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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.08888
Hwang et al. (2018)
KMT-2016-BLG-1107: A New Hollywood-Planet Close/Wide Degeneracy
(KMT-2016-BLG-1107:近接/遠方縮退の新しい Hollywood 惑星)
レンズ天体に付随する惑星による光度曲線へのアノマリーは,光度曲線が減衰していく先での 2 日間に渡る連続的な “bump” として検出された.これは,ソース天体がレンズ天体の質量比 0.036 の近接伴星による minor-image caustic を完全に覆っているか,あるいは質量比 0.004 の間隔の離れた伴星による major-image caustic を部分的に覆っているかのどちらかによって説明できる.
どちらの場合も,伴星の推定質量は惑星質量の範囲内で,前者は 3.3 木星質量,後者は 0.090 木星質量である.ただし惑星質量の推定に関しては,質量比の推定による惑星の推定質量の違いよりも,中心星の質量の推定値の違いの影響の方が大きい.
この 2 つのシナリオの縮退は,次世代の 30 m 級の望遠鏡による高分解能撮像で区別可能である.
"Hollywood event" というのが具体的にどのようなマイクロレンズイベントなのかは説明がありませんが,語源を辿ると Gould (1997) での記述に遡ることが出来ます.
フランスのパリ天文台で開催された研究会 "12th IAP Astrophysics Meeting: Variable Stars and the Astrophysical Returns of Microlensing Surveys" での講演内容をまとめた集録の中に,Gould による "The Hollywood Strategy for Microlensing Detection of Planets." というものがあります.
ここでは,"Follow the big stars!" として,重力マイクロレンズ法での惑星探査に関して,ソース天体が巨星である場合のマイクロレンズイベントをモニタリングするのが良いという事を強調し,そのような観測戦略を "Hollywood strategy" と講演タイトルの中で表現しています.
Hwang et al. (2018a) などでは,ソース天体が巨星であるイベントを "Hollywood event" と呼んでおり,さらにレンズ天体系によって形成される焦線 (caustic) がソース天体の見かけの大きさの中に全て収まるイベントを "Cannae",一部が収まるイベントを "von Schlieffen" と呼んでいます (由来は不明).
ソース天体が小さい恒星である場合は点源とみなすことができ,点であるソース天体が焦線を "横切る" だけですが,ソース天体が巨星など大きな半径を持つ場合は,焦線を完全に含んでしまったり一部を覆ったりする状態になります.Hwang et al. (2018a) ではそれらをまとめて,ソース天体がレンズ天体系の作る焦線と同程度の見かけのサイズであるか,あるいは大きい場合を "Hollywood event" と呼んでいるようです.
従って,重力マイクロレンズイベントにおいて,レンズ天体系 (恒星と惑星) によって出来る焦線のサイズが,背景のソース天体の見かけのサイズと同程度か,あるいは大きくなっている場合を "Hollywood event" と呼んでいると考えられます.
arXiv:1805.08888
Hwang et al. (2018)
KMT-2016-BLG-1107: A New Hollywood-Planet Close/Wide Degeneracy
(KMT-2016-BLG-1107:近接/遠方縮退の新しい Hollywood 惑星)
概要
重力マイクロレンズイベント KMT-2016-BLG-1107 が,広い間隔の連星と狭い間隔の連星の新しいタイプの縮退を示す "Hollywood" イベントであることを示す.レンズ天体に付随する惑星による光度曲線へのアノマリーは,光度曲線が減衰していく先での 2 日間に渡る連続的な “bump” として検出された.これは,ソース天体がレンズ天体の質量比 0.036 の近接伴星による minor-image caustic を完全に覆っているか,あるいは質量比 0.004 の間隔の離れた伴星による major-image caustic を部分的に覆っているかのどちらかによって説明できる.
どちらの場合も,伴星の推定質量は惑星質量の範囲内で,前者は 3.3 木星質量,後者は 0.090 木星質量である.ただし惑星質量の推定に関しては,質量比の推定による惑星の推定質量の違いよりも,中心星の質量の推定値の違いの影響の方が大きい.
この 2 つのシナリオの縮退は,次世代の 30 m 級の望遠鏡による高分解能撮像で区別可能である.
"Hollywood event" というのが具体的にどのようなマイクロレンズイベントなのかは説明がありませんが,語源を辿ると Gould (1997) での記述に遡ることが出来ます.
フランスのパリ天文台で開催された研究会 "12th IAP Astrophysics Meeting: Variable Stars and the Astrophysical Returns of Microlensing Surveys" での講演内容をまとめた集録の中に,Gould による "The Hollywood Strategy for Microlensing Detection of Planets." というものがあります.
ここでは,"Follow the big stars!" として,重力マイクロレンズ法での惑星探査に関して,ソース天体が巨星である場合のマイクロレンズイベントをモニタリングするのが良いという事を強調し,そのような観測戦略を "Hollywood strategy" と講演タイトルの中で表現しています.
