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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1609.03906
Sedaghati et al. (2016)
Potassium detection in the clear atmosphere of a hot-Jupiter: FORS2 transmission spectroscopy of WASP-17b
(ホットジュピターの晴れた大気中のカリウムの検出:WASP-17b の FORS2 透過光分光)

概要

欧州南天天文台 (European Southern Observatory, ESO) の Very Large Telescope (VLT) にある FORS2 を用いて,WASP-17b のトランジット時の透過光分光観測を行った.

各波長をあわせた "白色光" でのトランジット光度曲線から,トランジットパラメータを改善した.また,各波長帯ごとのトランジット光度曲線を取得した.5700 - 8000 Å の間を,100 Å 間隔で分解した.

透過スペクトルから,3 σ 以上の確度で平坦なスペクトルである可能性を排除した.また,ナトリウムのスペクトルの,圧力で広がったスペクトル線のウィングと思われるものをわずかに検出した.さらに,3 σ の確度で,高層大気におけるカリウムの吸収線のウィングを検出した

この 2 つの結果から,この惑星の大気は比較的浅い温度勾配を持っていることが示唆される.

今回の結果は,過去のこの惑星の大気の研究と概ね整合的である.しかし,過去のカリウム測定に関しては結論が出ない.

WASP-17b について

発見は Anderson et al. (2010) による.非常に低密度なガス惑星であり,軌道周期は 3.74 日である.軌道はおそらく中心星の自転に対して逆行している.

中心星は等級が 11.6 の F6V 型の恒星である.

惑星は 0.486 木星質量,1.991 木星半径であり (Anderson et al. 2011),極めて膨張したホットジュピターである.平均密度は木星の 6%であり,平衡温度は 1771 K である.

観測結果

ナトリウムに関しては,スペクトル線のウィングが辛うじて検出されたという状態である.存在を排除も確定も出来ていない.
カリウムはスペクトル線のウィングを検出した.

スペクトル線の検出より,雲の多い大気を持っている可能性は 3 σ 以上の確度で否定できる.また,レイリー散乱スロープより,大気の平均分子量の推定を行った結果,水素分子が多いモデルと整合的であった.







(※私見…一応 "検出" としているものの,かなり微妙な結果.カリウムに関してはスペクトル線のウィングと言えなくもない.)

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1609.02767
Hartmann et al. (2016)
HAT-P-65b and HAT-P-66b: Two Transiting Inflated Hot Jupiters and Observational Evidence for the Re-Inflation of Close-In Giant Planets
(HAT-P-65b と HAT-P-66b:2 つのトランジットする膨張したホットジュピターと近接ガス惑星の再膨張の観測的証拠)

概要

HAT-P-65bHAT-P-66b の 2 つのトランジット惑星の発見を報告する.軌道周期はそれぞれ 2.6055 日,2.9721 日,質量は 0.527 木星質量と 0.783 木星質量である.半径は 1.89 木星半径と 1.59 木星半径と,大きく膨張した半径を持つ惑星である.
それぞれの中心星は主系列の転回点 (turnoff) にいる.


また,ガス惑星の半径が惑星の平衡温度との相関を持つのは有名だが,中心星が進化して明るくなるのに従って惑星半径が大きくなるか否かは未解決の問題である.ここでは,多数の近接惑星のサンプルの分析を行い,惑星半径と中心星の fractional age との間に統計的な有意な相関があることを発見した.この相関の誤検出確率はわずか 0.0041%である.

この相関は,これまでに知られている惑星半径と現在の惑星の平衡温度の相関によって説明することが出来る.しかし,仮に中心星が主系列星になったばかりの時 (zero age main sequence, ZAMS) の惑星の平衡温度を現在の平衡温度の代わりに用いるのであれば,惑星半径を説明するためには系の年齢との相関も含まれなければいけない.

この結果は,中心星が前主系列段階の期間に惑星が収縮した後,近接ガス惑星は中心星から受ける輻射の増大に従って再膨張することを示唆する

先行理論研究では,そのような中心星からの輻射への動的応答を起こすためには,惑星が受け取るエネルギーのうちの一定の割合が惑星内部の (浅い領域ではなく) 深い領域に注入される必要があることが示されている.

