×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1912.02821
Crouzet et al. (2019)
XO-7 b: A transiting hot Jupiter with a massive companion on a wide orbit
(XO-7b:遠方軌道に重い伴星を持つトランジットするホットジュピター)
XO-7b は 2.8641424 日周期で 0.709 木星質量,1.373 木星半径で,平均密度は 0.340 g cm-3.平衡温度は 1743 K のホットジュピターである.大気のスケールハイトが大きく,中心星が明るいことから,大気の特徴付け観測に非常に適している.
遠方軌道を公転する伴星は,視線速度中に 2 年間にわたって振幅 ~100 m s-1 の線形のトレンドとして検出された.視線速度の振幅から,最小質量は 4 木星質量と推定された.この天体は,惑星,褐色矮星,低質量の恒星のいずれの可能性もありうる.
ホットジュピターの軌道要素と,遠方の伴星の存在は,このホットジュピターの高軌道離心率移動を示すものである.全体として,この系はホットジュピターの大気特性や惑星移動の機構を理解する上で価値のあるものであり,巨大ガス系外惑星の形成と進化モデルに制約を与えるのを助けるだろう.
距離:234.1 pc
スペクトル型:G0V
平衡温度:6250 K
金属量:[Fe/H] = 0.432
質量:1.405 太陽質量
半径:1.480 太陽半径
年齢:11.8 億歳
半径:1.373 木星半径
軌道長半径:0.04421 AU
軌道離心率:0.038
平衡温度:1743 K
質量:0.709 木星質量
密度:0.340 g cm-3
その後,XO プロジェクトの第二弾が 2011-2012 年に開始し,2012-2014 年に観測が実行された.これにより,XO-6b という F5 星周りのホットジュピターが発見された (Crouzet et al. 2017).
今回の発見が,おそらく XO プロジェクトでの一連の発見の最後になるだろう.
arXiv:1912.02821
Crouzet et al. (2019)
XO-7 b: A transiting hot Jupiter with a massive companion on a wide orbit
(XO-7b:遠方軌道に重い伴星を持つトランジットするホットジュピター)
概要
ホットジュピター XO-7b の発見と,2 番目の遠方の周極軌道にある重い天体の発見を報告する.これらの天体は,アマチュア天文家も含めた測光観測と視線速度フォローアップ観測から発見された.XO-7b は 2.8641424 日周期で 0.709 木星質量,1.373 木星半径で,平均密度は 0.340 g cm-3.平衡温度は 1743 K のホットジュピターである.大気のスケールハイトが大きく,中心星が明るいことから,大気の特徴付け観測に非常に適している.
遠方軌道を公転する伴星は,視線速度中に 2 年間にわたって振幅 ~100 m s-1 の線形のトレンドとして検出された.視線速度の振幅から,最小質量は 4 木星質量と推定された.この天体は,惑星,褐色矮星,低質量の恒星のいずれの可能性もありうる.
ホットジュピターの軌道要素と,遠方の伴星の存在は,このホットジュピターの高軌道離心率移動を示すものである.全体として,この系はホットジュピターの大気特性や惑星移動の機構を理解する上で価値のあるものであり,巨大ガス系外惑星の形成と進化モデルに制約を与えるのを助けるだろう.
パラメータ
XO-7
等級:V = 10.52距離:234.1 pc
スペクトル型:G0V
平衡温度:6250 K
金属量:[Fe/H] = 0.432
質量:1.405 太陽質量
半径:1.480 太陽半径
年齢:11.8 億歳
XO-7b
軌道周期:2.8641424 日半径:1.373 木星半径
軌道長半径:0.04421 AU
軌道離心率:0.038
平衡温度:1743 K
質量:0.709 木星質量
密度:0.340 g cm-3
XO プロジェクト
XO プロジェクト (McCullough et al. 2005) は,地上の小さい望遠鏡を用いて明るい恒星周りのトランジット系外惑星を検出することを目的としたプロジェクトである.2005 年に始まり,5 つの近接巨大惑星 XO-1b - 5b を発見した (McCullough et al. 2006,Burke et al. 2007,Johns-Krull et al. 2008,McCullough et al. 2008,Burke et al. 2008).その後,XO プロジェクトの第二弾が 2011-2012 年に開始し,2012-2014 年に観測が実行された.これにより,XO-6b という F5 星周りのホットジュピターが発見された (Crouzet et al. 2017).
今回の発見が,おそらく XO プロジェクトでの一連の発見の最後になるだろう.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1912.02345
Schreiber et al. (2019)
Cold giant planets evaporated by hot white dwarfs
(高温な白色矮星によって蒸発させられる低温な巨大惑星)
中間質量および低質量の恒星は,外層を放出して高温の白色矮星に進化した後の,恒星進化の最も最終段階において極端紫外線で最も明るくなる.このような若い白色矮星を公転する巨大惑星への強い極端紫外線放射の影響は,これまでに評価されてこなかった.
ここでは,太陽系内の巨大惑星は,太陽が一生を終えた後に形成される白色矮星からの極端紫外線放射によって,大きなハイドロダイナミックエスケープを経験することを示す.惑星から蒸発した揮発性物質の一部はかつて太陽だった白色矮星に降着し,検出可能な光球のスペクトル中の吸収線の原因となる.
