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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.01910
The 'Oumuamua ISSI Team (2019)
The Natural History of 'Oumuamua
(オウムアムアの自然史)
ここでは我々が知っている知識を検討し,すべての場合において観測結果はオウムアムアは天然起源の天体であるとすることと整合的であることを示す.また観測されたオウムアムアの特徴が,太陽系内の天然の小天体に関する豊富な知識と,惑星系の進化に関する現在の知見によってどのように説明されるのかについて議論する.
10月22日までに,軌道が双曲線であることを十分識別できるほどの位置天文観測が行われた.オウムアムアの動きが早いため,観測が可能な期間は短かった.発見から一週間の間に明るさは 10 分の 1 になり,その一ヶ月後には 100 分の 1 になった.
11月21-22 日のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた赤外線観測では,オウムアムアは検出されなかった.この観測からは,有効半径の上限として 49-220 m という推定値が得られた.ただしこの値は天体の表面特性に依存する.ビーミングパラメータと呼ばれる表面散乱のパラメータが彗星の典型的な値であった場合,オウムアムアの有効半径は 70 m で,幾何学的アルベドは 0.1 であると推定される.
いくつかの観測チームは,可視光から近赤外線までの測光観測とスペクトルから天体の特徴付けを行った.それによると,オウムアムアは赤く,彗星や D 型小惑星,いくつかの木星トロヤ群天体,多くの太陽系小天体と類似しており.また太陽系外縁天体よりは中間的な色をしていると推定された.そのため,観測された色だけではオウムアムアの組成の判断はできない.
公開されている分光データと測光データを比較すると,回転の位相によるスペクトルの変動の存在が,データの不定性の範囲内でもっともらしいと思われるが,これは確実ではない.
小天体の光度の変動は,特徴的な形状の天体の見かけの断面積の変化と,天体表面のアルベドの模様の両方によって発生しうる.しかし小惑星の表面は全体を一様に小さいレゴリスで覆われていると考えられるため,通常は天体形状の違いによって光度曲線の変動が生み出されていると思われる.そのためオウムアムアの光度曲線の形状も,表面のアルベドの違いではなく,天体の形状によるものだと考えられる.
この変動の振幅から,オウムアムアの長軸と短軸の長さの比率は 6:1 以上と推定される.オウムアムアの自転軸の配置が不明なため,この軸比は下限値である.
オウムアムアの光度変化のタイムスケールは 4 時間である.二重ピークの光度曲線の場合,これは自転周期が 8 時間であることを示唆している.しかし複数のチームによる観測では,整合的な自転周期には収束しなかった.
全ての測光データの解析から,オウムアムアは励起された自転状態にあることが示されている.現時点の解析では,最も短い軸周りで 8.67 ± 0.34 時間で回転し,また長い軸周りでは 54.48 時間で回転している可能性が高い.
オウムアムアの形状をどう解釈するかは,自転軸の向きを含む,自転の特定の状態に依存している.細長い楕円体の形状をしているか,あるいは平らな楕円体のような形状をしているか,どちらの可能性もありうる.
その後のハッブル宇宙望遠鏡を用いた位置天文測定では,太陽の重力のみを考慮した軌道では観測データをフィットできないことが指摘された.代わりに,動径方向の加速が 1/r2 で変化していることが示唆された.このタイプの加速は彗星の軌道研究ではしばしば用いられるものである.この加速は通常は彗星の活動性に駆動されるものであり,太陽から離れて受け取るエネルギーが減ることによって加速が減少していると解釈される.
現在ではオールトの雲に起源を持つ天体にも多くの非活発的な天体や活動の弱い天体があることが分かっており,仮に恒星間天体もこれらと同じ性質を持っているのであれば,恒星間天体の空間密度の推定値はかつて考えられていたよりも高いことになる.
2 つ目の驚くべき点は,オウムアムアは予想よりも早く発見されたということである.PanSTARRS1 での初期の予測では,オウムアムアのような恒星間天体は 10 年間のミッション期間中には発見されないだろうと思われていた.
最後に,オウムアムアは想像よりも小さかったという点も特徴として挙げられる.これは,長周期彗星は一般にキロメートルサイズの天体であるが,恒星間天体もこれと同程度のサイズであることが想定されていたためである.
その他にも,推定される形状が異常に細長いなどの特徴が挙げられる.オウムアムアはこれらの驚くべき特性を持っているが,これらの特性はオウムアムアは天然の天体であるとしても全て説明可能である.
惑星形成理論と観測からの制約を元に,恒星間天体の質量密度を推定する.
恒星の質量分布と密度分布はよく知られている.恒星は低質量のものほど存在個数が多く,銀河円盤での平均値は 1 立方パーセクあたり ~0.2 個である.
また,実質的にはすべての恒星が惑星を持つと考えることができる.
視線速度サーベイでは ~10-20% の太陽型星が巨大惑星を持つが,低質量星ではこの割合は著しく低下する.恒星質量で平均した巨大惑星の頻度は ~1-10% である.重力マイクロレンズを用いたサーベイでは,氷惑星の存在頻度はずっと大きく ~10-50% と推定されている.この存在頻度の恒星質量への依存性は弱い.
ALMA の円盤観測で,円盤にはギャップ構造が普遍的に存在することが分かっており,この観測からは遠距離での海王星質量惑星の存在は一般的で,存在頻度は ~50% と推定される.
どれくらいの微惑星が各惑星系から放出されるかは,各系の惑星の安定性に依存している.ここでは,巨大惑星を持つ系は合計で 1-100 地球質量の天体を放出すると仮定する.また氷惑星も系外に効率的に質量を放出させることが可能である.ここでは氷惑星系は 0.1-10 地球質量を系外に放出すると仮定する.
惑星系のタイプの頻度を考慮すると,巨大惑星によって放出される質量は恒星 1 つあたり 0.1-10 地球質量,氷惑星系では 0.01-5 地球質量と推定できる.これより,恒星一つあたりの恒星間天体の質量は 0.02-15 地球質量,もしくは 1 立方パーセクあたりの恒星間天体の質量は 0.004-3 地球質量と推定される.
この推定質量を元に,様々な有り得そうなサイズ頻度分布を考慮する.質量の推定には 3 桁の開きがあるが,これよりもサイズ頻度分布間の違いの方が大きい.
