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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1810.00013
Sheppard et al. (2018)
A New High Perihelion Inner Oort Cloud Object
(新しい高近日点の内オールトの雲天体)
ここでは,内オールトの雲の天体として,セドナ,2012 VP113 に続く 3 番目の天体 2015 TG387 の発見を報告する.
2015 TG387 の近日点は 65 ± 1 au で,軌道長半径は 1190 ± 70 au である.
この天体の近日点経度角はセドナと 2012 VP113 の近日点経度角の間にある.従って,軌道要素が集まっている extreme trans-Neptunian objects (ETNOs) の主要グループに類似した特徴を持つ.これらは,Planet X や Planet 9 と呼ばれる仮説上の重い遠方惑星によって同じ軌道角に導かれている可能性がある天体である.
この新しい天体の軌道は,既知の惑星からの影響と銀河潮汐に対して,太陽系年齢の間に渡って安定である.さらに,過去 40 億年間の太陽に対する恒星遭遇イベントを含めたシミュレーションでも,この天体は大部分の場合で安定であった.しかし軌道の力学的な進化は,恒星遭遇のシナリオとして用いたモデルに依存する.
驚くべきことに,数百 au 離れた離心軌道にあり,大部分の既知の ETNOs と近日点経度が反平行にあると思われる重い Planet X をシミュレーションに含めた場合,その他の ETNOs を安定にするような Planet X の軌道の場合は 2015 TG387 は安定であることを見出した.
実際,最も安定なシミュレーションにおいては,この天体の近日点経度は Planet X の近日点経度から 180 度の位置を秤動する.太陽系の年齢の期間に渡って,この天体は Planet X から反対方向に存在する.
今回の発見を元に,内オールトの雲天体の軌道長半径分布に関して,3 に近い指数の傾きを見出した.直径が 40 km より大きい内オールトの雲天体は 200 万個存在し,総質量は 1022 kg と推定される.
内オールトの雲の天体の軌道傾斜角分布は散乱円盤天体と類似しており,平均は 19 度である.
ETNOs は 3 つのサブクラスに分類できる.
Scattered ETNOs は,近日点が 38 - 45 au 以下で,おそらく海王星との重力散乱によって作られ,現在も海王星と一定の相互作用を持つものである (Brasser & Schwamb 2015).
Detached ETNOs は近日点が 40 - 45 au から 50 - 60 au の間にある天体である.巨大惑星とは最小限の相互作用しかしないが,依然として海王星には比較的近いため,既知の巨大惑星とは依然として一定の相互作用があるものである (Gladman et al. 2002,Bannister et al. 2017).
Inner Oort Cloud objects (IOCs,内オールトの雲天体) は近日点が 50 - 60 au より大きく,巨大惑星から強く影響を受けるには遠すぎる位置にある (Gomes et al. 2008).
離心軌道にある IOC の起源はおそらく,外的な恒星潮汐力や外部太陽系からの未知の力など,より効率的に過去に働いたであろうメカニズムを必要とする.そのため IOCs の軌道は,遠方の太陽系がどの様に形成され,現在どの様に周囲と相互作用しているかについての情報を与える.
Detached ETNOs は IOCs と同じ様に進化しているかもしれないし,あるいは scattered ETNOs により類似しているかもしれない.
なお,遠日点が数千 au を超えるすべての天体に対しては,銀河潮汐や通過する恒星が非常に重要になるため,外部オールトの雲の天体とみなされる.
Batygin & Brown (2016) では,ETNOs の軌道が揃うための未知の惑星軌道を推定した.その結果,未知の惑星軌道は離心軌道である必要があり,軌道面は傾いており軌道長半径は数百 au と推定した.
2015 年 10 月 13 日に,すばる望遠鏡による観測で太陽から 80 au の距離に発見された.
この時の r バンドでの等級は 24.0 であった.すばるを用いた観測では一般に 25.5 等級までの深い探査が可能であり,この天体は今回の発見の限界等級よりも 1.5 等級明るい天体である.
80 au の距離で,天体のアルベドの値を中間的な値である 15% と仮定すると,2015 TG387 の直径は 300 km と推定される.
この天体は,2015 年 12 月,2016 年 7 月,10 月,11 月,12 月,2017 年 9 月, 12 月,2018 年 5 月にも観測された.
軌道要素は,軌道長半径 1190 ± 70 au,軌道離心率 0.945 ± 0.003,軌道傾斜角 11.669 ± 0.001 度.昇交点黄経 300.97 ± 0.01 度,近日点経度 118.2 ± 0.1 度である.
この天体の近日点引数は 0 度よりも 180 度に近く,これはセドナ,2012 VP113 やその他の大部分の ETNOs とは異なる特徴である.実際,2015 TG387 は近日点引数が 180 度に近い detached ETNOs や内オールトの雲としては初めての発見例である.
1) 2015 TG387 の近日点経度は 59 度で,セドナや 2012 VP113,その他の ETNOs と類似している.近日点経度のクラスタリングは 2 - 2.5σ の有意性を示すのみである.既知の 8 個の内オールトの雲天体と detached ETNOs をサンプルに加えた場合は近日点経度のクラスタリングの有意性は ~ 4σ に上がるが,これはこれらの天体の発見にかかる経度のバイアスを無視している.より多くの内オールトの雲と detached ETNOs の一様なサーベイによる発見が,近日点経度のクラスタリングにおける良い統計的な解析をするために必要である.
2) 2015 TG387 を加えた解析の結果,内オールトの雲の天体の軌道長半径分布は a2.7 に従っていることを見出した.もし軌道長半径分布の指数がここで示唆されるように 3 である場合,空間の体積は距離の 3 乗で大きくなるため,内オールトの雲の天体の空間密度は太陽からの距離によらずに一定であることを意味する.
3) 直径が 40 km より大きな内オールトの雲天体の個数は 2 × 106 個と推定される.また総質量は 1022 kg と推定される.従って内オールトの雲の集団は,カイパーベルト天体の集団と似た質量を持つと考えられる.
