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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1512.02154
Quillen et al. (2015)
Crustal Failure on Icy Moons and Satellites from a Strong Tidal Encounter
(強い潮汐遭遇による氷衛星の地殻の破壊)

概要

大きな微惑星と衛星の近接した潮汐遭遇は、微惑星と衛星同士のかすめるような衝突や通常の衝突現象よりもより一般的に発生する現象だと考えられる。

ここては、N体シミュレーションにばね質量モデル (mass-spring model)を用いることによって、衛星と同程度の質量を持つ天体が放物線状の軌道での近接した潮汐遭遇を起こした際の、衛星の表面の変形を計算した。ここで、衛星は球状の弾性体を仮定している。

このような遭遇は、氷衛星の表面に脆性破壊 (brittle failure)を発生させるのに十分な応力を与える。またこの遭遇による氷衛星の地殻の破壊は、天体半径の大部分にまで広がることが示された。このような強い潮汐遭遇は、ディオネ、テティス、アリエル、カロンのような氷衛星の古代の地形における長い複合的な地溝 (graben)の形成や、凹地の形成と関係していると考えられる。

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1512.00483
Mann et al. (2015)
Zodiacal Exoplanets In Time (ZEIT) I: A Neptune-sized planet orbiting an M4.5 dwarf in the Hyades Star Cluster
(ZEIT I:ヒアデス星団内の M4.5矮星を回る海王星サイズの惑星)

概要

若い惑星系の研究は、形成期にある惑星の力学や構造の研究に対して重要である。最近のケプラーによる K2ミッションでの若い (10 - 800 Myr)の星団の観測によって、それが可能になってきている。

ここでは、ヒアデス星団 (Hyades star cluster, 650 - 800 Myr)中の M 4.5矮星 (主系列星)である、EPIC 210490365をトランジットする海王星サイズの惑星の検出を報告する。
光度曲線は惑星によると思われるシグナル以外にも強い 1.88日周期のシグナルを示すが、これは恒星表面の黒点と恒星の自転によるシグナルだと判明した。

高精度近赤外線分光観測装置の IGRINSによる系の視線速度観測より、EPIC 210490365がヒアデス星団のメンバーであると確認した。これにより、EPIC 210490365が星団のメンバーであることと、EPIC 210490365の固有運動から距離が決定でき、さらに EPIC 210490365の半径・質量を ~ 5 - 10%の精度で決定することが出来た。これは多くのケプラーでの M型矮星での精度 (12 - 30%)よりも良い精度である。

また補償光学を用いた撮像観測と高分解能のスペクトル観測から、シグナルは EPIC 210490365に束縛された伴星や、背景星の食連星による偽陽性ではないことを確認した。従って、シグナルは惑星起源のものだと考えられる。

EPIC 210490365bは、3.43地球半径、軌道周期は 3.484日である。これは、これまでにケプラーで発見されている、同程度の質量の恒星を公転する同程度の質量の惑星としては、大きな半径である。この結果は、近接した惑星は初めの数百 Myrの間に多くの大気を失う事を示唆する (※この惑星はまだ若いため、失う途上にあると考えられる、という意味)。

今後の K2によるヒアデス星団、プレアデス星団、プレセペ星団でのトランジット惑星の観測が、EPIC 210490365bが特殊な天体なのか、あるいは同年代の若い惑星には普通で代表的なサイズのものなのかを明らかにしてくれるだろうと考えられる。

パラメータ

EPIC 210490365

自転周期:1.88日
距離:45.7 pc
スペクトル型:M4.5
金属量:[Fe/H] = 0.15
等級:V = 15.881
有効温度:3180 K
質量:0.294太陽質量
半径:0.295太陽半径
光度:8.3 × 10-3太陽光度
平均密度:11.3太陽密度

EPIC 210490365b

公転周期:3.484553日
軌道離心率:0.27 (+0.16, -0.21)
半径:3.43地球半径

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1512.00134
Sumi et al. (2015)
The First Cold Neptune Analog Exoplanet: MOA-2013-BLG-605Lb
(初めての冷たい海王星類似系外惑星:MOA-2013-BLG-605Lb)