サイズ頻度分布が微惑星形成シミュレーションから得られるべき乗分布である場合,観測から制約された数密度と合わせるためには恒星 1 個あたり数千地球質量の放出が必要という,あり得なさそうな大きな値となる.しかしいくつかのサイズ頻度分布ではより小さい天体が質量を担い,観測から得られている制約を満たす.恒星間天体の質量密度のここでの推定の上限値を観測から示唆される数密度と合わせるのはより容易だが,主な不確実性はサイズ頻度分布の仮定によるものである.
そのため,恒星間天体の数密度と質量密度との確実な関連が分からないことを考えると,観測から得られる恒星間天体の数密度が,現在の惑星形成過程と比較して「予想以上」であるという主張は支持されない.
太陽による重力フォーカシングにより,オウムアムアのように低いランダム速度を持つ恒星間天体が検出されやすくなるという観測バイアスが作り出される.このことは,オウムアムアの銀河系内での速度を恒星間天体の全体の集団の速度分散として使うことを難しくする.
実際,オウムアムアの双曲線軌道は,近日点距離,軌道離心率,軌道傾斜角などのパラメータは特異なものではなく,現在の主要な小惑星サーベイによって検出可能な恒星間天体の値の分布として予測されていたものとよく一致する.なお,この予測はオウムアムアが発見されるほぼ 8 ヶ月「前」になされていたものである.
このレベルの脱ガスを起こす彗星は様々なサイズのダストも生成するが,オウムアムアからはダストは検出されていない.太陽の輻射で掃かれる尾が見られないということは,オウムアムアから何らかの粒子が放出されていたとして,その粒子の有効半径は大きいことを示唆している.
地上望遠鏡と宇宙望遠鏡を用いた複数の彗星の観測では,可視光の反射光でよく見えるサイズの粒子の放出は,必ずしもガスの放出と相関しているわけではないことが分かっている.また,いくつかの長周期彗星は大きいサイズの粒子を放出する傾向があるが,このメカニズムはまだ分かっていない.
残念ながら,大きなダスト粒子に感度のある観測は行われていない(このようなサイズの粒子は,電波波長で最も検出可能である).
オウムアムアに彗星活動が見られないことに基づくと,オウムアムアはもともとの星系から放出される前に,中心星を何度も近接遭遇した可能性がある.
最も主だった仮説としては太陽輻射圧による加速がある.太陽輻射圧によって観測された非重力的な加速を説明するためには,オウムアムアの密度は同サイズの小惑星よりも 3-4 桁低い必要がある.なお,いくつかの小さい小惑星では軌道に対する太陽輻射圧の影響は実際に検出されている.
太陽輻射圧を支持する説としては,オウムアムアはフラクタル凝集体であるために低密度であることを示唆するものがある.このような構造の天体は,発見される前は彗星のような天体だったものから脱ガスにより揮発性物質が抜けたことによって形成されたか,あるいは母天体系のスノーライン以遠で氷ダスト粒子の非常に大きいアグリゲイトとして形成されたと考えられる.
この仮説に対する重要な反論は,観測されているオウムアムアの光度曲線の振幅に基づくものである.
観測された非重力的加速がソーラーセイルによるものだとすると,その方向は太陽に面している必要がある.しかし観測されている輝度の変化を説明するためには,地球から見て天体の配置が変化している必要がある.さらに,実際のソーラーセイルの寸法は軸比が 10:1 より大きい必要がある.また光度曲線の観測からは,オウムアムアの形状としてソーラーセイルのような形状よりも,細長い楕円体を考えるのが整合的である.
地上観測の結果をスピッツァー宇宙望遠鏡での結果に整合性を持たせるためには,オウムアムアが太陽系の小惑星よりも少なくとも 10 倍は「明るく」ないといけない,という主張は誤りである.
スピッツァー宇宙望遠鏡の観測は,オウムアムアの幾何学的アルベドが 0.01 - 0.5 とすると整合的であり,もっともらしい値は ~0.1 である.一般的な彗星の幾何学的アルベドは 0.02-0.07,炭素質および珪酸塩に豊富な小惑星は 0.05-0.21,最も反射性の高い小惑星は ~0.5 である.そのためオウムアムアの値は通常の太陽系小天体のものと整合的である.
最後に,オウムアムアはその「異常な」運動学および推定される希少性に基づき,地球に故意に送り込まれた物体であるという主張もある.これは刺激的なアイデアだが,この議論には根拠がない.
まずオウムアムアの軌道は,検出可能な非活発的な恒星間天体として予測されていたものと整合的であり,異常な特徴を示しているわけではない.次に,推定された恒星間天体の数密度は,恒星間天体のサイズ分布に関する知識が我々には無いため,これまでの予想と矛盾しているとは言えない.
従って,オウムアムアの起源として異星人仮説を支持する説得力のある証拠は存在しない.
進化中の赤色巨星による微惑星の完全な液状化で,大きな角運動量を持つヤコビ楕円体の形成を引き起こしたというモデルが著者らのモデルである.
他には,
・低質量星,白色矮星や巨大惑星,あるいは単に近日点で潮汐破壊された微惑星や惑星の破片という説
・多数のダスト粒子の高速衝突によって形成されるという説
・原始惑星系円盤の中での 2 つの 50 m クラスの微惑星の低速衝突で形成されたという説
が存在する.
これらのモデルでは,なぜそのような極端な形状は,大きなサイズの太陽系天体の中では稀であるのかを説明する必要がある.ただしこれは観測選択効果である可能性もある.
オウムアムアより 2 桁大きいサイズを持つ天体では,始原的なカイパーベルト天体 2014 MU69 は二葉的構造を持ち,大きい方のローブとパンケーキ状に平坦になった天体が結合した形状をしている.
破壊や強い重力遭遇によって非主軸回転状態を生み出すことがある.この回転が減衰するタイムスケールは 1011 年と十分長いため,母天体の星系で非主軸回転状態になった可能性がある.
その他には,天体からの脱ガスによって自転周期を急速に変化させる可能性も指摘されている.
オウムアムアの起源を特定するために軌道を辿ることの実現可能性は,オウムアムアがいつ母星系から放出されたかに依存する.これは,恒星間の放浪時間が長いほど,より遠方の領域も母星系として考慮に入れる必要があるためである.