4) 内オールトの雲天体と detached ETNOs は,太陽系外縁天体 (trans-Neptunian objects, TNOs) のうち散乱円盤 (scattered disk) の天体と似た軌道傾斜角を持っているように思われる.平均的な軌道傾斜角は 19 度である.内オールトの雲は,古典的な KBOs のような狭い傾斜角分布や,MMR-KR TNOs (海王星との mean motion resonance と Kozai resonance にある天体) のような,非常に厚い傾斜角分布を持っていないように見える.
5) シミュレーションから,2015 TG387 は太陽系内の惑星の影響を含めても軌道は安定であることが判明した.また銀河潮汐を含めても安定である.恒星の近接遭遇に対しても大部分のケースで安定だが,これは近接遭遇に用いたモデルに依存する.大部分の恒星遭遇シナリオでは,95% のケースでは太陽系年齢の間安定である.しかし最も強い恒星遭遇シナリオを用いた場合は,太陽系年齢のうちに 65% が失われる.総合すると,この天体は太陽系年齢の間に渡って現在の軌道パラメータで概ね安定と言える.
6) 銀河潮汐の外部からの力と,太陽系の四重極モーメントの内部からの力が,この天体の軌道に同時に影響を及ぼす.銀河潮汐の影響は距離が 1000 au を超えると重要になる.これはセドナの軌道進化にも見られる.太陽系の四重極モーメントは,天体の軌道の近日点引数の角度の歳差運動が,天体の近日点が 60 au 付近の内部まで押し込まれるまで,銀河潮汐の擾乱が継続的に増加するほどに十分遅い時に重要になる.いったん天体が近日点を ~ 60 au より内側に持つと,既知の巨大惑星からの大きなエネルギーキックが天体の軌道長半径を変える原因になる.この軌道長半径の変化は,天体が巨大惑星とより強い相互作用を始めるまでの間,この天体の近日点をさらに小さくするような巨大惑星からのエネルギーキックを増加させることが出来る.天体の近日点が 30 - 35 au かそれ以下になると,天体は巨大惑星からの重力散乱に対して不安定になるだろう.
7) 仮説上の天体である Planet X を数百 au に置いてシミュレーションをした場合,2015 TG387 は,Planet X が内オールトの雲や ETNOs を安定に保つ軌道である場合は安定であることを見出した.この場合の大部分のシミュレーションで,2015 TG387 は経度か近日点が秤動し,太陽系年齢に渡って Planet X とは反対の状態で安定であった.この近日点経度の秤動は,Planet X を含めないシミュレーションでは見られなかった.
arXiv:1810.00013
Sheppard et al. (2018)
A New High Perihelion Inner Oort Cloud Object
(新しい高近日点の内オールトの雲天体)
概要
内オールトの雲 (inner Oort cloud) の天体は,カイパーベルトよりも遠方に近日点を持ち,軌道長半径は数千 au よりも小さい.これらの天体は既知の惑星の強い重力的な影響を受けていないが,太陽系外部の力はほとんど受けず,重力的に太陽に強く束縛されている.ここでは,内オールトの雲の天体として,セドナ,2012 VP113 に続く 3 番目の天体 2015 TG387 の発見を報告する.
2015 TG387 の近日点は 65 ± 1 au で,軌道長半径は 1190 ± 70 au である.
この天体の近日点経度角はセドナと 2012 VP113 の近日点経度角の間にある.従って,軌道要素が集まっている extreme trans-Neptunian objects (ETNOs) の主要グループに類似した特徴を持つ.これらは,Planet X や Planet 9 と呼ばれる仮説上の重い遠方惑星によって同じ軌道角に導かれている可能性がある天体である.
この新しい天体の軌道は,既知の惑星からの影響と銀河潮汐に対して,太陽系年齢の間に渡って安定である.さらに,過去 40 億年間の太陽に対する恒星遭遇イベントを含めたシミュレーションでも,この天体は大部分の場合で安定であった.しかし軌道の力学的な進化は,恒星遭遇のシナリオとして用いたモデルに依存する.
驚くべきことに,数百 au 離れた離心軌道にあり,大部分の既知の ETNOs と近日点経度が反平行にあると思われる重い Planet X をシミュレーションに含めた場合,その他の ETNOs を安定にするような Planet X の軌道の場合は 2015 TG387 は安定であることを見出した.
実際,最も安定なシミュレーションにおいては,この天体の近日点経度は Planet X の近日点経度から 180 度の位置を秤動する.太陽系の年齢の期間に渡って,この天体は Planet X から反対方向に存在する.
今回の発見を元に,内オールトの雲天体の軌道長半径分布に関して,3 に近い指数の傾きを見出した.直径が 40 km より大きい内オールトの雲天体は 200 万個存在し,総質量は 1022 kg と推定される.
内オールトの雲の天体の軌道傾斜角分布は散乱円盤天体と類似しており,平均は 19 度である.
背景
Extreme trans-Neptunian objects について
Extreme trans-Neptunian objects (ETNOs) は,近日点が海王星軌道よりも十分遠方にあり,大きな軌道長半径 (150 - 250 au) を持つ天体の総称である.ETNOs は既知の巨大惑星とは僅かな相互作用しか起こさず,数百から数千 au 離れた太陽の重力に非常に敏感である.そのため ETNOs はカイパーベルト以遠の太陽系を探査するのに使うことが出来る.ETNOs は 3 つのサブクラスに分類できる.
Scattered ETNOs は,近日点が 38 - 45 au 以下で,おそらく海王星との重力散乱によって作られ,現在も海王星と一定の相互作用を持つものである (Brasser & Schwamb 2015).
Detached ETNOs は近日点が 40 - 45 au から 50 - 60 au の間にある天体である.巨大惑星とは最小限の相互作用しかしないが,依然として海王星には比較的近いため,既知の巨大惑星とは依然として一定の相互作用があるものである (Gladman et al. 2002,Bannister et al. 2017).
