさの変動の大部分が黒点による影響である場合は,暗くなっている時期はスペクトルが赤っぽくなることが期待される.
この効果は小型の惑星にとっては重大な問題である.大気のスケールハイトが小さいことと,惑星と恒星の半径比が小さいことから,トランジット深さの波長による本質的な変動は,もしエアロゾルが大気に存在しない場合であったとしても小さいものになってしまい,系統誤差と同程度のオーダーとなる.
いくつかの系外惑星の研究では,雲は灰色 (波長依存性のない) の不透明度として定義され,ヘイズはスペクトルにスロープを生じさせる散乱不透明度として寄与するものと定義されている.しかしここでは雲とヘイズを,惑星のスペクトルへの影響に基づいてではなく,その形成過程と物理特性に基づいて定義する.すなわち,雲は凝集したエアロゾル,ヘイズは光化学過程で形成されたエアロゾルであると定義する.
低質量の惑星が高い金属量を持つことは,コア降着過程を介した低質量惑星形成の自然な帰結である (Fortney et al. 2013など).高金属量大気とエアロゾル豊富な大気を見分けるのは難しく,高いシグナルノイズ比が必要だが,Benneke & Seager (2013) はスペクトル線のウィングの傾きの大きさの測定と,異なるスペクトルの特徴の相対的な吸収深さから,これらの大気組成の区別を行うための手法を提案している.
また,高金属量大気とエアロゾル豊富な大気は,スペクトルの短波長と長波長両方において違いが生じ始めるため,それによって縮退を破ることが出来る可能性がある.
大気中のエアロゾル粒子による透過光の散乱がある場合,短波長側でトランジット深さが深くなる.
一方で雲無し大気の場合,0.5 µm 周辺でトランジット深さが最小になる.0.5 µm より短波長側ではレイリー散乱が主要になり,また 0.9 µm より長波長側では大気中の分子の不透明度が主要になる,
また,大きなエアロゾル粒子がある大気の場合は,可視光の波長では平坦な透過スペクトルとなる.加えて,ナトリウムとカリウム原子による吸収が系外惑星大気には見られる.これらの特徴付けから,赤外線スペクトルで探査できる範囲よりも低い圧力での大気の情報を得ることが出来る.
可視光でのナトリウムとカリウムの特徴が欠如している場合,これらの元素が雲として凝集している可能性が示唆される.例えば KCl や Na2S などである (Morley et al. 2013).
黒点など恒星表面の影響については,中心星の測光モニタリングから,黒点やプラージュのフィリングファクターを調べることが出来る.またこの観測からは,恒星の活動サイクルを知ることも出来る.
この惑星は視線速度法によって発見された (Butler et al. 2004).海王星質量の系外惑星としては初めて発見された惑星である,
その後,この惑星のトランジットが検出された (Gillon et al. 2007).
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で観測されたトランジット分光観測からは,この惑星の透過スペクトルは特徴に欠けていることが分かった.そのため,雲無しで水素主体の大気を持つ可能性は棄却された (Knutson et al. 2014).
さらにスピッツァー宇宙望遠鏡での観測では,大気からの CH4 (メタン) の検出が主張され,同時に CO (一酸化炭素) と CO2 (二酸化炭素) の特徴は見られないことが報告された (Beaulier et al. 2011).しかしこれは Knutson et al. (2011) によって反論されている.恒星の活動が,波長だけではなく時間とともにスペクトルを変化させると仮定している.新しい手法でデータ解析をした結果,透過スペクトルは波長によらず一定であり,トランジット時期によらず変化しないことが発見された (Lanotte et al. 2014, Morello et al. 2015).
惑星の平衡温度は 700 - 800 K であるため,化学平衡状態であれば,炭素含有種はメタンが最も多いことが示唆される.しかし Stevenson et al. (2010) では,メタンではなく一酸化炭素が多いことが示唆された.後の研究でも,この惑星は一酸化炭素と二酸化炭素が多く,メタンが少ない事が支持されている (Madhusudhan & Seager 2011など).
予想に反してメタンが少なく,逆に一酸化炭素が多いという食い違いは,大気中の鉛直方向の混合と,惑星内部での潮汐加熱のような不平衡過程によって説明できる可能性がある.
なお,光化学過程ではメタンの欠乏を説明できないと考えられる (Line et al. 2011).これは,推定されるメタンの破壊率は,観測を説明するには小さすぎるためである.
