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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1911.08357
Route & Looney (2019)
ROME (Radio Observations of Magnetized Exoplanets). II. HD 189733 Does Not Accrete Significant Material from its Exoplanet like a T Tauri Star from A Disk
(ROME (Radio Observations of Magnetized Exoplanets). II. HD 189733 は円盤からのおうし座T型星のようには多くの物質をその系外惑星から降着していない)

概要

HD 189733 は,周囲を公転するホットジュピター HD 189733b からの蒸発した外気圏のガスを定常的に降着していると主張されており,これはおうし座T型星 (T Tauri star) が周囲の円盤から物質を降着する様子と類似している.

ここでは,中心星の測光観測データの統計的な周期解析を実施した.解析に用いたデータは,automated photoelectric telescope (APT),Microvariability and Oscillations of Stars (MOST) および Wise Observatory で得られたものである.

この解析の目的は,おうし座AA星 (AA Tau) のようなおうし座T型星で発見されている,降着衝撃波や光球の降着ホットスポットの存在を明らかにすることである.

その結果,予想していた特徴はデータ中に発見されなかった.

この天体に関して参照可能な電波・可視光・紫外線・X 線観測データを,物質を降着するおうし座T型星の枠組みの中で再解析し,プラズマ密度や温度,降着率,フレアの長さなどの物理量を決定した.

その結果,降着率が 109-1011 g s-1 のとき,HD 189733 はこれより少なくとも 2 桁大きな降着率を持つ古典的おうし座T型星よりも,サングレーザー彗星のアウトバーストの際に間欠的にガスを吸収する系により似ていることを見出した.
このような降着が存在する場合,すべての波長で検出できない程度の低い活動しか発生しない.あるいは,これまでに観測された全ての放射特性は,磁気的に活発な恒星からの恒星活動と一致している.

そのため,HD 189733 において検出が主張されている star-planet interaction (恒星・惑星相互作用) とされるシグナルは,この恒星そのものの恒星活動である可能性が示唆される

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1911.07355
Santerne et al. (2019)
An extremely low-density and temperate giant exoplanet
(極めて低密度で温暖な巨大系外惑星)

概要

トランジットする系外惑星は,惑星系の形成,移動,進化の研究において重要な存在である.特に,巨大惑星の大気を透過スペクトルや直接撮像で探査することで,大気の化学組成や物理特性の大きな多様性が明らかになる.しかしこれらの研究は,強い輻射を受けているトランジット巨大惑星か,中心星の遠方にある直接撮像可能な巨大惑星に限られてきた.

ここでは,明るい晩期 F 型星である恒星まわりの複数惑星系 HIP 41378 の惑星の物理的な特徴付けを行った.

外側を公転する HIP 41378f は土星サイズの 9.2 ± 0.1 地球半径であり,0.09 ± 0.02 g cm-3 という異常な低密度を持つ.この理由は不明である.

この惑星の平衡温度はおよそ 300 K である.従って,ホットジュピターと,太陽系のより低温な巨大惑星の間の,中間的な温度を持つ惑星である.JWST や ARIEL といった次世代の宇宙望遠鏡や,地上の超巨大望遠鏡による,中間的な輻射を受ける巨大系外惑星の大気の特徴付けへの新たな境地を開く存在となるだろう.従ってこの惑星は,輻射が惑星大気の物理特性や化学組成に及ぼす影響を理解するための重要な実験室となる.

HIP 41378 について

この系はケプラーの K2 ミッションの Champaign 5 の期間中に観測された.

K2 の観測データからは,5 つの惑星がトランジットしていることが明らかになった.
うち 2 つは軌道周期が 15, 31 日の HIP 41378b と c である.これらの 2 つは,ケプラーによる宇宙空間からの 80 日にわたる観測期間中に複数回のトランジットが検出された.他の 3 惑星 HIP 41378d, e, f は Champaign 5 の間には 1 回しかトランジットを起こさなかった.

トランジット継続時間から,これらの惑星の軌道周期は数ヶ月から数年であると予測された.

この系は,K2 の Champaign 18 で再び観測された.これによって,内側の 2 惑星の新しいトランジットの検出と,d, f の 2 回目のトランジットの検出に成功した.これにより外側の惑星の軌道周期の取りうる値が導出され,周期は 1000 日とそのハーモニクス (下限 50 日) と制約された.