現在知られている太陽系外巨大惑星の大部分は中心星が白色矮星に変化する段階を生き延びるため,蒸発する惑星大気が降着することによる白色矮星の観測的特徴は一般的なものであるあると期待される.実際,既知の単独の高温な白色矮星のうち 3 分の 1 は揮発性元素の吸収線を示しており.これが蒸発する惑星からの進行中の物質降着を示唆するものである可能性について議論する.
揮発性物質による汚染が見られる高温な白色矮星の割合は,白色矮星が冷えるにつれて急激に減少する.この温度依存性は,もし高温の白色矮星のうち 50% が現在も巨大惑星を持っている場合,蒸発する惑星大気からの降着によって説明できることを示す.
arXiv:1912.02345
Schreiber et al. (2019)
Cold giant planets evaporated by hot white dwarfs
(高温な白色矮星によって蒸発させられる低温な巨大惑星)
概要
太陽に類似した恒星に近接した軌道を公転する海王星型惑星とホットジュピターで,極端紫外線放射によって駆動される大気散逸は,系外惑星の進化とその統計的性質の特性に重要な影響を及ぼす.中間質量および低質量の恒星は,外層を放出して高温の白色矮星に進化した後の,恒星進化の最も最終段階において極端紫外線で最も明るくなる.このような若い白色矮星を公転する巨大惑星への強い極端紫外線放射の影響は,これまでに評価されてこなかった.
ここでは,太陽系内の巨大惑星は,太陽が一生を終えた後に形成される白色矮星からの極端紫外線放射によって,大きなハイドロダイナミックエスケープを経験することを示す.惑星から蒸発した揮発性物質の一部はかつて太陽だった白色矮星に降着し,検出可能な光球のスペクトル中の吸収線の原因となる.
現在知られている太陽系外巨大惑星の大部分は中心星が白色矮星に変化する段階を生き延びるため,蒸発する惑星大気が降着することによる白色矮星の観測的特徴は一般的なものであるあると期待される.実際,既知の単独の高温な白色矮星のうち 3 分の 1 は揮発性元素の吸収線を示しており.これが蒸発する惑星からの進行中の物質降着を示唆するものである可能性について議論する.
揮発性物質による汚染が見られる高温な白色矮星の割合は,白色矮星が冷えるにつれて急激に減少する.この温度依存性は,もし高温の白色矮星のうち 50% が現在も巨大惑星を持っている場合,蒸発する惑星大気からの降着によって説明できることを示す.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star [プレスリリース] [論文PDF]
Gänsicke et al. (2019)
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star
(白色矮星への巨大惑星への降着)
ここでは,高温 (~27750 K) の白色矮星 WD J091405.30+191412.25 の,可視光での分光観測について報告する.水素・酸素・硫黄からなる星周ガス円盤から,3.3×109 g/s の物質が降着している様子を確認した.
この円盤の組成は,他の白色矮星で発見されている惑星由来のデブリによるものとは異なるが,H2O や H2S を主要な成分とする,巨大氷惑星の大気深層を構成していると予想されている組成に類似している.高温の白色矮星を 15 太陽半径程度の軌道長半径で公転している巨大惑星からは,今回白色矮星に降着しているのが観測された降着率と同程度の質量放出率が発生することが期待できる.
これを実現する惑星軌道は,重力相互作用の結果であるとするのが最も可能性があり,それを引き起こすさらなる惑星がこの系内に存在していることを示唆している.
今回の観測結果は,白色矮星を近接軌道で公転する分光学的に検出可能な巨大惑星は,おおよそ 1/10000 の存在頻度であることを示唆する.
スペクトルの詳細な観測からは,酸素 (O I, 7774, 8556 Å) の輝線,また [S II] と暫定的に同定した 4068 Å 近辺の輝線がさらに検出された.この輝線のフラックス比は白色矮星連星としては極めて非典型的であり,過去の分類に疑問を投げかけるものである.
Very Large Telescope の X-Shooter 分光器を用いて,この白色矮星系の分光観測を行った.その結果,[S II] (4068 Å) の存在を確認し,さらに [O I] (6300, 6363 Å) と,9200 Å 付近の O I と S I の混合を検出した.
Hα と O I (8446 Å) 輝線は二重ピークの形状をしており,この輝線の起源が白色矮星を取り囲む星周ガス円盤であることを示している.これは,チリとガスからなる惑星のデブリ円盤を持ついくつかの白色矮星の特徴と似ている.
しかしこれまでに知られている全てのガス・デブリ円盤のスペクトルは,Ca II 三重項 (8600 Å) の輝線が主で,弱い Fe II の線を伴っているが,今回の観測ではそれらは発見されなかった.さらに,他のガス・デブリ円盤を持つ白色矮星では Hα 輝線は検出されていない.
X-Shooter のスペクトルでは,強いバルマー線が検出されており,白色矮星の水素主体の大気の存在を示唆している.また多数の鋭い酸素と硫黄の吸収線を検出した.
白色矮星の有効温度は 27743 K,表面重力は log(g) = 7.85 と測定された.この 2 つの大気パラメータを固定して白色矮星の表面組成を測定すると,酸素は log(O/H) = -3.25,硫黄は log(S/O) = -4.15 となる.
