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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1706.01883
Best et al. (2017)
The Young L Dwarf 2MASS J11193254-1137466 is a Planetary-Mass Binary
(若い L 型矮星 2MASS J11193254-1137466 は惑星質量の連星である)
この天体はこれまで TW Hydrae Association (TWA) という恒星の集団の一員だろうと考えられてきた.ここで,今回の新しい観測から得られた天体までの距離と固有運動,運動学的解析に基づくと,この天体は 82% の確度で TWA の一員であることが判明した.
TWA の年齢 10 ± 3 Myr と,天体のホットスタート進化モデル (天体形成時に多くのエントロピーを持ち込んだとするモデル) を用いると,2MASS J11193254−1137466AB は 3.7 木星質量の褐色矮星 2 個から成るペアであると推定される.これは,これまで発見されている中で最も低質量の連星である.また,連星の軌道周期は 90 (+80, -50) 年と推定した.
連星の一方の天体は K バンドではわずかに明るく,しかし J バンドでは暗い.そのためこの連星は “flux-reversal binary” (片方のフラックスが 2 つのバンドで逆転しているタイプの連星) であると思われる.このような若い天体での flux-reversal binary は初めての発見である.
また,これらとスペクトル的に似ている TWA 内の L7 矮星 WISEA J114724.10−204021.3 を Keck で撮像観測した.その結果,この天体については連星である事を示す兆候は見られなかった.
この天体の進化モデルからは,この天体の有効温度は 2MASS J11193254−1137466AB よりも 230 K 程度高いことが示され,これは両者のスペクトルが似ていることとは非整合的である.この違いからは,WISEA J114724.10−204021.3 は実際には 2MASS J11193254−1137466AB と非常に似た質量と温度を持つ,近接した連星である可能性が示唆される.もしくは,若い超低温矮星の赤外スペクトルは,温度や重力ではない別の要素によって影響を受けている可能性を示唆する.
連星間の射影距離:3.6 AU
連星の軌道長半径:3.9 AU
公転周期:90 (+80, -50) 年
質量:A, B どちらも 3.7 (+1.2, -0.9) 木星質量
有効温度:A が 1013 K,B が 1006 K
arXiv:1706.01883
Best et al. (2017)
The Young L Dwarf 2MASS J11193254-1137466 is a Planetary-Mass Binary
(若い L 型矮星 2MASS J11193254-1137466 は惑星質量の連星である)
概要
Keck でのレーザーガイド星を用いた補償光学撮像観測を用いて,非常に赤い色を示す低表面重力の L7 型矮星 2MASS J11193254−1137466 は 0.14” (3.6 AU) の間隔で公転する連星であることを発見した.この天体はこれまで TW Hydrae Association (TWA) という恒星の集団の一員だろうと考えられてきた.ここで,今回の新しい観測から得られた天体までの距離と固有運動,運動学的解析に基づくと,この天体は 82% の確度で TWA の一員であることが判明した.
TWA の年齢 10 ± 3 Myr と,天体のホットスタート進化モデル (天体形成時に多くのエントロピーを持ち込んだとするモデル) を用いると,2MASS J11193254−1137466AB は 3.7 木星質量の褐色矮星 2 個から成るペアであると推定される.これは,これまで発見されている中で最も低質量の連星である.また,連星の軌道周期は 90 (+80, -50) 年と推定した.
連星の一方の天体は K バンドではわずかに明るく,しかし J バンドでは暗い.そのためこの連星は “flux-reversal binary” (片方のフラックスが 2 つのバンドで逆転しているタイプの連星) であると思われる.このような若い天体での flux-reversal binary は初めての発見である.
また,これらとスペクトル的に似ている TWA 内の L7 矮星 WISEA J114724.10−204021.3 を Keck で撮像観測した.その結果,この天体については連星である事を示す兆候は見られなかった.
この天体の進化モデルからは,この天体の有効温度は 2MASS J11193254−1137466AB よりも 230 K 程度高いことが示され,これは両者のスペクトルが似ていることとは非整合的である.この違いからは,WISEA J114724.10−204021.3 は実際には 2MASS J11193254−1137466AB と非常に似た質量と温度を持つ,近接した連星である可能性が示唆される.もしくは,若い超低温矮星の赤外スペクトルは,温度や重力ではない別の要素によって影響を受けている可能性を示唆する.
