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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1704.00203
Winn et al. (2017)
Absence of a metallicity effect for ultra-short-period planets
(超短周期惑星における金属量の効果の欠如)
超短周期惑星は,光蒸発 (photoevaporation) かロッシュローブオーバーフロー (Roche lobe overflow) によってガスエンベロープを失ったホットジュピターの固体コアだとする説が提案されている.ここでは,超短周期惑星が金属豊富な恒星に伴って存在しているかを調べることにより,この仮説を検証した.恒星の金属量と惑星の存在頻度の関係は,ホットジュピターに対しては顕著に見られる関係性である.
解析の結果,超短周期惑星を持つ恒星の金属量分布と,ホットジュピターを持つ恒星の金属量分布は大きく異なることを発見した.これはケプラーで発見された惑星を持つ恒星の,Keck 望遠鏡での分光観測データから得られている金属量に基づくものである.
この結果は,発見されている超短周期惑星の大部分は,ホットジュピターの蒸発したコアで占められていないことを示すものである.なお,超短周期惑星を持つ恒星の金属量分布は,2 - 4 地球半径の短周期惑星を持つ恒星の金属量分布とは区別の付かないものであった.そのため,「超短周期惑星はかつてはガスを持つサブネプチューンクラスだった惑星の固体コアである.という可能性は残される.
arXiv:1704.00203
Winn et al. (2017)
Absence of a metallicity effect for ultra-short-period planets
(超短周期惑星における金属量の効果の欠如)
概要
超短周期 (Ultra-short-period, USP) 惑星は,軌道周期が 1 日よりも短く,半径が 2 地球半径よりも小さい,近年新しく認識された惑星の分類である.超短周期惑星は,光蒸発 (photoevaporation) かロッシュローブオーバーフロー (Roche lobe overflow) によってガスエンベロープを失ったホットジュピターの固体コアだとする説が提案されている.ここでは,超短周期惑星が金属豊富な恒星に伴って存在しているかを調べることにより,この仮説を検証した.恒星の金属量と惑星の存在頻度の関係は,ホットジュピターに対しては顕著に見られる関係性である.
解析の結果,超短周期惑星を持つ恒星の金属量分布と,ホットジュピターを持つ恒星の金属量分布は大きく異なることを発見した.これはケプラーで発見された惑星を持つ恒星の,Keck 望遠鏡での分光観測データから得られている金属量に基づくものである.
この結果は,発見されている超短周期惑星の大部分は,ホットジュピターの蒸発したコアで占められていないことを示すものである.なお,超短周期惑星を持つ恒星の金属量分布は,2 - 4 地球半径の短周期惑星を持つ恒星の金属量分布とは区別の付かないものであった.そのため,「超短周期惑星はかつてはガスを持つサブネプチューンクラスだった惑星の固体コアである.という可能性は残される.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1703.10769
Nagakane et al. (2017)
MOA-2012-BLG-505Lb: A super-Earth mass planet in the Galactic bulge
(MOA-2012-BLG-505Lb:銀河バルジ内のスーパーアース質量惑星)
この系は,マイクロレンズイベントにありがちな close/wide の縮退がある.惑星と中心星の質量比は 2.1 × 10-4である.中心星と惑星の射影間隔は,アインシュタイン半径で規格化して 1.1 か 0.9 となった.前者が wide の解,後者が close の解に対応している.
また,ベイズ解析を用いてこの系の物理パラメータを推定した.その結果,レンズ天体 MOA-2012-BLG-505L は 0.10 (+0.16, -0.05) 太陽質量を持つ,褐色矮星もしくは晩期 M 型星であり,惑星質量は 6.7 地球質量.恒星と惑星の間隔は 0.9 AU と推定される.
惑星が検出されたレンズ天体系は 7.2 kpc の距離にあるため,この系は銀河バルジの中にあると考えられる.測定された小さなアインシュタイン角半径 (0.12 mas) と,短いレンズイベントのタイムスケールは,銀河バルジ内での低質量のレンズイベントに典型的な特徴である.