また過去の他の天体との近接遭遇についても考慮する必要がある.これは,他の天体との遭遇は,実効的にその力学的な過去を消し去ってしまうためである.
放浪時間に加え,速度と加速度の不定性も母星系の特定可能性に影響する.オウムアムア発見後の初期の研究では,その段階で判明しているケプラー軌道に基づいた研究が行われており,その後は非重力的加速を含んだ研究が行われている.これは近日点通過前後で時間的に対称であることを仮定している.この仮定が正当化されるかどうかは,近日点を通過する前の観測がないため,最終的には不明である.しかし熱慣性による時間差が生じることから,脱ガスには遅れが生じるだろう.観測からの制約がないため,母星系を探すためのパラメータ空間はずっと大きくなる.
Large Synoptic Survey Telescope (LSST) は 2022 年にフル稼働する予定であり,1 年あたり 1 個のオーダーの恒星間天体を発見することが見込まれている.そのため我々はもうすぐ,オウムアムアのような特性を持つ天体はどれだけ普遍的なのか,あるいはどれだけ希少なのかをよりよく理解することができるだろう.この知識は,銀河系内での微惑星形成,進化,放出過程への大きな知見となるだろう.
arXiv:1907.01910
The 'Oumuamua ISSI Team (2019)
The Natural History of 'Oumuamua
(オウムアムアの自然史)
概要
太陽系を通過する初めての恒星間天体 オウムアムア1I/2017 U1 (‘Oumuamua) の発見は,科学界と一般の人々からの強い継続的な関心を呼び起こした.オウムアムアの光度が暗いこと,また観測できる時間が限られていたことから,この天体の力学的・物理的状態について判明している情報は限られている.ここでは我々が知っている知識を検討し,すべての場合において観測結果はオウムアムアは天然起源の天体であるとすることと整合的であることを示す.また観測されたオウムアムアの特徴が,太陽系内の天然の小天体に関する豊富な知識と,惑星系の進化に関する現在の知見によってどのように説明されるのかについて議論する.
オウムアムアについて我々が知っていること
発見と観測の経緯
オウムアムアは,2017年10月19日に PanSTARRS1 地球近傍天体探査によって発見された.地球から 0.16 au の距離に最接近した 3 日後の発見であり,これはオウムアムアが近日点距離 0.25 au を 9月9日に通過した後の出来事であった.10月22日までに,軌道が双曲線であることを十分識別できるほどの位置天文観測が行われた.オウムアムアの動きが早いため,観測が可能な期間は短かった.発見から一週間の間に明るさは 10 分の 1 になり,その一ヶ月後には 100 分の 1 になった.
サイズと組成の推定
発見から一週間後の,可視光の波長で測定された等級は HV = 22.4 である.これより,オウムアムアは 100 メートル程度のサイズであることが示唆された.11月21-22 日のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた赤外線観測では,オウムアムアは検出されなかった.この観測からは,有効半径の上限として 49-220 m という推定値が得られた.ただしこの値は天体の表面特性に依存する.ビーミングパラメータと呼ばれる表面散乱のパラメータが彗星の典型的な値であった場合,オウムアムアの有効半径は 70 m で,幾何学的アルベドは 0.1 であると推定される.
いくつかの観測チームは,可視光から近赤外線までの測光観測とスペクトルから天体の特徴付けを行った.それによると,オウムアムアは赤く,彗星や D 型小惑星,いくつかの木星トロヤ群天体,多くの太陽系小天体と類似しており.また太陽系外縁天体よりは中間的な色をしていると推定された.そのため,観測された色だけではオウムアムアの組成の判断はできない.
公開されている分光データと測光データを比較すると,回転の位相によるスペクトルの変動の存在が,データの不定性の範囲内でもっともらしいと思われるが,これは確実ではない.
光度変動と天体の形状
オウムアムアには短周期の明るさの変動が見られ,等級にして 2.5 以上変化する.この光度変動の振幅は異常に大きい.光度曲線がよく測定されている太陽系内天体のうち,オウムアムアと同程度の変動を示すものはわずかである.小天体の光度の変動は,特徴的な形状の天体の見かけの断面積の変化と,天体表面のアルベドの模様の両方によって発生しうる.しかし小惑星の表面は全体を一様に小さいレゴリスで覆われていると考えられるため,通常は天体形状の違いによって光度曲線の変動が生み出されていると思われる.そのためオウムアムアの光度曲線の形状も,表面のアルベドの違いではなく,天体の形状によるものだと考えられる.
この変動の振幅から,オウムアムアの長軸と短軸の長さの比率は 6:1 以上と推定される.オウムアムアの自転軸の配置が不明なため,この軸比は下限値である.
オウムアムアの光度変化のタイムスケールは 4 時間である.二重ピークの光度曲線の場合,これは自転周期が 8 時間であることを示唆している.しかし複数のチームによる観測では,整合的な自転周期には収束しなかった.
全ての測光データの解析から,オウムアムアは励起された自転状態にあることが示されている.現時点の解析では,最も短い軸周りで 8.67 ± 0.34 時間で回転し,また長い軸周りでは 54.48 時間で回転している可能性が高い.
オウムアムアの形状をどう解釈するかは,自転軸の向きを含む,自転の特定の状態に依存している.細長い楕円体の形状をしているか,あるいは平らな楕円体のような形状をしているか,どちらの可能性もありうる.
ダスト・ガスの探査と非重力的加速
活動性の探査では,ミクロンサイズのダストはオウムアムア付近には検出されなかった.しかしミリメートルサイズ以上のダストへの感度がある観測は行われていないため,大きい粒子への制約は不明である.またガスの観測に関しては,CN,H2O,CO と CO2 を含むガスの検出は報告されていない.その後のハッブル宇宙望遠鏡を用いた位置天文測定では,太陽の重力のみを考慮した軌道では観測データをフィットできないことが指摘された.代わりに,動径方向の加速が 1/r2 で変化していることが示唆された.このタイプの加速は彗星の軌道研究ではしばしば用いられるものである.この加速は通常は彗星の活動性に駆動されるものであり,太陽から離れて受け取るエネルギーが減ることによって加速が減少していると解釈される.