白色矮星への降着率は 3.3 × 10-9 g s-1 で,惑星デブリに汚染された白色矮星の水素大気で観測されている中では最も高い降着率である.しかしこの白色矮星で測定された降着率は酸素と硫黄のみを含んだ値であり,これらの 2 つの元素の降着フラックスは他のどの白色矮星系のものよりも 1 桁大きい.もし熱塩混合や対流オーバーシュートが白色矮星大気で効果的であった場合,降着率は 1 桁大きくなりうる.
水素,酸素,硫黄以外の輝線が検出されなかったことから,円盤中のナトリウム,ケイ素,カルシウム,鉄の存在度に強い上限が与えられた.また,視線速度観測からは恒星の伴星の存在は否定された.
惑星デブリが検出されている他の白色矮星とは対照的に,降着していく物質中の金属が極端に欠乏している.観測的な証拠に基づくと,この白色矮星は純粋にガスのみからなる星周円盤を降着している.
この円盤内の物質のもっともらしい起源は,白色矮星を近接軌道で公転する,蒸発する巨大惑星である.この組成は太陽系内の巨大氷惑星の深層に類似している.
天王星の電波とマイクロ波のモデリングからは,アンモニアの濃度は低く,また水の濃度は大きい必要がある.アンモニアと硫化水素が硫化水素アンモニウムに凝縮することは,大気からのアンモニアの除去に効率的だと考えられている.しかし太陽の硫黄・窒素比では,すべてのアンモニアが硫化水素アンモニウムに変わるには不十分である.
天王星のスペクトルを説明するもっともらいしモデルは,水と硫化水素の濃度が太陽組成の値の数百倍に増加している必要があるとしている.天王星と海王星の大気中からは最近硫化水素が検出されており,巨大氷惑星の深い雲の層では硫化水素が主要な成分であることが確認されている.
ウォームネプチューンでは,数太陽半径の軌道長半径にあるものは 108-1010 g s-1 の大気散逸を起こしていると推定されている (GJ 436b や GJ 3470b など).これはこの白色矮星での降着率の推定と同程度である.
降着円盤が 10 太陽半径まで広がっている場合,惑星はおそらく 15 太陽半径の距離に位置していると考えられる.このやや高温な白色矮星は強い極端紫外線を放射しており,主系列星を公転している質量を失っているウォームネプチューンのように質量散逸を引き起こす.惑星からの質量散逸率の推定は 5 × 1011 g s-1 であり,GJ 436b などでの質量散逸率の推定値を超える.
惑星から散逸した物質の一部は白色矮星に重力的に束縛されたままとなり,二重ピークの輝線の形で検出されている星周円盤を形成する.これが白色矮星に降着し,白色矮星の光球を酸素と硫黄で汚染する.
光電離モデルでは,ガス円盤は惑星大気の主成分である水素が大きく欠乏していることを示唆している.
高温な白色矮星は,極端紫外線に加え大量の Lyα 光子も放出し,この強度は太陽の値を大きく上回る.その結果,水素の Lyα に対する断面積が大きいため水素の白色矮星への流入が阻害され,星周円盤や降着した物質の酸素と硫黄の存在度が大きく増幅されることとなる.
拡散速度を考慮すると,推定された硫黄と酸素の存在度を説明するための降着率は,硫黄が 5.5 × 108 g s-1,酸素が 2.7 × 109 g s-1 である.
いくつかの研究では,温かい白色矮星の放射水素大気へ金属が降着することによって大気の平均分子量の勾配が形成され,熱塩混合が引き起こされるとされている.これを考慮すると,上記の降着率は過小評価されたものとなる.純粋に拡散による沈殿のみを考えた場合は,降着率の下限値として 3.3 × 109 g s-1 という値が得られ,実際の値は 1 桁大きくなりうる.
スペクトル中の二重ピークの輝線は星周ガス円盤の存在を確認するものであるが,激変星は典型的により強いバルマー線を持ち,しばしばヘリウム線も伴う.また,可視光でのスペクトルの特徴を示す,28000 K 程度と高温な白色矮星を伴う激変星はこれまでに知られていない.
分光学的に似た別の系としては,分離した短周期の post-common envelope binaries (PCEBs,共通外層連星の進化後) がある.これは,低質量の伴星を伴った白色矮星連星で,伴星からの Hα 放射が一般的に検出される.高温の白色矮星を含む PCEBs では伴星の強い輻射によるカルシウムと鉄の輝線が見られるが,この白色矮星では検出されていない.また輝線の形状からも,PCEBs である可能性が否定される.
X-Shooter のスペクトル中の最も強い硫黄の吸収から,視線速度を測定した.
PCEBs として典型的な 2 時間から 1 日の軌道周期を仮定すると,褐色矮星質量以上の天体を伴星として持つ可能性が否定される.また,質量を供給していると思われる天体に対して想定される軌道周期範囲である 8-10 日を仮定すると,30 木星質量以上の天体の存在は否定される.
また恒星質量の伴星が存在すれば,赤外線での放射の超過が見られるはずだが,それは検出されていない.これを元に,スペクトル型 L5 の褐色矮星より早期 (重い) 天体の存在は否定される.
