×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.03476
Pinamonti et al. (2018)
The HADES RV Programme with HARPS-N@TNG VIII. Gl15A: A multiple wide planetary system sculpted by binary interaction
(The HADES RV Programme with HARPS-N@TNG VIII.Gl 15A:伴星相互作用に形作られた広い複数惑星系)
解析の結果,ケプラー運動による視線速度シグナルの存在を確認し,過去に報告されていた軌道周期 11.44 日のスーパーアース Gl 15Ab の軌道要素を更新した.視線速度の振幅は 1.68 m/s で,最小質量は 3.03 地球質量である.
また,視線速度に見られた長周期のトレンドをモデル化することにも成功した.このシグナルは,周期がおよそ 7600 日で,視線速度の振幅は 2.5 m/s であった.これは,スーパーネプチューン質量 (最小質量 36 地球質量) の天体によるシグナルであると判明した.
一連の詳細な数値シミュレーションを用いて,遠距離を公転している伴星 Gl 15B との Lidov-Kozai 相互作用の結果として再現されると思われる,Gl 15A の惑星系の現在の軌道配置について議論を行った.力学的解析の結果を改善するために,連星系の新しい軌道解を導出し,視線速度測定と WDS カタログ中のアストロメトリのデータと合わせて解析を行った.
離心 Lidov-Kozai 解析からは,Gl 14B は Gl 14A の惑星系に強い影響を及ぼし,初期の惑星系の傾斜角が 75 - 90° の場合に,現在観測されている軌道配置と一致する軌道を再現可能であることが分かった.また,外側の惑星の離心率を,観測されている値より十分大きく増幅させることが出来る.さらに,傾斜角が 0° 周辺と 15 - 30° 周辺であった場合は,軌道不安定を起こすことが分かった.
Gl 15A 系は,距離が 3.57 pc と地球に近い複数惑星系であり,現在視線速度法で見つかっている中で最も長周期のサブジュピター質量の惑星を持っている.この系の軌道配置は,連星系における惑星系の形成及び軌道進化シナリオを調べるための,非常に重要な研究対象である.
また,スペクトル型が M3.5 の伴星 Gl 15B を持っている.この伴星は,アストロメトリ (位置天文学) によって存在が同定された (Lippincott 1972).軌道長半径は 146 AU で,軌道周期は 2600 年 である.
さらに,Gl 15Ac の存在を同定した.この惑星は 36 地球質量,軌道周期は 21 年程度であり,木星より軽い惑星で視線速度法で発見されたものの中では最も長周期の惑星である.なお,2 番目は HD 10180h で,軌道周期はおよそ 6 年,質量は 65.74 地球質量である (Lovis et al. 2011,Kane & Galino 2014).
この離れた軌道を持つ 2 つ目の惑星の発見により,Gl 15A は複数の惑星を持つ恒星としては最も太陽系に最も近い恒星となった.距離は 3.57 pc である.
arXiv:1804.03476
Pinamonti et al. (2018)
The HADES RV Programme with HARPS-N@TNG VIII. Gl15A: A multiple wide planetary system sculpted by binary interaction
(The HADES RV Programme with HARPS-N@TNG VIII.Gl 15A:伴星相互作用に形作られた広い複数惑星系)
概要
M1 矮星 Gl 15A (グリーゼ15A) の,20 年間に渡る視線速度の測定結果について報告する.HARPS-N 分光器での 5 年間の集中的な視線速度モニタリングと,HIRES/Keck を用いた視線速度測定のアーカイブデータ 15 年分と合わせて解析した.解析の結果,ケプラー運動による視線速度シグナルの存在を確認し,過去に報告されていた軌道周期 11.44 日のスーパーアース Gl 15Ab の軌道要素を更新した.視線速度の振幅は 1.68 m/s で,最小質量は 3.03 地球質量である.
また,視線速度に見られた長周期のトレンドをモデル化することにも成功した.このシグナルは,周期がおよそ 7600 日で,視線速度の振幅は 2.5 m/s であった.これは,スーパーネプチューン質量 (最小質量 36 地球質量) の天体によるシグナルであると判明した.