短いマイクロレンズイベントでの惑星の検出効率は比較的低いため,銀河バルジ中の低質量惑星系は検出が難しく珍しい.今回の発見は,このような低質量の惑星系は銀河バルジ内には豊富に存在することを示唆するものである.現在進行中の高頻度サーベイ観測によって,このような惑星系の存在度が明らかになるだろう.
arXiv:1703.10769
Nagakane et al. (2017)
MOA-2012-BLG-505Lb: A super-Earth mass planet in the Galactic bulge
(MOA-2012-BLG-505Lb:銀河バルジ内のスーパーアース質量惑星)
概要
MOA-2012-BLG-505 の重力マイクロレンズイベント中に,スーパーアース質量の惑星 MOA-2012-BLG-505Lb を発見した.このイベントは,惑星質量の伴星の兆候が見られるレンズイベントの中では,2 番目に短いイベントタイムスケール 10 ± 1 日であった.15 分ペースの高頻度サーベイ観測スケジュールのおかげで,短く微細な惑星によるシグナルを捉えることが出来た.この系は,マイクロレンズイベントにありがちな close/wide の縮退がある.惑星と中心星の質量比は 2.1 × 10-4である.中心星と惑星の射影間隔は,アインシュタイン半径で規格化して 1.1 か 0.9 となった.前者が wide の解,後者が close の解に対応している.
また,ベイズ解析を用いてこの系の物理パラメータを推定した.その結果,レンズ天体 MOA-2012-BLG-505L は 0.10 (+0.16, -0.05) 太陽質量を持つ,褐色矮星もしくは晩期 M 型星であり,惑星質量は 6.7 地球質量.恒星と惑星の間隔は 0.9 AU と推定される.
惑星が検出されたレンズ天体系は 7.2 kpc の距離にあるため,この系は銀河バルジの中にあると考えられる.測定された小さなアインシュタイン角半径 (0.12 mas) と,短いレンズイベントのタイムスケールは,銀河バルジ内での低質量のレンズイベントに典型的な特徴である.
短いマイクロレンズイベントでの惑星の検出効率は比較的低いため,銀河バルジ中の低質量惑星系は検出が難しく珍しい.今回の発見は,このような低質量の惑星系は銀河バルジ内には豊富に存在することを示唆するものである.現在進行中の高頻度サーベイ観測によって,このような惑星系の存在度が明らかになるだろう.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1703.10250
Pepper et al. (2017)
A Low-Mass Exoplanet Candidate Detected By K2 Transiting the Praesepe M Dwarf JS 183
(プレセペ星団の M 型矮星 JS 183 をトランジットする K2 によって検出された低質量系外惑星候補)
シグナルが検出された恒星は JS 183 (別名:HSHJ 163,EPIC 211016756) である.有効温度は 3325 K.0.44 太陽質量,0.44 太陽半径である.
惑星の軌道周期は 10.134588 日であり,サイズは 0.32 木星半径である.
中心星は暗く,V バンド等級が 16.5,J バンド等級が 13.3 であったため,視線速度の測定は得られず,惑星質量の得られなかった.しかし惑星質量に対して 1.7 木星質量という上限を与えた.そのため,惑星の上限質量を十分下回っている.
JS 183b (もしくは K2-95b と呼称) は,年齢が数百万年の散開星団中にケプラーの K2 ミッションによって発見された 2 番目のトランジット惑星である.どちらもおおよそ海王星サイズであり,中期 M 型星を公転している.
惑星のトランジットから恒星の密度は精度よく決定されている.この恒星密度と,星団内の恒星の観測から独立して得られている恒星の金属量から,JS 183 は全対流を起こす質量の境界付近での恒星モデルを検証するのに適した対象である.JS 183 は全対流を起こすパラメータの境界に位置する恒星であり,トランジット惑星を持っている恒星の中では最も低密度の恒星である.