TESS によってこの系がさらに観測され,内側 2 惑星のトランジットが 1 回ずつ検出された.HIP 41378b, c, d, e は半径が 5 地球半径より小さく,比較的低質量と持つと予想される.しかし HIP 41378f は土星サイズの惑星であるため,30 m s-1 水準の比較的大きな視線速度シグナルを持つことが期待される.

惑星の質量を測定し軌道周期と物理的特性を更新するため,視線速度観測を実施した.初めはオート・プロヴァンス天文台の 1.93 m 望遠鏡の SOPHIE 分光器を用いた観測を行ったが,この観測では視線速度の有意な変動は検出できなかった.そのため,HIP 41378f は予想より低質量である可能性が示唆された.

その後,さまざまな高精度視線速度装置,HARPS,HARPS-N,HIRES,PFS 分光器で観測され,合計で 464 セットの視線速度測定が 4 年にわたって実施された.

観測の初期成果では 2 つの側面が明らかになった.まず,HIP 41378f の軌道周期は,K2 による測光で予測されていた軌道周期候補の中で,542 日のもののみに整合した.

次に,62 日周期のトランジットしない惑星による有意なシグナルを検出した.この惑星 HIP 41378g が HIP 41378c と 2:1 平均運動共鳴に入っていると仮定すると,HIP 41378c が示す ~85 分のトランジット時刻変動が説明できる可能性がある.
なお,62 日のシグナルが HIP 41378d か e のものであると考えると,長いトランジット継続時間を説明するためには離心率が ~0.6 以上と大きい値である必要があり,さらにその場合は系が不安定になってしまうため,この可能性はないと考えられる.

この初期解析では,HIP 41378d と e は有意には検出されなかった.

HIP 41378g はトランジットしない惑星であるため軌道傾斜角は不明で,質量も最小質量しか導出できない.しかし系がほぼ同一平面上にあるため,傾斜角は ~88° に近いと期待される.そのため真の質量は,ここで導出した最小質量とほぼ同一だろうと考えられる.

HIP 41378e のトランジットは 1 回しか検出されていないが,星震学での制約から,軌道周期は 369 ± 10 日と制約された.その結果,惑星 HIP 41378d, e, f は 3:4:6 の平均運動共鳴鎖に近い状態にある.そのため,この系全体は 1:2:4:18:24:36 平均運動共鳴鎖に入っている可能性がある.

パラメータ

HIP 41378
有効温度:6320 K
金属量:[Fe/H] = -0.10
質量:1.16 太陽質量
半径:1.273 太陽半径
年齢:31 億歳
距離:103 pc
自転周期:6.4 日
HIP 41378b
軌道周期:15.57208 日
軌道離心率:0.07
軌道長半径:0.1283 au
半径:2.595 地球半径
質量:6.89 地球質量
密度:2.17 g cm-3
平衡温度:959 K
日射量:地球の 140 倍
HIP 41378c
軌道周期:31.70603 日
軌道離心率:0.04
軌道長半径:0.2061 au
半径:2.727 地球半径
質量:4.4 地球質量
密度:1.19 g cm-3
平衡温度:757 K
日射量:地球の 54 倍
HIP 41378g
軌道周期:62.06 日
軌道離心率:0.06
軌道長半径:0.3227 au
質量:7.0 地球質量 (傾斜角 88° を仮定)
平衡温度:605 K
日射量:地球の 22.3 倍
HIP 41378d
軌道周期:278.3617 日
軌道離心率:0.06
軌道長半径:0.88 au
半径:3.54 地球半径
質量:4.6 地球質量未満
密度:0.56 g cm-3 未満
平衡温度:367 K
日射量:地球の 3.01 倍
HIP 41378e
軌道周期:369 日
軌道離心率:0.14
軌道長半径:1.06 au
半径:4.92 地球半径
質量:12 地球質量
密度:0.55 g cm-3
平衡温度:335 K
日射量:地球の 2.1 倍
HIP 41378f
軌道周期:542.07975 日
軌道離心率:0.004
半径:9.2 地球半径
質量:12 地球質量
密度:0.09 g cm-3
平衡温度:294 K
日射量:1.24 地球輻射

非常に低密度な HIP 41378f の形成と特性

今回観測を行ったトランジット惑星 5 つは比較的低密度であり,これらはガス惑星であると考えられる.