一連の詳細な数値シミュレーションを用いて,遠距離を公転している伴星 Gl 15B との Lidov-Kozai 相互作用の結果として再現されると思われる,Gl 15A の惑星系の現在の軌道配置について議論を行った.力学的解析の結果を改善するために,連星系の新しい軌道解を導出し,視線速度測定と WDS カタログ中のアストロメトリのデータと合わせて解析を行った.
離心 Lidov-Kozai 解析からは,Gl 14B は Gl 14A の惑星系に強い影響を及ぼし,初期の惑星系の傾斜角が 75 - 90° の場合に,現在観測されている軌道配置と一致する軌道を再現可能であることが分かった.また,外側の惑星の離心率を,観測されている値より十分大きく増幅させることが出来る.さらに,傾斜角が 0° 周辺と 15 - 30° 周辺であった場合は,軌道不安定を起こすことが分かった.
Gl 15A 系は,距離が 3.57 pc と地球に近い複数惑星系であり,現在視線速度法で見つかっている中で最も長周期のサブジュピター質量の惑星を持っている.この系の軌道配置は,連星系における惑星系の形成及び軌道進化シナリオを調べるための,非常に重要な研究対象である.
Gl 15 系について
Gl 15A は,太陽系近傍の M1 矮星であり,短周期のスーパーアースが発見されていた (Howard et al. 2014).惑星の軌道周期は 11.44 日である.また,スペクトル型が M3.5 の伴星 Gl 15B を持っている.この伴星は,アストロメトリ (位置天文学) によって存在が同定された (Lippincott 1972).軌道長半径は 146 AU で,軌道周期は 2600 年 である.
主な結論
Gl 15A の視線速度データの解析から,Gl 15Ab によるシグナルは明確に検出され,これを元に軌道要素などを更新した.また,最小質量の推定値は 3.03 地球質量となり,これは発見報告論文での値よりも半分ほど小さい.さらに,Gl 15Ac の存在を同定した.この惑星は 36 地球質量,軌道周期は 21 年程度であり,木星より軽い惑星で視線速度法で発見されたものの中では最も長周期の惑星である.なお,2 番目は HD 10180h で,軌道周期はおよそ 6 年,質量は 65.74 地球質量である (Lovis et al. 2011,Kane & Galino 2014).
この離れた軌道を持つ 2 つ目の惑星の発見により,Gl 15A は複数の惑星を持つ恒星としては最も太陽系に最も近い恒星となった.距離は 3.57 pc である.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.02892
Ronnet et al. (2018)
Saturn's formation and early evolution at the origin of Jupiter's massive moons
(木星の重い衛星の起源における土星の形成と初期進化)
太陽周りの円盤 (原始惑星系円盤) への木星によるギャップの形成によって,木星は固体物質の供給源から孤立した状態にあったと考えられる.しかし,木星によって形成された円盤ギャップの外縁には,微惑星が蓄積していたはずで,そこには時間の経過とともに固体物質は捕獲され増加していく.
ここでは,その貯蔵領域内部での土星のコアの形成か,あるいは形成された土星コアの急速な内側移動が,微惑星をこの貯蔵領域から木星や太陽系内部に向かって再分配し,それによってガリレオ衛星を形成するのに十分な物質が周木星円盤へ供給され,さらにはメインベルトに原始小惑星を供給したことを示す.
周木星円盤に捕獲された微惑星の軌道は,現在の 4 個のガリレオ衛星の半径方向の広がりと比べるとコンパクトな範囲であり,円盤ガスとの摩擦によって円軌道化される.
arXiv:1804.02892
Ronnet et al. (2018)
Saturn's formation and early evolution at the origin of Jupiter's massive moons
(木星の重い衛星の起源における土星の形成と初期進化)
概要
木星の 4 つの重いガリレオ衛星は,木星形成の最終段階の周惑星円盤 (circumplanetary disk) の中で形成されたと考えられている.周木星円盤の存在は流体力学シミュレーションによって支持されているが,その中で衛星を形成するための物質を供給するメカニズムと,その起源については現在のところ合意が存在しない.太陽周りの円盤 (原始惑星系円盤) への木星によるギャップの形成によって,木星は固体物質の供給源から孤立した状態にあったと考えられる.しかし,木星によって形成された円盤ギャップの外縁には,微惑星が蓄積していたはずで,そこには時間の経過とともに固体物質は捕獲され増加していく.
