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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1902.07944
Mallonn et al. (2019)
Low albedos of hot to ultra-hot Jupiters in the optical to near-infrared transition regime
(可視光から近赤外線遷移領域でのホットジュピター・ウルトラホットジュピターの低いアルベド)
ここでは HAT-P-32b の 11 回の二次食の光度曲線を解析した.この光度曲線は,波長 0.89 µm の z’ バンドで得られているものである.その結果,この惑星の二次食深さは誤差の範囲内で非検出であり,-0.01 ± 0.10 ppm であった,
温度逆転層が存在しない惑星大気モデルは,測定した惑星の放射スペクトルと一致しないという過去の報告を確認した.また,反射光成分には上限値を導出した.
惑星の幾何アルベドについても上限値を与え,97.5% 信頼度での上限値は 0.2 であった.これはこの惑星に対する初めてのアルベドの制約であり,また z’ バンドでのアルベドの測定は全ての系外惑星においてこれまでで初めてである.
観測から,惑星の昼側には大きなサイズのシリケイト凝縮物の影響は見られないことが判明した.
また HAT-P-32b に対して行った z’ バンドでの幾何アルベドの制約について,過去のウルトラホットジュピター WASP-12b,WASP-19b,WASP-103b,WASP-121b の二次食観測に対して同じ手法を適用した.これらの値は,ホットジュピターからウルトラホットジュピターの遷移レジームにわたって一貫して,可視光から近赤外線で低い反射率を持つ.
arXiv:1902.07944
Mallonn et al. (2019)
Low albedos of hot to ultra-hot Jupiters in the optical to near-infrared transition regime
(可視光から近赤外線遷移領域でのホットジュピター・ウルトラホットジュピターの低いアルベド)
概要
二次食の深さは,ホットジュピターの熱放射による光の成分と反射光による成分の両方の情報を含んでいる.もし惑星の昼側の大気が等温の場合,両者を分解することができる.ここでは HAT-P-32b の 11 回の二次食の光度曲線を解析した.この光度曲線は,波長 0.89 µm の z’ バンドで得られているものである.その結果,この惑星の二次食深さは誤差の範囲内で非検出であり,-0.01 ± 0.10 ppm であった,
温度逆転層が存在しない惑星大気モデルは,測定した惑星の放射スペクトルと一致しないという過去の報告を確認した.また,反射光成分には上限値を導出した.
惑星の幾何アルベドについても上限値を与え,97.5% 信頼度での上限値は 0.2 であった.これはこの惑星に対する初めてのアルベドの制約であり,また z’ バンドでのアルベドの測定は全ての系外惑星においてこれまでで初めてである.
観測から,惑星の昼側には大きなサイズのシリケイト凝縮物の影響は見られないことが判明した.
また HAT-P-32b に対して行った z’ バンドでの幾何アルベドの制約について,過去のウルトラホットジュピター WASP-12b,WASP-19b,WASP-103b,WASP-121b の二次食観測に対して同じ手法を適用した.これらの値は,ホットジュピターからウルトラホットジュピターの遷移レジームにわたって一貫して,可視光から近赤外線で低い反射率を持つ.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1902.07950
Wisłocka et al. (2019)
Comparative analysis of the influence of Sgr A* and nearby active galactic nuclei on the mass loss of known exoplanets
(既知の系外惑星の質量散逸におけるいて座A* と近傍の活動銀河核の影響の比較解析)
ここでは,系外惑星大気が活動銀河核段階にある超大質量ブラックホールからの放射を受けて流出する過程の知識を改善することを目的とした.よく知られているエネルギー律速の質量放出モデルに,活動銀河核からの放射を含んだモデルを使用した.
惑星大気の加熱に使われる入射エネルギーの割合として ε というパラメータを設定した,この ε の範囲は 0 から 1 までの間の定数とし、活動銀河核からのフラックス FXUV 依存のモデルで検証を行った.
54 個の系外惑星 (そのうち 16 個は銀河バルジに近く,38 個は地球型惑星) について大気散逸を計算した.XUV の放射は,銀河系中心の超大質量ブラックホールであるいて座A* からの放射と,スローンデジタルスカイサーベイデータベースの z < 0.5 の 33350 個の活動銀河核を用いて生成した 107220 個の活動銀河核のセットを使用した.
その結果,銀河バルジ中にある惑星は,いて座A* が活動銀河核の段階にいる間に最大で数地球質量の大気を失うことが分かった,一方で,いて座A* から 7 kpc 以上離れた安全な距離にある地球型惑星は,その一生の間に大気の侵食が進行しないことも判明した.
また銀河系の地球型惑星は,z=0.5 までの距離にある活動銀河核からの累積極端紫外線フラックスにさらされた結果として,5000 万年の間に最大で火星大気の 15 倍の量の大気を失う.
上記のどちらのケースでも,ε の誤った選択で質量放出は大きく過大評価されることを見出した.
arXiv:1902.07950
Wisłocka et al. (2019)
Comparative analysis of the influence of Sgr A* and nearby active galactic nuclei on the mass loss of known exoplanets
(既知の系外惑星の質量散逸におけるいて座A* と近傍の活動銀河核の影響の比較解析)
概要
銀河中心の駆動源によって引き起こされる可能性のある系外惑星大気の質量放出についての研究を行った.ここでは,系外惑星大気が活動銀河核段階にある超大質量ブラックホールからの放射を受けて流出する過程の知識を改善することを目的とした.よく知られているエネルギー律速の質量放出モデルに,活動銀河核からの放射を含んだモデルを使用した.
惑星大気の加熱に使われる入射エネルギーの割合として ε というパラメータを設定した,この ε の範囲は 0 から 1 までの間の定数とし、活動銀河核からのフラックス FXUV 依存のモデルで検証を行った.