もっとも極端な惑星は HIP 41378f で,12 ± 3 地球質量で 9.2 ± 0.1 地球半径であり,バルク密度は 0.09 ± 0.02 g cm-3 である.31 億歳の低質量系外惑星の構造の理論モデルと比較すると,この大きな半径を説明するためには太陽金属量より小さい必要がある.そのためこの惑星は非常に小さいコアを持ち,水素とヘリウム主体の大きな大気を持つと思われる.31 億歳でのこのような低密度惑星は,現在の系外惑星の形成と進化モデルでは予想されない存在である.

可能性のある説としては,この惑星は光学的に厚い環に取り囲まれている,比較的低質量の惑星であると考えるものがある.惑星の周囲に環が存在した場合,惑星の実効半径を大きく見せ,そのため見かけの密度を小さくする.赤外線波長ではケプラーのバンドパスに比べて環が光学的に薄くなると考えられるため,この波長でのトランジット観測で,実際には小さい惑星だと確認できるだろう.

別の説明としては,この惑星が広がった流出する大気を持つ「スーパーパフ」惑星であるというものが考えられる.

この惑星は軌道周期 ~542 日 (1.5 年),軌道長半径 1.4 au で,ボンドアルベド 0 を仮定すると 294 K となる.これは保守的なハビタブルゾーンの内縁に相当する.この惑星のような大きなガス惑星は居住可能な環境ではないだろうが,ハビタブルな系外衛星は持つかも知れない.

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arXiv:1911.03984
Ito & Ohtsuka (2019)
The Lidov-Kozai Oscillation and Hugo von Zeipel
(リドフ・古在振動とヒューゴ・フォン・ツァイペル)

概要

円制限三体問題,とくにその二重平均版は,天体力学において非常によく研究されてきた.シンプルであるにもかかわらず,円制限三体系は太陽系内や太陽系外惑星系,その他多くの天文学の研究に現れる力学的な系における,様々な天体の運動をモデル化するのに適している.

これに関連して,いわゆる Lidov-Kozai oscillation はよく知られ,様々な天体に適用されてきた.この機構により,円制限三体系での摂動天体の軌道傾斜角と離心率が,特定の条件の下で大きな振幅で振動する.またこの機構は,摂動天体の近点引数の停留点まわりでの秤動を引き起こす.

この現象の理論的枠組みは,1960 年代前半にソビエト連邦の力学の研究者 (Michail L’vovich Lidov) と日本の天体力学者 (Yoshihide Kozai,古在由秀) によって,独立に確立されたものだと広く受け入れられている.理論の確立以降,この理論は広範に研究され発展してきた.リドフと古在による最初の研究から様々な研究が生まれ,現在では “Lidov-Kozai” もしくは “Kozai-Lidov” という接頭辞が用いられる.

しかし,19 世紀後半から 20 世紀前半に出版された過去の文献をサーベイした結果,その期間中に確立されたこの内容の同様の解析を用いた先駆的な研究が既に存在することを確認した.それは,スウェーデンの天文学者 Edvard Hugo von Zeipel によって成し遂げられたものであった.

ここでではまず,Lidov-Kozai 振動が発生する典型的な例を含む,円制限三体問題の基本的な枠組みについて概説する.次に,リドフ,古在,および関連する著者による主要な研究を要約することにより,20 世紀初頭から中盤にかけて,この一連の研究により議論され得られた内容について紹介する.
最後にフォン・ツァイペルの研究を要約し,20 世紀初頭における彼の業績は,Lidov-Kozai 振動の理解に必要な,基本的かつ必要な定式化の大部分を既に理解していたことを示す.

リドフ,古在およびフォン・ツァイペルの研究を比較し,この理論的枠組みを表すためには,Lidov-Kozai もしくは Kozai-Lidov との接頭辞を用いるのではなく,”von Zeipel-Lidov-Kozai” という接頭辞が使用されるべきであると主張する.これは,現代の天体力学の進歩に大きな貢献をしたこれら 3 人の主要な先駆者を適切に記念し,正当な敬意を示すものである.

古在とリドフの論文について

Lidov (1962) の二重平均円制限三体問題に関する業績は ,Kozai (1962) のものと実質的に等価である.それにもかからわず,リドフの研究は古在のものほどは引用されなかった.これは,これらの論文が出版された雑誌の知名度に差があったことが主要な要因だと推測される.