もし金属量が太陽の 1000 倍のオーダーであれば,雲無し大気であっても依然として観測を説明可能である.しかし低金属量の場合は,観測と一致するような特徴に欠けたスペクトルを説明するためには,雲が必要である.
また,潮汐などの内部加熱を伴う不平衡過程によるメタンの欠乏が観測データと合うことも指摘されている.これは,海王星惑星サイズにおける一酸化炭素の増加とメタンの欠乏が,高い金属量を持つ大気の自然な帰結であるという過去のモデルと整合する (Moses et al. 2013).
arXiv:1801.00412
Lothringer et al. (2018)
An HST/STIS Optical Transmission Spectrum of Warm Neptune GJ 436b
(ウォームネプチューン GJ 436b のハッブル宇宙望遠鏡/STIS 可視光透過スペクトル)
概要
GJ 436b は,warm Neptune (ウォームネプチューン) のタイプの惑星大気を理解するための主要なターゲットであり,打ち上げが予定されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) の Guaranteed Time Observation (GTO) プログラムの観測ターゲットでもある.このプログラムでは,0.7 - 11 µm の波長で,惑星の二次食を複数回観測する予定である.ここでは,この惑星の初めての宇宙空間からの可視光透過スペクトルについて報告する.
観測はハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて行い,観測波長は 0.53 - 1.03 µm である.
その結果,スペクトル中にアルカリ金属による吸収特徴の兆候は見られなかった.また 0.53 µm より長波長での散乱スロープの兆候も見られなかった.
スペクトルからは,中間的あるいは高い大気の金属量が示唆され,太陽金属量の ~ 100 - 1000 倍と推定される,ただし,中間的な金属量である場合 (太陽金属量の ~ 100 倍) は,スペクトルを説明するためには大気中のエアロゾルによる不透明度が必要である.
また,可視光のスペクトルは,大きく散乱を起こすヘイズが存在するというモデルを棄却する.
波長 0.8 µm 周辺でのトランジット深さの増加は,今回の観測結果をあわせて 3 つの sub-Jovian (木星より軽い) 系外惑星で発見されたことになる (GJ 436b,HAT-P-26b,GJ 1214b).これらのデータのほとんどはハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて取得されているものだが,STIS 以外の異なる 3 つの装置からも同様の結果が得られており,これは機器の影響ではないことを示唆している.
これらのうち,GJ 1214b のトランジットスペクトルだけが,主星の光球面にプラージュが存在するとするモデルと合致する.
中心星の測光モニタリングからは,GJ 436 の自転周期は 44.1 日で,活動サイクルは 7.4 年と推定された.
興味深いことに,GJ 436 は明るさが暗くなるにつれてより赤っぽい色を示さないという特徴を持つ.もし恒星の明るさの変動の大部分が黒点による影響である場合は,暗くなっている時期はスペクトルが赤っぽくなることが期待される.
背景
惑星大気中の雲とヘイズ
系外惑星の大気中では,凝縮物による雲や,光化学反応によるヘイズ (炭化水素など) といったエアロゾルが生成される.このエアロゾルは,大気のスペクトルの特徴を減少させてしまう効果を持つ.この効果は小型の惑星にとっては重大な問題である.大気のスケールハイトが小さいことと,惑星と恒星の半径比が小さいことから,トランジット深さの波長による本質的な変動は,もしエアロゾルが大気に存在しない場合であったとしても小さいものになってしまい,系統誤差と同程度のオーダーとなる.
いくつかの系外惑星の研究では,雲は灰色 (波長依存性のない) の不透明度として定義され,ヘイズはスペクトルにスロープを生じさせる散乱不透明度として寄与するものと定義されている.しかしここでは雲とヘイズを,惑星のスペクトルへの影響に基づいてではなく,その形成過程と物理特性に基づいて定義する.すなわち,雲は凝集したエアロゾル,ヘイズは光化学過程で形成されたエアロゾルであると定義する.
高分子量大気 vs 雲・ヘイズ
高金属量の大気は,惑星のスペクトルに対してエアロゾルと同様の効果をもたらす.大気の金属量が高い場合は大気の平均分子量が大きくなるため,大気のスケールハイトを小さくする.スケールハイトが小さい場合は大気の透過スペクトルのシグナルも小さくなり,そのためスペクトルの特徴を減少させる.低質量の惑星が高い金属量を持つことは,コア降着過程を介した低質量惑星形成の自然な帰結である (Fortney et al. 2013など).高金属量大気とエアロゾル豊富な大気を見分けるのは難しく,高いシグナルノイズ比が必要だが,Benneke & Seager (2013) はスペクトル線のウィングの傾きの大きさの測定と,異なるスペクトルの特徴の相対的な吸収深さから,これらの大気組成の区別を行うための手法を提案している.
