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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.10078
Borsa et al. (2019)
The GAPS Programme with HARPS-N at TNG XIX. Atmospheric Rossiter-McLaughlin effect and improved parameters of KELT-9b
(TNG での HARPS-N を用いたGAPS プログラム XIX.KELT-9b の大気ロシター・マクローリン効果と改善されたパラメータ)
スペクトルと抽出された視線速度を解析して系の物理パラメータに制限を与え,KELT-9b の惑星大気を検出した.
最小二乗逆畳み込み法に基づく解析を用いて,高分散可視光スペクトルから平均の恒星のスペクトル分布を抽出した.その後,高速自転星に最適化された手法を用いて,恒星の視線速度を計算した.これには,ガウス関数を用いる代わりに純粋な自転プロファイルを用いた平均の恒星スペクトル線分布のフィッティングを行うことで実施した.
新しいスペクトルと解析から,系の軌道と物理パラメータを更新した.特に,惑星質量に関して 2.88 ± 0.35 木星質量と更新した値を得た.
トランジット中に視線速度の異常が見られ,理論的なロシター・マクローリン効果の振る舞いからずれていた.これは射影した spin-orbit angle である -85.78° を元にして計算した値からのずれである.ここで,このずれは惑星の大気によって引き起こされることを示し,Atmospheric Rossiter-McLaughlin effect (大気ロシター・マクローリン効果) と名付けた.
視線速度の異常の大きさを解析することで,恒星の平均のスペクトル線分布を復元するために用いられたモデルによって重み付けされた,惑星大気の広がりに関する情報を得ることが出来た.これは最大で 1.22 ± 0.02 惑星半径の広がりであった.
大気ロシターマクローリン効果は,特に大気中に鉄を持っているウルトラホットジュピターの場合,大気が恒星のマスクと無視できない相関を持っている他の系外惑星でも観測可能だろうと考えられる.この効果の期間と強度は大気の広がりだけではなく,トランジット中の惑星の視線速度と,中心星の射影した自転速度にも依存する.
arXiv:1907.10078
Borsa et al. (2019)
The GAPS Programme with HARPS-N at TNG XIX. Atmospheric Rossiter-McLaughlin effect and improved parameters of KELT-9b
(TNG での HARPS-N を用いたGAPS プログラム XIX.KELT-9b の大気ロシター・マクローリン効果と改善されたパラメータ)
概要
GAPS プロジェクトの枠組みの中で,惑星 KELT-9b を持つ恒星 KELT-9 の観測を HARPS-N を用いて行った.恒星 KELT-9 は A 型星で,射影した自転速度は \(v\sin i\) ~ 110 km s-1 である.スペクトルと抽出された視線速度を解析して系の物理パラメータに制限を与え,KELT-9b の惑星大気を検出した.
最小二乗逆畳み込み法に基づく解析を用いて,高分散可視光スペクトルから平均の恒星のスペクトル分布を抽出した.その後,高速自転星に最適化された手法を用いて,恒星の視線速度を計算した.これには,ガウス関数を用いる代わりに純粋な自転プロファイルを用いた平均の恒星スペクトル線分布のフィッティングを行うことで実施した.
新しいスペクトルと解析から,系の軌道と物理パラメータを更新した.特に,惑星質量に関して 2.88 ± 0.35 木星質量と更新した値を得た.
トランジット中に視線速度の異常が見られ,理論的なロシター・マクローリン効果の振る舞いからずれていた.これは射影した spin-orbit angle である -85.78° を元にして計算した値からのずれである.ここで,このずれは惑星の大気によって引き起こされることを示し,Atmospheric Rossiter-McLaughlin effect (大気ロシター・マクローリン効果) と名付けた.
視線速度の異常の大きさを解析することで,恒星の平均のスペクトル線分布を復元するために用いられたモデルによって重み付けされた,惑星大気の広がりに関する情報を得ることが出来た.これは最大で 1.22 ± 0.02 惑星半径の広がりであった.
大気ロシターマクローリン効果は,特に大気中に鉄を持っているウルトラホットジュピターの場合,大気が恒星のマスクと無視できない相関を持っている他の系外惑星でも観測可能だろうと考えられる.この効果の期間と強度は大気の広がりだけではなく,トランジット中の惑星の視線速度と,中心星の射影した自転速度にも依存する.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.09809
Reinhardt et al. (2019)
Bifurcation in the history of Uranus and Neptune: the role of giant impacts
(天王星と海王星の歴史における分岐:巨大衝突の役割)
天王星は自転軸が大きく傾いている.また規則衛星を複数持っており,これは円盤からの降着の存在を示唆する.一方で海王星の衛星は不規則で,捕獲された天体であると考えられる.
さらに,海王星は内部熱源を持っているが,天王星は太陽から独立した平衡状態にある.最後に,重力データに基づいた内部構造モデルでは,天王星は海王星より中心集中した構造になっていることが示唆されている.