Astrophysics Data System (ADS) で発見できる限りでは,Lidov (1962) と Kozai (1962) を同時に引用したのは,Lowrey (1971) が初めてである.しかしその後 33 年の間にわたって,ADS での引用頻度から判断すると,これら 2 つの研究の実質的な等価性だけではなく,リドフの研究自体がほとんど忘れ去られ,目立たず,葬り去られているような状態ですらあった.

しかし,巨大惑星の周りの不規則衛星の永年力学についての論文 (C ́uk & Burns 2004) で,20 世紀において 2 つの論文が初めて同時に引用されて以降は,Lidov による研究は急速に注目を集めるようになった.今日では,リドフの研究と古在の研究の等価性はますます知られるようになっている.

またリドフの研究は,20 世紀の間にも無視できない回数引用されていることも判明した.
ADS や Web of Science (WoS) の引用データベースは,1960 年代やそれ以前の古い文献に関する情報は完全ではない点を考慮した.また,その時期の論文出版の総数は現在よりもずっと少なかったことにも注意する必要がある.そのため,その段階からリドフの研究は学術コミュニティでは比較的よく理解されていたと言うべきである.

また,ソビエト連邦関連の国内の学術コミュニティ,そして特にロシア語で書かれた文献をサーベイすることができたなら,リドフの研究が引用されている文献をより多く発見できるだろう.


リドフの研究が注目されるに連れ,この理論的枠組みへの接頭辞として “Kozai” ではなく “Lidov-Kozai” を用いる人が増えた.

ADS と WoS で調べる限りでは,”Lidov-Kozai” の接頭辞を初めて用いた出版物は Michtchenko et al. (2006) である (“the Lidov-Kozai resonance” として).一方で,”Kozai-Lidov” は S ̆idlichovský (2005) に登場する (“Kozai-Lidov resonance” として).
最近では,”Lidov-Kozai" を用いながら,Kozai (1962) ではなく Lidov (1961) のみを引用している Ulivieri et al. (2013) のような論文も見られる.

両研究の関係

時系列

  • 1961 年のどこかの段階で,Lidov (1961) が Iskusstvennyye Sputniki Zemli にて出版された.この論文の出版は後述のモスクワでの国際会議の前後どちらの可能性もあり,正確な出版日は特定できなかった.
  • 1961 年 11 月 20-25 日,モスクワにて理論天文学の全般的な問題,および応用問題に関する会議が開催された.リドフはこれに参加して,この内容に関する発表を行っている.古在もアメリカの代表団の一員としてこの会議に招待されており (古在はこのときマサチューセッツのスミソニアン天体物理観測所に勤務していた),近接人工衛星の運動についての講演を行っている.両者はこの会議で会っており,短い会話を持った (2017 年,古在本人談).2 人の直接の遭遇はこれが最初で最後である.
  • 1962 年 5 月 28-30 日,衛星の力学に関する IUTAM (International Union of Theoretical and Applied Mechanics) シンポジウムがパリで開催された.このシンポジウムにはリドフは参加していないが,彼の講演は代理人によって行われた.一方で古在はこのシンポジウムに参加し,衛星の運動から導かれた地球の重力ポテンシャルについての講演を行っている.なおこのシンポジウムには,ルナ 3 号の特異運動の研究を行った L. I. Sedov (レオニード・イワノビッチ・セドフ) が参加しており,シンポジウム参加者のグループ写真では古在とセドフが共に写っている.
  • 1962 年 8 月 26-29 日,この内容における古在の研究は,(おそらく) 第 111 回アメリカ天文学会年会において論文として初めて発表された.
  • 1962 年 8 月 29 日,Kozai (1962) の論文原稿が The Astronomical Journal に送付される.
  • 1962 10 月,Lidov (1961) の初めての英訳論文が Planetary and Space Science にて出版される (Lidov 1962).
  • 1962 年 11 月,Kozai (1962) が The Astronomical Journal から出版される.
  • 1963 年 8 月,Lidov (1961) の 2 番目の英訳論文が AIAA Journal Russian Supplement にて出版される (Lidov 1963).
  • 1963 年のどこかの段階で,2 つのプロシーディングスが出版された.そのうちの一つは Lidov (1963b) と Kozai (1963b) の論文を含む 1961 年のモスクワ会議のプロシーディングスで,どちらもロシア語である.もう一方は 1962 年のパリシンポジウムのプロシーディングスで,Lidov (1963c) と Kozai (1963a) を含み,どちらも英語である.
  • 1964 年のどこかの段階で,1961 年のモスクワ会議のプロシーディングスが英語に翻訳され出版された (Lidov 1964,Kozai 1964).