研究背景

初めてトランジットが検出された惑星は HD 209458b である (Henry et al. 2000, Charbonneau et al. 2000).この惑星の半径は理論が予測する半径よりも大きく,惑星科学のコミュニティに驚きをもたらした (Burrows et al. 2000など).

これ以降,多くの膨張した半径を持つ惑星が発見された.最大は WASP-79b の 2.09 木星半径である (Smalley et al. 2012).また,膨張の度合いは惑星の中心星に対する位置との相関があることも明らかになってきた (Fortney et al. 2007など).

理論的には,惑星内部への追加のエネルギー注入が膨張半径の要因だと考えられている.しかし多くの理論的試みにも関わらず,惑星内部にどのようにエネルギーが運ばれているのか,エネルギーの輸送が存在しているのかは不明である (Spiegel & Burrows 2013, レビュー論文).

膨張半径の問題は本質的に難しい.何桁にもわたる圧力・密度・温度・長さスケールにおいて,分子科学・輻射輸送・(磁気)流体力学を同時に扱う必要があるからである.従って,しばしば値の不明な,あるいはあまり分かっていないパラメータを導入してモデルを構築する必要がある.


最近,Lopez & Fortney (2016) では,膨張半径を説明するための大きな 2 つの枠組み間を比較するためのための観測を提案した.
軌道周期が数十日の惑星は,中心星が主系列段階から離れた後は,主系列星まわりの短周期惑星が受ける輻射と同程度の輻射を受けることになる.そのため,巨星まわりにある軌道周期が数十日程度以上の膨張した惑星が存在するかどうかの調査を提案したのである.

軌道周期が数十日程度の軌道を回る惑星は,中心星が主系列段階では膨張半径を持たない (Demory & Seager 2011).そのためそのような惑星で膨張半径を持つものが発見されれば,増加した輻射によって惑星は直接再膨張させられたという証拠になる.

この場合,惑星を再膨張させるためにはエネルギーは惑星内部の深い領域に注入される必要がある.そのため,外部のみにエネルギーを与えて惑星の収縮を遅らせることで膨張半径を説明しようというモデルは棄却されることになる.

パラメータ

HAT-P-65 系

HAT-P-65
等級:13.145
有効温度:5835 K
金属量:[Fe/H] = 0.100
質量:1.212 太陽質量
半径:1.860 太陽半径
光度:3.59 太陽光度
年齢:5.46 Gyr
距離:841 pc
HAT-P-65b
軌道周期:2.6054552 日
軌道長半径:0.03951 AU
質量:0.527 木星質量
半径:1.89 木星半径
平均密度:0.096 g cm-3
平衡温度:1930 K

HAT-P-66 系

HAT-P-66
等級:12.993
有効温度:6002 K
金属量:[Fe/H] = 0.035
質量:1.255 太陽質量
半径:1.881 太陽半径
光度:4.12 太陽光度
年齢:4.66 Gyr
距離:927 pc
HAT-P-66b
軌道周期:2.9820860 日
軌道長半径:0.04363 AU
質量:0.783 木星質量
半径:1.59 木星半径
平均密度:0.242 g cm-3
平衡温度:1896 K

議論・考察

HAT-P-65b の 1.89 木星半径, HAT-P-66b の 1.59 木星半径という値は,膨張した半径を持つ惑星の名化でも最も大きな部類である.また,どちらも主系列段階の終わりに近づいた恒星の周囲にある.中心星の HAT-P-65 の年齢は 5.46 Gyr であり寿命の ~ 84%,HAT-P-66 は 4.66 Gyr で寿命の ~ 83%である.


これまでに発見された短周期ガス惑星のデータの分析からは,大きな半径の惑星は,より進化した恒星のまわりにはより普遍的に発見される,という傾向が見られた.ここで解析に用いたのは,HAT (HATNet, HATSouth 両方), WASP, ケプラー, TrES, KELT の各プロジェクトで発見された惑星のデータである.