半径:0.44 太陽半径
有効温度:3350 K
金属量:[Fe/H] = 0.1
質量:1.67 木星質量未満
平衡温度:480 K
arXiv:1703.10250
Pepper et al. (2017)
A Low-Mass Exoplanet Candidate Detected By K2 Transiting the Praesepe M Dwarf JS 183
(プレセペ星団の M 型矮星 JS 183 をトランジットする K2 によって検出された低質量系外惑星候補)
概要
プレセペ星団中の低質量の恒星における反復的な測光シグナルの発見を報告する.このシグナルは,海王星サイズのトランジット惑星によるものと解釈される.シグナルが検出された恒星は JS 183 (別名:HSHJ 163,EPIC 211016756) である.有効温度は 3325 K.0.44 太陽質量,0.44 太陽半径である.
惑星の軌道周期は 10.134588 日であり,サイズは 0.32 木星半径である.
中心星は暗く,V バンド等級が 16.5,J バンド等級が 13.3 であったため,視線速度の測定は得られず,惑星質量の得られなかった.しかし惑星質量に対して 1.7 木星質量という上限を与えた.そのため,惑星の上限質量を十分下回っている.
JS 183b (もしくは K2-95b と呼称) は,年齢が数百万年の散開星団中にケプラーの K2 ミッションによって発見された 2 番目のトランジット惑星である.どちらもおおよそ海王星サイズであり,中期 M 型星を公転している.
惑星のトランジットから恒星の密度は精度よく決定されている.この恒星密度と,星団内の恒星の観測から独立して得られている恒星の金属量から,JS 183 は全対流を起こす質量の境界付近での恒星モデルを検証するのに適した対象である.JS 183 は全対流を起こすパラメータの境界に位置する恒星であり,トランジット惑星を持っている恒星の中では最も低密度の恒星である.
パラメータ
JS 183
質量:0.44 太陽質量半径:0.44 太陽半径
有効温度:3350 K
金属量:[Fe/H] = 0.1
K2-95b (JS 183b)
半径:0.32 木星半径質量:1.67 木星質量未満
平衡温度:480 K
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1703.10130
Vida et al. (2017)
Frequent flaring in the TRAPPIST-1 system - unsuited for life?
(TRAPPIST-1 系での頻繁なフレア - 生命には不向きか?)
観測データのフーリエ解析の結果,TRAPPIST-1 の自転周期は 3.295 日であることが示唆された.
また,観測された光度曲線中には複数のフレアが見られる.42 回のフレアイベントを解析し,フレアのエネルギーは 1.26 × 1030 - 1.24 × 1033 erg の範囲であった.
解析した全フレアのうち,およそ 12%は複雑な形状の複数ピークを持つフレア爆発であった.フレア現象と,自転に起因すると思われる明るさの変動の間には,明確な相関は見られなかった.
TRAPPIST-1 のフレア活動は周囲を公転する惑星の大気に対して継続的に影響を与える可能性がある.そのため,周囲の惑星で生命を保持するには不利になる可能性がある.
なお,Gillon et al. (2016) では地上からの TRAPPIST 望遠鏡の観測から 1.40 日周期の変動の存在を報告している.この値は,測定された視線速度 6 ± 2 km s-1 (Reiners & Basri 2010) に対応しており,傾斜角 90°,半径 0.117 太陽半径 (Gillon et al. 2016) とすると恒星の自転周期が 0.9866 日 (誤差を考慮すると 0.74 - 1.48 日) であることに対応する.しかし,K2 光度曲線のフーリエスペクトルからは,似た自転周期を示す特徴は見られなかった.
次に明確なピークは 2.915 日周期に見られた.このような自転周波数に近いシグナルは,しばしば恒星の差動回転によって生じることがある.しかし観測された二番目の周期を差動回転で説明するためには,強い表面のシア (P1 - P2)/P平均 ~ 0.12 を必要とし,この値は高速自転している恒星では難しい.また,おそらく恒星内部全体が対流している M 型星にも難しい.
その他には,22.3 日と 37.5 日の長い周期も存在する.しかし,これは実際のシグナルかどうかは疑わしい.
各フレアイベントのエネルギーは,全イベント中最も弱いものは 1.26 × 1030 erg であった.また,最も強い爆発では 1.24 × 1033 erg であった.