現状の理論への批判的考察
これまでは,恒星間天体が存在するとすれば明確な彗星活動が見られるだろうと思われてきた.これはオールトの雲に起源を持つ長周期彗星と同様である.ほとんどのオールトの雲の天体は太陽系内部に入ったときには活発な彗星になるという考えがあり,これを元に恒星間天体の空間密度に対する制約が行われてきた.そのためオウムアムアが彗星活動を示さなかったのは驚くべき点である.現在ではオールトの雲に起源を持つ天体にも多くの非活発的な天体や活動の弱い天体があることが分かっており,仮に恒星間天体もこれらと同じ性質を持っているのであれば,恒星間天体の空間密度の推定値はかつて考えられていたよりも高いことになる.
2 つ目の驚くべき点は,オウムアムアは予想よりも早く発見されたということである.PanSTARRS1 での初期の予測では,オウムアムアのような恒星間天体は 10 年間のミッション期間中には発見されないだろうと思われていた.
最後に,オウムアムアは想像よりも小さかったという点も特徴として挙げられる.これは,長周期彗星は一般にキロメートルサイズの天体であるが,恒星間天体もこれと同程度のサイズであることが想定されていたためである.
その他にも,推定される形状が異常に細長いなどの特徴が挙げられる.オウムアムアはこれらの驚くべき特性を持っているが,これらの特性はオウムアムアは天然の天体であるとしても全て説明可能である.
オウムアムアは惑星系に起源を持つ
オウムアムアの起源としての最も明快な説明は,オウムアムアは別の星系から放出された微惑星もしくはその破片であるとするものである.惑星形成の過程で,微惑星のうち一定量は星間空間に放出される.放出を起こす主な機構は,周囲の星団の恒星との重力相互作用や巨大惑星との遭遇である.シミュレーションでは,巨大惑星との遭遇が最も効率的な放出過程であると考えられる.宇宙空間での予想される恒星間天体の数密度
オウムアムアの絶対等級と現在の全天サーベイの検出限界から,オウムアムアと同じサイズの恒星間天体の数密度は 1 立方 au あたり 0.1 個と推定されている.この数密度は,現在の惑星形成理論から予想されるよりも 2-8 桁高いとの指摘が存在する.しかし恒星間天体の数密度を質量密度に変換する際には,天体のサイズ頻度分布に関する情報が必要である.現状では天体が一つしか発見されておらず,恒星間天体のサイズ頻度分布への制約は存在しない.惑星形成理論と観測からの制約を元に,恒星間天体の質量密度を推定する.
恒星の質量分布と密度分布はよく知られている.恒星は低質量のものほど存在個数が多く,銀河円盤での平均値は 1 立方パーセクあたり ~0.2 個である.
また,実質的にはすべての恒星が惑星を持つと考えることができる.
視線速度サーベイでは ~10-20% の太陽型星が巨大惑星を持つが,低質量星ではこの割合は著しく低下する.恒星質量で平均した巨大惑星の頻度は ~1-10% である.重力マイクロレンズを用いたサーベイでは,氷惑星の存在頻度はずっと大きく ~10-50% と推定されている.この存在頻度の恒星質量への依存性は弱い.
ALMA の円盤観測で,円盤にはギャップ構造が普遍的に存在することが分かっており,この観測からは遠距離での海王星質量惑星の存在は一般的で,存在頻度は ~50% と推定される.
どれくらいの微惑星が各惑星系から放出されるかは,各系の惑星の安定性に依存している.ここでは,巨大惑星を持つ系は合計で 1-100 地球質量の天体を放出すると仮定する.また氷惑星も系外に効率的に質量を放出させることが可能である.ここでは氷惑星系は 0.1-10 地球質量を系外に放出すると仮定する.
惑星系のタイプの頻度を考慮すると,巨大惑星によって放出される質量は恒星 1 つあたり 0.1-10 地球質量,氷惑星系では 0.01-5 地球質量と推定できる.これより,恒星一つあたりの恒星間天体の質量は 0.02-15 地球質量,もしくは 1 立方パーセクあたりの恒星間天体の質量は 0.004-3 地球質量と推定される.
この推定質量を元に,様々な有り得そうなサイズ頻度分布を考慮する.質量の推定には 3 桁の開きがあるが,これよりもサイズ頻度分布間の違いの方が大きい.
サイズ頻度分布が微惑星形成シミュレーションから得られるべき乗分布である場合,観測から制約された数密度と合わせるためには恒星 1 個あたり数千地球質量の放出が必要という,あり得なさそうな大きな値となる.しかしいくつかのサイズ頻度分布ではより小さい天体が質量を担い,観測から得られている制約を満たす.恒星間天体の質量密度のここでの推定の上限値を観測から示唆される数密度と合わせるのはより容易だが,主な不確実性はサイズ頻度分布の仮定によるものである.
そのため,恒星間天体の数密度と質量密度との確実な関連が分からないことを考えると,観測から得られる恒星間天体の数密度が,現在の惑星形成過程と比較して「予想以上」であるという主張は支持されない.
独特な軌道
オウムアムアの局所静止系からみた時のランダム速度は 9 km s-1 で,これは近傍星の速度分散である ~50 km s-1 よりずっと小さい.ランダム速度が小さいことは,オウムアムアは力学的に若いことを示唆している,統計的に導かれる力学的な年齢は 20 億年未満である.太陽による重力フォーカシングにより,オウムアムアのように低いランダム速度を持つ恒星間天体が検出されやすくなるという観測バイアスが作り出される.このことは,オウムアムアの銀河系内での速度を恒星間天体の全体の集団の速度分散として使うことを難しくする.
実際,オウムアムアの双曲線軌道は,近日点距離,軌道離心率,軌道傾斜角などのパラメータは特異なものではなく,現在の主要な小惑星サーベイによって検出可能な恒星間天体の値の分布として予測されていたものとよく一致する.なお,この予測はオウムアムアが発見されるほぼ 8 ヶ月「前」になされていたものである.
「彗星」活動と揮発性物質の保持
非重力的加速と脱ガス
オウムアムアで観測された,非重力的な加速を説明するために必要なオウムアムアからの質量損失は,1 kg s-1 のオーダーである.オウムアムア程度のサイズで,彗星としての特性を持った天体の脱ガスモデルでは,観測された太陽からの距離でこの量の脱ガスは可能である.また,ロゼッタが観測した 67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星をオウムアムアサイズまでスケールダウンすると,同じ程度の脱ガス率を得る.このレベルの脱ガスを起こす彗星は様々なサイズのダストも生成するが,オウムアムアからはダストは検出されていない.太陽の輻射で掃かれる尾が見られないということは,オウムアムアから何らかの粒子が放出されていたとして,その粒子の有効半径は大きいことを示唆している.