概要

重力マイクロレンズを用いた、初めての海王星類似天体 MOA-2013-BLG-605Lbの検出を報告する。この惑星は、海王星やスーパーアースと類似した質量を持つ。また軌道長半径は、スノーラインの 9 - 14倍の距離である。太陽系の海王星は、太陽系のスノーラインの 11倍程度の距離に存在するため、これと非常に近い値である。

中心星と惑星の質量比は q = Mplanet/Mstar = (3.6 ± 0.7) × 10-4である。中心星と惑星の投影距離は、アインシュタイン半径の 2.39倍であった。

今回の観測結果では、3つの物理的な解が縮退している。そのうち 2つは、マイクロレンズのパララックスパラメータの新しいタイプの縮退である。これは "the wide degeneracy" というものである。

3つのモデルはそれぞれ、

・海王星質量 21 (+6, -7)地球質量の惑星が、低質量のM型矮星 0.19 (+0.05, -0.06)太陽質量の周りを公転している

・小型海王星質量 7.9 (+1.8, -1.2)地球質量の惑星が、褐色矮星 0.068 (+0.019, -0.011)太陽質量の周りを公転している

・スーパーアース質量 3.2 (+0.5, -0.3)地球質量の惑星が、低質量の褐色矮星 0.025 (+0.005, -0.004)太陽質量の周りを公転している

というものである。3次元的な中心星と惑星の間隔はそれぞれ、4.6 (+4.4, -1.2) AU, 2.1 (+1.0, -0.2) AU, 0.94 (+0.67, -0.02) AUであり、それぞれスノーライン半径の 8.9 (+10.5, -1.4)倍, 12 (+7, -1)倍, 14 (+11, -1)倍に相当する。
また、Keck AO観測ではレンズ天体は暗いことが分かった。

今回の発見は、スノーライン半径の 11倍程度を公転する海王星的な天体は一般的であることを示唆する。これらは、重力マイクロレンズ法が最も敏感なスノーライン半径の 3倍程度に存在する惑星と同じくらいの普遍性があると考えられる。そのため、太陽系における天王星や海王星の形成プロセスは、他の惑星系でも一般的であると考えられる。






海王星と同程度の質量を持つ惑星自体は多数発見されていますが、いずれも中心星に近いところを公転する、いわゆる「ホットネプチューン」のようなものしかありませんでした。今回の発見は、同じ海王星質量の惑星でも、中心星から遠方を公転しているものが初めて見つかった、という報告です。

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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1512.00189
Kostov et al. (2015)
KOI-2939b: the largest and longest-period Kepler transiting circumbinary planet
(KOI-2939b:最も大きく長周期のケプラーによる周連星トランジット惑星)

概要

ケプラーの観測データから、新しい周連星惑星 (circumbinary planet, 連星の周囲を公転する惑星)の発見を報告する。このもっとも新しい周連星惑星は、これまでに発見されてきた周連星惑星のトレンドに反するものであった。これまでのものは、連星周りの安定限界軌道付近を公転するものが多かった。

今回発見された周連星惑星 KOI-2939bは、これまでに発見された周連星惑星とは異なり、食連星 KOI-2939を非常に長周期 (~ 1100日)で公転する。この惑星は、ケプラーミッションでの観測期間中に 2回しか合 (conjunction)を起こさなかった。この特異な軌道の配置のため、KOI-2939bは現時点で最も長周期の周連星惑星なだけではなく、最も長周期なトランジット惑星のうちの一つでもある

また、惑星半径は 1.06木星半径であり、これは最も大きいサイズの周連星惑星でもある

惑星は KOI-2939の光度曲線中に合計 3回のトランジットを起こした。そのうち 1回は連星の食の最中であり、朔望 (syzygy)を起こした。また惑星は連星の食のタイミングに測定可能なほどの擾乱を与えており、これによって惑星の質量が測定され、1.52 ± 0.65木星質量と定まった。
(朔望について、伴星が主星をトランジットし始めた直後に惑星もトランジットを始める、というイベントが一度だけ発生した)

惑星は、公転周期およそ 11日の 2つの太陽質量程度の恒星の連星の周りを公転している。この連星は、軌道が視線方向に対して僅かに傾き、またわずかに軌道離心率の大きな起動となっている (連星の軌道離心率 e = 0.16)。この連星系は、自転と同期して公転している。