あるエネルギー範囲 E 〜 E + dE の値を持つフレアの回数を dN とした場合,dN(E) ∝ E-α dE というべき乗則が見られることが知られている (Hawley et al. 2014など).これを積分することにより,フレアの累積度数分布は log ν = α + β logE となる.ここで ν はあるエネルギー E より大きいエネルギーを持つフレアの累積度数である.また β = 1 - α (Gizis et al. 2017) である.
この関係式は線形関数でフィッティングすることができ,傾き 1 - α を与える.この α は,フレアのエネルギーがどう散逸しているかを特徴付けるのによく用いられる.今回のデータのベストフィットでは α = 1.59 となり,TRAPPIST-1 のフレアエネルギーは大部分が非熱的であることを示す結果である (Aschwanden et al. 2016参照).これは Hawley et al. (2014) のサンプル中における,その他の非常に活発な M 型矮星の特徴と類似している.
また,TRAPPIST-1 表面の黒点のある領域とフレアの関係性についても考察した.フーリエスペクトル中に見られた周期が,黒点を持つ表面の自転による変動だと考えた場合,低温の黒点とフレアの活動の関係性について調べることが出来る.これにより,太陽でも見られるような,光球活動と彩層活動の関係を示唆出来る可能性がある.
解析のため,光度曲線やフレアの発生個数を TRAPPIST-1 の自転周期で区切り,重ねてプロットした.その結果,フレアは自転周期のどの段階でも発生している事が分かった.しかし,光度曲線が極小を迎える辺りでいくらかフレアの発生頻度が高いように思われる.光度曲線が極小になる時というのは,見えている表面の黒点数が最も多い状態に対応している.
興味深いことに,最も強いクラスのフレアは光度曲線の極大周辺でよく起きているように思われる.この特徴は,TRAPPIST-1 よりはいくらか高温だが,同じく恒星内部で全体対流をしている M4 型星 V374 Peg で見られる振る舞いと非常に似ている (Vida et al. 2016).
TRAPPIST-1 の静穏なフェーズでは,1 地球質量の惑星にとっての保守的なハビタブルゾーン (conservative habitable zone) は,TRAPPIST-1 から 0.024 - 0.049 AU の範囲である.(TRAPPIST-1 の有効温度は 2550 K,光度は 0.000525 太陽光度).
フレアの間は TRAPPIST-1 の等級は 1 - 1.5 上昇し,光度は 0.0013 - 0.0021 太陽光度になる.これを元に計算すると,ハビタブルゾーンの範囲は 0.038 - 0.077 AU から 0.048 - 0.097 AU の範囲と取りうる.これは非常に大きな変化である.この議論は大雑把な見積もりではあるが,TRAPPIST-1 やその他の晩期型矮星の周りでの生命存在可能性には不利な結果である.ただし,将来の TRAPPIST-1 系の分光観測により,惑星大気に中心星の磁気的活動が与える影響と,惑星の磁場との相互作用を理解する手助けになるだろう.
惑星が十分に強い磁場を持っていた場合,フレア爆発現象による有害な効果を防ぐ可能性がある.
Kay et al. (2016) によると,M 型星における典型的なコロナ質量放出の質量と速度の場合,大気への影響を防ぐためには,地球型惑星は数十から数百ガウスの磁場を持っている必要があるが,ホットジュピターは数ガウスから 30 ガウスでよいとされている.また,岩石惑星はこれらのフレアから大気を保持するのに十分な磁場を持つことが出来ないと結論づけている (例えば地球は 0.5 ガウス程度).
さらに,典型的な太陽フレアのエネルギーは 1027 - 1032 erg である.最も高エネルギーなイベントの一つは,キャリントンイベント (Carrington Event) として知られる 1859 年に発生したフレアで,この時のエネルギーは 1033 erg である.このフレアは,地上にまで到達する最も強い磁気嵐を引き起こした.
このような高エネルギーのフレアと,それに伴うコロナ質量放出 (Coronal mass ejection, CME) は,TRAPPIST-1 ではもっと頻繁に発生する.また,太陽と地球に比べさらに近い距離で惑星の地表に到達する.(TRAPPIST-1 まわりの惑星の軌道長半径は 0.011 - 0.063 AU の範囲 (Gillon et al. 2017)).これにより,TRAPPIST-1 の系外惑星系で発生しうる磁気嵐は,地球で起きた最も強力な磁気嵐の 100 - 10000 倍になりうる.そのため,この系での複雑に発展した生命の存在可能性には疑問符が付く.