パラメータ
2MASS J11193254−1137466AB 系
距離:26.4 pc連星間の射影距離:3.6 AU
連星の軌道長半径:3.9 AU
公転周期:90 (+80, -50) 年
質量:A, B どちらも 3.7 (+1.2, -0.9) 木星質量
有効温度:A が 1013 K,B が 1006 K
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1706.02018
Burgasser & Mamajek (2017)
On the Age of the TRAPPIST-1 System
(TRAPPIST-1 系の年齢について)
年齢推定において,色-絶対等級ダイアグラム,平均密度,リチウム吸収,表面重力の特徴,金属量,運動学,自転および磁気的活動に基づく経験的な年齢の制限を用いた.その結果,TRAPPIST-1 は遷移的な thin/thick 円盤に属する恒星であり,年齢は 7.6 ± 2,2 Gyr (~ 76 億歳) と推定した.
この恒星の色-光度ダイアグラム上での位置は,この恒星がやや金属量豊富 ([Fe/H] ~ +0.06) であることと整合的であり,過去に報告されていた近赤外での分光観測からの金属量とも一致する.また恒星の半径 (0.121 太陽半径) が太陽組成の進化モデルと比べると 9 - 14% 大きいということとも整合的である.
この系のパラメータであまり制限を与えられていない重要なものに,この系の年齢がある.これは,超低温の M 型矮星に適用できる経験的な年齢の診断法が貧弱であることが要因である.
太陽型星にとっては,自転周期 (Gyrochronology を用いるもの),恒星活動度の診断,恒星大気中のリチウムの欠乏は,スタンダードな年齢診断法である (Soderblom 2010).
一方で超低温矮星の光球の電離度は低く,恒星から吹き出す磁気的風との磁気的な結合が弱くなる.そのため自転速度が減速するタイムスケールは,天の川銀河の年齢を超えうる (West et al. 2008).
リチウムの欠乏は太陽型星に対して最大で 1 - 2 Gyr のおおよその年齢を与える (Sestito & Randich 2005).この手法は,全対流をしている低質量星では ~ 200 Myr の間までは完全であり,つまり若い超低温矮星のみに有効な手法である (Stauffer et al. 1998).
また,スペクトルからの年齢の診断法,例えば表面重力に敏感な特徴の測定については,こちらは ~ 300 Myr よりも年老いた年齢に限定される.
TRAPPIST-1 の運動学からはこの恒星は “old disk” に属する恒星であることが示唆される一方 (Leggett 1992, Burgasser et al. 2015),このような分類は年齢を制限するのにはあまり使えない.
過去の研究では,Filippazzo et al. (2015) ではあまり制限が付けられていない 0.5 - 10 Gyr という値を与え,Luger et al. (2017) ではより制限を付けた,しかしまだ広い値である 3 - 8 Gyr を与えた.これらとは対照的に,幾つかの研究では TRAPPIST-1 の非熱的磁気放射の強度を根拠にして,この系は若い可能性について議論している (Bourrier et al. 2017など).
arXiv:1706.02018
Burgasser & Mamajek (2017)
On the Age of the TRAPPIST-1 System
(TRAPPIST-1 系の年齢について)
概要
太陽系近傍 (12 pc) にある M8 型の矮星 TRAPPIST-1 は,少なくとも 7 個の地球に似たサイズの惑星からなる,コンパクトな軌道配置の惑星系を持つ.惑星形成と進化の理論を調べることの重要性や,銀河系内で最もありふれた恒星である M 型矮星を公転する地球サイズの系外惑星での居住可能性について評価することを考え,この系の年齢の総合的な評価を行った.年齢推定において,色-絶対等級ダイアグラム,平均密度,リチウム吸収,表面重力の特徴,金属量,運動学,自転および磁気的活動に基づく経験的な年齢の制限を用いた.その結果,TRAPPIST-1 は遷移的な thin/thick 円盤に属する恒星であり,年齢は 7.6 ± 2,2 Gyr (~ 76 億歳) と推定した.
この恒星の色-光度ダイアグラム上での位置は,この恒星がやや金属量豊富 ([Fe/H] ~ +0.06) であることと整合的であり,過去に報告されていた近赤外での分光観測からの金属量とも一致する.また恒星の半径 (0.121 太陽半径) が太陽組成の進化モデルと比べると 9 - 14% 大きいということとも整合的である.
TRAPPIST-1 について
TRAPPIST-1 は別名 2MASS J23062928−0502285 (Gizis et al. 2000) であり.超低温の M8 矮星である.最近になって,ハビタブルゾーン内を公転する惑星 3 個を含む,合計 7 個の惑星が検出されている (Gillon et al. 2016, 2017など).この系のパラメータであまり制限を与えられていない重要なものに,この系の年齢がある.これは,超低温の M 型矮星に適用できる経験的な年齢の診断法が貧弱であることが要因である.
太陽型星にとっては,自転周期 (Gyrochronology を用いるもの),恒星活動度の診断,恒星大気中のリチウムの欠乏は,スタンダードな年齢診断法である (Soderblom 2010).