KOI-2939bの公転周期は地球の公転周期より 3倍ほど長いものの、全軌道が連星周りの保守的なハビタブルゾーン (conservative habitable zone)の内部に存在している。

パラメータ

KOI-2939連星系のパラメータ

連星の公転周期:11.2588179日
軌道離心率:0.1602
軌道長半径:0.1276 AU

主星 (KOI-2939A)
質量:1.2207太陽質量
半径:1.7903太陽半径
有効温度:6210 K
金属量:[Fe/H] = -0.14

伴星 (KOI-2939B)
質量:0.9678太陽質量
半径:0.9663太陽半径
有効温度:5770 K

KOI-2939b

公転周期:1107.5923日
軌道長半径:2.7205日
軌道離心率:0.0581
相互軌道傾斜角:2.9855°

議論

周連星惑星について

これまでに発見された周連星惑星は、どれもが土星サイズかそれ以下だった。一番大きかったものはケプラー16bで、0.75木星半径であった。

また、どれもが連星周りの力学的な安定限界の距離からファクター 2程度の距離を公転していた。

Pierens & Nelson (2008)によると、"木星質量の周連星惑星は、その進化が安定ではないため一般的な存在ではないだろう" と示唆されており、また "もし木星質量の周連星惑星が存在する場合は中心の連星から大きく離れた位置を公転するものだろう" と考えられていた。今回の発見はそれに合致するものである。

ハビタブルゾーン

この連星系周りのハビタブルゾーンを、Haghighipour & Kaltenegger (2013)の表式を用いて計算した。その結果、保守的なハビタブルゾーンはおおむね ~ 2 - 3.5 AUの範囲に広がっており、KOI-2939bは全軌道が保守的なハビタブルゾーン内に入っている。これにより、KOI-2939bは連星周りのハビタブルゾーンを公転する惑星としては 4例目となった。

KOI-2939b自体は巨大ガス惑星であるためハビタブル惑星ではない。しかしその衛星はハビタブルな環境であるかもしれない (Forgan & Kipping 2013など)。しかしそのような衛星が存在するという証拠は現在のデータの中には無い。ガリレオ衛星のような天体があったとしても、トランジット時刻のずれは 10秒未満に留まるだろう。

軌道安定性

Holman & Weigert (1999)の式を用いると、この系での安定な最小軌道は、連星の軌道長半径の 2.91倍の位置である。KOI-2939bの軌道長半径は 2.72 AUであり、これは連星系の軌道長半径の 21.3倍に相当するため、長期的に安定である。

数値計算を用いた検証でも、連星と惑星の双方は、軌道長半径・軌道離心率ともに ~ 100 Myrにわたってほとんど変化しなかった。カオス的な挙動も見られなかった。連星の軌道傾斜角は ~ 0.0372°、惑星は ~ 2.9626°振動する。連星と惑星の相対的な軌道傾斜角は、~0.0895°振動し、惑星の昇交点 (ascending node)は ~ 2.9605°振動する。

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これまでに発見された太陽系外惑星は正式に名称が付けられたものは無く、慣習として恒星の名称に小文字のアルファベット b (2個目以降は c, d, ...)を付けるというものが受け入れられてきました。(ペガスス座51番星bの「ベレロフォン」や、HD 209458bの「オシリス」など非公式な愛称はありましたが、これは国際天文学連合 (IAU)などの承認を経ていない単なる愛称)

系外惑星が発見されている恒星の名前は、一部を除けば記号のような無機質なものばかりでしたが、系外惑星にも正式に命名しようという流れになったため、IAU が主導して名称を公募することになっていました。

系外惑星は既に現時点で 2000個程度発見されていますが、今回は 20の惑星系に対して名称を公募することになっていました。中心星が既に固有名を持っている場合を除き、中心星の名称 + その周りをまわる惑星の名称をセットで募集する、というスタイルです。世界各国の団体 (個人からは不可)から名称案を募集し、それに投票を行って最多得票を獲得した案が命名されます。(正確には、最多得票を獲得した案について審議を行った上で必要な変更を行い、承認された場合に命名される)

名称の提案・応募と投票は既に終了し、2015年12月15日に決定した名称が公開されました

国立天文台でのプレスリリースがこちら
国際天文学連合「太陽系外惑星命名キャンペーン」一般投票最終結果 (国立天文台)