ここでは高解像度 SPH (smoothed particle hydrodynamics) シミュレーションを用いて,これらの違いが惑星への巨大衝突で説明できるかどうかを調査した.
天王星の場合,傾斜角のある衝突で自転軸を傾けることができ,規則衛星を形成する場所である円盤を形成するのに十分な物質が衝突によって放出される.円盤のいくらかは重く十分に広がっており,天王星の規則衛星の形成を説明するのに十分な岩石物質を含むと考えられる.
海王星では,正面衝突によって惑星内部を混合できるか,また断熱温度分布が実現されるかどうかを調査した.これは海王星の大きな内部フラックスと慣性モーメントの大きな値を説明できるものである.
その結果,重く高密度な衝突体は海王星の中心へ貫通することができ,内部深くに質量とエネルギーを注入し,海王星があまり中心集中していない内部構造になることができる.
以上より,巨大氷惑星に見られる特性の二分性は,形成後の激しい衝突によって説明できると結論付けた.
arXiv:1907.09809
Reinhardt et al. (2019)
Bifurcation in the history of Uranus and Neptune: the role of giant impacts
(天王星と海王星の歴史における分岐:巨大衝突の役割)
概要
天王星と海王星の間には多くの類似点があるにも関わらず,大きな観測的な相違点がある.天王星は自転軸が大きく傾いている.また規則衛星を複数持っており,これは円盤からの降着の存在を示唆する.一方で海王星の衛星は不規則で,捕獲された天体であると考えられる.
さらに,海王星は内部熱源を持っているが,天王星は太陽から独立した平衡状態にある.最後に,重力データに基づいた内部構造モデルでは,天王星は海王星より中心集中した構造になっていることが示唆されている.
ここでは高解像度 SPH (smoothed particle hydrodynamics) シミュレーションを用いて,これらの違いが惑星への巨大衝突で説明できるかどうかを調査した.
天王星の場合,傾斜角のある衝突で自転軸を傾けることができ,規則衛星を形成する場所である円盤を形成するのに十分な物質が衝突によって放出される.円盤のいくらかは重く十分に広がっており,天王星の規則衛星の形成を説明するのに十分な岩石物質を含むと考えられる.
海王星では,正面衝突によって惑星内部を混合できるか,また断熱温度分布が実現されるかどうかを調査した.これは海王星の大きな内部フラックスと慣性モーメントの大きな値を説明できるものである.
その結果,重く高密度な衝突体は海王星の中心へ貫通することができ,内部深くに質量とエネルギーを注入し,海王星があまり中心集中していない内部構造になることができる.
以上より,巨大氷惑星に見られる特性の二分性は,形成後の激しい衝突によって説明できると結論付けた.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.09068
Wilson Cauley et al. (2019)
Magnetic field strengths of hot Jupiters from signals of star-planet interactions
(恒星・惑星相互作用のシグナルからのホットジュピターの磁場強度)
ここでは,磁気的な恒星・惑星相互作用によって変調された恒星からの Ca II K 放射の強度を用いて,4 つのホットジュピター系での磁場強度の導出について報告する.
Ca II K 線の形で放出される部分的なエネルギーを近似することで,今回のサンプル中のホットジュピターでの表面磁場は,20-120 G の範囲内であることを見出した.この磁場強度は,自転周期 2-4 日程度の惑星に対するダイナモスケーリング則から予測される値よりも 10-100 倍大きいものである.一方でこれらの値は,巨大惑星内での内部熱フラックスと磁場強度を結びつけるスケーリング則とは一致する.
惑星磁場強度が大きい場合,磁気圏から放射されるメーザーが惑星の電離圏によって減衰されるのが防がれるため,観測可能な電子サイクロトロンメーザー放射が発生する可能性がある.ホットジュピター系の集中的な電波モニタリング観測を行うことで,これらの惑星磁場の強度を確認する手助けになるだろう.また,この重要な系外惑星の分類における磁場の生成メカニズムに関する情報も得られるだろうと期待される.
恒星・惑星間相互作用 (star-planet interaction, SPI) からは,他の手法では非常に少ない情報しか得られていない恒星風の特性の詳細が明らかになる可能性がある.さらに最も興味深いのは,SPI からは惑星の磁場の詳細が明らかになる可能性もある.
惑星磁場は惑星大気を恒星風粒子から防ぎ,惑星からの質量放出を抑制するという重要な働きがある.
磁気的な SPI シグナルは,惑星の軌道周期の半分のタイムスケールで現れる潮汐相互作用とは異なり,惑星の軌道周期と同じ時間スケールで変化する,彩層活動によるスペクトル線コアのフラックスの変化として現れる可能性がある.このような変動の兆候は,多くのホットジュピター系において恒星の彩層からの放射の Ca II 線で見られている.
このようなシグナルの初発見例は HD 179949 である.フォローアップ観測でも同様の振る舞いが見られており,磁気的な SPI に起因するシグナルであるという解釈を強化している.似たようなシグナルは HD 189733,τ Boo,ν And でも検出されており,また HD 73256 でも兆候が報告されている.SPI 類似の変動は可視光の測光変動と X 線でも観測されている.
