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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.13425
Alonso-Floriano et al. (2019)
He I λ 10830 Å in the transmission spectrum of HD 209458 b
(HD 209458b の透過スペクトル中のヘリウム I 10830 Å)
しかし,ホットジュピター HD 209458b ではヘリウムの強いシグナルが期待されるものの,これまでの観測では吸収の上限値しか得られていなかった.今回の目標は,この惑星でのヘリウムの超過吸収を測定し,惑星の広がった大気や,おそらく蒸発している大気の特性を調査することである.
Calar Alto 天文台 3.5 m 望遠鏡の CARMENES を用いて,この惑星の高分散トランジットスペクトルを取得した.スペクトル分解能は 80400 で,10830 Å のヘリウム三重項の検出を狙った.観測されたスペクトルについて,恒星の吸収線は惑星がトランジットを起こしていない際の観測データから,地球大気による吸収は MOLECFIT 吸収から,空の輝線は空の同時測定から,それぞれ補正を行った.
その結果,トランジットの最中で 0.91% (9σ) の深さのヘリウム吸収を検出した.吸収は惑星のトランジット最中の視線速度変化に従った変化を見せたため,この吸収は惑星起源であることを確認した.
吸収のスペクトル線コアの合計の青方偏位は 1.8 ± 1.3 km s-1 であった.トランジットの中心付近で,主要な吸収からさらに青方偏位した低水準の超過吸収と思われる兆候が検出された.これは広がった大気の尾によって引き起こされている可能性があるものの,これは未確定である.
今回の結果は,ヘリウム三重項での惑星の吸収の強度と,電離度,恒星の X 線と極端紫外線放射の水準の間に見られる密接な関連をさらに支持するものである.
今回検出された He I の吸収深さは非常に低く,吸収線を生成するために必要な励起状態のヘリウム原子の存在度が低いことによると考えられ,これは予想通りの結果である.しかし He I の解析から導出した質量放出率は,Lyα 観測からの推定と整合的である.
Moutou et al. (2003) では,3 Å のバンド幅での観測で,He I の吸収深さに対して 0.5% という上限値を与えている.今回の観測において,同じバンド幅を仮定すると,今回の吸収 (0.91%,半値全幅 ~0.4Å) は 0.12% に相当することになる.
Nortmann et al. (2019) では,データの品質の問題でヘリウム吸収を見るのが難しい.今回の観測では Nortmann et al. (2019) と同じ装置を用いているが,2016 年 11 月に行われた近赤外観測装置の大幅な改良を挟んでおり,熱制御が過去の観測より改善されているため,データの品質に大きな違いが生じる.その他にも,観測のセッティングが理想的ではなかったという事情もある.
いずれにせよ,Nortmann et al. (2019) では吸収の上限値として 0.84% を与えていた.
実際に,恒星のヘリウム放射がより強い同様の観測対象でも,ロシター効果の影響は 0.1% より小さいと推定されている (Nortmann et al. 2018,Salz et al. 2018など).また,波長が近い Si I の吸収はヘリウムの吸収より 9 倍ほど深く,平均の透過スペクトル残差が 0.2-0.4% あった.
そのためロシター効果の影響は,この天体に関しては 0.044% よりも小さい,つまり測定された透過シグナルより 20 倍も小さいと結論付けた.
この吸収がアーティファクトである可能性を否定はできない.もし実際のシグナルであれば,これは惑星の熱圏の外層,あるいは外気圏での吸収を見ている可能性はある.
しかし観測結果のフィットには時間変動の情報は入っておらず,この追加の吸収を確定するにはさらなる観測が必要である.
He I による吸収は,励起された準安定の 23 S 状態にいる中性ヘリウム原子に起因する.この準位のポピュレーションは,中性ヘリウム原子が中心星からの輻射によって電離し,その後低温環境で再結合することによって生成される.この電離を起こす放射は,晩期型星のコロナと遷移領域で生成される (F, G, K, M 型星).これは恒星活動の水準に直接関連しており,主に恒星の自転に依存している.そのため,晩期型星周りの近接ガス惑星はヘリウム三重項を探査するための良い対象である.
HD 209458b は,これまでに He I 吸収が報告された惑星の中では最もシグナルが弱い.また検出報告された中では,恒星から受け取る XUV フラックスが最も小さい.中心星は比較的活動の弱い G 型星である.そのため,この測定は示唆されている傾向と一致しており,低い輻射レベルでの活動度との関係性を結びつけるものである.