まず,短周期惑星を持つ中心星の有効温度と (中心星の) 平均密度をプロットした場合,年老いた恒星はグラフ上で上の方に位置することになるが,1.5 木星半径以上の半径の惑星を持つ恒星の場合は,比較的グラフの上の方に集まっている (比較的年老いている).

次に,惑星の質量-半径と fractional age の関係をプロットする.
ここで,fractional age は

と定義される量である.ただし,t は中心星の有効温度・平均密度・金属量を元に,YY isochrone から求めた年齢,ttot は同じ質量・金属量を持つ恒星の YY model での最大年齢である.

半径が 0.5 木星半径,軌道周期が 10 日未満の惑星で,ttot が 10 Gyr 未満のものをピックアップしてプロットした.10 Gyr 以上のものは除外してある.これは,銀河年齢は有限であり,ttot が 10 Gyr 以上の恒星は主系列の寿命に達していないためである.

プロットは,fractional age が 1 に近いほど (最大年齢に近い年齢を持つ年老いた系ほど) 質量-半径の図において上の方に位置することを示している.またこのプロットは,中心星の質量と惑星の軌道長半径別に分けて考えた場合も,fractional age が大きい方が惑星半径は大きくなる傾向にある.

まとめ

やや進化した恒星の周りに,大きく膨らんだ半径を持つ惑星を 2 つ発見した.

また,1.5 木星半径より大きい惑星は,やや進化した恒星の周りに多いという傾向を発見した.この傾向は,HAT, WASP, ケプラー, TrES と KELT のデータに対してそれぞれ独立に見られるものである.これは,観測の選択バイアスでもなく,惑星や恒星の系統誤差に起因するものでもない.

この傾向は,よく知られている惑星半径と惑星の平衡温度の相関に由来するものである.また,惑星半径を予想するための因子としては,ZAMS の時の惑星の平衡温度より,中心星の進化に伴って上昇する現在の惑星の平衡温度のほうが適している.

これらの結果は,前主系列段階で惑星が収縮したのち,中心星の進化に従って再膨張したことを示唆するものである.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1609.00726
Mann et al. (2016)
Zodiacal Exoplanets in Time (ZEIT) IV: seven transiting planets in the Praesepe cluster
(Zodiacal Exoplanets in Time (ZEIT) IV:プレセペ星団中の 7 つのトランジット惑星)

概要

散開星団と若い恒星集団 (stellar association) は,惑星の形成・移動・進化を調査する良い対象である.ここでは,年齢が 800 Myr のプレセペ星団 (Beehive Cluster, M44) にある惑星を,ケプラーの K2 ミッションで得られた光度曲線から探査した.

その結果,7 個の惑星候補天体を同定した.うち 6 個は統計的に惑星であると結論付けた.

また,各恒星に対して,高精度の近赤外線スペクトル観測を行った.これは,恒星の自転によるスペクトルの広がりと,恒星の視線速度の観測を行うためである.後者については,観測した高背が星団の一員かどうか確かめるのにも使用した.
また,各星系の低分散の可視光と近赤外線スペクトルも得た.これは中心星の金属量・質量・半径・光度を決めるためである.


解析の結果,誤差の範囲内で,惑星の軌道軸は中心星の自転軸と揃っていた.

プレセペ星団,ヒアデス星団 (年齢 ~ 800 Myr),プレアデス (~ 125 Myr) での惑星の八卦ん個数の違いから,年齢による傾向と思われるものを発見した.しかしこれは,若く高速で自転をする恒星に対する現在の解析ツールの不完全さによって作り出されているものかもしれない.

いくつかの惑星は,800 Myr の間に渡って質量を放出していると考えられる.2 つの惑星は,ケプラーで発見された別の惑星と比較すると半径は特に大きかった.