Inner Oort Cloud objects (IOCs,内オールトの雲天体) は近日点が 50 - 60 au より大きく,巨大惑星から強く影響を受けるには遠すぎる位置にある (Gomes et al. 2008).
離心軌道にある IOC の起源はおそらく,外的な恒星潮汐力や外部太陽系からの未知の力など,より効率的に過去に働いたであろうメカニズムを必要とする.そのため IOCs の軌道は,遠方の太陽系がどの様に形成され,現在どの様に周囲と相互作用しているかについての情報を与える.
Detached ETNOs は IOCs と同じ様に進化しているかもしれないし,あるいは scattered ETNOs により類似しているかもしれない.
なお,遠日点が数千 au を超えるすべての天体に対しては,銀河潮汐や通過する恒星が非常に重要になるため,外部オールトの雲の天体とみなされる.
ETNOs の軌道と未知の惑星の可能性
Trujillo and Sheppard (2014) では,ETNOs の近日点引数が似たような値に集まっており,また経度が非対称である可能性を指摘した.これは,スーパーアースより大きな質量の惑星が数百 au の距離にあり,これらの ETNOs を似た軌道にまとめている可能性を示唆するものである.Batygin & Brown (2016) では,ETNOs の軌道が揃うための未知の惑星軌道を推定した.その結果,未知の惑星軌道は離心軌道である必要があり,軌道面は傾いており軌道長半径は数百 au と推定した.
観測
2015 TG387 は,カイパーベルトの端を超えた領域にある天体のサーベイによって発見された.発見には主に,北半球のハワイ・マウナケア山頂にある 8.2 m すばる望遠鏡の 1.5 平方角 HyperSuprime Camera (HSC) と,4 m Blanco 望遠鏡 (Cerro Tololo Interamerican Observatory) の 2.7 平方角 Dark Energy Camera (DECam) を使用した.2015 年 10 月 13 日に,すばる望遠鏡による観測で太陽から 80 au の距離に発見された.
この時の r バンドでの等級は 24.0 であった.すばるを用いた観測では一般に 25.5 等級までの深い探査が可能であり,この天体は今回の発見の限界等級よりも 1.5 等級明るい天体である.
80 au の距離で,天体のアルベドの値を中間的な値である 15% と仮定すると,2015 TG387 の直径は 300 km と推定される.
この天体は,2015 年 12 月,2016 年 7 月,10 月,11 月,12 月,2017 年 9 月, 12 月,2018 年 5 月にも観測された.
軌道要素は,軌道長半径 1190 ± 70 au,軌道離心率 0.945 ± 0.003,軌道傾斜角 11.669 ± 0.001 度.昇交点黄経 300.97 ± 0.01 度,近日点経度 118.2 ± 0.1 度である.
この天体の近日点引数は 0 度よりも 180 度に近く,これはセドナ,2012 VP113 やその他の大部分の ETNOs とは異なる特徴である.実際,2015 TG387 は近日点引数が 180 度に近い detached ETNOs や内オールトの雲としては初めての発見例である.
まとめ
内オールトの雲に属する新しい天体 2015 TG387 を発見した.2015 TG387 の近日点はこれまでで 3 番目に遠い.新しい発見の詳細は以下の通り.1) 2015 TG387 の近日点経度は 59 度で,セドナや 2012 VP113,その他の ETNOs と類似している.近日点経度のクラスタリングは 2 - 2.5σ の有意性を示すのみである.既知の 8 個の内オールトの雲天体と detached ETNOs をサンプルに加えた場合は近日点経度のクラスタリングの有意性は ~ 4σ に上がるが,これはこれらの天体の発見にかかる経度のバイアスを無視している.より多くの内オールトの雲と detached ETNOs の一様なサーベイによる発見が,近日点経度のクラスタリングにおける良い統計的な解析をするために必要である.
2) 2015 TG387 を加えた解析の結果,内オールトの雲の天体の軌道長半径分布は a2.7 に従っていることを見出した.もし軌道長半径分布の指数がここで示唆されるように 3 である場合,空間の体積は距離の 3 乗で大きくなるため,内オールトの雲の天体の空間密度は太陽からの距離によらずに一定であることを意味する.
3) 直径が 40 km より大きな内オールトの雲天体の個数は 2 × 106 個と推定される.また総質量は 1022 kg と推定される.従って内オールトの雲の集団は,カイパーベルト天体の集団と似た質量を持つと考えられる.
4) 内オールトの雲天体と detached ETNOs は,太陽系外縁天体 (trans-Neptunian objects, TNOs) のうち散乱円盤 (scattered disk) の天体と似た軌道傾斜角を持っているように思われる.平均的な軌道傾斜角は 19 度である.内オールトの雲は,古典的な KBOs のような狭い傾斜角分布や,MMR-KR TNOs (海王星との mean motion resonance と Kozai resonance にある天体) のような,非常に厚い傾斜角分布を持っていないように見える.
5) シミュレーションから,2015 TG387 は太陽系内の惑星の影響を含めても軌道は安定であることが判明した.また銀河潮汐を含めても安定である.恒星の近接遭遇に対しても大部分のケースで安定だが,これは近接遭遇に用いたモデルに依存する.大部分の恒星遭遇シナリオでは,95% のケースでは太陽系年齢の間安定である.しかし最も強い恒星遭遇シナリオを用いた場合は,太陽系年齢のうちに 65% が失われる.総合すると,この天体は太陽系年齢の間に渡って現在の軌道パラメータで概ね安定と言える.