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star [プレスリリース] [論文PDF]
Gänsicke et al. (2019)
Accretion of a giant planet onto a white dwarf star
(白色矮星への巨大惑星への降着)
概要
白色矮星 G29-38 の周りのダスト円盤の検出や,白色矮星 WD 1145+017 まわりを公転するデブリのトランジットの検出は,潮汐破壊された微惑星の降着による,多くの白色矮星で発見されている測光的な金属の痕跡を確認するものである.これらの微惑星の組成は太陽系内の岩石天体に類似している.微惑星を白色矮星の近傍にまで重力的に散乱するためにはより重い天体の存在が必要だが,白色矮星の周囲ではそのような惑星はこれまでに検出されていない.ここでは,高温 (~27750 K) の白色矮星 WD J091405.30+191412.25 の,可視光での分光観測について報告する.水素・酸素・硫黄からなる星周ガス円盤から,3.3×109 g/s の物質が降着している様子を確認した.
この円盤の組成は,他の白色矮星で発見されている惑星由来のデブリによるものとは異なるが,H2O や H2S を主要な成分とする,巨大氷惑星の大気深層を構成していると予想されている組成に類似している.高温の白色矮星を 15 太陽半径程度の軌道長半径で公転している巨大惑星からは,今回白色矮星に降着しているのが観測された降着率と同程度の質量放出率が発生することが期待できる.
これを実現する惑星軌道は,重力相互作用の結果であるとするのが最も可能性があり,それを引き起こすさらなる惑星がこの系内に存在していることを示唆している.
今回の観測結果は,白色矮星を近接軌道で公転する分光学的に検出可能な巨大惑星は,おおよそ 1/10000 の存在頻度であることを示唆する.
観測結果
WD J091405.30+191412.25 (WD J0914+1914) は最初,SDSS によって得られたスペクトル中に弱い Hα 輝線が検出されたことに基づき,短周期の相互作用をする白色矮星連星と分類された.スペクトルの詳細な観測からは,酸素 (O I, 7774, 8556 Å) の輝線,また [S II] と暫定的に同定した 4068 Å 近辺の輝線がさらに検出された.この輝線のフラックス比は白色矮星連星としては極めて非典型的であり,過去の分類に疑問を投げかけるものである.
Very Large Telescope の X-Shooter 分光器を用いて,この白色矮星系の分光観測を行った.その結果,[S II] (4068 Å) の存在を確認し,さらに [O I] (6300, 6363 Å) と,9200 Å 付近の O I と S I の混合を検出した.
Hα と O I (8446 Å) 輝線は二重ピークの形状をしており,この輝線の起源が白色矮星を取り囲む星周ガス円盤であることを示している.これは,チリとガスからなる惑星のデブリ円盤を持ついくつかの白色矮星の特徴と似ている.
しかしこれまでに知られている全てのガス・デブリ円盤のスペクトルは,Ca II 三重項 (8600 Å) の輝線が主で,弱い Fe II の線を伴っているが,今回の観測ではそれらは発見されなかった.さらに,他のガス・デブリ円盤を持つ白色矮星では Hα 輝線は検出されていない.
X-Shooter のスペクトルでは,強いバルマー線が検出されており,白色矮星の水素主体の大気の存在を示唆している.また多数の鋭い酸素と硫黄の吸収線を検出した.
白色矮星の有効温度は 27743 K,表面重力は log(g) = 7.85 と測定された.この 2 つの大気パラメータを固定して白色矮星の表面組成を測定すると,酸素は log(O/H) = -3.25,硫黄は log(S/O) = -4.15 となる.
白色矮星への降着率は 3.3 × 10-9 g s-1 で,惑星デブリに汚染された白色矮星の水素大気で観測されている中では最も高い降着率である.しかしこの白色矮星で測定された降着率は酸素と硫黄のみを含んだ値であり,これらの 2 つの元素の降着フラックスは他のどの白色矮星系のものよりも 1 桁大きい.もし熱塩混合や対流オーバーシュートが白色矮星大気で効果的であった場合,降着率は 1 桁大きくなりうる.
白色矮星周りの降着円盤
円盤の組成とその起源
白色矮星まわりの星周円盤のモデル化を行い,円盤のケプラー回転によって Doppler-broadened した輝線は,白色矮星から 1-10 太陽半径にまで広がった円盤から放射されていると推定した.水素,酸素,硫黄以外の輝線が検出されなかったことから,円盤中のナトリウム,ケイ素,カルシウム,鉄の存在度に強い上限が与えられた.また,視線速度観測からは恒星の伴星の存在は否定された.
惑星デブリが検出されている他の白色矮星とは対照的に,降着していく物質中の金属が極端に欠乏している.観測的な証拠に基づくと,この白色矮星は純粋にガスのみからなる星周円盤を降着している.
この円盤内の物質のもっともらしい起源は,白色矮星を近接軌道で公転する,蒸発する巨大惑星である.この組成は太陽系内の巨大氷惑星の深層に類似している.
天王星の電波とマイクロ波のモデリングからは,アンモニアの濃度は低く,また水の濃度は大きい必要がある.アンモニアと硫化水素が硫化水素アンモニウムに凝縮することは,大気からのアンモニアの除去に効率的だと考えられている.しかし太陽の硫黄・窒素比では,すべてのアンモニアが硫化水素アンモニウムに変わるには不十分である.