パラメータ

EPIC 211990866 系

EPIC 211990866
質量:1.18 太陽質量
半径:1.19 太陽半径
光度:1.777 太陽光度
有効温度:6120 K
自転周期:4.3 日
EPIC 211990866b
軌道周期:1.673915 日
半径:3.5 地球半径

EPIC 211913977 系

EPIC 211913977
質量:0.80 太陽質量
半径:0.73 太陽半径
光度:0.2542 太陽光度
有効温度:4819 K
自転周期:10.6 日
EPIC 211913977b
軌道周期:14.677303 日
半径:2.0 地球半径

EPIC 211970147 系

EPIC 211970147
質量:0.77 太陽質量
半径:0.71 太陽半径
光度:0.2201 太陽光度
有効温度:4695 K
自転周期:11.5 日
EPIC 211970147b
軌道周期:9.915651 日
半径:1.3 地球半径

EPIC 211822797 系

EPIC 211822797
質量:0.61 太陽質量
半径:0.59 太陽半径
光度:0.0703 太陽光度
有効温度:3880 K
自転周期:14.6 日
EPIC 211822797b
軌道周期:21.169687 日
半径:2.2 地球半径

EPIC 211969807 系

EPIC 211969807
質量:0.51 太陽質量
半径:0.48 太陽半径
光度:0.0368 太陽光度
有効温度:3660 K
自転周期:9.3 日
EPIC 211969807b
軌道周期:1.974189 日
半径:1.9 地球半径

EPIC 211901114 系

EPIC 211901114
質量:0.46 太陽質量
半径:0.46 太陽半径
光度:0.0268 太陽光度
有効温度:3440 K
自転周期:8.6 日
EPIC 211901114b
軌道周期:1.648932 日
半径:9.6 地球半径

EPIC 211916756 系

EPIC 211916756
質量:0.43 太陽質量
半径:0.44 太陽半径
光度:0.0232 太陽光度
有効温度:3410 K
自転周期:23.9 日
EPIC 211916756b
軌道周期:10.135097 日
半径:3.7 地球半径

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arXiv:1609.00239
Smith et al. (2016)
EPIC 212803289: a subgiant hosting a transiting warm Jupiter in an eccentric orbit and a long-period companion
(EPIC 212803289:高軌道離心率軌道にいるトランジットする温暖な木星型惑星と長周期の伴星を持つ準巨星)

概要

ケプラーの K2 ミッションによる惑星の発見を報告する.

今回発見された EPIC 212803289b は,軌道周期 18.25 日,軌道離心率がおよそ 0.19 のややエキセントリックな軌道にある.トランジット法で検出され,視線速度法で確認された.質量は 0.97 木星質量,半径は 1.29 木星半径である

中心星の EPIC 212803289 は,おとめ座の領域にある 11 等星で,準巨星である.金属豊富で [Fe/H] = 0.20,質量は 1.60 太陽質量,半径は 3.1 太陽半径である.

視線速度にさらなる変動が検出され,この系での 3 体目の天体の存在が示唆される.おそらく,数百日の軌道周期を持つ褐色矮星だろうと考えられる.

パラメータ

EPIC 212803289
スペクトル型:G0 IV
等級:11.149
質量:1.60 太陽質量
半径:3.1 太陽半径
有効温度:5990 K
金属量:[Fe/H] = 0.20
年齢:2.4 Gyr
距離:604 pc
EPIC 212803289b
軌道周期:18.249 日
軌道長半径:0.159 AU
軌道離心率:0.19
質量:0.97 木星質量
半径:1.29 木星半径

考察

EPIC 212803289 系について

EPIC 212803289 はトランジット惑星を持つ準巨星 (subgiant) である.Hurley et al. (2000) の恒星の半径・質量・年齢の進化トラックからは,惑星 EPIC 212803289b は 150 Myr のうちに中心星に飲み込まれると考えられる.

他の準巨星まわりのトランジット惑星には,KELT-11b (Pepper et al. 2016, 軌道周期 4.7 日),K2-39b (Van Eylen et al. 2016, 同 4.6 日) があるが,どちらも系内 3 体目の長周期の天体が存在することを示唆するシグナルが検出されている.

ただし系としてはケプラー435 (KOI-680) 系が最も似ているかもしれない.ケプラー 435 系は,中心星がスペクトル型 F9 の準巨星で半径は 3.2 太陽半径,惑星は軌道離心率が 0.11,軌道周期は 8.6 日となっている.この系でも 3 体目の存在を示すシグナルらしきもの (周期 790 日以上) があり,惑星質量天体が存在する可能性がある.