ここでは,その貯蔵領域内部での土星のコアの形成か,あるいは形成された土星コアの急速な内側移動が,微惑星をこの貯蔵領域から木星や太陽系内部に向かって再分配し,それによってガリレオ衛星を形成するのに十分な物質が周木星円盤へ供給され,さらにはメインベルトに原始小惑星を供給したことを示す.
周木星円盤に捕獲された微惑星の軌道は,現在の 4 個のガリレオ衛星の半径方向の広がりと比べるとコンパクトな範囲であり,円盤ガスとの摩擦によって円軌道化される.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.03006
Hueso et al. (2018)
Small impacts on the giant planet Jupiter
(巨大惑星木星への小さい衝突)
これらの光度曲線のこれまでの解析では,この閃光は直径が 5 - 20 m の天体の衝突によって発生したと推定されている (推定サイズは衝突した天体の密度によって変わる).衝突によって解放されるエネルギーは,チェリャビンスク隕石クラスの火球に相当する.
最も最近の閃光は 2016 年 3 月 17 日,2017 年 5 月 26 日に検出された,ここでは,この 2 回の閃光を解析する.これらの閃光を発生させた天体の質量・大きさと共に,衝突に伴うエネルギーの特徴付けも行った.
このような小天体が木星に衝突する頻度を推定することにより,惑星への衝突の合計フラックスの推定を改善する事が出来る.これは,木星の高層大気で検出される,木星外部由来の分子種の存在量と比較することが出来る.
検出された閃光の光度曲線を抽出し,それぞれのビデオ観測の較正を行った後に,衝突天体の質量およびサイズを計算した.過去数年に渡る木星のアマチュア観測の数を時間の関数として調査することで,これらの衝突検出の統計を解釈することが出来る.
木星に衝突する小天体 (5 - 20 m かそれ以上) の累積フラックスは低いと予測され,衝突頻度は 1 年あたり 10 - 65 回と推定される.そのうち地球から衝突が観測できる可能性があるのは僅かな割合であり,完全なサーベイを行った場合でも 1 年に 4 - 25 回である.また,来年はより多くの衝突が発見されるだろうと予測される.これは,多くのアマチュア天文家がいると思われる,北半球からの観測条件が来年は良くなるためである.
閃光を発生させているサイズの小天体は,木星外部由来の分子種と木星成層圏のダストの存在に対してはほとんど寄与しない.惑星間空間から惑星に降り注ぐダスト粒子の連続的なフラックスに比べると非常に小さい.
閃光の光度曲線の解析から,8 - 13 m サイズの小天体の木星大気への突入と,それに伴う巨大な火球が原因であると推定された (Hueso et al. 2010).
2 ヶ月後の 2010 年 8 月 20 日,日本のアマチュア天文家 Masayuki Tachikawa が閃光を検出した.これは後に Kazuo Aoki と Masayuki Ishimaru によっても確認された.
さらに 2 年後の 2012 年 9 月 10 日に,ウィスコンシンの Dan Petersenfrom Racine も閃光を検出した.
今回解析を行ったのは,2016 年 3 月 17 日にオーストリアの Gerrit Kernbauer によって検出された閃光と,2017 年 5 月 26 日にフランス・コルシカの Sauveur Pedranghelu によって検出された閃光である.
2017 年 5 月の衝突は,2016 年 3 月の衝突より 4.5 倍エネルギーが小さいものであった.推定された運動エネルギーが 32 - 405 キロトンであり,これはチェリャビンスク隕石のものと近い.
チェリャビンスク隕石では 450 キロトンのエネルギーが解放されたと考えられている (Brown et al. 2013).またツングースカの衝突イベントより一桁小さい.ツングースカの衝突では 5000 - 15000 キロトンのエネルギーが解放されたと推定されている (Boslough & Crawford 2008).
また,シューメーカー・レヴィ第 9 彗星の木星への衝突よりも 1 - 3 万倍小さい.シューメーカー・レヴィ第 9 彗星の衝突では,300000 キロトンのエネルギーが解放されたと推定されている (Boslough & Crawford 1997).
