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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.05892
Hirano et al. (2020)
Evidence for Spin-orbit Alignment in the TRAPPIST-1 System
(TRAPPIST-1 系の自転・軌道の軸の整列の兆候)
視線速度の測定から,射影した恒星の自転軸は,3 つの惑星が同一平面上の軌道を持つと仮定すると 1 ± 28 度と測定された.ただし視線速度データには未知の要因による相関したノイズが存在することには注意が必要である.
また,恒星の吸収線に予想されるスペクトル線の変形の証拠を探査し,惑星 b による “Doppler shadow” を 1.7% の偽陽性確率で検出した.観測された残差の相互相関マップの解析では 19 (+13, -15) 度という値を与えた.
これらの結果は,TRAPPIST-1 の赤道面は惑星の共通軌道平面から大きく傾いてはいないことを示唆している.しかし,この結論を実証するためのさらなる観測が推奨される.
arXiv:2002.05892
Hirano et al. (2020)
Evidence for Spin-orbit Alignment in the TRAPPIST-1 System
(TRAPPIST-1 系の自転・軌道の軸の整列の兆候)
概要
TRAPPIST-1 の惑星の Rossiter-McLaughlin effect (ロシター・マクローリン効果) の測定を行うため,惑星 TRAPPIST-1e, f, b のトランジットの高分散分光観測を実施した.スペクトルは 8.2 m すばる望遠鏡の InfraRed Doppler 分光器で取得し,また同時に測光観測を Las Cumbres Observatory Global Telescope の 1 m 望遠鏡で行った.視線速度の測定から,射影した恒星の自転軸は,3 つの惑星が同一平面上の軌道を持つと仮定すると 1 ± 28 度と測定された.ただし視線速度データには未知の要因による相関したノイズが存在することには注意が必要である.
また,恒星の吸収線に予想されるスペクトル線の変形の証拠を探査し,惑星 b による “Doppler shadow” を 1.7% の偽陽性確率で検出した.観測された残差の相互相関マップの解析では 19 (+13, -15) 度という値を与えた.
これらの結果は,TRAPPIST-1 の赤道面は惑星の共通軌道平面から大きく傾いてはいないことを示唆している.しかし,この結論を実証するためのさらなる観測が推奨される.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.04075
Noll et al. (2020)
Trans-Neptunian binaries (2018)
(海王星以遠の連星 (2018))
連星はカイパーベルト天体のすべての力学的なグループで発見されている.冷たい古典的なグループ (海王星との共鳴に入っておらず,散乱されておらず,軌道傾斜角が小さい天体のグループ) に連星が多く見られ,また力学的に熱い天体にも多数発見されている.例えば,海王星と平均運動共鳴に入っているもの,海王星に散乱されたもの,などで連星系が発見されている.
太陽系外縁天体の 30% 程度は,bilobed 形状をしているか,あるいは接触連星などの状態にあると推定される.カイパーベルト天体の近接連星は直接解像することはできないが,自転の光度曲線や掩蔽から同定することはできる.一例として,Plutino に属する天体のひとつである 2001 QG298 は,光度曲線が 1.14 mag の振幅を持ち,13.77 時間の二重極大の自転周期を示し,これは必要とされる軸比を持った平衡流体天体とは一致しない特徴である.そのため,この天体は接触連星であるとの説が提唱されている (Sheppard & Jewitt 2004).
Noll et al. (2012) では,低傾斜角の連星 Plutino が少ないことが顕著な特徴として報告されており,軌道傾斜角が 12° 未満で絶対等級が 5 ≦ H ≦ 8 mag の中では連星頻度は 5% (+6%, -2%) であった.そのデータセット中には,軌道傾斜角が 5.5° 未満の Plutino には連星をなしている天体はいなかった.それに対して 12° 未満の 2:1 共鳴天体では 27 (+16, -9)% が連星となっており,これは冷たい古典的カイパーベルト天体と似ている (29 (+7,-6)%).これは,海王星の低軌道離心率移動の振る舞いにおいて,もし 2:1 共鳴が冷たい古典的天体を掃いたが 3:2 共鳴は掃かなかった場合に予測される傾向と整合的である.