Hwang et al. (2018a) などでは,ソース天体が巨星であるイベントを "Hollywood event" と呼んでおり,さらにレンズ天体系によって形成される焦線 (caustic) がソース天体の見かけの大きさの中に全て収まるイベントを "Cannae",一部が収まるイベントを "von Schlieffen" と呼んでいます (由来は不明).
ソース天体が小さい恒星である場合は点源とみなすことができ,点であるソース天体が焦線を "横切る" だけですが,ソース天体が巨星など大きな半径を持つ場合は,焦線を完全に含んでしまったり一部を覆ったりする状態になります.Hwang et al. (2018a) ではそれらをまとめて,ソース天体がレンズ天体系の作る焦線と同程度の見かけのサイズであるか,あるいは大きい場合を "Hollywood event" と呼んでいるようです.
Originally, the nickname “Hollywood” developed because cases in which the star is big enough that it can envelop the caustic generally correspond to cases in which the star is a giant and therefore are often the brightest objects in the field. However, we use the term here more generally to describe any case in which the source is comparable to or larger than the caustic. In fact, in the WFIRST era (Spergel et al. 2013), even dwarf stars may fully envelop the tiny caustics of extremely low-mass planets that will be detectable.(Hwang et al. (2018a) の脚注より引用)
従って,重力マイクロレンズイベントにおいて,レンズ天体系 (恒星と惑星) によって出来る焦線のサイズが,背景のソース天体の見かけのサイズと同程度か,あるいは大きくなっている場合を "Hollywood event" と呼んでいると考えられます.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.09013
Namouni & Morais (2018)
An interstellar origin for Jupiter's retrograde co-orbital asteroid
(木星の逆行共軌道小惑星の星間起源)
ここではこの天体の安定な軌道の高精度な統計的研究を行い.2015 BZ509 は太陽系が形成された直後から現在の軌道状態にいたことを示す.
このことは,この天体は 45 億年前に太陽系外から飛来した恒星間物質を捕獲したものであることを示唆している.
惑星形成モデルでは,2015 BZ509 のように他の惑星と同一平面上の軌道にあり,同一平面のデブリ円盤と相互作用をしている惑星に対して,大きな軌道傾斜角を初期に持つ軌道を生成できないからである.そのような状況では,小惑星帯やカイパーベルト天体のように,低軌道傾斜角の軌道を持った小天体の集団が一般に形成される.
今回の結果は,より多くの太陽系外からの小惑星が,ほぼ極軌道で現在の太陽系内に存在していることも示唆している.
arXiv:1805.09013
Namouni & Morais (2018)
An interstellar origin for Jupiter's retrograde co-orbital asteroid
(木星の逆行共軌道小惑星の星間起源)
概要
最近発見された小惑星 (514107) 2015 BZ509 は,木星の軌道領域で,他の惑星とは逆行した軌道で太陽を公転しているのを発見された.ここではこの天体の安定な軌道の高精度な統計的研究を行い.2015 BZ509 は太陽系が形成された直後から現在の軌道状態にいたことを示す.
このことは,この天体は 45 億年前に太陽系外から飛来した恒星間物質を捕獲したものであることを示唆している.
惑星形成モデルでは,2015 BZ509 のように他の惑星と同一平面上の軌道にあり,同一平面のデブリ円盤と相互作用をしている惑星に対して,大きな軌道傾斜角を初期に持つ軌道を生成できないからである.そのような状況では,小惑星帯やカイパーベルト天体のように,低軌道傾斜角の軌道を持った小天体の集団が一般に形成される.
今回の結果は,より多くの太陽系外からの小惑星が,ほぼ極軌道で現在の太陽系内に存在していることも示唆している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.08405
Santerne et al. (2018)
An Earth-sized exoplanet with a Mercury-like composition
(水星的な組成の地球サイズ系外惑星)
この金属豊富な水星の組成を説明するために,形成過程や進化過程に関する様々な説が提唱されている.例えば巨大衝突,マントルの蒸発,原始惑星系円盤の内縁での岩石成分の枯渇などである.
ここでは,複数のトランジット惑星を持つ K2-229 系の発見について報告する,
この系の最も内側を公転する惑星 K2-229b は,半径が 1.165 地球半径,質量は 2.59 地球質量である.この地球サイズの惑星のコア質量割合の推定値は水星に匹敵するが,一方で中心星の化学組成に基づくと,組成は地球に似ていることが期待される.
この大きな水星類似天体は,非常に独特の組成から形成されたか,あるいは例えばマントルの一部を失う過程を経て形成されたかだと考えられる.
K2-229b のさらなる特徴付けを行うことで,水星のその場観測 (Messenger, BepiColombo) の理解に繋がるだろうと期待される.