54 個の系外惑星 (そのうち 16 個は銀河バルジに近く,38 個は地球型惑星) について大気散逸を計算した.XUV の放射は,銀河系中心の超大質量ブラックホールであるいて座A* からの放射と,スローンデジタルスカイサーベイデータベースの z < 0.5 の 33350 個の活動銀河核を用いて生成した 107220 個の活動銀河核のセットを使用した.
その結果,銀河バルジ中にある惑星は,いて座A* が活動銀河核の段階にいる間に最大で数地球質量の大気を失うことが分かった,一方で,いて座A* から 7 kpc 以上離れた安全な距離にある地球型惑星は,その一生の間に大気の侵食が進行しないことも判明した.
また銀河系の地球型惑星は,z=0.5 までの距離にある活動銀河核からの累積極端紫外線フラックスにさらされた結果として,5000 万年の間に最大で火星大気の 15 倍の量の大気を失う.
上記のどちらのケースでも,ε の誤った選択で質量放出は大きく過大評価されることを見出した.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
The seventh inner moon of Neptune
Showalter et al. (2019)
The seventh inner moon of Neptune
(海王星の 7 番目の内衛星)
ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の観測による,7 番目の内衛星である Hippocamp の発見について報告する.この衛星は他の 6 つの内衛星よりも小さく,平均半径はおよそ 17 km である.
また海王星の最も内側の衛星であるナイアドも観測した,ナイアドは最後に観測されたのが 1989 年であり,今回の観測では新たな位置天文観測データを提供する.
また,他のすべての内衛星の軌道決定とサイズの推定を行った.これは,各衛星の軌道運動を補正するために,連続した画像を変形させる記述を含む様々な解析技術を使用している.この手法は,他の衛星や系外惑星の探査に適用可能である.
Hippocamp の軌道は,これらの内衛星の中で最も外側を公転し,最も大きいプロテウスに近い.この 2 つの衛星の軌道長半径は 10% しか違わない.プロテウスは,海王星との潮汐相互作用の影響で外側へ移動してきたと考えられる.
今回の結果は,Hippocamp はおそらくはかつてのプロテウスの破片であり,海王星の内衛星系は多数の衝突によって形作られてきたという仮説を支持するものである.
新しく発見された衛星 Hippocamp は,S/2004 N 1 もしくは Neptune XIV と名前が付けられている.初めてこの衛星の画像が得られてから発見までに時間がかかったのは,衛星の発見を確定させるために特別な画像処理技術が必要とされたからである.
海王星の衛星は検出器上を急速に動くが,この動きは予測可能であり,変形モデルを用いて記述することができる.海王星の重力場のモーメント J2 と J4 を含めたモデルで平均運動の関数を導出し,天体の予測される動きに合わせて画像処理を行った.変形をすると,順行の円軌道の赤道上の軌道の衛星が,固定されたピクセル座標に現れる.変換された画像はお互いに足し合わされ,より長い実効的な露光時間が得られる.
この画像処理技術を用いて,合計で 20 回の Hippocamp の検出が得られた.
大部分はハッブル宇宙望遠鏡の各軌道で取得された全ての長い露光時間画像の足し合わせが必要である.検出のシグナルノイズ比は 2.3〜13.2 までで変化する.衛星が最も検出しやすいのは,天球での動きが低速で,背景ノイズが少なく,またもし天体が不規則な形状をしていた場合は大きな断面積を見せている時である.最も良い条件が組み合わさった時は,画像の足し合わせ無しで衛星を一回の観測で捉えることができる.
最近の天体暦から予測されるよりもナイアドの軌道が大きくずれているため,ナイアドを同定するのは困難が伴う.2016 年にナイアドは予測される場所からほぼ 180° 離れた軌道上の位置にあった.しかし,ハッブル宇宙望遠鏡とボイジャーのアストロメトリでは,ボイジャーから導出したナイアドの平均運動に対して 1σ の範囲のプラスの誤差を許容するのであれば,一様でほぼ円軌道の運動をしていた場合に観測と整合的となる.
天体暦に大きな誤差が存在したという事実は,ケック望遠鏡での 2002 年のナイアドの検出報告は誤認だったことを意味する.また,タラッサの予測軌道に 19° の誤差があったことから,同じデータセットにおいてこれも誤認だった可能性が示唆される.
海王星の内衛星の軌道について,2004-2016 年のハッブル宇宙望遠鏡でのデータのみからパラメータを決定した.Hippocamp 以外の衛星の軌道要素に関しては,ボイジャーや地上望遠鏡の観測データも含めた解析からより精密な軌道が導出可能である.しかし,より大きい衛星の軌道天体暦は過去の推定値と非常に近く一致した.
ボイジャーの候補画像をピックアップしたが,他の内衛星が観測された位置に対して予想される Hippocamp の位置に基づくと,画像はひどくぶれているか,あるいは Hippocamp を見逃しているかであった.
今回の解析結果から,ボイジャーの探査からの上限とプロテウスの軌道の間において,Hippocamp の半分の大きさを持ついかなる衛星の存在は否定される (半径 12 km に相当する).
プロテウスの軌道以遠では,画像は海王星の明るさの影響を受けず,かつ衛星の軌道運動がゆっくりであるため,より大きなセットの画像を足し合わせ可能である.その結果,Hippocamp の 30% の明るさの衛星はプロテウスの軌道以遠では一般に観測可能と思われる.今回の探査のカバー範囲は 200000 km までは完全で,300000 km までは 2/3 である.しかし,軌道面がやや傾いていたり軌道離心率のある軌道の衛星は,検出が難しくなる.
