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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.05406
Dederick et al. (2018)
An Analysis of Stochastic Jovian Oscillation Excitation by Moist Convection
(湿潤対流による確率的な木星振動励起の解析)
ここでは,木星上層大気の湿潤対流が全球振動を駆動する原因となり得るかどうか,またこれらの理論的なモードエネルギーと表面振幅を実現するために必要な,湿潤対流のエネルギーについて調査を行った.
1 次元の木星の湿潤対流雲モデルを構築した結果,上昇する雲柱の利用可能な運動エネルギーが,振動エネルギーの理論的な推定値を下回ることを発見した.つまり,木星大気中の 1 回の嵐の発生では,モードの励起は発生しないことが分かった.
次に,湿潤対流嵐による振動の確率的励起シナリオについての検証を行った.その結果,モードに利用可能な嵐のエネルギーが単なる動力学的以上のものであれば,モードエネルギーと振幅は理論的な見積もりに達することを発見した.モードを励起するためには,エネルギーは 1 日あたり 5 × 1027 - 5 × 1028 erg 必要である.
しかし,毎日巨大な嵐が発生したとしても,嵐からの利用可能な運動エネルギーは振動を駆動するのに必要なエネルギーを 2 桁下回る.
このモデルは木星の嵐と全球振動の間の結びつきの真の複雑さを過度に単純化している可能性がある.しかし今回の発見は,湿潤対流の熱エネルギーがモードの励起に利用可能である場合,モードを駆動するための十分な熱エネルギーが湿潤対流に伴っていることを示すものである.
木星や土星の振動モードにおける固有の性質については,これまでに多くの理論研究が存在する (Vorontsov et al. 1976,Bercovici & Schubert 1987,Marley & Porco1993,Jackiewicz et al. 2012など).
また,観測的な研究も行われている.
Gaulme et al. (2011) と Hedman & Nicholson (2013) では,木星の全球振動の特徴を検出している,また,土星の基本モードによって引き起こされた土星リング中の渦状密度構造をそれぞれ検出している.
これらの振動の励起機構はまだ不明である.
振動を駆動するエネルギーについては,対流フラックスの速度と音速の比 (マッハ数) から議論を行うことができる.木星ではマッハ数は太陽よりずっと低い値となり,その結果として得られる振動表面速度振幅は太陽よりも少なくとも 3 桁は小さくなる (木星では ≦ 0.5 m s-1,太陽では ~ 500 m s-1) (Bercovici & Schubert 1987).
Bercovici & Schubert (1987) では,乱流運動が ~ 50 cm s-1 程度の振動表面速度に関与している可能性があると主張しているが,これらの乱流運動は従来の対流によるものではない可能性がある.
脈動変光星で観測されている,不透明度の効果として発生するメカニズムである κ-mechanism,放射抑制機構は,ホットジュピターでの振動の励起源となる可能性はある.しかし木星振動の駆動は出来ないことが指摘されている (Dederick & Jackiewicz 2017).
原子ヘリウムの液滴が非混和性の金属水素領域を通過して降雨する過程であるヘリウム雨 (Helium rain) は,現在のところ駆動機構として詳細に調査されていない.しかしここでは,ヘリウム雨が発生する領域の圧力では,振動を駆動するには慣性が大きすぎるため,モードを励起させる可能性は低いと考える.
水素のオルト-パラ転移も提案されているが,これは非常にゆっくりとした過程であり,振動運動と結合するには遅すぎるため可能性が低いとされている (Bercovici & Schubert 1987).
結果として,現在のところ木星振動の起源は未解明である.ここでは湿潤対流と,それが木星の全球的な振動を駆動するために供給できるエネルギーについて調査を行った.
arXiv:1802.05406
Dederick et al. (2018)
An Analysis of Stochastic Jovian Oscillation Excitation by Moist Convection
(湿潤対流による確率的な木星振動励起の解析)
概要
最近の木星の観測からは,ミリヘルツ程度の周波数での全球振動モードの存在が示唆されている.これらの振動モードを駆動する起源となる機構は不明であるが.観測可能な表面振動を生成するために必要なエネルギーについての予測は行われている.ここでは,木星上層大気の湿潤対流が全球振動を駆動する原因となり得るかどうか,またこれらの理論的なモードエネルギーと表面振幅を実現するために必要な,湿潤対流のエネルギーについて調査を行った.