arXiv:2002.04075
Noll et al. (2020)
Trans-Neptunian binaries (2018)
(海王星以遠の連星 (2018))
概要
太陽系外縁天体の連星についてのレビュー論文.直接撮像
太陽系外縁天体の連星の大部分は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた直接撮像で観測されている.2008 年の段階では 43 個の連星系が知られていた (Noll et al. 2008).現在では,86 個と倍の天体が 1 つ以上の伴星を持つことが知られている.連星はカイパーベルト天体のすべての力学的なグループで発見されている.冷たい古典的なグループ (海王星との共鳴に入っておらず,散乱されておらず,軌道傾斜角が小さい天体のグループ) に連星が多く見られ,また力学的に熱い天体にも多数発見されている.例えば,海王星と平均運動共鳴に入っているもの,海王星に散乱されたもの,などで連星系が発見されている.
光度曲線
小天体の光度曲線では,細長い天体,近接した連星,あるいは二葉状 (bilobed) 天体 (接触連星) を示す特徴が,大部分の小天体の集団内に発見されている.例えば地球近傍小惑星 (Benner et al. 2015),メインベルトの小惑星 (Agarwal et al. 2017),トロヤ群 (Ryan et al. 2017),彗星 (Harmon et al. 2010など),太陽系外縁天体 (Sheppard & Jewitt 2004など) でそのような特徴が検出されている.太陽系外縁天体の 30% 程度は,bilobed 形状をしているか,あるいは接触連星などの状態にあると推定される.カイパーベルト天体の近接連星は直接解像することはできないが,自転の光度曲線や掩蔽から同定することはできる.一例として,Plutino に属する天体のひとつである 2001 QG298 は,光度曲線が 1.14 mag の振幅を持ち,13.77 時間の二重極大の自転周期を示し,これは必要とされる軸比を持った平衡流体天体とは一致しない特徴である.そのため,この天体は接触連星であるとの説が提唱されている (Sheppard & Jewitt 2004).
連星の頻度
最も興味があるとされるのが,どれくらいの天体が連星をなしているのかということである.しかしこれに答えるためには,観測限界やバイアス,ポピュレーション間で連星頻度に違いが存在する可能性,サイズ依存性が存在する可能性,軌道安定の領域など,多数の知識が必要とされ,難しい問題である.古典的天体での連星割合
力学的に冷たい古典的カイパーベルト天体では,連星になっている割合は ~20% と推定される.これは,同じ明るさの天体で比較すると,力学的に熱い古典的天体の割合を超える.共鳴天体の連星
力学的に励起された集団で連星になっているものが発見されており,これらは天体の経験した力学的な摂動の診断に使える可能性がある.Noll et al. (2012) では,低傾斜角の連星 Plutino が少ないことが顕著な特徴として報告されており,軌道傾斜角が 12° 未満で絶対等級が 5 ≦ H ≦ 8 mag の中では連星頻度は 5% (+6%, -2%) であった.そのデータセット中には,軌道傾斜角が 5.5° 未満の Plutino には連星をなしている天体はいなかった.それに対して 12° 未満の 2:1 共鳴天体では 27 (+16, -9)% が連星となっており,これは冷たい古典的カイパーベルト天体と似ている (29 (+7,-6)%).これは,海王星の低軌道離心率移動の振る舞いにおいて,もし 2:1 共鳴が冷たい古典的天体を掃いたが 3:2 共鳴は掃かなかった場合に予測される傾向と整合的である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.03958
Badenas-Agusti et al. (2020)
HD 191939: Three Sub-Neptunes Transiting a Sun-like Star Only 54 pc Away
(HD 191939:54 pc しか離れていない太陽類似星をトランジットする 3 つのサブネプチューン)
Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) の 5 ヶ月間の観測データと地上からの測光観測,過去の可視光撮像観測,視線速度観測,高角度分解能の観測とを合わせて惑星の存在を実証した.