6) 銀河潮汐の外部からの力と,太陽系の四重極モーメントの内部からの力が,この天体の軌道に同時に影響を及ぼす.銀河潮汐の影響は距離が 1000 au を超えると重要になる.これはセドナの軌道進化にも見られる.太陽系の四重極モーメントは,天体の軌道の近日点引数の角度の歳差運動が,天体の近日点が 60 au 付近の内部まで押し込まれるまで,銀河潮汐の擾乱が継続的に増加するほどに十分遅い時に重要になる.いったん天体が近日点を ~ 60 au より内側に持つと,既知の巨大惑星からの大きなエネルギーキックが天体の軌道長半径を変える原因になる.この軌道長半径の変化は,天体が巨大惑星とより強い相互作用を始めるまでの間,この天体の近日点をさらに小さくするような巨大惑星からのエネルギーキックを増加させることが出来る.天体の近日点が 30 - 35 au かそれ以下になると,天体は巨大惑星からの重力散乱に対して不安定になるだろう.
7) 仮説上の天体である Planet X を数百 au に置いてシミュレーションをした場合,2015 TG387 は,Planet X が内オールトの雲や ETNOs を安定に保つ軌道である場合は安定であることを見出した.この場合の大部分のシミュレーションで,2015 TG387 は経度か近日点が秤動し,太陽系年齢に渡って Planet X とは反対の状態で安定であった.この近日点経度の秤動は,Planet X を含めないシミュレーションでは見られなかった.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1809.10744
Caballero et al. (2018)
Studying the solar system with the International Pulsar Timing Array
(国際パルサータイミングアレイを用いた太陽系の研究)
ここでは,International Pulsar Timing Array (国際パルサータイミングアレイ) の最初のデータリリースを使用し,太陽系の惑星-衛星系の質量に制約を与えた,また,太陽系内のモデル化されていない天体 (仮説上の天体) の探査にも用いた.
2 つの独立した研究グループによる 10 個の太陽系の天体歴を使用して惑星系の質量への制約を導出し,それぞれを比較した.また,小惑星帯の天体に対する初めての PTA による質量の制約与えた.
惑星系の質量に対する制約は,同じ推定を用いた過去の結果よりもファクターで 20 程度改善した,
木星系の質量を 9.5479189 × 10-4 太陽質量.準惑星ケレスの質量を 4.7 × 1010 太陽質量と推定した.
また,モデル化されていない天体の質量に対する全体的な限界を与える,実際のデータを用いた初めての感度曲線を提供する.これは,仮説上のエキゾチック天体の質量の上限値として用いることができる.例えば,ダークマターのクランプ質量に対する上限値は,これとは独立した手法を用いて推定された上限値と同程度である.
全ての太陽系天体暦を用いて導出された惑星質量に対する制約は整合的であるが,関連するタイミングの残差とモデル化されていない天体の感度曲線における違いについて注目し議論を行った.
パルサータイミングは,パルスの到達時間 (times-of-arrival, TOAs) を記録し,洗練されたモデルを使用して,観測者を原点とした TOA,あるいは場所の到達時刻をパルサーと共動する基準座標系でのパルス放出時間に変換する強力な手段である.タイミングの残差を調べることによって,つまり観測された TOA と理論モデルが予測する TOA の違いを調べることによって,タイミングモデル中に考慮されていない情報を捉えることができる.
PTA 研究の主要な科学的目標は,低周波の重力波の直接検出である.これには,nHz 周波数での,確率的 (stochastic) な重力波背景の検出を含む.
PTAs としてが,現在 3 つのコラボレーションが稼動している.European Pulsar Timing Array (EPTA,Desvignes et al. 2016),North-American Nanohertz Observatory for Gravitational Waves (NANOGrav,Arzoumanian et al. 2015),Parkes Pulsar Timing Array (PPTA,Reardon et al. 2016) である.またこれらのコラボレーションは,International Pulsar Timing Array コンソーシアム (IPTA,Verbiest et al. 2016) の元で恊働している.
パルサータイミングに使用する太陽系天体暦は,既知の太陽系天体の運動方程式の数値積分によって構築される.これらの積分は,望遠鏡による観測,電波とレーザーでの測距,惑星とその衛星を周回する宇宙機からの豊富な観測データを反映したものになる.このようなインプットデータは,惑星やその他の重要な太陽系天体の質量の推定を含んでいる.
観測的には,天体の質量そのものではなく,天体質量と万有引力定数をかけた重力パラメータ \(GM\) が決定されることになる.このパラメータは,万有引力定数そのものよりも高い精度で決定することが出来る.
この事実は,SI 単位系における天体質量の測定精度を制限することになる.これが理由で,惑星などの太陽系天体の質量は,各天体の重力パラメータと,太陽の重力パラメータ \(GM_{\odot}\) (heliocentriv gravitational constant,日心重力定数) との比として表されることになる.
時間の経過とともに新しいデータが追加されていくため,より新しい太陽系天体暦は,より良い精度のデータと観測サンプリングに依存することになる.このプロセスは,地球-月系に対する惑星系の位置に関する正確な予測を提供するが,天体質量は初期値として使用するものよりも遥かに良いものへと制約することは出来ない.これは,太陽のパラメータに対する惑星系の重力パラメータの比が,数値積分の最中に固定されているという事実に反映される.
基準惑星質量に関する太陽系天体暦のバージョン間の変化は,惑星系の初期質量値,例えば宇宙機フライバイによる新しい質量推定の後,および/または,太陽系天体暦におけるフィットされたパラメータであり得る,太陽重力パラメータの推定値である.従ってインプットする惑星質量は,原理的には様々な太陽系天体暦のバージョン間で異なるもになる.
これを念頭に置いて,過去の Champion et al. (2010) では,惑星系の質量の誤差を,パルサータイミングデータが識別できる最も可能性の高い誤差として調査した.ここではその過去の研究を拡張し,IPTA のデータを用いた.様々な惑星系の質量推定に加え,最も重い部類の小惑星帯天体の質量の PTA データを用いた初めての制約を与えた.また,存在する可能性のあるモデル化されていない天体の探査を行った.
