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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.04301
Bourrier et al. (2018)
The 55 Cnc system reassessed
(かに座55番星系の再評価)
最も内側を公転する かに座55番星e は,中心星に異常に近接した軌道を持つスーパーアースである.最近の観測では,一定量の大気が存在しているだろうと考えられているが,その組成や惑星の性質は未知のままである.
ここで導出したかに座55番星e の質量 (8.0 ± 0.3 地球質量) を,ハッブル宇宙望遠鏡の STIS の観測で改善された光学的な半径の値 (1.88 ± 0.33 地球半径) と組み合わせ,惑星の平均密度の推定値を改善した.得られた密度は,6.7 ± 0.4 g cm-3 である.
改善されたこれらの特徴を元にして,かに座55番星e のあり得る内部構造について,一般化されたベイズモデルを用いて特徴付けを行った.
その結果,この惑星は重い大気に包まれているであろうということを確認した.大気は惑星半径の数%を占めていると考えられる.
重い大気を持っているのではなく,大気下層に水の層が存在しているという可能性を否定は出来ないが,この可能性は低いと考えられる.これは,スペクトル全体に渡るこの惑星の観測結果と,惑星が強い輻射を受けていることによるものである.
arXiv:1807.04301
Bourrier et al. (2018)
The 55 Cnc system reassessed
(かに座55番星系の再評価)
概要
55 Cnc (かに座55番星) の 20 年間に渡る測光と分光データを用いて,中心星の自転とその磁気サイクルを測定した.また,この系の視線速度解析に対して測定した磁気サイクルの影響を適用することで,この系にある最も外側の巨大惑星と,その他の 4 つの惑星の特徴を修正した.最も内側を公転する かに座55番星e は,中心星に異常に近接した軌道を持つスーパーアースである.最近の観測では,一定量の大気が存在しているだろうと考えられているが,その組成や惑星の性質は未知のままである.
ここで導出したかに座55番星e の質量 (8.0 ± 0.3 地球質量) を,ハッブル宇宙望遠鏡の STIS の観測で改善された光学的な半径の値 (1.88 ± 0.33 地球半径) と組み合わせ,惑星の平均密度の推定値を改善した.得られた密度は,6.7 ± 0.4 g cm-3 である.
改善されたこれらの特徴を元にして,かに座55番星e のあり得る内部構造について,一般化されたベイズモデルを用いて特徴付けを行った.
その結果,この惑星は重い大気に包まれているであろうということを確認した.大気は惑星半径の数%を占めていると考えられる.
重い大気を持っているのではなく,大気下層に水の層が存在しているという可能性を否定は出来ないが,この可能性は低いと考えられる.これは,スペクトル全体に渡るこの惑星の観測結果と,惑星が強い輻射を受けていることによるものである.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.04417
Varela et al. (2018)
Effect of the exoplanet magnetic field topology on its magnetospheric radio emission
(系外惑星磁場構造の磁気圏電波放射への影響)
この研究の目的は,散逸する力とそれに伴う系外惑星の磁気圏からの電波放射を,惑星間磁場と恒星風によって擾乱された異なるトポロジーのもとで計算することである.これにより,スケーリング則からの予測を更新し,将来の系外惑星からの電波検出の解釈を準備することができる,
ここでは,磁気流体力学コード PLUTO を使用した,球座標の設定で,系外惑星の磁気圏内での運動エネルギーと磁場エネルギー (ポインティングフラックス) の散逸による合計の電波放射水準を解析した.系外惑星の昼側と磁気圏尾部 (magnetotail) での系外惑星電波放射の詳細な寄与を推測するための形式を使用した.
磁場のモデルは水星のような状況をベースにしているが,結果をより強い磁場を持つ系外惑星に外挿し,電波放射の下限値を与えた.
その結果,予想される散逸するエネルギーとその結果としての電波放射は,系外惑星の磁気圏のトポロジーと惑星間磁場 (interplanetary magnetic field IMF) の方向に大きく依存する事が分かった.従って,系外惑星の夜側と昼側からの電波放射は,系外惑星の磁場のトポロジーの情報を含んでいると考えられる.
