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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.06200
Bhatt et al. (2017)
Composition of Jupiter irregular satellites sheds light on their origin
(木星の不規則衛星の組成がそれらの起源へのヒントを与える)
太陽系が形成されている際の狭い時間ウィンドウに関する理解を深めるため,木星の不規則衛星の表面組成の理解を改善することを目指す.ここでは,木星の不規則衛星の Himalia (ヒマリア),Elara (エララ),Carme (カルメ) を,NASA の Infrared Telescope Facility (IRTF) の 0.8 - 5.5 µm の中間分解能分光器 SpeX を用いて観測した.
観測の結果,これらの衛星の表面は炭素質コンドライト隕石に見られるような,不透明な物質で占められていることを確認した.
ヒマリアとエララの近赤外線スペクトルを元にしたモデリングからは,この 2 つの衛星の表面組成は同じであり,磁鉄鉱 (magnetite) が主要な鉱物である事を確認した.
ヒマリアのスペクトル形状を,2 つの大きな C 型小惑星,Themis (テミス,直径 ~ 176 km) と Europa (エウロパ,直径 ~ 352 km) と比較した結果,表面組成はエウロパと似ている事が判明した.
カルメの近赤外線スペクトルは,1.5 µm までは青い側が強いスロープを持っていた.そしてヒマリアとエララでは,スペクトル的に異なる特徴を示すことが判明した.ここでのモデルは,アモルファス炭素と組成的に類似していることを示唆している.
ヒマリアとエララは組成的には類似しているが,カルメとは大きく異なる特徴を持つ.これらの結果は,木星の不規則衛星は捕獲後にさらなる破壊イベントに晒され,類似した物理的・表面組成を持つ族 (family) としてまとまった,捕獲された天体であるという仮説を支持するものである.
arXiv:1710.06200
Bhatt et al. (2017)
Composition of Jupiter irregular satellites sheds light on their origin
(木星の不規則衛星の組成がそれらの起源へのヒントを与える)
概要
木星の不規則衛星で軌道離心率と傾斜角が大きく,木星からの距離が離れた軌道を持つという特徴は,巨大惑星の移動の直前に木星によって捕獲されて衛星になったことを示唆している.太陽系が形成されている際の狭い時間ウィンドウに関する理解を深めるため,木星の不規則衛星の表面組成の理解を改善することを目指す.ここでは,木星の不規則衛星の Himalia (ヒマリア),Elara (エララ),Carme (カルメ) を,NASA の Infrared Telescope Facility (IRTF) の 0.8 - 5.5 µm の中間分解能分光器 SpeX を用いて観測した.
観測の結果,これらの衛星の表面は炭素質コンドライト隕石に見られるような,不透明な物質で占められていることを確認した.
ヒマリアとエララの近赤外線スペクトルを元にしたモデリングからは,この 2 つの衛星の表面組成は同じであり,磁鉄鉱 (magnetite) が主要な鉱物である事を確認した.
ヒマリアのスペクトル形状を,2 つの大きな C 型小惑星,Themis (テミス,直径 ~ 176 km) と Europa (エウロパ,直径 ~ 352 km) と比較した結果,表面組成はエウロパと似ている事が判明した.
カルメの近赤外線スペクトルは,1.5 µm までは青い側が強いスロープを持っていた.そしてヒマリアとエララでは,スペクトル的に異なる特徴を示すことが判明した.ここでのモデルは,アモルファス炭素と組成的に類似していることを示唆している.
ヒマリアとエララは組成的には類似しているが,カルメとは大きく異なる特徴を持つ.これらの結果は,木星の不規則衛星は捕獲後にさらなる破壊イベントに晒され,類似した物理的・表面組成を持つ族 (family) としてまとまった,捕獲された天体であるという仮説を支持するものである.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.06209
Heller et al. (2017)
The nature of the giant exomoon candidate Kepler-1625 b-i
(巨大系外衛星候補ケプラー1625b-i の性質)
これまでにケプラー1625b の3 回のトランジットが観測され,惑星と衛星候補天体の両方の半径の推定が可能になる.しかし質量の推定値については,中心星の視線速度測定からは得られていない.
ここでは,観測された特徴を再現できるようなトランジット系の有り得る質量の範囲を調べ,太陽系における衛星形成の文脈,すなわち巨大衝突・小天体の捕獲・その場形成のそれぞれにおいて議論する.
トランジット観測から得られているケプラー1625b の半径からは,この惑星は土星 (0.4 木星質量) よりやや重いガス惑星から,褐色矮星 (最大 75 木星質量),あるいは非常に低質量の恒星 (112 木星質量 ~ 0.11 太陽質量) の広い範囲の質量を持ちうることが示唆されている.
一方で,この惑星が持っているかもしれない仮説上の伴星天体は,惑星程度の質量であると思われる.有り得る最も極端なシナリオでは,非常に膨張した半径を持つ地球質量のガス衛星から,大気を持たない,180 地球質量程度の水・岩石の天体である可能性まで有り得る.
さらに,トランジット最中の惑星-衛星系の運動の解析からは,惑星-衛星系の合計質量は 17.6 (+19.2, -12.6) 木星質量であることが示唆されている.
巨大惑星の周りの海王星質量を持つ系外衛星,あるいは低質量の褐色矮星周りにおける海王星質量の系外衛星は,太陽系のガス惑星における惑星と衛星の間の質量スケーリング則とは合致しないだろう.
しかし,重い褐色矮星の周りのミニネプチューンや,非常に低質量の恒星の周りのミニネプチューンという関係性の場合,衛星-主星 (惑星) の質量比は,プロキシマb や TRAPPIST-1 系,LHS 1140b の値に近いことになる.
連星が近接遭遇を起こした際に,10 木星質量の惑星が海王星質量の天体を衛星として捕獲することは,原理的には可能である.しかし捕獲するのは弾き出された天体,スーパーアース程度の天体でなければならず,そのような系がどのように形成されうるのかというさらなる疑問が生じることになる.