地上望遠鏡と宇宙望遠鏡を用いた複数の彗星の観測では,可視光の反射光でよく見えるサイズの粒子の放出は,必ずしもガスの放出と相関しているわけではないことが分かっている.また,いくつかの長周期彗星は大きいサイズの粒子を放出する傾向があるが,このメカニズムはまだ分かっていない.
残念ながら,大きなダスト粒子に感度のある観測は行われていない(このようなサイズの粒子は,電波波長で最も検出可能である).
オウムアムアに彗星活動が見られないことに基づくと,オウムアムアはもともとの星系から放出される前に,中心星を何度も近接遭遇した可能性がある.
脱ガス以外の可能性
オウムアムアからの脱ガス以外にも,観測された非重力的加速を説明するためにいくつかの仮説が提唱されたが,最終的には否定された.最も主だった仮説としては太陽輻射圧による加速がある.太陽輻射圧によって観測された非重力的な加速を説明するためには,オウムアムアの密度は同サイズの小惑星よりも 3-4 桁低い必要がある.なお,いくつかの小さい小惑星では軌道に対する太陽輻射圧の影響は実際に検出されている.
太陽輻射圧を支持する説としては,オウムアムアはフラクタル凝集体であるために低密度であることを示唆するものがある.このような構造の天体は,発見される前は彗星のような天体だったものから脱ガスにより揮発性物質が抜けたことによって形成されたか,あるいは母天体系のスノーライン以遠で氷ダスト粒子の非常に大きいアグリゲイトとして形成されたと考えられる.
異星人文明?
オウムアムアは異星人技術による人工天体であるというアイデアも出されている.これは,非重力的加速を太陽輻射圧で説明しようとした場合,ソーラーセイルのような形状になるだろうという議論に基づくものである.この仮説に対する重要な反論は,観測されているオウムアムアの光度曲線の振幅に基づくものである.
観測された非重力的加速がソーラーセイルによるものだとすると,その方向は太陽に面している必要がある.しかし観測されている輝度の変化を説明するためには,地球から見て天体の配置が変化している必要がある.さらに,実際のソーラーセイルの寸法は軸比が 10:1 より大きい必要がある.また光度曲線の観測からは,オウムアムアの形状としてソーラーセイルのような形状よりも,細長い楕円体を考えるのが整合的である.
地上観測の結果をスピッツァー宇宙望遠鏡での結果に整合性を持たせるためには,オウムアムアが太陽系の小惑星よりも少なくとも 10 倍は「明るく」ないといけない,という主張は誤りである.
スピッツァー宇宙望遠鏡の観測は,オウムアムアの幾何学的アルベドが 0.01 - 0.5 とすると整合的であり,もっともらしい値は ~0.1 である.一般的な彗星の幾何学的アルベドは 0.02-0.07,炭素質および珪酸塩に豊富な小惑星は 0.05-0.21,最も反射性の高い小惑星は ~0.5 である.そのためオウムアムアの値は通常の太陽系小天体のものと整合的である.
最後に,オウムアムアはその「異常な」運動学および推定される希少性に基づき,地球に故意に送り込まれた物体であるという主張もある.これは刺激的なアイデアだが,この議論には根拠がない.
まずオウムアムアの軌道は,検出可能な非活発的な恒星間天体として予測されていたものと整合的であり,異常な特徴を示しているわけではない.次に,推定された恒星間天体の数密度は,恒星間天体のサイズ分布に関する知識が我々には無いため,これまでの予想と矛盾しているとは言えない.
従って,オウムアムアの起源として異星人仮説を支持する説得力のある証拠は存在しない.
未解決問題
形状
オウムアムアの非常に細長い形状を説明するためのいくつかのモデルが提案されているが,少なくとも 6:1 という極端な軸比を自然に説明する自己無撞着な枠組みのモデルはない.進化中の赤色巨星による微惑星の完全な液状化で,大きな角運動量を持つヤコビ楕円体の形成を引き起こしたというモデルが著者らのモデルである.
他には,
・低質量星,白色矮星や巨大惑星,あるいは単に近日点で潮汐破壊された微惑星や惑星の破片という説
・多数のダスト粒子の高速衝突によって形成されるという説
・原始惑星系円盤の中での 2 つの 50 m クラスの微惑星の低速衝突で形成されたという説
が存在する.
これらのモデルでは,なぜそのような極端な形状は,大きなサイズの太陽系天体の中では稀であるのかを説明する必要がある.ただしこれは観測選択効果である可能性もある.
オウムアムアより 2 桁大きいサイズを持つ天体では,始原的なカイパーベルト天体 2014 MU69 は二葉的構造を持ち,大きい方のローブとパンケーキ状に平坦になった天体が結合した形状をしている.
自転状態
測光観測結果を合わせると,オウムアムアは主軸周りの回転ではないことが明らかになっている (非主軸回転,non-principal axis rotation, NPA).これは小惑星ではよく見られる自転状態である.破壊や強い重力遭遇によって非主軸回転状態を生み出すことがある.この回転が減衰するタイムスケールは 1011 年と十分長いため,母天体の星系で非主軸回転状態になった可能性がある.
その他には,天体からの脱ガスによって自転周期を急速に変化させる可能性も指摘されている.
母天体
オウムアムアの軌道を逆向きに追う試みは多数あるものの,元となった天体の特定には至っていない.オウムアムアの起源を特定するために軌道を辿ることの実現可能性は,オウムアムアがいつ母星系から放出されたかに依存する.これは,恒星間の放浪時間が長いほど,より遠方の領域も母星系として考慮に入れる必要があるためである.
また過去の他の天体との近接遭遇についても考慮する必要がある.これは,他の天体との遭遇は,実効的にその力学的な過去を消し去ってしまうためである.