この衛星は,自身の 4000 倍の体積を持つプロテウスのわずか 12000 km 内側を公転している.プロテウスは海王星との潮汐相互作用によって外側へ移動してきたため,過去にはより海王星に近い位置にあった.Hippocamp は質量がより小さいため潮汐相互作用による移動は非常に低速で,形成場所に近い位置に留まっていると考えられる.
彗星の衝突は海王星の小さい衛星を何度も破壊したと考えられる.プロテウスのみがトリトンの捕獲直後から無傷で生き残ったと思われる.プロテウスにあるファロスクレーターは,衛星のサイズに比して異様に大きい.これは過去にプロテウスも破壊されかけたことを示唆している.
プロテウスへの巨大衝突,おそらくはファロスクレーターを形成した衝突によって,プロテウスから破片が海王星周回軌道に放出されたと仮定する.放出されたいくつかの破片は,プロテウスから数ヒル半径内側の 1000 - 2000 km 内側の安定な軌道に落ち着き,Hippocamp へと集積した.Hippocamp の体積は,ファロス衝突クレーターの形成に伴ってプロテウスから失われた体積のわずか2%に過ぎない.
この形成シナリオには複雑な要素がある.1 つ目は,プロテウスは軌道が非常に近かった際に Hippocamp の軌道離心率と傾斜角を増加させた可能性があることである.あるいはそれより後に強い共鳴を横断した際にも,離心率と傾斜角が増加する可能性がある.そのため Hippocamp の離心率と傾斜角が非常に小さいのは驚くべきことである.
このことは,その後の軌道破壊によって説明できる可能性がある.常に衛星が破壊され再び降着するという過程を繰り返していた場合,その衛星の離心率と傾斜角は減衰される.
現在のプロテウスでの 10 km 以上のクレーター形成率は 10-12 km-2 yr-1 (1 年あたり 1 平方キロメートルに形成される 10 km 以上のクレーターの個数が 10-12 個) である.これは Hippocamp でも同程度であろうと考えられる.Hippocamp は 10 km サイズのクレーターを形成する衝突イベントによって破壊されるだろう.そのため,過去 40 億年の間に 9 回再集積したと推論される.
このシナリオが働くためには,プロテウスは寿命の間に 11000 km 程度以上移動して現在の位置まで来ている必要がある.衛星の移動率は海王星の潮汐の Q 値に反比例する.プロテウスがこの距離を 40 億年の間に移動するためには,海王星の Q 値は 15000 程度以下である必要がある.これは海王星の Q 値として示唆されている値 (12000-33000) か天王星に対して示唆されている値 (11000-39000) の範囲内である.
海王星が小さい Q 値を持つ場合はプロテウスは遠くへ移動し,したがって Hippocamp はいくらか若いことになる.しかし太陽系形成の初期は天体の衝突流束が高かったことから,Hippocamp は少なくとも数十億歳だろうと考えられる.
しかし別の議論では,プロテウスの移動距離の上限は 10000 km であることが示唆されている.プロテウスが 107000 km の距離を超えた段階でデスピナとの 2:1 軌道共鳴に入り,シミュレーションではデスピナの傾斜角が現在の観測値よりずっと大きくなってしまうことが指摘されている.しかしデスピナは過去40億年の間に 3-6 回破壊されていると考えられることから,プロテウスの移動へのこの制約は適用されない.
Hippocamp がその場で形成され,プロテウスとは関係がないという可能性は否定できない.しかし,衛星のサイズが小さいこと,軌道位置が特徴的であることから,ここで提案したシナリオがもっともらしい形成モデルだと考えられる.
The seventh inner moon of Neptune
Showalter et al. (2019)
The seventh inner moon of Neptune
(海王星の 7 番目の内衛星)
概要
1989 年のボイジャー2号のフライバイの最中に,海王星の 6 つの小さい衛星が撮影された.これらはすべて,大きな逆行衛星トリトンよりも内側を公転している.近傍に存在する複数の環とともに,これらの衛星はおそらく海王星自身よりも若いと思われる.これらはトリトンが捕獲された直後に形成され,彗星の衝突によって複数回破壊されたと考えられる.ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の観測による,7 番目の内衛星である Hippocamp の発見について報告する.この衛星は他の 6 つの内衛星よりも小さく,平均半径はおよそ 17 km である.
また海王星の最も内側の衛星であるナイアドも観測した,ナイアドは最後に観測されたのが 1989 年であり,今回の観測では新たな位置天文観測データを提供する.
また,他のすべての内衛星の軌道決定とサイズの推定を行った.これは,各衛星の軌道運動を補正するために,連続した画像を変形させる記述を含む様々な解析技術を使用している.この手法は,他の衛星や系外惑星の探査に適用可能である.
Hippocamp の軌道は,これらの内衛星の中で最も外側を公転し,最も大きいプロテウスに近い.この 2 つの衛星の軌道長半径は 10% しか違わない.プロテウスは,海王星との潮汐相互作用の影響で外側へ移動してきたと考えられる.
今回の結果は,Hippocamp はおそらくはかつてのプロテウスの破片であり,海王星の内衛星系は多数の衝突によって形作られてきたという仮説を支持するものである.
軌道運動を補正した画像解析技術
観測
海王星の環やリングアーク,小さい内衛星を探査するプログラムの一環として,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて海王星を観測した.この観測は,2004-2005 年の Advanced Camera for Surveys (ACS) の High Resolution Channel (HRC) を用いた観測と,2009-2016 年の Wide Field Camera 3 の Ultraviolet/Visual Imager (UVIS) を用いた観測からなる.新しく発見された衛星 Hippocamp は,S/2004 N 1 もしくは Neptune XIV と名前が付けられている.初めてこの衛星の画像が得られてから発見までに時間がかかったのは,衛星の発見を確定させるために特別な画像処理技術が必要とされたからである.