また,高金属量大気とエアロゾル豊富な大気は,スペクトルの短波長と長波長両方において違いが生じ始めるため,それによって縮退を破ることが出来る可能性がある.
大気中のエアロゾル粒子による透過光の散乱がある場合,短波長側でトランジット深さが深くなる.
一方で雲無し大気の場合,0.5 µm 周辺でトランジット深さが最小になる.0.5 µm より短波長側ではレイリー散乱が主要になり,また 0.9 µm より長波長側では大気中の分子の不透明度が主要になる,
また,大きなエアロゾル粒子がある大気の場合は,可視光の波長では平坦な透過スペクトルとなる.加えて,ナトリウムとカリウム原子による吸収が系外惑星大気には見られる.これらの特徴付けから,赤外線スペクトルで探査できる範囲よりも低い圧力での大気の情報を得ることが出来る.
可視光でのナトリウムとカリウムの特徴が欠如している場合,これらの元素が雲として凝集している可能性が示唆される.例えば KCl や Na2S などである (Morley et al. 2013).
恒星活動の影響
その他,中心星の光球面にある黒点が可視光の透過スペクトルにスロープを形成する事があるため,可視光の透過スペクトルのスロープを解釈する際には注意が必要である.黒点など恒星表面の影響については,中心星の測光モニタリングから,黒点やプラージュのフィリングファクターを調べることが出来る.またこの観測からは,恒星の活動サイクルを知ることも出来る.
GJ 436b
GJ 436b の発見
GJ 436b は,21.4 地球質量 (1.25 海王星質量,0.0673 木星質量),4.2 地球半径 (1.1 海王星半径,0.37 木星半径) のウォームネプチューンである (Trifonov et al. 2017など).この惑星は視線速度法によって発見された (Butler et al. 2004).海王星質量の系外惑星としては初めて発見された惑星である,
その後,この惑星のトランジットが検出された (Gillon et al. 2007).
GJ 436b のトランジット分光観測
トランジット時のスペクトルは,ハッブル宇宙望遠鏡の NICMOS を用いて初めて取得された (Pont et al. 2009).この観測からは,1.4 µm での水の吸収に対して上限値を与えた.ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で観測されたトランジット分光観測からは,この惑星の透過スペクトルは特徴に欠けていることが分かった.そのため,雲無しで水素主体の大気を持つ可能性は棄却された (Knutson et al. 2014).
さらにスピッツァー宇宙望遠鏡での観測では,大気からの CH4 (メタン) の検出が主張され,同時に CO (一酸化炭素) と CO2 (二酸化炭素) の特徴は見られないことが報告された (Beaulier et al. 2011).しかしこれは Knutson et al. (2011) によって反論されている.恒星の活動が,波長だけではなく時間とともにスペクトルを変化させると仮定している.新しい手法でデータ解析をした結果,透過スペクトルは波長によらず一定であり,トランジット時期によらず変化しないことが発見された (Lanotte et al. 2014, Morello et al. 2015).
GJ 436b の二次食観測
GJ 436b の昼側のスペクトルは,スピッツァー宇宙望遠鏡での二次食の観測から得られている.惑星の平衡温度は 700 - 800 K であるため,化学平衡状態であれば,炭素含有種はメタンが最も多いことが示唆される.しかし Stevenson et al. (2010) では,メタンではなく一酸化炭素が多いことが示唆された.後の研究でも,この惑星は一酸化炭素と二酸化炭素が多く,メタンが少ない事が支持されている (Madhusudhan & Seager 2011など).
予想に反してメタンが少なく,逆に一酸化炭素が多いという食い違いは,大気中の鉛直方向の混合と,惑星内部での潮汐加熱のような不平衡過程によって説明できる可能性がある.
なお,光化学過程ではメタンの欠乏を説明できないと考えられる (Line et al. 2011).これは,推定されるメタンの破壊率は,観測を説明するには小さすぎるためである.
金属量の推定とメタンの欠乏
より最近の解析では,大気の金属量に対して 3 σ の下限値として太陽の 106 倍という推定値が得られている (Morley et al. 2017).もし金属量が太陽の 1000 倍のオーダーであれば,雲無し大気であっても依然として観測を説明可能である.しかし低金属量の場合は,観測と一致するような特徴に欠けたスペクトルを説明するためには,雲が必要である.