IAU の系外惑星命名キャンペーンのサイトがこちら
NameExoWorlds (IAU)

アインb (おうし座エプシロン星b) に、天照大御神にちなんだ「アマテル (amateru)」と命名されたのを始め、日本人が提案した名称が採用されたものもいくつかあります。今回名称の決定に至った惑星系の一覧と名称の由来などを簡単に紹介します。

アンドロメダ座14番星

既存の名称新しい名称
恒星アンドロメダ座14番星Veritate
惑星アンドロメダ座14番星bSpe
恒星名の Veritate は、ラテン語で「真実」を表す "Veritas" から来ており、奪格の場合は「真実がある場所」という意味になるようです。提案時点では "Veritas" でしたが、太陽系内の小惑星に既に同名のものが存在するため (490 Veritas)、名称が若干の変更を受けました。

惑星名の Spe は、ラテン語で「希望」を意味する "Spes" から来ており、同じく奪格の場合は「希望のある場所」という意味になるようです。

なお、この惑星は日本人が 2008年に発見したものです。

提案団体:Royal Astronomical Society of Canada Thunder Bay Centre (カナダ)

いるか座18番星

既存の名称新しい名称
恒星いるか座18番星Musica
惑星いるか座18番星bArion
恒星名の Musica (ムジカ)は、ラテン語で「音楽」を表します。

惑星名の Arion (アリオン)は、古代ギリシャの詩と音楽の才人から来ています。アリオンは音楽コンクールから故郷への帰途に海賊に襲われますが、そこで音楽を奏で、音楽に惹かれてやってきたイルカに乗って逃げることで助かったとの逸話が残っています。
この惑星も、日本人が 2008年に発見した惑星です。

提案団体:Tokushima Prefectural Jonan High School Science Club (徳島県立城南高等学校科学部、日本)

りゅう座42番星

既存の名称新しい名称
恒星りゅう座42番星Fafnir
惑星りゅう座42番星bOrbitar
恒星名の Fafnir は、北欧神話における、竜に変身したドワーフ「ファフニール」(ファフナーとも)に由来します。

惑星名の Orbitar は、NASAの宇宙開発や衛星運用への感謝の意味を込めたオマージュとして、 "orbiter" という名称を提案したとのことです。

提案団体:Brevard Astronomical Society (アメリカ)

おおぐま座47番星

既存の名称新しい名称
恒星おおぐま座47番星Chalawan
惑星おおぐま座47番星bTaphao Thong
惑星おおぐま座47番星cTaphao Kaew
恒星名の Chalawan は、タイの民話におけるワニを意味する言葉です。タイでは昔からおおぐま座を「ワニ」と認識してきたため、この提案に至ったとのことです。

惑星名の Taphao ThongTaphao Kaew は、Chalawan にまつわる民話に登場する姉妹とのことです。

提案団体:The Thai Astronomical Society (タイ)

ペガスス座51番星

既存の名称新しい名称
恒星ペガスス座51番星Helvetios
惑星ペガスス座51番星bDimidium
恒星名の Hekvetios は、ヘルヴェティア人を意味しており、中世にスイスに住んでいたケルト民族を指している。ペガスス座51番星bの発見者ミシェル・マイヨールがスイス人であることにちなんでいます。

惑星名の Dimidium はラテン語で「半分」を意味する単語で、この惑星が少なくとも木星の半分程度の質量であることにちなんでいます。なおこの惑星は、通常の恒星の周りを公転する系外惑星としては初めて発見されたものです (1995年)。

提案団体:Astronomische Gesellschaft Luzern (スイス)

かに座55番星

既存の名称新しい名称
恒星かに座55番星Copernicus
惑星かに座55番星bGalileo
惑星かに座55番星cBrahe
惑星かに座55番星dLippershey
惑星かに座55番星eJanssen
惑星かに座55番星fHarriot
恒星名の Copernicus は、太陽系の太陽中心説のモデルを構築した、ポーランドの天文学者、ニコラウス・コペルニクスにちなんで提案されたものです。