ただし,XUV 強度は He I 吸収深さを決める唯一の要素ではないと考えられる.Oklopcˇic ́ (2019) では,輻射を受ける惑星での He I 吸収強度は,中心星のスペクトル型に依存するとモデル化している.そのモデルでは,極端紫外線と中間紫外線のフラックスの比が吸収の強度を決めると示唆しており,K 型星で有利な条件であることを示唆している.
検出された吸収の強度は,ヘリウムのシグナルと中心星の活動度に関係があるという,これまでに提唱されている経験的な関係性と整合的であった (Nortmann et al. 2018).
また,主要なヘリウムのシグナルから青い側,-13 km s-1 で追加の吸収を暫定的に検出した.これは彗星の尾のような形状になっている散逸大気を示すものである可能性があるが,これが信頼性の高い特徴の検出であるかは不明である.さらに,He I 三重項ではトランジット前後の吸収の証拠は得られなかった.
今回の結果からは,水素とヘリウムの総計の散逸率が 108-1011 g s-1 と推定される.推定値のばらつきは,高層大気に対して仮定する温度に依存する.
arXiv:1907.13425
Alonso-Floriano et al. (2019)
He I λ 10830 Å in the transmission spectrum of HD 209458 b
(HD 209458b の透過スペクトル中のヘリウム I 10830 Å)
概要
近年,10830 Å 波長のヘリウム三重項は,中心星に近接するトランジット惑星の広がった大気や,おそらくは蒸発している大気を探査するための良い手段として再評価されている.既に宇宙空間からも地上観測からも,いくつかの系外惑星の大気中から検出されている.しかし,ホットジュピター HD 209458b ではヘリウムの強いシグナルが期待されるものの,これまでの観測では吸収の上限値しか得られていなかった.今回の目標は,この惑星でのヘリウムの超過吸収を測定し,惑星の広がった大気や,おそらく蒸発している大気の特性を調査することである.
Calar Alto 天文台 3.5 m 望遠鏡の CARMENES を用いて,この惑星の高分散トランジットスペクトルを取得した.スペクトル分解能は 80400 で,10830 Å のヘリウム三重項の検出を狙った.観測されたスペクトルについて,恒星の吸収線は惑星がトランジットを起こしていない際の観測データから,地球大気による吸収は MOLECFIT 吸収から,空の輝線は空の同時測定から,それぞれ補正を行った.
その結果,トランジットの最中で 0.91% (9σ) の深さのヘリウム吸収を検出した.吸収は惑星のトランジット最中の視線速度変化に従った変化を見せたため,この吸収は惑星起源であることを確認した.
吸収のスペクトル線コアの合計の青方偏位は 1.8 ± 1.3 km s-1 であった.トランジットの中心付近で,主要な吸収からさらに青方偏位した低水準の超過吸収と思われる兆候が検出された.これは広がった大気の尾によって引き起こされている可能性があるものの,これは未確定である.
今回の結果は,ヘリウム三重項での惑星の吸収の強度と,電離度,恒星の X 線と極端紫外線放射の水準の間に見られる密接な関連をさらに支持するものである.
議論
他の波長での観測との比較
HD 209458b の高層大気によるトランジット時の強い吸収は,これまでに Lyα 線 (Vidal-Madjar et al. 2003),炭素原子と酸素原子 (Vidal-Madjar et al. 2004),マグネシウム (Vidal-Madjar et al. 2013) で検出されていた.これらの吸収深さは 5-10% の水準である.今回検出された He I の吸収深さは非常に低く,吸収線を生成するために必要な励起状態のヘリウム原子の存在度が低いことによると考えられ,これは予想通りの結果である.しかし He I の解析から導出した質量放出率は,Lyα 観測からの推定と整合的である.
過去のヘリウム観測との比較
過去の Moutou et al. (2003) と Nortmann et al. (2018) による観測報告では,HD 209458b での He I 吸収深さの上限値を与えている.これらの上限値は,今回の観測結果と整合的である.Moutou et al. (2003) では,3 Å のバンド幅での観測で,He I の吸収深さに対して 0.5% という上限値を与えている.今回の観測において,同じバンド幅を仮定すると,今回の吸収 (0.91%,半値全幅 ~0.4Å) は 0.12% に相当することになる.