一方で超低温矮星の光球の電離度は低く,恒星から吹き出す磁気的風との磁気的な結合が弱くなる.そのため自転速度が減速するタイムスケールは,天の川銀河の年齢を超えうる (West et al. 2008).
リチウムの欠乏は太陽型星に対して最大で 1 - 2 Gyr のおおよその年齢を与える (Sestito & Randich 2005).この手法は,全対流をしている低質量星では ~ 200 Myr の間までは完全であり,つまり若い超低温矮星のみに有効な手法である (Stauffer et al. 1998).
また,スペクトルからの年齢の診断法,例えば表面重力に敏感な特徴の測定については,こちらは ~ 300 Myr よりも年老いた年齢に限定される.
TRAPPIST-1 の運動学からはこの恒星は “old disk” に属する恒星であることが示唆される一方 (Leggett 1992, Burgasser et al. 2015),このような分類は年齢を制限するのにはあまり使えない.
過去の研究では,Filippazzo et al. (2015) ではあまり制限が付けられていない 0.5 - 10 Gyr という値を与え,Luger et al. (2017) ではより制限を付けた,しかしまだ広い値である 3 - 8 Gyr を与えた.これらとは対照的に,幾つかの研究では TRAPPIST-1 の非熱的磁気放射の強度を根拠にして,この系は若い可能性について議論している (Bourrier et al. 2017など).
議論
恒星の金属量と運動学的な年齢の確率分布関数と,リチウム吸収線の欠乏と自転周期からの年齢の下限値の組み合わせから,年齢を 7.6 ± 2.2 Gyr と推定した.これは,過去の定性的な研究結果の一部,例えば "比較的若い" とした Bourrier et al. (2017) や "若い" とした O’Malley-James & Kaltenegger (2017) とは非整合的である.また,Luger et al. (2017) での推定値である 3 - 8 Gyr の上限値付近の値である.論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1706.01892
Christiansen et al. (2017)
Three's Company: An additional non-transiting super-Earth in the bright HD 3167 system, and masses for all three planets
(スリーズ・カンパニー:明るい HD 3167 系における非トランジットスーパーアースの追加発見と,全ての 3 惑星の質量)
この恒星は 2 つの小さい短周期のトランジット惑星を持っていることが分かっている (Vanderburg et al. 2016).ここでは,複数地点,複数の装置での視線速度観測を行ってこの系の特徴付けを行った.
トランジット惑星の質量は,HD 3167b が 5.02 地球質量であり,これは高温のスーパーアースである.HD 3167b の平均密度は 5.60 g cm-3 であり,おそらく岩石組成であると考えられる.
HD 3167c は 9.80 地球質量で,温暖なサブネプチューンである.平均密度は 1.97 g cm-3 で,おそらく相当量の揮発性の組成を持つわくせいである.
これらの惑星の大気組成解析の可能性について調査し,HD 3167c に関しては透過光分光観測の測定に適していると考えられる,また HD 3167b は熱放射観測のためのターゲットになりうると考えられる.
また,3 番目のトランジットしない惑星 HD 3167d を検出した.この惑星の軌道周期は 8.509 日で,惑星 HD 3167b と c の軌道の間に位置する.最小質量は 6.90 地球質量である.
ここで,惑星 HD 3167d の軌道の,b と c との相互軌道傾斜角について制限を与えた.
その結果,相互軌道傾斜角が 1.3 度よりも小さいという可能性は排除した.これは,この値よりも小さい場合は HD 3167d はトランジットを起こすことになるが,トランジットは観測されていないためである.さらに,相互軌道傾斜角が 40 - 60 度では,Kozai-Lidov 振動が系の不安定を増加させるが,最大で 100 Myr の間は安定である.一方,60 度以上では,系は不安定となる.
有効温度:5261 K
半径:0.86 太陽半径
質量:0.86 太陽質量
距離:45.8 pc
金属量:[Fe/H] = 0.04
半径:1.70 地球半径
質量:5.02 地球質量
平均密度:5.60 g cm-3
軌道長半径:0.01815 AU
半径:3.01 地球半径
質量:9.80 地球質量
平均密度:1.97 g cm-3
軌道長半径:0.1795 AU
最小質量:6.90 地球質量
軌道長半径:0.07757 AU
arXiv:1706.01892
Christiansen et al. (2017)
Three's Company: An additional non-transiting super-Earth in the bright HD 3167 system, and masses for all three planets
(スリーズ・カンパニー:明るい HD 3167 系における非トランジットスーパーアースの追加発見と,全ての 3 惑星の質量)
概要
HD 3167 は明るい (V = 8.9) 近傍の K0 星である.この恒星は,NASA のケプラー K2 ミッションで観測されている.(K2 ミッションでのカタログ名は EPIC 220383386).この恒星は 2 つの小さい短周期のトランジット惑星を持っていることが分かっている (Vanderburg et al. 2016).ここでは,複数地点,複数の装置での視線速度観測を行ってこの系の特徴付けを行った.