惑星名の Galileo は「天文学の父」とも呼ばれるイタリアの天文学者、ガリレオ・ガリレイにちなんだものです。Brahe は恒星や惑星の精密な観測を行ったデンマークの天文学者、ティコ・ブラーエから来ています。Lippershey は、ドイツ・オランダのレンズ製作者で、世界で初めて望遠鏡を作った人物とされているハンス・リッペルスハイにちなんでいます。Janssen は、顕微鏡の原型の発明者とされ、また望遠鏡を発明したともされるオランダの眼鏡職人、サハリアス・ヤンセンにちなんでいます。Harriot は、望遠鏡を用いて初めて月面のスケッチを残したイギリスの天文学者・数学者(他)である、トーマス・ハリオットから来ています。

恒星名、惑星名いずれも天文学の黎明期の著名人の名前から提案されたものです。

提案団体:Royal Netherlands Association for Meteorology and Astronomy (オランダ)

おうし座イプシロン星 (アイン)

既存の名称新しい名称
恒星おうし座イプシロン星 (アイン)-
惑星おうし座イプシロン星b (アインb)Amateru
この恒星は一般的には「おうし座イプシロン星 (epsilon Tauri)」 と呼ばれますが、既に「アイン (Ain)」という固有名を持っているため、恒星名の募集は行われませんでした。

惑星名の Amateru は日本神話における太陽の女神「天照大御神」にちなんだものです。イザナギノミコトが左目を洗った際に生まれたとされていて、おうし座イプシロン星がおうし座の左目に相当する位置にあること、またこの惑星は日本人によって 2007年に発見された系外惑星でもあることから、この名称が提案されました。

なお、提案当初の名称案は "Amaterasu" でしたが、既に小惑星名に付けられているため (10385 Amaterasu)、若干の変更を受けました。

提案団体:Kamagari Astronomical Observatory (かまがり天体観測館、日本)

りゅう座イオタ星 (エダシク)

既存の名称新しい名称
恒星りゅう座イオタ星 (エダシク)-
惑星りゅう座イオタ星b (エダシクb)Hyoatia
この恒星は一般的には「りゅう座イオタ星 (iota Draconis)」 と呼ばれますが、既に「エダシク (Edasich)」という固有名を持っているため、恒星名の募集は行われませんでした。

惑星名の Hypatia (ヒュパティア)はギリシャ (ローマ帝国)の女性天文学者・数学者です。キリスト教徒に異端者と見なされ、暴徒によって惨殺されたという逸話があります。

なお Hypatia も小惑星名に用いられていますが (238 Hypatia)、こちらは変更はされていないようです。

提案団体:Hypatia (Student society, Physics Faculty of the Universidad Complutense de Madrid) (スペイン)

エリダヌス座イプシロン星

既存の名称新しい名称
恒星エリダヌス座イプシロン星Ran
惑星エリダヌス座イプシロン星bÆgir
恒星名の Ran は、北欧神話における海の女神を意味します。波を起こし、水夫を捉えるという伝説があります。

惑星名の Ægir は Ran の夫であり、海の神です。海で起きることのほぼすべてを司るとされています。

なお Ægir は土星の衛星に "Aegir" として既に使われています。

提案団体:Mountainside Middle School 8th graders (アメリカ)

ケフェウス座ガンマ星 (エライ)

既存の名称新しい名称
恒星ケフェウス座ガンマ星 (エライ)-
惑星ケフェウス座ガンマ星b (エライb)Tadmor
この恒星は一般的には「ケフェウス座ガンマ星 (gamma Chphei)」 と呼ばれますが、既に「エライ (Errai)」という固有名を持っているため、恒星名の募集は行われませんでした。

惑星名の Tadmor は、ローマ帝国以前から存在する古代都市で、世界遺産にも登録されているパルミラ (Palmyra)に由来しています。主星の「エライ」がアラビア語起源の名称であることや、現在紛争によって破壊の危機に晒されていて消滅してしまう可能性があるパルミラを惑星名として残そうという思いから提案されています。

なお Palmyra は既に小惑星名に用いられており (13131 Palmyra)、応募時も Palmyra でしたが、投票でトップが確定した後にTadmor という名称に大きく変更を受けています。Tadmor は、アラビア語表記での Palmyra を英語に転写したものです。

提案団体:Syrian Astronomical Association (シリア)