先日複数の地球型惑星が発見された TRAPPIST-1 系の,ケプラーによる観測結果の解析です.ケプラーによる観測では TRAPPIST-1 が頻繁に高エネルギーのフレアを起こしていることが確認されました.そのため,TRAPPIST-1 周囲の惑星はたとえハビタブルゾーンの中にあったとしても,生命の存在には厳しい環境にある可能性がここでは指摘されています.
arXiv:1703.10130
Vida et al. (2017)
Frequent flaring in the TRAPPIST-1 system - unsuited for life?
(TRAPPIST-1 系での頻繁なフレア - 生命には不向きか?)
概要
TRAPPIST-1 系のケプラー K2 ミッションで得られた光度曲線を解析した結果を報告する.観測データのフーリエ解析の結果,TRAPPIST-1 の自転周期は 3.295 日であることが示唆された.
また,観測された光度曲線中には複数のフレアが見られる.42 回のフレアイベントを解析し,フレアのエネルギーは 1.26 × 1030 - 1.24 × 1033 erg の範囲であった.
解析した全フレアのうち,およそ 12%は複雑な形状の複数ピークを持つフレア爆発であった.フレア現象と,自転に起因すると思われる明るさの変動の間には,明確な相関は見られなかった.
TRAPPIST-1 のフレア活動は周囲を公転する惑星の大気に対して継続的に影響を与える可能性がある.そのため,周囲の惑星で生命を保持するには不利になる可能性がある.
解析結果
光度曲線のフーリエ解析
光度曲線のフーリエ解析の結果,最も明確なピークは 3.293 日周期で見られた.これは Luger et al. (2017) で発見されていた変動と同一のものである.この変動は,黒点を持つ恒星の自転による変動である考えられる.なお,Gillon et al. (2016) では地上からの TRAPPIST 望遠鏡の観測から 1.40 日周期の変動の存在を報告している.この値は,測定された視線速度 6 ± 2 km s-1 (Reiners & Basri 2010) に対応しており,傾斜角 90°,半径 0.117 太陽半径 (Gillon et al. 2016) とすると恒星の自転周期が 0.9866 日 (誤差を考慮すると 0.74 - 1.48 日) であることに対応する.しかし,K2 光度曲線のフーリエスペクトルからは,似た自転周期を示す特徴は見られなかった.
次に明確なピークは 2.915 日周期に見られた.このような自転周波数に近いシグナルは,しばしば恒星の差動回転によって生じることがある.しかし観測された二番目の周期を差動回転で説明するためには,強い表面のシア (P1 - P2)/P平均 ~ 0.12 を必要とし,この値は高速自転している恒星では難しい.また,おそらく恒星内部全体が対流している M 型星にも難しい.
その他には,22.3 日と 37.5 日の長い周期も存在する.しかし,これは実際のシグナルかどうかは疑わしい.
光度曲線中のフレア
K2 の光度曲線中には強いフレア活動が見られ,全部で 42 回のフレアイベントを同定した.これらのフレアイベントのうち,5 回 (12%) は複雑な複数ピークを持つ爆発であった.この割合は,M4 型星 GJ 1243 でのさらに多くの回数のフレアを観測した結果から得られた割合と非常に似ている (Silverberg et al. 2016).各フレアイベントのエネルギーは,全イベント中最も弱いものは 1.26 × 1030 erg であった.また,最も強い爆発では 1.24 × 1033 erg であった.
あるエネルギー範囲 E 〜 E + dE の値を持つフレアの回数を dN とした場合,dN(E) ∝ E-α dE というべき乗則が見られることが知られている (Hawley et al. 2014など).これを積分することにより,フレアの累積度数分布は log ν = α + β logE となる.ここで ν はあるエネルギー E より大きいエネルギーを持つフレアの累積度数である.また β = 1 - α (Gizis et al. 2017) である.