1 次元の木星の湿潤対流雲モデルを構築した結果,上昇する雲柱の利用可能な運動エネルギーが,振動エネルギーの理論的な推定値を下回ることを発見した.つまり,木星大気中の 1 回の嵐の発生では,モードの励起は発生しないことが分かった.
次に,湿潤対流嵐による振動の確率的励起シナリオについての検証を行った.その結果,モードに利用可能な嵐のエネルギーが単なる動力学的以上のものであれば,モードエネルギーと振幅は理論的な見積もりに達することを発見した.モードを励起するためには,エネルギーは 1 日あたり 5 × 1027 - 5 × 1028 erg 必要である.
しかし,毎日巨大な嵐が発生したとしても,嵐からの利用可能な運動エネルギーは振動を駆動するのに必要なエネルギーを 2 桁下回る.
このモデルは木星の嵐と全球振動の間の結びつきの真の複雑さを過度に単純化している可能性がある.しかし今回の発見は,湿潤対流の熱エネルギーがモードの励起に利用可能である場合,モードを駆動するための十分な熱エネルギーが湿潤対流に伴っていることを示すものである.
木星の全球振動
全球振動の検出
日震学 (asteroseismology) の進歩と太陽の全球振動の検出以来,巨大ガス惑星も同様の振動を示す可能性が指摘されている.木星や土星の振動モードにおける固有の性質については,これまでに多くの理論研究が存在する (Vorontsov et al. 1976,Bercovici & Schubert 1987,Marley & Porco1993,Jackiewicz et al. 2012など).
また,観測的な研究も行われている.
Gaulme et al. (2011) と Hedman & Nicholson (2013) では,木星の全球振動の特徴を検出している,また,土星の基本モードによって引き起こされた土星リング中の渦状密度構造をそれぞれ検出している.
これらの振動の励起機構はまだ不明である.
全球振動の駆動源候補
対流起源説
太陽の場合は,乱流対流からのエネルギーによって,観測されている太陽振動を再現できる事が指摘されている (Goldreich & Keeley 1977).しかし,木星に対する同様の理論的アプローチでは,対流からの利用可能なエネルギーは木星の全球振動を担うには小さすぎるということが指摘されている (Gaulme et al. 2014).振動を駆動するエネルギーについては,対流フラックスの速度と音速の比 (マッハ数) から議論を行うことができる.木星ではマッハ数は太陽よりずっと低い値となり,その結果として得られる振動表面速度振幅は太陽よりも少なくとも 3 桁は小さくなる (木星では ≦ 0.5 m s-1,太陽では ~ 500 m s-1) (Bercovici & Schubert 1987).
Bercovici & Schubert (1987) では,乱流運動が ~ 50 cm s-1 程度の振動表面速度に関与している可能性があると主張しているが,これらの乱流運動は従来の対流によるものではない可能性がある.
その他の説
振動の駆動源としてこれまでに幾つかの起源が調査されてきたが,どれも不十分であることが分かっている.脈動変光星で観測されている,不透明度の効果として発生するメカニズムである κ-mechanism,放射抑制機構は,ホットジュピターでの振動の励起源となる可能性はある.しかし木星振動の駆動は出来ないことが指摘されている (Dederick & Jackiewicz 2017).
原子ヘリウムの液滴が非混和性の金属水素領域を通過して降雨する過程であるヘリウム雨 (Helium rain) は,現在のところ駆動機構として詳細に調査されていない.しかしここでは,ヘリウム雨が発生する領域の圧力では,振動を駆動するには慣性が大きすぎるため,モードを励起させる可能性は低いと考える.
水素のオルト-パラ転移も提案されているが,これは非常にゆっくりとした過程であり,振動運動と結合するには遅すぎるため可能性が低いとされている (Bercovici & Schubert 1987).
結果として,現在のところ木星振動の起源は未解明である.ここでは湿潤対流と,それが木星の全球的な振動を駆動するために供給できるエネルギーについて調査を行った.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.05034
Kral et al. (2018)
Cometary impactors on the TRAPPIST-1 planets can destroy all planetary atmospheres and rebuild secondary atmospheres on planets f, g, h
(TRAPPIST-1 惑星への彗星衝突は全惑星の大気を破壊し f, g, h の二次大気を再構築する)
この系内の惑星に衝突する可能性のある彗星の軌道進化を調べるため,N 体シミュレーションを実行し,どの惑星が最も衝突を受けやすいか,あるいは衝突速度の分布を調査した.