Hippocamp の発見
画像から小さい衛星を検出するためには,衛星の動きによるずれは点拡がり関数のスケールに限定されている必要がある.そのため海王星の内部衛星系の場合,露光時間の長さはずれが支配的になりシグナルノイズ比が上昇をやめるまでの 200-300 秒に限定される.ここでは,この制限を超えて積分時間を稼ぐための画像処理技術を開発した.海王星の衛星は検出器上を急速に動くが,この動きは予測可能であり,変形モデルを用いて記述することができる.海王星の重力場のモーメント J2 と J4 を含めたモデルで平均運動の関数を導出し,天体の予測される動きに合わせて画像処理を行った.変形をすると,順行の円軌道の赤道上の軌道の衛星が,固定されたピクセル座標に現れる.変換された画像はお互いに足し合わされ,より長い実効的な露光時間が得られる.
この画像処理技術を用いて,合計で 20 回の Hippocamp の検出が得られた.
大部分はハッブル宇宙望遠鏡の各軌道で取得された全ての長い露光時間画像の足し合わせが必要である.検出のシグナルノイズ比は 2.3〜13.2 までで変化する.衛星が最も検出しやすいのは,天球での動きが低速で,背景ノイズが少なく,またもし天体が不規則な形状をしていた場合は大きな断面積を見せている時である.最も良い条件が組み合わさった時は,画像の足し合わせ無しで衛星を一回の観測で捉えることができる.
既知の衛星への適用
同じ手法をナイアドの観測にも適用した.最近の天体暦から予測されるよりもナイアドの軌道が大きくずれているため,ナイアドを同定するのは困難が伴う.2016 年にナイアドは予測される場所からほぼ 180° 離れた軌道上の位置にあった.しかし,ハッブル宇宙望遠鏡とボイジャーのアストロメトリでは,ボイジャーから導出したナイアドの平均運動に対して 1σ の範囲のプラスの誤差を許容するのであれば,一様でほぼ円軌道の運動をしていた場合に観測と整合的となる.
天体暦に大きな誤差が存在したという事実は,ケック望遠鏡での 2002 年のナイアドの検出報告は誤認だったことを意味する.また,タラッサの予測軌道に 19° の誤差があったことから,同じデータセットにおいてこれも誤認だった可能性が示唆される.
海王星の内衛星の軌道について,2004-2016 年のハッブル宇宙望遠鏡でのデータのみからパラメータを決定した.Hippocamp 以外の衛星の軌道要素に関しては,ボイジャーや地上望遠鏡の観測データも含めた解析からより精密な軌道が導出可能である.しかし,より大きい衛星の軌道天体暦は過去の推定値と非常に近く一致した.
ボイジャー2号の観測データとの比較
ボイジャー観測データでの Hippocamp の非検出
導出された Hippocamp の軌道を,ボイジャー2号のフライバイがあった 1989 年 8 月 25 日にまで外挿した.この外挿の精度は,軌道経度にして ±0.5° であり,これはボイジャーの狭角カメラにおいて 10 ピクセル分に相当する.ボイジャーの候補画像をピックアップしたが,他の内衛星が観測された位置に対して予想される Hippocamp の位置に基づくと,画像はひどくぶれているか,あるいは Hippocamp を見逃しているかであった.
ボイジャーの観測範囲での未発見衛星への上限
ボイジャーの画像は,衛星の幾何アルベドとして 0.09 という値を仮定すると,検出されなかった衛星に対して半径 5 km という上限値を与える.このボイジャー画像中の探査は,海王星から 65000 km 以内は完了しており,90000 km 以内は部分的に完了している.今回の解析結果から,ボイジャーの探査からの上限とプロテウスの軌道の間において,Hippocamp の半分の大きさを持ついかなる衛星の存在は否定される (半径 12 km に相当する).
プロテウスの軌道以遠では,画像は海王星の明るさの影響を受けず,かつ衛星の軌道運動がゆっくりであるため,より大きなセットの画像を足し合わせ可能である.その結果,Hippocamp の 30% の明るさの衛星はプロテウスの軌道以遠では一般に観測可能と思われる.今回の探査のカバー範囲は 200000 km までは完全で,300000 km までは 2/3 である.しかし,軌道面がやや傾いていたり軌道離心率のある軌道の衛星は,検出が難しくなる.
Hippocamp および海王星内衛星の形成と進化
小さいサイズを持つ Hippocamp の発見は,海王星の内部衛星系の歴史の理解に貢献する.この衛星は,自身の 4000 倍の体積を持つプロテウスのわずか 12000 km 内側を公転している.プロテウスは海王星との潮汐相互作用によって外側へ移動してきたため,過去にはより海王星に近い位置にあった.Hippocamp は質量がより小さいため潮汐相互作用による移動は非常に低速で,形成場所に近い位置に留まっていると考えられる.
彗星の衝突は海王星の小さい衛星を何度も破壊したと考えられる.プロテウスのみがトリトンの捕獲直後から無傷で生き残ったと思われる.プロテウスにあるファロスクレーターは,衛星のサイズに比して異様に大きい.これは過去にプロテウスも破壊されかけたことを示唆している.
プロテウスへの巨大衝突,おそらくはファロスクレーターを形成した衝突によって,プロテウスから破片が海王星周回軌道に放出されたと仮定する.放出されたいくつかの破片は,プロテウスから数ヒル半径内側の 1000 - 2000 km 内側の安定な軌道に落ち着き,Hippocamp へと集積した.Hippocamp の体積は,ファロス衝突クレーターの形成に伴ってプロテウスから失われた体積のわずか2%に過ぎない.