この関係式は線形関数でフィッティングすることができ,傾き 1 - α を与える.この α は,フレアのエネルギーがどう散逸しているかを特徴付けるのによく用いられる.今回のデータのベストフィットでは α = 1.59 となり,TRAPPIST-1 のフレアエネルギーは大部分が非熱的であることを示す結果である (Aschwanden et al. 2016参照).これは Hawley et al. (2014) のサンプル中における,その他の非常に活発な M 型矮星の特徴と類似している.
また,TRAPPIST-1 表面の黒点のある領域とフレアの関係性についても考察した.フーリエスペクトル中に見られた周期が,黒点を持つ表面の自転による変動だと考えた場合,低温の黒点とフレアの活動の関係性について調べることが出来る.これにより,太陽でも見られるような,光球活動と彩層活動の関係を示唆出来る可能性がある.
解析のため,光度曲線やフレアの発生個数を TRAPPIST-1 の自転周期で区切り,重ねてプロットした.その結果,フレアは自転周期のどの段階でも発生している事が分かった.しかし,光度曲線が極小を迎える辺りでいくらかフレアの発生頻度が高いように思われる.光度曲線が極小になる時というのは,見えている表面の黒点数が最も多い状態に対応している.
興味深いことに,最も強いクラスのフレアは光度曲線の極大周辺でよく起きているように思われる.この特徴は,TRAPPIST-1 よりはいくらか高温だが,同じく恒星内部で全体対流をしている M4 型星 V374 Peg で見られる振る舞いと非常に似ている (Vida et al. 2016).
議論
TRAPPIST-1 のフレア活動が,周囲の惑星の生命存在可能性 (habitability) に与える影響について簡単に議論する.ここでは,Kopparapu et al. (2013) によるハビタブルゾーンのモデルをベースにした議論を行う.TRAPPIST-1 の静穏なフェーズでは,1 地球質量の惑星にとっての保守的なハビタブルゾーン (conservative habitable zone) は,TRAPPIST-1 から 0.024 - 0.049 AU の範囲である.(TRAPPIST-1 の有効温度は 2550 K,光度は 0.000525 太陽光度).
フレアの間は TRAPPIST-1 の等級は 1 - 1.5 上昇し,光度は 0.0013 - 0.0021 太陽光度になる.これを元に計算すると,ハビタブルゾーンの範囲は 0.038 - 0.077 AU から 0.048 - 0.097 AU の範囲と取りうる.これは非常に大きな変化である.この議論は大雑把な見積もりではあるが,TRAPPIST-1 やその他の晩期型矮星の周りでの生命存在可能性には不利な結果である.ただし,将来の TRAPPIST-1 系の分光観測により,惑星大気に中心星の磁気的活動が与える影響と,惑星の磁場との相互作用を理解する手助けになるだろう.
惑星が十分に強い磁場を持っていた場合,フレア爆発現象による有害な効果を防ぐ可能性がある.
Kay et al. (2016) によると,M 型星における典型的なコロナ質量放出の質量と速度の場合,大気への影響を防ぐためには,地球型惑星は数十から数百ガウスの磁場を持っている必要があるが,ホットジュピターは数ガウスから 30 ガウスでよいとされている.また,岩石惑星はこれらのフレアから大気を保持するのに十分な磁場を持つことが出来ないと結論づけている (例えば地球は 0.5 ガウス程度).
さらに,典型的な太陽フレアのエネルギーは 1027 - 1032 erg である.最も高エネルギーなイベントの一つは,キャリントンイベント (Carrington Event) として知られる 1859 年に発生したフレアで,この時のエネルギーは 1033 erg である.このフレアは,地上にまで到達する最も強い磁気嵐を引き起こした.
このような高エネルギーのフレアと,それに伴うコロナ質量放出 (Coronal mass ejection, CME) は,TRAPPIST-1 ではもっと頻繁に発生する.また,太陽と地球に比べさらに近い距離で惑星の地表に到達する.(TRAPPIST-1 まわりの惑星の軌道長半径は 0.011 - 0.063 AU の範囲 (Gillon et al. 2017)).これにより,TRAPPIST-1 の系外惑星系で発生しうる磁気嵐は,地球で起きた最も強力な磁気嵐の 100 - 10000 倍になりうる.そのため,この系での複雑に発展した生命の存在可能性には疑問符が付く.