K2 の観測から,周期 14 時間と 8.3 日の 2 つのトランジットシグナルが検出された,また,これらとは別の一回ののトランジット状シグナルも検出された.これらをそれぞれ K2-229b, c, d とする.
また HARPS を用いて視線速度観測を行い,トランジット候補を惑星と確定させるとともに,各惑星の質量をドップラー分光から推定した.
トランジットが 1 回しか観測されていない K2-229d については 2 つの軌道解が存在し.それぞれ軌道周期は 31 日か 50 日程度である.しかし,軌道安定性の観点から,長周期の解は排除される.これは長周期の解を採用した場合,観測された K2-229d の比較的短いトランジット継続時間を説明するためには,K2-229d が大きな軌道離心率を持っている必要があるが,その場合 K2-229d がK2-229c の軌道と交差してしまうためである.
現在の恒星の X 線輻射とそれに伴う熱的散逸では,惑星の大気を十分に剥がせないと考えられる.
他の極めて高温な岩石惑星では,その質量と半径から (水星ではなく) 地球に似た組成だと考えられるものが発見されている.一方で,温暖でおそらくは金属量豊富な岩石惑星も発見されている (LHS 1140b).そのため,恒星からの輻射は惑星全体の質量の数%以上の質量損失率 (したがってマントル蒸発) には寄与しない可能性がある.
この惑星は軌道長半径が 0.012 AU と中心星の非常に近くを公転しているため,中心星との磁気的相互作用を介した岩石蒸気の薄い層の散逸が起きたという可能性はある.また,強い恒星風とフレアが惑星の大気を侵食する可能性もある.
しかしこの機構は,惑星が固有の磁気圏を持っていた場合は非効率的になる.これは磁気圏は大気を恒星風や磁気的な影響による蒸発から守る働きがあるためである.
惑星からの散逸が存在する場合,彗星状の尾の検出がこのような蒸発の証拠になりうる.コア質量割合と惑星周辺の磁気的環境の相関を探ることによって,この仮説における磁場の重要さの情報を得ることが出来る.
しかし,テイア的な天体が岩石惑星のマントルを除去して,水星よりさらに重い天体を形成するためには,初期質量や衝突速度といった初期条件がどうあればいいかという,巨大衝突のさらなるモデリングが必要である.
しかし,水星と地球的惑星の特性 (軌道間隔とコア質量割合の関係) を仮定しても,形成状況と最も内側の惑星の組成の間には明確な相関がない.一つの可能性は,地球類似の惑星は,水星的な組成の惑星が形成された場所よりもより外側で形成されたというものである.
光泳動シナリオに関する,さらなる理論的な研究が必要である.
K2-106b の組成と中心星の組成の明確な比較を行った研究は今の所存在しない.それでもこの発見は,水星に類似した組成の惑星の存在は,過去に考えられていたよりも一般的であることを示すものである.
金属量:[Fe/H] = -0.06
質量:0.837 太陽質量
半径:0.793 太陽半径
距離:104 pc
自転周期:18.1 日
年齢:54 億歳 (恒星進化トラックからの推定),30 億歳 (組成比からの推定)
軌道長半径:0.012888 AU
半径:1.164 地球半径
質量:2.59 地球質量
密度:8.9 g cm-3
平衡温度:1960 K (全球平均),2332K (昼側).アルベドがゼロと仮定,昼側温度は自転が同期していると仮定
軌道長半径:0.07577 AU
半径:2.12 地球半径
質量:21.3 地球質量未満
平衡温度:800 K (全球平均),962 K (昼側)
軌道離心率:0.39
軌道長半径:0.1830 AU
半径:2.65 地球半径
質量:25.1 地球質量未満
平衡温度:522 K (全球平均)
arXiv:1805.08405
Santerne et al. (2018)
An Earth-sized exoplanet with a Mercury-like composition
(水星的な組成の地球サイズ系外惑星)
概要
地球・金星・火星,およびいくつかの系外地球型惑星は,その質量と半径から,組成の 30% が金属コア,70% が岩石マントルという構造だと考えられる.一方で太陽系の最も内側にいる水星は組成が大きく異なり,70% が金属コアで 30% が岩石マントルだと考えられている.この金属豊富な水星の組成を説明するために,形成過程や進化過程に関する様々な説が提唱されている.例えば巨大衝突,マントルの蒸発,原始惑星系円盤の内縁での岩石成分の枯渇などである.
ここでは,複数のトランジット惑星を持つ K2-229 系の発見について報告する,
この系の最も内側を公転する惑星 K2-229b は,半径が 1.165 地球半径,質量は 2.59 地球質量である.この地球サイズの惑星のコア質量割合の推定値は水星に匹敵するが,一方で中心星の化学組成に基づくと,組成は地球に似ていることが期待される.