今回発見された惑星はいずれも同程度の半径を持っており,軌道は安定で円軌道の同一平面の構造と整合的であり,1:3 と 3:4 の平均運動共鳴に近い軌道周期を持つ.
中心星が明るく彩層活動が低いことから,追加観測の対称として適している.さらに系がコンパクトで軌道共鳴に近い性質を持っていることから,惑星質量をトランジット時刻変動から独立して推定することが可能であると考えられる.
半径:0.945 太陽半径
質量:0.92 太陽質量
年齢:70 億歳
有効温度:5427 K
光度:0.69 太陽光度
距離:53.48 pc
スペクトル型:G8V
半径:3.37 地球半径
軌道長半径:0.089 AU
平衡温度:778 K
半径:3.22 地球半径
軌道長半径:0.178 AU
平衡温度:550 K
半径:3.16 地球半径
軌道長半径:0.216 AU
平衡温度:499 K
arXiv:2002.03958
Badenas-Agusti et al. (2020)
HD 191939: Three Sub-Neptunes Transiting a Sun-like Star Only 54 pc Away
(HD 191939:54 pc しか離れていない太陽類似星をトランジットする 3 つのサブネプチューン)
概要
HD 191939 (TIC 269701147, TOI 1339) まわりでの 3 つのサブネプチューンサイズのトランジット惑星の発見について報告する.恒星は近傍の明るい太陽類似星で,スペクトル型は G8V であり,わずか 54 pc の距離にある.Transiting Exoplanet Survey Satellite (TESS) の 5 ヶ月間の観測データと地上からの測光観測,過去の可視光撮像観測,視線速度観測,高角度分解能の観測とを合わせて惑星の存在を実証した.
今回発見された惑星はいずれも同程度の半径を持っており,軌道は安定で円軌道の同一平面の構造と整合的であり,1:3 と 3:4 の平均運動共鳴に近い軌道周期を持つ.
中心星が明るく彩層活動が低いことから,追加観測の対称として適している.さらに系がコンパクトで軌道共鳴に近い性質を持っていることから,惑星質量をトランジット時刻変動から独立して推定することが可能であると考えられる.
パラメータ
HD 191939
等級:V = 8.97半径:0.945 太陽半径
質量:0.92 太陽質量
年齢:70 億歳
有効温度:5427 K
光度:0.69 太陽光度
距離:53.48 pc
スペクトル型:G8V
HD 191939b
軌道周期:8.880411 日半径:3.37 地球半径
軌道長半径:0.089 AU
平衡温度:778 K
HD 191939c
軌道周期:28.58060 日半径:3.22 地球半径
軌道長半径:0.178 AU
平衡温度:550 K
HD 191939d
軌道周期:28.3561 日半径:3.16 地球半径
軌道長半径:0.216 AU
平衡温度:499 K
惑星の質量について
今回発見された惑星の質量は未決定である.質量・半径関係を元に推定すると,それぞれ 13, 12, 12 地球質量であると予想される.論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.02455
Mordasini et al. (2020)
Planetary evolution with atmospheric photoevaporation I. Analytical derivation and numerical study of the evaporation valley and transition from super-Earths to sub-Neptunes
(大気の光蒸発を伴った惑星進化 I.蒸発の谷の解析的な導出と数値的研究とスーパーアースからサブネプチューンへの遷移)
ここでは,この蒸発の谷のパラメータ空間状での位置を解析的に導出し,それが惑星の特性と恒星の XUV 光度にどう依存するかの理解を目的とした研究を行った.また,惑星形成モデルへの制約を導出した.
まず,水素・ヘリウムが散逸している,中心星に近接した低質量惑星の進化を数値シミュレーションを用いて検証した.惑星のコア質量と軌道間隔を区切ってパラメータ研究を行い,また事後形成の水素・ヘリウム質量や蒸発の強度を変化させ,さらに大気とコアの組成も変化させて調査を行った.次に,蒸発の谷の位置の解析的なモデルを開発した.