この手法は既知の天体の質量を制約するだけではなく,太陽系の重心を公転するあらゆる種類の重い天体の質量の上限値を与えることが出来る.例えば,ダークマターのクランプや宇宙ひもなどである.
太陽系の重心から 2 AU (PTAs での感度が最大になる場所) よりも遠方では,1.2 × 10-11 太陽質量のダークマタークランプが存在する可能性を否定した.土星軌道まで (9.6 AU) の距離では,ダークマタークランプの質量の上限値は 4 × 10-10 - 2 × 10-9 太陽質量と推定された.値の違いは,使用した太陽系天体暦の違いに依存している.
異なるデータと手法を用いて独立に推定したデータと比較すると,Pitjev & Pitjeva (2013) と Pitjeva & Pitjev (2013) では,土星軌道を半径として太陽を中心とする球内に存在するダークマター質量の上限値として 1.7 × 10-10 太陽質量という値を与えている.この過去の推定は,惑星間空間でのダークマター分布による加速による惑星の軌道運動への擾乱を調べた結果得られたものである.
arXiv:1809.10744
Caballero et al. (2018)
Studying the solar system with the International Pulsar Timing Array
(国際パルサータイミングアレイを用いた太陽系の研究)
概要
パルサータイミング解析に用いるタイミングモデルは,全ての記録されるパルス到着時間が参照される準慣性系である太陽系の重心の位置を推定するために使用する,太陽系の天体暦の誤差に敏感である.太陽系の天体暦におけるあらゆる誤差は全てのパルサーに影響するため,パルサータイミングアレイ (pulsar timing arrays, PTAs) はその様な誤差を探査する手段として適している.また天体暦に関連する物理パラメータへの独立した制約を課すことも出来る.ここでは,International Pulsar Timing Array (国際パルサータイミングアレイ) の最初のデータリリースを使用し,太陽系の惑星-衛星系の質量に制約を与えた,また,太陽系内のモデル化されていない天体 (仮説上の天体) の探査にも用いた.
2 つの独立した研究グループによる 10 個の太陽系の天体歴を使用して惑星系の質量への制約を導出し,それぞれを比較した.また,小惑星帯の天体に対する初めての PTA による質量の制約与えた.
惑星系の質量に対する制約は,同じ推定を用いた過去の結果よりもファクターで 20 程度改善した,
木星系の質量を 9.5479189 × 10-4 太陽質量.準惑星ケレスの質量を 4.7 × 1010 太陽質量と推定した.
また,モデル化されていない天体の質量に対する全体的な限界を与える,実際のデータを用いた初めての感度曲線を提供する.これは,仮説上のエキゾチック天体の質量の上限値として用いることができる.例えば,ダークマターのクランプ質量に対する上限値は,これとは独立した手法を用いて推定された上限値と同程度である.
全ての太陽系天体暦を用いて導出された惑星質量に対する制約は整合的であるが,関連するタイミングの残差とモデル化されていない天体の感度曲線における違いについて注目し議論を行った.
背景
パルサーとパルサータイミング
ミリ秒パルサー (millisecond pulsars, MSPs) は,観測可能な宇宙内でこれまでに知られている中で最も安定な回転体である.パルサータイミングは,パルスの到達時間 (times-of-arrival, TOAs) を記録し,洗練されたモデルを使用して,観測者を原点とした TOA,あるいは場所の到達時刻をパルサーと共動する基準座標系でのパルス放出時間に変換する強力な手段である.タイミングの残差を調べることによって,つまり観測された TOA と理論モデルが予測する TOA の違いを調べることによって,タイミングモデル中に考慮されていない情報を捉えることができる.
パルサータイミングアレイ
MSPs のパルスのタイミングを観測することで,パルサータイミングアレイ (pulsar timing arrays, PTAs) として利用することが出来る.PTA 研究の主要な科学的目標は,低周波の重力波の直接検出である.これには,nHz 周波数での,確率的 (stochastic) な重力波背景の検出を含む.
PTAs としてが,現在 3 つのコラボレーションが稼動している.European Pulsar Timing Array (EPTA,Desvignes et al. 2016),North-American Nanohertz Observatory for Gravitational Waves (NANOGrav,Arzoumanian et al. 2015),Parkes Pulsar Timing Array (PPTA,Reardon et al. 2016) である.またこれらのコラボレーションは,International Pulsar Timing Array コンソーシアム (IPTA,Verbiest et al. 2016) の元で恊働している.
パルサータイミングアレイを用いた太陽系探査
タイミングモデルには,パルサーの自転,位置天文,軌道パラメータが含まれており,パルスシグナル伝播が星間物質によって時間遅延する影響も考慮されている.しかし実際に重力波背景の探査を妨害する可能性が最も高い,TOA 内に相関したシグナルを混入する可能性があるのは,観測場所での到達時刻を太陽系重心での到達時刻に変換する時である.時計と太陽系天体暦の間に誤差が存在することは,PTAs による重力波の誤検出確率を上昇させる.パルサータイミングに使用する太陽系天体暦は,既知の太陽系天体の運動方程式の数値積分によって構築される.これらの積分は,望遠鏡による観測,電波とレーザーでの測距,惑星とその衛星を周回する宇宙機からの豊富な観測データを反映したものになる.このようなインプットデータは,惑星やその他の重要な太陽系天体の質量の推定を含んでいる.
観測的には,天体の質量そのものではなく,天体質量と万有引力定数をかけた重力パラメータ \(GM\) が決定されることになる.このパラメータは,万有引力定数そのものよりも高い精度で決定することが出来る.
この事実は,SI 単位系における天体質量の測定精度を制限することになる.これが理由で,惑星などの太陽系天体の質量は,各天体の重力パラメータと,太陽の重力パラメータ \(GM_{\odot}\) (heliocentriv gravitational constant,日心重力定数) との比として表されることになる.