また衝突した小天体の推定質量は,2016 年 3 月が 403 - 805 トン,2017 年 5 月が 75 - 130 トンである.
arXiv:1804.03006
Hueso et al. (2018)
Small impacts on the giant planet Jupiter
(巨大惑星木星への小さい衝突)
概要
過去 8 年間のアマチュア天文家による木星のビデオ観測では,継続時間が 1 - 2 秒の閃光が 5 回検出されている.これらのうち最初の 3 回は,2010 年 6 月 3 日,2010 年 8 月 20 日,2012 年 9 月 10 日に発生した.これらの光度曲線のこれまでの解析では,この閃光は直径が 5 - 20 m の天体の衝突によって発生したと推定されている (推定サイズは衝突した天体の密度によって変わる).衝突によって解放されるエネルギーは,チェリャビンスク隕石クラスの火球に相当する.
最も最近の閃光は 2016 年 3 月 17 日,2017 年 5 月 26 日に検出された,ここでは,この 2 回の閃光を解析する.これらの閃光を発生させた天体の質量・大きさと共に,衝突に伴うエネルギーの特徴付けも行った.
このような小天体が木星に衝突する頻度を推定することにより,惑星への衝突の合計フラックスの推定を改善する事が出来る.これは,木星の高層大気で検出される,木星外部由来の分子種の存在量と比較することが出来る.
検出された閃光の光度曲線を抽出し,それぞれのビデオ観測の較正を行った後に,衝突天体の質量およびサイズを計算した.過去数年に渡る木星のアマチュア観測の数を時間の関数として調査することで,これらの衝突検出の統計を解釈することが出来る.
木星に衝突する小天体 (5 - 20 m かそれ以上) の累積フラックスは低いと予測され,衝突頻度は 1 年あたり 10 - 65 回と推定される.そのうち地球から衝突が観測できる可能性があるのは僅かな割合であり,完全なサーベイを行った場合でも 1 年に 4 - 25 回である.また,来年はより多くの衝突が発見されるだろうと予測される.これは,多くのアマチュア天文家がいると思われる,北半球からの観測条件が来年は良くなるためである.
閃光を発生させているサイズの小天体は,木星外部由来の分子種と木星成層圏のダストの存在に対してはほとんど寄与しない.惑星間空間から惑星に降り注ぐダスト粒子の連続的なフラックスに比べると非常に小さい.
木星の閃光現象
2010 年 6 月 3 日,オーストラリアの Anthony Wesley とフィリピンの Christopher Go が,木星での閃光を検出した.数日以内に Very Large Telescope とハッブル宇宙望遠鏡で観測を行ったが,それらの観測では閃光の検出は無かった.閃光の光度曲線の解析から,8 - 13 m サイズの小天体の木星大気への突入と,それに伴う巨大な火球が原因であると推定された (Hueso et al. 2010).
2 ヶ月後の 2010 年 8 月 20 日,日本のアマチュア天文家 Masayuki Tachikawa が閃光を検出した.これは後に Kazuo Aoki と Masayuki Ishimaru によっても確認された.
さらに 2 年後の 2012 年 9 月 10 日に,ウィスコンシンの Dan Petersenfrom Racine も閃光を検出した.
今回解析を行ったのは,2016 年 3 月 17 日にオーストリアの Gerrit Kernbauer によって検出された閃光と,2017 年 5 月 26 日にフランス・コルシカの Sauveur Pedranghelu によって検出された閃光である.
解析
小天体の大気への突入速度を木星の脱出速度に近い 60 km s-1 とし,小天体の密度を 2.0 - 0.25 g cm-3 と仮定した.2017 年 5 月の衝突は,2016 年 3 月の衝突より 4.5 倍エネルギーが小さいものであった.推定された運動エネルギーが 32 - 405 キロトンであり,これはチェリャビンスク隕石のものと近い.
チェリャビンスク隕石では 450 キロトンのエネルギーが解放されたと考えられている (Brown et al. 2013).またツングースカの衝突イベントより一桁小さい.ツングースカの衝突では 5000 - 15000 キロトンのエネルギーが解放されたと推定されている (Boslough & Crawford 2008).
また,シューメーカー・レヴィ第 9 彗星の木星への衝突よりも 1 - 3 万倍小さい.シューメーカー・レヴィ第 9 彗星の衝突では,300000 キロトンのエネルギーが解放されたと推定されている (Boslough & Crawford 1997).