この大きな水星類似天体は,非常に独特の組成から形成されたか,あるいは例えばマントルの一部を失う過程を経て形成されたかだと考えられる.
K2-229b のさらなる特徴付けを行うことで,水星のその場観測 (Messenger, BepiColombo) の理解に繋がるだろうと期待される.
K2-229 系について
K2-229 系の概要
中心星は K2-229 (EPIC 228801451) であり,ケプラーの K2 ミッションの Campaign 10 の期間に観測された.等級は V = 11 で,スペクトル型は晩期 G/早期 K 型星である.K2 の観測から,周期 14 時間と 8.3 日の 2 つのトランジットシグナルが検出された,また,これらとは別の一回ののトランジット状シグナルも検出された.これらをそれぞれ K2-229b, c, d とする.
また HARPS を用いて視線速度観測を行い,トランジット候補を惑星と確定させるとともに,各惑星の質量をドップラー分光から推定した.
K2-229 系の 3 つの惑星
最も内側を公転する K2-229b は,2.59 地球質量,1.165 地球半径であり,平均密度 8.9 g cm-3 である.K2-229c と K2-229d はそれぞれ 21.3 地球質量未満,25.1 地球質量未満であり.半径はそれぞれ 2.12 地球半径,2.65 地球半径である.トランジットが 1 回しか観測されていない K2-229d については 2 つの軌道解が存在し.それぞれ軌道周期は 31 日か 50 日程度である.しかし,軌道安定性の観点から,長周期の解は排除される.これは長周期の解を採用した場合,観測された K2-229d の比較的短いトランジット継続時間を説明するためには,K2-229d が大きな軌道離心率を持っている必要があるが,その場合 K2-229d がK2-229c の軌道と交差してしまうためである.
水星に似た組成を持つ K2-229b とその起源
K2-229b の内部構造について,コア質量割合 (全質量に占めるコア質量の割合) は 68% と推定される.そのためこの惑星は,太陽系の水星の大きい版の類似天体と言える.岩石マントルの蒸発仮説
水星と比較すると軌道はより中心星に近く,軌道周期は 14 時間である.自転が公転と同期していると仮定すると,昼側の温度は最大で 2330 K になる.そのため,水星よりもマントル蒸発に対しては敏感な可能性がある.現在の恒星の X 線輻射とそれに伴う熱的散逸では,惑星の大気を十分に剥がせないと考えられる.
他の極めて高温な岩石惑星では,その質量と半径から (水星ではなく) 地球に似た組成だと考えられるものが発見されている.一方で,温暖でおそらくは金属量豊富な岩石惑星も発見されている (LHS 1140b).そのため,恒星からの輻射は惑星全体の質量の数%以上の質量損失率 (したがってマントル蒸発) には寄与しない可能性がある.
この惑星は軌道長半径が 0.012 AU と中心星の非常に近くを公転しているため,中心星との磁気的相互作用を介した岩石蒸気の薄い層の散逸が起きたという可能性はある.また,強い恒星風とフレアが惑星の大気を侵食する可能性もある.
しかしこの機構は,惑星が固有の磁気圏を持っていた場合は非効率的になる.これは磁気圏は大気を恒星風や磁気的な影響による蒸発から守る働きがあるためである.
惑星からの散逸が存在する場合,彗星状の尾の検出がこのような蒸発の証拠になりうる.コア質量割合と惑星周辺の磁気的環境の相関を探ることによって,この仮説における磁場の重要さの情報を得ることが出来る.
巨大衝突によるマントル剥ぎ取り仮説
その他の仮説としては,水星はテイアのような天体との巨大衝突を経験して岩石の外層を失ったというものがある.これが水星に類似した組成の系外惑星の形成に関与しているとすると,このような惑星の存在と複数惑星の軌道配置は相関している可能性がある.この場合,比較的大きい系外惑星の探査対象としても有望であるかもしれない.しかし,テイア的な天体が岩石惑星のマントルを除去して,水星よりさらに重い天体を形成するためには,初期質量や衝突速度といった初期条件がどうあればいいかという,巨大衝突のさらなるモデリングが必要である.
形成領域での岩石枯渇仮説
さらに別の仮説として,原始惑星系円盤中での光泳動が水星のような金属豊富な惑星を形成する機構である可能性がある.この機構では,原始惑星系円盤の最も内側領域では岩石成分が枯渇していたため,形成される惑星は金属豊富になると考える.もしこの機構が原因であるとすると,地球のような惑星を持つ恒星と中心星の特性の比較から,このような過程が発生する条件への制約を与えることが可能である.しかし,水星と地球的惑星の特性 (軌道間隔とコア質量割合の関係) を仮定しても,形成状況と最も内側の惑星の組成の間には明確な相関がない.一つの可能性は,地球類似の惑星は,水星的な組成の惑星が形成された場所よりもより外側で形成されたというものである.