磁気的 SPI の強度を恒星および惑星の特性と結びつけるスケーリング則は,これまでにいろいろなものが提案されている.これらの強度推定は多くの異なるコロナ磁場の場合で整合的だが,正確な定数は仮定に依存して変わる.恒星の双極子磁場の場合,恒星と惑星の磁気圏の向きの揃い具合は,磁気的相互作用によるエネルギー散逸に大きな影響があることが示されている.
SPI シグナルを引き起こすその他のエネルギー源は,惑星から恒星表面への粒子のアウトフローである.近接惑星によって引き起こされた恒星磁場の相対的なヘリシティの減少は,恒星磁場の形状を低エネルギー状態へと進化させ,それにより大局スケールで可能な内部のリコネクションによって磁場のエネルギーの散逸が引き起こされることが指摘されている.この過程では,恒星と惑星磁気圏の境界における純粋な磁気リコネクションに比べて,2-3 桁大きい出力を解放できる.
HD 179949 での SPI シグナルからの強度推定,および HD 73256 と κ Ceti での暫定的な SPI の導出を除くと,その他の SPI 測定はフラックスが較正されていない.これは,地上からの高分散スペクトルでは正確なフラックスの較正をするのが難しいことと,SPI の検出を確定させるためには絶対フラックスの推定は必ずしも必要ではないことが原因である.
しかし,特定の SPI モデルに制約を与えたり,系外惑星の磁場の絶対強度を計算するためには,SPI シグナルとして放出されたエネルギーの情報が必要である.
\[
P = \gamma \frac{\pi}{\mu} R_{\rm p}^{2} B_{*}^{4/3} B_{\rm p0}^{2/3} v_{\rm rel}
\]
となる.\(R_{\rm p}\) は惑星半径,\(B_{*}\) は惑星の軌道距離での恒星の磁場強度,\(B_{\rm p0}\) は極での惑星表面磁場,\(v_{\rm rel}\) は惑星の軌道距離での惑星と恒星の磁力線の相対速度,\(\mu\) は透磁率,\(0 < \gamma < 1\) は恒星と惑星の磁気圏の相対角度に依存する効率因子である.
\(\gamma = 0.5\) を仮定すると,磁気リコネクションのみで生成されるエネルギーは 1020 W 程度よりも 2-3 桁低い値になる.この 1020 W という値は,HD 179949 周囲で観測されている SPI シグナルの推定値である.\(\gamma = 1\),1 木星半径,\(B_{*}\) = 0.005 G,\(B_{\rm p0}\) = 100 G,相対速度 150 km s-1 と仮定した場合でも,2 × 1018 W となり,観測されている Ca II K のエネルギーより 2 桁低い.このエネルギーを満たすためには惑星の磁場が 104 G のオーダーである必要がある.そのため,リコネクションシナリオは今後考慮しない.
Alfven wing SPI モデルについても調査されている.HD 179949b の場合,1020 W の出力を再現するためには,木星の磁場の 4000 倍程度の強度が必要である.その他にも様々な Alfven wing SPI モデルが提案されているが,可能な出力は 1019 W と僅かに低い.特に,測定された出力は Ca II K 線で放射されたもののみを含んでおり,これは全体として放出された出力の一部である.
その他の可能性のあるシナリオとして,惑星が恒星磁場のヘリシティを増加させ,これがエネルギー放出過程に影響を及ぼすというものがある.様々なケースで考察された結果,線形・非線形のフォースフリー場で,純粋なリコネクションのケースと同程度の出力が得られると考えられている.そのため,観測結果を説明するには不適である.
必要なエネルギーを生成する最も確実なシナリオとして,惑星表面と恒星表面を接続する磁気フラックスチューブの基底を横切るポインティングフラックスがある.この出力は,惑星と恒星磁気圏の相対運動により,恒星表面の磁気的なフットプリントが連続的に変形することで発生する.この場合,可能な出力は
\[
P \approx \frac{2\pi}{\mu} f_{\rm AP} R_{\rm p}^{2} B_{\rm p0}^{2} v_{\rm rel}
\]
で書き表され,\(f_{\rm AP}\) はフラックスチューブで覆われた惑星の半球の割合を示す.この場合,合計で 1020 - 1021 W の出力が可能であり,測定された出力を説明するのに十分な値である.
観測された Ca II K での出力は SPI によって生成された全出力の下限値であるため,SPI による総エネルギーのうち Ca II K 線として放射される割合を推定する必要がある.これに関しては,中程度の太陽フレアのものと比較する.M クラスの太陽フレアで散逸するエネルギーのモデルを用い,M クラスフレアの際に Ca II K 線として放出されるエネルギーは,フレアで散逸する総エネルギーの 0.21% ± 0.08% であるという推定値を用いる.