また衝突した小天体の推定質量は,2016 年 3 月が 403 - 805 トン,2017 年 5 月が 75 - 130 トンである.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.03075
Sestovic et al. (2018)
Investigating hot-Jupiter inflated radii with hierarchical Bayesian modelling
(ホットジュピター膨張半径を階層的ベイズモデリングで調査する)
ホットジュピターの半径分布全体を説明するには単一の機構で十分なのか,あるいは複数の機構の組み合わせが必要なのかも現時点では不明確である.
ここでは,惑星半径と恒星からの輻射,および惑星質量との関係性の理解を深め,ホットジュピターが膨張を起こす質量の範囲を見つけることをを目指す.また,観測できないパラメータに起因する,半径における固有の物理的な分散を見つけ出し,半径膨張を起こしているホットジュピターの割合に制約を与えることを目指す.
階層的ベイズモデルを構築し,286 個の巨大ガス惑星の,惑星半径・質量と入射フラックスの間の確率的な関係を推論する.ここでは,データの観測的な不定性と,分布における内因的な物理的ばらつきを別々に取り入れている.これにより,半径における内因性の物理的な分散 (重元素の割合のような潜在的パラメータに起因するもの) を,推論されるパラメータとして扱うことが可能となる.
その結果,惑星半径の膨張に対しては惑星質量が重要な役割を果たすことを見出した.
質量が ~ 0.37 - 0.98 木星質量の範囲にある惑星は,最も大きく膨張した半径を持つ.惑星質量がさらに大きくなると,入射フラックスに対する惑星半径の応答は減少し始める.
また,0.37 ± 0.03 木星質量の閾値よりも小さい質量を持つ惑星では,1.4 木星半径程度より大きな膨張半径を維持することができないが,惑星への入射フラックスが 106 W m-2 を超えると,入射フラックスが増加するに伴って惑星半径が小さくなる傾向を示す.
また 1 木星質量未満では,大きな入射フラックスではそれ以上の膨張惑星が発見されないという,フラックスのカットオフが存在することが判明した.このカットオフが起きるフラックスの値は,惑星質量が減少するに連れて小さくなる.
惑星への入射フラックスが 1.6 × 106 W m-2 よりも大きく,質量が 0.37 - 0.98 木星質量の惑星では,膨張していないものが存在するという証拠は検出されなかった (全てが膨張半径を持つ).
惑星が受ける輻射が ~ 2 × 105 W m-2 より大きい場合 (Miller & Fortney 2011,Demory & Seager 2011),多くのガス惑星がモデルによる理論予測よりも大きな半径を持つことが分かっている.例えば,ホットジュピター WASP-17b,WASP-121b,ケプラー435b などは ,1.8 木星半径よりも大きな半径を持っている.
惑星半径を膨張させるメカニズムとしては,惑星内部での潮汐散逸を含むもの (Bodenheimer et al. 2001,2003,Arras & Socrates 2010,Jermyn et al. 2017),動力学的な加熱 (Guillot & Showman 2002),大気の高い不透明度 (Burrows et al. 2007),二重拡散対流 (Chabrier & Baraffe 2007),温位の鉛直移流 (Youdin & Mitchell 2010,Tremblin et al. 2017),磁気流体力学的効果を介したオーム加熱 (Batygin & Stevenson 2010,Perna et al. 2010,Wu & Lithwick 2013,Ginzburg & Sari 2016) が提案されている.
単一の惑星から得られる情報には限度があるが,これまでに系外惑星は多数発見されている.そのため,惑星の膨張半径を集団的に扱うことが出来る.
分析にあたって,実際の潜在的な物理的パラメータに起因する半径の分散と,観測の不定性による分散を区別する必要がある.例えば,ホットジュピターの半径は,~ 1.99木星半径 (ケプラー435b,Delrez et al. 2016) から ~ 0.84 木星半径 (ケプラー41b,Santerne et al. 2011) まで範囲の範囲を取りうる.
この半径分布の広がりのうち,どれだけが半径測定の不定性で説明され得るのかを理解するのを目標とする.またこれにより,現時点では未特定の物理過程によって引き起こされている膨張半径の「真の」範囲が制約される.
ここでは,トランジットする巨大ガス惑星のうち質量と半径が測定されているもの 286 個を解析した.先述の,内因的な影響と測定の不定性を区別するために,階層的ベイズモデルを使用した.