光泳動シナリオに関する,さらなる理論的な研究が必要である.
その他の水星類似惑星
この論文の投稿後,当初は地球に似た組成とされていた K2-106b も,より鉄が豊富な組成であることが明らかにされた.K2-106b の組成と中心星の組成の明確な比較を行った研究は今の所存在しない.それでもこの発見は,水星に類似した組成の惑星の存在は,過去に考えられていたよりも一般的であることを示すものである.
パラメータ
K2-229
有効温度:5185 K金属量:[Fe/H] = -0.06
質量:0.837 太陽質量
半径:0.793 太陽半径
距離:104 pc
自転周期:18.1 日
年齢:54 億歳 (恒星進化トラックからの推定),30 億歳 (組成比からの推定)
K2-229b
軌道周期:0.584249 日軌道長半径:0.012888 AU
半径:1.164 地球半径
質量:2.59 地球質量
密度:8.9 g cm-3
平衡温度:1960 K (全球平均),2332K (昼側).アルベドがゼロと仮定,昼側温度は自転が同期していると仮定
K2-229c
軌道周期:8.32834 日軌道長半径:0.07577 AU
半径:2.12 地球半径
質量:21.3 地球質量未満
平衡温度:800 K (全球平均),962 K (昼側)
K2-229d
軌道周期:31.0 日軌道離心率:0.39
軌道長半径:0.1830 AU
半径:2.65 地球半径
質量:25.1 地球質量未満
平衡温度:522 K (全球平均)
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.07726
Yang et al. (2018)
High-contrast Polarimetry Observation of T Tau Circumstellar Environment
(おうし座T星の星周環境の高コントラスト偏光観測)
おうし座T星系全体は星雲状のエンベロープに取り囲まれており,いくつかのアウトフローに伴った構造がこれらのエンベロープ内に検出された.この若い三重星系の各要素付近の構造の詳細な偏光パターンの解析を行い,星周円盤とアウトフロー構造への制約を行った.
おうし座T星N 周りのほぼ face-on (円盤を正面から見ている状態) の星周円盤は,中心星から北西方向では,0”.8 (117 AU) 以遠には存在していない.これは,この方向にあるホールの存在に基づいている.また南方向では,0”.27 (40 AU) よりは大きく広がっていない.
新しい構造 “N5” が,恒星の南西方向の 0”.42 (59 AU) まで広がっており,これは円盤の一部と考えられる.
おうし座T星S は,大きく傾いた周連星円盤に囲まれていることが示唆される.この円盤は半径が 0”.3 (44 AU) で,位置角は 30° である.この角度はおうし座T星S の連星軌道とはずれている.
アウトフローに伴っている構造の位置と偏光ベクトルパターンの解析から,良く知られている E-W アウトフローを引き起こしたのはおうし座T星S であることが示唆される,また,南西方向の旋回するアウトフロー “coil” と,南方向に存在が主張されているアウトフローとも関係している可能性が示唆される.
おうし座T星は三重星系であり,北方向にある単一の恒星おうし座T星N と,南方向にある連星おうし座T星Sa・おうし座T星Sb からなっている.
おうし座T星N は 1.95 太陽質量であり (K ̈ohler et al. 2016),class II の若い恒星状天体 (young stellar object, YSO) である.
おうし座T星Sa/Sb ペアは おうし座T星N から 0”.7 の位置にあり,Dyck et al. (1982) によって発見された.こちらは class I の YSO である (Furlan et al. 2006,Luhman et al. 2010).
Koresko (2000) によって,おうし座T星S が実際には連星であることが判明した.おうし座T星Sa/Sb の間隔はおよそ 0”.1 であり,質量は おうし座T星Sa が 2.12 太陽質量,おうし座T星Sb が 0.53 太陽質量である (K ̈ohler et al. 2016).おうし座T星Sa/Sb ペアの軌道は,軌道長半径が 12.5 AU,軌道離心率は 0.56 である.
おうし座T星N-S 系の軌道はよく分かっていない.ただし,おそらくは軌道長半径 430 AU,軌道離心率は 0.7 であろうと考えられている.
Akeson et al. (1998) によるおうし座T星N の 3 mm 波長での連続波観測では,ほぼ face-on の円盤が中心星から 41 AU の範囲まで広がっていると推定された.しかし,この観測のビームサイズは円盤の詳細を明らかにするには不十分であった.
その他の研究は非常に異なる結果を示している.
例えば Gustafsson et al. (2008) は,円盤の外縁半径は 85 - 100 AU と推定した,これはスペクトルエネルギー分布 (spectral energy distribution, SED) に基づく推定である.
一方で Podio et al. (2014) は,CN 5-4 線の観測で,円盤のサイズは 100 AU 程度と推定している.