Nortmann et al. (2019) では,データの品質の問題でヘリウム吸収を見るのが難しい.今回の観測では Nortmann et al. (2019) と同じ装置を用いているが,2016 年 11 月に行われた近赤外観測装置の大幅な改良を挟んでおり,熱制御が過去の観測より改善されているため,データの品質に大きな違いが生じる.その他にも,観測のセッティングが理想的ではなかったという事情もある.
いずれにせよ,Nortmann et al. (2019) では吸収の上限値として 0.84% を与えていた.
透過光ラインプロファイル
ヘリウムの吸収シグナルと誤認し得る可能性としては,ロシター効果が考えられる.しかし恒星の He I 線は HD 209458 では非常に弱いため,この効果は無視できる.実際に,恒星のヘリウム放射がより強い同様の観測対象でも,ロシター効果の影響は 0.1% より小さいと推定されている (Nortmann et al. 2018,Salz et al. 2018など).また,波長が近い Si I の吸収はヘリウムの吸収より 9 倍ほど深く,平均の透過スペクトル残差が 0.2-0.4% あった.
そのためロシター効果の影響は,この天体に関しては 0.044% よりも小さい,つまり測定された透過シグナルより 20 倍も小さいと結論付けた.
青方偏移シグナルの兆候
トランジットの中間付近で,10-15 km s-1 程度青い波長側 (短波長側) に,追加の吸収の特徴と思われるシグナルを検出した.その間に,恒星の活動が発生した事を示すシグナルはない.この吸収がアーティファクトである可能性を否定はできない.もし実際のシグナルであれば,これは惑星の熱圏の外層,あるいは外気圏での吸収を見ている可能性はある.
しかし観測結果のフィットには時間変動の情報は入っておらず,この追加の吸収を確定するにはさらなる観測が必要である.
XUV 光度との関連性
Nortmann et al. (2018) では,恒星の XUV (5-504Å) の輻射強度と,観測される He I 吸収の強度の関係性を提唱した.He I による吸収は,励起された準安定の 23 S 状態にいる中性ヘリウム原子に起因する.この準位のポピュレーションは,中性ヘリウム原子が中心星からの輻射によって電離し,その後低温環境で再結合することによって生成される.この電離を起こす放射は,晩期型星のコロナと遷移領域で生成される (F, G, K, M 型星).これは恒星活動の水準に直接関連しており,主に恒星の自転に依存している.そのため,晩期型星周りの近接ガス惑星はヘリウム三重項を探査するための良い対象である.
HD 209458b は,これまでに He I 吸収が報告された惑星の中では最もシグナルが弱い.また検出報告された中では,恒星から受け取る XUV フラックスが最も小さい.中心星は比較的活動の弱い G 型星である.そのため,この測定は示唆されている傾向と一致しており,低い輻射レベルでの活動度との関係性を結びつけるものである.
ただし,XUV 強度は He I 吸収深さを決める唯一の要素ではないと考えられる.Oklopcˇic ́ (2019) では,輻射を受ける惑星での He I 吸収強度は,中心星のスペクトル型に依存するとモデル化している.そのモデルでは,極端紫外線と中間紫外線のフラックスの比が吸収の強度を決めると示唆しており,K 型星で有利な条件であることを示唆している.
結論
HD 209458b における波長 10830Å での He I による確実な検出について報告した,トランジット吸収深さは 0.91 ± 0.10% であった.今回の観測結果は,この惑星に対する 10 年を超える He I 探査に結論をもたらすものである (Seager & Sasselov 2000,Moutou et al. 2003,Nortmann et al. 2018).検出された吸収の強度は,ヘリウムのシグナルと中心星の活動度に関係があるという,これまでに提唱されている経験的な関係性と整合的であった (Nortmann et al. 2018).
また,主要なヘリウムのシグナルから青い側,-13 km s-1 で追加の吸収を暫定的に検出した.これは彗星の尾のような形状になっている散逸大気を示すものである可能性があるが,これが信頼性の高い特徴の検出であるかは不明である.さらに,He I 三重項ではトランジット前後の吸収の証拠は得られなかった.
今回の結果からは,水素とヘリウムの総計の散逸率が 108-1011 g s-1 と推定される.推定値のばらつきは,高層大気に対して仮定する温度に依存する.
PR
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.11536
Nagakane et al. (2019)
OGLE-2015-BLG-1649Lb: A gas giant planet around a low-mass dwarf
(OGLE-2015-BLG-1649Lb:低質量矮星まわりの巨大ガス惑星)
惑星と主星の質量比は 7.2 × 10-3 で,惑星と主星の射影した間隔は,アインシュタイン半径の 0.9 倍であった.