ここで導出した惑星磁場強度を,外部からの恒星加熱モデルで計算した磁場強度と比較した.その結果,SPI から導出した磁場強度とある程度の一致を見た.
重要な点は,ここで導出した惑星磁場の値は,自転のスケーリングと,中心星からの高温な惑星内部への余分なエネルギー注入の考慮がない場合に,内部熱流束進化から予測される値よりも 2-8 倍大きいという点である.今回の結果は,ホットジュピターの磁場強度は,惑星の熱進化と低速な自転のみを考慮した場合に予測される値よりもずっと大きいものになるという,過去のアイデアを支持するものである.
余分な熱の注入を考慮したモデルでは,この惑星の極での磁場強度は 49 G 程度と予測され,これは木星の表面磁場より 3 倍ほど大きい.同様に,ホットネプチューン GJ 436b の磁気モーメントも木星の 0.16 倍と推定される.
しかしこれらのモデルは,惑星の質量放出率と恒星風の密度などの大きな不定性を持つ多くのパラメータに依拠しており,また HD 209458b の場合はライマンアルファ線の透過スペクトルのシグナルノイズ比が低いという問題点がある.
今回導出した惑星磁場では,電子サイクロトロンメーザー不安定によって放射される電波が,惑星の磁気圏を脱出するのに適した状況にとなるため,電波が検出可能になることが期待される.
arXiv:1907.09068
Wilson Cauley et al. (2019)
Magnetic field strengths of hot Jupiters from signals of star-planet interactions
(恒星・惑星相互作用のシグナルからのホットジュピターの磁場強度)
概要
多くのホットジュピターにおいて恒星・惑星間相互作用の兆候が,惑星により変調された彩層放射という形で報告されている.磁気的な恒星・惑星間相互作用は,恒星と惑星の磁場に蓄積されたエネルギーの解放を伴う.そのため,これらのシグナルを検出することは系外惑星の磁場の間接的な検出となる.ここでは,磁気的な恒星・惑星相互作用によって変調された恒星からの Ca II K 放射の強度を用いて,4 つのホットジュピター系での磁場強度の導出について報告する.
Ca II K 線の形で放出される部分的なエネルギーを近似することで,今回のサンプル中のホットジュピターでの表面磁場は,20-120 G の範囲内であることを見出した.この磁場強度は,自転周期 2-4 日程度の惑星に対するダイナモスケーリング則から予測される値よりも 10-100 倍大きいものである.一方でこれらの値は,巨大惑星内での内部熱フラックスと磁場強度を結びつけるスケーリング則とは一致する.
惑星磁場強度が大きい場合,磁気圏から放射されるメーザーが惑星の電離圏によって減衰されるのが防がれるため,観測可能な電子サイクロトロンメーザー放射が発生する可能性がある.ホットジュピター系の集中的な電波モニタリング観測を行うことで,これらの惑星磁場の強度を確認する手助けになるだろう.また,この重要な系外惑星の分類における磁場の生成メカニズムに関する情報も得られるだろうと期待される.
ホットジュピターの磁場
恒星・惑星間相互作用
ホットジュピターは中心星に近い位置にある.そのため,潮汐,恒星風粒子との衝突,恒星表面への蒸発した惑星ガスの降着,恒星と惑星の磁力線の磁気リコネクションを介して,強い相互作用を経験する.恒星・惑星間相互作用 (star-planet interaction, SPI) からは,他の手法では非常に少ない情報しか得られていない恒星風の特性の詳細が明らかになる可能性がある.さらに最も興味深いのは,SPI からは惑星の磁場の詳細が明らかになる可能性もある.
惑星磁場は惑星大気を恒星風粒子から防ぎ,惑星からの質量放出を抑制するという重要な働きがある.
磁気的な SPI シグナルは,惑星の軌道周期の半分のタイムスケールで現れる潮汐相互作用とは異なり,惑星の軌道周期と同じ時間スケールで変化する,彩層活動によるスペクトル線コアのフラックスの変化として現れる可能性がある.このような変動の兆候は,多くのホットジュピター系において恒星の彩層からの放射の Ca II 線で見られている.
このようなシグナルの初発見例は HD 179949 である.フォローアップ観測でも同様の振る舞いが見られており,磁気的な SPI に起因するシグナルであるという解釈を強化している.似たようなシグナルは HD 189733,τ Boo,ν And でも検出されており,また HD 73256 でも兆候が報告されている.SPI 類似の変動は可視光の測光変動と X 線でも観測されている.
磁気的 SPI とその測定
磁気的 SPI による彩層線のフラックス変化は,惑星磁場強度の推定に使える可能性がある.磁気的 SPI の強度を恒星および惑星の特性と結びつけるスケーリング則は,これまでにいろいろなものが提案されている.これらの強度推定は多くの異なるコロナ磁場の場合で整合的だが,正確な定数は仮定に依存して変わる.恒星の双極子磁場の場合,恒星と惑星の磁気圏の向きの揃い具合は,磁気的相互作用によるエネルギー散逸に大きな影響があることが示されている.
