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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1801.06548
Dang et al. (2018)
Detection of a Westward Hotspot Offset in the Atmosphere of a Hot Gas Giant CoRoT-2b
(高温の巨大ガス惑星 CoRoT-2b の大気中の西向きのホットスポットのずれの検出)

概要

短周期惑星は,数百 K から数千 K もの昼夜間の温度差を持つ.また,東向きのホットスポット (惑星表面で最も高温な点) のずれを示す (Knutson et al. 2007).これは,最も高温な領域が恒星直下点 (sub-stellar point) の東側にずれているというものである.この現象は,大気中の東向きの風によって熱が移流していることによって発生すると広く解釈されている (Showman & Guillot 2002).

ここでは,ホットジュピター CoRoT-2b の熱位相観測を,スピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC 装置を用いて行った.この観測から,ホットスポットが西向きにずれていることが判明した.西向きのずれの検出としては,これまでに最も確実な検出である.

ホットスポットの西向きのずれの大きさは 23 ± 4° であり,これまでの他の 9 つの惑星に対する同等の観測の結果とは対照的である (Cowan et al. 2012,Kutson et al. 2012など).

CoRoT-2b が示す特異なフラックスマップは,非同期自転によって発生する西向きの風か (Rauscher & Kempton 2014),磁場の影響による西向きの風か (Rogers & Komacek 2014, Rogers 2017),あるいは部分的な雲の影響,つまり惑星の東半球からのフラックスが雲によって隠されていることによって起きると考えられる (Demory et al. 2013, Parmentier et al. 2016, Lee et al. 2016, Roman & Rauscher 2017).非同期自転,あるいは磁場が原因である場合は,この惑星の異常に大きい半径も同時に説明できる可能性がある (Rogers & Komacek 2014, Guillot & Havel 2011).一方で部分的な雲の被覆が原因の場合は,この惑星の昼側からの放射スペクトルに特徴が欠けていることを同時に説明出来る可能性がある (Moses et al. 2013, Wilkins et al. 2014).

もしこの惑星が非同期自転で,公転と自転が潮汐的に固定されていない場合,このことは恒星と惑星の潮汐相互作用に関する我々の理解が不完全であることを意味する.また,もし西向きのずれが惑星磁場の影響である場合,今回の結果は系外惑星の磁場を研究する機会を与えるものとなる.もし惑星が東半球を覆う雲を持っている場合,このことは潮汐固定された惑星における大規模循環に関する我々の理解が不完全であることを意味している.

CoRoT-2b について

これまでの観測

CoRoT-2b の可視光での位相曲線は CoRoT ミッションによって取得され,惑星の幾何学的アルベドに 0.12 という上限値を与えている (Alonso et al. 2010, Snellen et al. 2010).

その後の近赤外と中間赤外の観測 (地上からと宇宙空間からの両方) では,惑星の放射スペクトルは通常の太陽組成や黒体放射では説明できないことが指摘されている (Wilkins et al. 2014など).そのため,惑星の中間赤外放射に影響を与えるシリケイト雲の存在を含むモデルや,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で取得された特徴に欠けるスペクトルを説明するための,光学的に厚い昼側の雲の存在や,鉛直方向に等温な分布を持つ大気のモデルなどが提案されている.

スピッツァー宇宙望遠鏡/IRAC での観測

ここでは,スピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC で 4.5 µm 波長での観測を行った.今回発見されたもっとも重要な特徴は,ホットスポットの西向きのずれである.観測された位相曲線の極大は二次食の時刻の 2.7 ± 0.4 時間後である (※注釈:東向きにずれている場合は二次食の前に極大が来る).

今回の観測では合計 2 回の二次食と 1 回のトランジットを検出した.食の深さは,過去にスピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC による観測で報告されていたよりも小さいものであった (Gillon et al. 2010, Deming et al. 2011).
また,可視光でのの幾何学的アルベドは 0.08 ± 0.04 と推定され,これは過去の CoRoT データからの上限と整合的である.