時間の経過とともに新しいデータが追加されていくため,より新しい太陽系天体暦は,より良い精度のデータと観測サンプリングに依存することになる.このプロセスは,地球-月系に対する惑星系の位置に関する正確な予測を提供するが,天体質量は初期値として使用するものよりも遥かに良いものへと制約することは出来ない.これは,太陽のパラメータに対する惑星系の重力パラメータの比が,数値積分の最中に固定されているという事実に反映される.
基準惑星質量に関する太陽系天体暦のバージョン間の変化は,惑星系の初期質量値,例えば宇宙機フライバイによる新しい質量推定の後,および/または,太陽系天体暦におけるフィットされたパラメータであり得る,太陽重力パラメータの推定値である.従ってインプットする惑星質量は,原理的には様々な太陽系天体暦のバージョン間で異なるもになる.
これを念頭に置いて,過去の Champion et al. (2010) では,惑星系の質量の誤差を,パルサータイミングデータが識別できる最も可能性の高い誤差として調査した.ここではその過去の研究を拡張し,IPTA のデータを用いた.様々な惑星系の質量推定に加え,最も重い部類の小惑星帯天体の質量の PTA データを用いた初めての制約を与えた.また,存在する可能性のあるモデル化されていない天体の探査を行った.
結果
太陽系の惑星や,小惑星帯の天体の質量への上限値を与えた.この手法は既知の天体の質量を制約するだけではなく,太陽系の重心を公転するあらゆる種類の重い天体の質量の上限値を与えることが出来る.例えば,ダークマターのクランプや宇宙ひもなどである.
太陽系の重心から 2 AU (PTAs での感度が最大になる場所) よりも遠方では,1.2 × 10-11 太陽質量のダークマタークランプが存在する可能性を否定した.土星軌道まで (9.6 AU) の距離では,ダークマタークランプの質量の上限値は 4 × 10-10 - 2 × 10-9 太陽質量と推定された.値の違いは,使用した太陽系天体暦の違いに依存している.
異なるデータと手法を用いて独立に推定したデータと比較すると,Pitjev & Pitjeva (2013) と Pitjeva & Pitjev (2013) では,土星軌道を半径として太陽を中心とする球内に存在するダークマター質量の上限値として 1.7 × 10-10 太陽質量という値を与えている.この過去の推定は,惑星間空間でのダークマター分布による加速による惑星の軌道運動への擾乱を調べた結果得られたものである.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1809.11116
Berardo et al. (2018)
Revisiting the HIP41378 system with K2 and Spitzer
(K2 とスピッツァーによる HIP 41378 系の再検討)
HIP 41378 は明るい恒星 (V = 8.9,Ks = 7.7) であり,5 個の惑星を持っていることが知られている.ケプラー K2 ミッションの Campaign 5 の期間中にこの天体が観測され,2 個の海王星サイズの天体の複数回のトランジットと,3 つのより大きい天体の 1 回のトランジットが検出されている.
K2 ミッションは最近 Campaign 18 でこの天体を再び観測した.その結果,大きい方の惑星の 2 つ両方の新しいトランジットを観測した.新たにトランジットが観測されたのは,HIP 41378d と f である.
この観測により,これらの惑星の軌道周期として可能な最大値として,1114 日と 1084 日をそれぞれ与えた.
その他のありうる軌道周期解としては,これらの周期の最大値を整数で割ったものが考えられ,下限値は 50 日である.
現在利用可能な全ての測光データを用いて, HIP 41378d, f の軌道離心率の分布を決定した.その結果,これらの惑星の軌道周期が 300 日以下である場合は,ゼロではない離心率が必要であることが分かった.
また HIP 41378d, f の軌道の安定性解析も行った.これは,異なるあり得る軌道周期の尤度を評価することが目的である.
その結果,300 日未満の短い軌道周期は,軌道安定性の観点から好ましくないことが分かった.
さらに,内側を公転する HIP 41378b と c のトランジットを,スピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC を用いて観測した.この結果を,新しい K2 観測の結果と合わせて トランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) の解析を行った.
その結果,HIP 41378b の天体暦は線形であることを見出したが,HIP 41378c に関しては有意な TTV シグナルが見られた.これは HIP 41378d, e, f によって誘起されている可能性がある.
スピッツァー宇宙望遠鏡を用いてこの系内の 2 つの小さい惑星が観測できるということは,この興味深い系内にあるいくつかの惑星は,スピッツァー宇宙望遠鏡,CHEOPS,TESS とその他の観測装置で検出可能であるということを示している.
将来的な観測により HIP 41378d と f の周期を精密に決めることが可能となり,HIP 41378c の TTV を特徴付けることが出来,また惑星 HIP 41378e のトランジットを検出することが出来るだろうと考えられる.
最初の観測では,2 個の短周期惑星が検出されたほか,単独のトランジットイベントが 3 例検出された.後者のトランジットイベントは,統計的に有意に惑星であるとされた.
外側の 3 つの惑星の軌道や物理的特徴の推定値を改善するにはさらなるデータが必要であったが,K2 の Campaign 18 で再びこの天体がケプラーの観測視野に入り,新たなデータが取得された.
arXiv:1809.11116
Berardo et al. (2018)
Revisiting the HIP41378 system with K2 and Spitzer
(K2 とスピッツァーによる HIP 41378 系の再検討)
概要
HIP 41378 の複数惑星系の新しい観測結果について報告する.HIP 41378 は明るい恒星 (V = 8.9,Ks = 7.7) であり,5 個の惑星を持っていることが知られている.ケプラー K2 ミッションの Campaign 5 の期間中にこの天体が観測され,2 個の海王星サイズの天体の複数回のトランジットと,3 つのより大きい天体の 1 回のトランジットが検出されている.
K2 ミッションは最近 Campaign 18 でこの天体を再び観測した.その結果,大きい方の惑星の 2 つ両方の新しいトランジットを観測した.新たにトランジットが観測されたのは,HIP 41378d と f である.
この観測により,これらの惑星の軌道周期として可能な最大値として,1114 日と 1084 日をそれぞれ与えた.