SPI シグナルを引き起こすその他のエネルギー源は,惑星から恒星表面への粒子のアウトフローである.近接惑星によって引き起こされた恒星磁場の相対的なヘリシティの減少は,恒星磁場の形状を低エネルギー状態へと進化させ,それにより大局スケールで可能な内部のリコネクションによって磁場のエネルギーの散逸が引き起こされることが指摘されている.この過程では,恒星と惑星磁気圏の境界における純粋な磁気リコネクションに比べて,2-3 桁大きい出力を解放できる.
HD 179949 での SPI シグナルからの強度推定,および HD 73256 と κ Ceti での暫定的な SPI の導出を除くと,その他の SPI 測定はフラックスが較正されていない.これは,地上からの高分散スペクトルでは正確なフラックスの較正をするのが難しいことと,SPI の検出を確定させるためには絶対フラックスの推定は必ずしも必要ではないことが原因である.
しかし,特定の SPI モデルに制約を与えたり,系外惑星の磁場の絶対強度を計算するためには,SPI シグナルとして放出されたエネルギーの情報が必要である.
磁気的 SPI の理論
エネルギーが惑星と恒星の磁気圏の間でのリコネクションによって生成されると仮定すると,\[
P = \gamma \frac{\pi}{\mu} R_{\rm p}^{2} B_{*}^{4/3} B_{\rm p0}^{2/3} v_{\rm rel}
\]
となる.\(R_{\rm p}\) は惑星半径,\(B_{*}\) は惑星の軌道距離での恒星の磁場強度,\(B_{\rm p0}\) は極での惑星表面磁場,\(v_{\rm rel}\) は惑星の軌道距離での惑星と恒星の磁力線の相対速度,\(\mu\) は透磁率,\(0 < \gamma < 1\) は恒星と惑星の磁気圏の相対角度に依存する効率因子である.
\(\gamma = 0.5\) を仮定すると,磁気リコネクションのみで生成されるエネルギーは 1020 W 程度よりも 2-3 桁低い値になる.この 1020 W という値は,HD 179949 周囲で観測されている SPI シグナルの推定値である.\(\gamma = 1\),1 木星半径,\(B_{*}\) = 0.005 G,\(B_{\rm p0}\) = 100 G,相対速度 150 km s-1 と仮定した場合でも,2 × 1018 W となり,観測されている Ca II K のエネルギーより 2 桁低い.このエネルギーを満たすためには惑星の磁場が 104 G のオーダーである必要がある.そのため,リコネクションシナリオは今後考慮しない.
Alfven wing SPI モデルについても調査されている.HD 179949b の場合,1020 W の出力を再現するためには,木星の磁場の 4000 倍程度の強度が必要である.その他にも様々な Alfven wing SPI モデルが提案されているが,可能な出力は 1019 W と僅かに低い.特に,測定された出力は Ca II K 線で放射されたもののみを含んでおり,これは全体として放出された出力の一部である.
その他の可能性のあるシナリオとして,惑星が恒星磁場のヘリシティを増加させ,これがエネルギー放出過程に影響を及ぼすというものがある.様々なケースで考察された結果,線形・非線形のフォースフリー場で,純粋なリコネクションのケースと同程度の出力が得られると考えられている.そのため,観測結果を説明するには不適である.
必要なエネルギーを生成する最も確実なシナリオとして,惑星表面と恒星表面を接続する磁気フラックスチューブの基底を横切るポインティングフラックスがある.この出力は,惑星と恒星磁気圏の相対運動により,恒星表面の磁気的なフットプリントが連続的に変形することで発生する.この場合,可能な出力は
\[
P \approx \frac{2\pi}{\mu} f_{\rm AP} R_{\rm p}^{2} B_{\rm p0}^{2} v_{\rm rel}
\]
で書き表され,\(f_{\rm AP}\) はフラックスチューブで覆われた惑星の半球の割合を示す.この場合,合計で 1020 - 1021 W の出力が可能であり,測定された出力を説明するのに十分な値である.
惑星の磁場強度の推定手法
観測された Ca II K の出力から,フラックスチューブ SPI モデルを用いて惑星の絶対磁場強度を計算することができる.式の中の全ての物理量は既知であるかよく推定できるものであるため,そこから \(B_{\rm p0}\) を計算できる.\(f_{\rm AP}\) は \(B_{*}/B_{\rm p0}\) に依存するため,式は数値的に解く必要がある.ここで導出した磁場強度の場合,\(f_{\rm AP}\) は 0.02-0.20 となる.観測された Ca II K での出力は SPI によって生成された全出力の下限値であるため,SPI による総エネルギーのうち Ca II K 線として放射される割合を推定する必要がある.これに関しては,中程度の太陽フレアのものと比較する.M クラスの太陽フレアで散逸するエネルギーのモデルを用い,M クラスフレアの際に Ca II K 線として放出されるエネルギーは,フレアで散逸する総エネルギーの 0.21% ± 0.08% であるという推定値を用いる.