お互いの研究の認識

リドフは,後にこの内容に関する彼の研究を拡張した際のどこかの段階で古在による研究に気づいたと思われる.例えば,Lidov & Ziglin (1974) では Kozai (1962) を引用している.一方で古在はリドフの研究をより早く認識しており,Kozai (1962) では 1962 年のパリのシンポジウムでのリドフの講演を引用している.またリドフの研究の AIAA 英訳版では,古在により公式に「レビュー」されているように思われる.

これらの状況を念頭に置くと,リドフと古在の研究は相互作用なしに独立に行われたという一般的な見解とは異なり,こうして相互作用があったと判断される.

リドフがこの力学的現象に初めて気が付き,古在がそれを西洋のコミュニティに広げた,という見方もある.例えば Lidov-Kozai 振動の研究の歴史を記述した Tremaine & Yavetz (2014) では,「ラプラスはこの現象を調べるのに必要なツールを既に持っていたが,1960 年初頭にソビエト連邦のリドフが発見し,古在によって西側にもたらされた」と記述している.

しかしここでは,リドフと古在のどちらが先かという判断は行わない.フォン・ツァイペルがこの力学的機構をリドフや古在よりずっと先に認識していたことが分かっており,この手の議論にもはや重要な意味があるとは思わない.
なお Tremaine & Yavet (2014) が指摘するように,ラプラスがこの機構に関する研究を行っていたかについては熟知していないが,この歴史的なテーマの追求を続ける予定である.

フォン・ツァイペルによる研究

フォン・ツァイペルが三体問題を取り扱ったのは 1898 年と 1901 年の論文であり,その中で制限問題は極端な例として扱われている.

1 本目の論文 (von Zeipel 1898) は ”Sur la forme gén ́erale des éléments elliptiques dans le problème des trois corps” という題目でフランス語で書かれ,Bihang till Kongl Svenska Vetenskaps–Akademiens Handlingar で出版された.論文の内容からは,フォン・ツァイペルはリドフおよび古在による研究の 60 年以上前に,この問題の重要な点を認識していたと考えられる.

2 本目の論文 (von Zeipel 1901) の題目は “Recherches sur l’existence des séries de M. Lindstedt” で,同じ雑誌から出版されている.

類似した例

ここでは,フォン・ツァイペルがリドフと古在による研究よりもずっと先行していたという事実を考慮し,”Lidov-Kozai” や “Kozai-Lidov” ではなく,”the von Zeipel-Lidov-Kozai oscillation” と呼ばれるべきだと提案する.この意見を補強するため,ここではいくつかの例を紹介する.

呼称が変遷した例

ロドリゲスの公式
ルジャンドル多項式を生成する有名な公式である Rodrigues’ formula (ロドリゲスの公式) は,これについての研究の先駆者が後に認識されるに伴って,名前が変わった典型例である.

この公式は Rodrigues (1816) が初出である.しかし Ivory (1824) と Jacobi (1827) が後にこの公式を等価に発見した.そしてこの公式は何らかの形で,数十年に渡って Ivory-Javobi formula (アイヴォリー・ヤコビの公式) と呼ばれた.

後に,Eduard Heine が Rodrigues の先駆者としての研究に注意を払い,Rodrigues’ formula と呼び始めた (Heine 1878).
ラプラス・ルンゲ・レンツベクトル
Laplace-Runge-Lenz vector (ラプラス・ルンゲ・レンツベクトル) は,1/r のポテンシャルの下にある天体の運動に見られる定数ベクトルである (r は force center からの距離).

20 世紀中頃の一定の期間,これはルンゲ・レンツベクトルと呼ばれた.その後 Goldstein (1975) によって,Pierre-Simon de Laplace (ピエール=シモン・ラプラス) がルンゲとレンツよりも先にこのベクトルを正しく同定していたことを発見した.

また Goldstein (1976) では,さらに前にこのベクトルが William Rowan Hamilton (ウィリアム・ローワン・ハミルトン),Jakob Hermann (ヤコブ・ハーマン),Johann I. Bernoulli (ヨハン・ベルヌーイ) によっても同定されていたことを発見した.