まとめると,この系外衛星候補天体はこれまでに確立されている衛星形成理論とはほとんど相容れない.もしこれがスーパージュピター惑星の周りを公転している衛星であったと確認できた場合,この天体は理論家が解決するべき最高の謎を提起することになるだろう.
例えば,惑星の居住可能性の重要な要素である地球の自転状態は,火星サイズの天体が原始地球に衝突したジャイアントインパクトと (Cameron & Ward 1976),それに引き続く潮汐相互作用の結果として現在の状態になったと考えられている (Touma & Wisdom 1994).
木星のまわりを公転するガリレオ衛星の氷の割合と内部構造は,木星のまわりにかつて存在して衛星を形成した降着円盤 (周惑星円盤) の状態を推定する際に重要となる.
また天王星周りの衛星は,この巨大氷惑星が衝突によって大きく自転軸が傾いたというシナリオを示唆している (Morbidelli et al. 2012).
系外衛星の可能性がある候補は検出されており,重力マイクロレンズイベントに基づくもの (Bennett et al. 2014),系外惑星のトランジット光度曲線中の非対称性の検出に基づくもの (Ben-Jaffel & Ballester 2014),CoRoT 衛星によるデータ中の単一の特異なトランジット光度曲線に基づくもの (Lewis et al. 2015) がある.
最近になって,おそらく最も信頼性があり検証可能な系外衛星候補が Teachey et al. (2017) によって報告された.そこでは,衛星に誘起された惑星軌道のサンプリング効果を,系外惑星のトランジット光度曲線中に探すという手法が用いられており,これによって系外衛星候補ケプラー1625b-i の検出を報告している.
arXiv:1710.06209
Heller et al. (2017)
The nature of the giant exomoon candidate Kepler-1625 b-i
(巨大系外衛星候補ケプラー1625b-i の性質)
概要
最近報告された,トランジットする木星サイズの惑星ケプラー1625b の周りに検出された,海王星サイズの系外衛星候補は,もし存在が確認されれば,これまでに知られていなかったタイプのガス惑星の衛星の存在を示すことになる.これまでにケプラー1625b の3 回のトランジットが観測され,惑星と衛星候補天体の両方の半径の推定が可能になる.しかし質量の推定値については,中心星の視線速度測定からは得られていない.
ここでは,観測された特徴を再現できるようなトランジット系の有り得る質量の範囲を調べ,太陽系における衛星形成の文脈,すなわち巨大衝突・小天体の捕獲・その場形成のそれぞれにおいて議論する.
トランジット観測から得られているケプラー1625b の半径からは,この惑星は土星 (0.4 木星質量) よりやや重いガス惑星から,褐色矮星 (最大 75 木星質量),あるいは非常に低質量の恒星 (112 木星質量 ~ 0.11 太陽質量) の広い範囲の質量を持ちうることが示唆されている.
一方で,この惑星が持っているかもしれない仮説上の伴星天体は,惑星程度の質量であると思われる.有り得る最も極端なシナリオでは,非常に膨張した半径を持つ地球質量のガス衛星から,大気を持たない,180 地球質量程度の水・岩石の天体である可能性まで有り得る.
さらに,トランジット最中の惑星-衛星系の運動の解析からは,惑星-衛星系の合計質量は 17.6 (+19.2, -12.6) 木星質量であることが示唆されている.
巨大惑星の周りの海王星質量を持つ系外衛星,あるいは低質量の褐色矮星周りにおける海王星質量の系外衛星は,太陽系のガス惑星における惑星と衛星の間の質量スケーリング則とは合致しないだろう.
しかし,重い褐色矮星の周りのミニネプチューンや,非常に低質量の恒星の周りのミニネプチューンという関係性の場合,衛星-主星 (惑星) の質量比は,プロキシマb や TRAPPIST-1 系,LHS 1140b の値に近いことになる.
連星が近接遭遇を起こした際に,10 木星質量の惑星が海王星質量の天体を衛星として捕獲することは,原理的には可能である.しかし捕獲するのは弾き出された天体,スーパーアース程度の天体でなければならず,そのような系がどのように形成されうるのかというさらなる疑問が生じることになる.
まとめると,この系外衛星候補天体はこれまでに確立されている衛星形成理論とはほとんど相容れない.もしこれがスーパージュピター惑星の周りを公転している衛星であったと確認できた場合,この天体は理論家が解決するべき最高の謎を提起することになるだろう.
太陽系外衛星について
衛星と惑星の形成・進化
太陽系内の衛星は,その主惑星の形成と進化を追う鍵になる.例えば,惑星の居住可能性の重要な要素である地球の自転状態は,火星サイズの天体が原始地球に衝突したジャイアントインパクトと (Cameron & Ward 1976),それに引き続く潮汐相互作用の結果として現在の状態になったと考えられている (Touma & Wisdom 1994).
木星のまわりを公転するガリレオ衛星の氷の割合と内部構造は,木星のまわりにかつて存在して衛星を形成した降着円盤 (周惑星円盤) の状態を推定する際に重要となる.
また天王星周りの衛星は,この巨大氷惑星が衝突によって大きく自転軸が傾いたというシナリオを示唆している (Morbidelli et al. 2012).
系外衛星候補の報告
これまでに数千個の系外惑星が発見されているが,存在が確定した系外衛星はない.系外衛星の可能性がある候補は検出されており,重力マイクロレンズイベントに基づくもの (Bennett et al. 2014),系外惑星のトランジット光度曲線中の非対称性の検出に基づくもの (Ben-Jaffel & Ballester 2014),CoRoT 衛星によるデータ中の単一の特異なトランジット光度曲線に基づくもの (Lewis et al. 2015) がある.
