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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.02795
Merritt et al. (2020)
Non-detection of TiO and VO in the atmosphere of WASP-121b using high-resolution spectroscopy
(高分散分光での WASP-121b 大気中の TiO と VO の非検出)
ここでは,ウルトラホットジュピター WASP-121b の大気中の TiO と VO の探査を実施した.この惑星は 2400 K 程度以上の平衡温度を持ち,昼側のスペクトルに水の特徴があることが報告されており,温度逆転層の他,低分解能観測で VO の暫定的な検出が報告されている.この天体の透過スペクトルを UVES/VLT で観測し,相互相関手法を使用して,観測された温度逆転に TiO か VO が関係しているかどうかを調査した.
その結果,この惑星の昼夜境界領域には TiO と VO の存在は検出されなかった.
それぞれの分子の存在度を変化させてデータにシグナルを挿入することで,大まかな検出限界として [VO] ≲ -7.9,[TiO] ≲ -9.3 という値を与えた.しかしこれらの検出限界は,大気中の雲層による散乱特性およびその位置と大きく縮退する.
この結果は,この惑星の温度逆転層に関しては TiO も VO も主要な原因でないことを示唆している.しかし VO に対するより正確なスペクトル線のリストが開発されるまでは,その存在を完全に否定することはできない.赤色の可視光での釣果吸収の原因となりうる別の強い可視光を吸収する分子種の発見が将来の研究で行われるだろう.
しかし,後のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット測定では,これまでに考えられていたよりも不定性が大きい事が Hansen et al. (2014) により指摘された.さらに Zellem et al. (2014) などにより,HD 209458b 大気中には温度逆転層が存在しないとするモデルと整合的な観測結果が得られた.
Sedaghati et al. (2017) は,WASP-19b の VLT による地上からの透過光分光観測で,TiO の検出を報告した.これは先立つハッブル宇宙望遠鏡 STIS での TiO の非検出の報告と矛盾するものであった (Huitson et al. 2013).しかしその後にこの検出を再現する試みが GMT の IMACS を用いた観測で行われたものの,これは失敗に終わっている (Espinoza et al. 2019).
Haynes et al. (2015) は,WASP-33b (平衡温度 ~2700 K) の昼側大気を HST/WFC3 を用いて低分散観測を行い,~1 µm での熱放射の特徴を発見した.この放射は大気中の TiO の存在と整合的である.この主張は後に,すばる望遠鏡の HDS で取得された昼側での高分散分光観測と相互相関技術によって補強された (Nugroho et al. 2017).これらの報告は現在のところ,系外惑星大気中の TiO の存在の主張としては最も強いものである.
WASP-121b の昼夜境界領域に TiO が存在するかどうかに関しては Evans et al. (2018) でも疑問が呈されており,そのモデルでは VO のみでスペクトルをフィッティングしていた.TiO の非検出に関しては過去の結果と整合的であり,この惑星に検出可能な量の TiO が存在しないことのさらなる証拠となる.
一方で今回の VO の非検出は,ハッブル宇宙望遠鏡での低分散観測で放射と透過光の両方に VO の兆候を検出した Evans et al. (2016,2017,2018),Mikal-Evans et al. (2019) と非整合的な結果である.低分散観測は系統誤差の除去が不完全である問題があることが知られており,特にハッブル宇宙望遠鏡の STIS でそれが顕著である (Gibson et al. 2017,2019).今回の観測で VO が非検出であった原因は謎である.
ただし,系外惑星大気中の検出における VO のラインリストの高分散分光観測への適用可能性には大きな疑問が残る.
arXiv:2002.02795
Merritt et al. (2020)
Non-detection of TiO and VO in the atmosphere of WASP-121b using high-resolution spectroscopy
(高分散分光での WASP-121b 大気中の TiO と VO の非検出)
概要
温度逆転層は,ウルトラホットジュピターの大気中に存在することが長く予測されてきた.しかしその原因と考えられている TiO (酸化チタン) と VO (酸化バナジウム) の検出は未だに不明瞭である.ここでは,ウルトラホットジュピター WASP-121b の大気中の TiO と VO の探査を実施した.この惑星は 2400 K 程度以上の平衡温度を持ち,昼側のスペクトルに水の特徴があることが報告されており,温度逆転層の他,低分解能観測で VO の暫定的な検出が報告されている.この天体の透過スペクトルを UVES/VLT で観測し,相互相関手法を使用して,観測された温度逆転に TiO か VO が関係しているかどうかを調査した.
その結果,この惑星の昼夜境界領域には TiO と VO の存在は検出されなかった.
それぞれの分子の存在度を変化させてデータにシグナルを挿入することで,大まかな検出限界として [VO] ≲ -7.9,[TiO] ≲ -9.3 という値を与えた.しかしこれらの検出限界は,大気中の雲層による散乱特性およびその位置と大きく縮退する.
この結果は,この惑星の温度逆転層に関しては TiO も VO も主要な原因でないことを示唆している.しかし VO に対するより正確なスペクトル線のリストが開発されるまでは,その存在を完全に否定することはできない.赤色の可視光での釣果吸収の原因となりうる別の強い可視光を吸収する分子種の発見が将来の研究で行われるだろう.