彗星の軌道の起源について,3 つのシナリオを考慮.1 つ目は 7 個の惑星が存在している内側領域に起源を持つもの,2 つ目は太陽系でのカイパーベルト天体に相当する外側の領域に起源を持つもの,3 つ目は太陽系でのオールトの雲に相当する最遠領域に起源を持つものである.それぞれのシナリオでは,惑星散乱,Kozai-Lidov 機構,銀河潮汐の影響によって軌道を乱され,惑星への衝突を引き起こす.
上記の様々なシナリオで,各惑星についてどれだけの大気が失われるか,および外側の彗星群から散乱された質量に応じて,系の年齢の間にどれだけの揮発性物質が惑星に供給されるかを定量的に評価した.
その結果,TRAPPIST-1 系の 7 つの全ての惑星について,初期大気は高速な彗星衝突によって容易に失われる事が判明した.これは,もし外側の彗星群から散乱された総質量が,カイパーベルト程度の低質量であった場合でも同様である.
しかし,外側の TRAPPIST-1f, g, h に関しては,彗星の揮発性物質によって大気が補充されることも判明した.この彗星衝突によって,地球の海洋質量と同程度の水が供給可能である.
したがってこれらのシナリオは,TRAPPIST-1 系の最も外側の惑星大気は内側の惑星よりも重い大気を持ち,揮発性物質に富んだ組成を有することを示唆している.
arXiv:1802.05034
Kral et al. (2018)
Cometary impactors on the TRAPPIST-1 planets can destroy all planetary atmospheres and rebuild secondary atmospheres on planets f, g, h
(TRAPPIST-1 惑星への彗星衝突は全惑星の大気を破壊し f, g, h の二次大気を再構築する)
概要
TRAPPIST-1 系は,7 個の地球型惑星が中心星のハビタブルゾーンの付近かその内部にいる,ユニークな惑星系である.ここでは,これらの惑星への彗星の衝突が初期大気に及ぼしうる影響について考察を行った.惑星への彗星衝突は,惑星からの大気の散逸という効果と,揮発性物質の供給という両方の効果をもたらす.この系内の惑星に衝突する可能性のある彗星の軌道進化を調べるため,N 体シミュレーションを実行し,どの惑星が最も衝突を受けやすいか,あるいは衝突速度の分布を調査した.
彗星の軌道の起源について,3 つのシナリオを考慮.1 つ目は 7 個の惑星が存在している内側領域に起源を持つもの,2 つ目は太陽系でのカイパーベルト天体に相当する外側の領域に起源を持つもの,3 つ目は太陽系でのオールトの雲に相当する最遠領域に起源を持つものである.それぞれのシナリオでは,惑星散乱,Kozai-Lidov 機構,銀河潮汐の影響によって軌道を乱され,惑星への衝突を引き起こす.
上記の様々なシナリオで,各惑星についてどれだけの大気が失われるか,および外側の彗星群から散乱された質量に応じて,系の年齢の間にどれだけの揮発性物質が惑星に供給されるかを定量的に評価した.
その結果,TRAPPIST-1 系の 7 つの全ての惑星について,初期大気は高速な彗星衝突によって容易に失われる事が判明した.これは,もし外側の彗星群から散乱された総質量が,カイパーベルト程度の低質量であった場合でも同様である.
しかし,外側の TRAPPIST-1f, g, h に関しては,彗星の揮発性物質によって大気が補充されることも判明した.この彗星衝突によって,地球の海洋質量と同程度の水が供給可能である.
したがってこれらのシナリオは,TRAPPIST-1 系の最も外側の惑星大気は内側の惑星よりも重い大気を持ち,揮発性物質に富んだ組成を有することを示唆している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.04284
Blank et al. (2018)
A Multi-Year Search For Transits Of Proxima Centauri. I: Light Curves Corresponding To Published Ephemerides
(プロキシマ・ケンタウリのトランジットの複数年の探索.I:公開された天体暦に対応する光度曲線)
プロキシマb は,M 型星プロキシマ・ケンタウリの周りを 11.2 日周期で公転する惑星である.もしプロキシマb が中心星をトランジットしていた場合,プロキシマb の視線速度法とは独立した確認を行うことができる.またトランジットを検出出来た場合,惑星の質量と半径を測定することが出来る.
