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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1911.00380
Yan et al. (2019)
Ionized calcium in the atmospheres of two ultra-hot exoplanets WASP-33b and KELT-9b
(2 つのウルトラホットジュピター WASP-33b と KELT-9b の大気中のイオン化カルシウム)
ここでは,2 つの非常に高温な巨大系外惑星,KELT-9b と WASP-33b での,イオン化したカルシウムの検出について報告する.
CARMENES と HARPS-N の観測によるトランジットのデータから,Ca II (一階電離のカルシウム) を相互相関手法を用いて高い信頼度で検出した.
さらに,Ca II H&K 二重線のそれぞれと,近赤外線での三重項まわりでの透過スペクトルも取得し,スペクトル線の分布を測定した.Ca II H&K 線は,WASP-33b では平均深さが 2.02% (有効半径 1.56 惑星半径に相当),KELT-9b では 0.78% (1.47 惑星半径に相当) で,吸収は惑星のロッシュローブに近い,非常に高層な大気で発生していることを示唆している.
観測された Ca II 線の吸収は,大気の流体静力学モデルで予測されるものよりずっと深い.この違いはおそらくは,大量の Ca II を高層大気に輸送する流体力学的アウトフローの結果である.
Ca I (中性カルシウム原子) の有意な検出がなく,Ca II が明確に検出されていることは,2 つの惑星の高層大気ではカルシウムは大部分が電離されていることを示唆している.
これらの惑星は非常に高温な昼面温度を持つため,大気中での分子の熱解離と原子の電離が発生する.
例えば,WASP-103b では昼側の大気に水分子の特徴が見られないことが報告されており,これは水分子の熱解離が原因だと解釈されている (Kreidberg et al. 2018).
Arcangeli et al. (2018) では,WASP-18b の昼側大気のスペクトルを解析し,分子は熱解離している一方で,H- イオンの不透明度が重要になることを見出した.
Yan & Henning (2018) は,強い Hα の吸収を KELT-9b の透過スペクトル中に検出し,この惑星は散逸する高温の水素大気を持つことを示唆した.Hα 線は他の 2 惑星,MASCARA-2b (Casasayas-Barris et al. 2018) と WASP-12b (Jensen et al. 2018) でも検出が報告されている.
さらに,金属原子やイオンのスペクトル線も検出されている.
例えば Fossati et al. (2010) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた紫外線の透過光分光観測から,WASP-12b の大気から Mg II を検出したことを報告している.また,その他の金属元素 (Fe, Ti, Mg, Na) も KELT-9b の大気中から検出されている (Hoeijmakers et al. 2018, 2019, Cauley et al. 2019).
Khakafinejad et al. (2018) は,WASP-17b の透過光分光観測で Ca II の近赤外線の三重項の有無を探査したが,検出されなかった.
なおつい最近,MASCARA-2b で初めて Ca II が検出された (Casasayas-Barris et al. 2019).これは平衡温度が 2260 K 程度の高温の惑星である.
Ca II は,岩石惑星の外気圏にも存在することが分かっている (Mura et al. 2011).
例えば水星の外気圏で Ca II の検出が報告されている (Vervack et al. 2010).また,Ridden-Harper et al. (2016) は高温の岩石惑星 55 Cnc e (かに座55番星e) の外気圏における Ca II を探査し,4 回のトランジットのうち 1 回で暫定的なシグナルの存在を報告している.Guenther et al. (2011) は別の高温岩石惑星 CoRoT-7b でカルシウムの検出を試みたが,外気圏でのカルシウムの上限値を出すにとどまった.
KELT-9b は,平衡温度 4050 K の,これまでに発見されている中で最も高温な系外惑星である (Gaudi et al. 2017).中心星は自転の高速な A 型星である.この惑星は,水素のバルマー線と,何種類かの金属のスペクトル線の検出が報告されているが (Yan & Henning 2018,Hoejimakers et al. 2018, Cauley et al. 2019),Ca II は報告されていなかった.
WASP-33b は平衡温度が 2710 K で,2 番目に高温な系外惑星である.同じく高速自転星の A5 型星を公転している (Collier Cameron et al. 2010).中心星はたて座デルタ型変光星である.この惑星の大気では,温度逆転層,および TiO の存在の報告,さらに AlO が存在する可能性が報告されている (Haynes et al. 2015, Nugroho et al. 2017, von Essen et al. 2019).
arXiv:1911.00380
Yan et al. (2019)
Ionized calcium in the atmospheres of two ultra-hot exoplanets WASP-33b and KELT-9b
(2 つのウルトラホットジュピター WASP-33b と KELT-9b の大気中のイオン化カルシウム)
概要
ウルトラホットジュピターは,最近発見個数が増加している新しい分類の系外惑星である.これらの化学組成と温度構造を研究することは,惑星からの質量放出率だけではなく,形成と進化に対する理解の改善につながる.ここでは,2 つの非常に高温な巨大系外惑星,KELT-9b と WASP-33b での,イオン化したカルシウムの検出について報告する.