結果
ホットジュピターの強い磁場
今回の手法で導出した磁場は,HD 189733b で 20 ± 7 G,HD 179949b で 86 ± 29 G,τ Boo b で 117 ± 38 G,ν And b で 83 ± 77 G である.これらはいずれも,全エネルギーのうち Ca II K で放出される割合を 0.20% と仮定した場合のものであり.推定誤差ははエネルギー変換割合を 0.12-0.28% と変化させた場合のばらつきに対応する.ここで導出した惑星磁場強度を,外部からの恒星加熱モデルで計算した磁場強度と比較した.その結果,SPI から導出した磁場強度とある程度の一致を見た.
重要な点は,ここで導出した惑星磁場の値は,自転のスケーリングと,中心星からの高温な惑星内部への余分なエネルギー注入の考慮がない場合に,内部熱流束進化から予測される値よりも 2-8 倍大きいという点である.今回の結果は,ホットジュピターの磁場強度は,惑星の熱進化と低速な自転のみを考慮した場合に予測される値よりもずっと大きいものになるという,過去のアイデアを支持するものである.
過去の研究との比較
今回の結果は,惑星外気圏のライマンアルファ線吸収のモデルを用いて高温惑星に対して導出された小さい磁気モーメントの値とは対照的である.例として,HD 209458b の磁気モーメントは木星の 0.1 倍と推定されている.余分な熱の注入を考慮したモデルでは,この惑星の極での磁場強度は 49 G 程度と予測され,これは木星の表面磁場より 3 倍ほど大きい.同様に,ホットネプチューン GJ 436b の磁気モーメントも木星の 0.16 倍と推定される.
しかしこれらのモデルは,惑星の質量放出率と恒星風の密度などの大きな不定性を持つ多くのパラメータに依拠しており,また HD 209458b の場合はライマンアルファ線の透過スペクトルのシグナルノイズ比が低いという問題点がある.
電波放出の検出可能性
系外惑星が強い磁場を持ちうる場合,惑星の磁気圏からの電波放射の検出可能性に影響を及ぼす.いくつかのホットジュピターの濃い電離圏では,電子サイクロトロンメーザー不安定で生成されるいかなる電波放射も減衰されてしまうと考えられている.これは放射される電波よりもプラズマ周波数が大きいことが原因である.しかしこれは惑星磁場が 1-10 G 程度と弱く,また広がった電離圏を持っている場合である.今回導出した惑星磁場では,電子サイクロトロンメーザー不安定によって放射される電波が,惑星の磁気圏を脱出するのに適した状況にとなるため,電波が検出可能になることが期待される.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.07777
Thorngren et al. (2019)
The Intrinsic Temperature and Radiative-Convective Boundary Depth in the Atmospheres of Hot Jupiters
(ホットジュピターの大気における intrinsic 温度と放射対流境界)
ここでは,惑星が膨張した半径を持つ,従って惑星内部が大きな比エントロピーを持つ場合,ホットジュピターでは Tint が従来の仮定より高い温度になることを示す.
半径の膨張の原因として,冷却の遅れによるものではなく,惑星内部の電流による加熱による影響が主要であると仮定し,惑星の平衡温度と Tint の平衡関係を導出した.その結果,後者が最大で 700 K になり得ることを示す.またそれに応じて,RCB は大気中の上方へと移動する.
1 次元輻射対流大気モデルを用いると,RCB は典型的に仮定されてきたキロバール程度の高度ではなく,わずか数バールの圧力となる高度にくる.このような従来の仮定よりもずっと浅い位置に RCB が来ることは,惑星の大気構造,鉛直方向・水平方向の大気循環,惑星の位相曲線の解釈,雲形成における大気深層でのコールドトラップの効果に重要な影響を及ぼす.
木星は,可視光ではアンモニアの雲頂 (~0.6 bar) まで見通すことができる.これは木星大気の対流領域の中であり,対流層は惑星のずっと深くまで続いている.
一方でホットジュピターの大気の場合,中心星からの強い輻射により,恒星から離れた軌道にある孤立した惑星に比べて高層大気が高温に加熱されるため,かなりの深さまで大気は放射層になることが予測されている (Guillot & Showman 2002など).これは大気の温度構造が断熱温度勾配から大きく外れることを意味し,大気循環に大きな影響を及ぼす.
ホットジュピターの輻射対流大気モデルでは,木星と同じ intrinsic flux (Tint でパラメータ化され,木星では 100 K) を持つが恒星からの入射フラックスが木星より 10000 倍大きいモデルを考えた場合,RCB が位置する場所の圧力は 1 kbar 付近とされる (Guillot & Showman 2002など).RCB の深さは Tint の値に強く依存することは早くから分かっていたが (Sudarsky et al. 2003),冷却モデルでは Tint は時間の経過に伴って木星と似た値にまで落ちることが示唆されていた.そのため ~1 kbar の RCB は,これらの天体における典型的な値として定着している.