別の惑星の存在について

Huang et al. (2016) によると,ホットジュピター (ここでは軌道周期 10 日未満) と温かい木星型惑星 (ウォームジュピター,ここでは軌道周期が 10 - 200 日) の間には隔たりがあるとしている.ウォームジュピターは木星より軽い程度の別の惑星を系内に持つ傾向があり,ウォームジュピターを持つ系の半数では近くに別の小さい惑星が検出されている.

しかし今回はそのような天体の検出は無かった.

検出があった例としては,WASP-47 系などがある (Hellier et al. 2012, Becker et al. 2015).ただし今回の系については,恒星が大きいため,小さい惑星の検出については感度が低くなっていることや,ケプラーによる観測期間的には発見が難しいという観測バイアスがある可能性はある.

惑星の軌道要素の長期進化

軌道進化について,Jackson et al. (2008) による軌道の円軌道化のタイムスケールは,惑星の潮汐の Q 値を 105.5,恒星を 106.5 とすると,84 Gyr (840 億年) となる.惑星の Q 値を 35000 (Lainey et al. (2009) による木星の値),恒星を 105 という極端な値を考えても 9.2 Gyr (92 億年) となり,系の年齢 2.4 Gyr よりも長い.

従って,潮汐によって軌道離心率は大きくは減少しない.


惑星の軌道移動について,ウォームジュピターで軌道離心率が大きいものの大部分は,系内の 3 体目の天体によって引き起こされた内側への軌道移動が原因だと示唆されている (Dong et al. 2014).ただし,今回発見された EPIC 212803289b の軌道離心率は,Dong et al. (2014) での軌道離心率の閾値 0.4 よりも小さい.

しかし軌道要素の変動において,現在は軌道離心率が低いフェーズにいるという可能性は有り得る.その場合,永年的なタイムスケールで軌道離心率は増大すると考えられる.仮に EPIC 212803289b が Kozai 機構などで軌道移動している最中なのであれば,惑星軌道面の軸は中心星の自転軸と大きくずれている可能性があり,大きな Rossiter 効果の振幅があることが期待される.これまでに惑星の公転軸の傾斜が測定されたウォームジュピター (軌道周期 10 日以上,半径 0.6 木星以上) は 7 個のみであり,そのうち 4 つは揃っており,3 つは大きくずれている.

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arXiv:1609.00275
van Lieshout et al. (2016)
Dusty tails of evaporating exoplanets. II. Physical modelling of the KIC 12557548b light curve
(蒸発する系外惑星のダストテイル II KIC 12557548b の光度曲線の物理モデリング)

概要

KIC 12557548b のような蒸発している系外惑星は,大量のダスト粒子を放出している.このダスト粒子は彗星の尾のような形状になりうる.この尾が中心星を隠すと,トランジットシグナルは尾の中に含まれるダストの情報を含むことになる.

ここでは,KIC 12557548b のケプラーによる光度曲線の詳細な形状を用いて,尾を作るダストのサイズと組成の制限を試みた.これは惑星からのダスト成分の放出から,昇華によるダストの破壊までを含むものである.

このダスト雲の形状から,光の減衰と角度依存性のある散乱光の効果を含めて光度曲線を生成し,惑星の軌道位相で折りたたんだケプラーの光度曲線の形状と比較した.また MCMC 法を用いてパラメータ空間のサーベイも行った.

その結果,パラメータによっては観測された光度曲線を再現することが出来た.その結果によると,初期の粒子サイズは 0.2 - 5.6 µm,質量放出率は 1 Gyr あたり 0.6 - 15.6 地球質量 (2 σ の確度) と考えられる.

尾の長さは,ダスト成分の物質パラメータの特定の組み合わせのみが説明することが出来す.これらの制限より,ダスト成分はコランダム (corundum, Al2O3) とすると整合的である.しかし,炭素質のダストやシリケイト,鉄組成は観測と合わないと判明した.

研究背景

蒸発する岩石惑星の発見

これまでに,岩石主体の蒸発している惑星と思われる天体が発見されている (Rappaport et al. 2012).これまでに 3 天体が発見されている.KIC 12557548b (Rappaport et al. 2012, 以降 KIC 1255b),KOI-2700b (Rappaport et al. 2014),K2-22b (Sanchis-Ojeda et al. 2015) である.これらはどれもケプラーを用いて検出されている (Borucki et al. 2010).