最近になって,おそらく最も信頼性があり検証可能な系外衛星候補が Teachey et al. (2017) によって報告された.そこでは,衛星に誘起された惑星軌道のサンプリング効果を,系外惑星のトランジット光度曲線中に探すという手法が用いられており,これによって系外衛星候補ケプラー1625b-i の検出を報告している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.06321
Demangeon et al. (2017)
The discovery of WASP-151b, WASP-153b, WASP-156b: Insights on giant planet migration and the upper boundary of the Neptunian desert
(WASP-151b, WASP-153b, WASP-156b の発見:巨大惑星の移動と海王星型惑星欠乏領域の上限への見識)
ここでは 3 つの新しいトランジット系外惑星の検出を報告する.SuperWASP サーベイによってトランジット法を用いて検出し,その後 SOPHIE 分光器で追加観測を行った.その結果,質量と半径を 15%よりも良い精度で決定することが出来た.
今回発見された 3 個の惑星のうち,WASP-151b と WASP-153b はホットサターンであり,それぞれ 0.31 木星質量,1.13 木星半径,1290 K と,0.39 木星質量,1.55 木星半径,1700 K であった.中心星はどちらも早期 G 型星で,等級は 13 等であった.また,軌道周期はそれぞれ 4.53 日と 3.33 日である.
WASP-156b はスーパーネプチューンで,11.6 等の K 型星を公転している.0.128 木星質量,0.51 木星半径,970 K で,軌道周期は 3.83 日である.
WASP-151b の半径はわずかに膨張している程度であるが,WASP-153b の半径は Baraffe et al. (2008) の理論モデルと比較して明確な半径異常を示す.
WASP-156b は,現在のところ数少ない,パラメータが良く求められているスーパーネプチューン惑星の一つであり,未だに議論のある海王星サイズ惑星の形成過程と,巨大ガス惑星と巨大氷惑星の境界に制約を与えるためのよい研究対象となる可能性がある.
これらの 3 つの恒星の年齢推定からは,等時線 (isochrone) から推定した年齡よりも,gyrochronology から推定した年齡 (恒星の自転周期を元にした推定) の方が明らかに若いという,これまでもいくつかの恒星で見られていた傾向が確認された.
ここでは,高軌道離心率の軌道を経由した惑星移動が,短周期惑星を持つ恒星で見られる傾向の一部を説明し得ることを提案する.
最後に,これらの 3 つの惑星は,海王星質量の惑星が欠乏している領域の上限値に近いパラメータを持つ.WASP-151b と WASP-153b は欠乏領域の上限値に近いパラメータを持ち,WASP-156b は上限値よりも下にある.
今回の結果は,系外惑星のポピュレーションに見られているこれらのタイプの惑星の欠乏に対して,中心星からの紫外線輻射が重要な影響を及ぼすことを示唆している.
光度:V = 12.9
質量:1.088 太陽質量
半径:1.14 太陽半径
年齢:51 億年 (isochrone),18 億年 (gyrochronology)
有効温度:5871 K
金属量:[Fe/H] = 0.10
距離:480 pc
質量:0.31 木星質量
密度:0.22 木星密度
平衡温度:1291 K
軌道長半径:0.055 AU
軌道離心率:0.003 未満
光度:V = 12.8
質量:1.336 太陽質量
半径:1.73 太陽半径
年齢:40 億年 (isochrone),12.1 億年 (gyrochronology)
有効温度:5914 K
金属量:[Fe/H] = 0.34
距離:430 pc
質量:0.39 木星質量
密度:0.11 木星密度
平衡温度:1701 K
軌道長半径:0.048 AU
軌道離心率:0.009 未満
等級:V = 11.6
質量:0.842 太陽質量
半径:0.76 太陽半径
年齢:64 億年 (isochrone),5.8 億年 (gyrochronology)
有効温度:4910 K
金属量:[Fe/H] = 0.24
距離:140 pc
質量:0.128 木星質量
密度:1.0 木星密度
平衡温度:971 K
軌道長半径:0.0453 AU
軌道離心率:0.007 未満
等時線を元にした年齡と Baraffe et al. (2008) での等時線とを比較した相対的な位置に基づくと,推定される WASP-151b の重元素の質量割合は,2%より僅かに小さい程度となった.同様に WASP-153b は明確に 2%より小さい推定値となった.
中心星の WASP-151 の金属量は太陽の値と同程度であり,また WASP-153 は金属量が豊富な恒星 ([Fe/H = ]0.34 dex) である.太陽における重元素質量の割合は 2%に近く,これらの恒星の重元素質量割合が 2%に満たないというのは考えにくい.
その結果として,WASP-151b の半径は理論モデルが予測するよりやや大きく膨張しているように思われ,WASP-153b に至っては明確な半径異常を示す.
この解釈はもちろん,質量・半径・系の年齡の推定精度に依存している.もし恒星のパラメータを分光学的観測のみから導出した場合,両惑星のパラメータは Baraffe et al. (2008) の理論モデルの 1 σ 以内に収まる.しかしこれらの推定は,トランジットと恒星モデルから示唆される恒星の密度に基づいたものより不正確であり,精度が低い.
Baraffe et al. (2008) のモデルからは,この惑星は 90%程度という高い重元素質量の割合を持つことが示唆される,これは海王星と天王星のものと一致しており (Helled & Guillot 2017),この惑星はウォームスーパーネプチューンであると考えられる.
質量と半径が 15%より良い精度で決定されているスーパーネプチューンは現在のところ稀である.これは,現時点でこのような天体がまだ 9 個しか発見されていないからである.これまでに発見されているのは,ケプラー9c (Torres et al. 2011),ケプラー35b (Welsh et al. 2012),ケプラー101b (Bonomo et al. 2014),HATS-7b (Bakos et al. 2015),HATS-8b (Bayliss et al. 2015),WASP-107b (Anderson et al. 2017),WASP-127b (Lam et al. 2017),WASP-139b (Hellier et al. 2017) そして 今回の WASP-156b である.
Maxted et al. (2015) では,28 個のトランジット惑星を持つ系において,少なくとも半分で 2 つの年齡推定の間に開きがあることが報告されている.興味深いことに,Maxted et al. (2015) のサンプル中の 80%と,今回発見された 3 つの系では,惑星はどれも短周期 (< 5 日) の巨大惑星である.