トランジット惑星の質量は,HD 3167b が 5.02 地球質量であり,これは高温のスーパーアースである.HD 3167b の平均密度は 5.60 g cm-3 であり,おそらく岩石組成であると考えられる.
HD 3167c は 9.80 地球質量で,温暖なサブネプチューンである.平均密度は 1.97 g cm-3 で,おそらく相当量の揮発性の組成を持つわくせいである.
これらの惑星の大気組成解析の可能性について調査し,HD 3167c に関しては透過光分光観測の測定に適していると考えられる,また HD 3167b は熱放射観測のためのターゲットになりうると考えられる.
また,3 番目のトランジットしない惑星 HD 3167d を検出した.この惑星の軌道周期は 8.509 日で,惑星 HD 3167b と c の軌道の間に位置する.最小質量は 6.90 地球質量である.
ここで,惑星 HD 3167d の軌道の,b と c との相互軌道傾斜角について制限を与えた.
その結果,相互軌道傾斜角が 1.3 度よりも小さいという可能性は排除した.これは,この値よりも小さい場合は HD 3167d はトランジットを起こすことになるが,トランジットは観測されていないためである.さらに,相互軌道傾斜角が 40 - 60 度では,Kozai-Lidov 振動が系の不安定を増加させるが,最大で 100 Myr の間は安定である.一方,60 度以上では,系は不安定となる.
パラメータ
HD 3167
スペクトル型:K0V有効温度:5261 K
半径:0.86 太陽半径
質量:0.86 太陽質量
距離:45.8 pc
金属量:[Fe/H] = 0.04
HD 3167v
軌道周期:0.959641 日半径:1.70 地球半径
質量:5.02 地球質量
平均密度:5.60 g cm-3
軌道長半径:0.01815 AU
HD 3167c
軌道周期:29.8454 日半径:3.01 地球半径
質量:9.80 地球質量
平均密度:1.97 g cm-3
軌道長半径:0.1795 AU
HD 3167d
軌道周期:8.509 日最小質量:6.90 地球質量
軌道長半径:0.07757 AU
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
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arXiv:1706.06723
Scott Gaudi et al. (2017)
A giant planet undergoing extreme-ultraviolet irradiation by its hot massive-star host
(高温で重い主星による極端紫外線輻射に曝されている巨大惑星)
例えば WASP-33 は有効温度 7430 K の A 型星であり,これまで知られていた中で最も高温なトランジット惑星 WASP-33b を持つ.強い輻射を受けているため,WASP-33b の表面は M 型の赤色矮星と同程度の温度を持つ.WASP-33b は昼側と夜側で大きな温度差があり,また高い日射量と関係していると思われる大きく膨張した半径を持っている.しかしそのような高温の昼側であっても,大気の組成は分子が主体であると考えられ,またその惑星が受けている紫外線輻射の水準からは,大気は主星の寿命の間に大きく蒸発することは考えにくい.
ここでは,明るい恒星 HD 195689 (KELT-9) の観測結果について報告する.
この恒星は軌道周期 1.48 日のトランジット惑星 KELT-9b を持っていることが判明した.中心星 KELT-9 の有効温度は 10170 K であり,スペクトル型では A 型と B 型の境界線付近に位置する.
また,惑星の昼側の温度は 4600 K (~ 4300℃) と測定された.これは K4 主系列星と同程度の温度である.K 型星では分子はほとんど解離されるため,KELT-9b の昼側大気の主要なオパシティ源は原子状金属と考えられる.
さらに,KELT-9b は WASP-33b よりも 700 倍大きな極端紫外線 (91.2 nm より短波長の輻射) を受けている,そのため,予測される質量放出率の取りうる範囲は,中心星が主系列の間に惑星のエンベロープを大きく失う程度の大きさになる.
高温の恒星はスペクトル線が少なく,自転も高速なため,ドップラー法による惑星の確認が困難になる.
有効温度が高い早期 F 型や A 型星の周りで惑星が発見されはじめたのはこの数年である.例えば WASP-33b などがその一例である.WASP-33b の発見によって,高速自転する高温星のまわりのトランジット惑星を,比較的低分散の視線速度観測とドップラートモグラフィー (Doppler tomography) によって検出できることが示された.しかし,惑星を持つ恒星で最も高温だったものでも,有効温度は 7500 K であった.