さらに,もし系外惑星の磁気圏のトポロジーが既知であれば,電波放射の測定は,瞬間的な恒星風の動圧,惑星間磁場の配置と強度を代用するものとして使用できる.
arXiv:1807.04417
Varela et al. (2018)
Effect of the exoplanet magnetic field topology on its magnetospheric radio emission
(系外惑星磁場構造の磁気圏電波放射への影響)
概要
系外惑星に衝突する,恒星からの磁化された風は,電波放射を生み出すと考えられる.太陽系の惑星を元にしたスケーリング則より,惑星からの電波放射は,恒星風,惑星間磁場,系外惑星磁気圏の構造に依存することが予想される.この研究の目的は,散逸する力とそれに伴う系外惑星の磁気圏からの電波放射を,惑星間磁場と恒星風によって擾乱された異なるトポロジーのもとで計算することである.これにより,スケーリング則からの予測を更新し,将来の系外惑星からの電波検出の解釈を準備することができる,
ここでは,磁気流体力学コード PLUTO を使用した,球座標の設定で,系外惑星の磁気圏内での運動エネルギーと磁場エネルギー (ポインティングフラックス) の散逸による合計の電波放射水準を解析した.系外惑星の昼側と磁気圏尾部 (magnetotail) での系外惑星電波放射の詳細な寄与を推測するための形式を使用した.
磁場のモデルは水星のような状況をベースにしているが,結果をより強い磁場を持つ系外惑星に外挿し,電波放射の下限値を与えた.
その結果,予想される散逸するエネルギーとその結果としての電波放射は,系外惑星の磁気圏のトポロジーと惑星間磁場 (interplanetary magnetic field IMF) の方向に大きく依存する事が分かった.従って,系外惑星の夜側と昼側からの電波放射は,系外惑星の磁場のトポロジーの情報を含んでいると考えられる.
さらに,もし系外惑星の磁気圏のトポロジーが既知であれば,電波放射の測定は,瞬間的な恒星風の動圧,惑星間磁場の配置と強度を代用するものとして使用できる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.00869
Yan & Henning (2018)
An extended hydrogen envelope of the extremely hot giant exoplanet KELT-9b
(極めて高温な巨大系外惑星 KELT-9b の広がった水素エンベロープ)
ここでは,この惑星の広がった水素大気の初めての検出について報告する.この検出は,トランジット中のバルマー Hα 線での原子水素吸収の測定によって達成された.この波長では,主に中心星からの高レベルの極端紫外線輻射の影響のため,異常に強い吸収を示す.
また,Hα 線吸収の明確な波長のシフトを検出した.大部分は惑星の軌道運動による影響である.
得られた透過スペクトルは,明確なラインのコントラストが見られた (Hα ラインの中心で 1.15% の超過吸収).
今回の観測結果は,Hα 線の中心波長でのこの惑星の有効半径は惑星半径よりおよそ 1.64 倍大きいことを示唆している.この惑星のロッシュローブ半径は 1.91 惑星半径であり,惑星はロッシュローブのサイズ近くまで大きく広がった水素エンベロープを持っていることを示唆している,また,おそらくは大規模な大気散逸が進行していると考えられる.
トランジットは 2017 年 8 月 6 日と 9 月 21 日に観測された.
また,惑星の大気風速もパラメータとして取り扱っている.これは,昼側から夜側への高高度での風が,系外惑星の透過光スペクトル観測で検出されている先例があるからである.HD 189733b (Brogi et al. 2016,Wyttenbach et al. 2015,Louden et al. 2015),HD 209458b (Snellen et al. 2010) で,大気の風によると思われる特徴が検出されている.
ロシター効果は,恒星の自転の影響で,惑星のトランジット最中に観測される恒星のライン分布が時間と共に変化する現象である.