フォーマルハウト

既存の名称新しい名称
恒星フォーマルハウト-
惑星フォーマルハウトbDagon
一等星の一つであるこの恒星は一般的には「フォーマルハウト (Fomalhaut)」という固有名で呼ばれれることが多いです。「みなみのうお座アルファ星」という名称もあります。いずれにせよ既に固有名を持っているため、恒星名の募集は行われませんでした。

惑星名の Dagon は、古代パレスチナで信仰されていた神の名前で、しばしば半人半魚の姿で描かれます。みなみのうお座にちなんで魚に関連する名称を提案しています。また Dagon はクトゥルフ神話にも魚神として登場します。

提案団体:St. Cloud State University Planetarium (アメリカ)

HD 104985

既存の名称新しい名称
恒星HD 104985Tonatiuh
惑星HD 104985bMeztli
恒星名の Tonatiuh (トナティウ)は、アステカ神話における太陽神の名前であり、「光り輝くもの」などという意味があるようです。

惑星名の Meztli (メツトリ) はアステカ神話における月の女神の名前です。

なおこの惑星は、2003年に日本人が発見したもので、日本人が発見した初めての系外惑星です。日本の団体による日本語にちなんだ名称も提案されていましたが、残念ながら及びませんでした。

提案団体:Sociedad Astronomica Urania (メキシコ)

HD 149026

既存の名称新しい名称
恒星HD 149026Ogma
惑星HD 149026bSmertrios
恒星名の Ogma (オグマ)は、アイルランドとスコットランドにおけるケルト神話にの戦いの神であり、言霊や霊感の神ともされています。しばしば、ガリア時代の神 "Ogmios" と関連付けられます。

惑星名の Smertios は古代ガリアの戦争の神の名前から来ています。

なお当初提案されていた恒星名は "Ogmios" でしたが、これは既に小惑星に命名されています (189011 Ogmios)。そのため、IAU の審議の過程で関連している類似の神である "Ogma" に置き換えられたものと思われます。

なおこの惑星は、国際協力チームによってすばる望遠鏡を用いて 2005年に発見されたものです。

提案団体:Club d'Astronomie de Toussaint (フランス)

HD 81688

既存の名称新しい名称
恒星HD 81688Intercrus
惑星HD 81688bArkas
恒星名の Intercrus (インテルクルース)は、ラテン語を基にした「足の間」を意味する造語です。この恒星がちょうどおおぐま座の足に挟まれた位置にあることから提案されました。

惑星名の Arkas (アルカス)は、ギリシャ神話の登場人物です。ギリシャ神話に登場するニンフであるカリストー (Callisto) が熊の姿に変えられ、星座になったのがおおぐま座とされていますが、アルカスはそのカリストーの息子とされており、このストーリーにちなんだ名称の提案です。

なお、この惑星は日本人によって 2008年に発見されたものです。

提案団体:Okayama Astro Club (岡山アストロクラブ、日本)

さいだん座ミュー星

既存の名称新しい名称
恒星さいだん座ミュー星Cervantes
惑星さいだん座ミュー星bQuijote
惑星さいだん座ミュー星cDulcinea
惑星さいだん座ミュー星dRocinante
惑星さいだん座ミュー星eSancho
恒星名の Cervantes (セルバンテス)は、スペイン人の作家であるミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ (Miguel de Cervantes Saavedra)にちなんでいます。「ドン・キホーテ」(正式なタイトルは "El ingenioso hidalgo Don Quijote de La Mancha")の作者として有名です。

惑星名の Quijote (キホーテ)は、ドン・キホーテの主人公であるドン・キホーテ (Don Quijote, ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)から取られています。Dulcinea (ドゥルシネーア)は同じくドン・キホーテの登場人物であるドゥルシネーア (Dulcinea del Toboso, ドゥルシネーア・デル・トボーソ)から、Rocinante (ロシナンテ)はドン・キホーテの持つ馬の名前であるロシナンテから、Sancho (サンチョ)も登場人物であるサンチョ・パンサ (Sancho Panza)が由来です。

なお Cervantes は小惑星の名前 (79144 Cervantes) として既に使用されており、Dulcinea も小惑星の名前 (571 Dulcinea) として使用されていますが、名称や表記の変更はされていません。

提案団体:Planetario de Pamplona (スペイン)