しかし,ホットジュピターの半径は理論的な予想よりも大きくなっていることが分かっており,このことからホットジュピターの内部は木星と比べてより高温でよりフラックスも大きいことが示唆される.これにより内部の流束は高くなり,場合によっては RCB の位置は標準的な値である 1 kbar よりずっと浅くなる可能性がある.このような状況の大気はこれまでにも想定されてきたが,詳細には研究されてこなかった.
今回のモデルでは,惑星内部に加熱源が存在することを想定した.ホットジュピターの膨張半径を説明するモデルとしては,内部に加熱源が存在するか,あるいは冷却が遅くなっているかという説が提案されている.例えばオーム散逸 (Batygin et al. 2011) はこれらの組み合わせである.
惑星の冷却の遅れも,見かけの Tint を変えうる.しかし,多くの異常加熱モデルは冷却の遅れに依拠しない.
また惑星が再膨張していることを示す兆候も報告されており (Hartman et al. 2016など),ホットジュピターの異常膨張の原因として内部加熱モデルを支持している.もし再膨張があることが示された場合,半径膨張は内部加熱が支配的であるはずである (Lopez & Fortney 2016).
惑星重力が強い場合は RCB を高圧領域に移動させ,大気が高金属量の場合は低圧側へ移動させる.平衡状態では,表面重力が 25 m s-2 未満で,大気の金属量が太陽金属量がそれより多いホットジュピターでは,1 kbar より深い位置に RCB を持つものは存在しない.
arXiv:1907.07777
Thorngren et al. (2019)
The Intrinsic Temperature and Radiative-Convective Boundary Depth in the Atmospheres of Hot Jupiters
(ホットジュピターの大気における intrinsic 温度と放射対流境界)
概要
巨大惑星大気のモデリングにおいては,intrinsic temperature Tint と放射対流境界 (radiative-convective boundary, RCB) が重要な下側境界条件となる.1 次元輻射対流モデルや 3 次元 general circulation モデルではしばしば,Tint は木星自身の値である 100 K と類似していることが仮定されており,これを元にすると RCB の位置はホットジュピターでは 1 kbar 程度の圧力の場所となる.ここでは,惑星が膨張した半径を持つ,従って惑星内部が大きな比エントロピーを持つ場合,ホットジュピターでは Tint が従来の仮定より高い温度になることを示す.
半径の膨張の原因として,冷却の遅れによるものではなく,惑星内部の電流による加熱による影響が主要であると仮定し,惑星の平衡温度と Tint の平衡関係を導出した.その結果,後者が最大で 700 K になり得ることを示す.またそれに応じて,RCB は大気中の上方へと移動する.
1 次元輻射対流大気モデルを用いると,RCB は典型的に仮定されてきたキロバール程度の高度ではなく,わずか数バールの圧力となる高度にくる.このような従来の仮定よりもずっと浅い位置に RCB が来ることは,惑星の大気構造,鉛直方向・水平方向の大気循環,惑星の位相曲線の解釈,雲形成における大気深層でのコールドトラップの効果に重要な影響を及ぼす.
木星型惑星の放射対流境界
ホットジュピターのように強く輻射を受ける巨大惑星が発見されてすぐ,その大気は太陽系のガス惑星のものとは大きく異なることが判明した.木星は,可視光ではアンモニアの雲頂 (~0.6 bar) まで見通すことができる.これは木星大気の対流領域の中であり,対流層は惑星のずっと深くまで続いている.
一方でホットジュピターの大気の場合,中心星からの強い輻射により,恒星から離れた軌道にある孤立した惑星に比べて高層大気が高温に加熱されるため,かなりの深さまで大気は放射層になることが予測されている (Guillot & Showman 2002など).これは大気の温度構造が断熱温度勾配から大きく外れることを意味し,大気循環に大きな影響を及ぼす.
ホットジュピターの輻射対流大気モデルでは,木星と同じ intrinsic flux (Tint でパラメータ化され,木星では 100 K) を持つが恒星からの入射フラックスが木星より 10000 倍大きいモデルを考えた場合,RCB が位置する場所の圧力は 1 kbar 付近とされる (Guillot & Showman 2002など).RCB の深さは Tint の値に強く依存することは早くから分かっていたが (Sudarsky et al. 2003),冷却モデルでは Tint は時間の経過に伴って木星と似た値にまで落ちることが示唆されていた.そのため ~1 kbar の RCB は,これらの天体における典型的な値として定着している.
しかし,ホットジュピターの半径は理論的な予想よりも大きくなっていることが分かっており,このことからホットジュピターの内部は木星と比べてより高温でよりフラックスも大きいことが示唆される.これにより内部の流束は高くなり,場合によっては RCB の位置は標準的な値である 1 kbar よりずっと浅くなる可能性がある.このような状況の大気はこれまでにも想定されてきたが,詳細には研究されてこなかった.