重い恒星は進化に伴って冷えて自転が遅くなるため,詳細なドップラー観測が可能になる (※冷えることによってスペクトル線が増え,自転が遅くなることでスペクトル線の広がりが狭くなるため).そのため重い恒星周りでの惑星探査は,いわゆる ’retied A-star’,準巨星か巨星に進化した恒星の周りで行われた.
このような恒星の周りでは,太陽型の主系列星に比べて短周期惑星が欠乏していることが知られている.この欠乏の一つの解釈は,重い恒星の周りの惑星の分布は進化していない太陽型星と同じだが,その後の主星の進化の段階で惑星が主星に飲み込まれるか,主星がまだ高温の段階での強い輻射によって蒸発するかして消滅するというものである.
別の解釈は,これらの恒星は実際には太陽と似た質量を持っており,太陽型星は惑星を蒸発させるほどの強い紫外線放射を出さないため,retired A star まわりでの短周期惑星の欠乏はまさに惑星の飲み込みによるものである,とするものである.
そのため,確実に質量が大きいことが分かっている恒星がまだ主系列段階にいる間の短周期惑星の分布を知ることが重要である.これまでには,2 太陽質量よりも重い恒星の周りでのトランジット惑星は知られていなかった.
半径:2.362 太陽半径
光度:53 太陽光度
有効温度:10170 K
金属量:[Fe/H] = -0.03
射影した自転速度:111.4 km s-1
軌道長半径:0.03462 AU
質量:2.88 木星質量
半径:1.891 木星半径
平均密度:0.53 g cm-3
平衡温度:4050 K (アルベド 0,効率的な熱循環仮定した推定値)
入射フラックス:6.11 × 1010 erg s-1 cm-2
spin-orbit alignment:-84.8 度
この恒星は,トランジット惑星を持つ事が知られている A 型星としては 7 番目である.また,トランジットする巨大惑星を持っている恒星としては最も高温で,最も重く,最も光度が大きい.さらに,トランジットするホットジュピターを持つ恒星としては最も明るい V バンド等級を持ち,この等級は HD 209458 より僅かに明るい.
また,z’-band での二次食では食の深さ 0.1% を検出しているが,この結果から大きな熱放射シグナルを検出できた.この二次食の観測からは,昼側の温度は 4600 K と測定された.これは先ほどの平衡温度の推定値よりも高く,昼側から夜側への熱の再分配の効率が悪いことを示唆している.また昼側の表面温度は中期 K 型星に相当する.
KELT-9b は理論モデルよりも大きい半径を持ち,1.9 木星半径である.中心星からの熱の非効率的な再分配と惑星半径の膨張 (どちらも WASP-33b でも見られている) は,中心星からの強力な日射に関係していると考えられるが,確かな物理過程は未だに不明である.
これまでも A 型星まわりに惑星は発見されていて,そのうちのいくつか (WASP-33b など) は表面温度が低質量の恒星程度であることが確認されているが,KELT-9b の表面温度は過去の観測例よりも 1000 K も高温である.またこれまでのトランジット惑星を持つ A 型星と比べると,KELT-9 の有効温度は 2500 K も高温である.
惑星の表面温度が非常に高いため,昼側の吸収源は K 型星のように原子だろうと考えられる.対照的に,他のすべてのトランジット惑星は昼側の温度が < 3850 K であり,分子種が存在するためには十分な低温である.
紫外線フラックスから大気散逸率を推定すると,1010 - 1013 g s-1 となった,この値の上限値からは,惑星は 600 Myr の間にその外側エンベロープを失うと見積もられる (600 Myr は,この恒星が主系列を離れて赤色巨星分枝へ移るまでのおおむねの時間である).
これらの見積もりは,惑星の蒸発の物理は極めて複雑で,特に恒星の活動度が不明であることにより非常に不確定である.いずれにせよ,質量放出率の最も低い側の見積もりであったとしても,散逸する大気はハッブル宇宙望遠鏡での観測で測定できるだろう.
一方で,KELT-9 は 200 Myr のうちにコアでの水素を使い果たし,現在の 2.4 太陽半径から,5 太陽半径へ進化する.同時に,有効温度は 8000 K まで低下する.その後恒星は準巨星分枝へ進化し,有効温度は 5000 K まで低下,半径は 8 太陽半径へ拡大する.
赤色巨星分枝に到達する段階で,KELT-9 の半径は KELT-9b の公転軌道を超える.
恒星と惑星がどうなるかは現段階では全く不明である.
質量放出率が先ほどの見積もりより小さい場合,惑星はガス惑星のままであり,惑星は膨張してきた中心星に飲み込まれる.これは一時的な発光現象を引き起こす.また飲み込みの結果として,惑星の残骸によって供給された,リチウム過剰で異常に高速で自転する赤色巨星となる.