さらに Maxted et al. (2015) は,惑星を持っている恒星のサンプルの半分程度で,gyrochronological age が isochronological age よりもかなり低い年齡推定になることを指摘している.Buzasi et al. (2016) でも,散在星の恒星サンプルから同じ結論に到達している.
コア集積モデルに基づいた短周期惑星の形成の場合,巨大惑星は雪線 (snow line) よりも外側で形成した後に,恒星の近傍に軌道移動を起こすことで形成されたという理論モデルがある.
軌道移動には大きく分けて2つのモデルがあり,円盤駆動の軌道移動 (Lin et al. 1996, Ward 1997など) と,高軌道離心率移動 (Rasio & Ford 1996など) である.
どちらのプロセスがより重要かを議論するための要素としては,恒星の自転軸と惑星の公転軸のずれ (spin-orbit misalignment, Naoz et al. 2012など),恒星の金属量 (Dawson & Murray-Clay 2013など),系内の別の天体の存在 (Schlaufman & Winn 2016など),ロッシュ間隔 (Nelson et al. 2017など) が挙げられる.
等時線から推定した年齢よりも gyrochronology から推定した年齡の方が著しく低いことは,高軌道離心率軌道を経由した惑星軌道が潮汐力によって円軌道化される最中の,巨大惑星から恒星への角運動量の輸送によって説明できるかもしれない.
反対に,円盤駆動の軌道移動の場合は,惑星と円盤の間の角運動量の輸送が起きることが示唆され,恒星の自転を直接的に加速させることは出来ない.さらに円盤駆動の移動とは異なり,高軌道離心率軌道を経由した場合は,軌道移動は短い原始惑星系円盤の寿命には左右されず,系のどの段階で起きる可能性もある.
arXiv:1710.06321
Demangeon et al. (2017)
The discovery of WASP-151b, WASP-153b, WASP-156b: Insights on giant planet migration and the upper boundary of the Neptunian desert
(WASP-151b, WASP-153b, WASP-156b の発見:巨大惑星の移動と海王星型惑星欠乏領域の上限への見識)
概要
発見されている系外惑星のポピュレーションが示す特徴の起源を探るためには,系外惑星の質量や半径を良い精度 (≲ 10%) で測定することが重要である.ここでは 3 つの新しいトランジット系外惑星の検出を報告する.SuperWASP サーベイによってトランジット法を用いて検出し,その後 SOPHIE 分光器で追加観測を行った.その結果,質量と半径を 15%よりも良い精度で決定することが出来た.
今回発見された 3 個の惑星のうち,WASP-151b と WASP-153b はホットサターンであり,それぞれ 0.31 木星質量,1.13 木星半径,1290 K と,0.39 木星質量,1.55 木星半径,1700 K であった.中心星はどちらも早期 G 型星で,等級は 13 等であった.また,軌道周期はそれぞれ 4.53 日と 3.33 日である.
WASP-156b はスーパーネプチューンで,11.6 等の K 型星を公転している.0.128 木星質量,0.51 木星半径,970 K で,軌道周期は 3.83 日である.
WASP-151b の半径はわずかに膨張している程度であるが,WASP-153b の半径は Baraffe et al. (2008) の理論モデルと比較して明確な半径異常を示す.
WASP-156b は,現在のところ数少ない,パラメータが良く求められているスーパーネプチューン惑星の一つであり,未だに議論のある海王星サイズ惑星の形成過程と,巨大ガス惑星と巨大氷惑星の境界に制約を与えるためのよい研究対象となる可能性がある.
これらの 3 つの恒星の年齢推定からは,等時線 (isochrone) から推定した年齡よりも,gyrochronology から推定した年齡 (恒星の自転周期を元にした推定) の方が明らかに若いという,これまでもいくつかの恒星で見られていた傾向が確認された.
ここでは,高軌道離心率の軌道を経由した惑星移動が,短周期惑星を持つ恒星で見られる傾向の一部を説明し得ることを提案する.
最後に,これらの 3 つの惑星は,海王星質量の惑星が欠乏している領域の上限値に近いパラメータを持つ.WASP-151b と WASP-153b は欠乏領域の上限値に近いパラメータを持ち,WASP-156b は上限値よりも下にある.
今回の結果は,系外惑星のポピュレーションに見られているこれらのタイプの惑星の欠乏に対して,中心星からの紫外線輻射が重要な影響を及ぼすことを示唆している.
パラメータ
WASP-151 系
WASP-151
スペクトル型:G1光度:V = 12.9
質量:1.088 太陽質量
半径:1.14 太陽半径
年齢:51 億年 (isochrone),18 億年 (gyrochronology)
有効温度:5871 K
金属量:[Fe/H] = 0.10
距離:480 pc
WASP-151b
半径:1.13 木星半径質量:0.31 木星質量
密度:0.22 木星密度
平衡温度:1291 K
軌道長半径:0.055 AU
軌道離心率:0.003 未満
WASP-153 系
WASP-153
スペクトル型:G0光度:V = 12.8
質量:1.336 太陽質量
半径:1.73 太陽半径
年齢:40 億年 (isochrone),12.1 億年 (gyrochronology)
有効温度:5914 K
金属量:[Fe/H] = 0.34
距離:430 pc
WASP-153b
半径:1.55 木星半径質量:0.39 木星質量
密度:0.11 木星密度
平衡温度:1701 K
軌道長半径:0.048 AU
軌道離心率:0.009 未満
WASP-156 系
WASP-156
スペクトル型:K3等級:V = 11.6
質量:0.842 太陽質量
半径:0.76 太陽半径
年齢:64 億年 (isochrone),5.8 億年 (gyrochronology)
有効温度:4910 K
金属量:[Fe/H] = 0.24
距離:140 pc
WASP-156b
半径:0.51 木星半径質量:0.128 木星質量
密度:1.0 木星密度
平衡温度:971 K
軌道長半径:0.0453 AU
軌道離心率:0.007 未満
各惑星系の特徴
半径異常と重元素量
WASP-151b, WASP-153b
WASP-151b と WASP-153b は,質量 - 半径ダイアグラム上で,低密度のガス惑星が存在する領域に位置している.質量はどちらも土星に近いが,特に WASP-153b の半径は著しく大きい.等時線を元にした年齡と Baraffe et al. (2008) での等時線とを比較した相対的な位置に基づくと,推定される WASP-151b の重元素の質量割合は,2%より僅かに小さい程度となった.同様に WASP-153b は明確に 2%より小さい推定値となった.