この形成シナリオには複雑な要素がある.1 つ目は,プロテウスは軌道が非常に近かった際に Hippocamp の軌道離心率と傾斜角を増加させた可能性があることである.あるいはそれより後に強い共鳴を横断した際にも,離心率と傾斜角が増加する可能性がある.そのため Hippocamp の離心率と傾斜角が非常に小さいのは驚くべきことである.
このことは,その後の軌道破壊によって説明できる可能性がある.常に衛星が破壊され再び降着するという過程を繰り返していた場合,その衛星の離心率と傾斜角は減衰される.
現在のプロテウスでの 10 km 以上のクレーター形成率は 10-12 km-2 yr-1 (1 年あたり 1 平方キロメートルに形成される 10 km 以上のクレーターの個数が 10-12 個) である.これは Hippocamp でも同程度であろうと考えられる.Hippocamp は 10 km サイズのクレーターを形成する衝突イベントによって破壊されるだろう.そのため,過去 40 億年の間に 9 回再集積したと推論される.
このシナリオが働くためには,プロテウスは寿命の間に 11000 km 程度以上移動して現在の位置まで来ている必要がある.衛星の移動率は海王星の潮汐の Q 値に反比例する.プロテウスがこの距離を 40 億年の間に移動するためには,海王星の Q 値は 15000 程度以下である必要がある.これは海王星の Q 値として示唆されている値 (12000-33000) か天王星に対して示唆されている値 (11000-39000) の範囲内である.
海王星が小さい Q 値を持つ場合はプロテウスは遠くへ移動し,したがって Hippocamp はいくらか若いことになる.しかし太陽系形成の初期は天体の衝突流束が高かったことから,Hippocamp は少なくとも数十億歳だろうと考えられる.
しかし別の議論では,プロテウスの移動距離の上限は 10000 km であることが示唆されている.プロテウスが 107000 km の距離を超えた段階でデスピナとの 2:1 軌道共鳴に入り,シミュレーションではデスピナの傾斜角が現在の観測値よりずっと大きくなってしまうことが指摘されている.しかしデスピナは過去40億年の間に 3-6 回破壊されていると考えられることから,プロテウスの移動へのこの制約は適用されない.
Hippocamp がその場で形成され,プロテウスとは関係がないという可能性は否定できない.しかし,衛星のサイズが小さいこと,軌道位置が特徴的であることから,ここで提案したシナリオがもっともらしい形成モデルだと考えられる.
天文・宇宙物理関連メモ vol.1097 Muley et al. (2019) および Keppler et al. (2019) PDS 70 まわりの惑星候補と高度に構造化された遷移円盤について
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1902.07191
Muley et al. (2019)
PDS 70: A transition disk sculpted by a single planet
(PDS 70:単一の惑星で切り取られた遷移円盤)
PDS 70 はおよそ 500 万歳の年老いた遷移円盤であり,22 au の位置の数木星質量の惑星候補 PDS 70b と,~30 au のガスのギャップと ~60 au のダストのギャップがあることが報告されている.そのため,惑星による空洞形成仮説の研究に有用なケースである.
ここでは PEnGUIn 流体力学コードを用いて,PDS 70b の軌道進化と降着を系の年齢に渡って計算した.
その結果,降着する惑星が 2.5 木星質量に到達した段階で軌道離心率が自発的に増大し,PDS 70 の広い範囲からの物質を集めることが分かった.輻射輸送事後処理を DALI を用いて行い,観測されたギャップの分布を正確に再現できることを示した.
今回の結果は,スーパージュピター質量の惑星が独力で遷移円盤の空洞を開くことができることを実証した.また,このような巨大惑星で測定される高い軌道離心率は,円盤-惑星相互作用の自然な帰結である可能性を示唆している.
arXiv:1902.07639
Keppler et al. (2019)
A highly structured disk around the planet host PDS 70 revealed by high-angular resolution observations with ALMA
(ALMA を用いた高角度分解能観測で明らかになった惑星を持つ PDS 70 まわりの高度に構造化された円盤)
このおよそ 500 万歳の若い惑星系の特性を研究するため,星周円盤のガスとダスト放射における PDS 70b の直接的・間接的な兆候を追うことを目的とした観測を行った.ALMA band 7 観測で,ダスト連続波と 12CO (3-2) の遷移,およびその組み合わせをアーカイブデータから得た.
このデータの分解能はこれまでにないほどのもので,分解能はおよそ 70 mas (~ 8 au) である.
解析の結果,PDS 70b が存在する場所での周惑星物質の質量に対して,~0.01 地球質量という上限値を導出し,またダストとガスの両方で高度な構造を持った星周円盤があることを見出した.
外側のダストリングの極大は 0.65” (74 au) であり,また分解されていない二番目の極大の可能性がある特徴を 0.53” (60 au) に検出した.CO の積分強度は ~0.2” (23 au) の位置での放射の減少の証拠を示し,これの幅は ~ 0.11” (11 au) であった.
ガスの運動学からは,中心星から 0.8” (91 au) 以内でのケプラー回転からのずれの徴候があることが分かった.これはPDS 70b の場所から離れた場所でのダストリングの場所での圧力勾配の存在を示唆している.
さらに内側では,おそらく北西領域でガスとダスト両方でブリッジ状の構造と思われるもので繋がった内側円盤も検出された.
