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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1810.05776
Wilson Cauley et al. (2018)
Atmospheric dynamics and the variable transit of KELT-9 b
(KELT-9b の大気ダイナミクスと変動性トランジット)

概要

ウルトラホットジュピター KELT-9b の広がった大気中から,可視光の波長域で Mg I triplet の吸収スペクトルを 7.8σ で分解して検出した.
また,同時に行った Hα 線と Hβ 線の観測結果を元に,球対称の大気構造を仮定して,励起された水素エンベロープの動径方向の広がりと密度に制約を与えた.

観測されたバルマー線の透過分布形状を再現するためには,惑星の自転によるスペクトル線の広がりは 12.0 km s-1 という大きさが必要であることが分かった.しかしトランジット中の分布は,非回転性の質量流の成分による影響を受けている可能性がある.

金属の吸収線と水素による吸収両方の時系列データは,特徴的な構造を示す.この構造から,トランジットの最中に観測された大気は静的ではなく動的であることが示唆される.

またトランジットの終わり付近で,相対的な放射の特徴が検出された,これは P-Cygni-like shape (はくちょう座 P 型プロファイル) と類似しており,これは物質が惑星から 50 - 100 km s-1 で遠ざかっていることを示すものである.

トランジット中の変動と,それに続くはくちょう座 P 型プロファイルの検出は,惑星大気を膨張させる原因となった恒星のフレアによるものだという仮説を立てた.これは,惑星の重力に束縛されていない物質が,恒星の輻射圧により高速に加速されたというものである.今後のさらなる分光トランジット観測が,このような事象の発生頻度を調べるのに役立つだろう.

ホットジュピターの大気分光観測

ホットジュピターの大気観測は,透過光の分光観測を用いて行われてきた.これにより,惑星大気中の原子や分子種の存在,惑星の自転と風のダイナミクスの測定,ヘイズや雲層の検出などが可能となる.

可視光波長での観測では,原子の強いスペクトル線が一般にターゲットとされる.Na I D (ナトリウム),K I 7698 Å (カリウム) が代表例である,また,Hα 線は1 µbar 程度の圧力の熱圏の探査手段として使われている (Heng et al. 2015,Huang et al. 2017).

最近,He I 10830 Å (ヘリウム) が WASP-107b の広がった大気中から検出され,高温の惑星における質量損失の診断手法としてスペクトル線の有用性が示された (Spake et al. 2018; Oklop ̆ci ́c &Hirata 2018).

KELT-9b について

KELT-9b の概要

KELT-9b は,これまでに発見された中で最も高温な巨大ガス惑星である (Gaudi et al. 2017).スペクトル型 A0V/B9V の中心星 (有効温度は 10170 K) を 0.034 AU の軌道長半径で公転しており,昼側の平衡温度は 4600 K に達する.

Kitzmann et al. (2018) では,この惑星では高温のため大部分の難揮発性分子が原子に分解されるため,可視光の波長域で Fe I と II 線 (鉄原子) が検出可能であることが指摘された.この予測は Hoeijmakers et al. (2018) による可視光の Fe I, II, Ti II 線の強い相互相関シグナルの検出によって証明された.

また,Yan & Henning (2018) では Hα での吸収を用いて,励起された水素の光学的に厚い層が惑星の周りに存在することを示し,この惑星からの質量放出率は 1012 g s-1 であると推定した.

相互相関を用いた過去の観測

Hoeijmakers et al. (2018) による大気中の金属の検出は,3.58 m Telescopio Nazionale Galileo (TNG) の HARPS-N を用いて得られたトランジット中のスペクトルから,大量の理論的な鉄のライン吸収の相互相関を行うことで得られた.また Yan & Henning (2018) の Hα 観測も,Calar Alto Observatory の 3.5 m 望遠鏡を用いて同様の手法で行われている.

相互相関技術はスペクトル中に多数のラインが存在する場合は強力な手法だが,Hα で見られるような強い (1% 程度の) 吸収とは対照的に,単一のトランジット中の個別のスペクトル線の弱い透過スペクトルの吸収を検出したい場合は,効率的な高分散分光器と口径 10 m クラスの望遠鏡の組み合わせが必要である.

主な結果

ここでは可視光波長域の Mg I 三重項の系外惑星大気からの初めての検出について報告する.
観測には,Large Binocular Telescope (LBT,8.4 m 口径が 2 つセットになった大型双眼鏡) に搭載されている PEPSI 分光器を使用した.

惑星大気のマグネシウムの吸収は,系外惑星の質量放出率の推定に使用することができる (Bourrier et al. 2015).またマグネシウムは高温惑星大気中の重要な冷却源 (coolant) となる (Huang et al. 2017).

また,Yan & Henning (2018) で報告されていた Hα の測定結果を確認し,さらに Hβ の観測を用いて広がった水素大気のパラメータに追加の制約を与えた.Mg I とバルマー線吸収の大気モデルからは,惑星の自転速度はゼロではないのが好ましいという結果が得られた.

最後に,検出された全ての惑星大気の吸収線において,トランジット最中の変動の存在を観測した.また,大きく青方偏移した速度を,トランジットの終わり近くの透過スペクトル中に検出した.これらは,恒星のフレアイベントが原因であろうという仮説を提唱する.