中心星の WASP-151 の金属量は太陽の値と同程度であり,また WASP-153 は金属量が豊富な恒星 ([Fe/H = ]0.34 dex) である.太陽における重元素質量の割合は 2%に近く,これらの恒星の重元素質量割合が 2%に満たないというのは考えにくい.
その結果として,WASP-151b の半径は理論モデルが予測するよりやや大きく膨張しているように思われ,WASP-153b に至っては明確な半径異常を示す.
この解釈はもちろん,質量・半径・系の年齡の推定精度に依存している.もし恒星のパラメータを分光学的観測のみから導出した場合,両惑星のパラメータは Baraffe et al. (2008) の理論モデルの 1 σ 以内に収まる.しかしこれらの推定は,トランジットと恒星モデルから示唆される恒星の密度に基づいたものより不正確であり,精度が低い.
WASP-156b
WASP-156b は,質量 - 半径ダイアグラムでは前者 2 つの惑星とは異なる位置にある.Baraffe et al. (2008) のモデルからは,この惑星は 90%程度という高い重元素質量の割合を持つことが示唆される,これは海王星と天王星のものと一致しており (Helled & Guillot 2017),この惑星はウォームスーパーネプチューンであると考えられる.
質量と半径が 15%より良い精度で決定されているスーパーネプチューンは現在のところ稀である.これは,現時点でこのような天体がまだ 9 個しか発見されていないからである.これまでに発見されているのは,ケプラー9c (Torres et al. 2011),ケプラー35b (Welsh et al. 2012),ケプラー101b (Bonomo et al. 2014),HATS-7b (Bakos et al. 2015),HATS-8b (Bayliss et al. 2015),WASP-107b (Anderson et al. 2017),WASP-127b (Lam et al. 2017),WASP-139b (Hellier et al. 2017) そして 今回の WASP-156b である.
年齢推定のずれと惑星形成過程
中心星の年齢について,等時線に基づいた年齡 (isochronologiacl age) と,自転に基づいた年齡 (gyrochronological age) では,前者のほうが明らかに大きい値となった.この傾向は Maxted et al. (2015) で,より大きいサンプル数を用いた解析でも報告されている,Maxted et al. (2015) では,28 個のトランジット惑星を持つ系において,少なくとも半分で 2 つの年齡推定の間に開きがあることが報告されている.興味深いことに,Maxted et al. (2015) のサンプル中の 80%と,今回発見された 3 つの系では,惑星はどれも短周期 (< 5 日) の巨大惑星である.
さらに Maxted et al. (2015) は,惑星を持っている恒星のサンプルの半分程度で,gyrochronological age が isochronological age よりもかなり低い年齡推定になることを指摘している.Buzasi et al. (2016) でも,散在星の恒星サンプルから同じ結論に到達している.
コア集積モデルに基づいた短周期惑星の形成の場合,巨大惑星は雪線 (snow line) よりも外側で形成した後に,恒星の近傍に軌道移動を起こすことで形成されたという理論モデルがある.
軌道移動には大きく分けて2つのモデルがあり,円盤駆動の軌道移動 (Lin et al. 1996, Ward 1997など) と,高軌道離心率移動 (Rasio & Ford 1996など) である.
どちらのプロセスがより重要かを議論するための要素としては,恒星の自転軸と惑星の公転軸のずれ (spin-orbit misalignment, Naoz et al. 2012など),恒星の金属量 (Dawson & Murray-Clay 2013など),系内の別の天体の存在 (Schlaufman & Winn 2016など),ロッシュ間隔 (Nelson et al. 2017など) が挙げられる.
等時線から推定した年齢よりも gyrochronology から推定した年齡の方が著しく低いことは,高軌道離心率軌道を経由した惑星軌道が潮汐力によって円軌道化される最中の,巨大惑星から恒星への角運動量の輸送によって説明できるかもしれない.
反対に,円盤駆動の軌道移動の場合は,惑星と円盤の間の角運動量の輸送が起きることが示唆され,恒星の自転を直接的に加速させることは出来ない.さらに円盤駆動の移動とは異なり,高軌道離心率軌道を経由した場合は,軌道移動は短い原始惑星系円盤の寿命には左右されず,系のどの段階で起きる可能性もある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.05276
Nugroho et al. (2017)
High-Resolution Spectroscopic Detection of TiO and Stratosphere in the Day-side of WASP-33b
(高分散分光観測による WASP-33b の昼側の酸化チタンと成層圏の検出)
WASP-33b の昼側のスペクトルを得るために,すばる望遠鏡の 0.62 - 0.88 µm の High-Dispersion Spectrograph (HDS) を使用し,二次食 (惑星が恒星の裏側に隠れる現象) の観測を行った.また,機器の系統的な影響,地球大気によるスペクトルへの影響,恒星によるスペクトルへの影響を SYSREM アルゴリズムを用いて抑制して補正した.
観測と解析の結果,軌道速度と系の速度を 4.8 σ の精度で検出することに成功した.ここで得られた値は,過去のトランジット観測の解析から導出されていたものと一致した.
また,惑星大気中に温度逆転層が存在するとしたモデルと合わせて解析を行った結果,今回の観測結果は大気中における成層圏の存在を示唆するものであった,しかし,検出された TiO の体積混合比に制限を与えることは出来なかった.
また,恒星の視線速度の測定も行い,軌道速度により強い制限を与えた (239.0 (+2.0, -1.0) km/s).