ポルックス

既存の名称新しい名称
恒星ポルックス-
惑星ポルックスbThestias
一等星の一つでありふたご座で最も明るいこの恒星は、「ポルックス (Pollux)」という固有名で呼ばれれることがほとんどです。また「ふたご座ベータ星」という名称もあります。いずれにせよ既に固有名を持っているため、恒星名の募集は行われませんでした。

惑星名の Thestias は、ギリシャ神話に登場する姉妹レーダー (Leda)とアルタイアー (Althaea)の父親であるテスティオス (Thestius)から取られた、父方に由来する姓に相当するものです。レーダーは、ポルックスの語源にもなったギリシャ神話の英雄ポリュデウケス (ラテン語表記 Pollux)の母親です。

なお、当初提案されていた名称は "Leda" でしたが、既に小惑星の名称に使われており (38 Leda)、また木星の衛星レダとしても名称が使われていました。さらに、レーダーの姉妹であるアルタイアーも、小惑星の名称として使われていました (119 Althaea)。そのため、得票がトップだったのは "Leda" でしたが、IAU での審議の過程で変更を受けたと思われます。

提案団体:TheSkyNet (オーストラリア)

PSR 1257+12

既存の名称新しい名称
主星PSR 1257+12Lich
惑星PSR 1257+12bDraugr
惑星PSR 1257+12cPoltergeist
惑星PSR 1257+12dPhobetor
主星名の Lich (リッチ)は、フィクションの世界における亡者を指す名称で、魔法で他の亡者を操る事のできる存在です。しばしば骸骨の外見を持った存在として描かれます。この主星は恒星ではなくパルサー (中性子星)であり、核融合を起こす恒星としては死んでいる残骸であるにも関わらず、なおもパルサーとしての活動を続けているという点から、この名称が適切だということで提案されました。

惑星名の Draugr は北欧神話におけるアンデッドの名称です。Poltergeist (ポルターガイスト)は、勝手に物が動いたり物音がしたりする超常現象のひとつであり、「騒がしい霊」を意味するドイツ語です。見えもしないこの惑星が主星の動きに影響を与えてパルサータイミング法での検出に繋がった、という意味が込められているようです。Phobetor (ポベートール)はギリシャ神話における夢の支配者の一柱で、悪夢の源とされています。

主星名、惑星名ともに、パルサーとその周りを公転する惑星という特異な系であることにちなんで、不気味な由来を持つ名称が提案され、投票で選ばれました。なお、この星系の惑星 (いわゆるパルサー惑星)は、中心星のタイプを限定しない場合の初めての系外惑星の発見例です (1992年)。

提案団体:Planetarium Südtirol Alto Adige (イタリア)

アンドロメダ座ウプシロン星

既存の名称新しい名称
恒星アンドロメダ座ウプシロン星Titawin
惑星アンドロメダ座ウプシロン星bSaffar
惑星アンドロメダ座ウプシロン星cSamh
惑星アンドロメダ座ウプシロン星dMajriti
恒星名の Titawin は、モロッコ北部にある世界遺産である、「テトゥアン旧市街 (Medina of Tétouan)」に由来しています。"Medina" とは北アフリカのアラブ民族の旧市街を意味する言葉です。"Titawin" はかつてのベルベル語での呼称にちなんでいるようです。

惑星名の Saffar は、Abu al-Qasim Ahmed Ibn-Abd Allah Ibn-Omar al Ghafiqi Ibn-al-Saffar が由来です。11世紀のアンダルシア (現在のスペイン)のコルドバで、算術や幾何学、天文学を教えた人物で、天体観測儀のアストロラーベの使用に関する論文を書いた人物です。Samh は、Abu al-Qasim 'Asbagh ibn Muhammad ibn al-Samh al-Mahri から来ており、コルドバにおける学校の天文学者・数学者だった人物です。Majriti は、Abu al-Qasim al-Qurtubi al-Majriti が由来で、10世紀から11世紀前半のアンダルシアの数学者・天文学者・学者・教師であった人物です。

提案団体:Vega Astronomy Club (モロッコ)

わし座クサイ星

既存の名称新しい名称
恒星わし座クシー星Libertas
惑星わし座クシー星bFortitudo
恒星名の Libertas はラテン語で「自由」を意味する単語です。自由のシンボルである鷲にちなんだ名称の提案です。