IRCS/Subaru の補償光学観測から,レンズ天体 OGLE-2015-BLG-1649L のフラックスの上限値を与え,レンズ天体が G 型矮星よりも重い恒星である可能性を否定した.レンズ天体の質量に厳しい制約を与えるとともに,低質量の恒星を公転する巨大惑星の形成シナリオについて議論する.
レンズ系の物理パラメータの確率分布を導出するためにベイズ解析を実行した.その結果,中心星 OGLE-2015-BLG-1649L の質量は 0.34 太陽質量,惑星 OGLE-2015-BLG-1649Lb を 2.5 木星質量と推定した.
系までの距離は 4.23 kpc であり,射影した軌道間隔は 2.07 AU である.
レンズ天体とソース天体の相対固有運動は非常に大きく,~7.1 mas/yr である.そのため,これから数年後の観測で,レンズ天体のパラメータを独立して決定したり,より強い制約を与えることが可能だろう.
arXiv:1907.11536
Nagakane et al. (2019)
OGLE-2015-BLG-1649Lb: A gas giant planet around a low-mass dwarf
(OGLE-2015-BLG-1649Lb:低質量矮星まわりの巨大ガス惑星)
概要
重力マイクロレンズイベント OGLE-2015-BLG-1649 からの系外惑星の発見を報告する.惑星と主星の質量比は 7.2 × 10-3 で,惑星と主星の射影した間隔は,アインシュタイン半径の 0.9 倍であった.
IRCS/Subaru の補償光学観測から,レンズ天体 OGLE-2015-BLG-1649L のフラックスの上限値を与え,レンズ天体が G 型矮星よりも重い恒星である可能性を否定した.レンズ天体の質量に厳しい制約を与えるとともに,低質量の恒星を公転する巨大惑星の形成シナリオについて議論する.
レンズ系の物理パラメータの確率分布を導出するためにベイズ解析を実行した.その結果,中心星 OGLE-2015-BLG-1649L の質量は 0.34 太陽質量,惑星 OGLE-2015-BLG-1649Lb を 2.5 木星質量と推定した.
系までの距離は 4.23 kpc であり,射影した軌道間隔は 2.07 AU である.
レンズ天体とソース天体の相対固有運動は非常に大きく,~7.1 mas/yr である.そのため,これから数年後の観測で,レンズ天体のパラメータを独立して決定したり,より強い制約を与えることが可能だろう.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.11667
Hellier et al. (2019)
WASP-South hot Jupiters: WASP-178b, WASP-184b, WASP-185b & WASP-192b
(WASP-South のホットジュピター:WASP-178b, WASP-184b, WASP-185b と WASP-192b)
等級:V = 9.95
距離:418 pc
スペクトル型:A1IV-V
有効温度:9350 K
金属量:[Fe/H] = 0.21
質量:2.07 太陽質量
半径:1.67 太陽半径
質量:1.66 木星質量
半径:1.81 木星半径
密度:0.28 木星密度
軌道長半径:0.0558 AU
平衡温度:2470 K
この恒星は天球上で比較的孤立しており,Gaia DR2 での位置天文観測データでは,17 arcsec 以内に近傍の恒星は見当たらない.また 30 arcsec 以内にある恒星は,どれも WASP-178 より 7 等級暗い.
しかし Gaia DR2 では,この恒星は位置測定において大きな超過ノイズが存在することが報告されており,これは分解されていない連星が存在することを示唆している.
恒星の表面温度は 9350 K であり,ホットジュピターを持つ恒星としては A0 型星の KELT-9 (Gaudi et al. 2017,10170 K) に次いで 2 番目に高温である.なお 3 番目に高温なのは A2 型星の MASCARA-2/KELT-20 である (Lund et al. 2017,Talens et al. 2018,8980 K).
恒星の温度が高いものの,CORALIE を用いた観測では,視線速度から惑星による軌道運動を検出できた.
惑星 WASP-178b は軌道周期が 3.3 日,1.66 木星質量であり,1.81 木星半径と膨張した半径を持つ.平衡温度の推定値は 2470 K であり,軌道周期が 3 日を超える系外惑星としては最も高温である.