一方で,もし惑星が岩石コアを持っており,この段階で外層が完全に蒸発していた場合は,準巨星の周りを公転するスーパーアースとなる.KELT-9b に類似した,重い高温の恒星を周回する短周期巨大惑星が稀少な存在でないのであれば,準巨星を公転する近接スーパーアース残骸が存在する可能性を示唆する.この予測は今後の Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) ミッションで確かめられるだろう.
しかしドップラートモグラフィーでの観測を行うことで,恒星の自転軸の方向と一致する惑星の影を暫定的に検出した.恒星の自転軸と惑星の公転軸がこのような位置関係になっていた場合,小さい RM シグナルを説明できる.
さらなるデータ処理と 2 回の追加のドップラートモグラフィー測定から,惑星が実際に恒星の自転軸にほぼ沿った方向にトランジットをしていることを確認することが出来た.
論文の元サイト
arXiv:1706.06723
Scott Gaudi et al. (2017)
A giant planet undergoing extreme-ultraviolet irradiation by its hot massive-star host
(高温で重い主星による極端紫外線輻射に曝されている巨大惑星)
概要
これまでに数千個の系外惑星が知られているが,A 型星 (有効温度 7300 - 10000 K) の周囲でのトランジット惑星は 6 個のみが知られていて,さらに高温の B 型星では発見されていない.例えば WASP-33 は有効温度 7430 K の A 型星であり,これまで知られていた中で最も高温なトランジット惑星 WASP-33b を持つ.強い輻射を受けているため,WASP-33b の表面は M 型の赤色矮星と同程度の温度を持つ.WASP-33b は昼側と夜側で大きな温度差があり,また高い日射量と関係していると思われる大きく膨張した半径を持っている.しかしそのような高温の昼側であっても,大気の組成は分子が主体であると考えられ,またその惑星が受けている紫外線輻射の水準からは,大気は主星の寿命の間に大きく蒸発することは考えにくい.
ここでは,明るい恒星 HD 195689 (KELT-9) の観測結果について報告する.
この恒星は軌道周期 1.48 日のトランジット惑星 KELT-9b を持っていることが判明した.中心星 KELT-9 の有効温度は 10170 K であり,スペクトル型では A 型と B 型の境界線付近に位置する.
また,惑星の昼側の温度は 4600 K (~ 4300℃) と測定された.これは K4 主系列星と同程度の温度である.K 型星では分子はほとんど解離されるため,KELT-9b の昼側大気の主要なオパシティ源は原子状金属と考えられる.
さらに,KELT-9b は WASP-33b よりも 700 倍大きな極端紫外線 (91.2 nm より短波長の輻射) を受けている,そのため,予測される質量放出率の取りうる範囲は,中心星が主系列の間に惑星のエンベロープを大きく失う程度の大きさになる.
A 型星周りでの系外惑星探査
初めてのトランジット惑星は,低温な太陽型星の周りで発見された.高温の恒星はスペクトル線が少なく,自転も高速なため,ドップラー法による惑星の確認が困難になる.
有効温度が高い早期 F 型や A 型星の周りで惑星が発見されはじめたのはこの数年である.例えば WASP-33b などがその一例である.WASP-33b の発見によって,高速自転する高温星のまわりのトランジット惑星を,比較的低分散の視線速度観測とドップラートモグラフィー (Doppler tomography) によって検出できることが示された.しかし,惑星を持つ恒星で最も高温だったものでも,有効温度は 7500 K であった.
重い恒星は進化に伴って冷えて自転が遅くなるため,詳細なドップラー観測が可能になる (※冷えることによってスペクトル線が増え,自転が遅くなることでスペクトル線の広がりが狭くなるため).そのため重い恒星周りでの惑星探査は,いわゆる ’retied A-star’,準巨星か巨星に進化した恒星の周りで行われた.
このような恒星の周りでは,太陽型の主系列星に比べて短周期惑星が欠乏していることが知られている.この欠乏の一つの解釈は,重い恒星の周りの惑星の分布は進化していない太陽型星と同じだが,その後の主星の進化の段階で惑星が主星に飲み込まれるか,主星がまだ高温の段階での強い輻射によって蒸発するかして消滅するというものである.
別の解釈は,これらの恒星は実際には太陽と似た質量を持っており,太陽型星は惑星を蒸発させるほどの強い紫外線放射を出さないため,retired A star まわりでの短周期惑星の欠乏はまさに惑星の飲み込みによるものである,とするものである.
そのため,確実に質量が大きいことが分かっている恒星がまだ主系列段階にいる間の短周期惑星の分布を知ることが重要である.これまでには,2 太陽質量よりも重い恒星の周りでのトランジット惑星は知られていなかった.