天王星のスペクトルを説明するもっともらいしモデルは,水と硫化水素の濃度が太陽組成の値の数百倍に増加している必要があるとしている.天王星と海王星の大気中からは最近硫化水素が検出されており,巨大氷惑星の深い雲の層では硫化水素が主要な成分であることが確認されている.
伴星のガス惑星からの質量放出
強い極端紫外線を受ける海王星質量系外惑星は,大気の光蒸発を起こす.ウォームネプチューンでは,数太陽半径の軌道長半径にあるものは 108-1010 g s-1 の大気散逸を起こしていると推定されている (GJ 436b や GJ 3470b など).これはこの白色矮星での降着率の推定と同程度である.
降着円盤が 10 太陽半径まで広がっている場合,惑星はおそらく 15 太陽半径の距離に位置していると考えられる.このやや高温な白色矮星は強い極端紫外線を放射しており,主系列星を公転している質量を失っているウォームネプチューンのように質量散逸を引き起こす.惑星からの質量散逸率の推定は 5 × 1011 g s-1 であり,GJ 436b などでの質量散逸率の推定値を超える.
惑星から散逸した物質の一部は白色矮星に重力的に束縛されたままとなり,二重ピークの輝線の形で検出されている星周円盤を形成する.これが白色矮星に降着し,白色矮星の光球を酸素と硫黄で汚染する.
光電離モデルでは,ガス円盤は惑星大気の主成分である水素が大きく欠乏していることを示唆している.
高温な白色矮星は,極端紫外線に加え大量の Lyα 光子も放出し,この強度は太陽の値を大きく上回る.その結果,水素の Lyα に対する断面積が大きいため水素の白色矮星への流入が阻害され,星周円盤や降着した物質の酸素と硫黄の存在度が大きく増幅されることとなる.
光球面の組成について
白色矮星の有効温度と表面重力の推定値から,スペクトルを用いて組成を決定した.この白色矮星の有効温度では,輻射による酸素原子と硫黄原子の浮上の影響は無視できるため,これらの元素の存在量が光球面で増加しているということは,これらの物質の降着が進行中であることを示唆する.拡散速度を考慮すると,推定された硫黄と酸素の存在度を説明するための降着率は,硫黄が 5.5 × 108 g s-1,酸素が 2.7 × 109 g s-1 である.
いくつかの研究では,温かい白色矮星の放射水素大気へ金属が降着することによって大気の平均分子量の勾配が形成され,熱塩混合が引き起こされるとされている.これを考慮すると,上記の降着率は過小評価されたものとなる.純粋に拡散による沈殿のみを考えた場合は,降着率の下限値として 3.3 × 109 g s-1 という値が得られ,実際の値は 1 桁大きくなりうる.
恒星・亜恒星質量の伴星の否定
この白色矮星の初期の分類では,この天体が激変星であることが示唆されていた.つまり,ロッシュローブを満たした低質量の伴星から,白色矮星への降着を起こしている短周期連星だと考えられていた.スペクトル中の二重ピークの輝線は星周ガス円盤の存在を確認するものであるが,激変星は典型的により強いバルマー線を持ち,しばしばヘリウム線も伴う.また,可視光でのスペクトルの特徴を示す,28000 K 程度と高温な白色矮星を伴う激変星はこれまでに知られていない.
分光学的に似た別の系としては,分離した短周期の post-common envelope binaries (PCEBs,共通外層連星の進化後) がある.これは,低質量の伴星を伴った白色矮星連星で,伴星からの Hα 放射が一般的に検出される.高温の白色矮星を含む PCEBs では伴星の強い輻射によるカルシウムと鉄の輝線が見られるが,この白色矮星では検出されていない.また輝線の形状からも,PCEBs である可能性が否定される.
X-Shooter のスペクトル中の最も強い硫黄の吸収から,視線速度を測定した.
PCEBs として典型的な 2 時間から 1 日の軌道周期を仮定すると,褐色矮星質量以上の天体を伴星として持つ可能性が否定される.また,質量を供給していると思われる天体に対して想定される軌道周期範囲である 8-10 日を仮定すると,30 木星質量以上の天体の存在は否定される.
また恒星質量の伴星が存在すれば,赤外線での放射の超過が見られるはずだが,それは検出されていない.これを元に,スペクトル型 L5 の褐色矮星より早期 (重い) 天体の存在は否定される.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1912.01821
Wittenmyer et al. (2019)
Cool Jupiters greatly outnumber their toasty siblings: Occurrence rates from the Anglo-Australian Planet Search
(低温な木星型惑星はその炙られている仲間よりも圧倒的に多い:アングロ・オーストラリアン惑星探査からの存在頻度)
Anglo-Australian Planet Search による 18 年間の観測データを用いて,”cool Jupiters”,すなわち太陽系の巨大惑星の木星と土星に類似した惑星の存在頻度を調査した.
その結果,このような惑星はホットジュピターと比べて本質的により一般的な存在であることを見出した.