距離:640 pc
スペクトル型:G0
有効温度:6000 K
金属量:[Fe/H] = 0.12
質量:1.23 太陽質量
半径:1.65 太陽半径
質量;0.57 木星質量
半径:1.33 木星半径
密度:0.24 木星密度
軌道長半径:0.0627 AU
平衡温度:1480 K
恒星の質量と半径からは,主系列を離れて進化を初めている段階であることが示唆される.
惑星 WASP-184b は低質量のホットジュピターで,やや膨張した半径を持つ.
距離:275 pc
スペクトル型:G0
有効温度:5900 K
金属量:[Fe/H] = -0.02
質量:1.12 太陽質量
半径:1.50 太陽半径
質量: 0.98 木星質量
半径:1.25 木星半径
密度:0.50 木星密度
軌道長半径:0.0904 AU
平衡温度:1160 K
CORALIE による視線速度測定には伴星の存在は影響を与えないものの,TRAPPIST 望遠鏡による測光観測の視野には入っている.そのためその分を補正して解析を行った.
恒星の質量と半径からは,WASP-185 は進化した恒星であることが示唆される.
WASP-185b はホットジュピターとしては比較的長周期であり,軌道離心率は 0.24 である.惑星の質量と半径は,ホットジュピターとしては典型的なものである.
距離:295 pc
スペクトル型:G0
有効温度:5900 K
金属量:[Fe/H] = 0.14
質量:1.09 太陽質量
半径:1.32 太陽半径
質量:2.30 木星質量
半径:1.23 木星半径
密度:1.22 木星密度
軌道長半径:0.0408 AU
平衡温度:1620 K
惑星 WASP-192b は,軌道周期は典型的なホットジュピターのものである.ただしホットジュピターの平均的な質量よりは重い.半径は,2-3 木星質量の質量を持つホットジュピターとしては典型的なものである.
arXiv:1907.11667
Hellier et al. (2019)
WASP-South hot Jupiters: WASP-178b, WASP-184b, WASP-185b & WASP-192b
(WASP-South のホットジュピター:WASP-178b, WASP-184b, WASP-185b と WASP-192b)
概要
WASP-South サーベイによる 4 つの新しいトランジットホットジュピターの発見を報告する.パラメータ
WASP-178 系
WASP-178
別名:HD134004等級:V = 9.95
距離:418 pc
スペクトル型:A1IV-V
有効温度:9350 K
金属量:[Fe/H] = 0.21
質量:2.07 太陽質量
半径:1.67 太陽半径
WASP-178b
軌道周期:3.3448285 日質量:1.66 木星質量
半径:1.81 木星半径
密度:0.28 木星密度
軌道長半径:0.0558 AU
平衡温度:2470 K
WASP-178 系について
中心星の WASP-178 のスペクトル型は A1IV-V である.やや高温な Am 星で金属量がやや多く,Ca と Sc がわずかに少ないという組成を持つ.なお Y と Ba はやや多い.この恒星は天球上で比較的孤立しており,Gaia DR2 での位置天文観測データでは,17 arcsec 以内に近傍の恒星は見当たらない.また 30 arcsec 以内にある恒星は,どれも WASP-178 より 7 等級暗い.
しかし Gaia DR2 では,この恒星は位置測定において大きな超過ノイズが存在することが報告されており,これは分解されていない連星が存在することを示唆している.
恒星の表面温度は 9350 K であり,ホットジュピターを持つ恒星としては A0 型星の KELT-9 (Gaudi et al. 2017,10170 K) に次いで 2 番目に高温である.なお 3 番目に高温なのは A2 型星の MASCARA-2/KELT-20 である (Lund et al. 2017,Talens et al. 2018,8980 K).
恒星の温度が高いものの,CORALIE を用いた観測では,視線速度から惑星による軌道運動を検出できた.
惑星 WASP-178b は軌道周期が 3.3 日,1.66 木星質量であり,1.81 木星半径と膨張した半径を持つ.平衡温度の推定値は 2470 K であり,軌道周期が 3 日を超える系外惑星としては最も高温である.
WASP-184 系
WASP-184
等級:V = 12.9距離:640 pc
スペクトル型:G0
有効温度:6000 K
金属量:[Fe/H] = 0.12
質量:1.23 太陽質量
半径:1.65 太陽半径
WASP-184b
軌道周期:5.18170 日質量;0.57 木星質量
半径:1.33 木星半径
密度:0.24 木星密度
軌道長半径:0.0627 AU
平衡温度:1480 K
WASP-184 系について
恒星 WASP-184 は天球上でやや孤立しており,Gaia DR2 のデータでは 10 arcsec 以内には恒星はおらず,また 30 arcsec 以内にある 6 等級以上暗い天体は 2 つのみであった.恒星の質量と半径からは,主系列を離れて進化を初めている段階であることが示唆される.