パラメータ
KELT-9
質量:2.52 太陽質量半径:2.362 太陽半径
光度:53 太陽光度
有効温度:10170 K
金属量:[Fe/H] = -0.03
射影した自転速度:111.4 km s-1
KELT-9b
軌道周期:1.4811235 日軌道長半径:0.03462 AU
質量:2.88 木星質量
半径:1.891 木星半径
平均密度:0.53 g cm-3
平衡温度:4050 K (アルベド 0,効率的な熱循環仮定した推定値)
入射フラックス:6.11 × 1010 erg s-1 cm-2
spin-orbit alignment:-84.8 度
詳細な結果
高温な恒星周りのトランジット惑星
中心星の KELT-9 は有効温度 10170 K と非常に高温で,2.5 太陽質量と重い恒星である.スペクトル型は B9.5 〜 A0 である,また,年齢は 300 Myr (3 億年) である.この年齢の推定値は,この質量の恒星の主系列段階の寿命である 500 Myr より十分若い.そのためこの恒星は retied A-star に進化し始めるより十分前の段階である.この恒星は,トランジット惑星を持つ事が知られている A 型星としては 7 番目である.また,トランジットする巨大惑星を持っている恒星としては最も高温で,最も重く,最も光度が大きい.さらに,トランジットするホットジュピターを持つ恒星としては最も明るい V バンド等級を持ち,この等級は HD 209458 より僅かに明るい.
非常に高温な惑星
中心星が非常に明るく,さらに惑星は恒星に近いため,惑星の平衡温度は非常高くなる.惑星のアルベドをゼロと仮定し,惑星中での完全な熱の再分配を仮定すると,平衡温度は 4050 K となる.これは晩期 K 型星と同程度の温度である.また,z’-band での二次食では食の深さ 0.1% を検出しているが,この結果から大きな熱放射シグナルを検出できた.この二次食の観測からは,昼側の温度は 4600 K と測定された.これは先ほどの平衡温度の推定値よりも高く,昼側から夜側への熱の再分配の効率が悪いことを示唆している.また昼側の表面温度は中期 K 型星に相当する.
KELT-9b は理論モデルよりも大きい半径を持ち,1.9 木星半径である.中心星からの熱の非効率的な再分配と惑星半径の膨張 (どちらも WASP-33b でも見られている) は,中心星からの強力な日射に関係していると考えられるが,確かな物理過程は未だに不明である.
これまでも A 型星まわりに惑星は発見されていて,そのうちのいくつか (WASP-33b など) は表面温度が低質量の恒星程度であることが確認されているが,KELT-9b の表面温度は過去の観測例よりも 1000 K も高温である.またこれまでのトランジット惑星を持つ A 型星と比べると,KELT-9 の有効温度は 2500 K も高温である.
惑星の表面温度が非常に高いため,昼側の吸収源は K 型星のように原子だろうと考えられる.対照的に,他のすべてのトランジット惑星は昼側の温度が < 3850 K であり,分子種が存在するためには十分な低温である.
KELT-9 系の今後の進化
KELT-9 系の将来的な進化は不確実であるが興味深い,KELT-9b が受けている高い紫外線フラックスからは,大気は蒸発していることが示唆される.紫外線フラックスから大気散逸率を推定すると,1010 - 1013 g s-1 となった,この値の上限値からは,惑星は 600 Myr の間にその外側エンベロープを失うと見積もられる (600 Myr は,この恒星が主系列を離れて赤色巨星分枝へ移るまでのおおむねの時間である).
これらの見積もりは,惑星の蒸発の物理は極めて複雑で,特に恒星の活動度が不明であることにより非常に不確定である.いずれにせよ,質量放出率の最も低い側の見積もりであったとしても,散逸する大気はハッブル宇宙望遠鏡での観測で測定できるだろう.
一方で,KELT-9 は 200 Myr のうちにコアでの水素を使い果たし,現在の 2.4 太陽半径から,5 太陽半径へ進化する.同時に,有効温度は 8000 K まで低下する.その後恒星は準巨星分枝へ進化し,有効温度は 5000 K まで低下,半径は 8 太陽半径へ拡大する.
赤色巨星分枝に到達する段階で,KELT-9 の半径は KELT-9b の公転軌道を超える.
恒星と惑星がどうなるかは現段階では全く不明である.
質量放出率が先ほどの見積もりより小さい場合,惑星はガス惑星のままであり,惑星は膨張してきた中心星に飲み込まれる.これは一時的な発光現象を引き起こす.また飲み込みの結果として,惑星の残骸によって供給された,リチウム過剰で異常に高速で自転する赤色巨星となる.