また,潮汐などの内部加熱を伴う不平衡過程によるメタンの欠乏が観測データと合うことも指摘されている.これは,海王星惑星サイズにおける一酸化炭素の増加とメタンの欠乏が,高い金属量を持つ大気の自然な帰結であるという過去のモデルと整合する (Moses et al. 2013).
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1712.10027
Rugheimer & Kaltenegger (2018)
Spectra of Earth-like Planets Through Geological Evolution Around FGKM Stars
(FGKM 星まわりの地質学的進化を通した地球類似惑星のスペクトル)
ここでは,地球類似惑星の大気の進化経路について,地質学的データに基づいて,生命誕生以前から現在の大気までのシミュレーションを行った.中心星のスペクトル型は F0V から M8V まで (有効温度 7000 - 2400 K) を考慮し,惑星の地質年代は 4 つに分割した,前生物的時代 (39 億年前),20 億年前の酸素が台頭した時期,8 億年前,そして現在の地球である.
これらの状態の,可視光から赤外線までのスペクトルの特徴をシミュレーションした.特に,生命の痕跡 (biosignature) にフォーカスした.また,スペクトルにおける雲の効果も考慮した.
その結果,惑星の雲の被覆率の増加と,惑星の年齢の増加に伴い,生命の痕跡となるような気体の観測可能性は減少することが分かった.
可視光における酸素分子の特徴の観測可能性は,酸素濃度が低い場合は部分的に雲の存在に依存する.しかし特徴を僅かに減少させると惑星全体の反射率が増加するため,惑星からの検出可能なフラックスが増加する.
また,赤外線でのオゾンの特徴の大きさは,特に F 型星まわりの近紫外線が強い環境では.低い酸素濃度での大気の不透明度に実質的に寄与する.
arXiv:1712.10027
Rugheimer & Kaltenegger (2018)
Spectra of Earth-like Planets Through Geological Evolution Around FGKM Stars
(FGKM 星まわりの地質学的進化を通した地球類似惑星のスペクトル)
概要
将来的な地球型惑星大気の観測では,地質学的な進化の異なる段階にある惑星を観測する可能性がある.異なる進化の経路を辿った,様々な種類の大気と惑星が観測されることが期待され,そのうち幾つかは異なる時期の地球に似ている可能性もある.ここでは,地球類似惑星の大気の進化経路について,地質学的データに基づいて,生命誕生以前から現在の大気までのシミュレーションを行った.中心星のスペクトル型は F0V から M8V まで (有効温度 7000 - 2400 K) を考慮し,惑星の地質年代は 4 つに分割した,前生物的時代 (39 億年前),20 億年前の酸素が台頭した時期,8 億年前,そして現在の地球である.
これらの状態の,可視光から赤外線までのスペクトルの特徴をシミュレーションした.特に,生命の痕跡 (biosignature) にフォーカスした.また,スペクトルにおける雲の効果も考慮した.
その結果,惑星の雲の被覆率の増加と,惑星の年齢の増加に伴い,生命の痕跡となるような気体の観測可能性は減少することが分かった.
可視光における酸素分子の特徴の観測可能性は,酸素濃度が低い場合は部分的に雲の存在に依存する.しかし特徴を僅かに減少させると惑星全体の反射率が増加するため,惑星からの検出可能なフラックスが増加する.
また,赤外線でのオゾンの特徴の大きさは,特に F 型星まわりの近紫外線が強い環境では.低い酸素濃度での大気の不透明度に実質的に寄与する.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1712.08845
Boehler et al. (2017)
The complex morphology of the young disk MWC 758: Spirals and dust clumps around a large cavity
(若い円盤 MWC 758 の複雑な形態:渦状腕と大きな空洞まわりのダストクランプ)
ダスト連続放射は,半径 40 au 程度の大きな空洞によって特徴づけられ,またその内側には歪んだ軽い円盤が存在する可能性がある.
外側の円盤は半径 42 au と 82 au の位置に明るい放射クランプを示し,それらは方位角方向に広がって二重のリング構造を形成している.輻射輸送モデルと観測結果の比較からは,これら 2 つの放射の極大はダストの面密度のの局所的な増大に対応していることが示唆され,南側のクランプでは 2.5 倍,北側では 6.5 倍と推定される.
温度をトレースすることが出来る 13CO の光学的に厚いピーク放射と,円盤の中心平面を探査できるダストの連続放射は,過去に近赤外線での観測で円盤表面に検出されていた 2 つのスパイラル構造が存在することを示す.