その結果,蒸発の谷の底 (惑星の存在個数が最も小さくなる場所) は,それぞれの軌道距離における最も大きな剥ぎ取られたコアの半径によって定量化され,これは惑星形成後に捕獲された水素・ヘリウム質量にはわずかにしか依存しないことを見出した.このことは,初期の水素・ヘリウムの質量が大きい場合は惑星から蒸発するガスが多く存在していることを意味するが,この場合惑星の平均密度は低くなり,惑星からの質量散逸が増加することが原因である.
恒星の XUV 光度を考慮すると,コアの半径は \(L_{\rm XUV}^{0.135}\) でスケールする.同じ弱い依存性は,エネルギー律速散逸の効率係数である ε にも適用される.
数値的及び解析的に見出されているように,惑星コアの半径は軌道周期の関数として,ε が定数の場合 \(P^{-2p_{c}/3}\approx P^{-0.18}\) に依存する.ここで,\(M_{c}\propto R_{c}^{p_{c}}}\) は固体コアの質量半径関係である.コア半径は,10 日周期の地球類似組成の場合 1.7 地球半径で,氷の質量割合に対して線形で増加する.
結果として数値シミュレーションは,惑星に吸収される恒星の XUV 輻射の時間的な積分値が,コアの重力ポテンシャル中のエンベロープの束縛エネルギーよりも大きい場合,エンベロープの完全な蒸発が発生するとする解析的なモデルを非常によく説明する.
形成後に捕獲した水素・ヘリウム大気の量への依存性が弱いことは,蒸発の谷は惑星形成の間のガス降着への強い制約は与えないことを意味する.しかし,初期の水素・ヘリウム質量,恒星の XUV 光度と ε への依存性が弱いことは,蒸発の谷が非常に明確に観測されていることと,理論的な様々なモデルが同様な結果を見出していることの理由になりうる.同時に,XUV 光度は観測的に大きく広がっていることから,それへの依存性によって蒸発の谷がなぜ完全に空白ではないのかを説明可能である.
arXiv:2002.02455
Mordasini et al. (2020)
Planetary evolution with atmospheric photoevaporation I. Analytical derivation and numerical study of the evaporation valley and transition from super-Earths to sub-Neptunes
(大気の光蒸発を伴った惑星進化 I.蒸発の谷の解析的な導出と数値的研究とスーパーアースからサブネプチューンへの遷移)
概要
ケプラーによる系外惑星の観測データでは,小さいスーパーアースと大きいサブネプチューンの間を区分する,惑星の存在個数が欠乏している領域があることが明らかになっている.この特徴は,大気散逸によって水素・ヘリウムを持つ惑星と持たない惑星が別れた,「蒸発の谷」(evaporation valley) として説明される.ここでは,この蒸発の谷のパラメータ空間状での位置を解析的に導出し,それが惑星の特性と恒星の XUV 光度にどう依存するかの理解を目的とした研究を行った.また,惑星形成モデルへの制約を導出した.
まず,水素・ヘリウムが散逸している,中心星に近接した低質量惑星の進化を数値シミュレーションを用いて検証した.惑星のコア質量と軌道間隔を区切ってパラメータ研究を行い,また事後形成の水素・ヘリウム質量や蒸発の強度を変化させ,さらに大気とコアの組成も変化させて調査を行った.次に,蒸発の谷の位置の解析的なモデルを開発した.
その結果,蒸発の谷の底 (惑星の存在個数が最も小さくなる場所) は,それぞれの軌道距離における最も大きな剥ぎ取られたコアの半径によって定量化され,これは惑星形成後に捕獲された水素・ヘリウム質量にはわずかにしか依存しないことを見出した.このことは,初期の水素・ヘリウムの質量が大きい場合は惑星から蒸発するガスが多く存在していることを意味するが,この場合惑星の平均密度は低くなり,惑星からの質量散逸が増加することが原因である.
恒星の XUV 光度を考慮すると,コアの半径は \(L_{\rm XUV}^{0.135}\) でスケールする.同じ弱い依存性は,エネルギー律速散逸の効率係数である ε にも適用される.