一方で,もし惑星が岩石コアを持っており,この段階で外層が完全に蒸発していた場合は,準巨星の周りを公転するスーパーアースとなる.KELT-9b に類似した,重い高温の恒星を周回する短周期巨大惑星が稀少な存在でないのであれば,準巨星を公転する近接スーパーアース残骸が存在する可能性を示唆する.この予測は今後の Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) ミッションで確かめられるだろう.
データの偽陽性解析
KELT-9 の観測では,最初のトランジット時の分光観測では,非常に弱い Rossiter-McLaughlin (RM) シグナルが得られた.これは非常にノイズが多いデータであった.観測されているトランジット深さと恒星の射影した自転速度の大きさから考えると,この RM シグナルの欠乏は驚くべきことであった.そのため初めはこの系は偽陽性であると考えていた.しかしドップラートモグラフィーでの観測を行うことで,恒星の自転軸の方向と一致する惑星の影を暫定的に検出した.恒星の自転軸と惑星の公転軸がこのような位置関係になっていた場合,小さい RM シグナルを説明できる.
さらなるデータ処理と 2 回の追加のドップラートモグラフィー測定から,惑星が実際に恒星の自転軸にほぼ沿った方向にトランジットをしていることを確認することが出来た.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1706.01278
Villaver et al. (2017)
Tracking Advanced Planetary Systems (TAPAS) with HARPS-N. V.: A Massive Jupiter orbiting the very low metallicity giant star BD+03 2562 and a possible planet around HD 103485
(HAPRS-N での Tracking Advanced Planetary Systems (TAPAS).V:超低金属の巨星 BD+03 2562 を公転する重い木星型惑星と HD 103485 周りの惑星候補)
観測と解析の結果,太陽に似た質量を持つ低金属量の恒星 HD 103485 と BD+03 2562 の周りに惑星と思われるシグナルを検出した.ただし HD 103485 に関しては,恒星の活度領域に由来する,自転による変動の可能性を完全には排除できなかった.BD+03 2562 のシグナルは惑星由来であると考えられる.
金属量:[Fe/H] = -0.50
質量:1.11 太陽質量
半径:27.37 太陽半径
距離:1134 pc
年齢:109.79 年
シグナルを惑星だと解釈した場合,軌道周期が 557.1 日,軌道離心率が 0.34,最小質量が 7 木星質量,軌道長半径が 1.4 AU となる.
金属量:[Fe/H] = -0.71
質量:1.14 太陽質量
半径:32.35 太陽半径
距離:2618 pc
年齢:109.72 年
軌道離心率:0.20
最小質量:6.4 木星質量
軌道長半径:1.3 AU
arXiv:1706.01278
Villaver et al. (2017)
Tracking Advanced Planetary Systems (TAPAS) with HARPS-N. V.: A Massive Jupiter orbiting the very low metallicity giant star BD+03 2562 and a possible planet around HD 103485
(HAPRS-N での Tracking Advanced Planetary Systems (TAPAS).V:超低金属の巨星 BD+03 2562 を公転する重い木星型惑星と HD 103485 周りの惑星候補)
概要
HARPS-N での Tracking Advanced PlAnetary Systems (TAPAS) プロジェクトから,2 つの進化した恒星の視線速度観測データを取得した.惑星を持つ進化した恒星は,主星の質量と金属量による惑星形成機構の依存性と,恒星-惑星相互作用を研究する対象として重要である.ここでは,詳細な視線速度測定の結果に基づく結果を報告する.観測と解析の結果,太陽に似た質量を持つ低金属量の恒星 HD 103485 と BD+03 2562 の周りに惑星と思われるシグナルを検出した.ただし HD 103485 に関しては,恒星の活度領域に由来する,自転による変動の可能性を完全には排除できなかった.BD+03 2562 のシグナルは惑星由来であると考えられる.
パラメータ
HD 103485 系
HD 103485
有効温度:4097 K金属量:[Fe/H] = -0.50
質量:1.11 太陽質量
半径:27.37 太陽半径
距離:1134 pc
年齢:109.79 年
シグナルを惑星だと解釈した場合,軌道周期が 557.1 日,軌道離心率が 0.34,最小質量が 7 木星質量,軌道長半径が 1.4 AU となる.
BD+03 2562 系
BD+03 2562
有効温度:4095 K金属量:[Fe/H] = -0.71
質量:1.14 太陽質量
半径:32.35 太陽半径
距離:2618 pc
年齢:109.72 年
BD+03 2562b
軌道周期:481.9 日軌道離心率:0.20
最小質量:6.4 木星質量
軌道長半径:1.3 AU
天文・宇宙物理関連メモ vol.389 Gillon et al. (2017) TRAPPIST-1 まわりの 7 つの惑星の発見
天文・宇宙物理関連メモ vol.408 Lugar et al. (2017) ケプラーのデータによる TRAPPIST-1h の軌道周期の決定