放浪時間に加え,速度と加速度の不定性も母星系の特定可能性に影響する.オウムアムア発見後の初期の研究では,その段階で判明しているケプラー軌道に基づいた研究が行われており,その後は非重力的加速を含んだ研究が行われている.これは近日点通過前後で時間的に対称であることを仮定している.この仮定が正当化されるかどうかは,近日点を通過する前の観測がないため,最終的には不明である.しかし熱慣性による時間差が生じることから,脱ガスには遅れが生じるだろう.観測からの制約がないため,母星系を探すためのパラメータ空間はずっと大きくなる.
結論
太陽系を訪れた初めての恒星間天体として,オウムアムアは他の恒星系からの小天体がどのように見えるかについての我々の多くの仮定に対して疑問をもたらした.オウムアムアは数多くの根源的な疑問をもたらした一方で,これらの疑問に対してオウムアムアは天然の天体であることを仮定して答えられることも示した.オウムアムアは人工物体かもしれないという主張は,太陽系小天体や惑星形成に関する現在の幅広い知識を考慮すると,正当化されないものである.Large Synoptic Survey Telescope (LSST) は 2022 年にフル稼働する予定であり,1 年あたり 1 個のオーダーの恒星間天体を発見することが見込まれている.そのため我々はもうすぐ,オウムアムアのような特性を持つ天体はどれだけ普遍的なのか,あるいはどれだけ希少なのかをよりよく理解することができるだろう.この知識は,銀河系内での微惑星形成,進化,放出過程への大きな知見となるだろう.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.10703
Newton et al. (2019)
TESS Hunt for Young and Maturing Exoplanets (THYME): A planet in the 45 Myr Tucana-Horologium association
(TESS による若い系外惑星と成熟した系外惑星の探査 (THYME):4500 万歳のきょしちょう座・とけい座アソシエーション内の惑星)
ここでは,4500 万歳のきょしちょう座・とけい座の若い運動集団の中にある,海王星より大きいが土星よりは小さいトランジット惑星の発見を報告する.
中心星は実視連星であり,フォローアップ観測によって惑星はスペクトル型 G6V の主星きょしちょう座DS星A (DS Tuc A, HD 222259A, TIC 410214986) を公転していると判明した.この惑星は Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) で最初に検出されたものであり,TESS での検出アラート名は TOI 200.01 である.
新しい観測データと過去のアーカイブデータを用いて,このシグナルが惑星由来であることを実証し,また恒星のパラメータを更新した.データ中には,さらなる恒星や惑星のシグナルは見られなかった.
恒星の変動性を考慮するため,トランジットモデルを含めた測光とガウス過程を同時にモデリングして惑星のパラメータを測定した.その結果,惑星半径は 5.70 地球半径,軌道周期は 8.1 日であった.
中心星の傾斜角,惑星の軌道軸および実視連星の軌道軸は,関連する観測データの不定性の範囲で,15° の範囲内で揃っている.DS Tuc A (等級:V = 8.5) は,視線速度測定と透過光分光観測を用いて詳細に惑星の特徴付けするのに十分明るい恒星である.
自転周期:2.85 日
有効温度:5428 K
質量:1.01 太陽質量
半径:0.964 太陽半径
光度:0.725 太陽光度
年齢:4500 万歳
半径:5.70 地球半径
自転周期:不明
有効温度:4700 K
質量:0.84 太陽質量
半径:0.864 太陽半径
光度:0.327 太陽光度
arXiv:1906.10703
Newton et al. (2019)
TESS Hunt for Young and Maturing Exoplanets (THYME): A planet in the 45 Myr Tucana-Horologium association
(TESS による若い系外惑星と成熟した系外惑星の探査 (THYME):4500 万歳のきょしちょう座・とけい座アソシエーション内の惑星)
概要
若い年齢の系外惑星は,惑星進化過程のスナップショットである.若いアソシエーションに所属する恒星を公転する惑星は,その惑星系の年齢をよく制約できるため特に重要である.ここでは,4500 万歳のきょしちょう座・とけい座の若い運動集団の中にある,海王星より大きいが土星よりは小さいトランジット惑星の発見を報告する.
中心星は実視連星であり,フォローアップ観測によって惑星はスペクトル型 G6V の主星きょしちょう座DS星A (DS Tuc A, HD 222259A, TIC 410214986) を公転していると判明した.この惑星は Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) で最初に検出されたものであり,TESS での検出アラート名は TOI 200.01 である.
新しい観測データと過去のアーカイブデータを用いて,このシグナルが惑星由来であることを実証し,また恒星のパラメータを更新した.データ中には,さらなる恒星や惑星のシグナルは見られなかった.
恒星の変動性を考慮するため,トランジットモデルを含めた測光とガウス過程を同時にモデリングして惑星のパラメータを測定した.その結果,惑星半径は 5.70 地球半径,軌道周期は 8.1 日であった.
中心星の傾斜角,惑星の軌道軸および実視連星の軌道軸は,関連する観測データの不定性の範囲で,15° の範囲内で揃っている.DS Tuc A (等級:V = 8.5) は,視線速度測定と透過光分光観測を用いて詳細に惑星の特徴付けするのに十分明るい恒星である.
パラメータ
きょしちょう座DS星A
スペクトル型:G6V自転周期:2.85 日
有効温度:5428 K
質量:1.01 太陽質量
半径:0.964 太陽半径
光度:0.725 太陽光度
年齢:4500 万歳
きょしちょう座DS星Ab
軌道周期:8.138268 日半径:5.70 地球半径
きょしちょう座DS星B
スペクトル型:K3V自転周期:不明
有効温度:4700 K
質量:0.84 太陽質量
半径:0.864 太陽半径
光度:0.327 太陽光度
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.09267
Crossfield et al. (2019)
A super-Earth and sub-Neptune transiting the late-type M dwarf LP 791-18
(晩期型 M 矮星 LP 791-18 をトランジットするスーパーアースとサブネプチューン)
恒星のスペクトル型は M6V,有効温度は 2960 K,半径は 0.17 太陽半径である.この恒星は,惑星を持つ恒星としては 3 番目に低温な天体である.
発見された 2 つの惑星は,小さい系外惑星に見られる半径ギャップ領域にまたがって存在している.1 つは 1.1 地球半径,軌道周期 0.95 日であり,もう 1 つは 2.3 地球半径,軌道周期 5 日である.