これらの天体はどれも中心星が K 型・M 型の主系列星であり,短周期で公転している.トランジット光度曲線が非対称な形状を示し,またトランジット深さにも変動がある.これは惑星からのダストの放出で説明することができ,KIC 1255b におけるモデルについては初出は Rappaport et al. (2012) である.

ダストの放出とトランジット光度曲線

ダスト粒子は,蒸発する小さい惑星で生成される.放出され惑星を離れると,中心星からの輻射圧で押され,彗星の尾のような形状を形成する.

惑星から離れるにつれ,ダスト粒子の惑星に対する速度は大きくなる.また中心星からのフラックスを受け徐々に昇華していく.この両方の効果によって,吸収断面積の角度密度が減少する.その結果,観測されている光度曲線のシャープなトランジットへの入り (ingress) と,緩やかなトランジットからの出 (egress) が説明される.

加えて,ダスト粒子による中心星からの光の散乱により,トランジットに入る直前にわずかな増光を起こす.これは,ダスト雲全体が恒星面の大部分 (最も明るい部分) を隠さず,しかし小さな散乱角を得るのには十分な近さにいる時に発生する.ダスト雲の分布は非対称になっているため,散乱の効果は ingress 時に大きく,egress 時はそれに比べて小さくなる.

光度曲線の形状はダスト雲の存在によるとするシナリオは,トランジット深さの波長依存性によって有効であることが確認されている (Bochinski et al. 2015, Sanchis-Ojeda et al. 2015),その一方で,トランジット光度曲線の形状は偽陽性だとするシナリオは,支援速度観測,高分解能の撮像観測や測光観測によって否定されている (Croll et al. 2014).


トランジット深さの変動を説明するためには,惑星表面でのダスト粒子生成率に不規則な変動があることが必要である.

また,ダスト粒子に対していくつかの仮定を課せば,ダスト成分の質量放出率の平均値を推測することも可能である (ガス成分での散逸は含まない).

KIC 1255b と K2-22b では,1 Gyr に 0.1 - 1 地球質量程度のオーダだという推定がされている (Rappaport et al. 2012, Perez-Becker & Chiang 2013, Kawahara et al. 2013など).KOI-2700b ではそれよりも 1 - 2 桁小さい値が見積もられている (Rappaport et al. 2014, van Lieshout et al. 2014).

ダスト雲のモデリングと質量放出

質量放出は中心星からのフラックスによって駆動されていると考えられる (Rappaport et al. 2012).放射によって惑星の表面が 2000 K 以上にまで加熱され,固体の表面が蒸発し,金属量の多い大気を形成する.(スーパーアースに関しては,Schaefer & Fegley (2009) などでモデリングされている)

大気は高温であり,外へ広がっていき,"パーカータイプ" の thermal wind となる (Rapapport et al. 2012).ガスが膨張して温度が低下すると,ダスト粒子が生成される.ダスト粒子はガスが希薄になるまでガスに引きずられて運動し,それ以降はダストの力学は中心星の重力と輻射圧が支配することになる.

Perez-Becker & Chiang (2013) では,惑星からのアウトフローを詳細に調べ,質量放出率は蒸発している天体の質量の強い関数になっていることを明らかにした.そのモデルによると,KIC 1255b の質量は 0.02 地球質量 (月質量の 2 倍程度) よりは軽く,また 40 - 400 Myr のうちに完全に消滅するとしている.この質量の上限値に対応する惑星半径は,この惑星の半径の上限値 (しばしばトランジットが検出できなくなる事から与えられた上限値) と整合的である (Brogi et al. 2012).
また,二次食からの制限値 (van Werkhoven et al. 2014) とも整合的であった.

さらに上記のモデルが正しければ,KIC 1255b はこれまで発見されている中で最も小さい惑星であるということになる.

ダストテイルのモデリング

惑星からのダスト粒子放出の詳細に関わらず,ダストの組成は惑星の組成を反映するだろうと考えられる.最近,Kimura et al. (2002) と Rappaport et al. (2012, 2014) をベースとして,ダストテイルの長さからダスト雲の組成の制限をしようという試みが行われた (van Lieshout et al. 2014).