この惑星系におけるロシター効果は,ドップラートモグラフィー (Dopplar tomography) と共に検出済みであり,中心星が高速で自転しており,自転と公転の軸のずれは -84.8° と,ほぼ極軌道で惑星が公転していることが分かっている (Gaudi et al. 2017).ロシター効果も解析モデルに含める,
CLV 効果は,恒星円盤面の中心部分と外縁領域では恒星のスペクトル線の分布が変化することによるものである.ただし既存のモデルは 1 惑星半径 (通常の観測で得られる惑星の半径) を想定したものであるため,ここではファクター f をかけて Hα 線での大きな有効半径として代用している.MCMC でフィッティングした結果,f は 1.98 と推定される.
フィッティングの結果,惑星の軌道運動速度は 268.7 km/s であり,これはトランジット最中の惑星の視線速度の変化が -91 - 91 km/s の範囲であることに対応している (※注釈:トランジット開始/終了時である軌道位相 ~ 0.055 における惑星の視線速度を意味している).
中心星が惑星との質量中心 (重心) 周りを公転する速度は過去の観測で測定されており,0.276 km/s である事がわかっている.軌道周期が 1.48112 日,軌道傾斜角が 86.79° であり,軌道離心率 0 を仮定すると,恒星質量が 3.00 ± 0.21 太陽質量,惑星質量は 3.23 ± 0.94 木星質量と推定される.この手法で推定された恒星質量は,恒星のスペクトルモデリングからの推定である 2.52 太陽質量と概ね整合的である.
得られたスペクトルを,惑星の視線速度を補正して計算した.またロシター効果と CLV 効果も補正に加えた.その結果,Hα の吸収スペクトルを 1.15% のコントラストでよく分解することができた.スペクトルの半値全幅は 51.2 km/s である.
スペクトルのドップラーシフトは -1.02 (+0.99, -1.00) km/s であり,誤差を考慮しても惑星の昼側から夜側への有意な風の存在は検出されなかった.また Hα 吸収の等価幅 (equivalent width) の時間変化も検出されなかった.
Hα 線で水素大気を検出するのはより難しい.これは,Hα 線は Lyα 線のような共鳴線ではないことと,惑星大気中に大量の励起された原子が必要だからである.
最も広く研究されている惑星のひとつである HD 189733b ではトランジット中に Hα 線の吸収が検出されているが,この検出は恒星活動に影響され,また異なるトランジット時期で変動する.
KELT-9 の場合はスペクトル型は A 型であり (B9.5 - A0),明確な恒星活動がなくても EUV は強い.そのため今回観測された Hα の強い吸収は,強い EUV 放射の影響であると考えられる.
その他に Hα に影響を及ぼしうるものには,恒星活動がある.恒星と惑星の相互作用によって恒星の彩層活動が増幅される場合もあり,これも Hα に影響を及ぼす恒星活動に含まれる.CARMENES は Ca II H&K 線の波長をカバーしていないため,恒星活動度は測定できていない.
しかし KELT-9 のような早期 A 型星はほとんどが彩層もコロナも持たないため,一般には強い恒星活動を伴わない.またドップラー観測からは変動は惑星の軌道運動に伴っており,これも検出を確実なものにしている.
理論計算では,Hα 吸収は惑星大気中の水素原子層に起源を持ち,この原子層では n=2 にいる励起された水素原子の数密度は概ね一定である.そのため,原子層は 1 - 1.64 惑星半径まで広がっていることが示唆される,この層の温度範囲は 4600 - 10000 K 程度である.
Hα 吸収線は原子層の低層領域を通過するものに対しては光学的に深く,従ってラインの形状は thermal broadening (ドップラー幅) と maximum line centre の光学的深さによって決まる.観測されたラインの形状は 21.7 km/s であり,thermal broadening velocity である 10.8 km/s (平均温度 7000 K を仮定) よりもずっと大きい.このことは,吸収が光学的に厚いことを意味している.
解析モデルを用いると,n=2 に励起された原子の数密度は n2 = 2.7 × 103 cm-3 と推定され,これはスペクトル線のコア部分での光学的深さが 57 であることに相当する.
なお,惑星の自転による線幅の広がりと,存在する可能性がある大気の流体力学的散逸による広がりは比較的小さいため,ここでは無視している.
惑星の明暗境界 (ここでトランジット吸収が起きる) でのロッシュ半径は,恒星に向かう方向へのロッシュ半径よりも小さい (Lecavelier des Etangs 2007).従って,明暗境界での近似値として有効ロッシュ半径を使用した (Ehrenreich et al. 2010).
