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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1905.01336
Jenkins et al. (2019)
Proxima Centauri b is not a transiting exoplanet
(プロキシマ・ケンタウリb はトランジット系外惑星ではない)
この惑星はこれまでに発見された中で最も近い地球型のハビタブルゾーン内の惑星であり,プロキシマb のトランジットがあった場合は,惑星の半径,惑星全体の密度,大気に対して強い制約を与えるだろう.また,引き続く透過光分光観測と二次食測定では大気の化学,物理過程,軌道,生命の兆候の探査も含めた探査が可能になると期待される.
しかし今回の測光結果では,4.5 µm の波長で 200 ppm の水準でプロキシマb のトランジットを否定した.トランジットしていたと仮定した場合の 3σ での惑星半径の上限値は 0.4 地球半径である.
過去に報告がある,可視光での地上と宇宙空間からの測光観測によるトランジットの可能性の主張は,プロキシマ・ケンタウリの頻繁なフレアに起因する,データ中の相関したノイズである可能性が高い.今後のフォローアップ観測では,惑星の電波放射,位相曲線,直接撮像に焦点を置くべきであると考えられる.
今回の研究では,近赤外から中間赤外線の波長では,可視光と比べて恒星の活動度が劇的に減少することが示唆された.プロキシマb は,もし使用する観測機器がプロキシマ程度の明るさの恒星を観測できるように設計されている場合であれば,宇宙空間からの赤外線望遠鏡での理想的な観測対象である.
この惑星は,太陽系に最も近い恒星を公転している惑星であると言うだけではなく,平衡温度と下限質量が地球に似ており,岩石惑星で液体の水が表面に存在している可能性がある.もしこの惑星がトランジットをしているのであれば,惑星大気と表面の特徴付けが可能となる.
Li et al. (2017) も,ラスカンパナスの 30 cm 望遠鏡で取得されたデータから,可視光でのプロキシマb のトランジットと思われるシグナルを報告した.しかしこれも確定はされなかった.
南極での Bright Star Survey Telescope を用いた観測から,Liu et al. (2018) はプロキシマb のものとみなすことが出来る,多数回のトランジット状のイベントの検出を報告した.また大きなトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) の存在を仮定すると,Kipping et al. (2017) で報告されたイベントと一致する可能性があると指摘した.
対照的に,Blank et al. (2018) では,11 年にわたる可視光データ中には過去に報告されたいかなるトランジットイベントも確認できなかったと報告されている.ただしこのデータは非一様で非連続的なデータセットであった.しかしながら,この解析では可視光での光度曲線に対する大きな恒星活動の影響があることが指摘された.
スピッツァー宇宙望遠鏡の InfraRed Array Camera (IRAC) を用いて,4.5 µm 波長で 2016 年 11 月に 48 時間にわたる観測を行った.これは,視線速度法での軌道の解からプロキシマb のトランジットが発生し得る時刻を対象とした観測である.
その結果,プロキシマb が恒星の手前を通過したとみなせるトランジット的なイベントはデータ中に見られなかった.過去に目撃されたトランジット状のイベントは,恒星の複雑で頻繁なフレアと活動パターンからくる残差の相関ノイズの結果の可能性がある.
トランジットが検出されなかったことから,トランジットを起こしているが検出できなかったとした場合,惑星半径の 3σ の上限値は 0.4 地球半径となる.これは惑星の密度の下限値が 112 g cm-3 であるという非現実的に大きな値を示唆するため,ここからもトランジットの存在が否定される.
視線速度測定からプロキシマb の内側にさらなる小さい惑星が存在する可能性についても探査した.プロキシマb の発見論文以降に取得されたデータと合わせて解析した結果,プロキシマb を除いた視線速度の残差中には 0.5 m s-1 水準以上の変動は見られなかった.この結果から,内側に惑星が存在するとした場合の惑星質量の下限値は 0.5 地球質量である.
なお,0.3% の深さの,非対称な形状をしたトランジット状のシグナルは検出された.しかしこの特徴は,可変半径の測光アパーチャを用いることで時系列データから完全に除去できることが判明した.プロキシマやその他の天体のさらなるスピッツァー宇宙望遠鏡で見られた同様の特徴についての研究や,検出・取り扱い方法については,将来の別の論文で出版する.
arXiv:1905.01336
Jenkins et al. (2019)
Proxima Centauri b is not a transiting exoplanet
(プロキシマ・ケンタウリb はトランジット系外惑星ではない)
概要
スピッツァー宇宙望遠鏡を用いて,系外惑星プロキシマ・ケンタウリb (プロキシマb) のトランジットが起きることが予想される期間に行った観測について報告する.この惑星はこれまでに発見された中で最も近い地球型のハビタブルゾーン内の惑星であり,プロキシマb のトランジットがあった場合は,惑星の半径,惑星全体の密度,大気に対して強い制約を与えるだろう.また,引き続く透過光分光観測と二次食測定では大気の化学,物理過程,軌道,生命の兆候の探査も含めた探査が可能になると期待される.