今回の観測を,過去の近赤外測光観測で導出された PDS 70b の推定質量の範囲 (5 - 9 木星質量) をカバーする,異なる質量の惑星を含めた流体力学シミュレーションと比較した.その結果,10 木星質量の惑星でも広いギャップの広がりを説明するには不十分と考えられ,さらなる低質量の天体が観測された円盤の形態を説明するには必要だと考えられる.
同じ天体 PDS 70 の周りの惑星候補と円盤についての論文.
Muley et al. (2019) では流体シミュレーションから,単独の惑星でも離心率が増大するために広いギャップが説明可能だとしています.
Keppler et al. (2019) は観測データを新たに解析した論文で,その中で流体シミュレーションも行っていますが,そこでは単独の惑星では広いギャップを説明可能だとしています.
arXiv:1902.07191
Muley et al. (2019)
PDS 70: A transition disk sculpted by a single planet
(PDS 70:単一の惑星で切り取られた遷移円盤)
概要
遷移円盤中の広く深い空洞は,円盤中に形成中の惑星によってくり抜かれたとものであると考えられている.PDS 70 はおよそ 500 万歳の年老いた遷移円盤であり,22 au の位置の数木星質量の惑星候補 PDS 70b と,~30 au のガスのギャップと ~60 au のダストのギャップがあることが報告されている.そのため,惑星による空洞形成仮説の研究に有用なケースである.
ここでは PEnGUIn 流体力学コードを用いて,PDS 70b の軌道進化と降着を系の年齢に渡って計算した.
その結果,降着する惑星が 2.5 木星質量に到達した段階で軌道離心率が自発的に増大し,PDS 70 の広い範囲からの物質を集めることが分かった.輻射輸送事後処理を DALI を用いて行い,観測されたギャップの分布を正確に再現できることを示した.
今回の結果は,スーパージュピター質量の惑星が独力で遷移円盤の空洞を開くことができることを実証した.また,このような巨大惑星で測定される高い軌道離心率は,円盤-惑星相互作用の自然な帰結である可能性を示唆している.
arXiv:1902.07639
Keppler et al. (2019)
A highly structured disk around the planet host PDS 70 revealed by high-angular resolution observations with ALMA
(ALMA を用いた高角度分解能観測で明らかになった惑星を持つ PDS 70 まわりの高度に構造化された円盤)
概要
PDS 70b は,現在のところ遷移円盤の中に撮像観測で検出されている最も確実な若い惑星であり,中心星から 195 mas (~22 au),位相角 155° の位置にある.そのためこの系は,形成段階における若い惑星の特性を特徴付ける良い観測対象である.このおよそ 500 万歳の若い惑星系の特性を研究するため,星周円盤のガスとダスト放射における PDS 70b の直接的・間接的な兆候を追うことを目的とした観測を行った.ALMA band 7 観測で,ダスト連続波と 12CO (3-2) の遷移,およびその組み合わせをアーカイブデータから得た.
このデータの分解能はこれまでにないほどのもので,分解能はおよそ 70 mas (~ 8 au) である.
解析の結果,PDS 70b が存在する場所での周惑星物質の質量に対して,~0.01 地球質量という上限値を導出し,またダストとガスの両方で高度な構造を持った星周円盤があることを見出した.
外側のダストリングの極大は 0.65” (74 au) であり,また分解されていない二番目の極大の可能性がある特徴を 0.53” (60 au) に検出した.CO の積分強度は ~0.2” (23 au) の位置での放射の減少の証拠を示し,これの幅は ~ 0.11” (11 au) であった.
ガスの運動学からは,中心星から 0.8” (91 au) 以内でのケプラー回転からのずれの徴候があることが分かった.これはPDS 70b の場所から離れた場所でのダストリングの場所での圧力勾配の存在を示唆している.
さらに内側では,おそらく北西領域でガスとダスト両方でブリッジ状の構造と思われるもので繋がった内側円盤も検出された.
今回の観測を,過去の近赤外測光観測で導出された PDS 70b の推定質量の範囲 (5 - 9 木星質量) をカバーする,異なる質量の惑星を含めた流体力学シミュレーションと比較した.その結果,10 木星質量の惑星でも広いギャップの広がりを説明するには不十分と考えられ,さらなる低質量の天体が観測された円盤の形態を説明するには必要だと考えられる.
同じ天体 PDS 70 の周りの惑星候補と円盤についての論文.
Muley et al. (2019) では流体シミュレーションから,単独の惑星でも離心率が増大するために広いギャップが説明可能だとしています.
Keppler et al. (2019) は観測データを新たに解析した論文で,その中で流体シミュレーションも行っていますが,そこでは単独の惑星では広いギャップを説明可能だとしています.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1902.06018
Heller et al. (2019)
An alternative interpretation of the exomoon candidate signal in the combined Kepler and Hubble data of Kepler-1625
(ケプラー1625 のケプラーとハッブル双方のデータ中の系外衛星候補シグナルの別の解釈)
この解釈における重要な議論は,ハッブル宇宙望遠鏡で見られた 2017 年 10 月の惑星のトランジットの後の恒星の減光と思われるシグナルが検出されたことと,完全な周期軌道と比較した場合と比べて 77.8 分早く惑星のトランジットが発生したという点である.
この初めての系外惑星候補の検出報告に関しては,想定される系外衛星の半径が非常に大きいという物理的な奇妙さがある.そのため,ここでは観測データに関して,惑星のみが存在するという仮説を元に調査を行い,検出の信頼性をベイズ情報量規準 (Bayesian Information Criterion, BIC) を用いて検証した.
今回の検証では,ケプラーの Pre-search Data Conditioning Simple Aperture Photometry (PDCSAP) と,過去に公開されたハッブルの光度曲線を組み合わせた.