惑星 WASP-184b は低質量のホットジュピターで,やや膨張した半径を持つ.
WASP-185 系
WASP-185
等級:V = 11.1距離:275 pc
スペクトル型:G0
有効温度:5900 K
金属量:[Fe/H] = -0.02
質量:1.12 太陽質量
半径:1.50 太陽半径
WASP-185b
軌道周期:9.38755質量: 0.98 木星質量
半径:1.25 木星半径
密度:0.50 木星密度
軌道長半径:0.0904 AU
平衡温度:1160 K
WASP-185 系について
WASP-185 から 4.6 arcsec の位置に伴星と思われる天体があり,WASP-185 より 4.4 等級暗い.ただし Gaia で観測するには暗すぎるため,この天体が物理的に付随しているかどうかは不明である.伴星の可能性があるこの天体を除けば,WASP-185 は天球上で比較的孤立して存在している.CORALIE による視線速度測定には伴星の存在は影響を与えないものの,TRAPPIST 望遠鏡による測光観測の視野には入っている.そのためその分を補正して解析を行った.
恒星の質量と半径からは,WASP-185 は進化した恒星であることが示唆される.
WASP-185b はホットジュピターとしては比較的長周期であり,軌道離心率は 0.24 である.惑星の質量と半径は,ホットジュピターとしては典型的なものである.
WASP-192 系
WASP-192
等級:V = 12.3距離:295 pc
スペクトル型:G0
有効温度:5900 K
金属量:[Fe/H] = 0.14
質量:1.09 太陽質量
半径:1.32 太陽半径
WASP-192b
軌道周期:2.8786765 日質量:2.30 木星質量
半径:1.23 木星半径
密度:1.22 木星密度
軌道長半径:0.0408 AU
平衡温度:1620 K
WASP-192 系について
WASP-192 は天球上で孤立しており,Gaia DR2 では 30 arcsec 以内に 6 等級暗い天体は存在しない.恒星の質量と半径から,やや進化した恒星であることが示唆される.惑星 WASP-192b は,軌道周期は典型的なホットジュピターのものである.ただしホットジュピターの平均的な質量よりは重い.半径は,2-3 木星質量の質量を持つホットジュピターとしては典型的なものである.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.10806
Kruse et al. (2019)
Detection of Hundreds of New Planet Candidates and Eclipsing Binaries in K2 Campaigns 0-8
(K2 Campaign 0-8 での数百の新しい惑星候補と食連星の検出)
その結果,818 個のトランジット惑星候補を検出した.そのうち 374 個が,これまでの探査でまだ発見されていないものである.2 つの惑星を持つ系は 64 個,3 惑星系は 15 個,4 惑星系は 5 個,5 惑星系は 2 個,6 惑星系は 1 個であった.
今回新しく検出された惑星のうち,100 個は M 型矮星を公転しており,この中にはおそらく岩石組成でハビタブルゾーン内にあるものを含んでいる.
惑星候補天体のうち 154 個は,太陽系と相互にトランジットする関係である.つまりこれらの惑星は,太陽系の惑星が太陽をトランジットする様子を少なくとも 1 つ見られるような,幾何学的に揃った軌道配置にある.
発見された惑星候補天体の中から,トランジット時刻変動を示す候補や,単一のトランジットや超短周期の極端な周期を持ついくつかの候補を発見した.発見された候補天体は,既に存在が確認されている惑星と同様のサイズ・軌道周期関係および存在頻度のパターンを示す.これは,例えば半径ギャップのような傾向である.
これらの惑星候補天体をフォローアップ観測で確認することで,K2 惑星の個数は最大で 50% 増加するだろう.またこれらの中心星を特徴づけることで,惑星の特性の統計的研究が改善されるだろう.