しかし今回の測光結果では,4.5 µm の波長で 200 ppm の水準でプロキシマb のトランジットを否定した.トランジットしていたと仮定した場合の 3σ での惑星半径の上限値は 0.4 地球半径である.
過去に報告がある,可視光での地上と宇宙空間からの測光観測によるトランジットの可能性の主張は,プロキシマ・ケンタウリの頻繁なフレアに起因する,データ中の相関したノイズである可能性が高い.今後のフォローアップ観測では,惑星の電波放射,位相曲線,直接撮像に焦点を置くべきであると考えられる.
今回の研究では,近赤外から中間赤外線の波長では,可視光と比べて恒星の活動度が劇的に減少することが示唆された.プロキシマb は,もし使用する観測機器がプロキシマ程度の明るさの恒星を観測できるように設計されている場合であれば,宇宙空間からの赤外線望遠鏡での理想的な観測対象である.
プロキシマ・ケンタウリb について
概要
プロキシマ・ケンタウリb (プロキシマb) は Anglada-Escud ́e et al. (2016) によって,視線速度法による発見が報告された.この惑星は,太陽系に最も近い恒星を公転している惑星であると言うだけではなく,平衡温度と下限質量が地球に似ており,岩石惑星で液体の水が表面に存在している可能性がある.もしこの惑星がトランジットをしているのであれば,惑星大気と表面の特徴付けが可能となる.
トランジットの検出報告
Kipping et al. (2017) は,Microvariability and Oscillationsof STars (MOST) 宇宙望遠鏡を用いた可視光での測光観測を行った.その結果,プロキシマb に対して予想される特性と一致するトランジットの候補シグナルの存在を報告したが,そのトランジットシグナルを惑星によるものと確定することはできなかった.Li et al. (2017) も,ラスカンパナスの 30 cm 望遠鏡で取得されたデータから,可視光でのプロキシマb のトランジットと思われるシグナルを報告した.しかしこれも確定はされなかった.
南極での Bright Star Survey Telescope を用いた観測から,Liu et al. (2018) はプロキシマb のものとみなすことが出来る,多数回のトランジット状のイベントの検出を報告した.また大きなトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) の存在を仮定すると,Kipping et al. (2017) で報告されたイベントと一致する可能性があると指摘した.
対照的に,Blank et al. (2018) では,11 年にわたる可視光データ中には過去に報告されたいかなるトランジットイベントも確認できなかったと報告されている.ただしこのデータは非一様で非連続的なデータセットであった.しかしながら,この解析では可視光での光度曲線に対する大きな恒星活動の影響があることが指摘された.
観測・解析結果
長波長での観測は恒星活動が光度曲線に及ぼす影響を低減し,測定精度を上げることが出来る.スピッツァー宇宙望遠鏡の InfraRed Array Camera (IRAC) を用いて,4.5 µm 波長で 2016 年 11 月に 48 時間にわたる観測を行った.これは,視線速度法での軌道の解からプロキシマb のトランジットが発生し得る時刻を対象とした観測である.
その結果,プロキシマb が恒星の手前を通過したとみなせるトランジット的なイベントはデータ中に見られなかった.過去に目撃されたトランジット状のイベントは,恒星の複雑で頻繁なフレアと活動パターンからくる残差の相関ノイズの結果の可能性がある.
トランジットが検出されなかったことから,トランジットを起こしているが検出できなかったとした場合,惑星半径の 3σ の上限値は 0.4 地球半径となる.これは惑星の密度の下限値が 112 g cm-3 であるという非現実的に大きな値を示唆するため,ここからもトランジットの存在が否定される.
視線速度測定からプロキシマb の内側にさらなる小さい惑星が存在する可能性についても探査した.プロキシマb の発見論文以降に取得されたデータと合わせて解析した結果,プロキシマb を除いた視線速度の残差中には 0.5 m s-1 水準以上の変動は見られなかった.この結果から,内側に惑星が存在するとした場合の惑星質量の下限値は 0.5 地球質量である.
なお,0.3% の深さの,非対称な形状をしたトランジット状のシグナルは検出された.しかしこの特徴は,可変半径の測光アパーチャを用いることで時系列データから完全に除去できることが判明した.プロキシマやその他の天体のさらなるスピッツァー宇宙望遠鏡で見られた同様の特徴についての研究や,検出・取り扱い方法については,将来の別の論文で出版する.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.325 Kipping et al. (2016) プロキシマb のトランジットは検出されず
天文・宇宙物理関連メモ vol.685 Li et al. (2017) プロキシマ・ケンタウリでのトランジット状シグナルの検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.656 Liu et al. (2017) 南極の望遠鏡でのプロキシマb のトランジットの探査
天文・宇宙物理関連メモ vol.752 Blank et al. (2018) プロキシマb のトランジットの探査について