また別のアプローチとして,ケプラーデータの同時多項式トレンド除去とフィッティングを,独自のハッブル測光の抽出と組み合わせ,データの 500 万パターンの Parallel-Tempering Markov Chain MonteCarlo (PTMCMC) を生成し,惑星だけのモデルと惑星と衛星モデルの両方で行い,BIC の差異 (ΔBIC) を比較した.
その結果,系外衛星を含むモデルでは,ΔBIC はハッブルのデータのみで -44.5,独自のトレンド除去を使用した場合は -31.0 となり,系外衛星が存在するモデルを支持する強い統計的な証拠を得た.しかし,ここでの軌道の解の殆どはベストフィットの解とは大きく異なり,データを最もよく表す尤度関数は非ガウス関数であることが示唆された.
ケプラー1625b の 73.7 分早いトランジットを,ハッブルのデータで 3σ で測定した.このずれは,最初のケプラーでのトランジット付近にある 1 日分のデータのギャップ,恒星活動,あるいは未知の系統誤差で引き起こされる可能性があり,これらの全てがトレンド除去に影響する.
この惑星のトランジットタイミング変化 (transit timing variation, TTV) が発見されていないホットジュピターによって引き起こされていると考えた場合,このホットジュピターによる視線速度の変動は 100 m s-1 になる.
結論として,過去に提案されているのと同様に,惑星と衛星両方が存在するモデルが好ましいという結果を見出したが,統計的な証拠を注意深く検証すると,これは系外衛星の確実な検出ではないという結論に至る.ケプラーやハッブルの観測データにある未知の系統誤差は,ΔBIC をこの惑星周りの系外衛星探査のための手法として信頼できないものにし,検出されたシグナルの系外衛星以外の別の解釈が可能となる.
想定される系外衛星の大きさは海王星サイズであり,存在が確定すれば,太陽系にはないタイプの衛星の発見となる.すなわち,太陽系のすべての衛星を合わせたよりも重い衛星ということになる.このような巨大な衛星がどのように形成されうるかは,現在のところ不明である (Heller 2018).
Rodenbeck et al. (2018) では,ケプラーで 2009 年 - 2013 年に得られた 3 回のトランジット観測の再検討を行った.その結果提案された系外衛星の存在について,暫定的な統計的な証拠を見出した.ただしトランジットのインジェクション復元試験では,系外衛星の検出が偽陽性である可能性も示唆された.
その後の 2017 年のハッブル宇宙望遠鏡によるトランジット観測で,系外衛星説をさらに支持する証拠が得られた (Teachey & Kipping 2018).しかし依然として系外衛星の実在に関しては議論がある.
Teachey et al. (2018) では 2017 年のハッブル宇宙望遠鏡でのトランジット観測で予想より 77.8 分 早いトランジットを観測した.その論文で指摘されているように,このトランジットタイミング変化は,系外衛星の存在の証拠として解釈することも,さらなる未発見の惑星の存在を示すものと解釈することもできる.
しかしデータのトレンド除去のどちらの場合においても,惑星-衛星計の最も可能性の高い軌道解は,個々での PTMCMC モデリングの他の軌道の可能性とは大きく異なり,また最も可能性の高い解に収束していないように思われる.言い換えれば,最も可能性の高い解は可能な解の分布における外れ値であるように思われ,観測データにおける小さな変更は,惑星-衛星系のための最も可能性の高い軌道の解に大きな影響を及ぼす可能性がある.
また TTV については,Teachey & Kipping (2018) で発見されたものが存在することを確認した.
もし予想より早いトランジットが系外衛星ではなく内側の未発見の惑星で引き起こされているとすると,その惑星は木星より重いホットジュピターであろうと考えられる.その質量は想定する軌道長半径に依存.例えば 0.03 AU にある 5.8 木星質量の惑星の場合は視線速度振幅は 900 m s-1,0.1 AU にある 1.8 木星質量の惑星の場合は 150 m s-1 になる.
この仮定上の惑星のトランジットはケプラーのデータ中に見られないことから,トランジットを起こさないためには,軌道傾斜角は少なくとも 7.8° (0.03 AU の場合),あるいは 2.4° (0.1 AU の場合) 必要である.
地上からの測光観測では,この系外衛星の問題に答えを与えるのは難しいだろう.これは,この惑星のトランジット中とその前後の観測をするには,少なくとも 2 日の観測時間が必要だからである.しかし現在と近い将来の宇宙空間からの系外惑星ミッションでは,系外衛星仮説を実証したり否定するのに必要なシグナルノイズ比の観測結果が得られるだろう.
arXiv:1902.06018
Heller et al. (2019)
An alternative interpretation of the exomoon candidate signal in the combined Kepler and Hubble data of Kepler-1625
(ケプラー1625 のケプラーとハッブル双方のデータ中の系外衛星候補シグナルの別の解釈)
概要
ケプラーとハッブル宇宙望遠鏡による,木星サイズの惑星ケプラー1625b の合計 4 回のトランジットの測光観測では,ケプラー1625b まわりの海王星サイズの系外衛星の証拠が見られたと解釈されている.この解釈における重要な議論は,ハッブル宇宙望遠鏡で見られた 2017 年 10 月の惑星のトランジットの後の恒星の減光と思われるシグナルが検出されたことと,完全な周期軌道と比較した場合と比べて 77.8 分早く惑星のトランジットが発生したという点である.
この初めての系外惑星候補の検出報告に関しては,想定される系外衛星の半径が非常に大きいという物理的な奇妙さがある.そのため,ここでは観測データに関して,惑星のみが存在するという仮説を元に調査を行い,検出の信頼性をベイズ情報量規準 (Bayesian Information Criterion, BIC) を用いて検証した.