大部分の膨張半径を持つホットジュピターは,0.37 - 0.98 木星質量の範囲の質量を持つ.
また,入射フラックスに対する半径の応答は,惑星質量が増えるに連れ減少する.
これは,惑星の質量が増えるに伴って惑星コア質量も増加する傾向 (膨張する閾値を下回るガス惑星に見られるものと同様) に起因するものか,あるいは惑星質量の増加に伴い表面重力が増加することに起因するものである可能性がある.後者は,表面重力が大きいと半径を膨張させづらいということに対応している.
また,ホットジュピターがもはや存在しない領域に,入射フラックスのカットオフ点が存在する.また 1.0 木星質量以下の膨張惑星では,このカットオフ点は質量が減るに連れて小さくなる.
惑星への入射フラックスが 1.6 × 105 W m-2 より大きく,質量範囲が 0.37 - 0.98 木星質量の惑星では,半径が膨張していない惑星が存在するという証拠は存在しない.
なおここでの「膨張していない」の定義は,恒星からの入射フラックスによる惑星光球へのエネルギー注入のみを考慮し,追加の膨張効果が考慮されていない理論モデルによって惑星半径が再現できるものを指す.
arXiv:1804.03075
Sestovic et al. (2018)
Investigating hot-Jupiter inflated radii with hierarchical Bayesian modelling
(ホットジュピター膨張半径を階層的ベイズモデリングで調査する)
概要
これまでに多数のホットジュピターが発見されているが,それらの大部分の膨張した半径は未だに説明できていない.この異常半径を説明するためのいくつものメカニズムが提案されているが,大部分は特定の条件下でしか働かないか.あるいは最も極端なケースを説明することが出来ない.ホットジュピターの半径分布全体を説明するには単一の機構で十分なのか,あるいは複数の機構の組み合わせが必要なのかも現時点では不明確である.
ここでは,惑星半径と恒星からの輻射,および惑星質量との関係性の理解を深め,ホットジュピターが膨張を起こす質量の範囲を見つけることをを目指す.また,観測できないパラメータに起因する,半径における固有の物理的な分散を見つけ出し,半径膨張を起こしているホットジュピターの割合に制約を与えることを目指す.
階層的ベイズモデルを構築し,286 個の巨大ガス惑星の,惑星半径・質量と入射フラックスの間の確率的な関係を推論する.ここでは,データの観測的な不定性と,分布における内因的な物理的ばらつきを別々に取り入れている.これにより,半径における内因性の物理的な分散 (重元素の割合のような潜在的パラメータに起因するもの) を,推論されるパラメータとして扱うことが可能となる.
その結果,惑星半径の膨張に対しては惑星質量が重要な役割を果たすことを見出した.
質量が ~ 0.37 - 0.98 木星質量の範囲にある惑星は,最も大きく膨張した半径を持つ.惑星質量がさらに大きくなると,入射フラックスに対する惑星半径の応答は減少し始める.
また,0.37 ± 0.03 木星質量の閾値よりも小さい質量を持つ惑星では,1.4 木星半径程度より大きな膨張半径を維持することができないが,惑星への入射フラックスが 106 W m-2 を超えると,入射フラックスが増加するに伴って惑星半径が小さくなる傾向を示す.
また 1 木星質量未満では,大きな入射フラックスではそれ以上の膨張惑星が発見されないという,フラックスのカットオフが存在することが判明した.このカットオフが起きるフラックスの値は,惑星質量が減少するに連れて小さくなる.
惑星への入射フラックスが 1.6 × 106 W m-2 よりも大きく,質量が 0.37 - 0.98 木星質量の惑星では,膨張していないものが存在するという証拠は検出されなかった (全てが膨張半径を持つ).
ホットジュピターの膨張半径
半径異常とそのメカニズム候補
ガス惑星の内部モデルと半径の進化モデルとして,Fortney et al. (2007) や Baraffe et al. (2008) のモデルが存在する.これらのモデルは,惑星が受ける恒星からの輻射が小さい場合は観測と一致するが,輻射が強い場合は問題点が残る.惑星が受ける輻射が ~ 2 × 105 W m-2 より大きい場合 (Miller & Fortney 2011,Demory & Seager 2011),多くのガス惑星がモデルによる理論予測よりも大きな半径を持つことが分かっている.例えば,ホットジュピター WASP-17b,WASP-121b,ケプラー435b などは ,1.8 木星半径よりも大きな半径を持っている.