CARMENES と HARPS-N の観測によるトランジットのデータから,Ca II (一階電離のカルシウム) を相互相関手法を用いて高い信頼度で検出した.
さらに,Ca II H&K 二重線のそれぞれと,近赤外線での三重項まわりでの透過スペクトルも取得し,スペクトル線の分布を測定した.Ca II H&K 線は,WASP-33b では平均深さが 2.02% (有効半径 1.56 惑星半径に相当),KELT-9b では 0.78% (1.47 惑星半径に相当) で,吸収は惑星のロッシュローブに近い,非常に高層な大気で発生していることを示唆している.
観測された Ca II 線の吸収は,大気の流体静力学モデルで予測されるものよりずっと深い.この違いはおそらくは,大量の Ca II を高層大気に輸送する流体力学的アウトフローの結果である.
Ca I (中性カルシウム原子) の有意な検出がなく,Ca II が明確に検出されていることは,2 つの惑星の高層大気ではカルシウムは大部分が電離されていることを示唆している.
ウルトラホットジュピター
ウルトラホットジュピター (ultra hot Jupiters) は,中心星から非常に強く輻射を受けているため,昼側の温度が典型的には 2200 K よりも高くなっている巨大ガス惑星を指す (Parmentier et al. 2018).これらの多くは,スペクトル型が A 型か F 型の恒星の非常に近くを公転している.これらの惑星は非常に高温な昼面温度を持つため,大気中での分子の熱解離と原子の電離が発生する.
ウルトラホットジュピターの大気成分の検出
観測では,ウルトラホットジュピター大気の様々な特徴が明らかになっている.例えば,WASP-103b では昼側の大気に水分子の特徴が見られないことが報告されており,これは水分子の熱解離が原因だと解釈されている (Kreidberg et al. 2018).
Arcangeli et al. (2018) では,WASP-18b の昼側大気のスペクトルを解析し,分子は熱解離している一方で,H- イオンの不透明度が重要になることを見出した.
Yan & Henning (2018) は,強い Hα の吸収を KELT-9b の透過スペクトル中に検出し,この惑星は散逸する高温の水素大気を持つことを示唆した.Hα 線は他の 2 惑星,MASCARA-2b (Casasayas-Barris et al. 2018) と WASP-12b (Jensen et al. 2018) でも検出が報告されている.
さらに,金属原子やイオンのスペクトル線も検出されている.
例えば Fossati et al. (2010) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた紫外線の透過光分光観測から,WASP-12b の大気から Mg II を検出したことを報告している.また,その他の金属元素 (Fe, Ti, Mg, Na) も KELT-9b の大気中から検出されている (Hoeijmakers et al. 2018, 2019, Cauley et al. 2019).
惑星大気中のカルシウムイオンの探査
理論的には,ウルトラホットジュピターの高層大気ではカルシウムも電離された Ca II の状態で存在していると考えられる.Khakafinejad et al. (2018) は,WASP-17b の透過光分光観測で Ca II の近赤外線の三重項の有無を探査したが,検出されなかった.
なおつい最近,MASCARA-2b で初めて Ca II が検出された (Casasayas-Barris et al. 2019).これは平衡温度が 2260 K 程度の高温の惑星である.
Ca II は,岩石惑星の外気圏にも存在することが分かっている (Mura et al. 2011).
例えば水星の外気圏で Ca II の検出が報告されている (Vervack et al. 2010).また,Ridden-Harper et al. (2016) は高温の岩石惑星 55 Cnc e (かに座55番星e) の外気圏における Ca II を探査し,4 回のトランジットのうち 1 回で暫定的なシグナルの存在を報告している.Guenther et al. (2011) は別の高温岩石惑星 CoRoT-7b でカルシウムの検出を試みたが,外気圏でのカルシウムの上限値を出すにとどまった.
WASP-33b と KELT-9b について
ここでは,ウルトラホットジュピター KELT-9b と WASP-33b での Ca II の検出を報告する.KELT-9b は,平衡温度 4050 K の,これまでに発見されている中で最も高温な系外惑星である (Gaudi et al. 2017).中心星は自転の高速な A 型星である.この惑星は,水素のバルマー線と,何種類かの金属のスペクトル線の検出が報告されているが (Yan & Henning 2018,Hoejimakers et al. 2018, Cauley et al. 2019),Ca II は報告されていなかった.
WASP-33b は平衡温度が 2710 K で,2 番目に高温な系外惑星である.同じく高速自転星の A5 型星を公転している (Collier Cameron et al. 2010).中心星はたて座デルタ型変光星である.この惑星の大気では,温度逆転層,および TiO の存在の報告,さらに AlO が存在する可能性が報告されている (Haynes et al. 2015, Nugroho et al. 2017, von Essen et al. 2019).
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