現在までに,プロキシマ・ケンタウリの光度曲線中にトランジット状のイベントを検出したという,3 つの独立した主張が存在する.それぞれ,MOST 衛星によるもの (2014 - 2015 年の観測),南極の BSST 望遠鏡によるもの (2016 年の観測),Las Campanas Observatory によるもの (2016 年の観測) である.
トランジットが検出された可能性があるというこれらの主張は,中心星に起因する変動性や,ノイズの大きい地上観測であること,また光度曲線の観測時間が限られているという制約が存在する影響により,未だに暫定的なものに留まっている.
ここでは,全地球上の複数の望遠鏡を用いた,2006 - 2017 年に渡るプロキシマ・ケンタウリの測光モニタリングキャンペーンの暫定的な結果について報告する.合計で 329 の観測データセットを解析した.
これまでに公開された暫定的なトランジット検出のデータと合わせて解析した結果,これまでのトランジット検出の主張を独立に検証することはできない.しかし過去に報告された,遍在していて複雑な中心星の変動性の存在を検証した.
これまでの検出の主張に照らして観測データの可能な解釈について議論し,視線速度で発見された惑星に対応するトランジットの存在を,明確に検証したりあるいは否定することが出来るような,観測データの将来的な分析についても議論を行う.
軌道がランダムな配置であった場合のトランジット確率は 1.5% と推定された.
プロキシマb の真の質量が視線速度観測からの最小質量と同じであると仮定し,また地球と同じ密度を持つことを仮定すると,予想されるプロキシマb のトランジット深さは ~ 0.5% と推定される.
また,60 - 500 日の範囲の周期を持つ,別の惑星によると思われるシグナルの兆候が視線速度データ中に見られることも報告している.
再解析から,軌道周期は 11.1855 日,軌道長半径は e = 0.17 (+0.21, -0.12) と推定されている.
また,Anglada-Escudé ́ et al. (2016) で報告されていた,さらなる惑星シグナルの可能性については否定的な結果を示している.
また Anglada-Escudé ́ et al. (2016) のデータを再解析し,軌道周期は 11.1856 日と推定した.
Kipping et al. (2017) の行った測光観測からは,光度曲線中にトランジット的なシグナルが検出された.
この結果を GP+transit モデルを用いて,トランジット位相についての前情報無しでモデル化を行った.しかしこの場合,視線速度の解と調和させるのは困難であることを指摘している.
トランジット位相について,事前情報ありでモデル化した結果,視線速度での観測結果とは 1.5 σ の整合性であった.ただしその他のモデルでも試したが,視線速度と一致するようなトランジットのモデルを得ることは出来なかった.
その結果,2.5 σ の信頼度で光度曲線中にトランジット状のイベントが検出された,このトランジット的なシグナルの発生時刻は,視線速度観測から予想される天体暦とは 1 σ 程度の違いを示す.また,Kipping et al. (2017) でのモデルの一つから予測される時期よりも 138 分遅くシグナルが発生している.
トランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) では,17 - 39 分のトランジット時刻の変化が起こり得る.プロキシマb と 2:1 か 3:2 平均運動共鳴にある地球質量の天体が存在した場合,プロキシマの視線速度変動を 3 m/s 未満に押さえつつ,TTV を 30 分程度以上にできることが指摘されている.
検出されたトランジット状イベントの継続時間は,おおよそ 1 時間であった.このトランジット状イベントが実際に惑星のトランジットによるものだと仮定すると,トランジットモデルからはその惑星の軌道周期は 2 - 4 日と推定された (この軌道周期はプロキシマb とは異なるため,プロキシマb ではない別の惑星も存在することを示唆する).
さらに,この別の惑星の惑星質量は 0.4 地球質量未満である必要があることも指摘している.これは,Anglada-Escudé ́ et al. (2016) での視線速度観測では 2- 4 日周期のシグナルは未検出であるという制約から来るものである.
・0.4 m と 0.6 m 望遠鏡で世界的に運用される Skynet.今回の観測の多くはこれらの望遠鏡を使用.チリ・セロトロロ,オーストラリア・ニューサウスウェールズのサイディング・スプリング天文台,西オーストラリア・パースにある望遠鏡.
・Kilo degree Extremely Little Telescope (KELT) のフォローアップネットワーク (KELT-FUN) の,Hazelwood,Ellinbank,Mt. Kent CDK700,Ivan Curtis Observatory (ICO).
しかし,機器の系統,フレア,また ~ 0.5% 程度の変動で ~ 20 分程度ごとに発生すると予測されている低エネルギーフレア (Davenport et al. 2016) は,今回の測光データの中でも顕著に現れた.