その結果,ロッシュ半径は 1.91 (+0.22, -0.26) 惑星半径と推定される.
今回観測された Hα ラインコアでの惑星の有効半径はこれに近い.そのため,水素大気はロッシュローブをほぼ満たしており,大気が惑星から散逸している可能性もある.
大気粒子が十分大きな運動エネルギーを持ってロッシュローブに到達した場合,1.64 惑星半径での水素粒子は惑星から散逸できると仮定して,質量放出率を計算した.原子層境界で,先程の n2 とn2/nH = 10-6 を仮定した結果,質量放出率として ~ 1012 g/s という値を得た.
しかし,惑星質量が精度良く決定されていないためロッシュ半径の推定にも大きな誤差があり (1σ で 1.65 - 2.13 惑星半径),この質量放出率の推定値には 1 桁程度の誤差がある.なおこの推定値は,発見論文の値 1010 - 1013 g/s と概ね整合的である,こちらの値は EUV 輻射水準からの推定値である.
arXiv:1807.00869
Yan & Henning (2018)
An extended hydrogen envelope of the extremely hot giant exoplanet KELT-9b
(極めて高温な巨大系外惑星 KELT-9b の広がった水素エンベロープ)
概要
KELT-9b は早期 A 型星に非常に近接した軌道を公転する惑星であり,昼側の温度は ~ 4600 K と,これまでに知られている系外惑星の中では最も高温である.この独特の惑星の大気組成や力学的な性質はこれまでのところ不明である.ここでは,この惑星の広がった水素大気の初めての検出について報告する.この検出は,トランジット中のバルマー Hα 線での原子水素吸収の測定によって達成された.この波長では,主に中心星からの高レベルの極端紫外線輻射の影響のため,異常に強い吸収を示す.
また,Hα 線吸収の明確な波長のシフトを検出した.大部分は惑星の軌道運動による影響である.
得られた透過スペクトルは,明確なラインのコントラストが見られた (Hα ラインの中心で 1.15% の超過吸収).
今回の観測結果は,Hα 線の中心波長でのこの惑星の有効半径は惑星半径よりおよそ 1.64 倍大きいことを示唆している.この惑星のロッシュローブ半径は 1.91 惑星半径であり,惑星はロッシュローブのサイズ近くまで大きく広がった水素エンベロープを持っていることを示唆している,また,おそらくは大規模な大気散逸が進行していると考えられる.
観測
観測には,CARMENES 装置を使用した.これは波長分解能が R ~ 94600 の高分散分光器であり,Calar Alto Observatory の 3.5 m 望遠鏡に設置されている.トランジットは 2017 年 8 月 6 日と 9 月 21 日に観測された.
観測結果のモデリング
観測の結果,トランジット最中の Hα 線の強い吸収が検出された,軌道運動と大気速度
この観測結果のモデル化を行った.ここでは,軌道運動をフリーパラメータとしてモデル化している.また,惑星の大気風速もパラメータとして取り扱っている.これは,昼側から夜側への高高度での風が,系外惑星の透過光スペクトル観測で検出されている先例があるからである.HD 189733b (Brogi et al. 2016,Wyttenbach et al. 2015,Louden et al. 2015),HD 209458b (Snellen et al. 2010) で,大気の風によると思われる特徴が検出されている.
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.176 Brogi et al. (2015) HD 189733bの自転と風の検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.126 Louden & Wheatley (2015) HD 189733bの大気の赤道ジェットの検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.176 Brogi et al. (2015) HD 189733bの自転と風の検出
天文・宇宙物理関連メモ vol.126 Louden & Wheatley (2015) HD 189733bの大気の赤道ジェットの検出
ロシター効果と CLV 効果
惑星による吸収の他にも,トランジット最中の変動が発生する.その例が,Rossiter-McLaughlin effect (ロシター効果) と Centre-to-Limb Variation (CLV) effect である.ロシター効果は,恒星の自転の影響で,惑星のトランジット最中に観測される恒星のライン分布が時間と共に変化する現象である.