今回の結果は,高分散分光観測は可視光の波長範囲であっても系外惑星の大気の特徴付けを行うための強力な手法となり,類似の技術を用いることで現在の 10 m 級および将来の超大型望遠鏡での高分散分光器を用いた観測の可能性を示すものである.
初めて温度逆転層の存在が報告されたのは,ホットジュピター HD 209458b (Knutson et al. 2008) である.
Knutson et al. (2008) では,スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた二次食の観測から,主に水と一酸化炭素によって起こされる 4.5, 5.6 µm での二次食の深さが,近くの別のバンド (3.6, 9 µm) での熱的連続成分よりも浅い値であったことを報告している.
その後,同じ望遠鏡を用いて二次食の深さの観測が行われ,同様に温度逆転層の存在の検出が示唆された.しかし過去のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット観測は知られていたよりも大きな不定性を持ち,過去に報告されていた放射のような特徴は疑わしいということが,Hansen et al. (2014) によって指摘されている.
Very Large Telecsope (VLT) の CRyogenic high-resolution InfraRed Echelle SPectro-graph (CRIRES) を用いた HD 209458b の昼側の観測からは,2.3 µm での一酸化炭素の特徴が検出されなかったことが報告されている.またこの観測では,10-1 - 10-3 bar の圧力範囲には温度逆転層は存在しないという制約を与えた (Schwarz et al. 2015).
これはZellem et al. (2014) と Siamond-Lowe et al. (2014) の結果と整合的なものである.
HD 209458b の昼側からの一酸化炭素は非検出だったが,Snellen et al. (2010) は透過スペクトル中に同様の装置を用いて 5.6 σ の確度で一酸化炭素による吸収の特徴を検出している.
これにより,WASP-121b はスペクトル分解された放射の特徴が検出され,かつ成層圏が検出された初めての系外惑星となった.またこの観測では VO によると思われる特徴も検出されており,さらに温度逆転層と思われる大気構造が示唆されている.
ただし大気モデルは 1 次元モデルのみが考慮されており,非平衡化学過程は考慮されていない.
Sedaghati et al. (2017) は,VLT の低分散分光器 FORS2 を用いて WASP-19b のトランジット観測を行った.
その結果,大気から水蒸気を 7.9 σ の確度で確認し,さらに TiO (7.7 σ),強い散乱ヘイズ (7.4 σ),ナトリウム (3.4 σ) の存在を同時に明らかにした.またそれらの分子種の相対的な存在度への制限を与えた.
しかし大気中の温度逆転層の存在に関しては,透過スペクトルが大気の温度構造についての情報をあまり持っていないため,依然として不明のままである.
その他の検出例としては,2 番目に高温なホットジュピター WASP-33b (平衡温度 ~ 2700 K) がある.この惑星では,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた昼側の観測で 1.2 µm にスペクトルの超過が見られ,これは TiO のスペクトル的特徴と整合すると考えられている (Haynes et al. 2015).
Hubeny et al. (2003) と Spiegel et al. (2009) では,重力沈降によって TiO/VO は高層大気から大気深くの冷たい層へ持ち去られてしまうことが指摘されている.
同時に,潮汐固定されたホットジュピターの大気中における高速の風によって,大気成分は惑星の夜側の低温な領域へ運ばれる.もし夜側の大気の温度が TiO/VO が凝縮する温度を下回れば,それらの分子種は大気中で凝縮して沈降する,
また,大気中の垂直方向の混合速度 (これは大気温度と関連していると考えられる) があまり大きくない場合,沈降してしまった分子種は再び高層大気に供給されない.
この効果は cold-trap と呼ばれている.
これは,活発な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持たない傾向にあり,逆に静穏な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持つ傾向にある,という関連性である.恒星の活動度が大きい場合は,中心星からの紫外線の強度が大きくなり過ぎ,温度逆転層を作るための吸収物質を破壊してしまうと考えられる.
一方で,Hoeijmakers et al. (2015) は 6300 Å より短い波長で使われている TiO のラインのリストが含む不正確さについて報告している.しかし,バーナード星のスペクトルと,対応する TiO ラインリストを用いて作られたモデルスペクトルの間の相互相関では,正確性は長波長側で大きくなることが分かっている.
arXiv:1710.05276
Nugroho et al. (2017)
High-Resolution Spectroscopic Detection of TiO and Stratosphere in the Day-side of WASP-33b
(高分散分光観測による WASP-33b の昼側の酸化チタンと成層圏の検出)
概要
これまでに知られている中で 2 番目に高温なホットジュピター WASP-33b の,昼側の反射スペクトルの高分散分光観測から,TiO (酸化チタン) の分子の特徴を検出した.WASP-33b の昼側のスペクトルを得るために,すばる望遠鏡の 0.62 - 0.88 µm の High-Dispersion Spectrograph (HDS) を使用し,二次食 (惑星が恒星の裏側に隠れる現象) の観測を行った.また,機器の系統的な影響,地球大気によるスペクトルへの影響,恒星によるスペクトルへの影響を SYSREM アルゴリズムを用いて抑制して補正した.
観測と解析の結果,軌道速度と系の速度を 4.8 σ の精度で検出することに成功した.ここで得られた値は,過去のトランジット観測の解析から導出されていたものと一致した.
また,惑星大気中に温度逆転層が存在するとしたモデルと合わせて解析を行った結果,今回の観測結果は大気中における成層圏の存在を示唆するものであった,しかし,検出された TiO の体積混合比に制限を与えることは出来なかった.
また,恒星の視線速度の測定も行い,軌道速度により強い制限を与えた (239.0 (+2.0, -1.0) km/s).
今回の結果は,高分散分光観測は可視光の波長範囲であっても系外惑星の大気の特徴付けを行うための強力な手法となり,類似の技術を用いることで現在の 10 m 級および将来の超大型望遠鏡での高分散分光器を用いた観測の可能性を示すものである.