他の惑星との比較

4.5 µm の波長での全位相曲線は,これまでに 9 個の惑星で検出されている.
それぞれ,WASP-12b (Cowan et al. 2012),HD 189733b (Knutson et al. 2012),WASP-18b (Maxted et al. 2013),HD 209458b (Zellem et al. 2014),WASP-14b (Wong et al. 2015),WASP-19b,HAT-P-7b (Wong et al. 2016),55 Cnc e (Demory et al. 2016),WASP-43b (Stevenson et al. 2017) である.これらのうち全てが,東向きのホットスポットのずれを示すか,あるいは大きなずれを示さないものである.そのため,今回の CoRoT-2b の中間赤外線での観測による,西向きへの 23° のずれの検出は独特な結果である.

その他の西向きへのずれの検出は,ケプラーの可視光データからケプラー7b において報告されている.これは非一様の雲からの反射光に起因するものだと考えられる (Demory et al. 2013).

熱再循環効率と昼夜間温度差

観測結果から,昼側から夜側への熱再循環効率 \(\epsilon\) と,ボンドアルベド \(A_{\rm B}\) を導出した.この系は若い (1 億 - 3 億歳) のと,惑星の半径が大きいことから,惑星は形成時の残余熱か潮汐加熱による内部加熱があることが期待される.しかしこれは恒星からの外部加熱によって弱められる.

ボンドアルベドの推定値は ~ 35% 程度であり,これは可視光の幾何学的アルベドである 12% よりも大きい (Alonso et al. 2009, Snellen et al. 2010).ボンドアルベドが可視光での幾何学的アルベドより大きくなる事は他のホットジュピターでも報告されている (Schwartz & Cowan 2015).

また昼夜間の温度差は,同程度の輻射温度を持つホットジュピター HD 209458b に示唆されている値よりも大きい.これは CoRoT-2b は夜側への熱輸送が非効率であることを示唆している.

観測結果の解釈

水蒸気の非検出とスペクトル

この惑星の放射スペクトルは解釈が困難である.その理由は,どのスペクトルモデルも不定性の範囲内で観測結果に一致しないからである.

これまでの観測データとあわせ,幾何学的アルベドを 0.12 とし,惑星昼側の有効温度 1693 K で観測結果のフィットを行った.ホットジュピター大気は水蒸気を含んでいることがあるため,ハッブル宇宙望遠鏡のデータにも 4.5 µm 波長のデータにも,水蒸気による吸収の特徴が存在することが期待される.しかしこの惑星ではそれは見られなかった.

これが意味する可能性は,これまでの観測が
1) 水蒸気のバンドの中と外の波長で同じ圧力領域を探査している
2) 大気中の垂直方向に等温な領域を探査している
というものである.例えば,光学的に厚い雲が存在した場合は雲が大気の深い場所の観測を阻み,水の吸収特徴がスペクトル中に欠乏する可能性がある (Delorme et al. 2017).

西向きのホットスポットのずれとその原因

この惑星は HD 209458b と似た輻射温度であるため,大気の全球循環モデルは東向きへのホットスポットのずれが存在することを予測する.この東向きのずれは,惑星光球付近での速く幅広い赤道ジェットに起因する.

CoRoT-2b で東向きではなく西向きのずれが検出されたことに関して,考えられる可能性としてここで提案するのは次の 3 つのシナリオである.
1) 準同期自転による西向きの風 (Rauscher & Kempton 2014)
2) 磁場の影響による西向きの風 (Rogers & Komacek 2014, Rogers 2017)
3) 中間赤外で光学的に厚い非一様な雲 (Demory et al. 2013, Parmentier et al. 2016, Lee et al. 2016, Roman & Rauscher 2017).

これらの 3 つのどれか,あるいは複合である可能性がある.実際には自転周期は風の方向に影響を与え,また風の方向は雲のパターンに影響を与えるため,これらのシナリオは完全に独立ではなく,因果関係を持つ可能性がある.
準同期自転による西向きの風
この惑星の光度曲線は,他の惑星の位相曲線に見られるような,トランジット付近あるいはトランジット前の明確なトラフ構造ではなく,幅の広い極小を示す.