低温なガス惑星の存在頻度は 6.73 (+2.09, -1.13)% と推定され,ホットジュピターの 0.84 (+0.70, -0.20)% と比べてほぼ一桁大きな存在頻度となる.また軌道長半径 ~1 au 以遠では.巨大惑星の存在頻度は実質的に一定であることも見出した.
arXiv:1912.01821
Wittenmyer et al. (2019)
Cool Jupiters greatly outnumber their toasty siblings: Occurrence rates from the Anglo-Australian Planet Search
(低温な木星型惑星はその炙られている仲間よりも圧倒的に多い:アングロ・オーストラリアン惑星探査からの存在頻度)
概要
太陽系外惑星の理解は過去 30 年の間に大きく進化してきたが,太陽系は異常なのか唯一の存在なのかについては,系外惑星を発見する手法に固有の観測バイアスが存在するため不明である.Anglo-Australian Planet Search による 18 年間の観測データを用いて,”cool Jupiters”,すなわち太陽系の巨大惑星の木星と土星に類似した惑星の存在頻度を調査した.
その結果,このような惑星はホットジュピターと比べて本質的により一般的な存在であることを見出した.
低温なガス惑星の存在頻度は 6.73 (+2.09, -1.13)% と推定され,ホットジュピターの 0.84 (+0.70, -0.20)% と比べてほぼ一桁大きな存在頻度となる.また軌道長半径 ~1 au 以遠では.巨大惑星の存在頻度は実質的に一定であることも見出した.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1912.01009
Mankovich & Fortney (2019)
Evidence for a Dichotomy in the Interior Structures of Jupiter and Saturn from Helium Phase Separation
(ヘリウムの相分離による木星と土星の内部構造の二分性の証拠)
2 つの惑星の内部におけるヘリウムの再分配は,非常に異なる様相で進行する.木星探査機ガリレオのプローブによるその場観測では,木星大気のヘリウムが欠乏していることが分かっており,このことから木星の内部のヘリウムは緩やかに分化していることが確認される,
また,太陽年齢における木星のヘリウムの欠乏,半径および内部からの熱流束を調和させるモデルを構築した.最近改定された木星のボンドアルベドの値は,木星の内部からの熱流束が低いことを示唆しており,やや超断熱状態の内部で発生するようなヘリウム分化に基づく光度を用いることで,すべての観測的制約を満たすことが出来る.
同じモデルをより軽い質量を持つ土星に適用した結果,土星は不可避的にヘリウム豊富なシェルや核を形成する,劇的なヘリウム分化が進行することが予測される.これは,過去に Stevenson & Salpeter などによって提唱されていた結果である.
土星のヘリウム分化に起因する光度は,土星内部が断熱的であった場合でも,冷却時間を太陽系年齢まで伸ばすには不十分である.このモデルは,土星の大気ヘリウムは Y = 0.07 ± 0.01 にまで減少していることを予測し,これは He/H2の 混合比が 0.036 ± 0.006 であることに対応している.
また,内部でのネオンの分化は,どちらの惑星でも過去に光度に寄与していたことが示された.
今回の結果は,木星と土星の熱進化は単一の物理モデルで自己無撞着に説明できることを示し,土星の内部構造とダイナモの将来のモデルに重要な示唆を与えるものである.
しかし似たモデルを土星に適用した結果,観測されている熱流を再現できないことが分かっている (Pollack et ak. 1977など).そのため,土星に関してはさらなる光度の起源が必要である.
惑星内部の熱エネルギーに由来する一次光度とは別に (Hubbard 1968),組成の分化は低温ガス惑星の主要な光度源となる可能性が指摘されている (Smoluchowski 1967など).特に,液体金属水素へのヘリウムの溶解度は限られているため,液体金属水素内でヘリウム豊富な液滴が形成され,対流再分配のタイムスケールと比べて短い時間で内部へ落下してしまうと考えられる (Salpeter 1973).
Stevenson & Salpeter (1977) で述べられている通り,一様で断熱な木星の内部構造モデルが成功していることから,木星ではヘリウムの落下はつい最近始まったばかりか,あるいは全く起きていないことが示唆される一方,より低温な土星ではおそらく組成の分化は重要であることが示唆される.
その後に木星の大気で観測されたヘリウムの欠乏は,木星では最近ヘリウムの分化が始まったことを示唆している (von Zahn et al. 1998).
ヘリウムの雨が土星の光度を説明できるという仮説は,信頼できる相図 (暫定的な相図であっても) のヘリウムの非混和性を含んだ進化計算によって支持されている (Hubbard et al. 1999など).
一方,Leconte & Chabrier (2013) は異なる重要なシナリオを提案しており,土星の深部が二重拡散対流によって断熱構造から大きく離れた構造になることで,ヘリウムの非混和性に頼らずとも土星の光度を説明できるとしている.
しかし,木星ではヘリウム分化が起きているという直接的な証拠があり,内部がより低温であると考えられる土星では,ヘリウムの分化を避けるのは難しいと思われる.
この研究の主要な動機は 2 つある.
まず,木星のボンドアルベドが,カッシーニの複数機器のデータの解析に基づいて,最近大幅に改定されたことである.これは,木星は過去のボイジャーとパイオニアのデータの組み合わせ (Hanel et al. 1981) に基づいてこれまで考えられてきたよりも太陽のフラックスを吸収する量が少なく,木星自身からの内部フラックスがより多いことを示唆している (Li et al. 2018).この表面環境のアップデートは,ヘリウムの雨の寄与である可能性がある,内部からのより多くなフラックスがあることを示唆している.