データのリダクションと解析の結果,0.5 - 2.0% のレベルの光度曲線データを得た.全体的な結果としては,全てのデータから過去のトランジット観測の個別の確認を行うことは出来なかった.しかし,過去に報告されていた中心星の変動の遍在と複雑性については確認された.
arXiv:1802.04284
Blank et al. (2018)
A Multi-Year Search For Transits Of Proxima Centauri. I: Light Curves Corresponding To Published Ephemerides
(プロキシマ・ケンタウリのトランジットの複数年の探索.I:公開された天体暦に対応する光度曲線)
概要
Anglada-Escude ́ et al. (2016) によって視線速度法で系外惑星プロキシマb の検出が報告されて以降,プロキシマ・ケンタウリ (Proxima Centauri) は集中的な研究の対象となっている.プロキシマb は,M 型星プロキシマ・ケンタウリの周りを 11.2 日周期で公転する惑星である.もしプロキシマb が中心星をトランジットしていた場合,プロキシマb の視線速度法とは独立した確認を行うことができる.またトランジットを検出出来た場合,惑星の質量と半径を測定することが出来る.
現在までに,プロキシマ・ケンタウリの光度曲線中にトランジット状のイベントを検出したという,3 つの独立した主張が存在する.それぞれ,MOST 衛星によるもの (2014 - 2015 年の観測),南極の BSST 望遠鏡によるもの (2016 年の観測),Las Campanas Observatory によるもの (2016 年の観測) である.
トランジットが検出された可能性があるというこれらの主張は,中心星に起因する変動性や,ノイズの大きい地上観測であること,また光度曲線の観測時間が限られているという制約が存在する影響により,未だに暫定的なものに留まっている.
ここでは,全地球上の複数の望遠鏡を用いた,2006 - 2017 年に渡るプロキシマ・ケンタウリの測光モニタリングキャンペーンの暫定的な結果について報告する.合計で 329 の観測データセットを解析した.
これまでに公開された暫定的なトランジット検出のデータと合わせて解析した結果,これまでのトランジット検出の主張を独立に検証することはできない.しかし過去に報告された,遍在していて複雑な中心星の変動性の存在を検証した.
これまでの検出の主張に照らして観測データの可能な解釈について議論し,視線速度で発見された惑星に対応するトランジットの存在を,明確に検証したりあるいは否定することが出来るような,観測データの将来的な分析についても議論を行う.
プロキシマb のトランジットについて
プロキシマ・ケンタウリを公転する系外惑星プロキシマb は,Anglada-Escudé ́ et al. (2016) によって発見が報告された.発見は視線速度法を用いて行われた.また,プロキシマb のトランジット状のシグナルは,Kipping et al. (2017),Liu et al. (2017),Li et al. (2017) でそれぞれ報告されている.Anglada-Escudé ́ et al. (2016) による発見
Anglada-Escudé ́ et al. (2016) では,16 年に渡る 216 セットの視線速度観測データを元に,プロキシマb の発見を報告した.軌道周期は 11.186 日,最小質量は ~ 1.27 地球質量と推定された,軌道がランダムな配置であった場合のトランジット確率は 1.5% と推定された.
プロキシマb の真の質量が視線速度観測からの最小質量と同じであると仮定し,また地球と同じ密度を持つことを仮定すると,予想されるプロキシマb のトランジット深さは ~ 0.5% と推定される.
また,60 - 500 日の範囲の周期を持つ,別の惑星によると思われるシグナルの兆候が視線速度データ中に見られることも報告している.
Damasso & Del Sordo (2017) による再解析と確認
Damasso & Del Sordo (2017) は Anglada-Escudé ́ et al. (2016) のデータの再解析を行っている.再解析から,軌道周期は 11.1855 日,軌道長半径は e = 0.17 (+0.21, -0.12) と推定されている.
また,Anglada-Escudé ́ et al. (2016) で報告されていた,さらなる惑星シグナルの可能性については否定的な結果を示している.
Kipping et al. (2017) による測光観測
Kipping et al. (2017) は,広帯域での可視光測光観測を MOST 宇宙望遠鏡を用いて行った.観測は,2014 年に 12.5 日間,2015 年に 31 日間行われた.また Anglada-Escudé ́ et al. (2016) のデータを再解析し,軌道周期は 11.1856 日と推定した.