この惑星系におけるロシター効果は,ドップラートモグラフィー (Dopplar tomography) と共に検出済みであり,中心星が高速で自転しており,自転と公転の軸のずれは -84.8° と,ほぼ極軌道で惑星が公転していることが分かっている (Gaudi et al. 2017).ロシター効果も解析モデルに含める,
CLV 効果は,恒星円盤面の中心部分と外縁領域では恒星のスペクトル線の分布が変化することによるものである.ただし既存のモデルは 1 惑星半径 (通常の観測で得られる惑星の半径) を想定したものであるため,ここではファクター f をかけて Hα 線での大きな有効半径として代用している.MCMC でフィッティングした結果,f は 1.98 と推定される.
フィッティングの結果,惑星の軌道運動速度は 268.7 km/s であり,これはトランジット最中の惑星の視線速度の変化が -91 - 91 km/s の範囲であることに対応している (※注釈:トランジット開始/終了時である軌道位相 ~ 0.055 における惑星の視線速度を意味している).
恒星と惑星質量の直接計算
惑星の軌道速度と中心星の軌道運動を合わせると,ニュートンの重力の法則から,恒星と惑星の質量を直接計算することが可能となる.中心星が惑星との質量中心 (重心) 周りを公転する速度は過去の観測で測定されており,0.276 km/s である事がわかっている.軌道周期が 1.48112 日,軌道傾斜角が 86.79° であり,軌道離心率 0 を仮定すると,恒星質量が 3.00 ± 0.21 太陽質量,惑星質量は 3.23 ± 0.94 木星質量と推定される.この手法で推定された恒星質量は,恒星のスペクトルモデリングからの推定である 2.52 太陽質量と概ね整合的である.
得られたスペクトルを,惑星の視線速度を補正して計算した.またロシター効果と CLV 効果も補正に加えた.その結果,Hα の吸収スペクトルを 1.15% のコントラストでよく分解することができた.スペクトルの半値全幅は 51.2 km/s である.
スペクトルのドップラーシフトは -1.02 (+0.99, -1.00) km/s であり,誤差を考慮しても惑星の昼側から夜側への有意な風の存在は検出されなかった.また Hα 吸収の等価幅 (equivalent width) の時間変化も検出されなかった.
広がった水素原子大気の検出
これまでの検出例
これまでに,水素原子からなる広がった大気は,いくつかの系外惑星で観測されている.これらは主にハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて,紫外線波長である Lyα 線で検出されている.しかし KELT-9b は地球から遠いため,星間物質による強い吸収の影響で Lyα では大気を検出することが出来ない.Hα 線で水素大気を検出するのはより難しい.これは,Hα 線は Lyα 線のような共鳴線ではないことと,惑星大気中に大量の励起された原子が必要だからである.
最も広く研究されている惑星のひとつである HD 189733b ではトランジット中に Hα 線の吸収が検出されているが,この検出は恒星活動に影響され,また異なるトランジット時期で変動する.
Hα での高層大気の検出
理論的には,Hα 線の吸収を生み出すための大量の励起された水素原子を生成するには,極端紫外線 (extreme ultra-violet, EUV)と Lyα 輻射が必要である.HD 189733b の場合,中心星のスペクトル型が K 型であることを考慮すると,おそらくこのような強い極端紫外線での輻射をもたらす恒星活動を起こしていると考えられる.KELT-9 の場合はスペクトル型は A 型であり (B9.5 - A0),明確な恒星活動がなくても EUV は強い.そのため今回観測された Hα の強い吸収は,強い EUV 放射の影響であると考えられる.
その他に Hα に影響を及ぼしうるものには,恒星活動がある.恒星と惑星の相互作用によって恒星の彩層活動が増幅される場合もあり,これも Hα に影響を及ぼす恒星活動に含まれる.CARMENES は Ca II H&K 線の波長をカバーしていないため,恒星活動度は測定できていない.
しかし KELT-9 のような早期 A 型星はほとんどが彩層もコロナも持たないため,一般には強い恒星活動を伴わない.またドップラー観測からは変動は惑星の軌道運動に伴っており,これも検出を確実なものにしている.