2 番目は,非理想エントロピー効果を含み,あり得るヘリウム割合の全領域をカバーする,過去の研究に基づいた新しい相図の研究が発表されたことである (Sch ̈ottler & Redmer 2018).
一方で木星の光度はシンプルな内部構造モデルで十分説明できるが,経験的によく制約された木星大気の存在量からは,ヘリウムおよびネオンを分離させる内部過程の存在が明らかとなっている.
ここでは木星と土星に対して同一の仮定を課し,水素とヘリウムの非混和性に関する物理的研究の最近の結果と,木星の内部熱流束の近年大幅に改定された結果に基づき,新しい熱進化モデルを計算した.その結果,このモデルは木星と土星のどちらの現在の熱流束を説明可能で,木星大気のヘリウム欠乏も説明できる.
主な結果は,
1. 木星大気で観測されているヘリウム欠乏 (von Zahn et al. 1998) は, Scho ̈ttler & Redmer (2018) の位相曲線が 2 Mbar で予測するよりも温かい,539 K での水素とヘリウムの相分離の発生を示唆する.
2. 木星の薄いヘリウム勾配領域を通過する熱流は,Rp ~ 0.05 でいくらか超断熱的になる.
3. ここで明らかにしたように,土星では組成の分化によって,原始太陽もしくは木星類似の混合からの大きな局所的な乖離が発生する.そのため,ヘリウム混合比空間をカバーする相図は,低温の巨大ガス惑星内でのヘリウムの分布を自己無撞着に予測するために必要である.
4. ここで考慮したヘリウムの過剰密度の急速な rainout の極限では,現実的な相図を元にすると,常に濃くヘリウム豊富な層を土星の深部に形成する.
5. 木星のガリレオ探査機によるヘリウムの制約と整合的な相図を満たす土星モデルは,ボイジャーの時代の土星のボンドアルベドの推定 ~0.3 を用いた場合,太陽年齢での観測されている土星の熱流束を再現できない.
6. 土星に対するモデルは,土星の真のボンドアルベドが ~0.5 だった場合に,すべての要素を説明可能である.
7. 土星の内部は,断熱と超断熱構造どちらの可能性も同様にあり得る.
8. ネオンの分化はどちらの惑星の熱進化においても大きなエネルギー的な寄与を起こしたと考えられるが,ヘリウムの分化による影響よりは 1-2 桁弱い.
9. 木星のガリレオ探査機によるヘリウムの制約を満たす相図は,土星大気のヘリウム存在度を精密に予測する.具体的な値は,Y = 0.07 ± 0.01,He/H2 の混合比が 0.036 ± 0.006 である.
arXiv:1912.01009
Mankovich & Fortney (2019)
Evidence for a Dichotomy in the Interior Structures of Jupiter and Saturn from Helium Phase Separation
(ヘリウムの相分離による木星と土星の内部構造の二分性の証拠)
概要
流体の金属水素中におけるヘリウムの非混和性についての最近の理論的研究を適用して,木星と土星の熱進化の比較研究を行った.2 つの惑星の内部におけるヘリウムの再分配は,非常に異なる様相で進行する.木星探査機ガリレオのプローブによるその場観測では,木星大気のヘリウムが欠乏していることが分かっており,このことから木星の内部のヘリウムは緩やかに分化していることが確認される,
また,太陽年齢における木星のヘリウムの欠乏,半径および内部からの熱流束を調和させるモデルを構築した.最近改定された木星のボンドアルベドの値は,木星の内部からの熱流束が低いことを示唆しており,やや超断熱状態の内部で発生するようなヘリウム分化に基づく光度を用いることで,すべての観測的制約を満たすことが出来る.
同じモデルをより軽い質量を持つ土星に適用した結果,土星は不可避的にヘリウム豊富なシェルや核を形成する,劇的なヘリウム分化が進行することが予測される.これは,過去に Stevenson & Salpeter などによって提唱されていた結果である.
土星のヘリウム分化に起因する光度は,土星内部が断熱的であった場合でも,冷却時間を太陽系年齢まで伸ばすには不十分である.このモデルは,土星の大気ヘリウムは Y = 0.07 ± 0.01 にまで減少していることを予測し,これは He/H2の 混合比が 0.036 ± 0.006 であることに対応している.
また,内部でのネオンの分化は,どちらの惑星でも過去に光度に寄与していたことが示された.
今回の結果は,木星と土星の熱進化は単一の物理モデルで自己無撞着に説明できることを示し,土星の内部構造とダイナモの将来のモデルに重要な示唆を与えるものである.
ガス惑星の内部構造モデル
木星を取り扱う進化モデルでは,効率的な対流の結果としてよく混合されてほぼ断熱な内部であるとした場合に,太陽年齢 (=現在) の時点での木星の光度を説明することに広く成功している (Graboske et al. 1975,Fortney et al. 2011).しかし似たモデルを土星に適用した結果,観測されている熱流を再現できないことが分かっている (Pollack et ak. 1977など).そのため,土星に関してはさらなる光度の起源が必要である.