今回の検証では,ケプラーの Pre-search Data Conditioning Simple Aperture Photometry (PDCSAP) と,過去に公開されたハッブルの光度曲線を組み合わせた.
また別のアプローチとして,ケプラーデータの同時多項式トレンド除去とフィッティングを,独自のハッブル測光の抽出と組み合わせ,データの 500 万パターンの Parallel-Tempering Markov Chain MonteCarlo (PTMCMC) を生成し,惑星だけのモデルと惑星と衛星モデルの両方で行い,BIC の差異 (ΔBIC) を比較した.
その結果,系外衛星を含むモデルでは,ΔBIC はハッブルのデータのみで -44.5,独自のトレンド除去を使用した場合は -31.0 となり,系外衛星が存在するモデルを支持する強い統計的な証拠を得た.しかし,ここでの軌道の解の殆どはベストフィットの解とは大きく異なり,データを最もよく表す尤度関数は非ガウス関数であることが示唆された.
ケプラー1625b の 73.7 分早いトランジットを,ハッブルのデータで 3σ で測定した.このずれは,最初のケプラーでのトランジット付近にある 1 日分のデータのギャップ,恒星活動,あるいは未知の系統誤差で引き起こされる可能性があり,これらの全てがトレンド除去に影響する.
この惑星のトランジットタイミング変化 (transit timing variation, TTV) が発見されていないホットジュピターによって引き起こされていると考えた場合,このホットジュピターによる視線速度の変動は 100 m s-1 になる.
結論として,過去に提案されているのと同様に,惑星と衛星両方が存在するモデルが好ましいという結果を見出したが,統計的な証拠を注意深く検証すると,これは系外衛星の確実な検出ではないという結論に至る.ケプラーやハッブルの観測データにある未知の系統誤差は,ΔBIC をこの惑星周りの系外衛星探査のための手法として信頼できないものにし,検出されたシグナルの系外衛星以外の別の解釈が可能となる.
背景
トランジットする木星サイズの惑星ケプラー1625b では,系外衛星候補の検出が報告されている (Teachey et al. 2018).想定される系外衛星の大きさは海王星サイズであり,存在が確定すれば,太陽系にはないタイプの衛星の発見となる.すなわち,太陽系のすべての衛星を合わせたよりも重い衛星ということになる.このような巨大な衛星がどのように形成されうるかは,現在のところ不明である (Heller 2018).
Rodenbeck et al. (2018) では,ケプラーで 2009 年 - 2013 年に得られた 3 回のトランジット観測の再検討を行った.その結果提案された系外衛星の存在について,暫定的な統計的な証拠を見出した.ただしトランジットのインジェクション復元試験では,系外衛星の検出が偽陽性である可能性も示唆された.
その後の 2017 年のハッブル宇宙望遠鏡によるトランジット観測で,系外衛星説をさらに支持する証拠が得られた (Teachey & Kipping 2018).しかし依然として系外衛星の実在に関しては議論がある.
Teachey et al. (2018) では 2017 年のハッブル宇宙望遠鏡でのトランジット観測で予想より 77.8 分 早いトランジットを観測した.その論文で指摘されているように,このトランジットタイミング変化は,系外衛星の存在の証拠として解釈することも,さらなる未発見の惑星の存在を示すものと解釈することもできる.
結論
結論としては,惑星単独モデルと惑星-衛星モデルの ΔBIC は -44.5 もしくは -31.0 となり,おおむね海王星サイズの系外衛星が存在する強い統計的証拠を見出した.しかしデータのトレンド除去のどちらの場合においても,惑星-衛星計の最も可能性の高い軌道解は,個々での PTMCMC モデリングの他の軌道の可能性とは大きく異なり,また最も可能性の高い解に収束していないように思われる.言い換えれば,最も可能性の高い解は可能な解の分布における外れ値であるように思われ,観測データにおける小さな変更は,惑星-衛星系のための最も可能性の高い軌道の解に大きな影響を及ぼす可能性がある.
また TTV については,Teachey & Kipping (2018) で発見されたものが存在することを確認した.
もし予想より早いトランジットが系外衛星ではなく内側の未発見の惑星で引き起こされているとすると,その惑星は木星より重いホットジュピターであろうと考えられる.その質量は想定する軌道長半径に依存.例えば 0.03 AU にある 5.8 木星質量の惑星の場合は視線速度振幅は 900 m s-1,0.1 AU にある 1.8 木星質量の惑星の場合は 150 m s-1 になる.
この仮定上の惑星のトランジットはケプラーのデータ中に見られないことから,トランジットを起こさないためには,軌道傾斜角は少なくとも 7.8° (0.03 AU の場合),あるいは 2.4° (0.1 AU の場合) 必要である.
地上からの測光観測では,この系外衛星の問題に答えを与えるのは難しいだろう.これは,この惑星のトランジット中とその前後の観測をするには,少なくとも 2 日の観測時間が必要だからである.しかし現在と近い将来の宇宙空間からの系外惑星ミッションでは,系外衛星仮説を実証したり否定するのに必要なシグナルノイズ比の観測結果が得られるだろう.
天文・宇宙物理関連メモ vol.614 Heller et al. (2017) 巨大系外衛星候補ケプラー1625b-i の性質について
天文・宇宙物理関連メモ vol.539 Teachey et al. (2017) ケプラー惑星中の系外衛星シグナルの探査
天文・宇宙物理関連メモ vol.933 Rodenbeck et al. (2018) ケプラー1625b まわりの系外衛星候補シグナルの再検討
天文・宇宙物理関連メモ vol.1013 Teachey & Kipping (2018) 系外衛星候補 ケプラー1625b-i のハッブル宇宙望遠鏡による観測結果