Kipping et al. (2017) の行った測光観測からは,光度曲線中にトランジット的なシグナルが検出された.
この結果を GP+transit モデルを用いて,トランジット位相についての前情報無しでモデル化を行った.しかしこの場合,視線速度の解と調和させるのは困難であることを指摘している.
トランジット位相について,事前情報ありでモデル化した結果,視線速度での観測結果とは 1.5 σ の整合性であった.ただしその他のモデルでも試したが,視線速度と一致するようなトランジットのモデルを得ることは出来なかった.
Liu et al. (2017) による測光観測
Liu et al. (2017) では,南極の Kunlun Station Dome A にある Bright Star Survey Telescope (BSST) を用いた測光観測の結果が報告されている.この観測は,2016 年 8 月 29 日から 9 月 21 日までの 10 夜の観測である.その結果,2.5 σ の信頼度で光度曲線中にトランジット状のイベントが検出された,このトランジット的なシグナルの発生時刻は,視線速度観測から予想される天体暦とは 1 σ 程度の違いを示す.また,Kipping et al. (2017) でのモデルの一つから予測される時期よりも 138 分遅くシグナルが発生している.
トランジット時刻変動 (transit timing variation, TTV) では,17 - 39 分のトランジット時刻の変化が起こり得る.プロキシマb と 2:1 か 3:2 平均運動共鳴にある地球質量の天体が存在した場合,プロキシマの視線速度変動を 3 m/s 未満に押さえつつ,TTV を 30 分程度以上にできることが指摘されている.
Li et al. (2017) による測光観測
Li et al. (2017) は,減光の大きさが 0.5% の単一のトランジット状シグナルを検出した.観測は,Las Campanas Observatory の 30 cm 望遠鏡を用いた,23 夜の測光観測である.検出されたトランジット状イベントの継続時間は,おおよそ 1 時間であった.このトランジット状イベントが実際に惑星のトランジットによるものだと仮定すると,トランジットモデルからはその惑星の軌道周期は 2 - 4 日と推定された (この軌道周期はプロキシマb とは異なるため,プロキシマb ではない別の惑星も存在することを示唆する).
さらに,この別の惑星の惑星質量は 0.4 地球質量未満である必要があることも指摘している.これは,Anglada-Escudé ́ et al. (2016) での視線速度観測では 2- 4 日周期のシグナルは未検出であるという制約から来るものである.
観測に用いた望遠鏡
・西オーストラリア・Bickley のパース天文台にある,Real Astronomy Experience (RAE) Robotic Telescope (2006 - 2008 年)・0.4 m と 0.6 m 望遠鏡で世界的に運用される Skynet.今回の観測の多くはこれらの望遠鏡を使用.チリ・セロトロロ,オーストラリア・ニューサウスウェールズのサイディング・スプリング天文台,西オーストラリア・パースにある望遠鏡.
・Kilo degree Extremely Little Telescope (KELT) のフォローアップネットワーク (KELT-FUN) の,Hazelwood,Ellinbank,Mt. Kent CDK700,Ivan Curtis Observatory (ICO).
結果
プロキシマ・ケンタウリのフレアは紫外線から可視光波長の範囲に渡って顕著だが,青い色は恒星の光球に比べて確かに強い.そのため観測には R パスバンドを選択し,測光観測へのフレアの影響の低減を試みた.しかし,機器の系統,フレア,また ~ 0.5% 程度の変動で ~ 20 分程度ごとに発生すると予測されている低エネルギーフレア (Davenport et al. 2016) は,今回の測光データの中でも顕著に現れた.
データのリダクションと解析の結果,0.5 - 2.0% のレベルの光度曲線データを得た.全体的な結果としては,全てのデータから過去のトランジット観測の個別の確認を行うことは出来なかった.しかし,過去に報告されていた中心星の変動の遍在と複雑性については確認された.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.04296
Chachan & Stevenson (2018)
On the Role of Dissolved Gases in the Atmosphere Retention of Low-Mass Low-Density Planets
(低質量低密度惑星の大気保持における溶解したガスの役割について)
これらの惑星は,中心星からの XUV 放射による加熱の影響で,大気の質量放出に対して脆弱である.惑星からの大気散逸と熱進化を組み合わせたモデルは,惑星半径における二峰性の分布の存在を予測し,これは観測的にも支持されている.