惑星内部の熱エネルギーに由来する一次光度とは別に (Hubbard 1968),組成の分化は低温ガス惑星の主要な光度源となる可能性が指摘されている (Smoluchowski 1967など).特に,液体金属水素へのヘリウムの溶解度は限られているため,液体金属水素内でヘリウム豊富な液滴が形成され,対流再分配のタイムスケールと比べて短い時間で内部へ落下してしまうと考えられる (Salpeter 1973).
Stevenson & Salpeter (1977) で述べられている通り,一様で断熱な木星の内部構造モデルが成功していることから,木星ではヘリウムの落下はつい最近始まったばかりか,あるいは全く起きていないことが示唆される一方,より低温な土星ではおそらく組成の分化は重要であることが示唆される.
その後に木星の大気で観測されたヘリウムの欠乏は,木星では最近ヘリウムの分化が始まったことを示唆している (von Zahn et al. 1998).
ヘリウムの雨が土星の光度を説明できるという仮説は,信頼できる相図 (暫定的な相図であっても) のヘリウムの非混和性を含んだ進化計算によって支持されている (Hubbard et al. 1999など).
一方,Leconte & Chabrier (2013) は異なる重要なシナリオを提案しており,土星の深部が二重拡散対流によって断熱構造から大きく離れた構造になることで,ヘリウムの非混和性に頼らずとも土星の光度を説明できるとしている.
しかし,木星ではヘリウム分化が起きているという直接的な証拠があり,内部がより低温であると考えられる土星では,ヘリウムの分化を避けるのは難しいと思われる.
この研究の主要な動機は 2 つある.
まず,木星のボンドアルベドが,カッシーニの複数機器のデータの解析に基づいて,最近大幅に改定されたことである.これは,木星は過去のボイジャーとパイオニアのデータの組み合わせ (Hanel et al. 1981) に基づいてこれまで考えられてきたよりも太陽のフラックスを吸収する量が少なく,木星自身からの内部フラックスがより多いことを示唆している (Li et al. 2018).この表面環境のアップデートは,ヘリウムの雨の寄与である可能性がある,内部からのより多くなフラックスがあることを示唆している.
2 番目は,非理想エントロピー効果を含み,あり得るヘリウム割合の全領域をカバーする,過去の研究に基づいた新しい相図の研究が発表されたことである (Sch ̈ottler & Redmer 2018).
結論
土星の光度が驚くほど高いことは,これまで未解決問題とされてきた.土星のもっともらしい進化経路を提供するモデルでは,単純な冷却を超える追加の光度源の存在,あるいはある程度の非対流熱輸送による断熱構造からの大きなずれをもつ内部構造のいずれかを必要としていた.一方で木星の光度はシンプルな内部構造モデルで十分説明できるが,経験的によく制約された木星大気の存在量からは,ヘリウムおよびネオンを分離させる内部過程の存在が明らかとなっている.
ここでは木星と土星に対して同一の仮定を課し,水素とヘリウムの非混和性に関する物理的研究の最近の結果と,木星の内部熱流束の近年大幅に改定された結果に基づき,新しい熱進化モデルを計算した.その結果,このモデルは木星と土星のどちらの現在の熱流束を説明可能で,木星大気のヘリウム欠乏も説明できる.
主な結果は,
1. 木星大気で観測されているヘリウム欠乏 (von Zahn et al. 1998) は, Scho ̈ttler & Redmer (2018) の位相曲線が 2 Mbar で予測するよりも温かい,539 K での水素とヘリウムの相分離の発生を示唆する.
2. 木星の薄いヘリウム勾配領域を通過する熱流は,Rp ~ 0.05 でいくらか超断熱的になる.
3. ここで明らかにしたように,土星では組成の分化によって,原始太陽もしくは木星類似の混合からの大きな局所的な乖離が発生する.そのため,ヘリウム混合比空間をカバーする相図は,低温の巨大ガス惑星内でのヘリウムの分布を自己無撞着に予測するために必要である.
4. ここで考慮したヘリウムの過剰密度の急速な rainout の極限では,現実的な相図を元にすると,常に濃くヘリウム豊富な層を土星の深部に形成する.
5. 木星のガリレオ探査機によるヘリウムの制約と整合的な相図を満たす土星モデルは,ボイジャーの時代の土星のボンドアルベドの推定 ~0.3 を用いた場合,太陽年齢での観測されている土星の熱流束を再現できない.
6. 土星に対するモデルは,土星の真のボンドアルベドが ~0.5 だった場合に,すべての要素を説明可能である.
7. 土星の内部は,断熱と超断熱構造どちらの可能性も同様にあり得る.
8. ネオンの分化はどちらの惑星の熱進化においても大きなエネルギー的な寄与を起こしたと考えられるが,ヘリウムの分化による影響よりは 1-2 桁弱い.
9. 木星のガリレオ探査機によるヘリウムの制約を満たす相図は,土星大気のヘリウム存在度を精密に予測する.具体的な値は,Y = 0.07 ± 0.01,He/H2 の混合比が 0.036 ± 0.006 である.
天文・宇宙物理関連メモ vol.345 Crouzet et al. (2016) 高速自転星まわりのホットジュピター XO-6b の発見