Goldstein (1976) は,このベクトルを Hermann-Bernoulli-Laplace vector (ハーマン・ベルヌーイ・ラプラスベクトル) と呼ぶことを提案した.Subramanian (1991) ではさらに掘り下げて,Hermann-Bernoulli-Laplace-Hamilton-Runge-Lentz vector (ハーマン・ベルヌーイ・ラプラス・ハミルトン・ルンゲ・レンツベクトル) と呼んだ.

なおこの量は,太陽系力学では eccentricity vector (離心率ベクトル) としても知られている.Goldstein (1976) によると,この名前は 1845 年のハミルトンの最初の出版が由来である.

先駆者の名称が付けられた例

ヤルコフスキー効果
ヤルコフスキー効果は,回転する天体に働く運動量輸送機構である.
この効果に関するアイデアは,ロシアで働くポーランド人土木技師の Ivan Osipovich Yarkovsky (イワン・ヤルコフスキー) が 19 世紀後半に私的な「パンフレット」として出版したものが元となっている.しかしこれは,1909 年周辺にこのパンフレットを読んだ Ernst Julius Öpik (エルンスト・エピック) がそれを思い起こすまで,実質的に忘れ去られていた.

エピックはこの効果を定量的に推定し,Yarkovsky effect (ヤルコフスキー効果) と命名した (Öpik 1951).ほぼ同時期に,Vladimir Vyacheslavovich Radzievskii が同じ効果について彼の論文中で研究を行った (Radzievskii 1952).その後 1990 年代になってこの効果の詳細な定量的研究が行われ,また小惑星の運動で実際にこの効果が検出された.

一言で言えば,この効果の定量化のほとんどはヤルコフスキーよりもずっと後の時代の人々によって達成された.しかしこの効果は Öpik effect (エピック効果) でも Radzievskii effect (ラジエフスキー効果) でも他のいかなる名前でもなく,「ヤルコフスキー効果」と呼ばれ続けた.

なおこの効果には,小天体不規則な形状を介して小天体の自転速度に影響を与えるという別の側面があり,これは現在 YORP effect (YORP 効果,ヤルコフスキー・オキーフ・ラジエフスキー・パダック効果) と呼ばれている.YORP は 4 人の Yarkovsky, O’Keefe, Radzievskii, Paddack の頭文字であり,ここでもヤルコフスキーは名称の先頭に来ている.

先駆者が尊重された呼称

ロドリゲスの公式もラプラス・ルンゲ・レンツベクトルも,初期の先駆者は長い間忘れられたか,あるいは認識されていなかった.これらの公式とベクトルには,後に誰かが本来の発見者の業績に注目するまでは,“再” 発見者の名前が付けられていた.

ヤルコフスキー効果の場合は,ヤルコフスキーによる最初の業績はおおまかで概念的なアイデアに過ぎないものだった.ヤルコフスキーの当初の目的は,エーテルの存在についての彼の仮説を補強することであり,これは後知恵ではあるが現代科学の文脈では明らかに間違ったものである.そのため,ヤルコフスキーによる原書に言及し,その効果にヤルコフスキーの名前まで付けたエピックは非常に謙虚だったと言うべきだろう.

これについては,Poynting-Robertson effect (ポインティング・ロバートソン効果,Poynting 1904,Robertson 1937) にも同様の歴史がある.
この効果は Poynting (1904) によって定量的に記述されたが,この元々の記述はいくらか不完全であった.ポインティングの理論は後に,Robertson (1937) だけでなく他の多くの著者によって大きく修正され,洗練された.それでも,この効果は歴史的な先駆者であるポインティングの名前が最初にあり続けている.

議論の余地のある例

これまでの例は,先駆者の名前が先に来ている例である.このような発見が,どのように命名されるべきかを示す優れた例だと言える.
しかし,別の議論の余地のある例として Kuiper belt (カイパーベルト) がある.

カイパーベルトの名前は,有名なオランダ系アメリカ人天文学者 Gerard Peter Kuiper (ジェラルド・カイパー) から来ている.問題は,カイパー自身は現在の太陽系の海王星〜冥王星の領域にある小天体の集団の存在について,特に主張をしていないという点である (Kuiper 1951a, b).それにも関わらず,この小天体の集団はしばしば「カイパーベルト」と呼ばれる.

現在では,カイパー以外の多数の先駆者がこの領域の小天体の集団の存在を予測していたということが,一般的に認識されている (Edgeworth 1943, 1949, Cameron 1962, Whipple 1964a, b).最も早い予測は,冥王星の発見前に既に行われていた (Leonard 1930).