KELT-9b の水素原子大気の特性
Hα 線波長での大きな有効半径と原子層の特徴
今回検出された Hα 線のトランジット深さは 1.15% なのに対し,連続光でのトランジット深さは 0.68% である.このことは,Hα 線の中心波長で見た時の惑星の有効半径が 1.64 惑星半径であることに相当する.理論計算では,Hα 吸収は惑星大気中の水素原子層に起源を持ち,この原子層では n=2 にいる励起された水素原子の数密度は概ね一定である.そのため,原子層は 1 - 1.64 惑星半径まで広がっていることが示唆される,この層の温度範囲は 4600 - 10000 K 程度である.
Hα 吸収線は原子層の低層領域を通過するものに対しては光学的に深く,従ってラインの形状は thermal broadening (ドップラー幅) と maximum line centre の光学的深さによって決まる.観測されたラインの形状は 21.7 km/s であり,thermal broadening velocity である 10.8 km/s (平均温度 7000 K を仮定) よりもずっと大きい.このことは,吸収が光学的に厚いことを意味している.
解析モデルを用いると,n=2 に励起された原子の数密度は n2 = 2.7 × 103 cm-3 と推定され,これはスペクトル線のコア部分での光学的深さが 57 であることに相当する.
なお,惑星の自転による線幅の広がりと,存在する可能性がある大気の流体力学的散逸による広がりは比較的小さいため,ここでは無視している.
ロッシュローブと大気散逸
KELT-9b は重い中心星の非常に近くを公転しているため,惑星のロッシュローブは比較的小さい.惑星の明暗境界 (ここでトランジット吸収が起きる) でのロッシュ半径は,恒星に向かう方向へのロッシュ半径よりも小さい (Lecavelier des Etangs 2007).従って,明暗境界での近似値として有効ロッシュ半径を使用した (Ehrenreich et al. 2010).
その結果,ロッシュ半径は 1.91 (+0.22, -0.26) 惑星半径と推定される.
今回観測された Hα ラインコアでの惑星の有効半径はこれに近い.そのため,水素大気はロッシュローブをほぼ満たしており,大気が惑星から散逸している可能性もある.
大気粒子が十分大きな運動エネルギーを持ってロッシュローブに到達した場合,1.64 惑星半径での水素粒子は惑星から散逸できると仮定して,質量放出率を計算した.原子層境界で,先程の n2 とn2/nH = 10-6 を仮定した結果,質量放出率として ~ 1012 g/s という値を得た.
しかし,惑星質量が精度良く決定されていないためロッシュ半径の推定にも大きな誤差があり (1σ で 1.65 - 2.13 惑星半径),この質量放出率の推定値には 1 桁程度の誤差がある.なおこの推定値は,発見論文の値 1010 - 1013 g/s と概ね整合的である,こちらの値は EUV 輻射水準からの推定値である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1807.00024
Zhou et al. (2018)
The warm Neptunes around HD 106315 have low stellar obliquities
(HD 106315 まわりのウォームネプチューンは低い恒星傾斜角を持つ)
この恒星は他にも,2.5 地球半径で軌道周期 9.55 日のスーパーアース HD 106315b を持っている.
Megellan/MIKE,HARPS,TRES の装置を用いて 4 回のトランジットを観測し,そのデータのドップラートモグラフィーでの解析を行った.
その結果,HD 106315c の公転軸と恒星の自転軸の間の傾斜角は -10.9° 程度と推定され,恒星の自転軸と惑星の公転軸が揃っている配置であることがわかった.
力学的 N 体計算からは,この系の 2 つの惑星は同一平面上を公転しているべきであることが示唆されている.従って,どちらの惑星も公転軸と恒星の自転軸が揃っていると考えられる.
HD 106315 は,海王星程度の質量の惑星を持っていてその傾斜角が測定された惑星系としては 4 番目となる.
これまでのところ,全てのウォームネプチューンは揃った配置にあることが発見されており,これらの系は内側の原始惑星系円盤でその場形成されたという解釈と整合的な結果である.また,ケプラーで発見されている,低軌道傾斜角にある複数惑星系の大部分と整合的である.