惑星半径を膨張させるメカニズムとしては,惑星内部での潮汐散逸を含むもの (Bodenheimer et al. 2001,2003,Arras & Socrates 2010,Jermyn et al. 2017),動力学的な加熱 (Guillot & Showman 2002),大気の高い不透明度 (Burrows et al. 2007),二重拡散対流 (Chabrier & Baraffe 2007),温位の鉛直移流 (Youdin & Mitchell 2010,Tremblin et al. 2017),磁気流体力学的効果を介したオーム加熱 (Batygin & Stevenson 2010,Perna et al. 2010,Wu & Lithwick 2013,Ginzburg & Sari 2016) が提案されている.
膨張半径の統計的研究
ホットジュピターの半径異常に関するこれまでの研究は,個別の惑星を対象にしたり,あるいは狭いパラメータセットにおける惑星半径の予測などに限られてきた.しかし惑星半径は多くのパラメータに依存すると考えられ,その中には,観測できないものやあまりよく制限できていないもののような,潜在的なパラメータも存在すると思われる.例えば,惑星のコア質量,惑星系の年齢,惑星の内部組成,大気の不透明度である.単一の惑星から得られる情報には限度があるが,これまでに系外惑星は多数発見されている.そのため,惑星の膨張半径を集団的に扱うことが出来る.
分析にあたって,実際の潜在的な物理的パラメータに起因する半径の分散と,観測の不定性による分散を区別する必要がある.例えば,ホットジュピターの半径は,~ 1.99木星半径 (ケプラー435b,Delrez et al. 2016) から ~ 0.84 木星半径 (ケプラー41b,Santerne et al. 2011) まで範囲の範囲を取りうる.
この半径分布の広がりのうち,どれだけが半径測定の不定性で説明され得るのかを理解するのを目標とする.またこれにより,現時点では未特定の物理過程によって引き起こされている膨張半径の「真の」範囲が制約される.
ここでは,トランジットする巨大ガス惑星のうち質量と半径が測定されているもの 286 個を解析した.先述の,内因的な影響と測定の不定性を区別するために,階層的ベイズモデルを使用した.
主な結論
惑星質量との関連性
惑星半径の膨張の度合いには,惑星質量が大きな役割を果たしている.大部分の膨張半径を持つホットジュピターは,0.37 - 0.98 木星質量の範囲の質量を持つ.
また,入射フラックスに対する半径の応答は,惑星質量が増えるに連れ減少する.
これは,惑星の質量が増えるに伴って惑星コア質量も増加する傾向 (膨張する閾値を下回るガス惑星に見られるものと同様) に起因するものか,あるいは惑星質量の増加に伴い表面重力が増加することに起因するものである可能性がある.後者は,表面重力が大きいと半径を膨張させづらいということに対応している.
入射フラックスへの依存性
0.37 木星質量未満では,非常に膨張した半径を持つ惑星が急激に減少し,入射フラックス 105 W m-2 付近で惑星半径が減少し始める.このような,フラックスの増加に伴って惑星半径が減少する傾向は,より大きな質量の惑星では見られないものである.また,ホットジュピターがもはや存在しない領域に,入射フラックスのカットオフ点が存在する.また 1.0 木星質量以下の膨張惑星では,このカットオフ点は質量が減るに連れて小さくなる.
惑星への入射フラックスが 1.6 × 105 W m-2 より大きく,質量範囲が 0.37 - 0.98 木星質量の惑星では,半径が膨張していない惑星が存在するという証拠は存在しない.
なおここでの「膨張していない」の定義は,恒星からの入射フラックスによる惑星光球へのエネルギー注入のみを考慮し,追加の膨張効果が考慮されていない理論モデルによって惑星半径が再現できるものを指す.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.02001
Howard et al. (2018)
The First Naked-Eye Superflare Detected from Proxima Centauri
(プロキシマ・ケンタウリから検出された初めての肉眼スーパーフレア)
頻発する非常に明るい恒星フレアと,それに付随するプロトンイベントは,惑星のオゾン層を破壊する可能性があり,それにより惑星表面には致死的なレベルの紫外線フラックスが到達し得る.