KELT-9 大気中の水素の吸収は,Yan & Henning (2018) で得られていた結果と整合的であった.
Hα 線でのトランジット深さは 1.103% であった.これは過去の結果と非常に似ており,励起された水素層は観測時期によて変化していないことを示唆している.

Hβ 線でのトランジット深さは 0.783% であった.この深い吸収からは,惑星周囲の水素の層が光学的に厚いことが確認される.


大気中の金属による吸収線は,過去には Fe I,Fe II,Ti II が検出されている (Hoeijmakers et al. 2018).今回はこれらに加え,Mg I 5167.3, 5172.7, 5183.6 Å 三重項の吸収が検出された.

ただしこれらの吸収には,波長域が近いの Fe I, Fe II, Ti II 吸収線からの混合がある.三重項のうち,5172.7 Å での吸収は Fe と Ti の吸収波長から比較的離れており,このライン単独での吸収は 7.8σ の水準で有意であった.このライン以外の三重項でも同様の吸収が見られることから,Mg I の吸収による確度は高い.

議論

惑星の自転および大気の速度推定

Mg I 線とバルマー線の吸収から推定される惑星の自転速度は,それぞれ 6.0 km s-1 と 12 km s-1 である.Mg I 線での速度は,惑星の自転が中心星に対して潮汐固定されている場合と整合的である.

しかしバルマー線での速度は,この惑星がスーパーローテーションであることを示唆している.
大気中の熱圏におけるジェットや,昼面から夜面への風は,大気の透過スペクトルの全体的な青方偏移を起こしうる.これらの特徴は,高温な惑星大気では自然に発生し,HD 209458b と HD 189733b では暫定的に検出されている (Snellen et al. 2010,Louden & Wheatley 2015).Hβ 線での暫定的な例外を除いて,今回のスペクトル中には明確な全体の青方偏移は見られない.しかし,トランジット中の変動に伴う速度が大気の風の速度を隠している可能性がある.

また,2 つのラインでの推定速度が違うことは,2 つの波長で大気中の異なる圧力領域を探査していることを示している可能性がある.Miller-Ricci Kempton & Rauscher (2012) では,磁気制動のない大気中では最大で 15 km s-1 の風が発生することが可能であり,この風が発生する圧力はバルマー線で探査できる領域と整合的である.
ジェットの風速が 5 km s-1 として,これに惑星の自転を組み合わせると,バルマー線で測定された大きな速度を説明するのに十分な値となる.これは将来的な観測で確認できると考えられる.

惑星からの質量放出

KELT-9b からの質量放出は,Gaudi et al. (2017) では 1010 - 1013 g s-1 と推定されている.推定値の範囲が大きいのは,恒星からの非熱的な放射と恒星の活動レベルに関する不定性に起因している.

Yan & Henning (2018) では解析的な大気モデルを用いて,Hα の分布から質量放出率を 1012 g s-1 と推定した.

今回の Mg I の観測からは,Mg I のみの質量放出率は 9.7 × 106 g s-1 と推定される,マグネシウムの存在量が太陽金属量と等しいとすると,合計で 3 × 1011 g s-1 となる.
バルマー線でも同様の議論を行うと 3 × 1012 g s-1 となり,これは Mg I での推定より 1 桁多い.

質量放出に関しては,原子の準位の割合,惑星からのアウトフローの速度,惑星の元素存在度,電離度に関する推定の大きな不定性がある.しかし今回の推定値はいずれも,エネルギー注入計算から得られた Yan & Henning (2018) の予測する範囲内にある.

吸収の時系列からの大気流出の測定

金属の吸収線とバルマー線の両方は,興味深いサブ構造を示す.これはバルマー線で特に明確である.

Hα と Fe II のトランジット中の速度は,トランジット中心の 0.03 日前に大きく赤方偏移を示す.これはトランジットの吸収が増加するときと類似している.この特徴は両方の波長で発生していることから,水素と鉄の両方の原子のポピュレーションは,大気の同じ領域を探査していることを示唆している.

その後,トランジット中心の 0.05 日後には放射の特徴が出現した.Fe II の速度は強く赤方偏移し,Hα は緩やかな青方偏移を継続するが,測定の大部分は速度 0 と整合的である.

金属とバルマー線の時系列は,トランジットの第三接触付近で有意な放射的特徴を示した.このスペクトル変化の特徴は, はくちょう座 P 型プロファイルの特徴と類似している.はくちょう座 P 型プロファイルは,明るい変光星周りに強い恒星風がある場合に見られる観測的特徴である.または,降着する前主系列星でも発生する.

観測された青方偏移の特徴は,物質が惑星から遠ざかるように,観測者の視線方向に 50 - 100 km s-1 まで加速されていることを示唆している.はくちょう座 P 型プロファイルは惑星のトランジット後即座に消滅したため,物質は惑星の非常に近傍にあると制約を与えることが出来る.

大気の熱的膨張だけでは観測された大きな青方偏移速度を再現できない.高速に加速するメカニズムとして,恒星の輻射圧が有力である.

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