先日複数の地球型惑星が発見された TRAPPIST-1 系の,ケプラーによる観測結果の解析です.ケプラーによる観測では TRAPPIST-1 が頻繁に高エネルギーのフレアを起こしていることが確認されました.そのため,TRAPPIST-1 周囲の惑星はたとえハビタブルゾーンの中にあったとしても,生命の存在には厳しい環境にある可能性がここでは指摘されています.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1703.09711
Nelson et al. (2017)
Evidence for Two Hot Jupiter Formation Paths
(2 つのホットジュピター形成過程の証拠)
これまで行われてきた系外惑星の視線速度法とトランジット法でのサーベイ観測からは,数百個ものホットジュピターが検出されている.これらを考慮し,データ主導的な手法を用いてホットジュピターの形成に関する問題を再検討した.ここではいくるかの系外惑星サーベイのデータを使用 (視線速度サーベイ,ケプラー,HAT,WASP).
その結果,ここで選択したモデルの制約の範囲内で,ケプラーと視線速度のデータは,ロッシュ間隔の 2 倍付近での lower cutoff を持つ,単一の truncated power law 分布によってよく説明できると判明した.しかし,HAT と WASP のデータは複数の population の兆候を示した.
解析の結果,ホットジュピターのうち 15 (+9, -6)%が円盤内の惑星移動による形成と整合的であり,85 (+6, -9)%が高軌道離心率軌道経由の移動と整合的となった.なお,観測から分かっている中心星の幾つかの特徴との強い関係性は発見できなかった.
また,将来の系外惑星サーベイでホットジュピターの population に関する推定をどのように改善できるかについても議論した.
arXiv:1703.09711
Nelson et al. (2017)
Evidence for Two Hot Jupiter Formation Paths
(2 つのホットジュピター形成過程の証拠)
概要
円盤内の惑星移動 (disk migration) と高軌道離心率軌道経由の移動 (high-eccentricity migration) は,ホットジュピターの形成を説明するための有名な理論である.前者の説は,ホットジュピターは惑星と恒星のロッシュ間隔まで移動することを予言し,後者はロッシュ間隔の 2 倍の最小距離で潮汐的に円軌道化されることを予言する.これまで行われてきた系外惑星の視線速度法とトランジット法でのサーベイ観測からは,数百個ものホットジュピターが検出されている.これらを考慮し,データ主導的な手法を用いてホットジュピターの形成に関する問題を再検討した.ここではいくるかの系外惑星サーベイのデータを使用 (視線速度サーベイ,ケプラー,HAT,WASP).
その結果,ここで選択したモデルの制約の範囲内で,ケプラーと視線速度のデータは,ロッシュ間隔の 2 倍付近での lower cutoff を持つ,単一の truncated power law 分布によってよく説明できると判明した.しかし,HAT と WASP のデータは複数の population の兆候を示した.
解析の結果,ホットジュピターのうち 15 (+9, -6)%が円盤内の惑星移動による形成と整合的であり,85 (+6, -9)%が高軌道離心率軌道経由の移動と整合的となった.なお,観測から分かっている中心星の幾つかの特徴との強い関係性は発見できなかった.
また,将来の系外惑星サーベイでホットジュピターの population に関する推定をどのように改善できるかについても議論した.
天体名に付いている JS は,プレセペ星団内の恒星を詳細に観測した論文 Jones & Stauffer (1991) から取られている.ここでは全 765 個のプレセペ星団内の恒星がカタログ化されており,NGC 2632 JS 183 という表記がされる場合もある (NGC 2632 はプレセペ星団の別名).
また,別名の HSHJ は,同じくプレセペ星団内の恒星を詳細に観測した論文 Hambly et al. (1995) から来ている.この論文の著者は Hambly, Steele, Hawkins, Jameson であり.頭文字を取って HSHJ [番号] としている.この論文中では 515 個の恒星がカタログ化されており,NGC 2632 HSHJ 163 という表記がされる場合もある.