2016 年 3 月,Evryscope によって,プロキシマ・ケンタウリで初めての肉眼で観測可能なスーパーフレアが発生したのが観測された.スーパーフレアの最中に,恒星の輝度は 68 倍程度大きくなり,解放されたボロメトリックエネルギーは 1033.5 erg に達した.これは,プロキシマ・ケンタウリでこれまでに検出されていたどのフレアよりも 10 倍大きいエネルギーである.
過去 2 年にわたる Evryscope での観測では,23 回のフレアが検出された.これらのボロメトリックエネルギーは 1030.6-32.4 erg の範囲である.これらのフレアの発生頻度と,単一のスーパーフレアの検出とを合わせた結果,プロキシマ・ケンタウリでは毎年少なくとも 5 回のスーパーフレアが発生すると予測される.
Evryscope で検出されたスーパーフレア最中の,HAPRS 高分散分光器による同時観測では,このスーパーフレアの紫外線スペクトルと,それに対応するコロナ質量放出への制約を与えることが出来た.これらの結果と Evryscope でのフレア発生頻度推定を用いて,この極端な恒星活動による粒子イベントによって惑星大気中に生成される NOx の光化学効果をモデリングした.
その結果,繰り返し発生するフレアは,地球類似の大気中のオゾンを,5 年以内に 90% 減少させるのに十分なエネルギーと頻度を持っていることが分かった.このような状況では,数十万年の間にオゾン層の完全な喪失を引き起こすと推定される.
従って,Evryscope で検出されたスーパーフレアによって放射される紫外線放射は,紫外線耐性のある単純微生物を殺すのに必要な強度の 100 倍で地上に到達することが判明した.そのため,プロキシマb 上でこれらのフレアに晒された領域にいる生命は,生存するのが難しいことが示唆される.
arXiv:1804.02001
Howard et al. (2018)
The First Naked-Eye Superflare Detected from Proxima Centauri
(プロキシマ・ケンタウリから検出された初めての肉眼スーパーフレア)
概要
プロキシマb は,プロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーン内を公転する地球質量の惑星である.しかし,中心星のプロキシマ・ケンタウリの活動度は高く,プロキシマb の居住可能性には疑問符が付く.頻発する非常に明るい恒星フレアと,それに付随するプロトンイベントは,惑星のオゾン層を破壊する可能性があり,それにより惑星表面には致死的なレベルの紫外線フラックスが到達し得る.
2016 年 3 月,Evryscope によって,プロキシマ・ケンタウリで初めての肉眼で観測可能なスーパーフレアが発生したのが観測された.スーパーフレアの最中に,恒星の輝度は 68 倍程度大きくなり,解放されたボロメトリックエネルギーは 1033.5 erg に達した.これは,プロキシマ・ケンタウリでこれまでに検出されていたどのフレアよりも 10 倍大きいエネルギーである.
過去 2 年にわたる Evryscope での観測では,23 回のフレアが検出された.これらのボロメトリックエネルギーは 1030.6-32.4 erg の範囲である.これらのフレアの発生頻度と,単一のスーパーフレアの検出とを合わせた結果,プロキシマ・ケンタウリでは毎年少なくとも 5 回のスーパーフレアが発生すると予測される.
Evryscope で検出されたスーパーフレア最中の,HAPRS 高分散分光器による同時観測では,このスーパーフレアの紫外線スペクトルと,それに対応するコロナ質量放出への制約を与えることが出来た.これらの結果と Evryscope でのフレア発生頻度推定を用いて,この極端な恒星活動による粒子イベントによって惑星大気中に生成される NOx の光化学効果をモデリングした.
その結果,繰り返し発生するフレアは,地球類似の大気中のオゾンを,5 年以内に 90% 減少させるのに十分なエネルギーと頻度を持っていることが分かった.このような状況では,数十万年の間にオゾン層の完全な喪失を引き起こすと推定される.
従って,Evryscope で検出されたスーパーフレアによって放射される紫外線放射は,紫外線耐性のある単純微生物を殺すのに必要な強度の 100 倍で地上に到達することが判明した.そのため,プロキシマb 上でこれらのフレアに晒された領域にいる生命は,生存するのが難しいことが示唆される.