中心星のサイズは小さいため,惑星がトランジットする最中の光の減少は大きい (それぞれ 0.4% と 1.7%).そのため地上からの測光観測でもこれらの惑星のトランジットを検出することができ,惑星半径と軌道の天体暦を更新することが出来た.
将来的には,視線速度観測と透過分光観測の両方でこれらの惑星の内部や大気の組成について探査し,さらに小さいトランジット惑星に感度があるさらなる測光モニタリング観測が可能になるだろう.
惑星を持つ恒星の中で,有効温度が 3100 K より低温な恒星は 7 個のみである.このうち最も低温なのが TRAPPIST-1 である (2600 K,0.08 太陽質量,Gillon et al. 2017).
惑星の存在頻度は恒星の最も小さい質量まで上記の傾向が続くのか,あるいはさらにそれを超えて褐色矮星が惑星を持つのか,については未解決の問題である.また高温の恒星の周りを公転する惑星との比較も不明である.
統計的なミッションではないものの,TESS によるほぼ全天のトランジットサーベイ観測では,この問題の解答の一助となるかもしれない.TESS は 2 年間にわたる主要ミッションで全天の 70% 近くをサーベイし,また近傍の M 型星をサーベイ可能である.
スペクトル型:M6V
金属量:[Fe/H] = -0.09
有効温度:2960 K
質量:0.139 太陽質量
半径:0.171 太陽半径
光度:0.00201 太陽光度
距離:26.493 pc
軌道長半径:0.00969 AU
半径:1.12 地球半径
平衡温度:650 K
軌道長半径:0.029392 AU
半径:2.31 地球半径
平衡温度:370 K
arXiv:1906.09267
Crossfield et al. (2019)
A super-Earth and sub-Neptune transiting the late-type M dwarf LP 791-18
(晩期型 M 矮星 LP 791-18 をトランジットするスーパーアースとサブネプチューン)
概要
惑星は低温の矮星の周りに最も多く存在するが,晩期 M 型星を公転するのが知られている天体は一握りである.ここでは,TESS による測光観測を用いて,低質量の恒星 LP 791-18 (TOI 736) のまわりに 2 つの惑星を発見したことを報告する.恒星のスペクトル型は M6V,有効温度は 2960 K,半径は 0.17 太陽半径である.この恒星は,惑星を持つ恒星としては 3 番目に低温な天体である.
発見された 2 つの惑星は,小さい系外惑星に見られる半径ギャップ領域にまたがって存在している.1 つは 1.1 地球半径,軌道周期 0.95 日であり,もう 1 つは 2.3 地球半径,軌道周期 5 日である.
中心星のサイズは小さいため,惑星がトランジットする最中の光の減少は大きい (それぞれ 0.4% と 1.7%).そのため地上からの測光観測でもこれらの惑星のトランジットを検出することができ,惑星半径と軌道の天体暦を更新することが出来た.
将来的には,視線速度観測と透過分光観測の両方でこれらの惑星の内部や大気の組成について探査し,さらに小さいトランジット惑星に感度があるさらなる測光モニタリング観測が可能になるだろう.
背景
ケプラーは数千もの M 型矮星をサーベイし,恒星質量と恒星の有効温度が減少すると,軌道周期 1 年未満の惑星の存在頻度は大きくなることを示した (Howard et al. 2012).しかしケプラーで観測した M 型星は大部分が早期型である.有効温度が 3300 K 未満の,全対流の内部構造を持つ恒星は 600 個未満である.惑星を持つ恒星の中で,有効温度が 3100 K より低温な恒星は 7 個のみである.このうち最も低温なのが TRAPPIST-1 である (2600 K,0.08 太陽質量,Gillon et al. 2017).
惑星の存在頻度は恒星の最も小さい質量まで上記の傾向が続くのか,あるいはさらにそれを超えて褐色矮星が惑星を持つのか,については未解決の問題である.また高温の恒星の周りを公転する惑星との比較も不明である.
統計的なミッションではないものの,TESS によるほぼ全天のトランジットサーベイ観測では,この問題の解答の一助となるかもしれない.TESS は 2 年間にわたる主要ミッションで全天の 70% 近くをサーベイし,また近傍の M 型星をサーベイ可能である.
パラメータ
LP 791-18
等級:V = 16.9スペクトル型:M6V
金属量:[Fe/H] = -0.09
有効温度:2960 K
質量:0.139 太陽質量
半径:0.171 太陽半径
光度:0.00201 太陽光度
距離:26.493 pc
LP 791-18b
軌道周期:0.9480050 日軌道長半径:0.00969 AU
半径:1.12 地球半径
平衡温度:650 K
LP 791-18c
軌道周期:4.989963 日軌道長半径:0.029392 AU
半径:2.31 地球半径
平衡温度:370 K
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.09866
Kossakowski et al. (2019)
TOI-150b and TOI-163b: two transiting hot Jupiters, one eccentric and one inflated, revealed by TESS near and at the edge of the JWST CVZ
(TOI-150b と TOI-163b:2 つのトランジットするホットジュピター,一つはエキセントリックで一つは膨張しており,TESS で明らかにされ JWST の継続観測領域の近くと縁に位置している)
これたの惑星は,Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) の Sector 1 での測光観測で最初に検出され,その後のフォローアップ測光観測,高分散分光観測とスペックル撮像で 2 つのシグナルが惑星であることを確認した.
測光観測データと視線速度データの同時フィッティングは,juliet パッケージを用いて実行した.
TOI-150b は 1.254 木星半径で,2.61 木星質量と重いホットジュピターである.軌道周期は 5.857 日である.一方で TOI-163b は 1.478 木星半径,1.219 木星質量と膨張した半径を持つホットジュピターで,軌道周期は 4.231 日である.中心星はどちらも F 型星であった.
特に興味深い点は,TOI-150b は e = 0.262 と離心軌道にあることである.この離心率の大きさは,ホットジュピターとしては非常に珍しい.しかし,円軌道化のタイムスケールはこの系の年齢よりわずかに長いことから,この離心率の大きさは整合的であると推定される.