背景
大気中の温度逆転層
系外惑星の大気中における温度逆転層 (themal inversion) の存在は,Hubeny et al. (2003) と Fortney et al. (2008) で予測されている.中心星からの非常に強い輻射を受けた惑星において.TiO や VO (酸化バナジウム) のような高温での光の吸収源となる分子が紫外線と可視光を吸収し,高層大気を加熱する事によって温度逆転層が形成され得る.初めて温度逆転層の存在が報告されたのは,ホットジュピター HD 209458b (Knutson et al. 2008) である.
Knutson et al. (2008) では,スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた二次食の観測から,主に水と一酸化炭素によって起こされる 4.5, 5.6 µm での二次食の深さが,近くの別のバンド (3.6, 9 µm) での熱的連続成分よりも浅い値であったことを報告している.
その後,同じ望遠鏡を用いて二次食の深さの観測が行われ,同様に温度逆転層の存在の検出が示唆された.しかし過去のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット観測は知られていたよりも大きな不定性を持ち,過去に報告されていた放射のような特徴は疑わしいということが,Hansen et al. (2014) によって指摘されている.
Very Large Telecsope (VLT) の CRyogenic high-resolution InfraRed Echelle SPectro-graph (CRIRES) を用いた HD 209458b の昼側の観測からは,2.3 µm での一酸化炭素の特徴が検出されなかったことが報告されている.またこの観測では,10-1 - 10-3 bar の圧力範囲には温度逆転層は存在しないという制約を与えた (Schwarz et al. 2015).
これはZellem et al. (2014) と Siamond-Lowe et al. (2014) の結果と整合的なものである.
HD 209458b の昼側からの一酸化炭素は非検出だったが,Snellen et al. (2010) は透過スペクトル中に同様の装置を用いて 5.6 σ の確度で一酸化炭素による吸収の特徴を検出している.
TiO, VO および成層圏の検出
Evans et al. (2017) は,非常に高温なホットジュピターWASP-121b (平衡温度 ~ 2500 K) の大気中に,水蒸気による放射の特徴が検出されたことを報告した.この観測は,スピッツァー宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の両方で行われた.これにより,WASP-121b はスペクトル分解された放射の特徴が検出され,かつ成層圏が検出された初めての系外惑星となった.またこの観測では VO によると思われる特徴も検出されており,さらに温度逆転層と思われる大気構造が示唆されている.
ただし大気モデルは 1 次元モデルのみが考慮されており,非平衡化学過程は考慮されていない.
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
天文・宇宙物理関連メモ vol.231 Evans et al. (2016) ホットジュピター大気中での TiO/VO の検出の証拠
天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
天文・宇宙物理関連メモ vol.231 Evans et al. (2016) ホットジュピター大気中での TiO/VO の検出の証拠
Sedaghati et al. (2017) は,VLT の低分散分光器 FORS2 を用いて WASP-19b のトランジット観測を行った.
その結果,大気から水蒸気を 7.9 σ の確度で確認し,さらに TiO (7.7 σ),強い散乱ヘイズ (7.4 σ),ナトリウム (3.4 σ) の存在を同時に明らかにした.またそれらの分子種の相対的な存在度への制限を与えた.
しかし大気中の温度逆転層の存在に関しては,透過スペクトルが大気の温度構造についての情報をあまり持っていないため,依然として不明のままである.
その他の検出例としては,2 番目に高温なホットジュピター WASP-33b (平衡温度 ~ 2700 K) がある.この惑星では,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた昼側の観測で 1.2 µm にスペクトルの超過が見られ,これは TiO のスペクトル的特徴と整合すると考えられている (Haynes et al. 2015).
TiO, VO の検出の困難さ
Cold trap
TiO と VO が検出されにくいのにはいくつかの要因があると考えられている.Hubeny et al. (2003) と Spiegel et al. (2009) では,重力沈降によって TiO/VO は高層大気から大気深くの冷たい層へ持ち去られてしまうことが指摘されている.
同時に,潮汐固定されたホットジュピターの大気中における高速の風によって,大気成分は惑星の夜側の低温な領域へ運ばれる.もし夜側の大気の温度が TiO/VO が凝縮する温度を下回れば,それらの分子種は大気中で凝縮して沈降する,
また,大気中の垂直方向の混合速度 (これは大気温度と関連していると考えられる) があまり大きくない場合,沈降してしまった分子種は再び高層大気に供給されない.
この効果は cold-trap と呼ばれている.
中心星への依存性とラインリストの不正確さ
Knutson et al. (2010) は,温度逆転層と恒星の活動度との関連性について言及している.これは,活発な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持たない傾向にあり,逆に静穏な恒星の周りを公転するホットジュピターは温度逆転層を持つ傾向にある,という関連性である.恒星の活動度が大きい場合は,中心星からの紫外線の強度が大きくなり過ぎ,温度逆転層を作るための吸収物質を破壊してしまうと考えられる.
一方で,Hoeijmakers et al. (2015) は 6300 Å より短い波長で使われている TiO のラインのリストが含む不正確さについて報告している.しかし,バーナード星のスペクトルと,対応する TiO ラインリストを用いて作られたモデルスペクトルの間の相互相関では,正確性は長波長側で大きくなることが分かっている.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1710.05866
Hanse et al. (2017)
Capture of exocomets and the erosion of the Oort cloud due to stellar encounters in the Galaxy
(銀河系内での恒星遭遇による系外彗星の獲得とオールトの雲の侵食)
理論的には,他の恒星も太陽系のオールトの雲と類似した分布の系外彗星 (exocomet) を持っていることが示唆されている.ここでは,そのような散在星との近接遭遇の際に発生しうる太陽系のオールトの雲の侵食と,系外彗星の捕獲の可能性について調査を行った.
具体的には,近接遭遇を起こす両方の恒星が,オールトの雲のような彗星の雲に囲まれている場合の,フライバイの N 体シミュレーションを行う.近接遭遇に際してどれだけの系外彗星がオールトの雲へと移ったか,どれだけのオールトの雲の彗星が失われたか,またそれが他の恒星の質量や相対速度・衝突パラメータにどのように依存するかを測定した.