おうし座T星S 連星の減光は AV = 15 である (Duchˆene et al. 2005),この減光度合いは,おうし座T星N の AV = 1.95 よりもずっと大きい (Kenyon & Hartmann 1995).これは,おうし座T星S のまわりにコンパクトな edge-on の周連星円盤が存在するか,あるいはおうし座T星N のまわりの星周円盤によって光が阻害されているかだと考えられている (Hogerheijde et al. 1997,Beck et al. 2001).
これらの天体周りの円盤構造は,これまでには分かっていない.
過去の観測では,いくつかのアウトフロー構造が検出されている.
B ̈ohm & Solf (1994) では,Calar Alto Observatory の 2.2 m 望遠鏡を用いた観測で,東西方向のアウトフロー (E-W outflow) が検出されている.また southeast-northwest アウトフローも検出されている.
しかし,どちらの恒星がアウトフローを駆動したのかは不明である.おうし座T星N が E-W アウトフロー を,おうし座T星S が southeast-northwest アウトフローをそれぞれ駆動しているとする研究もあるが (B ̈ohm & Solf 1994,Gustafsson et al. 2010),Ratzka et al. (2009) は おうし座T星S が E-W アウトフローを駆動したと主張している.
さらに Gustafsson et al. (2010) は,別の southeast アウトフローが おうし座T星Sb から出ている事を示唆した.
また,Kasper et al. (2016) はこの系から南西方向に広がっているコイルのような構造を検出した.これは歳差するアウトフローである可能性があるが,おうし座T星N・おうし座T星S のどちらが起源かは不明である.
arXiv:1805.07726
Yang et al. (2018)
High-contrast Polarimetry Observation of T Tau Circumstellar Environment
(おうし座T星の星周環境の高コントラスト偏光観測)
概要
すばる望遠鏡の HiCIAO 装置を用いて,H バンドで T Tau (おうし座T星) の高コントラスト偏光観測を行った.その結果,この系にある T Tau N (おうし座T星N) と T Tau S (おうし座T星S) の 2 つの天体から 0”.1 程度の範囲の構造が明らかになった.おうし座T星系全体は星雲状のエンベロープに取り囲まれており,いくつかのアウトフローに伴った構造がこれらのエンベロープ内に検出された.この若い三重星系の各要素付近の構造の詳細な偏光パターンの解析を行い,星周円盤とアウトフロー構造への制約を行った.
おうし座T星N 周りのほぼ face-on (円盤を正面から見ている状態) の星周円盤は,中心星から北西方向では,0”.8 (117 AU) 以遠には存在していない.これは,この方向にあるホールの存在に基づいている.また南方向では,0”.27 (40 AU) よりは大きく広がっていない.
新しい構造 “N5” が,恒星の南西方向の 0”.42 (59 AU) まで広がっており,これは円盤の一部と考えられる.
おうし座T星S は,大きく傾いた周連星円盤に囲まれていることが示唆される.この円盤は半径が 0”.3 (44 AU) で,位置角は 30° である.この角度はおうし座T星S の連星軌道とはずれている.
アウトフローに伴っている構造の位置と偏光ベクトルパターンの解析から,良く知られている E-W アウトフローを引き起こしたのはおうし座T星S であることが示唆される,また,南西方向の旋回するアウトフロー “coil” と,南方向に存在が主張されているアウトフローとも関係している可能性が示唆される.
おうし座T星について
おうし座T星の概要
おうし座T星は,前主系列星の一種である T Tauri star (おうし座T型星) のプロトタイプであり,おうし座T型星の名称の由来である.太陽系から 146.7 pc の距離にあり (Loinard et al. 2007).年齢は 100 - 200 万歳である (Kenyon & Hartmann 1995).おうし座T星は三重星系であり,北方向にある単一の恒星おうし座T星N と,南方向にある連星おうし座T星Sa・おうし座T星Sb からなっている.
おうし座T星N は 1.95 太陽質量であり (K ̈ohler et al. 2016),class II の若い恒星状天体 (young stellar object, YSO) である.
おうし座T星Sa/Sb ペアは おうし座T星N から 0”.7 の位置にあり,Dyck et al. (1982) によって発見された.こちらは class I の YSO である (Furlan et al. 2006,Luhman et al. 2010).
Koresko (2000) によって,おうし座T星S が実際には連星であることが判明した.おうし座T星Sa/Sb の間隔はおよそ 0”.1 であり,質量は おうし座T星Sa が 2.12 太陽質量,おうし座T星Sb が 0.53 太陽質量である (K ̈ohler et al. 2016).おうし座T星Sa/Sb ペアの軌道は,軌道長半径が 12.5 AU,軌道離心率は 0.56 である.
おうし座T星N-S 系の軌道はよく分かっていない.ただし,おそらくは軌道長半径 430 AU,軌道離心率は 0.7 であろうと考えられている.