今回の解析サンプルは,視線速度でのフォローアップ観測や正体の JWST での特徴付けに適した明るい恒星を公転している惑星を多く含む.また,この研究の一環として検出された 579 個の食連星もリストアップした.
arXiv:1907.10806
Kruse et al. (2019)
Detection of Hundreds of New Planet Candidates and Eclipsing Binaries in K2 Campaigns 0-8
(K2 Campaign 0-8 での数百の新しい惑星候補と食連星の検出)
概要
ケプラーの拡張ミッションである K2 ミッションの Campaign 0-8 での観測データから,系外惑星の探査を行った.EVEREST パイプラインを用いて生成された K2 の光度曲線に,改良版の QATS 惑星探査アルゴリズムを適用した.解析の対象としたのは,Kp = 9-15 の範囲の等級を持つ,Campaign 0-8 の 1.5 × 105 個の恒星である.その結果,818 個のトランジット惑星候補を検出した.そのうち 374 個が,これまでの探査でまだ発見されていないものである.2 つの惑星を持つ系は 64 個,3 惑星系は 15 個,4 惑星系は 5 個,5 惑星系は 2 個,6 惑星系は 1 個であった.
今回新しく検出された惑星のうち,100 個は M 型矮星を公転しており,この中にはおそらく岩石組成でハビタブルゾーン内にあるものを含んでいる.
惑星候補天体のうち 154 個は,太陽系と相互にトランジットする関係である.つまりこれらの惑星は,太陽系の惑星が太陽をトランジットする様子を少なくとも 1 つ見られるような,幾何学的に揃った軌道配置にある.
発見された惑星候補天体の中から,トランジット時刻変動を示す候補や,単一のトランジットや超短周期の極端な周期を持ついくつかの候補を発見した.発見された候補天体は,既に存在が確認されている惑星と同様のサイズ・軌道周期関係および存在頻度のパターンを示す.これは,例えば半径ギャップのような傾向である.
これらの惑星候補天体をフォローアップ観測で確認することで,K2 惑星の個数は最大で 50% 増加するだろう.またこれらの中心星を特徴づけることで,惑星の特性の統計的研究が改善されるだろう.
今回の解析サンプルは,視線速度でのフォローアップ観測や正体の JWST での特徴付けに適した明るい恒星を公転している惑星を多く含む.また,この研究の一環として検出された 579 個の食連星もリストアップした.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1907.11141
Lam et al. (2019)
It takes two planets in resonance to tango around K2-146
(K2-146 周りでタンゴを踊るには 2 つの共鳴に入っている惑星がいる)
ここでは,過去に検出されていなかった惑星 K2-146c の発見を報告する.
K2-146c は軌道周期 3.97 日で,中心星をかすめるようなトランジット (grazing transit) 起こす軌道配置にある.この外側の惑星は,K2 観測キャンペーンの後期にしか有意に検出されていない.これはおそらくは軌道平面の歳差のためだと考えられる.
1200 日にわたる観測期間中の,K2-146b と c の TTV を測定した.その結果 TTV の強い反相関を発見し,これは 2 つの惑星が重力的に相互作用していることを示唆している.
TTV およびトランジットモデル解析では,K2-146b は 2.25 地球半径.5.6 地球質量,K2-146c は 2.59 地球半径,7.1 地球質量と推定される.2 つの惑星はやや大きな軌道離心率を持ち,内側と外側の惑星はそれぞれ e = 0.14 と 0.16 である.
2 つの惑星の軌道解の長時間数値積分からは,少なくとも 200 万年の間は力学的に安定であることが示された.惑星ペアの共鳴角の評価から,これらの惑星はおそらく 3:2 平均運動共鳴に捕獲されている.この系の軌道構造は,収束性の惑星移動に起源を持つことを示している可能性がある.
arXiv:1907.10620
Hamann et al. (2019)
K2-146: Discovery of Planet c, Precise Masses from Transit Timing, and Observed Precession
(K2-146:惑星 c の発見,トランジット時刻からの精密な質量,および歳差の観測)
ここでは Campaign 16, 18 のデータを解析し,2 番目の惑星 K2-146c を検出した.この惑星は軌道周期が 4.0 日で,K2-146b とは 3:2 の共鳴で秤動を起こしている.共鳴の擾乱による大きな反相関の時刻変動が両惑星に見られた.
惑星の相互傾斜角は 2.40° ± 0.25° で,K2-146c をより地球からの視線方向に近づける方に働いている.K2-146c は Campaign 5 で中心星をかすめるようなトランジット (grazing transit) をしており,そのため過去の探査では見逃されていた.Campaign 16, 18 では完全なトランジットをしており,トランジット深さは 3 倍になっていた.
Gaia DR2 のデータを用いて恒星の特性のパラメータを改善し,力学的フィットを用いて両惑星がサブネプチューンであることを示した.