温度逆転層と TiO/VO について
ホットジュピターでの検出報告
ホットジュピター大気中の温度逆転層の最初の兆候は,Knutson et al. (2008) によって HD 209458b の大気中に存在することが報告された.これはスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた二次食観測を元にしている.しかし,後のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット測定では,これまでに考えられていたよりも不定性が大きい事が Hansen et al. (2014) により指摘された.さらに Zellem et al. (2014) などにより,HD 209458b 大気中には温度逆転層が存在しないとするモデルと整合的な観測結果が得られた.
ウルトラホットジュピターでの検出報告
後のウルトラホットジュピターにおけるさらなる観測では,驚くべき数の平坦な黒体放射的な放射スペクトルが検出されている (Swain et al. 2013など).これらの観測では,期待されていた温度逆転の存在を示唆する吸収や放射特性は見られていない.Sedaghati et al. (2017) は,WASP-19b の VLT による地上からの透過光分光観測で,TiO の検出を報告した.これは先立つハッブル宇宙望遠鏡 STIS での TiO の非検出の報告と矛盾するものであった (Huitson et al. 2013).しかしその後にこの検出を再現する試みが GMT の IMACS を用いた観測で行われたものの,これは失敗に終わっている (Espinoza et al. 2019).
Haynes et al. (2015) は,WASP-33b (平衡温度 ~2700 K) の昼側大気を HST/WFC3 を用いて低分散観測を行い,~1 µm での熱放射の特徴を発見した.この放射は大気中の TiO の存在と整合的である.この主張は後に,すばる望遠鏡の HDS で取得された昼側での高分散分光観測と相互相関技術によって補強された (Nugroho et al. 2017).これらの報告は現在のところ,系外惑星大気中の TiO の存在の主張としては最も強いものである.
WASP-121b の温度逆転層と TiO/VO
WASP-121b はハッブル宇宙望遠鏡での低分散観測で,水の検出,および透過光中に TiO と VO の暫定的な証拠が検出されている (Evans et al. 2016,Esiaras et al. 2018).また VO のさらなる証拠と,水の特徴を介した温度逆転の測定が放射光で検出されている (Evans et al. 2017).さらに VO の証拠 (ただし TiO ではない) と,未知の青い波長での吸収源 (SH と示唆されている) が透過光で検出されている (Evans et al. 2018),さらなる放射光の測定と新しい復元手法でも VO の存在が示唆されている (Mikal-Evans et al. 2019).TESS による位相曲線の速攻観測では大気中の温度逆転の存在が確認され,その原因として TiO, VO, H- が示唆されている (Daylan et al. 2019,Bourrier et al. 2019).※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.231 Evans et al. (2016) ホットジュピター大気中での TiO/VO の検出の証拠
天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
天文・宇宙物理関連メモ vol.1027 Evans et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-121b の透過光分光観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1161 Mikal-Evans et al. (2019) ハッブル宇宙望遠鏡によるウルトラホットジュピター WASP-121b の放射スペクトル
天文・宇宙物理関連メモ vol.1207 Daylan et al. (2019) TESS によるウルトラホットジュピター WASP-121b の位相曲線観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1206 Bourrier et al. (2019) ウルトラホットジュピター WASP-121b の可視光の位相曲線
天文・宇宙物理関連メモ vol.231 Evans et al. (2016) ホットジュピター大気中での TiO/VO の検出の証拠
天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
天文・宇宙物理関連メモ vol.1027 Evans et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-121b の透過光分光観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1161 Mikal-Evans et al. (2019) ハッブル宇宙望遠鏡によるウルトラホットジュピター WASP-121b の放射スペクトル
天文・宇宙物理関連メモ vol.1207 Daylan et al. (2019) TESS によるウルトラホットジュピター WASP-121b の位相曲線観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1206 Bourrier et al. (2019) ウルトラホットジュピター WASP-121b の可視光の位相曲線
結果と議論
今回の観測では,一般的な相互相関手法で WASP-121b の大気から TiO と VO は検出されなかった.また injection test からは,過去の研究で示唆されるような太陽存在度を超える VO が存在した場合は,高確率で分子のシグナルを検出できるはずであることも示された.WASP-121b の昼夜境界領域に TiO が存在するかどうかに関しては Evans et al. (2018) でも疑問が呈されており,そのモデルでは VO のみでスペクトルをフィッティングしていた.TiO の非検出に関しては過去の結果と整合的であり,この惑星に検出可能な量の TiO が存在しないことのさらなる証拠となる.
一方で今回の VO の非検出は,ハッブル宇宙望遠鏡での低分散観測で放射と透過光の両方に VO の兆候を検出した Evans et al. (2016,2017,2018),Mikal-Evans et al. (2019) と非整合的な結果である.低分散観測は系統誤差の除去が不完全である問題があることが知られており,特にハッブル宇宙望遠鏡の STIS でそれが顕著である (Gibson et al. 2017,2019).今回の観測で VO が非検出であった原因は謎である.
ただし,系外惑星大気中の検出における VO のラインリストの高分散分光観測への適用可能性には大きな疑問が残る.
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.378 Gibson et al. (2017) WASP-31b の雲層とレイリー散乱の確認と,カリウムの非検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.1016 Gibson et al. (2018) 高分散分光観測による WASP-31b のカリウムの特徴の再検討
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