簡単に言うとダストテイルの長さは,輻射圧によるダスト粒子の方位角方向のドリフトと,昇華によるダストサイズの減少の 2 つの作用によって決まる.ダストの昇華速度は粒子の組成に大きく依存するため,尾の長さはダストの組成を反映することになる.

van Lieshout et al. (2014) では,ダストテイルの半解析的な記述を与えた.そこでは,ダストテイルの形状は,特徴的な長さと初期の angular density の 2 つのみで記述されている.しかしこれは過程が多かったことや,2 つのパラメータで表すことで尾の詳細な形状を無視してしまっていたという課題があった.従って,形態学的ではなく,物理に基づいた,粒子サイズ依存性のある輻射圧の力学と,温度依存性のある粒子サイズの進化を考慮したモデリングが必要である.

ここでは,particle-dynamics-and-sublimation シミュレーションを行った.Rappaport et al. (2012) や Sanchis-Ojeda et al. (2015) でも粒子力学シミュレーションを行っているが,ダスト粒子の寿命が一定であり,また光度曲線の再現を行っていなかった.

結果

ダスト粒子の組成

ダストテイルの長さを説明できるのはコランダムだけという結果になった.組成に関しては van Lieshout et al. (2014) と整合的な結果になった.

その他の過去の研究では,Rappaport et al. (2012) では,Kimura et al. (2002) の昇華時間をベースにし,ダストは輝石 (pyroxene) であるとしていた.今回の結果との違いの原因は,使用している複素屈折率と昇華のパラメータの違いによるものだろうと考えられる.

コランダムの要素であるアルミニウムは,宇宙の存在度では比較的低い方である.また岩石惑星ではマイナーな元素である.そのため,ダストの主成分がコランダムであるという結果は驚きである.

この結果は,放出されている大気中では特定の化学種だけが凝結しやすいことを示しているのかもしれない.例えば,仮にガスのアウトフローの密度がダストが凝結するには希薄であり,なおかつ高温である場合,凝縮温度の高いコランダムは混合ガス中ではじめに凝縮を始める成分となり得る.
別の可能性としては,ダスト粒子は惑星のマグマオーシャンにおける蒸留の残留物 (カルシウムやアルミニウムが多くなる) によるとする考えである.

質量放出率

質量放出率の推定値 (1 Gyr あたり 0.6 - 15.6 地球質量) も,van Lieshout et al. (2014) と整合的な結果になった.

他の先行研究と比べると,上端の推定値が大きくなっている.過去の研究では,1 Gyr あたり 0.1 - 1 地球質量程度と見積もられていた (Rappaport et al. 2012, Perez-Becker & Chiang 2013, Kawahara et al. 2013など).
これは,この研究ではダストによる光の散乱の効果を取り入れているためである.惑星の前方での散乱は,トランジット光度曲線の一部を "埋める" ことが出来るが,同じトランジット深さを再現するためにはより大きい質量放出率が必要だからである.

結論

  1. 組成:観測のトランジット光度曲線とダストテイルの長さに合うものはコランダムのみであった.鉄,酸化ケイ素,fayalite (鉄カンラン石),enstatite (頑火輝石),forsterite (苦土カンラン石),石英,炭化ケイ素,黒鉛では合わなかった.ただしこれらの混合物である可能性は排除できない.
  2. 粒子サイズ:同じ初期サイズで計算を始め,昇華によるサイズ進化を考慮した.初期サイズが 0.2 - 5.6 µm とすると観測結果とよく合う.また,ingress 直前の光度曲線の増光の形状からは,この下限値である 0.2 - 0.3 µm が好ましい.
  3. 質量放出率:ダスト成分の質量放出率は,1 Gyr (10 億年) あたり 0.6 - 15.6 地球質量と推定される.(この値にはガス成分の質量は含まれていない.)
  4. 尾の形状:彗星のコマと尾のような,複数の構造を想定する必要は無い.また,ダスト雲の先頭部分は,動径方向に光学的に厚いだろう.

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