惑星名の Fortitudo はラテン語で「不屈の精神」を意味します。

当初は、恒星名は "liberty"、惑星名は "Fortitude" という英単語での名称になっていましたが、どちらも確定後にラテン語名称に変更されました。

なお、この惑星は 2008年に日本人によって発見されたものです。

提案団体:Lybertyer (Student club at Hosei University) (法政大学学生団体 Libertyer(リバティア)、日本)

投票数など

今回の投票では、総投票数は 631418 票でした。そのうち、スパム票である 58176 票を除いた 573242 票が有効投票数となっています。無効となったうしかい座タウ星系への投票を除くと (後述)、339345 票の投票によって今回の名称が決定されました。

一人あたりの投票数としては、1票のみを投じた人が最も多く 70%、次いで 2票を投じた人が 10%でした。

182の国と地域からの投票がありました。国別の投票数ではインドが最も多く 36.27%、次いでアメリカの 19.48%、スペインの 7.93%でした。なお日本は 18番目の 0.94%に過ぎませんでした。(トルコやシリア、モロッコより下)

各星系別で最も票を集めたのは、無効となったうしかい座タウ星を除くと、さいだん座ミュー星系で 55501 票でした。

名称の候補単独で最も表を集めたのも、無効となったうしかい座タウ星を除くと、さいだん座ミュー星系の候補だった、恒星 Cervantes, 惑星 Quijote, Dulcinea, Rocinante, Sancho の選択肢で、38503 票でした。


各団体の国別に見ると、日本の団体による案が選ばれたものは 4例、アメリカが 3例、スペインが 2例、カナダ、タイ、スイス、オランダ、シリア、メキシコ、フランス、オーストラリア、イタリア、モロッコが 1例ずつでした。

うしかい座タウ星が無効になった原因について

今回の名称の公募と投票では、うしかい座タウ星 (tau Bootis)とその惑星うしかい座タウ星b (tau Bootis b)も対象となっていました。しかし、最多得票であった候補が IAUの天体命名の規約に反するということで、今回はその名称は無効となりました。

うしかい座タウ星系で最多得票を獲得したのは、インドの団体から提案されていた、恒星名 Shri Ram Matt と、惑星名 Bhagavatidevi でした。この名称候補に対してインド国内で組織的な投票を呼びかける動きがあったようで、この候補は 218772 票を獲得して他の候補に大差をつけてダントツの 1位となりました。さいだん座ミュー星系の候補への投票数が 38503 票であったこととや、その他の候補の票数はおおむね 4桁台であったことを考えると、文字通りケタ違いの得票数となっています。(さいだん座ミュー星の Cervantes 等への投票数も、他の候補に比べるとかなり多い)
そのため、うしかい座タウ星全体の票数も 233897 票とダントツで多くなっています。

ただし、投票を呼びかける行為には何ら問題は無く、組織的な投票を呼びかける動きや、その結果としてのケタ違いの投票数が問題になっているわけではないようです。日本でも投票を呼びかける動きがありましたし、その他の国でもありました。あくまで無効になった理由は "IAU の天体命名の規約に反する" というものです。

IAU の系外惑星命名キャンペーンのサイトには次のような注釈があります。

Note: One of the proposals for tau Bootis fails to comply with the IAU policy for naming exoplanets, explicitly forbidding the use of names of persons that are known to have been involved in political, religious or military activities. The IAU respects the proposed name, and the high number of votes cast in its favor, but decided to annul the vote for tau Bootis.


すなわち、政治や宗教、軍事的な活動に参加した人物の名前を名付けることは明確に禁止されており、その条件に抵触したようです。提案された名称には敬意を払っているが、今回はうしかい座タウ星系への投票自体を無効とする決断を下した、とも述べられています。


提案されている名称にある Shri Ram Matt という人物は、インドの社会改革主義者・作家・思想家です。多数の本を執筆しており、その中には天文学に関するものも含まれるようです。また Bhagavatidevi は Shri Ram Matt の妻の名前です。つまりShri Ram Matt という人は政治的な活動をしていた人物であり、この部分が IAU の規約に抵触したというのが、うしかい座タウ星系の投票が無効となった原因でしょう。

うしかい座タウ星系の命名については、後に再び行われるようです。

また今回は上記の星系への名称の応募と投票が行われましたが、今後も更なる応募と投票が行われる予定になっています。

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