数値的及び解析的に見出されているように,惑星コアの半径は軌道周期の関数として,ε が定数の場合 \(P^{-2p_{c}/3}\approx P^{-0.18}\) に依存する.ここで,\(M_{c}\propto R_{c}^{p_{c}}}\) は固体コアの質量半径関係である.コア半径は,10 日周期の地球類似組成の場合 1.7 地球半径で,氷の質量割合に対して線形で増加する.
結果として数値シミュレーションは,惑星に吸収される恒星の XUV 輻射の時間的な積分値が,コアの重力ポテンシャル中のエンベロープの束縛エネルギーよりも大きい場合,エンベロープの完全な蒸発が発生するとする解析的なモデルを非常によく説明する.
形成後に捕獲した水素・ヘリウム大気の量への依存性が弱いことは,蒸発の谷は惑星形成の間のガス降着への強い制約は与えないことを意味する.しかし,初期の水素・ヘリウム質量,恒星の XUV 光度と ε への依存性が弱いことは,蒸発の谷が非常に明確に観測されていることと,理論的な様々なモデルが同様な結果を見出していることの理由になりうる.同時に,XUV 光度は観測的に大きく広がっていることから,それへの依存性によって蒸発の谷がなぜ完全に空白ではないのかを説明可能である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.02795
Merritt et al. (2020)
Non-detection of TiO and VO in the atmosphere of WASP-121b using high-resolution spectroscopy
(高分散分光での WASP-121b 大気中の TiO と VO の非検出)
ここでは,ウルトラホットジュピター WASP-121b の大気中の TiO と VO の探査を実施した.この惑星は 2400 K 程度以上の平衡温度を持ち,昼側のスペクトルに水の特徴があることが報告されており,温度逆転層の他,低分解能観測で VO の暫定的な検出が報告されている.この天体の透過スペクトルを UVES/VLT で観測し,相互相関手法を使用して,観測された温度逆転に TiO か VO が関係しているかどうかを調査した.
その結果,この惑星の昼夜境界領域には TiO と VO の存在は検出されなかった.
それぞれの分子の存在度を変化させてデータにシグナルを挿入することで,大まかな検出限界として [VO] ≲ -7.9,[TiO] ≲ -9.3 という値を与えた.しかしこれらの検出限界は,大気中の雲層による散乱特性およびその位置と大きく縮退する.
この結果は,この惑星の温度逆転層に関しては TiO も VO も主要な原因でないことを示唆している.しかし VO に対するより正確なスペクトル線のリストが開発されるまでは,その存在を完全に否定することはできない.赤色の可視光での釣果吸収の原因となりうる別の強い可視光を吸収する分子種の発見が将来の研究で行われるだろう.
しかし,後のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット測定では,これまでに考えられていたよりも不定性が大きい事が Hansen et al. (2014) により指摘された.さらに Zellem et al. (2014) などにより,HD 209458b 大気中には温度逆転層が存在しないとするモデルと整合的な観測結果が得られた.
Sedaghati et al. (2017) は,WASP-19b の VLT による地上からの透過光分光観測で,TiO の検出を報告した.これは先立つハッブル宇宙望遠鏡 STIS での TiO の非検出の報告と矛盾するものであった (Huitson et al. 2013).しかしその後にこの検出を再現する試みが GMT の IMACS を用いた観測で行われたものの,これは失敗に終わっている (Espinoza et al. 2019).
Haynes et al. (2015) は,WASP-33b (平衡温度 ~2700 K) の昼側大気を HST/WFC3 を用いて低分散観測を行い,~1 µm での熱放射の特徴を発見した.この放射は大気中の TiO の存在と整合的である.この主張は後に,すばる望遠鏡の HDS で取得された昼側での高分散分光観測と相互相関技術によって補強された (Nugroho et al. 2017).これらの報告は現在のところ,系外惑星大気中の TiO の存在の主張としては最も強いものである.
WASP-121b の昼夜境界領域に TiO が存在するかどうかに関しては Evans et al. (2018) でも疑問が呈されており,そのモデルでは VO のみでスペクトルをフィッティングしていた.TiO の非検出に関しては過去の結果と整合的であり,この惑星に検出可能な量の TiO が存在しないことのさらなる証拠となる.