現在では,カイパーよりも多くの先駆者がいるという認識が広がっているため,カイパーの名前を含めずに,小天体の集団はより一般的かつ集団的に,trans-Neptunian objects (TNOs,太陽系外縁天体) と呼ばれる.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1911.06546
Sainsbury-Martinez et al. (2019)
Idealised simulations of the deep atmosphere of hot jupiters: Deep, hot, adiabats as a robust solution to the radius inflation problem
(ホットジュピターの深層大気の理想化されたシミュレーション:半径膨張問題の堅牢な解決策としての,深く高温な断熱構造)

概要

ホットジュピターが異常に大きな半径を持つことは長い間にわたって未解決問題とされている.しかし最近の研究では,理論的な議論と 2D 大気モデルを組み合わせることで,温位 (potential temperature) の鉛直移流によって,一般的な 1 次元モデルで得られる温度分布と比べて大気深部での断熱温度分布を高温にすることが示唆されている (Tremblin et al. 2017).

このシナリオの有効性を確認するため,3 次元の時間依存性のあるモデルへの拡張を行った.
3 次元 General Circulation Model (GCM) の DYNAMICO を用いて,大気循環の形成と駆動構造を調査するための一連の計算を実行し,高層と深層大気での力によって詳細がどう変化するか調査した.

その結果,過去の 2 次元大気の研究と同様に,大気深部での長期間進化の自然な帰結として,高温の断熱状態が実現されることを見出した.この断熱構造が等温を仮定した大気から出現するためには,シミュレーションの積分時間が 1500 年のオーダーである必要がある.そのため過去のホットジュピターの研究ではこの状態が発見されなかったと考えられる.

より高温な深層大気を設定したモデルでは,同じ最終状態へとより早く進化する傾向がある.また大気深部での断熱構造は,少なくともニュートン冷却のタイムスケールが 200 bar の深さにおいて ~3000 年より長い場合は,深層での加熱と冷却の低い水準に対して安定である.

ここでの結論は,深層大気循環による定常状態における温位の鉛直方向の移流は,ホットジュピターの膨張した半径を説明するための確実なメカニズムであるというものである.

ホットジュピターに関する将来の研究では,現在行われているよりも長い時間にわたる進化を追い,可能であれば,高温の断熱状態で初期化されたモデルを含めることを推奨する.これまでに提案されたほとんどのシナリオとは対照的に,この機構は輻射に誘起された質量の流れによるエントロピーの移流に由来するものであり,微細に調整された散逸過程を必要としないという点が重要な点である.

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1911.05744
Thao et al. (2019)
Zodiacal Exoplanets in Time (ZEIT) IX: a flat transmission spectrum and a highly eccentric orbit for the young Neptune K2-25b as revealed by Spitzer
(Zodiacal Exoplanets in Time (ZEIT) IX:スピッツァーで明らかにされた若い海王星型惑星 K2-25b の平坦な透過スペクトルと高軌道離心率軌道)

概要

太陽系近傍の若い星団にあるトランジット惑星は,形成段階の惑星における大気と力学の研究をするための良い対象である.この観点から,ここでは K2-25b に注目した.

K2-26b は,6.5 億歳のヒアデス星団中にある M2.5 の矮星を公転する海王星サイズの系外惑星であり,軌道周期は 3.48 日と中心星に近接した軌道を持つ.この天体の 44 回のトランジットを 2 年以上に渡って測光観測した.観測には,スピッツァー宇宙望遠鏡とケプラー K2 ミッションによる宇宙空間からの観測と,地上望遠鏡 (Las Cumbres Observatory Network と MEarth) の双方を用いた.

トランジット測光の波長域は 0.6 - 4.5 µm で,この範囲内でこの惑星の大気の透過スペクトルを調べた.

その結果,惑星のトランジット深さからは,この惑星が太陽組成の大気を持つ可能性を 4σ 以上の信頼度で否定し,平坦な透過スペクトルであることを示した.大気中の雲の存在や,高平均分子量の大気を持つ可能性についてより決定的な結論を出すためには,より細かい波長分解能での観測が必要である (例えばハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測).

今回のトランジット期間の詳細な観測からは,この惑星の軌道離心率に新しい制約が得られ,離心率は 0.20 より大きいという制約を与えた.離心率が大きいことは,この惑星が複雑な力学的な歴史を経験したことを示唆し,将来的に系内のさらなる惑星や恒星の伴星を探査するモチベーションになる.

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