今回のモデルでは,惑星内部に加熱源が存在することを想定した.ホットジュピターの膨張半径を説明するモデルとしては,内部に加熱源が存在するか,あるいは冷却が遅くなっているかという説が提案されている.例えばオーム散逸 (Batygin et al. 2011) はこれらの組み合わせである.
惑星の冷却の遅れも,見かけの Tint を変えうる.しかし,多くの異常加熱モデルは冷却の遅れに依拠しない.
また惑星が再膨張していることを示す兆候も報告されており (Hartman et al. 2016など),ホットジュピターの異常膨張の原因として内部加熱モデルを支持している.もし再膨張があることが示された場合,半径膨張は内部加熱が支配的であるはずである (Lopez & Fortney 2016).
結果と議論
RCB の位置は,惑星の平衡温度が高い場合に低圧側に移動する.平衡温度 1000 K 周辺の膨張半径の cutoff では,RCB は 100 bar 程度になる.平衡温度 1800 K の極値では,およそ 1 bar になる.惑星重力が強い場合は RCB を高圧領域に移動させ,大気が高金属量の場合は低圧側へ移動させる.平衡状態では,表面重力が 25 m s-2 未満で,大気の金属量が太陽金属量がそれより多いホットジュピターでは,1 kbar より深い位置に RCB を持つものは存在しない.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.07267
Zak et al. (2019)
High-resolution transmission spectroscopy of four hot inflated gas giant exoplanets
(4 つの高温な膨張した巨大ガス系外惑星の高分散透過分光)
TESS,NGST と PLATO の時代では,中規模の望遠鏡にとってもより適した観測対象が発見される.さらに,長期に渡る系外惑星大気のモニタリング観測のベースとなる可能性のある,豊富なアーカイブデータが得られる.
ここでは,4 つのトランジットする膨張した系外惑星の,HAPRS での分光時系列アーカイブデータを解析した.解析した対象は WASP-76b,WASP-127b,WASP-166b,KELT-11b で,主要な目的はナトリウムの二重項,水素 (Hα,Hβ),リチウム (670.8 nm) である.
アーカイブデータの中には,惑星がトランジットをおこしている最中の時系列データも含まれている.トランジット中とトランジット外のデータを比較し,恒星のスペクトル線を除去し,惑星大気による吸収を探査した.また同時に,Mg I と Ca I 線を用いて恒星活動もモニターした.
その結果,WASP-76b の大気中から 7-9σ の水準で独立にナトリウムを検出した.さらに,WASP-127b の大気中でのナトリウムの検出を 4-8σ の信頼度で報告する.これは過去の低分散分光観測による結果を確認するものである.
WASP-166b と KELT-11b では高い信頼度でナトリウムもその他の原子も検出の証拠が得られなかった.これは大気の高高度に厚い雲が存在することを示唆する.
arXiv:1907.07267
Zak et al. (2019)
High-resolution transmission spectroscopy of four hot inflated gas giant exoplanets
(4 つの高温な膨張した巨大ガス系外惑星の高分散透過分光)
概要
透過スペクトルを取得することで,トランジットする系外惑星の大気の化学組成への制約を与えることができる.これは非常に高いシグナルノイズ比での分光観測 (あるいは分光測光観測) に依存しており,そのため中心星が明るい系が適している.TESS,NGST と PLATO の時代では,中規模の望遠鏡にとってもより適した観測対象が発見される.さらに,長期に渡る系外惑星大気のモニタリング観測のベースとなる可能性のある,豊富なアーカイブデータが得られる.
ここでは,4 つのトランジットする膨張した系外惑星の,HAPRS での分光時系列アーカイブデータを解析した.解析した対象は WASP-76b,WASP-127b,WASP-166b,KELT-11b で,主要な目的はナトリウムの二重項,水素 (Hα,Hβ),リチウム (670.8 nm) である.
アーカイブデータの中には,惑星がトランジットをおこしている最中の時系列データも含まれている.トランジット中とトランジット外のデータを比較し,恒星のスペクトル線を除去し,惑星大気による吸収を探査した.また同時に,Mg I と Ca I 線を用いて恒星活動もモニターした.
その結果,WASP-76b の大気中から 7-9σ の水準で独立にナトリウムを検出した.さらに,WASP-127b の大気中でのナトリウムの検出を 4-8σ の信頼度で報告する.これは過去の低分散分光観測による結果を確認するものである.
WASP-166b と KELT-11b では高い信頼度でナトリウムもその他の原子も検出の証拠が得られなかった.これは大気の高高度に厚い雲が存在することを示唆する.
天文・宇宙物理関連メモ vol.318 Hartmann et al. (2016) 2 つの膨張ホットジュピターの発見と近接ガス惑星の再膨張の観測的証拠
天文・宇宙物理関連メモ vol.90 Lopez & Fortney (2015) 赤色巨星周りの惑星の再膨張について