一方で今回の VO の非検出は,ハッブル宇宙望遠鏡での低分散観測で放射と透過光の両方に VO の兆候を検出した Evans et al. (2016,2017,2018),Mikal-Evans et al. (2019) と非整合的な結果である.低分散観測は系統誤差の除去が不完全である問題があることが知られており,特にハッブル宇宙望遠鏡の STIS でそれが顕著である (Gibson et al. 2017,2019).今回の観測で VO が非検出であった原因は謎である.
ただし,系外惑星大気中の検出における VO のラインリストの高分散分光観測への適用可能性には大きな疑問が残る.
arXiv:2002.02795
Merritt et al. (2020)
Non-detection of TiO and VO in the atmosphere of WASP-121b using high-resolution spectroscopy
(高分散分光での WASP-121b 大気中の TiO と VO の非検出)
概要
温度逆転層は,ウルトラホットジュピターの大気中に存在することが長く予測されてきた.しかしその原因と考えられている TiO (酸化チタン) と VO (酸化バナジウム) の検出は未だに不明瞭である.ここでは,ウルトラホットジュピター WASP-121b の大気中の TiO と VO の探査を実施した.この惑星は 2400 K 程度以上の平衡温度を持ち,昼側のスペクトルに水の特徴があることが報告されており,温度逆転層の他,低分解能観測で VO の暫定的な検出が報告されている.この天体の透過スペクトルを UVES/VLT で観測し,相互相関手法を使用して,観測された温度逆転に TiO か VO が関係しているかどうかを調査した.
その結果,この惑星の昼夜境界領域には TiO と VO の存在は検出されなかった.
それぞれの分子の存在度を変化させてデータにシグナルを挿入することで,大まかな検出限界として [VO] ≲ -7.9,[TiO] ≲ -9.3 という値を与えた.しかしこれらの検出限界は,大気中の雲層による散乱特性およびその位置と大きく縮退する.
この結果は,この惑星の温度逆転層に関しては TiO も VO も主要な原因でないことを示唆している.しかし VO に対するより正確なスペクトル線のリストが開発されるまでは,その存在を完全に否定することはできない.赤色の可視光での釣果吸収の原因となりうる別の強い可視光を吸収する分子種の発見が将来の研究で行われるだろう.
温度逆転層と TiO/VO について
ホットジュピターでの検出報告
ホットジュピター大気中の温度逆転層の最初の兆候は,Knutson et al. (2008) によって HD 209458b の大気中に存在することが報告された.これはスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた二次食観測を元にしている.しかし,後のスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた単一のトランジット測定では,これまでに考えられていたよりも不定性が大きい事が Hansen et al. (2014) により指摘された.さらに Zellem et al. (2014) などにより,HD 209458b 大気中には温度逆転層が存在しないとするモデルと整合的な観測結果が得られた.
ウルトラホットジュピターでの検出報告
後のウルトラホットジュピターにおけるさらなる観測では,驚くべき数の平坦な黒体放射的な放射スペクトルが検出されている (Swain et al. 2013など).これらの観測では,期待されていた温度逆転の存在を示唆する吸収や放射特性は見られていない.Sedaghati et al. (2017) は,WASP-19b の VLT による地上からの透過光分光観測で,TiO の検出を報告した.これは先立つハッブル宇宙望遠鏡 STIS での TiO の非検出の報告と矛盾するものであった (Huitson et al. 2013).しかしその後にこの検出を再現する試みが GMT の IMACS を用いた観測で行われたものの,これは失敗に終わっている (Espinoza et al. 2019).
Haynes et al. (2015) は,WASP-33b (平衡温度 ~2700 K) の昼側大気を HST/WFC3 を用いて低分散観測を行い,~1 µm での熱放射の特徴を発見した.この放射は大気中の TiO の存在と整合的である.この主張は後に,すばる望遠鏡の HDS で取得された昼側での高分散分光観測と相互相関技術によって補強された (Nugroho et al. 2017).これらの報告は現在のところ,系外惑星大気中の TiO の存在の主張としては最も強いものである.