惑星が準同期自転を起こしている場合は西向きの大気循環を起こしうるだけではなく,惑星全体の風と温度のパターンも,通常の東向きジェットとは異なるものとなる.例えば,HD 209458b で自転を準同期自転にした場合のシミュレーション結果も,位相曲線では長い極小を示すことが指摘されている (Rauscher & Kempton 2015).
磁場の影響による西向きの風
CoRoT-2b の温度は高いため,大気中でアルカリ金属が衝突電離を起こし,部分電離した大気を持つ.この場合,惑星の磁場が一時的な指向性の風を形成して HAT-P-7b に見られるような大気の変動を生み出す可能性がある (Armstrong et al. 2016).また中心星は比較的若くスペクトル的に活発であるため,惑星は強い X 線と極端紫外線にさらされる.そのため,時間変動性のある光電離が発生する可能性もある.

ホットジュピターの大気中での磁気的活動はよく分かっていないが,光電離が惑星の磁気ダイナモと大気の時間変動性のある結合を引き起こす可能性がある.ホットスポットの大きな西向きのずれを説明するための磁場強度を推定すると,~ 230 G 程度となる.

最近の研究では,活動的内部を持ったいくつかのホットジュピターは,磁場が 250 G 程度になる可能性が指摘されている (Yadav & Thongren 2017).膨張した半径を持つ惑星は内部エントロピーが高い可能性を示唆する.そのため,このような惑星が深くに位置した強い磁場を持つ可能性は有り得ると考えられる.

また,磁気効力との結合効果は惑星の風速を低下させるため (Menou 2012),昼から夜への熱の再分配効率が低いことや,光度曲線が広い極小を持つことを説明できる可能性がある.
中間赤外で光学的に厚い非一様な雲
いくつかのホットジュピターは非一様な雲を持ち,非自明な反射位相変動を引き起こす.先述の通り,ケプラー7b の可視光での位相曲線は,ホットスポットの西向きのずれがあることを示している.これは,恒星直下子午線の西側に位置する,反射性の雲の存在で説明することが出来る.この雲は,東向きのジェットによって夜側の雲が移流してきたものと考えられる.

ケプラー7b とは対照的に,CoRoT-2b の場合は異なるエアロゾル形成機構と輸送機構が必要である.
惑星の平衡温度を考慮すると,昼側の半球には MnS,Cr,MgSiO3 の雲が形成される.4.5 µm 波長での熱放射をブロックできるくらいの大きな粒子による,東側半球を覆う非一様な雲が存在すれば,この惑星の異様な光度曲線を説明することが出来る.

雲形成における現状の理解では,雲は低温な夜側半球で形成されやすい.そのため西向きの風が存在すれば,東側半球が雲に覆われる事が期待される.
それとは別に,昼側で生成される光化学ヘイズと通常の東向きのジェットの組み合わせによっても,恒星直下点の東側にエアロゾルが存在することが可能である (Kempton et al. 2017).

今回の位相曲線の原因が非一様な雲によるものだとすると,昼側の放射スペクトルは黒体放射と晴れたスペクトルの平均した値を観測しているということに相当する.このことは,なぜ観測がこれまでのスペクトルモデルと一致しないかの説明にもなる.しかしこの場合,他の惑星の位相曲線も雲によって変形されている可能性が示唆される.

提案された仮説の妥当性と検証可能性

これらの 3 つの説は,この惑星の他の特徴を説明できる可能性があるため魅力的である.

非同期自転は潮汐加熱を引き起こし,加熱によるエネルギーがもし十分深くに注入されていた場合,惑星半径の収縮を阻害し,この惑星の膨張した半径を説明できる (Arras & Socrates 2010),磁場の影響も,昼夜間の大きな温度差と膨張半径を説明できる可能性がある.また部分的な雲の場合も,この惑星の昼側の異常なスペクトルの説明になる可能性がある.

これらのシナリオを区別するためには,4.5 µm を含む広いスペクトル範囲での位相曲線のスピッツァー宇宙望遠鏡かジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での観測が必要である.
非同期自転の場合は全ての波長で位相曲線に影響を与える一方で,雲の被覆が原因の場合は,反射光やスペクトル放射特性が卓越する短波長においてその特徴が現れる可能性がある.一方で,磁場の影響による循環の場合は,アルフベンタイムスケール (この場合 ~ 23 日) で変動することが示唆される.そのため,同じ波長での新しい位相曲線の観測で極大の位置が異なる可能性がある.

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