2 つの惑星はそれぞれ,5.77 地球質量,7.50 地球質量,2.04 地球半径と 2.19 地球半径である.
これらの質量への制約は,小型の系外惑星に対する精度としては最も良いものである (なお,いくつかの巨大ガス惑星に関しては同程度の相対精度がある).これらの惑星は半径-軌道周期平面で見たときの光蒸発の谷に位置しているが,中心星が低光度の M 型矮星であるため,半径-輻射空間で見た時は大気を持つ惑星の中に入る.密度が地球の 60-80% であることから,どちらも一定量のガスのエンベロープを保持していることが示唆される.
arXiv:1907.11141
Lam et al. (2019)
It takes two planets in resonance to tango around K2-146
(K2-146 周りでタンゴを踊るには 2 つの共鳴に入っている惑星がいる)
概要
K2-146 は低温な 0.358 太陽質量の矮星で,2.67 日周期のミニネプチューン K2-146b を持つ.この惑星は 30 分を超える大きなトランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) を示し,系内にさらなる別の天体が存在することを示唆している.ここでは,過去に検出されていなかった惑星 K2-146c の発見を報告する.
K2-146c は軌道周期 3.97 日で,中心星をかすめるようなトランジット (grazing transit) 起こす軌道配置にある.この外側の惑星は,K2 観測キャンペーンの後期にしか有意に検出されていない.これはおそらくは軌道平面の歳差のためだと考えられる.
1200 日にわたる観測期間中の,K2-146b と c の TTV を測定した.その結果 TTV の強い反相関を発見し,これは 2 つの惑星が重力的に相互作用していることを示唆している.
TTV およびトランジットモデル解析では,K2-146b は 2.25 地球半径.5.6 地球質量,K2-146c は 2.59 地球半径,7.1 地球質量と推定される.2 つの惑星はやや大きな軌道離心率を持ち,内側と外側の惑星はそれぞれ e = 0.14 と 0.16 である.
2 つの惑星の軌道解の長時間数値積分からは,少なくとも 200 万年の間は力学的に安定であることが示された.惑星ペアの共鳴角の評価から,これらの惑星はおそらく 3:2 平均運動共鳴に捕獲されている.この系の軌道構造は,収束性の惑星移動に起源を持つことを示している可能性がある.
arXiv:1907.10620
Hamann et al. (2019)
K2-146: Discovery of Planet c, Precise Masses from Transit Timing, and Observed Precession
(K2-146:惑星 c の発見,トランジット時刻からの精密な質量,および歳差の観測)
概要
K2-146 は中期 M 型星 (0.331 太陽質量,0.330 太陽半径) であり,ケプラーの K2 ミッションでは Campaign 5, 16, 18 の期間に観測された.Campaign 5 のデータでは,軌道周期 2.6 日の惑星 K2-146b が発見されており,また未知の擾乱体による大きなトランジット時刻変動が見られている.ここでは Campaign 16, 18 のデータを解析し,2 番目の惑星 K2-146c を検出した.この惑星は軌道周期が 4.0 日で,K2-146b とは 3:2 の共鳴で秤動を起こしている.共鳴の擾乱による大きな反相関の時刻変動が両惑星に見られた.
惑星の相互傾斜角は 2.40° ± 0.25° で,K2-146c をより地球からの視線方向に近づける方に働いている.K2-146c は Campaign 5 で中心星をかすめるようなトランジット (grazing transit) をしており,そのため過去の探査では見逃されていた.Campaign 16, 18 では完全なトランジットをしており,トランジット深さは 3 倍になっていた.
Gaia DR2 のデータを用いて恒星の特性のパラメータを改善し,力学的フィットを用いて両惑星がサブネプチューンであることを示した.
2 つの惑星はそれぞれ,5.77 地球質量,7.50 地球質量,2.04 地球半径と 2.19 地球半径である.
これらの質量への制約は,小型の系外惑星に対する精度としては最も良いものである (なお,いくつかの巨大ガス惑星に関しては同程度の相対精度がある).これらの惑星は半径-軌道周期平面で見たときの光蒸発の谷に位置しているが,中心星が低光度の M 型矮星であるため,半径-輻射空間で見た時は大気を持つ惑星の中に入る.密度が地球の 60-80% であることから,どちらも一定量のガスのエンベロープを保持していることが示唆される.
天文・宇宙物理関連メモ vol.1054 Nortmann et al. (2018) WASP-69b でのヘリウム大気の検出と短波長輻射との関連性