WASP-121b の温度逆転層と TiO/VO
WASP-121b はハッブル宇宙望遠鏡での低分散観測で,水の検出,および透過光中に TiO と VO の暫定的な証拠が検出されている (Evans et al. 2016,Esiaras et al. 2018).また VO のさらなる証拠と,水の特徴を介した温度逆転の測定が放射光で検出されている (Evans et al. 2017).さらに VO の証拠 (ただし TiO ではない) と,未知の青い波長での吸収源 (SH と示唆されている) が透過光で検出されている (Evans et al. 2018),さらなる放射光の測定と新しい復元手法でも VO の存在が示唆されている (Mikal-Evans et al. 2019).TESS による位相曲線の速攻観測では大気中の温度逆転の存在が確認され,その原因として TiO, VO, H- が示唆されている (Daylan et al. 2019,Bourrier et al. 2019).※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.231 Evans et al. (2016) ホットジュピター大気中での TiO/VO の検出の証拠
天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
天文・宇宙物理関連メモ vol.1027 Evans et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-121b の透過光分光観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1161 Mikal-Evans et al. (2019) ハッブル宇宙望遠鏡によるウルトラホットジュピター WASP-121b の放射スペクトル
天文・宇宙物理関連メモ vol.1207 Daylan et al. (2019) TESS によるウルトラホットジュピター WASP-121b の位相曲線観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1206 Bourrier et al. (2019) ウルトラホットジュピター WASP-121b の可視光の位相曲線
天文・宇宙物理関連メモ vol.231 Evans et al. (2016) ホットジュピター大気中での TiO/VO の検出の証拠
天文・宇宙物理関連メモ vol.545 Evans et al. (2017) 成層圏を持つ非常に高温な巨大ガス惑星 WASP-121b
天文・宇宙物理関連メモ vol.1027 Evans et al. (2018) ウルトラホットジュピター WASP-121b の透過光分光観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1161 Mikal-Evans et al. (2019) ハッブル宇宙望遠鏡によるウルトラホットジュピター WASP-121b の放射スペクトル
天文・宇宙物理関連メモ vol.1207 Daylan et al. (2019) TESS によるウルトラホットジュピター WASP-121b の位相曲線観測
天文・宇宙物理関連メモ vol.1206 Bourrier et al. (2019) ウルトラホットジュピター WASP-121b の可視光の位相曲線
結果と議論
今回の観測では,一般的な相互相関手法で WASP-121b の大気から TiO と VO は検出されなかった.また injection test からは,過去の研究で示唆されるような太陽存在度を超える VO が存在した場合は,高確率で分子のシグナルを検出できるはずであることも示された.WASP-121b の昼夜境界領域に TiO が存在するかどうかに関しては Evans et al. (2018) でも疑問が呈されており,そのモデルでは VO のみでスペクトルをフィッティングしていた.TiO の非検出に関しては過去の結果と整合的であり,この惑星に検出可能な量の TiO が存在しないことのさらなる証拠となる.
一方で今回の VO の非検出は,ハッブル宇宙望遠鏡での低分散観測で放射と透過光の両方に VO の兆候を検出した Evans et al. (2016,2017,2018),Mikal-Evans et al. (2019) と非整合的な結果である.低分散観測は系統誤差の除去が不完全である問題があることが知られており,特にハッブル宇宙望遠鏡の STIS でそれが顕著である (Gibson et al. 2017,2019).今回の観測で VO が非検出であった原因は謎である.
ただし,系外惑星大気中の検出における VO のラインリストの高分散分光観測への適用可能性には大きな疑問が残る.
天文・宇宙物理関連メモ vol.583 Sedaghati et al. (2017) ホットジュピター WASP-19b における酸化チタンの検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.962 Espinoza et al. (2018) WASP-19b の特徴に欠けた大気透過スペクトルの検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.612 Nugroho et al. (2017) WASP-33b の酸化チタンと成層圏の存在