この惑星のトランジット深さは 1.02 mmag であり,この惑星はトランジット分光で検出された惑星の中では最も小さいものの一つである.
例えば,K4V の中心星を 4.9 日 で公転する惑星である HAT-P-11b は,トランジット分光観測と恒星黒点の横断観測から,極軌道にあることが分かっている (Bakos et al. 2010など).さらに,WASP-107b では,5.7 日周期の間に連続的な黒点横断イベントが見られなかったことから,この惑星は不揃いの軌道にあることが示唆されている (Dai & Winn 2017).
また 2.5 日周期の GJ 436b も極軌道の配置にある (Bourrier et al. 2018).ホットネプチューンとは対照的に,傾斜角が測定されているウォームネプチューンは全て揃った軌道配置にある.
例えば,ケプラー25c は 4.48 地球半径で軌道周期が 12 日の惑星であり,F 型の中心星の自転軸と揃った公転軸を持つ (Albrecht et al. 2013).また,ケプラー50 とケプラー65 系でも揃った配置と整合的な結果が得られている (Chaplin et al. 2013).
arXiv:1807.00024
Zhou et al. (2018)
The warm Neptunes around HD 106315 have low stellar obliquities
(HD 106315 まわりのウォームネプチューンは低い恒星傾斜角を持つ)
概要
ウォームネプチューン HD 106315c の傾斜角を,分光トランジット観測から測定した.この惑星は 4.4 地球半径で,中間的な速度で自転をしている晩期 F 型星を,21.05 日周期で公転している.この恒星は他にも,2.5 地球半径で軌道周期 9.55 日のスーパーアース HD 106315b を持っている.
Megellan/MIKE,HARPS,TRES の装置を用いて 4 回のトランジットを観測し,そのデータのドップラートモグラフィーでの解析を行った.
その結果,HD 106315c の公転軸と恒星の自転軸の間の傾斜角は -10.9° 程度と推定され,恒星の自転軸と惑星の公転軸が揃っている配置であることがわかった.
力学的 N 体計算からは,この系の 2 つの惑星は同一平面上を公転しているべきであることが示唆されている.従って,どちらの惑星も公転軸と恒星の自転軸が揃っていると考えられる.
HD 106315 は,海王星程度の質量の惑星を持っていてその傾斜角が測定された惑星系としては 4 番目となる.
これまでのところ,全てのウォームネプチューンは揃った配置にあることが発見されており,これらの系は内側の原始惑星系円盤でその場形成されたという解釈と整合的な結果である.また,ケプラーで発見されている,低軌道傾斜角にある複数惑星系の大部分と整合的である.
この惑星のトランジット深さは 1.02 mmag であり,この惑星はトランジット分光で検出された惑星の中では最も小さいものの一つである.
傾斜角について
中心星に近接した軌道にあるホットネプチューンには,大きく傾いた軌道にいる場合がある.例えば,K4V の中心星を 4.9 日 で公転する惑星である HAT-P-11b は,トランジット分光観測と恒星黒点の横断観測から,極軌道にあることが分かっている (Bakos et al. 2010など).さらに,WASP-107b では,5.7 日周期の間に連続的な黒点横断イベントが見られなかったことから,この惑星は不揃いの軌道にあることが示唆されている (Dai & Winn 2017).
また 2.5 日周期の GJ 436b も極軌道の配置にある (Bourrier et al. 2018).ホットネプチューンとは対照的に,傾斜角が測定されているウォームネプチューンは全て揃った軌道配置にある.
例えば,ケプラー25c は 4.48 地球半径で軌道周期が 12 日の惑星であり,F 型の中心星の自転軸と揃った公転軸を持つ (Albrecht et al. 2013).また,ケプラー50 とケプラー65 系でも揃った配置と整合的な結果が得られている (Chaplin et al. 2013).
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1806.11567
Müller et al. (2018)
Orbital and atmospheric characterization of the planet within the gap of the PDS 70 transition disk
(PDS 70 の遷移円盤のギャップ内の惑星の軌道と大気の特徴付け)
ここでは,PDS 70b の軌道と大気の特徴付けを目的とした観測を行った.新しく得られた SPHERE/IRDIS によるの深い撮像観測と,SPHERE/IFS による分光観測を行った.