おうし座T星の未解決点
おうし座T星系は広範に探査されている天体だが,よく分かっていないことが多い.星周円盤の構造
一つ目は星周円盤の構造である.Akeson et al. (1998) によるおうし座T星N の 3 mm 波長での連続波観測では,ほぼ face-on の円盤が中心星から 41 AU の範囲まで広がっていると推定された.しかし,この観測のビームサイズは円盤の詳細を明らかにするには不十分であった.
その他の研究は非常に異なる結果を示している.
例えば Gustafsson et al. (2008) は,円盤の外縁半径は 85 - 100 AU と推定した,これはスペクトルエネルギー分布 (spectral energy distribution, SED) に基づく推定である.
一方で Podio et al. (2014) は,CN 5-4 線の観測で,円盤のサイズは 100 AU 程度と推定している.
おうし座T星S 連星の減光は AV = 15 である (Duchˆene et al. 2005),この減光度合いは,おうし座T星N の AV = 1.95 よりもずっと大きい (Kenyon & Hartmann 1995).これは,おうし座T星S のまわりにコンパクトな edge-on の周連星円盤が存在するか,あるいはおうし座T星N のまわりの星周円盤によって光が阻害されているかだと考えられている (Hogerheijde et al. 1997,Beck et al. 2001).
これらの天体周りの円盤構造は,これまでには分かっていない.
アウトフローの駆動源
二つ目の問題はアウトフローの源である.過去の観測では,いくつかのアウトフロー構造が検出されている.
B ̈ohm & Solf (1994) では,Calar Alto Observatory の 2.2 m 望遠鏡を用いた観測で,東西方向のアウトフロー (E-W outflow) が検出されている.また southeast-northwest アウトフローも検出されている.
しかし,どちらの恒星がアウトフローを駆動したのかは不明である.おうし座T星N が E-W アウトフロー を,おうし座T星S が southeast-northwest アウトフローをそれぞれ駆動しているとする研究もあるが (B ̈ohm & Solf 1994,Gustafsson et al. 2010),Ratzka et al. (2009) は おうし座T星S が E-W アウトフローを駆動したと主張している.
さらに Gustafsson et al. (2010) は,別の southeast アウトフローが おうし座T星Sb から出ている事を示唆した.
また,Kasper et al. (2016) はこの系から南西方向に広がっているコイルのような構造を検出した.これは歳差するアウトフローである可能性があるが,おうし座T星N・おうし座T星S のどちらが起源かは不明である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.07415
Komacek & Tan (2018)
Effects of dissociation/recombination on the day-night temperature contrasts of ultra-hot Jupiters
(ウルトラホットジュピターの昼夜間温度差における解離・再結合の効果)
二次食 (secondary eclipse) の分光観測からは,ウルトラホットジュピターは 1.1 - 1.7 µm の波長域でスペクトルが特徴に欠けていることが分かっている (Arcangeli et al. 2018,Kreidberg et al. 2018,Mansfield et al. 2018).これはおそらく,解離した水素による連続的な不透明度が原因である (Bell et al. 2017,Lothringer et al. 2018,Parmentier et al. 2018).
興味深いことに,ウルトラホットジュピター WASP-103b (Kreidberg et al. 2018) と WASP-33b (Zhang et al. 2018) の最近の位相曲線観測では,位相曲線は比較的小さい振幅を示しており,このことは昼夜間の温度差を減少させる過程が存在していることを示唆している.ここでは,ウルトラホットジュピターの昼夜温度差を解析的な理論を用いて予測した.この理論は Komacek & Showman (2016),Zhang & Showman (2017),Komacek et al. (2017) の手法をアップデートしたものであり,水素分子の解離・再結合,冷却・加熱および大気の平均分子量の変化を含むモデルである.新しいモデルでは,Komacek & Showman (2016) の熱力学エネルギー方程式に,以下のエネルギー項を追加した.
\[
\frac{Q_{\rm recomb}}{c_{p}}=\frac{Uq_{\rm bond}\eta_{H}\left(T\right)}{c_{p}\left(T\right)a}
\]
\(U\) は東西風の風速であり,スケールされた運動量方程式を用いて整合的に解かれたものである.また,\(a\) は惑星の半径,\(q_{\rm bond}\) = 2.14 × 108 J kg-1 は水素の解離エネルギー (Bell & Cowan 2018),\(\eta_{H}\left(T\right)\) は水素原子の質量混合率で,モル混合比から計算している.さらに,\(c_{p}\left(T\right)\) は水素分子と水素原子混合ガスの比熱容量を表している.
水素分子の解離は昼側の大気の平均分子量を減少させるため,昼夜間の圧力勾配を増加させる.この効果を,水平方向のジオポテンシャルの差を改良し,昼夜間での比気体定数の違いを考慮することによってモデルに取り入れる.