しかし過去の研究では,惑星の質量の大部分を占める,溶解した岩石と鉄のコアへのガスの溶解という重要な事項が無視されてきた.このような惑星では,惑星コアとエンベロープの境界では高温 (> 2000 K) で高圧 (~ kbars) な環境となるため,大気よりも 5 - 10 倍大きな量の水素を,溶解した表面と表面下で貯蔵することが可能となる.
この研究では,惑星の熱進化と大気の質量放出を,溶解した水素と大気中の水素の間の熱力学平衡 (ヘンリーの法則) と組み合わせることで,過去の研究におけるこのギャップを繋げることを目的とする.
惑星内部への溶解によって,惑星が形成している段階では大量の水素を惑星内部に貯蔵することができる.ここでは,内部に溶解した水素が,大気の質量放出を緩衝するように脱ガスすることを示す.
また,惑星のゆっくりとした冷却により,溶解した水素の脱ガスが進行する.これは温度の低下に伴ってガスの溶解度が低下するためである.
従って,惑星内部への水素の溶解は,スーパーアースの大気保持能力を増加させる働きがある.
この研究は,ガスの温度依存性と圧力依存性のあるマグマオーシャンへのガスの溶解度を含めることの重要性と,脱ガスを惑星進化モデルに組み合わせることの重要性を指摘する.
arXiv:1802.04296
Chachan & Stevenson (2018)
On the Role of Dissolved Gases in the Atmosphere Retention of Low-Mass Low-Density Planets
(低質量低密度惑星の大気保持における溶解したガスの役割について)
概要
ケプラーで発見されている,スーパーアース質量の範囲にある低質量・低密度の惑星は,典型的に示唆される質量に対して大きな半径を持っている.これは,そのような惑星には水素・ヘリウム大気が存在していることを示唆している.これらの惑星は,中心星からの XUV 放射による加熱の影響で,大気の質量放出に対して脆弱である.惑星からの大気散逸と熱進化を組み合わせたモデルは,惑星半径における二峰性の分布の存在を予測し,これは観測的にも支持されている.
しかし過去の研究では,惑星の質量の大部分を占める,溶解した岩石と鉄のコアへのガスの溶解という重要な事項が無視されてきた.このような惑星では,惑星コアとエンベロープの境界では高温 (> 2000 K) で高圧 (~ kbars) な環境となるため,大気よりも 5 - 10 倍大きな量の水素を,溶解した表面と表面下で貯蔵することが可能となる.
この研究では,惑星の熱進化と大気の質量放出を,溶解した水素と大気中の水素の間の熱力学平衡 (ヘンリーの法則) と組み合わせることで,過去の研究におけるこのギャップを繋げることを目的とする.
惑星内部への溶解によって,惑星が形成している段階では大量の水素を惑星内部に貯蔵することができる.ここでは,内部に溶解した水素が,大気の質量放出を緩衝するように脱ガスすることを示す.
また,惑星のゆっくりとした冷却により,溶解した水素の脱ガスが進行する.これは温度の低下に伴ってガスの溶解度が低下するためである.
従って,惑星内部への水素の溶解は,スーパーアースの大気保持能力を増加させる働きがある.
この研究は,ガスの温度依存性と圧力依存性のあるマグマオーシャンへのガスの溶解度を含めることの重要性と,脱ガスを惑星進化モデルに組み合わせることの重要性を指摘する.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.04631
Delisle et al. (2018)
The HARPS search for southern extra-solar planets. XLIII. A compact system of four super-Earth planets orbiting HD 215152
(HARPS による南天の系外惑星探査 XLIII.HD 215152 を公転する 4 個のスーパーアースのコンパクトな系)
今回発見された惑星の質量は小さいため,各惑星の軌道離心率を制約するほどのシグナルノイズ比は得られなかった.しかし暫定的な力学的解析からは,この惑星系が安定であるためには,各惑星の軌道離心率は典型的には 0.03 程度より小さい値である必要があると示唆される.
発見された惑星のうち 2 組は軌道周期比が 1.5 より小さい.惑星は短い軌道周期を持ち,低質量で低い軌道離心率であることから,この系はケプラーによって数多く見つかっている,非常にコンパクトな軌道配置を持つ複数惑星系と類似している.このような系は,視線速度サーベイでの発見例としては非常に希少である.
今回の発見は,コンパクトな軌道配置の低質量の複数惑星系は,現在の視線速度の観測技術で検出できることを証明するものであるが,そのような系の惑星を特徴付けるためには膨大な量の観測が必要である.