天体の位置測定観測は 6 年の期間をカバーしており,軌道解析を行うことができる.
また,この若い惑星の初めての分光測光観測を,近赤外領域のほとんど全部の領域でカバーした (0.96 - 3.8 µm).
さらに,温度,log g (表面重力),化学組成と雲の特性の広いパラメータ空間をカバーする,異なる複数の大気モデルを用いて,この惑星の大気特性の特徴付けを行った.
その結果,この天体は円盤のギャップの内側の中心星から ~ 22 au の距離にあり,円軌道で円盤と同一平面の軌道を公転している可能性が高いことが判明した.
また,惑星の分光測光観測データを再現できるような大気モデルのパラメータの範囲を見出した.温度範囲は 1000 - 1600 K であり,log g は 3.5 dex より大きい値ではない.
惑星半径の推定値は比較的大きな範囲にまたがり,1.4 - 3.7 木星半径の範囲と推定される.なお,大きい方の推定半径は,惑星の年齢 540 万歳での惑星進化モデルから期待される値よりも大きい値である.
観測データからは,惑星は円軌道で円盤と同一平面を運動していることが示唆される.またこの天体の初めての詳細なスペクトルエネルギー分布からは,有効温度は若い巨大惑星に典型的な値であると示唆された.惑星大気の解析からは,周惑星円盤が惑星の合計のフラックスに寄与している可能性がある事が示された.
また惑星質量の推定値は 2 - 17 木星質量であり,これは Keppler et al. (2018) と整合的である
arXiv:1806.11567
Müller et al. (2018)
Orbital and atmospheric characterization of the planet within the gap of the PDS 70 transition disk
(PDS 70 の遷移円盤のギャップ内の惑星の軌道と大気の特徴付け)
概要
PDS 70 は若い前主系列星であり,周囲に遷移円盤 (transitinal disk) を持っている.円盤中にはギャップが存在することが分かっており,さらにそのギャップの中には惑星質量天体 PDS 70b が発見されている.この惑星の発見は,このような形成過程にあると思われる若い惑星の,初めての確実な直接検出例である.ここでは,PDS 70b の軌道と大気の特徴付けを目的とした観測を行った.新しく得られた SPHERE/IRDIS によるの深い撮像観測と,SPHERE/IFS による分光観測を行った.
天体の位置測定観測は 6 年の期間をカバーしており,軌道解析を行うことができる.
また,この若い惑星の初めての分光測光観測を,近赤外領域のほとんど全部の領域でカバーした (0.96 - 3.8 µm).
さらに,温度,log g (表面重力),化学組成と雲の特性の広いパラメータ空間をカバーする,異なる複数の大気モデルを用いて,この惑星の大気特性の特徴付けを行った.
その結果,この天体は円盤のギャップの内側の中心星から ~ 22 au の距離にあり,円軌道で円盤と同一平面の軌道を公転している可能性が高いことが判明した.
また,惑星の分光測光観測データを再現できるような大気モデルのパラメータの範囲を見出した.温度範囲は 1000 - 1600 K であり,log g は 3.5 dex より大きい値ではない.
惑星半径の推定値は比較的大きな範囲にまたがり,1.4 - 3.7 木星半径の範囲と推定される.なお,大きい方の推定半径は,惑星の年齢 540 万歳での惑星進化モデルから期待される値よりも大きい値である.
観測データからは,惑星は円軌道で円盤と同一平面を運動していることが示唆される.またこの天体の初めての詳細なスペクトルエネルギー分布からは,有効温度は若い巨大惑星に典型的な値であると示唆された.惑星大気の解析からは,周惑星円盤が惑星の合計のフラックスに寄与している可能性がある事が示された.
また惑星質量の推定値は 2 - 17 木星質量であり,これは Keppler et al. (2018) と整合的である
天文・宇宙物理関連メモ vol.488 Scott Gaudi et al. (2017) 表面温度が 4600 K のホットジュピター KELT-9b の発見