その他のありうる軌道周期解としては,これらの周期の最大値を整数で割ったものが考えられ,下限値は 50 日である.
現在利用可能な全ての測光データを用いて, HIP 41378d, f の軌道離心率の分布を決定した.その結果,これらの惑星の軌道周期が 300 日以下である場合は,ゼロではない離心率が必要であることが分かった.
また HIP 41378d, f の軌道の安定性解析も行った.これは,異なるあり得る軌道周期の尤度を評価することが目的である.
その結果,300 日未満の短い軌道周期は,軌道安定性の観点から好ましくないことが分かった.
さらに,内側を公転する HIP 41378b と c のトランジットを,スピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC を用いて観測した.この結果を,新しい K2 観測の結果と合わせて トランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) の解析を行った.
その結果,HIP 41378b の天体暦は線形であることを見出したが,HIP 41378c に関しては有意な TTV シグナルが見られた.これは HIP 41378d, e, f によって誘起されている可能性がある.
スピッツァー宇宙望遠鏡を用いてこの系内の 2 つの小さい惑星が観測できるということは,この興味深い系内にあるいくつかの惑星は,スピッツァー宇宙望遠鏡,CHEOPS,TESS とその他の観測装置で検出可能であるということを示している.
将来的な観測により HIP 41378d と f の周期を精密に決めることが可能となり,HIP 41378c の TTV を特徴付けることが出来,また惑星 HIP 41378e のトランジットを検出することが出来るだろうと考えられる.
HIP 41378 系について
HIP 41378 系は,ケプラーの K2 ミッションの Campaign 5 で観測された (Vanderburg et al. 2016).最初の観測では,2 個の短周期惑星が検出されたほか,単独のトランジットイベントが 3 例検出された.後者のトランジットイベントは,統計的に有意に惑星であるとされた.
外側の 3 つの惑星の軌道や物理的特徴の推定値を改善するにはさらなるデータが必要であったが,K2 の Campaign 18 で再びこの天体がケプラーの観測視野に入り,新たなデータが取得された.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1809.10211
May et al. (2018)
MOPSS II: Extreme Optical Scattering Slope for the Inflated Super-Neptune HATS-8b
(MOPSS II:膨張したスーパーネプチューン HATS-8b の極端な可視光の散乱スロープ)
観測は,MOPSS (The Michian Optical Planetary Spectra Survey) の一環として行った.このプログラムは,比較系外惑星研究を可能にするために,一様な手法を用いて観測・データリダクション・解析された,可視光での惑星の透過スペクトルのデータベースを作成することを目標としている.
HATS-8b は G 型矮星を公転する,低密度のスーパーネプチューンである.0.873 木星半径,0.138 木星質量,平均密度は 0.259 g cm-3 である.
この惑星の 2 回のトランジットを 2017 年 7 月と 8 月に,Magellan Baade 6.5 m 望遠鏡の IMACS 装置を用いて分光観測した.
その結果 2 晩で異なる,増幅された散乱スロープを検出した.これらのスペクトルのスロープは,レイリー散乱のみによるものよりも強い.また,惑星に隠されていない場所にある恒星黒点の影響では完全には説明できない.
観測された散乱スロープへの大気中の凝縮物の影響について調査を行った,
その結果,もし惑星が平衡温度より温暖だった場合は,MnS のうち 10-2 µm よりも小さい粒子が観測されたスロープの 80% を説明可能であることが分かった.また,惑星が平衡温度と同じ温度だった場合は,大気の平均分子量が低い場合はスロープの 50% を説明可能である.
今回観測されたスペクトルの散乱スロープは,理論で予測される最も極端な場合でさえも超えている極端なものである.この惑星と中心星に対してさらなるフォローアップ観測を行い,スロープの時間変動が主に恒星や惑星の影響によるものかどうかを判断し,これらの影響がどのようなものなのかをよく理解することを提案する.
arXiv:1809.10211
May et al. (2018)
MOPSS II: Extreme Optical Scattering Slope for the Inflated Super-Neptune HATS-8b
(MOPSS II:膨張したスーパーネプチューン HATS-8b の極端な可視光の散乱スロープ)
概要
膨張した半径を持つスーパーネプチューン HATS-8b の観測結果について報告する.観測は,MOPSS (The Michian Optical Planetary Spectra Survey) の一環として行った.このプログラムは,比較系外惑星研究を可能にするために,一様な手法を用いて観測・データリダクション・解析された,可視光での惑星の透過スペクトルのデータベースを作成することを目標としている.
HATS-8b は G 型矮星を公転する,低密度のスーパーネプチューンである.0.873 木星半径,0.138 木星質量,平均密度は 0.259 g cm-3 である.
この惑星の 2 回のトランジットを 2017 年 7 月と 8 月に,Magellan Baade 6.5 m 望遠鏡の IMACS 装置を用いて分光観測した.
その結果 2 晩で異なる,増幅された散乱スロープを検出した.これらのスペクトルのスロープは,レイリー散乱のみによるものよりも強い.また,惑星に隠されていない場所にある恒星黒点の影響では完全には説明できない.
観測された散乱スロープへの大気中の凝縮物の影響について調査を行った,
その結果,もし惑星が平衡温度より温暖だった場合は,MnS のうち 10-2 µm よりも小さい粒子が観測されたスロープの 80% を説明可能であることが分かった.また,惑星が平衡温度と同じ温度だった場合は,大気の平均分子量が低い場合はスロープの 50% を説明可能である.