これらの 2 つのホットジュピターはどちらも,さらなる特徴付け観測に適している.特に,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の Continuous Viewing Zone (CVZ,継続的に観測可能な領域) に近い位置にあることから,ロシター効果を用いた spin-orbit alignment や,二次食の観測を用いた大気の温度構造の特徴付けに非常に適している.
arXiv:1906.09866
Kossakowski et al. (2019)
TOI-150b and TOI-163b: two transiting hot Jupiters, one eccentric and one inflated, revealed by TESS near and at the edge of the JWST CVZ
(TOI-150b と TOI-163b:2 つのトランジットするホットジュピター,一つはエキセントリックで一つは膨張しており,TESS で明らかにされ JWST の継続観測領域の近くと縁に位置している)
概要
新しい系外惑星 TYC9191-519-1b (TOI-150b, TIC 271893367) と HD271181b (TOI-163b, TIC 179317684) の発見を報告する.これたの惑星は,Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) の Sector 1 での測光観測で最初に検出され,その後のフォローアップ測光観測,高分散分光観測とスペックル撮像で 2 つのシグナルが惑星であることを確認した.
測光観測データと視線速度データの同時フィッティングは,juliet パッケージを用いて実行した.
TOI-150b は 1.254 木星半径で,2.61 木星質量と重いホットジュピターである.軌道周期は 5.857 日である.一方で TOI-163b は 1.478 木星半径,1.219 木星質量と膨張した半径を持つホットジュピターで,軌道周期は 4.231 日である.中心星はどちらも F 型星であった.
特に興味深い点は,TOI-150b は e = 0.262 と離心軌道にあることである.この離心率の大きさは,ホットジュピターとしては非常に珍しい.しかし,円軌道化のタイムスケールはこの系の年齢よりわずかに長いことから,この離心率の大きさは整合的であると推定される.
これらの 2 つのホットジュピターはどちらも,さらなる特徴付け観測に適している.特に,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の Continuous Viewing Zone (CVZ,継続的に観測可能な領域) に近い位置にあることから,ロシター効果を用いた spin-orbit alignment や,二次食の観測を用いた大気の温度構造の特徴付けに非常に適している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1906.08913
Marocco et al. (2019)
CWISEP J193518.59−154620.3: An Extremely Cold Brown Dwarf in the Solar Neighborhood Discovered with CatWISE
(CWISEP J193518.59−154620.3:CatWISE で発見された太陽近傍の極めて低温な褐色矮星)
この天体はスピッツァー宇宙望遠鏡でのフォローアップ測光観測によって,色指数が ch1-ch2 = 3.24 mag と測定され,これまでで最も赤い褐色矮星の一つとなった.
スピッツァーによる測光観測と Kirkpatrick et al. (2019) での多項関係を用いると,有効温度は ~270-360 K の範囲であると推定され,また距離は 5.6-10.9 pc の範囲だと推定される.WISE,NEOWISE,スピッツァーの観測データを合わせてこの天体の固有運動を測定した結果,接線方向の速度は比較的小さく,7-22 km s-1 と推定された.
これらのサーベイ観測のデータは,これまでは見落とされてきた太陽から 20 pc 以内に存在する天体を同定する良い機会である.
近年は太陽近傍にある超低温矮星の発見が報告されているが,最も低温で低質量の太陽近傍天体の調査はかなり不完全である.
Kirkpatrick et al. (2019) では,T 矮星と Y 矮星の発見に関する網羅性の限界は,天体の有効温度の急激な減少関数であることが示された.例えば,有効温度が 900-1050 K の天体の場合は検出可能な天体の距離は 19 pc で,300-450 K だと 8 pc にまで減少してしまう.さらに低い有効温度を持つ天体の場合,2.3 pc の距離に WISE J085510.83–071442.5 の 1 個が発見されているのみである (Luhman 2014).
この温度領域にある天体の発見数が欠乏していることは,宇宙物理学における基本的な疑問に答えることを妨げている.つまり,星形成はどのようにして非常に低質量の天体を形成し,またその形成効率はどの程度のものなのか?という疑問である.
arXiv:1906.08913
Marocco et al. (2019)
CWISEP J193518.59−154620.3: An Extremely Cold Brown Dwarf in the Solar Neighborhood Discovered with CatWISE
(CWISEP J193518.59−154620.3:CatWISE で発見された太陽近傍の極めて低温な褐色矮星)
概要
CatWise カタログの中から,太陽近傍の非常に低温な褐色矮星 CWISEP J193518.59–154620.3 を発見した.Cat WISE とは,WISE と NEOWISE で 2010-2016 年に観測された,900849014 個の天体の赤外線での測光観測と位置天文観測のデータをまとめた天体カタログである.この天体はスピッツァー宇宙望遠鏡でのフォローアップ測光観測によって,色指数が ch1-ch2 = 3.24 mag と測定され,これまでで最も赤い褐色矮星の一つとなった.
スピッツァーによる測光観測と Kirkpatrick et al. (2019) での多項関係を用いると,有効温度は ~270-360 K の範囲であると推定され,また距離は 5.6-10.9 pc の範囲だと推定される.WISE,NEOWISE,スピッツァーの観測データを合わせてこの天体の固有運動を測定した結果,接線方向の速度は比較的小さく,7-22 km s-1 と推定された.
太陽系近傍の低温天体
太陽近傍にある天体の調査は,近年盛んに行われている.可視光と近赤外線での大規模なサーベイには,2MASS,SDSS,UKIDSS,VHS,PanSTARRS,AllWISE などがある.また最近では Gaia の第二次データリリースも行われた.これらのサーベイ観測のデータは,これまでは見落とされてきた太陽から 20 pc 以内に存在する天体を同定する良い機会である.
近年は太陽近傍にある超低温矮星の発見が報告されているが,最も低温で低質量の太陽近傍天体の調査はかなり不完全である.
Kirkpatrick et al. (2019) では,T 矮星と Y 矮星の発見に関する網羅性の限界は,天体の有効温度の急激な減少関数であることが示された.例えば,有効温度が 900-1050 K の天体の場合は検出可能な天体の距離は 19 pc で,300-450 K だと 8 pc にまで減少してしまう.さらに低い有効温度を持つ天体の場合,2.3 pc の距離に WISE J085510.83–071442.5 の 1 個が発見されているのみである (Luhman 2014).
この温度領域にある天体の発見数が欠乏していることは,宇宙物理学における基本的な疑問に答えることを妨げている.つまり,星形成はどのようにして非常に低質量の天体を形成し,またその形成効率はどの程度のものなのか?という疑問である.