しかし,ダスト連続放射で見られるスパイラル構造は,より大きな半径方向へ数 au シフトしており,スパイラル構造の 1 つは南側のダストクランプを横切る形をしている.
arXiv:1712.08845
Boehler et al. (2017)
The complex morphology of the young disk MWC 758: Spirals and dust clumps around a large cavity
(若い円盤 MWC 758 の複雑な形態:渦状腕と大きな空洞まわりのダストクランプ)
概要
ALMA を用いて,若い Herbig Ae star (ハービッグ Ae 星) MWC 758 まわりの円盤を角度分解能 0.1” - 0.2” で観測した.取得したデータは,波長 0.88 ミリのダスト連続放射と,13CO,C18O の J=3-2 放射のラインの画像からなる.ダスト連続放射は,半径 40 au 程度の大きな空洞によって特徴づけられ,またその内側には歪んだ軽い円盤が存在する可能性がある.
外側の円盤は半径 42 au と 82 au の位置に明るい放射クランプを示し,それらは方位角方向に広がって二重のリング構造を形成している.輻射輸送モデルと観測結果の比較からは,これら 2 つの放射の極大はダストの面密度のの局所的な増大に対応していることが示唆され,南側のクランプでは 2.5 倍,北側では 6.5 倍と推定される.
温度をトレースすることが出来る 13CO の光学的に厚いピーク放射と,円盤の中心平面を探査できるダストの連続放射は,過去に近赤外線での観測で円盤表面に検出されていた 2 つのスパイラル構造が存在することを示す.
しかし,ダスト連続放射で見られるスパイラル構造は,より大きな半径方向へ数 au シフトしており,スパイラル構造の 1 つは南側のダストクランプを横切る形をしている.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1712.08059
Zhang et al. (2017)
Prospects for Backtracing 1I/`Oumuamua and Future Interstellar Objects
(オウムアムアと今後の恒星間天体の過去をたどる見通し)
ここでは,軌道解析を通じて ISO の母天体を追跡するために必要な検討事項について議論し,それを行うためのおおよその限界を定める.
結果として,太陽直近の近傍を超えて ISO を逆追跡できるかどうかは,現在は恒星のアストロメトリ観測の精度によって制約されている.これは,今後の Gaia のデータ公開によって大きく改善が見込まれる.
しかし,オウムアムアやその他の ISO をそれぞれの母天体と関連付けられるかどうかは,恒星とのランダムな相互作用による重力的な散乱の影響によって,追跡可能性が過去の数千万年程度に制限されてしまう.そのため個別の天体の過去を追うことは一般に難しいと予想される.
しかしこの結果は,特に若い ISOs の発見に有利である観測バイアスの可能性を考慮することと,今後のサーベイ観測によって ISO の発見率が増加することにより,場合によっては母天体を特定できる可能性を否定するものではない.
arXiv:1712.08059
Zhang et al. (2017)
Prospects for Backtracing 1I/`Oumuamua and Future Interstellar Objects
(オウムアムアと今後の恒星間天体の過去をたどる見通し)
概要
1I/`Oumuamua (オウムアムア) は,太陽系内で発見された初めての太陽系外起源と思われる天体である.これらの恒星間天体 (interstellar objects, ISOs) は,系外惑星系内で形成された後に星間空間に放出され,その後太陽系に到達したものと考えられる.ここでは,軌道解析を通じて ISO の母天体を追跡するために必要な検討事項について議論し,それを行うためのおおよその限界を定める.
結果として,太陽直近の近傍を超えて ISO を逆追跡できるかどうかは,現在は恒星のアストロメトリ観測の精度によって制約されている.これは,今後の Gaia のデータ公開によって大きく改善が見込まれる.
しかし,オウムアムアやその他の ISO をそれぞれの母天体と関連付けられるかどうかは,恒星とのランダムな相互作用による重力的な散乱の影響によって,追跡可能性が過去の数千万年程度に制限されてしまう.そのため個別の天体の過去を追うことは一般に難しいと予想される.
しかしこの結果は,特に若い ISOs の発見に有利である観測バイアスの可能性を考慮することと,今後のサーベイ観測によって ISO の発見率が増加することにより,場合によっては母天体を特定できる可能性を否定するものではない.
天文・宇宙物理関連メモ vol.70 Boyajian et al. (2015) KIC 8462852の奇妙な光度曲線の解析