今回観測されたスペクトルの散乱スロープは,理論で予測される最も極端な場合でさえも超えている極端なものである.この惑星と中心星に対してさらなるフォローアップ観測を行い,スロープの時間変動が主に恒星や惑星の影響によるものかどうかを判断し,これらの影響がどのようなものなのかをよく理解することを提案する.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1809.09914
Borgniet et al. (2018)
Extrasolar planets and brown dwarfs around AF-type stars. X.The SOPHIE northern sample. Combining the SOPHIE and HARPS surveys to compute the close giant planet mass-period distribution around AF-type stars
(AF 型恒星まわりの系外惑星と褐色矮星.X.SOPHIE の北天のサンプル.AF 型星まわりの近接巨大惑星の質量-周期分布を計算するための SOPHIE と HARPS サーベイ)
太陽より重い主系列星は,視線速度サーベイでの惑星探査は比較的行われていない.これは,従来の視線速度測定では,これらの恒星の特性が隠されてしまうことが原因である.
ここでは, AF 型主系列星 (※注:スペクトル型が A 型・F 型の主系列星) の周囲の,恒星に近接した軌道 (最大で 2 au 程度まで) を持つ,巨大惑星と褐色矮星の特徴付けを目標にしたサーベイの結果について報告する.また,AF 型星周りの惑星を,異なる質量を持つ恒星周りの惑星の集団と比較した.
オート・プロヴァンス天文台 (Observatoire de Haute-Provence) の 1.93 m 望遠鏡に搭載された SOPHIE 分光器を用いて,125 個の AF 型主系列星を観測し,検出された準恒星伴星の特徴付けを行った.
また,SOPHIE サーベイと,類似した性質を持つ HARPS サーベイの結果を合わせて,巨大惑星と褐色矮星の存在度を計算した.
サーベイの結果,スペクトル型が F5-6V の恒星である HD 16232 と HD 113337 の 2 つの既知の惑星系に関して新しいデータを提供した.
HD 113337 系では,既知の惑星より遠方の軌道を公転する二番目の巨大惑星によって誘起されたと思われる,追加の視線速度変動が報告された.
またその他の系において,大きな振幅を持った視線速度変動,あるいは長周期の視線速度変化を検出した.今回の観測対象の中で,計 15 個の連星,もしくは重い準恒星伴星が検出された.
SOPHIE あるいは HAPRS,もしくはその両方によって観測された 225 個の観測ターゲットから,AF 型の恒星周りの 2 - 3 au 以内に褐色矮星が存在する頻度を 4% 未満と推定した.また,木星質量天体が 2 - 3 au 以内 (軌道周期 1000 日未満) に存在する頻度は 3.7% と推定した,なおこの数値は,1.5 太陽質量未満の AF 型星に対しての推定値である.
1.5 太陽質量以上の AF 型星周りについては,存在頻度は 6% 以下という上限値を与えた.さらに,軌道周期 10 日未満の巨大惑星については,存在頻度はそれぞれ 3% 未満と 4.5% 未満と推定された.
今回の結果は,FGK 星周りで報告されている巨大惑星の存在頻度と整合的であり,また形成モデルで予測されている,巨大惑星の軌道周期の恒星質量に伴う増加の可能性とも整合的である.
arXiv:1809.09914
Borgniet et al. (2018)
Extrasolar planets and brown dwarfs around AF-type stars. X.The SOPHIE northern sample. Combining the SOPHIE and HARPS surveys to compute the close giant planet mass-period distribution around AF-type stars
(AF 型恒星まわりの系外惑星と褐色矮星.X.SOPHIE の北天のサンプル.AF 型星まわりの近接巨大惑星の質量-周期分布を計算するための SOPHIE と HARPS サーベイ)
概要
中心星の質量がその周囲を公転する巨大惑星の特性に与える影響は,未だに完全には理解されていない.太陽より重い主系列星は,視線速度サーベイでの惑星探査は比較的行われていない.これは,従来の視線速度測定では,これらの恒星の特性が隠されてしまうことが原因である.
ここでは, AF 型主系列星 (※注:スペクトル型が A 型・F 型の主系列星) の周囲の,恒星に近接した軌道 (最大で 2 au 程度まで) を持つ,巨大惑星と褐色矮星の特徴付けを目標にしたサーベイの結果について報告する.また,AF 型星周りの惑星を,異なる質量を持つ恒星周りの惑星の集団と比較した.
オート・プロヴァンス天文台 (Observatoire de Haute-Provence) の 1.93 m 望遠鏡に搭載された SOPHIE 分光器を用いて,125 個の AF 型主系列星を観測し,検出された準恒星伴星の特徴付けを行った.
また,SOPHIE サーベイと,類似した性質を持つ HARPS サーベイの結果を合わせて,巨大惑星と褐色矮星の存在度を計算した.
サーベイの結果,スペクトル型が F5-6V の恒星である HD 16232 と HD 113337 の 2 つの既知の惑星系に関して新しいデータを提供した.
HD 113337 系では,既知の惑星より遠方の軌道を公転する二番目の巨大惑星によって誘起されたと思われる,追加の視線速度変動が報告された.
またその他の系において,大きな振幅を持った視線速度変動,あるいは長周期の視線速度変化を検出した.今回の観測対象の中で,計 15 個の連星,もしくは重い準恒星伴星が検出された.
SOPHIE あるいは HAPRS,もしくはその両方によって観測された 225 個の観測ターゲットから,AF 型の恒星周りの 2 - 3 au 以内に褐色矮星が存在する頻度を 4% 未満と推定した.また,木星質量天体が 2 - 3 au 以内 (軌道周期 1000 日未満) に存在する頻度は 3.7% と推定した,なおこの数値は,1.5 太陽質量未満の AF 型星に対しての推定値である.
1.5 太陽質量以上の AF 型星周りについては,存在頻度は 6% 以下という上限値を与えた.さらに,軌道周期 10 日未満の巨大惑星については,存在頻度はそれぞれ 3% 未満と 4.5% 未満と推定された.
今回の結果は,FGK 星周りで報告されている巨大惑星の存在頻度と整合的であり,また形成モデルで予測されている,巨大惑星の軌道周期の恒星質量に伴う増加の可能性とも整合的である.
天文・宇宙物理関連メモ vol.192 Batygin & Brown (2016) 太陽系内の "第9惑星" の証拠について