Komacek et al. (2017) と同様に,昼側と夜側の温度差を,入射フラックスおよび摩擦抵抗のタイムスケールという 2 つの制御パラメータの関数として解く.これらを元に,惑星の表面温度を変えた際の昼夜間の温度差の変化を取り扱う.
摩擦抵抗のタイムスケールは,無限大 (摩擦が働かない) と,104 秒の 2 つで計算を行った.
水素の解離と再結合を無視した場合は,昼夜間の温度差を昼側の温度で規格化した値は,惑星の平衡温度を上げるにつれて大きくなる.しかし解離と再結合の効果を考慮した場合は,非常に高温な領域になると昼夜間温度差は減少に転じることが分かった.これは昼側で解離した水素が夜側で再結合してエネルギーを解放し,夜側を加熱するためである.
ただし,ここで考慮しているよりもさらに高温の惑星 (KELT-9b など) では,夜側の水素も部分的に解離し始めるため,夜側が完全に水素分子で構成されているというここでの理論的な仮定は成り立たない可能性がある.
今回考えている温度範囲内では,ウルトラホットジュピターで観測されている比較的小さい位相曲線の振幅は,水素の解離・再結合の効果で説明することが出来ることをこのモデルは示している.これは Bell & Cowan (2018) での予測の通りである.
arXiv:1805.07415
Komacek & Tan (2018)
Effects of dissociation/recombination on the day-night temperature contrasts of ultra-hot Jupiters
(ウルトラホットジュピターの昼夜間温度差における解離・再結合の効果)
概要
最近のウルトラホットジュピターの観測からは,ウルトラホットジュピターの大気中では,低温惑星の大気では発生しないような物理過程が発生している様子が明らかにされている.二次食 (secondary eclipse) の分光観測からは,ウルトラホットジュピターは 1.1 - 1.7 µm の波長域でスペクトルが特徴に欠けていることが分かっている (Arcangeli et al. 2018,Kreidberg et al. 2018,Mansfield et al. 2018).これはおそらく,解離した水素による連続的な不透明度が原因である (Bell et al. 2017,Lothringer et al. 2018,Parmentier et al. 2018).
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最近 Bell & Cowan (2018) によって,水素原子が高温の昼側から比較的低温の夜側へ運ばれた際に,水素原子が水素分子へと再結合することで大きな熱が解放され,夜側の大気を温めることが理論的示された.天文・宇宙物理関連メモ vol.704 Arcangeli et al. (2018) 非常に高温なホットジュピター WASP-18b 大気と水素負イオンの不透明度への寄与
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\[
\frac{Q_{\rm recomb}}{c_{p}}=\frac{Uq_{\rm bond}\eta_{H}\left(T\right)}{c_{p}\left(T\right)a}
\]
\(U\) は東西風の風速であり,スケールされた運動量方程式を用いて整合的に解かれたものである.また,\(a\) は惑星の半径,\(q_{\rm bond}\) = 2.14 × 108 J kg-1 は水素の解離エネルギー (Bell & Cowan 2018),\(\eta_{H}\left(T\right)\) は水素原子の質量混合率で,モル混合比から計算している.さらに,\(c_{p}\left(T\right)\) は水素分子と水素原子混合ガスの比熱容量を表している.
水素分子の解離は昼側の大気の平均分子量を減少させるため,昼夜間の圧力勾配を増加させる.この効果を,水平方向のジオポテンシャルの差を改良し,昼夜間での比気体定数の違いを考慮することによってモデルに取り入れる.
Komacek et al. (2017) と同様に,昼側と夜側の温度差を,入射フラックスおよび摩擦抵抗のタイムスケールという 2 つの制御パラメータの関数として解く.これらを元に,惑星の表面温度を変えた際の昼夜間の温度差の変化を取り扱う.
摩擦抵抗のタイムスケールは,無限大 (摩擦が働かない) と,104 秒の 2 つで計算を行った.
水素の解離と再結合を無視した場合は,昼夜間の温度差を昼側の温度で規格化した値は,惑星の平衡温度を上げるにつれて大きくなる.しかし解離と再結合の効果を考慮した場合は,非常に高温な領域になると昼夜間温度差は減少に転じることが分かった.これは昼側で解離した水素が夜側で再結合してエネルギーを解放し,夜側を加熱するためである.
ただし,ここで考慮しているよりもさらに高温の惑星 (KELT-9b など) では,夜側の水素も部分的に解離し始めるため,夜側が完全に水素分子で構成されているというここでの理論的な仮定は成り立たない可能性がある.
今回考えている温度範囲内では,ウルトラホットジュピターで観測されている比較的小さい位相曲線の振幅は,水素の解離・再結合の効果で説明することが出来ることをこのモデルは示している.これは Bell & Cowan (2018) での予測の通りである.
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