その結果,系外彗星がオールトの雲へ移行するのは,相対速度が比較的小さく (≲ 0.5 km/s),近接した遭遇 (最接近時の距離が ≲ 105 AU) を起こしている間だけであり,このような近接遭遇は極めて稀である.
過去に太陽系と近接遭遇を起こした恒星の全てが系外彗星の雲に囲まれていると仮定した場合,オールトの雲の中にある系外彗星の割合は,10-5 - 10-4 (0.001 - 0.01%) と推定される.
また,恒星との近接遭遇と銀河潮汐の効果を考慮して,太陽の寿命の間に渡ってオールトの雲の振る舞いをシミュレーションした.その結果,オールトの雲はその初期質量を 25 - 65%失っており,主に恒星の近接遭遇がその原因であることが分かった.
さらに,オールトの雲の全質量のうち最大で 10%が太陽系外から捕獲したものであると考えられる (典型的な値はさらに小さい値になる).しかし,系外彗星はそれらが供給された近接遭遇の後,銀河潮汐の効果と,別の恒星との連続した近接遭遇によって,しばしば短期間で失われてしまう.
(ii) オールトの雲中の太陽系外から捕獲した系外彗星の数は,それらを供給した恒星の近接遭遇イベントの後減少する.これは,元々オールトの雲に存在していた彗星と同様に,さらなる恒星遭遇と銀河潮汐によって影響を受けるためである.
(iii) 太陽の銀河系内における動径方向への移動は,過去にあったとしても系外彗星の捕獲確率には大きな影響を与えない.
(iv) 太陽系の寿命の間,オールトの雲は 25 - 65%の彗星を,散在星との近接遭遇によって失う.この損失は,少数回の最も強い遭遇によって占められる.
(v) オールトの雲へ輸送される系外彗星の数およびオールトの雲から太陽系外へ輸送される彗星の数は,\(M^{a}d^{b}v^{c}\) に比例する.なお \(M\) は遭遇した散在星の質量 (単位は太陽質量),\(d\) は近接遭遇時の距離 (AU),\(v\) は相対速度 (km/s) である.また,\(a\), \(b\), \(c\) はフリーパラメータで,失われる彗星・捕獲する系外彗星の場合でそれぞれ異なる値となる.
arXiv:1710.05866
Hanse et al. (2017)
Capture of exocomets and the erosion of the Oort cloud due to stellar encounters in the Galaxy
(銀河系内での恒星遭遇による系外彗星の獲得とオールトの雲の侵食)
概要
オールトの雲は,おそらくは 40 億年以上前に形成され,銀河系の中を太陽とともに動いている.そのため,外部からの影響,主に銀河潮汐 (galactic tide) と散在星 (field star) との近接遭遇の影響を受けている.理論的には,他の恒星も太陽系のオールトの雲と類似した分布の系外彗星 (exocomet) を持っていることが示唆されている.ここでは,そのような散在星との近接遭遇の際に発生しうる太陽系のオールトの雲の侵食と,系外彗星の捕獲の可能性について調査を行った.
具体的には,近接遭遇を起こす両方の恒星が,オールトの雲のような彗星の雲に囲まれている場合の,フライバイの N 体シミュレーションを行う.近接遭遇に際してどれだけの系外彗星がオールトの雲へと移ったか,どれだけのオールトの雲の彗星が失われたか,またそれが他の恒星の質量や相対速度・衝突パラメータにどのように依存するかを測定した.
その結果,系外彗星がオールトの雲へ移行するのは,相対速度が比較的小さく (≲ 0.5 km/s),近接した遭遇 (最接近時の距離が ≲ 105 AU) を起こしている間だけであり,このような近接遭遇は極めて稀である.
過去に太陽系と近接遭遇を起こした恒星の全てが系外彗星の雲に囲まれていると仮定した場合,オールトの雲の中にある系外彗星の割合は,10-5 - 10-4 (0.001 - 0.01%) と推定される.
また,恒星との近接遭遇と銀河潮汐の効果を考慮して,太陽の寿命の間に渡ってオールトの雲の振る舞いをシミュレーションした.その結果,オールトの雲はその初期質量を 25 - 65%失っており,主に恒星の近接遭遇がその原因であることが分かった.
さらに,オールトの雲の全質量のうち最大で 10%が太陽系外から捕獲したものであると考えられる (典型的な値はさらに小さい値になる).しかし,系外彗星はそれらが供給された近接遭遇の後,銀河潮汐の効果と,別の恒星との連続した近接遭遇によって,しばしば短期間で失われてしまう.
結果とまとめ
(i) 5 × 105 AU より近くを通過する恒星の全てのフライバイを考慮すると,オールトの雲の最大で 10-5 - 10-4 は,進化のどこかの段階で外部から獲得したものである.(ii) オールトの雲中の太陽系外から捕獲した系外彗星の数は,それらを供給した恒星の近接遭遇イベントの後減少する.これは,元々オールトの雲に存在していた彗星と同様に,さらなる恒星遭遇と銀河潮汐によって影響を受けるためである.
(iii) 太陽の銀河系内における動径方向への移動は,過去にあったとしても系外彗星の捕獲確率には大きな影響を与えない.
(iv) 太陽系の寿命の間,オールトの雲は 25 - 65%の彗星を,散在星との近接遭遇によって失う.この損失は,少数回の最も強い遭遇によって占められる.
(v) オールトの雲へ輸送される系外彗星の数およびオールトの雲から太陽系外へ輸送される彗星の数は,\(M^{a}d^{b}v^{c}\) に比例する.なお \(M\) は遭遇した散在星の質量 (単位は太陽質量),\(d\) は近接遭遇時の距離 (AU),\(v\) は相対速度 (km/s) である.また,\(a\), \(b\), \(c\) はフリーパラメータで,失われる彗星・捕獲する系外彗星の場合でそれぞれ異なる値となる.
天文・宇宙物理関連メモ vol.539 Teachey et al. (2017) ケプラー惑星中の系外衛星シグナルの探査