半径:0.73 太陽半径
スペクトル型:K3V
自転周期:42 日
有効温度:4935 K
金属量:[Fe/H] = -0.10
最小質量:1.819 地球質量
軌道長半径:0.057638 AU
最小質量:1.720 地球質量
軌道長半径:0.067393 AU
最小質量:2.801 地球質量
軌道長半径:0.08799 AU
最小質量:2.877 地球質量
軌道長半径:0.15417 AU
これらのうち,HD 5319b, c ペアと HD 200964b, c ペアは巨大惑星,GJ 180b, c ペアはスーパーアースである.
これらの他にも発見の主張はあるが,現在係争中である (Diaz et al. 2016など).
今回発見された HD 215152 系の惑星は,軌道周期の比がそれぞれ 1.26,1.49,2.32 であった.
HD 215152b, c ペアの軌道周期比 1.26 という値は 5:4 平均運動共鳴に近いが,共鳴の外側に存在する.また HD 215152c, d ペアの 1.49 という値は 3:2 平均運動共鳴に近いが,こちらも共鳴の外側である.
arXiv:1802.04631
Delisle et al. (2018)
The HARPS search for southern extra-solar planets. XLIII. A compact system of four super-Earth planets orbiting HD 215152
(HARPS による南天の系外惑星探査 XLIII.HD 215152 を公転する 4 個のスーパーアースのコンパクトな系)
概要
HD 215152 まわりの 4 個のスーパーアース惑星の発見について報告する.これは,13 年にわたる HARPS の高品質な視線速度測定 373 セットに基づく発見である.今回発見された惑星の質量は小さいため,各惑星の軌道離心率を制約するほどのシグナルノイズ比は得られなかった.しかし暫定的な力学的解析からは,この惑星系が安定であるためには,各惑星の軌道離心率は典型的には 0.03 程度より小さい値である必要があると示唆される.
発見された惑星のうち 2 組は軌道周期比が 1.5 より小さい.惑星は短い軌道周期を持ち,低質量で低い軌道離心率であることから,この系はケプラーによって数多く見つかっている,非常にコンパクトな軌道配置を持つ複数惑星系と類似している.このような系は,視線速度サーベイでの発見例としては非常に希少である.
今回の発見は,コンパクトな軌道配置の低質量の複数惑星系は,現在の視線速度の観測技術で検出できることを証明するものであるが,そのような系の惑星を特徴付けるためには膨大な量の観測が必要である.
パラメータ
HD 215152
質量:0.77 太陽質量半径:0.73 太陽半径
スペクトル型:K3V
自転周期:42 日
有効温度:4935 K
金属量:[Fe/H] = -0.10
HD 215152b
軌道周期:5.75999 日最小質量:1.819 地球質量
軌道長半径:0.057638 AU
HD 215152c
軌道周期:7.28243 日最小質量:1.720 地球質量
軌道長半径:0.067393 AU
HD 215152d
軌道周期:10.76499 日最小質量:2.801 地球質量
軌道長半径:0.08799 AU
HD 215152e
軌道周期:25.1967 日最小質量:2.877 地球質量
軌道長半径:0.15417 AU
HD 215152 系の特徴と過去の系との比較
これまでに視線速度法で発見された複数惑星系のうち,軌道が隣り合う惑星の軌道周期の比が 1.5 より小さいものは,軌道周期比が 1.38 の HD 5319b, c ペア (Robinson et al. 2007,Giguere et al. 2015),1.34 の HD 200964b, c ペア (Johnson et al. 2011),および 1.40 の GJ 180b, c ペア (Tuomi et al. 2014) の 3 例のみである.これらのうち,HD 5319b, c ペアと HD 200964b, c ペアは巨大惑星,GJ 180b, c ペアはスーパーアースである.
これらの他にも発見の主張はあるが,現在係争中である (Diaz et al. 2016など).
今回発見された HD 215152 系の惑星は,軌道周期の比がそれぞれ 1.26,1.49,2.32 であった.
HD 215152b, c ペアの軌道周期比 1.26 という値は 5:4 平均運動共鳴に近いが,共鳴の外側に存在する.また HD 215152c, d ペアの 1.49 という値は 3:2 平均運動共鳴に近いが,こちらも共鳴の外側である.
天文・宇宙物理関連メモ vol.295 Anglada-Escudé et al. (2016) プロキシマ・ケンタウリにおける系外惑星候補の検出